いつか恭弥が言ってた"運命"を・・・今この瞬間、感じているのは私の方なのかもしれない――――。




雨の音、雷の音、どこか夢の中でそれを聞いているようだった。
最強の殺し屋と呼ばれる奴らに浚われて、どこか信じがたい現実の中、今度こそ殺されるとそう思った時。
もう二度と触れ合う事のないと思っていた恭弥が目の前に現れて、私を守ってくれた。抱きしめてくれた。
まるで映画のワンシーンのようで、そんな夢みたいな事が起きるはずなどない。

だから今、目の前で私を見つめている恭弥だって、私の幻像でしかなくて。
だから"好きだ"なんて、ずっと欲しくてたまらなかった言葉すら、きっと幻聴なんだ。

なのに――――頬に触れてくる手は暖かくて、それが現実なんだと私に伝える。


・・・」


黙ったままの私を、不安そうに見つめる恭弥の瞳が揺れている。
そんな目で、私を見ないで――――。


「・・・んで・・・。そんなこと言うの・・・?何で・・・今頃っ」


口を開いた瞬間、自然に零れ落ちた涙。
恭弥の顔を見た瞬間から、泣きたくてたまらなかった。


「勝手だって・・・分かってる」
「そ・・・だよ・・・。勝手だよ・・・っ」


強引に私の心に入ってきて、無理やり奪って、乱すだけ乱したら勝手に離れて行ったじゃない。
さよならって言ったじゃない。
なのに何で今頃になって、そんなこと言うの。
恭弥はズルイ。勝手で我がままで冷たくて・・・・私の気持ちなんて考えてくれた事ないじゃない。
何も言ってくれないから、形がないから、不安だったのはいつも私の方で。
恭弥の心がどこにあるのかも分からなくて、いつも不安だったよ・・・・。

私は一方的に恭弥を責め続けた。
傍にいても、何故か恭弥を遠くに感じてたから。
あの頃、何も伝えられてなかった言葉の数々を、泣きながら恭弥にぶつけてしまった。

恭弥は黙って聞いていた。
泣き喚く女なんて嫌いなクセに、めんどくさいって思ってるクセに。
恭弥は優しい表情で、ずっと私の言う事を聞いてくれてる。
時折、頬に零れ落ちる涙を指で拭いながら、愛しいとでも言いたげな、そんな瞳で私を見つめる。
そんな目で見ないでよ・・・。私だけ怒って、バカみたいじゃない。


「な・・・んで何も言わないの・・・・?」
「全部・・・当たってるから」


恭弥はそれだけ言うと「少しは落ち着いた?」と微笑み、傍にあったバスタオルで私の濡れた髪を拭いてくれた。
その仕草すらどこか優しくて、また涙が溢れてくる。


「・・・泣かないで」
「恭弥が泣かせてるんだよ・・・・」
「そうだね・・・・」


ふっと悲しげな顔で微笑むと、恭弥は私の涙を唇で掬った。
その行為にドキっとして体を強張らせると、恭弥が僅かに離れて私の顔を見つめてくる。
至近距離で見た恭弥の瞳に、私の泣き顔が映っていた。


「み、見ないでよ・・・。私、グチャグチャな顔してる・・・・」


そう言って体を離そうとした。恭弥はそんな私の腕を引き戻し、包むように抱きしめてくれる。


「きょ、恭弥・・・?」
「・・・離れないで」
「ま・・・また勝手なこと――――」
「分かってる。でも・・・もう遠慮も我慢もしない。そう決めたんだ」
「・・・・・・っ?」


あまりにキッパリとした口調で言われてドキっとした。顔を上げると恭弥は真剣な瞳で私を見ている。


「言っただろ。間違いを正しに来たんだって」


真剣な顔、真剣な言葉。
抱きしめられてる、体が熱い。


「だ・・・だって・・・弥生さんは・・・・?」


一番、不安に思っていた事を尋ねると、恭弥は小さく首を振った。


「それもさっき言ったよ。僕にはじゃなきゃダメなんだって」
「でも・・・」
「弥生とは・・・婚約解消してきた」
「――――ッ」


思いがけないその言葉に私は息を呑んだ。


「弥生の方から言い出した。あいつも納得してる」
「嘘・・・・」
「ホントだよ。その日に・・・親とも話し合って納得させた」


婚約・・・解消――――。

恭弥の言葉はまるで何かの呪文を解くように、私の心の枷を外してくれた気がした。


「だからってが簡単に許してくれるはずないって思ってる。リング争奪戦が終わるまでは言うつもりもなかった。だけど・・・・」


そこで言葉を切った恭弥は、私の体をさっきよりも強く抱きしめた。


「ディーノからが浚われたって聞いた時・・・・何も考えられなくなった」
「恭弥・・・・」
「何が起きるか分からない事に僕らは巻き込まれてて。なら今、言わなきゃ後悔するって思ったんだ」


彼の言葉は優しく耳に届いた。
嘘のように心が軽くなって、体の力まで抜けていく。


「僕は・・・が好きだ」


その言葉にすら、眩暈がした。
言葉など信じてなかった恭弥が、後悔しないように、と伝えてくれた想いは、私の心に深く染み入ってくる。

僅かに体が離れて、ゆっくりと近づいてくる唇。
それが重なった瞬間、私は、もう自分の気持ちに嘘はつけなかった。


「私も・・・恭弥が好き・・・・。ずっと・・・好きだったの」


搾り出すような声でそう告げると、今度は奪うように唇を塞がれて、啄ばむようにキスをされた。
何度もキスをしては離れ、そしてまたキスをする。
少しづつ呼吸が荒くなって、体の熱が上がっていく。
でも、ゆっくりと確かめるように、恭弥の舌が侵入して来た時は、僅かに体が跳ねてしまった。
それでも恭弥は行為を止めようとはしない。深く口づけながら、逃げ惑う私の舌を器用に捕えた。


