発覚――12
雨の中、雲の彼方へ飛んで行った飛行機は、すぐに見えなくなった――
「白蘭さま!我々も自家用機で追いかけましょう!」
部下が慌てたように走ってきて、白蘭の前に傅いた。
雨に当たりながら、呆然とした顔で立ち尽くしていた白蘭は、怒りの混じった冷たい目で部下を見下ろすと無言のまま背を向ける。
「…もう無駄だよ」
「ですが…!!」
「その前に!!」
顔を上げた部下の言葉を遮り、白蘭は深く、息を吐き出し、拳を握り締めた。
「こうなる前に何故、彼女を止められなかったか、ボクに説明してみてよ」
「……はっ…見張りは着いていたはずなのですが――」
「…なら彼女が建物から出る前に…止められたはずだよね」
雨で冷え切った空気と同じような冷たい声に、部下は言葉もなく顔を強張らせた。
白蘭は冷めた目で部下を再び見下ろすと、
「こうなる前に何故、彼女を止められなかった!!!」
「…はっ!も、申し訳御座いません…!!」
激昂する白蘭に、部下は青ざめ、地面へ擦り付けるかのように頭を下げる。
そんな部下を後に、白蘭は一人、ゆっくりと歩き出した。
「白蘭さま、濡れますのでお車で――」
「いい…。歩いて戻る」
濡れる事を気にすることなく、白蘭はアジトの方へと歩き出した。
今すぐ飛んで追いかけて行きたい衝動に駆られつつ、それを必死に堪えている。
「恐れながら、白蘭さま……彼女が逃げられるよう、手引きした者が内部にいると思われます」
サッサと歩いていく白蘭を追いかけながら、部下が言った。一瞬、白蘭の足が止まる。
それを見て、部下は更に言葉を続けた。
「先ほどの自家用機はボンゴレのもの…。彼女一人で助けを呼ぶなど、出来るはずがありません」
「ああ…だいたいの見当はついてるよ」
そう呟いた白蘭の顔に、僅かに笑みが戻る。そして目の前のアジトを見上げ、濡れた髪をゆっくりとかきあげた。
「…いけない事をした部下には…お仕置きしないとね」
妖しい笑みを浮かべると、白蘭は自らの手を口元へ運び、指に光るリングに、そっと口付けた――
ゴォォォ…という低い唸り声のようなエンジン音を聞きながら、は窓の外から見える雲を、黙って見つめていた。
先ほど濡れてしまった服から、スクアーロが用意してくれていた服に着替えると、少しだけ気分も落ち着いてきた。
それでも色んな不安は残っている。やっと、敵の手から逃げる事が出来たというのに、の心はどこか晴れない。
「う゛お゛ぉい、飲め。あったまるぞぉ」
そこへスクアーロが暖かい紅茶を持って来た。そこは素直にありがとう、と言って受け取る。
その様子に、スクアーロの方もホっとしたように隣へと腰を掛けた。
「うかねぇ顔だなァ。嬉しくねーのかァ?自由の身になったってぇのに」
「…そんな事は…ただホっとしたら力が抜けたっていうか」
「本当かァ?白蘭のこと、気にしてんじゃねーだろうなァ」
「ま、まさか…」
そうは言ったものの、半分は図星でドキっとした。ガサツなように見えて(!)スクアーロも何気に観察力があるらしい。
「だったら何でそんな顔してんだァ?まさか白蘭にヤラれてほだされたってんじゃねぇだろうな」
「ヤ、ヤラれてなんかいないわよっ」
スクアーロの突っ込みに、は真っ赤になって反論した。
それにはスクアーロ、そして大人しく後ろで座っていたベルフェゴールも驚いている。
「マジぃ?!だって白蘭はちゃんに惚れてんだろ?だから浚ったのに手ぇ出さなかったってーの?」
「彼は…何もしなかったわ。あなたと一緒に考えないでよ」
過去の事を思い出し嫌味を言うに、ベルフェゴールは楽しげに笑った。
「フツー人質が女だったら頂くじゃん。しかも白蘭はちゃんに惚れてるんだし襲ってきてもおかしくねーんじゃん?」
「でも何もされてない!変なこと言わないでっ」
「あっそ。んじゃー何でさっき白蘭が追いかけてきた時、申し訳なさそうな顔してたんだよ」
「それは…」
「同情しちゃった?自分に惚れてる男を傷つけたっていう、安っぽい同情心って感じだな」
ズケズケとものを言うベルフェゴールに、はムっとしたように視線を反らした。
でも彼の言うとおりなのかもしれない、とふと思う。
あれほど真剣に好きだと言ってくれた白蘭の目を盗み、逃げ出した事への小さな罪悪感。
