嵐の戦いが終わり、雨の戦い、霧の戦いも終えた。
私はその間、見に来ちゃいけないと言われてたから、ただ待ってることしか出来なくて、毎晩、眠れない夜を過ごしていた。
皆が無事に帰ってくるたびにホっとしながらも、同時に傷だらけの姿を見て胸が痛くなる。
そして少しづつ近づいてくる雲のリングの戦いが、ただ怖かった――――。



「そんな怪我で病院来るなんて情けねーびょん!」
「・・・ごめんなさい」
「・・・けん、仕方ないよ。この子は骸さまじゃないんだから・・・」
「うっへ!!分かってら!」


「・・・・・・」


(な・・・何、この子達?うちの学校じゃないみたいだけど・・・何で沢田くん達と一緒に??というか、この女の子、誰?!)


ランボくんに付き添って病院にいると、突然、現れた3人組。
誰だろう?と頭の中がクエスチョンでいっぱいになっていると、不意にその中の一人と目が合った。


「なーに見てんだびょん!」
「・・・え、あ、ご、ごめんなさい・・・」
「・・・お前、コイツらの仲間か?」
「へ?あ、あの仲間って言うか・・・」


いきなり怖い顔ですごまれ、ひるんでいると、そこへ包帯を替えてもらった獄寺くんと山本くん、そして困惑気味の沢田くんが戻ってきた。


「オイ、コラてめー!にちょっかいかけんじゃねーよ!」
「あぁっ?!かけてねーびょん!!」
「ご、獄寺くん・・・」


いきなりケンカ腰の彼は、牙をむき出しのその男の子を怖い顔で睨みつけた。


「怪我の治療、済んだならサッサと帰れ」
「言われなくてもそうするっつの!オイ、柿ピー行こーぜ!」


男の子はそう言い捨てると、他の2人と共に病院を出て行ってしまった。
それに唖然としてると、沢田くんが苦笑気味に、「大丈夫?」と聞いて来る。
一応、「大丈夫」とは答えたものの、彼らが何者なのか教えて欲しい。


「アイツらとは、ちょっと前にやりあった事あってさ」
「え、やりあったって・・・ケンカ?」


説明してくれた山本くんに尋ねると、


「まあ、と言うより学校対抗のマフィアごっこだけどな!」
「へ?」
「・・・・・!!(まだアレが遊びだと思ってるーー!!)Byツナ


意味の分からない説明をされて首を傾げたけど、まあ山本くんの事だからまたおかしな勘違いをしてるんだろうと私なりに解釈する事にした。(!)
でも、と言う事は、彼らは以前、皆の敵だったって事になる。
なのに何で一緒にいたのかが分からず、沢田くんを見ると彼は困ったような顔で微笑んだ。


「実は・・・彼らの中に女の子がいたろ?」
「う、うん。何だか気の弱そうな・・・」
「あの子が霧の守護者だったんだ」
「えっ?あの女の子が?!」
「うん。まあ話すと長くなるんだけど・・・」


そう言いながらも、沢田くんは簡単に説明してくれた。


「じゃあ・・・あの子じゃなくてホントはその骸って人が霧の・・・」
「うん」
「で、恭弥とも戦った事があるんだ」
「うん、そう」
「・・・そっかぁ。でも何だか不思議だね。前は敵だったのに今は仲間だなんて」
「・・・あんな奴、仲間じゃねーよ」
「獄寺くん?」


私の言葉に獄寺くんは忌々しげに呟いた。
きっと以前戦った事が、未だしこりとなって残っているんだろう。


「でも骸のおかげで霧のリングはすんなり手に入ったし、後は・・・」
「恭弥が勝てば・・・有利になるのね」
「うん・・・そうなんだ」
「ヒバリはうちのエースだからな〜♪絶対負けねーって」


呑気に笑いながら、山本くんがウインクする。でもそう言われると少しは不安も軽くなる気がするから不思議だ。


「それで・・・恭弥はまだ?」
「一度、顔出したけど、またディーノさんと一緒じゃないかな。最終チェックでもしてるんだろ」
「そっか・・・」
「心配すんなって。大丈夫だよ、ヒバリは」
「うん、ありがとう。山本くん」