「・・・ん、・・・ぁっ」


次第に深くなっていく口付けに、嫌がおうにも意識が向く。
気づけばソファの背もたれに背中を押し付けられていて、恭弥の手がバスローブの紐を慣れた手つきで解いていくのが分かった。


「ゃ・・・ダメっ・・・ん、」


不意に離れた唇に冷んやりとした空気が触れた瞬間、首筋にちゅっとキスをされてビクっと反応する。
そんな私を恭弥は満足そうに見上げてくると、もう一度唇を首筋へと這わせた。


「ひゃ・・・きょ、恭弥・・・・?」


いつの間にか腰の辺りが緩くなっていて、恭弥から逃げようと身体を捩れば、紐を解かれたバスローブが少しづつ肌蹴てくる。
もちろん下には何もつけていない。下着は雨で濡れたためシャワーの後に全て脱いでしまっている。
その時――――背中にあった恭弥の手が内側へ侵入してきて、直接肌に触れられたのを感じた。


「・・・や・・・ぁっ」


つつ・・・と背中を指でなぞられ、身体が仰け反る。
それを見計らったように、恭弥は首筋へ顔を埋めて優しく口づけてきた。
片方の手は裸の背中をなぞり、もう片方の手でバスローブを肩から下ろしていく。
外気の冷たさを肌で感じ、この後に待っているものが容易に想像できた私は、無意識に身体を強張らせた。
怖い気持ちと、恥ずかしい気持ちで、つい身体を捩ってしまう。


「・・・ぁっ」


首筋から鎖骨へと下りていく唇。時折舌先で舐められ、唇を押し付けられると全身が震えた。
自然と体が後退していく私の腰を、恭弥は強引に抱き寄せると、唇を少しづつ下降させていく。
彼の舌先が、外気に触れ敏感になっている尖りに触れた時、思わず声が跳ね上がる。


「・・・んっ、ダメ・・・」


そんな私の小さな抵抗を無視するように、恭弥は硬くなった尖りを舌先で転がし口に含んだ。
ちゅっという厭らしい音と、その強すぎる刺激に思わず背中がのけ反り、再び全身に震えがくる。
逃げようと体を捩っても、恭弥はもう片方の胸にも手を伸ばし、優しく揉みしだきながら指先で硬くなったところを擦り始めた。
同時に襲う甘い刺激に、感じたこのない疼きを体の奥で感じて、私の体が小さく跳ねる。
自分の体が、恭弥の好きなように触られていると思うと死ぬほど恥ずかしいのに、彼の指や舌の動きに全ての神経が集中する。

あのベルという男に触れられた時とは全然違う――――。
好きな人にされると、こんなにも体が素直に反応してしまうなんて思いもしなかった。
相手が恭弥だと思うと、彼のくれるどの刺激も、甘い疼きに変わっていく。
自然と息が上がり、自分でも聞いたことのない声が洩れてしまう。
そんな初めての感覚に怖くなり慌てて恭弥の肩を押した。
でも、すでに力の入っていない手では何の抵抗にもならない。気付けば私はソファの上に押し倒されていた。


「や・・・だ、恭弥・・・」


一番に怖いという気持ちがあった。
でもこの時の私の脳裏には、優しく微笑むディーノさんの顔が受かんでいて。
この行為が彼を裏切っているという罪悪感で、胸の痛みを強くさせていく。
恭弥と離れてから、落ち込んでた私の傍にいてくれたのはディーノさんだったから――――。


「・・・ん、ダ、ダメっ」


胸に触れていた恭弥の手が太腿の内側へ滑っていくのを感じ、私は慌ててその手を掴む。
その抗議の声に反応するように、胸元から恭弥がゆっくりと顔を上げた。
彼の唇はかすかに濡れていて、それを軽く舐める仕草に顔全体が赤くなる。


「・・・嫌?」


拒まれたことで恭弥はスネたような目で見てくる。普段はあまり見られない、欲望に素直な恭弥の表情は子供みたいで。
その顔を見た瞬間、胸の奥がキュっと鳴るのが分かった。同時に決心が鈍りそうになる。
でも今ここで恭弥を受け入れるわけにはいかない。
私は肌蹴ている胸元を慌ててバスローブで隠し、首を左右に振って見せた。


「い、嫌とかじゃないの・・・・」
「・・・じゃあ・・・何?」
「だ、だからその・・・・」


ここでディーノさんの名前を出したら、恭弥は怒るかもしれない。
でも話さないと私が嫌がっていると誤解されてしまいそうだ。
どう切り出そうか考えていると、不意に恭弥が私の腕を掴んで身体を起こしてくれた。


「きょ・・・恭弥・・・?」
「別に・・・無理に抱こうとか思ってないから」


そう言って着崩れたバスローブを直してくれる恭弥の顔は、怒っているようでもない。
ただ少し、スネているようではあったけど。


「あ、あの私・・・・」
「でも理由くらい聞かせてもらわないとね。これでも我慢強い方じゃないんだ」
「・・・・っ」


そう言って意地悪く微笑む恭弥に、私は顔が赤くなってしまった。
結局のところ、意地悪な性格は変わらないらしい。


「ご、ごめん・・・」
「謝る事はないけど・・・。僕らは色々あったしね・・・・」
「恭弥・・・・」


そう呟く恭弥は何となく大人びていて、きっと色んな事を犠牲にして私のところへ来てくれたんだろうなと思った。
だったら私も、恭弥と会っていなかった時の事を素直に話さないといけない。