でも、それを感じる方がどうかしてるのだ。そもそも白蘭は敵であり、自分を騙してイタリアまで浚わせた張本人なのに。
「…ストックホルム・シンドロームかもなァ」
「…え?」
スクアーロの言葉に、は訝しげな顔で眉を顰めた。
「知らねぇかよ。誘拐された人質が犯人を好きになっちまったり、同情したりするっていう、ある種のマインドコントロール」
「な…何よそれ…私は別に白蘭の事を好きになった覚えもないし――」
「でも悪い事をしたな、とは思ってんだろォ?お前を浚った張本人なのに」
「…べ、別にそんなこと思ってない…」
「あんた、素直そうだもんなァ。まあ…白蘭の手にかかりゃ、マインドコントロールされてもおかしくはねぇ」
苦笑交じりで肩を竦めるスクアーロに、はムっとして顔を反らした。
悔しいけど少しは当たってる気がして、再び窓の外を眺める。飛行機はすでに雲の上を飛んでいて、そこは綺麗な夕日で染まっていた。
(マインドコントロール、かあ…。確かに白蘭くらいずる賢いなら、単純な私なんて簡単に騙せるだろうな…)
ふと先ほど話していた事を思い出し、溜息をついた。雲雀のことや、未来の自分のこと。何もかもが今では嘘のように思えてくる。
それにたとえ本当だったとしても、今は確かめる術もない…
骸が言っていたように、それは無事に皆のところへ帰れてから考えればいい――
そう思う事で、少しだけ気持ちが楽になった気がした。
「なぁ、酒でも飲まね?王子、退屈ー」
その時、後ろに座っていたベルフェゴールが座席に足を乗せて大げさに溜息をついた。
離陸してから一時間も経っていないというのに、すでに座っているだけの時間に飽きたようだ。
このまま放っておいてもうるさいだけだ、とスクアーロは機内に設置されている棚から、ワインを2〜3本出してきた。
「おら、これでも飲んでろ」
「おーいいもん積んでんじゃん。チーズはねーの?」
「自分で探せ」
慣れた手つきでコルクを抜きながら、スクアーロは舌打ちをした。ベルフェゴールは言われたとおり、色々と探してチーズやクラッカーなどを持ち出している。
それを横目で見ながら、は溜息をついた。
つい先日まで激しい戦いを繰り広げていたヴァリアーの連中と、一緒にいる、この空間が不思議な気がした。
「お前も飲むか?」
「え?あ、私は…いい。未成年だし――」
「んなもん関係あるかァ。いーから飲め。どーせ、まだ何時間もかかるんだしよ」
スクアーロはそう言いながらグラスに赤ワインを注ぐと、の手に無理やり持たせた。
ボトルを見るだけでも高級そうなワインだ。
「でも私、飲んだ事ないし…」
「ワインなんて水と同じだ。これはかなり美味いぜぇ?」
言いながらスクアーロは自分のグラスに注いだワインを飲み干した。ベルフェゴールもサッサと他のワインを開け、ラッパ飲みしている。
は内心困りつつ、手の中にあるワイングラスを眺めていたが、一度くらいなら、という軽い気持ちでそれをゆっくりと口に運んだ。
「……ッ」
「どうだ?美味いだろ」
「…お、美味しいっていうか…渋い…」
軽く咽ながら、は深々と息を吐き出した。一口飲んだだけで、胸からお腹にかけてカッと熱くなるのが解る。
そして次に顔まで熱を持ち、火照っていくのを感じた。
「何だァ?もう顔が赤いぜ」
「だ、だって初めて飲んだし…。って、これのどこが水と同じなの?」
たった一口ですでに頭がボーっとしてくるほど、アルコールが強くて、は隣にいるスクアーロを見た。
それでもスクアーロは平然とした顔でワインを飲んでいる。
「あァ?水だろ、こんなもん。イタリアじゃ昼間っから飲んでるぜ?」
「そっちは飲み慣れてるからでしょ?私は――」
「まあまあ♪それがキツイなら、こっちの白ワイン飲めば?甘くて美味しいよ」
そこへベルフェゴールが口を挟む。すでに三本目のボトルを開けたようだ。
彼の手にある白ワインのグラスを見て、は仕方なくそれを受け取った。
「ホントに甘くて美味しいの、これ…」
「ああ、ジュースと一緒♪飲んでみ?」
ニヤっと笑うベルフェゴールに、若干疑いの目を向けつつも、はグラスを口に運んだ。
「あ、ホントだ…ジュースみたいに甘い」
「だろ〜?ま、オレ達の口には合わねーけど、これレヴィが好きでさー」
「レヴィ…って確か雷の…」
「そ、あの変態の大男」
「へ、変態…?」