一人で待っていると悪い結果しか浮かばない。気づけばかなりネガティブになっていたようだ。
でも皆の明るい笑顔を見ると、大丈夫かなという気にはなってくる。


「で・・・どうするんだ?」
「え?」


不意に山本くんが尋ねてきた。でも何を聞かれたのか、すぐに分かり目を伏せる。


「明日、見に来なくていいのか?」
「おい、山本・・・。、呼んじゃ危険だろ。ヴァリアー全員来るんだぜ?」
「そうだけどよ。好きな奴が戦ってるって時に、一人で待ってるのは相当ツライだろ」
「山本くん・・・」
「ホントは・・・来たいんだろ?」
「・・・・・・」


山本くんの問いに、私は小さく頷いた。
恭弥には危ないから来ちゃダメだって、昨日も電話で言われたけど、でも――――。


「私・・・明日、行ってもいいかな」
「え、さん、本気?」
「そうこなくっちゃ♪」


心配する沢田くんをよそに、山本くんは軽く指を鳴らした。
獄寺くんは諦めたのか、仕方ねーなといったように軽く肩を竦めている。


「ただ恭弥の傍で・・・見ていたいの」
「いーんじゃねーか?」
「・・・リボーンくんっ」


その声に振り向くと、いつの間に来ていたのかリボーンくんが立っていた。


は皆が守ってくれる。恭弥も喜ぶだろ」
「お。おい、リボーン・・・(ぜってー咬み殺される!!)」
「何だ、ツナ。お前はここまで言ってるの気持ちを無下にするのか?」
「そ、そんなこと言ってないだろー?!つか、知らないからな・・・。ヒバリさんに怒られても・・・」
「大丈夫だ。その時はツナが無理やり呼んだって、ちゃんと言うからな」
「オレーーーーッ?!!」


ニッコリ笑顔を浮かべるリボーンくんに、沢田くんは一気に青ざめた。
それを山本くんも獄寺くんも楽しそうに笑っている。私もつられて笑ってしまった。
やっぱり皆といると元気が出てくる。

(恭弥を信じよう・・・・)

本当は怖くて仕方ないけど、でも明日の為に今日までキツイ修行をしてきてるんだ。
ディーノさんだって任せろって言ってくれてたし、きっと大丈夫。


「皆・・・ありがとう」


最後にそう言うと、皆は照れ臭そうな笑顔で、ピースをしてくれた。(※沢田くんだけ顔が引きつってたけど)





雲戦当日の早朝――――。
かすかにドアが開く音がして、ふと目が覚めた。
その時、肩に何かをかけられ、慌てて顔を上げる。


「あ、わりぃ。起こしちゃったか・・・?」
「・・・ディ、ディーノさんっ」


振り返ると、そこにはいつもの笑顔を浮かべたディーノさんが立っていた。


「い、いつ戻ってきたんですか?」
「ああ、ついさっきな。恭弥は一度、家に戻したんだ。殆ど寝てなかったから」
「あ、そ、そうですか・・・」


それを聞いて少しガッカリしたが、気になる事を聞いてみた。


「で・・・どうですか?」
「ん?ああ、恭弥?」
「はい・・・あの・・・」
「心配するなって。恭弥は――――」



コンコン



「・・・あ、あの・・・沢田ですけど・・・」


静かにドアが開き、沢田くんが顔を出した。


「よ、ツナじゃねーか」
「あ、ディーノさん・・・」
「もしかしてお前も恭弥の調子、聞きに来たのか?」
「いっ?!(バレてるー!!)」
「今ちょうど、にも話すところだったんだ」


ディーノさんはそう言いながら私にウインクをした。


「恭弥は完璧に仕上がってるぜ。家庭教師としての贔屓目なしにも強ぇぜ、アイツは」


ディーノさんのその言葉に、心の底からホっとした。
沢田くんも同じだったらしく、大きく息を吐き出している。


「あはは!そんな心配だったのか。ま、恭弥が負ければ全ては終わっちまうし仕方ないよな」


そう言って笑うと、「そう言えば下にも同じようなこと、聞きに来た奴らがいるぜ?」と親指を廊下に向けた。
それには私も沢田くんも互いに顔を見合わせた。


「もしかして・・・」
「山本、獄寺、笹川。まあ皆、自分の怪我を見てもらいてーなんて、もっともらしい言い訳してたけどな」
「そっか・・・皆も来てたんだ・・・。でも何か安心したら眠くなってきちゃったよ・・・」