「で、やっと気持ちを告げあっていいムードになったのに、それでも僕を拒む理由って何?」
「う・・・。い、意地悪・・・」


そう言ってシュンと頭を下げると、恭弥はごくごく自然に笑った。
前にも何度か見たその笑顔に、やっぱり胸がキュンと鳴る。
話には聞いたことがあったけど、本当に鳴るものなんだ、と変なところで感心した。
恭弥は私の頭をクシャリと撫でながら、「これでもショック受けてるんだけど」なんて、苦笑いを零す。
そんな彼を、どうしようもなく愛しいと感じる。


「だ、だから・・・。ごめんなさい・・・・」


更に俯く私を見て、恭弥は小さく溜息をついた。
でもそれは別に呆れてるとかいった感じではない。恭弥はチラっと私を見ると、


「もしかして・・・ディーノのこと?」
「・・・えっ?」


言う前に言われて驚いていると、恭弥は少しだけ怖い顔をした。
今度こそ少し怒ってるみたいだ。


「な、何で・・・・?」
「ディーノが僕に言ったんだ。"をもらう"って」
「・・・・っ?」
「ディーノと・・・何があった?」


恭弥はそう言いながら私を黙って見つめた。きっと気づいてるのかもしれない。
私がディーノさんに、救いを求めた事を――――。


「好きだって・・・言われたの・・・・」
「・・・・・」
「ディーノさんは・・・私が辛い時、ずっと傍にいて励ましてくれた・・・・」


そう言ってチラっと恭弥を見たけど、彼は何も言わずに黙って聞いてくれている。


「バカみたいだけど・・・恭弥への想いをもてあましてたから、そんなディーノさんの優しさが身に沁みた・・・。
人を好きになったら、こんなに苦しいんだって事を初めて知って、何だか凄く惨めで、自分を責めたりもした。
恭弥の事を想ってても無駄なんだって・・・。最初から無駄だったんだって・・・凄く空しくなったりもしたの。
でもディーノさんは"人を好きになる事は無駄じゃない"って教えてくれて・・・・。
学ぶ事も多いよって、辛くて悲しい事もあるけど、でも、それでも人を想う事は無駄じゃないって、大切な事を教えてくれた」


そして私に元気をくれた。何度も励ましてくれた。
こんな私を・・・好きだって言ってくれた。
だからディーノさんの気持ちを無視する事なんて出来ないの。
何も話さないまま恭弥と・・・なんて出来ない・・・・。
それをしたら私は、本当に最低の女になっちゃう気がするから――――。


分かってもらえるよう、一言一言を丁寧に伝えると、恭弥はそっと私を抱き寄せてくれた。
肩越しに顔を埋めると、背中をポンポンと優しく叩く彼の手が、もういいよって言ってくれてる気がして涙が溢れてくる。
もう片方の手が優しく髪をすきながら頭を撫でてくれると、心の底から安心した。
あんなにも焦がれてた恭弥の腕の中。
欲しくて欲しくてたまらなかった温もりが、今ここにある。

その反面――――ディーノさんの事を考えると、胸の奥がジクジクと痛んだ。
人を傷つけることがこんなにも辛い事なんだ、と初めて知った。
あんなに大切にしてくれたのに、その気持ちに応えられない。
それはどうしようもない事だと分かっていても、凄く胸が痛い。
弱かった自分に・・・無性に腹がたった。



「僕が悪いんだ。は何も悪くない」



不意に耳元で囁かれた言葉に、我慢していた涙が零れた。
そんな事ないのに。
恭弥だけが悪いわけじゃないのに。
私だって笑っちゃうくらいに弱かったんだ・・・・。

恭弥の言葉に小さく首を振ると、彼は優しく微笑んで私の額に口付けた。
そして触れるだけのキスを唇に落とすと、「それでも・・・」と言葉を続けた。


「それでも僕は・・・を渡すつもりはないから」
「恭弥・・・」
「僕がどれだけを好きか、もディーノも、知らないだろ」
「・・・・っ」


突然、怖い目で睨みながらそんな事を言う恭弥にドキっとした。
でも・・・今はどれだけ睨まれたって怖くはない。
今のは最上級の愛の告白だって、自惚れてもいい?

恭弥は私の事なんか好きじゃないって思ってた。
気まぐれで始まった遊びだと思ってた。
私は手に入れたら、すぐに手放せるような、ちっぽけな存在なんだって思ってた。
だから、恭弥のそんな気持ちなんか、私は知らない。