ベルフェゴールの説明にギョっとしつつ、再びワインを口に運ぶ。今度のは確かに甘くて美味しい。
「あいつ、最近まーた変なフィギュア集めだしてんだよなぁ〜。キモイから今度捨ててやろうかな」
「…う゛お゛ぉい、下らねー事でモメんじゃねーぞ」
「だって、それ持ち歩いてんだぜ〜?マジ、キモイって。つかウザイ」
仲間の愚痴を言いながら、ベルフェゴールは楽しそうにワインを飲んでいる。スクアーロも文句を言いつつ、それを魚のツマミにしながら笑っていた。
(こうして話してると、ヴァリアーの人たちも案外、普通の人たちなんだ…)
その様子を眺めていたも、二人の会話に自然に笑うようになり、機内は和やかなムードになっていった。
「お帰りなさいませ、白蘭さま。お食事はいかがでしたか?」
レオナルドリッピがいつものように爽やかな笑顔で声をかける。だが白蘭の姿を見て、すぐに駆け寄った。
「どうしたんですか?こんなに濡れて……」
「…ちょっとね」
白蘭が応える間にも、レオナルドはバスルームからタオルを持ってきた。
「お車で出かけなかったんですか?」
「乗って行ったんだけど…ちょっと騒ぎがあってさ」
「騒ぎ…ですか?」
レオナルドから受け取ったタオルで濡れた髪を拭きながら、白蘭はニッコリと微笑み、振り返った。
「うん……それより…レオくん、何してんの?とうとう世話係まで任されちゃった?」
「い、いえ…あの…白蘭さまにお仕事の話で相談が…」
その言葉に、白蘭は笑みを浮かべたまま首を傾げた。
「…賃上げ要求とかやだよ?」
「いえ…!お給料には満足してます…。じ、実は一身上の都合で辞めさせていただきたく……」
「お、それはビックリ」
そう言いながらもそれほど驚いた様子も見せず、白蘭は微笑んだ。
「君の才能には期待してたのになー」
「ま…またそんな…」
謙遜するレオナルドを見ながら、白蘭はニヤリと笑うと、ポケットに両手を突っ込み、
「ホント、ホント。なかなか出来ることじゃないよー。第11部隊を退け、グロ・キシニアを黒曜に向かわせるように誘導するなんてさ」
「…っは?」
レオナルドは驚いたように顔を上げた。白蘭はいつもの笑みを絶やさないまま、淡々と話しつづける。
「君はあそこで10年前のクローム髑髏を勝たせなければならなかった。だからボクに虚偽の含まれる報告をして、勝ち目のない11部隊ではなく、グロ・キシニア率いる第8部隊を向かわせるよう操作した。
グロくんにだけ黒曜ランドにいるクロームの魅力的な情報を教える事も怠らずにね――」
「あ、あの…白蘭さま…?」
「そして君はそれだけじゃ飽き足らず……ボクが今、一番大切にしているまで、そそのかしここから逃がした……憎んでいるはずのボンゴレの手を借りてまで、ね」
「いったい何を……」
黙って白蘭の話を聞いていたレオナルドは戸惑った顔で首を傾げた。その様子を伺いながらも、白蘭はクスっと小さく笑う。
「もういいから出ておいでよ、レオくん。いや……この場合、グイド・グレコくん?それともボンゴレの霧の守護者かな」
「ボンゴレの…霧の守護者…ですか…?」
「うん。―――六道骸くん」
「…っはあ?」
核心を突くその名前に、レオナルドは驚愕の表情を浮かべ、一歩、後ずさった。
「白蘭さま…いったい……それは………」
震える声で話すレオナルドの顔が、次第に青ざめていく。そして一瞬にして、空気が変わった。
「いつから――?」
それまでの表情とは一変、冷たい笑みを浮かべるレオナルドに、白蘭は笑顔のまま、「随分前だよ」と言った。
そして部屋に飾ってある花へ指を伸ばすと、
「部屋にダチュラの花を飾ってもらったの覚えてる?花言葉は"変装"なんだ」
「……やはり僕の予想通りだ。あの頃からあなたの視線がくすぐったかった」
互いに見つめあい、クスクスと笑う。端から見ると、ただ世間話をしているようにしか見えない雰囲気だ。
「お互い相手の腹を知りつつ、知らぬふりをしていたわけだ」
「あなたが入江正一に知らせなければもう少し遊べたんですがね」
「よく言うなぁ……遊びを超えてボンゴレの仕事し始めちゃったの、君だろ?」
「ボンゴレ…?彼らと一緒に扱われるのは心外ですね…」
不意にレオナルドの姿が揺らぎ、少しづつ蜃気楼のようなものに包まれていく。