沢田くんはホっとした様子でそう言うと、小さく欠伸を噛み殺した。




「お前は修行だぞ」


「「――――(ギクッ)ッ」」




その声に沢田くん、そして何故かディーノさんまでドキっとした様子で体を固くした。
声のする方を見てみれば案の定、リボーンくんが、これまた何でか忍者の格好で、それも窓から入ってきたからビックリする。


「リボーン・・・!に、忍者?つか何言ってんだよ!今日の勝負で決まるんだぞ?もうオレが修行する意味ないんじゃ――――」
「最終決戦だからこそ、だぞ。お前、もしもの時はどーすんだ?」
「もしも・・・?」
「いいから行くぞ!」
「いでぇ!」


思い切りリボーンくんに殴られ、沢田くんは休む間もなくそのまま連れ去られてしまった。
残された私とディーノさんは唖然としながら顔を見合わせると、彼が苦笑いを零しつつ、


「さっきはドキっとしたよ。生徒だった頃の条件反射だな」
「あ、それで・・・。でもリボーンくんは先の先を読んでるのね」
「ああ。でも当然だ。相手はあのヴァリアーだし、まだボスのザンザスも残ってるからな」
「ザンザス・・・あの怖そうな人・・・」
「ああ。アイツは・・・マジでちょっとヤベェ奴なんだ。だからも雲戦見に行っても近づくなよ?」
「え・・・?」


ドキっとして顔を上げるとディーノさんは苦笑しながら私を見下ろした。


「行くんだろ?今日」
「・・・あ、あの」
「いいって。分かってる。まあ恭弥は心配するだろうけどな」
「ここで待ってるよりは・・・危険でも近くで見ていたいです」
「・・・だと思ったよ。まあ、オレはちょっとやる事が出来ちまって見に行けないけど。がいりゃ恭弥も本気以上の力を出すしかなくなるだろ」
「え・・・あの、ディーノさん来ないんですか?」
「ああ、悪いな」
「そっか・・・」


それには何だかガッカリして項垂れる。
すると不意に頭に手が乗せられ、クシャリと撫でられた。


「そんな顔するなよ・・・。恭弥ならオレなんかいなくても大丈夫だ。それに・・・・」
「それに・・・?」


ふと顔を上げると、誇らしげな笑みを浮かべたディーノさんと目が合う。


「恭弥は・・・ゴーラ・モスカなんて奴――――眼中にないみたいだぜ?」


そう言って微笑んだディーノさんはやっぱり、どこか誇らしげで。
だから私は、本当に安心する事が出来たんだと思う。





「いいか、てめーら!今日はも来てんだし何が何でも勝つぜ!!」

学校の校門前、獄寺くんが気合いを入れながら叫ぶ。
けど他の皆はどこか緊張感がなく、山本くんに至ってはいつもどおり爽やかな笑みを浮かべていた。


「おい、何言ってんだ?戦うのはヒバリだぜ?」
「お前がいきり立ってどーすんだ」
「ぐっっ!んなこた、わーってんだよ!!十代目はオレらを信頼して留守にしてんだ!オレらの目の前で黒星喫するわけにはいかねーだろが!」


更に握り拳を固めて熱く語る獄寺くんに、山本くんは「あはは!変な理屈だな」と笑いながら学校内の敷地に入っていく。
それには獄寺くんもムっとしたように、振り返った。


「てめーには一生わかんねーよ!!このバカッ!」
「タコヘッド!オレも分からんが何故か極限に燃えて来たぞ!!」


笹川先輩もいつものように熱くなったのか、両腕をかざしガッツポーズをしている。
その時、山本くんがふと校門の方に視線を向けた。


「お、今日の主役の登場だぜ」


その言葉にドキっとして振り返ると、恭弥が門から真っ直ぐこっちに歩いてくるのが見えた。


「――――?!」


恭弥は私を見つけるなり、怖い顔で歩いて来た。
一瞬、逃げ出したくなったけど、一応、笑顔を見せる。
それでも恭弥は怖い顔のまま、「ここで何してる」と一言、言った。


「あ、あの・・・」
「電話かけても繋がらないと思えば・・・。ここへは来るなと言ったよね」
「う、うん・・・」
「今すぐ帰りなよ」
「え、でも――――」
「おいおいヒバリ・・・せっかく応援に来たのに、そりゃないだろ」
「・・・何?君達、何の群れ?」