泣きそうになっていると、不意に両頬を包まれ顔を上げさせられた。
至近距離で見つめられて顔が赤くなる。でも恭弥はどこか不満げに目を細めていて、


「ディーノと・・・何かあった?」
「・・・え?」


何の事か分からずに首をかしげると、恭弥は更に不機嫌そうな顔で私を睨んだ。


「前に・・・ホテルの部屋から一緒に出て来たよね」
「あ・・・あれは・・・・」


その言い方で何を聞かれてるのかが分かり、一瞬で顔が赤くなる。
そんな私を見て恭弥は勘違いしたのか、更に目を細めた。


「ふうん・・・。やっぱり何かあったんだ。・・・・ディーノに何されたの?」
「ち、違う、あの時だって何もなかったってばっ!」


恭弥の怖い顔を見て私は慌てて首を振った。


「あの時はレストランで食事をするって言うからディーノさんが着替えに戻っただけで、部屋にいたのは15分くらいだし・・・・」


そう説明しても、疑うような目で「本当に?」と訊いて来る。
私は何度も頷いて「ホントに何もなかった」と言うと、恭弥もやっと納得してくれたようだった。


(・・・でもキスは・・・されたんだけど・・・・。この場合言わない方がいい・・・よね)


そう思いつつも、ふと思い出した。
あの日の事を持ち出すなら、こんな風に私だけ責められるのもおかしい気がする。


「・・・って言うか、恭弥だって弥生さんと・・・その・・・アレじゃない・・・・」
「何?」
「だ、だから・・・その。そ、そういう関係って言うか・・・・」


なかなか言い出せなくて口篭っていると、恭弥はふっと笑って、


「ああ・・・。身体の関係があったって言いたいの?」


と、私が言えなかった言葉をアッサリと口に出した。それには私の方が赤面してしまう。


「弥生とは・・・恋とか愛とか、そういった感情じゃなくて・・・。ただ互いの傷を舐めあう同志みたいな関係だと僕は思ってた」
「同志・・・?」
「僕も弥生も・・・似たような環境だったしね。弥生とは小さな頃から一緒にいたし・・・お互いに興味本位でそうなっただけで」
「きょ、興味本位って・・・・」
「弥生の方がその辺、積極的だったしね。早く大人になりたくて無理してたんだろうけど。傍にいる僕に依存してたようにも思う」
「そ、そう・・・なんだ・・・・」


2人の関係をハッキリ聞いて、やっぱり嫌な気持ちになったけど。でも・・・何となく分かる気がした。
私が2人と同じ環境だったとして、傍に自分の気持ちを理解してくれる人がいれば、手を差し伸べて欲しいって思うし、差し伸べたいって思うだろう。
ただ・・・やっぱり気持ちはなかったって言われても、二人の関係は気になってしまう。
そんな私の気持ちを見透かしたように、恭弥は笑った。


「どうしたの?そんな顔して」
「べ、別に」
「もしかして・・・嫉妬してる?」
「そ、そういうんじゃ―――ん、」


顔を上げた途端、唇を塞がれ、抱き寄せられた。
最初から舌を絡ませてくる深いキスは、一気に体の熱を上げていく。
恭弥の舌に翻弄されていると、頭の奥がジンと熱くなって。唇が離れた頃には呼吸が僅かに乱れていた。
なのに至近距離で見つめてくる恭弥は、また私の心を揺さぶるような言葉を平気で口にする。


「僕は・・・いつでもの傍にいる奴に嫉妬してたよ?」
「・・・・っ?」
「出来れば・・・誰の目にも触れさせたくないくらい――――」


甘い台詞と甘いキスに、私は酔わされてばかりだ。
こんなにも心が満たされて、少しだけ怖くなってしまう。
本当なら、今はこんな事をしているべきじゃないのに。


「ん、きょ、恭弥・・・ん、」


何度も重なる唇に鼓動がどんどん早くなる。
触れて、啄ばんで、舌で翻弄される。
僅かな呼吸でさえままならないくらい、私達は離れていた時間を埋めるように何度も唇を合わせた――――。





「雨・・・止んだみたいだね」

どれくらい、そうしていたんだろう。
ゆっくりと唇が離れた時、恭弥が呟いた。
気づけば雨の音も、激しい雷の音も止まっていて、静かな時間だけが流れている。
ソファの上で寄り添いながら一夜を過ごした私達は、それでも動けずにいた。


「もう朝だね・・・・」


カーテンの隙間から青白い光が見え隠れして、それを見ると現実に戻された気がした。
ここから出れば嫌でも戦いの日々が待っている。


「どうしたの?」
「・・・何でもない」


そう言って笑顔を見せると、恭弥は私の頬にちゅっと口付けた。
その行為がくすぐったくて首を窄めると、今後は額にキスをされる。
瞼、鼻先、そして唇。
恭弥のキスは、優しく私の上に降って来る。
あんなにキスを交わしたのに、まだ足りないというように。
私も、まだ―――離れたくない。


「恭弥・・・?」


ふと手を持ち上げられて目を開けると、恭弥は私の手首にそっと唇を寄せた。
ワイヤーで切れて痛々しい傷に、恭弥はそっとキスをする。


「・・・あいつ、咬み殺せば良かった」
「・・・え?」
「あの時は早くを安全な場所に連れて行きたくて戦わない方を選んだけど・・・・。やっぱりを傷つけたのは許せない」
「恭弥・・・・」


負けず嫌いの恭弥が何故あの時、ベルと戦わずに逃げることを選んだのか少し不思議だった。
でも理由を聞いて胸が熱くなる。
そんな恭弥の気持ちが嬉しいのと同時に、手首に口付けられる気恥ずかしさから目を伏せると、


「・・・恭弥?」


不意に恭弥が立ち上がったのを見て私も立ち上がりかけると、恭弥はリビングにある棚の中から救急箱を取って戻ってきた。


「手、出して」
「あ、あの・・・・」
「手当てしないと」


恭弥は私の手首に薬を塗ると、上手に包帯を巻いてくれた。


「あ、ありがと・・・」


そう言って顔を上げると、恭弥は何故か溜息をついた。


「・・・無茶しすぎじゃない?」
「え?」
「あんな奴らが集まる場所に一人で行くなんて」
「ご、ごめん・・・・」
「ごめんじゃない。殺されてたかもしれないのに」
「うん・・・・」