今度は山本くんを睨みながら、獄寺くんや笹川先輩を睨む。


「んだと、てめー!」
「まあまあ、獄寺も熱くなるなよ」
「オレ達は応援に来たんだ!」
「・・・ふぅん」


恭弥は僅かに目を細め、皆の顔を見た。
何となく嫌な予感がして恭弥の腕を引っ張ったが、そんな事はかまいもせず、


「目障りだ。消えないと殺すよ?」
「きょ、恭弥――――」
「何だ、その物言いは!!極限にプンスカだぞっ!」
「まーまー笹川先輩。――――ヒバリ、オレ達の事は気にすんな」
「気にするな・・・?」


恭弥はそう呟くと、グイっと私の肩を抱き寄せた。
驚いて顔を上げると、「こんなところにを連れて来るなんて、気になるに決まってるだろ」と言った。
それには山本くんが「悪かったな」と苦笑交じりで謝っている。


「だけどだって、ヒバリのこと心配なんだ。見に来るくらいはいいだろ」
「・・・それで前は浚われた」
「今度は大丈夫だって。オレ達がついてる。には指一本、触れさせやしねえ」
「山本くん・・・」


キッパリとそう言いきる山本くんを、恭弥は黙って見ていた。
そしてふと私を見下ろすと、軽く息をつく。


「ホント・・・。って僕の心を乱す名人だよね」
「ご、ごめん・・・」
「まあ・・・でも・・・そうか」


そう言って恭弥がふと、視線を上げる。
そこにはいつ来たのか、ヴァリアーの一人、雲のリングを持つゴーラ・モスカが立っていた。



「あれを一瞬で咬み殺せばいいんだ――――」



恭弥はそう呟くと、挑戦的な笑みを浮かべてトンファーを構えた。




私は信じられない思いで、目の前の"クラウドグラウンド"というフィールドを見ていた。
四方は有刺鉄線で囲まれ、中にはガトリングガンが設置されている。
そして地中にはいくつものトラップを仕掛けてあるらしく、ヘタに動き回れば危険は更に増す。
こんな場所で今から恭弥が戦うのかと思うと、足が震えてくる。


「まるで戦場ではないか!」

「怖けりゃ逃げろ」
「てめーらのボスのようにな」
「しししっ」


その声に顔を向けると、少し離れた場所にヴァリアーのメンバーがボスを含め3人、立っている。
一人は私を浚った、あのベルフェゴールという男だ。


「ふざけんな!!十代目は逃げたんじゃねえ!!」


獄寺くんが怒鳴ると、山本くんも「ツナは逃げたんじゃないのさ」と言った。


「ヒバリはうちのエースだからな。アイツは負けねーって、そう思ってるんだ」

「何を・・・?」
「ふっ・・・!エース・・・。ぶぁーっはっはっは!!そいつは楽しみだ!」


ヴァリアーのボスとかいう男が、バカにしたように笑う。
その時、あの男が私の方を見た。


「うしし♪また会えたね、彼女」
「・・・・・っ」
「跳ね馬の彼女かと思ったら雲の守護者が君の彼氏なんだってねー?アイツ死んだらオレが慰めてやるよ♪ ししっ」
「・・・・っ」


男の言葉にカッとして言い返そうと思った時、不意に山本くんに肩を掴まれた。


「ほっとけ。怒るだけ無駄だ」
「う、うん・・・」
「おーい。まーた無視かよ。まー、いーけど。皆に守られてっとこ見るとホント欲しくなっちゃうなー、お前が。うしし♪」


男はからかうようにそんな事を言ってきたけど、顔を反らしてフィールドに立つ恭弥を見た。
相手のゴーラとかいう大男は、恭弥の何倍も体が大きい。
あんなに差があって大丈夫なのか、と心配になる。


「「「ヒバリー!!ファイ、オー!!!」」」


その時、獄寺くんたちが突然、円陣を組んだ。
これは彼らがいつも戦う前にしている儀式みたいなものらしい。(ちょっと目が点)
ホントは全員でやるらしいけど、いつの間にか後ろに来ていた例の3人組は、そこには加わらずに芝生に座ってフィールドを眺めている。


「コラ、芝生頭!声が小せーぞ!!」
「なぬ?!ヒバリ本人が入らんから、いまいち燃えんのだ」
「しかし最初に一番、円陣嫌がってた獄寺がこんなにやる気とはな」
「ったりめーだ!十代目がいたら、きっとこーしてたはずだ!」


獄寺くんの言葉に、山本くんは苦笑いを零しながら、「それもそうだな」と頷く。
沢田くんは今もリボーンくんやバジルくんと修行してる頃だろう。
きっと恭弥の事を。どこかで応援してくれてるはずだ。

(恭弥は必ず勝つ・・・)

そう祈るように両手を握り締めた。



「それでは始めます」


その声にドキっとして顔を上げる。
進行役を務めている女の人が、ゆっくりと手を上げた。


「雲のリング。ゴーラ・モスカVS雲雀恭弥―――――バトル開始!!」


その声と同時に動いたのは、ゴーラ・モスカの方だった。


「な・・・飛んだ?!」


その動きに皆が驚いている。
でもその後のことは、私にはまるでスローモーションのように見えた。





ズガガガガガ・・・ッ!!!





ゴーラが指からマシガンのように銃を撃ったのを見た時、思わず目を見開いた。
撃たれると思った瞬間、恭弥は素早い動きで弾丸を避けながら、ゴーラ・モスカの方へ向かっていく。



「恭弥――――!!!」



そう叫んだつもりだったけど、声になってたのかは分からない。
ただ次に瞳に映ったのはトンファーを構えた恭弥が、いとも簡単にゴーラ・モスカという大男を一撃で倒した姿だった。




ドォォォンッ!!!




ただすれ違っただけのように見えたのに、ゴーラ・モスカはその場に倒れてその左腕が砕かれた状態だった。


「すげえ・・・」


隣にいる獄寺くんの声が、まるで遠くから聞こえてくるようだ。
皆、今の光景をポカンとした表情で見ている。
それはヴァリアーのメンバーも、仕切っていた女性二人も同じようだった。
皆を驚かせた張本人である恭弥は、倒れているゴーラ・モスカからリングを取ると、自分のリングと合わせて一つにした。なのに――――。


「これ、いらない」
「・・・へ?」


リングを渡された女性は恭弥の行動に驚き、更に口を開けている。
恭弥は気にもしてないような顔で、再びフィールドの真ん中に戻って行くと、


「さあ、おりておいでよ。そこに座ってる君」
「――――ッ」


その言葉にドキっとした。
恭弥の視線の先にはヴァリアーのボス、ザンザスがいる。


「ど、どうして・・・?もう戦いは終わったのにっ!」
!行くな!危ない!」


フィールドに近づこうとした私を獄寺くんが止めた。
それでも心配で再び恭弥を見ると、彼はどこか楽しそうにザンザスという男を見てニヤリと笑った。


「サル山のボス猿を咬み殺さないと・・・帰れないな」


その一言に恭弥は本気なんだ、と思った。
本気でヴァリアーのボスと戦おうとしている。


「なぬ?!」
「なぬ、じゃねーよ、タコ。それ以前にこの争奪戦、オレらの負け越しじゃん。どーすんだよ。ボースー」


ベルという男が溜息交じりで呟いている。


(そう、そうだ。リングを奪い合うという戦いはこっちが勝ったんだし、このまま終わるんじゃないの?)


なのに、どうして・・・。そう思った時だった。
今まで黙っていたザンザスが、ゆっくりと立ち上がった。




ガツッ!!




ふわりとザンザスの体が浮いたかと思えば、次の瞬間、恭弥の右腕が彼の足を弾いていた。
それでもザンザスはくるりと身を翻し、着地をして見せた。


「足が滑った」
「だろうね」
「嘘じゃねぇ」


ザンザスがそう言って、一歩前に出た時。
カチッという音と共に、急に爆音が響いた。
それでもザンザスは素早く避けたのか、怪我一つしていない。


「そのガラクタを回収しにきただけだ。オレ達の負けだ」
「ふぅん・・・。そういう顔には・・・見えないよ」


そう言った恭弥が一気に仕掛けていく。
素早く攻撃を受けながらも、ザンザスはそれをギリギリで交わしているようだ。


「恭弥・・・!」
「ヒバリの奴、何しとる!機械仕掛けに勝ったというのに!」


笹川先輩がそう叫んでいる間も、フィールド内では二人が動くたびにガトリングガンが発射される。
その凄まじい攻撃に、いつ恭弥が撃たれるかと気が気じゃない。


「獄寺くん、恭弥を止めて!!」
「で、でもよ・・・。オレらが手を出しちゃマズイだろ」
「でもヒバリは雲の守護者だぜ?ボスなら問題ないんじゃねーの?」
「バカ!そんなの分からないだろ?もし手を出して、ルール違反にされたらさっきの勝負、こっちの負けになるかもしれねーんだぞ?」