いきなり怖い顔で怒られて、シュンと頭を項垂れる。
言われてみれば確かにその通りで返す言葉もない。
皆に待ってろって言われてたのに勝手に抜け出して、あげく奴らに捕まって心配をかけた。
もう少しで私は皆の足を引っ張る所だった・・・・。


「・・・あまり心配かけないでよ」


そう言って抱きしめてくれる恭弥の胸に顔を埋める。
背中に回った腕の強さが、彼の心配を伝えてるようで胸が熱くなった。
でも不意に身体が離れ、恭弥がテーブルに置いたままの私の携帯を取った。


「恭弥・・・・?」
「電話・・・かけたら?」
「え?」
「ディーノ。心配して探し回ってるかもしれない」
「あ・・・っ」


そこで思い出した。私はディーノさんとの電話中に浚われた。
だから私が助け出された事を知らなければ、まだ探してくれてるかもしれない。
予想外の事態が起きたせいでスッカリ忘れていた。

(すぐ知らせなくちゃ・・・・)

そう思って、すぐに着信履歴を開いた。でも――――。


「いい・・・の?かけても」


恐る恐る尋ねると、恭弥はジロっと私を睨んだ。


「良くないよ」
「へ?」


あまりにストレートな反対と、自分でかけろと言ったクセに、その理不尽さがありえなくて一瞬、目が丸くなる。
恭弥はそんな私を見て面白くなさそうに目を細めた。


「さっき僕がにかけた時・・・。ディーノ、って言ったよね」
「えっ?あ・・・・」


そう言われて思い出した。でもあの時は恭弥から電話をくれるなんて思ってもみなかったのだ。
恭弥は怖い顔のまま視線を反らすと、「とにかく・・・今は連絡してあげなよ。心配してると思うから」とだけ言って部屋から出て行ってしまった。
口ではああ言ってるけど、恭弥なりに気を遣ってくれたのかもしれない。


「はあ・・・・」


小さく息をつくと、自分の愚かさが嫌になってくる。
逃げ出した時、すぐにディーノさんに電話をすべきだったんだ。
よく考えれば、恭弥が私を助けに来てくれた事をディーノさんが知るわけもない。
今、この瞬間も凄く心配してるはずだ。そう思いながら携帯を見る。


「・・・・・」


でも固まったように指が動かず、思い切り息を吐き出した。
電話をして助かった、と言うのはたやすい。
でもどうして、と問われれば、恭弥の事まで話さないといけなくなる。
そして・・・・ディーノさんに今の自分の気持ちも――――。


「はぁ・・・・」


とにかく悩んでても仕方ない。かけなければ皆に心配をかけたままになってしまう。


「・・・よしっ」


決心すると一度深呼吸をしてから、通話ボタンを押した。
すぐにプルル・・・っというコールが聞こえて、少し緊張する。1、2、3、4・・・・・


「おかしいな・・・」


いつもならワンコールで出るのに、相手はなかなか出ない。
後でかけなおそうか、と思っていると、不意にプツ・・・という音と共に、『・・・もしもし』と静かな声が聞こえて来た。


「も、もしもし?ディーノさん・・・?」
『・・・・・・』
「・・・??あ、あの・・・です・・・けど」


何も返事がなくて違和感を感じながらもそう告げると、『うん・・・。無事で・・・良かった』というディーノさんの声が聞こえてきた。
何となく様子がおかしくて、どこか声に元気がない気がする。


「あ・・・あの・・・!心配かけてすみません・・・。実は―――――」
『・・・恭弥が・・・・助けに来たんだろ?』
「・・・えっ?」


言おうとしていた事を先に言われて驚いた。


「ど、どうしてそれ・・・・」
『・・・・・』
「どうして・・・知ってるんですか?」


そう尋ねると、ディーノさんは小さく溜息をついたようだった。


『オレも行ったんだ。あのホテル』
「・・・えっ?」
『あそこにヴァリアーが滞在してるって分かって、を助けに行った』
「・・・・っ」
『まあでも・・・恭弥の方が早かったみたいだけどな』


そう言ってディーノさんは笑ったようだった。
でもどこか冷めていて、いつものディーノさんじゃないみたいだ。


「あ、あの・・・ごめんなさい・・・。ホントに心配かけちゃって・・・・」
『・・・いいよ、無事だったんだから。ツナたちもホっとしてる。怪我は?大丈夫?』
「あ・・・はい。大丈夫です。えっと・・・昨日の戦いは・・・どうなったんですか?ランボくんだったんですよね?」


ずっと気になっていた事を尋ねると、暫しの沈黙の後でディーノさんが口を開いた。


『・・・負けたよ。リングは取られた。それに・・・ツナのリングもね』
「え・・・な、何でっ?ランボくんは大丈夫なんですかっ?」


一瞬、怪我だらけで倒れているランボくんの姿が頭を過ぎる。
そんな私を落ち着かせようと、ディーノさんは、戦いの経過を詳しく説明してくれた。
10年後、20年後のランボくんが来て戦ったけど、最後の最後で負けた事。
ランボくんを助けようと沢田くんが間に割って入り、それが違反となって大空のリングも奪われた事。
これで、一勝一敗になった事も・・・・。