獄寺くんも混乱してるのか、どうしていいのか分からない様子だ。
そんな私たちの心配をよそに、恭弥は攻撃の手を緩めない。


「手、出てるよ」
「――――ッ」


攻撃を避けきれず、ザンザスが手を出したのを見て、恭弥がニヤリと笑う
それを見て、ヴァリアーの他のメンバーが驚いたように口を開けた。


「あやつ・・・。ボスの動きをとらえているだと?!」
「アンビリーばぼー」


大男とベルが言うように、恭弥の方が押しているように見えた。
ザンザスの顔からはさっきの余裕が消えている。
でもその時――――先ほどまで倒れていたゴーラ・モスカが、僅かに動くのが見えた。


「恭弥――――危ない!!」


そう叫んだ瞬間、ガァァアンっと耳を劈くような音がして、恭弥が膝からその場に崩れ落ちた――――。






「・・・・恭弥!!」
「バカ!フィールド内は危険だ!」
「離して・・・っ!」


獄寺くんの腕を振り払い、恭弥の倒れたところまで走っていく。
今の爆発で壊れた網を潜り、必死で走った。
その時、爆煙の中から数発の弾がこっちに向かって飛んでくるのが見えて、思わず足を止める。


!!」
「――――ッ」


目の前でそれが爆発するのと同時だった。
体がふわりと浮き、気づけば私は恭弥の腕に抱きしめられ、地面に倒れこんでいた。
爆風で飛んできた石などが当たって体中が痛んだけど、私を庇うようにして倒れた恭弥が心配になった。


「きょ、恭弥・・・」
「何してる・・・!無茶するなっ!」


恭弥は傷を負った体で私を支えると、皆の方へ歩き出した。
でもゴーラ・モスカに撃たれた足の傷口からは、真っ赤な血が流れている。


「やだ・・・恭弥・・・!無理しないでっ」
「何言ってるの・・・。僕が無理しなきゃ誰がを助けられる・・・?」
「恭弥・・・」
「だから言ったのに・・・。待ってろって・・・」
「うん・・・。ごめ・・・ごめんね・・・恭弥・・・・」


苦しそうな顔を見て、涙が溢れてくる。体中の痛みよりも、胸が痛んだ。



「ヒバリ!!!!危ない!!」

「「――――ッ?!」」



山本くんの声が聞こえ、ハッと顔を上げれば、前方にあったガトリングガンが、ちょうど私達に狙いを定めているのが見えた。
そして後ろには、ゴーラ・モスカが煙の中をゆっくりと歩いてくる。


「・・・チッ。挟まれた・・・」


恭弥は軽く舌打ちすると、私の体を包むように抱きしめてくる。


「恭弥・・・?離して・・・!そんな事したら恭弥が――――」
「言っただろ。より大切な人はいないって・・・。君がいないなら生きてる意味なんかない」
「やだ、恭弥・・・!!」


このままじゃ私を庇って恭弥が撃たれてしまう。
そう思った瞬間、ガトリングガンがゆっくりと回転するのが見えた。

(もうダメ――――!!)

ガァァンという弾が放たれる音。爆発音――――。
全ての音が、どこか遠くでしているような、そんな感覚だった。





―――ドゥッ…ゴォォォォォッ





「――――ッ?!」




その時、すぐ傍で何かが燃えるような音がして、私と恭弥はゆっくりと目を開けた。



「――――じゅ、十代目!!」



煙の合間から見えたのは、普段の彼とは似ても似つかない、一人の少年だった。
今の攻撃を彼が防いでくれたらしい。


「さ、沢田・・・くん・・・?ゴホッ・・・」
「・・・・・・歩ける?」


恭弥は素早く状況を把握し私の体を立たせると、フィールドの外へと連れ出してくれた。


・・・!大丈夫か!」
「や、山本くん・・・」


私達が歩いて行くと、皆が駆け寄ってくる。
その時、全身の力が抜けていくのを感じ、私は恭弥の腕に凭れかかった。


「おい、っ!」
?!」
!!おい!・・・・」


恭弥の、皆の声が聞こえるのに、答えることが出来ない。

そのうち意識が遠くなって、途中で、皆の声も聞こえなくなった――――。









(何だろう・・・。体中が熱い・・・)