『ランボはまだ意識が戻らない』
「そんな・・・病院は?どこですか?!」
『近所の中山外科病院に入院させた。とりあえず峠は越えたから、後は意識が戻るのを待つだけだそうだ』
「よ・・・良かった・・・・。助かるんですよね?」
『ああ・・・大丈夫、心配ないよ』


ディーノさんのその言葉で、私は心からホっとした。
するとディーノさんは軽く息をつき、『・・・』と言葉を続ける。


『今夜は・・・嵐の守護者対決だ』
「嵐っ?」
『ああ。を浚った・・・ベルフェゴールという男が獄寺と戦う』
「ベルと・・・獄寺くんが・・・・」
『あいつはヴァリアーの中でも一番の天才と言われている殺し屋だ。厳しい戦いになるかもしれねぇ』


ディーノさんの声は真剣で、私はベルという男の事を思い出し、軽く身震いした。
あんな危ない奴と獄寺くんが、今夜戦う・・・・。


・・・』
「え?」
『ベルフェゴールに・・・・何かされたか?』
「・・・・っ」
・・・?』
「だ、大丈夫・・・。何もされなかったから・・・・」


ドキっとしたけど何とか誤魔化した。ディーノさんはホっとしたように息をついて、


『そっか・・・。なら良かった・・・。あいつ、見ての通り危ねぇ奴だし心配してたんだ』
「そんな・・・感じでした」
『あいつに何か聞かれたか?』
「あ・・・こっちのリングの守護者のこと・・・霧の守護者はどんな奴だ、とか。でも知らないし何も言わなかったの」
『そっか・・・。でも・・・巻き込んじまってすまなかったな』
「そんなこと・・・。私が勝手に抜け出したのが悪いんです」


申し訳なさそうに呟くディーノさんの声に、私は唇を噛み締めた。
皆だって好きで戦ってるわけじゃないんだ。
そう思っているとディーノさんが軽く息をついた。


『・・・
「・・・え?」
『今・・・恭弥と一緒にいるんだろ・・・?』
「・・・・・っ」


その問いに一瞬、言葉が詰まると、ディーノさんは苦笑したようだった。


『いいって。分かってるから』
「わ、分かってるって・・・・」
『恭弥はまだお前に惚れてる。そんなの分かってたんだ・・・・』
「ディーノ・・・さん?」


ディーノさんは一旦、言葉を切ると、静かな声で話し始めた。


『あいつは一度拒んだが、このリング争奪戦で戦う事を決めたのも・・・が巻き込まれてるからだ』
「私が・・・?」
『ああ。前に一度、も襲われかけただろ?ランボといて』
「あ・・・」
『その話を恭弥にした。あいつ、見た事もないくらい動揺してたよ。それから・・・オレの元へ来るようになった』
「恭弥が・・・私の為に・・・・?」
『本音はオレと修行するなんて嫌だったんだろうけどさ。ま、でも恭弥はいつでもオレを本気で殺す勢いで向かってきてたけどな』


ディーノさんはそう言いながら笑っていた。


『あいつに・・・は渡さないって言われたよ』
「・・・え」
『それ聞いて、あいつも覚悟決めたんだと思った。だから恭弥がを連れて逃げていくのを見た時、こうなる事が分かってたんだよな、オレ』
「こうなるって・・・・」


少しだけ声が震えた。
受話器から聞こえるディーノさんの声も、かすかに震えてる。


『上手く・・・いったんだろ?恭弥と』
「――――ッ」


いつも優しいディーノさんの声が、少しだけ掠れて聞こえる。
今、どんな顔をしてるんだろう。傷つけてしまっただろうか。色々な事が頭を駆け巡る。


「ディーノさ・・・」
『いいって。何も言うな』
「で、でも・・・・」
『いいんだって。オレも・・・最初から分かってて、のこと好きになったんだ』


人の気持ちなんて、そんなすぐには変えられないよな。


ディーノさんは優しい声でそう言うと、もう一度、『分かってるからさ』とだけ、言った。
私はそれ以上、何も言えなくて、ただ涙が次から次に溢れてくる。
あんなに優しくしてもらったのに、私は傷つけることしか出来なくて・・・・。


『な、泣くなって・・・。な?』


それなのにディーノさんは、まだこんな私に優しい言葉をくれる。
もっと責めたっていいのに。
寂しいからって、誰かの手に縋ろうとした私がバカだったんだ――――。


「ご、ごめん・・・なさ・・・・」
・・・・』
「わ、私・・・・」
『謝るなよ・・・。オレは・・・少しの時間だったけど、凄く楽しかったからさ』
「ディーノさ・・・っ」
『オレはほら・・・振られるのなんて慣れっこだしよ。前にも言ったろ?』


だから、早く戻って来い。
そしてまた笑顔見せてくれよ。

ディーノさんはそう言いながら、何度も謝る私を、ずっと慰めてくれていた。
私はこんな優しい人を傷つけたんだ。

でもね、ディーノさん・・・。私、ホントに好きだったんだよ?
まるでお兄さんみたいにあったかくて、太陽みたいに微笑んでくれる、ディーノさんのこと――――。

最後にそう告げると、ディーノさんは一瞬だけ、言葉を詰まらせて、"Grazie..."と優しい声で、言ってくれた。











――――ー気に入らない。

そう思いながら、が電話をしているのを、入り口に立ちながら見ていた。
こうなってしまったのは自分のせいと分かってる。
どれだけを傷つけたかという事も。
そのせいでがディーノと近くなった事だって・・・・。
だからあの男に連絡する事を許した。
本音を言えば他の男となんか話させたくもないのに。

は話の途中で泣き出してしまった。
そんな姿を見るだけでイライラする。
彼女の意識が他の男に向けられている事が、僕をこんなにも嫌な気分にさせるとは。
そう思う反面、自分がこんなに嫉妬深い男だったなんて、と失笑が洩れる。
出来るなら、をどこかへ閉じ込めて、誰の目にも触れさせたくなんかない。
バカげてるとは思うけど、本心なのだから仕方がない。

(そろそろ限界)

ドアに寄りかかりながら、の後姿をバカみたいに眺めていたけど、彼女の口から出た言葉を聞いた瞬間、僕は静かにリビングへと足を向けた。

"ホントに好きだった"?
"お兄さんみたい"?

そんな言葉をあの男に言うなんて許せない。
今まで感じた事もない苛立ちで、胸の奥が焦げそうに熱くなった。
ゆっくりと近づき、の背後で足を止める。
そのまま手を伸ばすと、彼女の持つ携帯を勢いに任せて奪った。


「きょ、恭弥っ?」
「いつまで話してる気?」


そう言って驚いている彼女の唇にキスを落とす。
は泣き顔のまま固まって、僕を見上げている。
そんな彼女に背を向けて携帯を耳に当てると、あいつの癇に障る声が彼女の名を呼ぶのが聞こえた。


『あれ・・・もしもし??』


受話器の向こうからは戸惑うようなディーノの声。
彼女を呼び捨てにするところは、やっぱりムカつく。


「あまりを泣かせないでくれる?」
『・・・っ、おま、恭弥かっ?』


ディーノは驚いたような声を出し、そしてすぐに苦笑した。


『お前なあ・・・。探したんだぞ?勝手にいなくなりやがって』
「別にあなたに許可もらう必要はないと思うけど」
『はは・・・。相変わらずだな、お前』
「一日やそこらで変わったら怖いよ」
『だから、そういうとこも』


そう言ってディーノは呆れたように笑う。


『それより・・・すぐに戻って来い。まだ修行は終わってねえ。分かってんだろ?恭弥』
「もちろん。あなたとの決着もついてないからね」
『その様子なら大丈夫そうだな』
「当然だよ」
『なら・・・サッサと始めようぜ?』
「いいけど・・・。その前に着替えがないと、ここから出られないんだ」


そう言って目の前のを見る。
彼女はまだバスローブ姿のままで、ここに来る時に着ていた服はボロボロだった。(あの変態王子はいつか咬み殺す)
この別荘には僕の服しか置いてないから、それを着せるしか帰る術はない。
でもそれをディーノに言う気はさらさらなかった。


『な、何ぃ?どういう事だよっ?』
の服、ボロボロに切り裂かれてたんだ。やったのは王子とか言ってた変態」
『あぁ?マジか!クソ、ベルのヤロー!つか、ちょっと待て、じゃあは?さっき何もされてないって言ってたんだぞっ?!』


思った以上に慌てているディーノに、内心苦笑した。
で、余計なこと言わないで、と言いたげに僕の袖を引っ張ってくる
そんなことされても可愛いだけだって言うのに。
は何も分かってない。


「あんたが想像してるような事は何もされてないと思うよ」
『な、何でそんなこと、分かるんだ?だって、もしされてたとしても言いにくいだろーがっ!』
僕には、、、分かるんだ」
『・・・あ?』


その一言でディーノは何かを察したみたいだった。
軽く舌打ちをすると、


『あーそーかよ!良かったな!熱ーい仲直りが出来てっ』


と一気に不機嫌になる。(ハッキリ言ってこの男もかなりヤキモチ妬きだと思う)
まあ、でも勘違いさせておかないと、後でまたに手を出されても困るしね。


『んじゃあ・・・いつ戻って来れるんだよ?』
「夕方までには戻るよ」
『・・・夕方?おま、せめて昼までには戻れよ!時間がねーんだぞ?』


ディーノの言葉に時計を見れば、まだ朝の6時になるところ。
確かにバイクを飛ばせば余裕で間に合うけど、そんな気はさらさらなかった。
僕もも夕べから一睡もしていないし、何よりもう少し二人でいたい。


「無理。まあ、なるべく急ぐけどね」
『ったく・・・。ホント、お前はマイペースな奴だな。こっちは命がけで戦ってるっていうのに』


ディーノはそう言いながら溜息をついている。
この男と戦う事も、今は苦痛じゃないと感じていた。それもこれも――――。

目の前にいるに目を向けると、僕は静かに口を開いた。



は返してもらったから」

『――――ッ?』



一言、言うと、はギョっとしたように僕の腕を引っ張ってきた。
それでも僕がディーノに遠慮する義理はない。
ディーノはすでに分かっていたのか、小さな声で、『分かってる』と呟いた。


『でも言っておくけどな、恭弥』
「何?」
『もう二度と・・・を泣かせんなよ?』


真剣な声が胸に突き刺さる。


「分かってるよ」


そこは素直に応えると、ディーノは『絶対だぞ』と念を押した。


『今度泣かせたら次は・・・をイタリアまで浚っちまうからな。覚えとけ』


その言葉に無言のまま頷くと、ディーノは『じゃあ、サッサと戻って来いよ』と言って、電話を切った。
そのまま僕も携帯を閉じると、が不思議そうな顔で見上げてくる。
さっきの涙も乾いていないその頬は薄っすらと濡れていて、僕は指で軽くそれを拭った。