まるで夢の中にいるような感覚ながら、意識は無数の痛みに向いて私はゆっくりと目を開けた。


・・・っ?」
「恭・・・弥・・・・」


ぼんやりと視界に映る恭弥の顔に、私は力なく微笑んだ。
恭弥はそんな私を見て、ホっとしたように息を吐き出すと、ぎゅっと手を握り締めてくれた。


「手・・・握っててくれたの・・・?」
「・・・がどこにも行かないようにね・・・」


どこか呆れたように、それでいて優しい眼差しを向けながら恭弥は苦笑いを零した。


「ここ・・・」
「病院。ディーノがすぐ手配してくれて治療もしてくれた。倒れた時に頭を強く打ったみたいだけど脳波に異常はないって」
「そう・・・。皆は・・・?無事?」
「・・・はあ。こんな時でも他の奴らの心配?僕がどれだけ心配したと思ってるわけ」
「だ・・・って・・・」
「アイツらなら無事だよ。皆、ロビーにいる」


仕方ないといったように溜息をつきながら教えてくれた恭弥の言葉に、心底ホっとした。
それにしても・・・よくあの状況で助かったな、と思いながら目の前の恭弥を見る。


「あの後・・・どうなったの・・・?」
「覚えてないの?」
「途中までしか・・・恭弥が撃たれて・・・それで私――――」
「無謀にもフィールド内に入って来たんだ。そこで爆発に巻き込まれた」
「そっか・・・。それであちこち痛いんだ・・・」


そう呟きながら包帯を巻かれた腕を見る。
あの時、恭弥が守ってくれなかったら私は間違いなく死んでいた。


「恭弥・・・ありがと・・・」
「・・・お礼はいらない」
「じゃあ・・・ごめん・・・」
「謝るなら最初からあんな事するなよ」
「だ、だって・・・・」


急に怖い顔をする恭弥に目を伏せる。
それでも恭弥は怒ったように、「心臓が止まるかと思った・・・」と呟いた。
いつもの強気な恭弥とは違い、どこか弱々しく見えて、それだけ心配かけてしまったんだと思った。


「ごめんなさい・・・」
「謝罪はいいって言ったろ」
「・・・ん。でも恭弥・・・。怪我の具合は・・・?恭弥の方が大怪我して――――」
「僕なら平気。大した傷じゃない」
「ホント・・・?」
「ああ」
「・・・良かった」


それを聞いて、本当に安心した。


「ところで・・・リングは?あのボスとはどうなったの・・・?」


そこでふと思い出した。
記憶の片隅にあるのは、爆発の音、ガトリングガンの音、そして最後に見えた、真っ赤な炎――――。


「大空のリングは沢田綱吉の手に戻った」
「え・・・?じゃあ沢田くんの勝ちって事?」
「いや・・・戻ったって言っても半分だけだよ。それを賭けて明日、アイツがあのボス猿と戦う」
「え・・・?まだ戦うの・・・?だって・・・恭弥が勝って勝ち越したんじゃ・・・」
「あの後、複雑な事になってね。そう簡単にはいかないらしい」
「そんな・・・・」


恭弥の言葉に呆然とし、まだあんな戦いが続くのかと思うと、悲しくなってきた。
もう皆、十分に傷ついてる。なのに――――。


「オレも・・・アイツに勝負を預けてるからね。このままじゃ引き下がれないよ」
「恭弥・・・」
「まあ、でも・・・は心配しないで、今は休んで」


そう言ったのと同時に、恭弥の唇が降って来る。
それはどんな薬よりも効果がありそうなほど、甘い。


「明日、全てが終わる。そしたら迎えに来るから一緒に帰ろう」


ゆっくりと離れていく唇に寂しさを感じていると、そんな言葉が彼の口から紡がれる。
その台詞さえ、甘くて。
いつから恭弥は、こんなにも素直な言葉をくれるようになったんだろう。


「出逢った頃とは・・・大違い・・・」
「何が?」
「ううん、何でもない。私――――恭弥に出逢えて、良かった・・・」


あの日、校庭で、真っ赤な血に染まった恭弥を見かけた。
その異様な姿は怖いと言うよりも、どこか華麗でいて、不思議と心に残った。
あれから今日まで色々とあったけど、でも・・・・。