「切っちゃったの・・・?」
「あっちが切ったんだ」


不安そうな顔をするに微笑むと、ゆっくりと唇を重ねる。
は驚いたように目を見開き、そしてすぐに頬が赤く染まった。


「あ、か、帰らなきゃ・・・・」
「どうして?」
「だ、だって――――」
、寝てないだろ?少し寝てから帰ろう」
「だ、大丈夫よ、私は」
「ダメ。僕も寝不足で運転は危ないしね」
「あ・・・そ、そっか。恭弥、怪我してるし・・・それ大丈夫?」


そこで素直に納得するが可愛い。
僕の心配をしてくれる事ですら、愛しいと感じる。


「平気だよ、これくらい」


ディーノと散々やりあった傷跡を見て、はそれでも心配そうな顔をする。
僕は彼女を抱き上げ、そのまま寝室へと向かった。そろそろ僕の体力も限界に来ている。


「ちょ、ちょっと恭弥・・・?」
「ちょっと限界。今から少し寝よう」


そう言って彼女の額に口づけると、寝室のベッドの上にを寝かせた。
その隣に潜り込むと、すぐにを抱き寄せる。
彼女の体温が心の底からホっとさせてくれた。
それでもはいつにも増して身体に力を入れている。
抱きしめている腕からもそれが伝わり、僕は思わず苦笑した。


「・・・何で固まってんの?」
「だ、だって・・・」
「さっきみたいに、襲われると思ってる?」
「ち、違・・・・っ」


の頭を抱き寄せ、顔を覗き込むと、彼女はすぐに赤くなる。
そんな顔をされると、せっかく我慢してるのに逆に煽られてしまうって事、は気づいてないみたいだ。


「こ、こうして一緒に寝るの・・・久しぶりだし・・・・」
「・・・そうだね」


そう言って体を起こすと、に覆いかぶさった。
それだけでは耳まで赤くなる。
こんな反応をされたら、夕べから我慢している欲が少しづつ体の奥の方で疼きだす。


「こうするのも・・・久しぶり」
「ちょ、寝ないの・・・?」
「寝るよ。その前に・・・お休みのキスをしないとね」
「お、お休みの・・・って・・・」


もごもごと口の中で何かを呟いて、は目を伏せてしまった。
その表情ですら僕を煽るって言う事を、彼女は少し理解した方がいい。


「キス・・・させて」
「・・・・っ」


僕の一言にはドキっとした顔で視線を上げた。
上目遣いで見てくる彼女に、自然と僕の欲も解放される。
何かを言いかけた唇に自分のそれを重ねると、彼女の小さな声はすぐに飲み込まれていく。
触れた場所から徐々に熱は広がって、すぐに全身へと回った。


「ん・・・ふ、・・・」


薄く開いた唇の隙間から欲望のままに舌を侵入されれば、の甘い声が洩れてくる。
それだけで眠気が飛んでしまいそうだ。
僕の胸元を必死に掴んでくる小さな手も、真っ赤に染まった頬も、苦しげに上下させている胸元も、全てが欲しくてたまらなくなる。

ずっと、ずっと、手に入れたかったものが、今、この腕の中へと戻ってきた。


「恭・・・弥・・・。好き・・・・」


キスの合間に、涙交じりの声で呟かれる言葉。
どうして彼女が涙を流すのか、今なら分かる気がした。
次から次に溢れてくる想いで、心の中が満たされていく。


「・・・やっと、手に入れた」


彼女の耳元に顔を埋めて呟けば、細い腕が僕の背中に回された。


好きだ。

愛してる。


それまで必要のなかった言葉が、溢れそうな想いを彼女に伝えてくれる。

それもまたいいか、と、今は素直に思いながら、彼女を逃がさないよう、強く抱きしめた。

















- BACK -

な、何とか元サヤに戻りました;;
ディーノさんが大人(?)で良かったがな(微妙?)
これもそろそろ終わりが近づいているかも。
あと一応、年齢制限というか、注意を載せてみました。
いっても微エロ?な描写くらいなんですけども。
一応、載せておきます(適当か)


いつも素敵なコメントをありがとう御座います<(_ _)>





●まるでドラマや映画のようなストーリーで次回が待ち遠しく思います。それに話の構成とも素晴らしくて、尊敬します!!(高校生)
(ひゃー;;ド、ドラマ&映画ですか!!そんな風に言って頂けて恐縮ながら感激です(*TェT*)何だかまとまりのない話ですが今後も頑張ります!)


●すっごくおもしろいです!この小説を読んで、いっきに「REBORN!」にハマリました^^(中学生)
(面白いなんて言って頂けて凄く嬉しいです!しかも原作にまでハマって頂けるキッカケとなれて感動しちゃいます!ありがとう御座いました(´¬`*)〜*)


●あーもー三度の御飯より大好きです!!(その他)
(ぎゃー;;ご、ご飯より大好きだなんて、そんな事言われたら美味しい場面増やしちゃいますよ(笑)ありがとう御座います!)


●リボーン更新キタ(゜∀゜)キタ(∀゜ )キタ(゜  )キタ(   )キタ(  ゜)キタ( ゜∀)キタ―(゜∀゜)―!!!!!
やっぱ最終的にはディーノには諦めてもらい、雲雀さんとくっついて欲しいです!(中学生)
(またまたキちゃいました(笑)モテモテ愛されヒロインもつらいところですね(笑)