「僕も、に出逢えて良かった」


恭弥はそう言いながら優しく微笑んだ。


「もう一度あの日に戻ったとしても、僕はきっと、に恋をする」


言っただろ、運命だって――――。


そう言葉を繋いだ恭弥に、何度も頷く。

あの頃は、恭弥の本当の気持ちが分からなくて、不安になったりもしたけど。

でも今なら分かる、その凄く簡単な答えが。

恭弥が、あの時、私の事を"運命の人"と言ってくれたのは、それは――――












- BACK -


お、終わりますた…;;;
と言って本当は前回の分で終わろうと思ってたんですけど(汗)
私の中では少し前に完結してたので、どう終わろうかなぁと考えてるうちにズルズルと(たはは)
と言う事で今回のお話はホントならオマケといったところです(;^_^A
何ともハンパな感じですが元鞘に納まった時点で私の中では終わってたので・・・
原作でも、そろそろヴァリアー編が終わりそうですけど、単行本派なので続きは知らないし(苦笑)
とりあえず、このお話は終わりますが、また気が向けば番外編を書くかも?
ホントなら最初はもっと短い話で終わるはずだった作品ですが、気づけば結構長くなっちまいましたね。
いつも素敵な感想や励みになるコメントを頂き、ホントにありがとう御座いました<(_ _)>
また雲雀ドリは書こうと思っているので、その時はまた宜しくお願い致します。



なお連載終了でも投票処では、いつでも投票受け付けてますので、
またポチポチと押してやって下さいね☆
毎回、励みになるコメント、ホントーに嬉しかったです!ありがとう御座いました゜*。:゜+(人*´∀`)

Ti amo!By.HANAZO



●泣けます!!めっちゃ心締め付けられる程、切ない!!恭弥がますます好きになりました☆(大学生)
(ひゃー;泣けるだなんて嬉しいです!そんな風に言って頂けて励みになります(>д<)/


●HANAZO様の雲雀さん大好きです。これからも、頑張って下さい。応援しています。(小学生)
(私の書く雲雀が好きだなんて感激っす(*ノωノ) これからも頑張りますね!)


●ちょっと不器用な雲雀さんが可愛くて大好きです!!(社会人)
(ありがとう御座います!これからも可愛い雲雀を書いていけるよう精進します(>д<)/


●雲雀さんかっこいいです!文章に引きつけられてますv(高校生)
(ぶ、文章に引きつけられるだなんて、もったいないお言葉、ありがとう御座います!ホント嬉しいです!)


●カッコイイ雲雀さんが大好きです!元サヤに戻った二人のこれからが楽しみでニヤニヤしてます^^(中学生)
(ありがとう御座います!連載は終わりましたが、また何か書けたらと思っておりますんで、待っててやって下さいね☆)


●この連載かなり好きです!!小説読んで原作が更に好きになりました(*´艸`)素直になれないそんな恭弥が好きだー!!!!(その他)
(ありがとう御座います!当サイトのドリで、原作が更に好きになっただなんて嬉しい限りです!)


●雲雀さんが大好きです!!噛み殺してください!!(笑)(その他)
(ホント噛み殺されても構わないわ(*ノωノ)


●憧れの雲雀さんが一喜一憂している姿にキュン死にしそうです(*´∀`*)大好きです!(高校生)
(あの雲雀が好きな子にだけ優しいってのを書いてみたかったので、キュン死にして頂けてホント嬉しいですね(^^)


●恭弥夢ヤバすぎです!!キュン死にしそうです!!恭弥やディーノに愛されるヒロインちゃんが羨ましいです(笑)(大学生)
(ヤ、ヤバすぎっすか!いやいや…愛されヒロイン目指してますので、これからも[甘][切][笑]を含め、頑張らせて頂きます(>д<)/オー


●雲雀夢を読んでめっちゃ感動しました!ヒロインと雲雀さんにはラブラブになって欲しいです!このまま未来のふたりも見たいですぅvv(笑)更新がんばってくださいvv(高校生)
(感動して頂けて嬉しいです!この二人はいつまでもラブラブでいるでしょうね♪時間があれば、その後の話も時々書いてみたいと思います☆


●とにかく大好きです。(小学生)
(ひゃー;;ありがとう御座います!)


●大大大好きです!!(大学生)
(ありがとう御座います〜!(´¬`*)〜*