そして姿がはっきりした時には、レオナルドではなく、六道骸が立っていた。その手には愛用している槍が握られている。
「沢田綱吉は僕の標的でしかありませんよ」
「へぇ。君が骸くんかぁ。うん、悪くないね」
本来の姿を現した骸を見て、白蘭は嬉しそうに微笑んだ。
「そのレオくん…いやグイド・グレコくんは君にとって二人目のクローム髑髏という解釈でいいのかな?」
「クフフ…どうでしょう?」
「ふうん、企業秘密か。まあ答えたくないもん、無理やり言わせてもねえ…」
余裕の顔で骸を観察していた白蘭は、彼のその指にはめられているリングを見て、楽しげな声を上げた。
「わっ。レア度、星五つのヘルリング!骸くん、闘る気マンマンじゃん」
「当然ですよ。僕は楽しみにしていましたからね。ベールに包まれたあなたの力を暴けるこの日を……そしてあなたを乗っ取るこの時を」
そう言いながらボックスを翳す骸に、白蘭はニッコリ微笑み、己の持つ指輪を見つめた。その指輪からは淡い光が放たれる。
「――食後の運動くらいにはなるかな」
「でねえ…白蘭のヤツ、いーっつも押しかけて人をからかうのよ…って聞いてる?!」
どんっとテーブルにグラスを置くに、ベルフェゴール、そしてスクアーロは顔を引きつらせた。
「う゛お゛ぉい…また白蘭の話に戻ったぞぉ…?」
「酔っ払いは同じ話を繰り返すって相場は決まってンだろ?」
ウンザリ顔のスクアーロに、ベルフェゴールが苦笑いを浮かべる。
そんな二人の様子にも気づかず、は思い切りワインを飲み干している。
「あ〜!ちゃん、飲みすぎだっつーの!」
「うるはいなぁ……大丈夫らって言ってるでしょぉぉ〜っ」
「う゛お゛ぉい、大丈夫じゃねーだろ!いい加減、飲むのやめろ!」
「何よぉ〜さっきは飲めって言ったくせに…」
「つかちゃん、目が据わってるし!顔も真っ赤だろ?」
「平気らってば…っもぉーー恭弥のバカー!浮気者ー!!」
「……はいはい。それも何回も聞いたから…」
ベルフェゴールは苦笑いしつつ、の手からグラスを取り上げ、代わりに水の入ったコップを渡した。
はよく分からず、それさえ一気に飲み干して、テーブルに突っ伏すと、今度はグスグスと泣き出した。
「…恭弥なんて知ららい……弥生さんと浮気なんて……グス…」
すでに酔いつぶれているに、二人は思い切り溜息をついた。
あまりに表情の硬いをリラックスさせようと、ワインを飲ませたまでは良かったが、ベルフェゴールが面白がって沢山飲ませ過ぎてしまったのだ。
初めて飲むワインに、案の定は30分もしないうちに酔っ払い、よほど監禁された事でストレスが溜まっていたのか、そこからは延々と愚痴のオンパレード。
白蘭の事や、入江への文句を言いながら、最後には雲雀への不満まで言い始めた。
最初のうち、意味は分からなかった二人も、が何度も同じ事を言うので、雲雀がを裏切ったかもしれない、というだいたいの事は分かってきたが、それを慰める術など、暗殺一筋(?)の二人は持ち合わせていない。
黙って話をきくことしか出来ず、結果、酔いつぶれるまで放置してしまったのだ。
「はあ〜ったく…。こんなに酒ぐせ悪いなんて思わなかったよ…」
「お前がスケベ心出して飲ませすぎたんだろぉ?どーにかしろぉっ!オレはガキの恋愛相談なんてゴメンだぞぉっ」
「オレだって知らねーよ!――って、あーもう泣くなよ…。女に泣かれんのオレ嫌いなんだよね〜おーいちゃん、泣くなってー」
そう言いつつも、ベルフェゴールはの頭をグシャグシャと撫でてやっている。それにはスクアーロも苦笑いを零した。
「情けねえなぁ…女一人にオロオロしてるなんて…"プリンス・ザ・リッパー"の名が泣くぜぇ?」
「…スクアーロ、一回死んどく?」
バカにしたように笑うスクアーロに、ベルフェゴールは素早くナイフを手にした。
その行動にスクアーロも剣を構える。
「う゛お゛ぉい!オレとやろうってのかァ?上等だァ!」
「切り刻んでサメのエサにしてやるよ。都合のいいことに、ここは海の真上だしさ。うしし♪」
「てめぇぇっナメてんじゃねぇぞぉ!てめーこそ三枚におろしてサメのエサに――」
「
うるさぁぁぁぁいぃ!!!!人の話、聞いてるのーー?!!」
「「――――ッ!!」」
まさに一触即発、といった二人は、その大きな声に一瞬かたまってしまった。
どうやら二人がやりあっている間も、はグチグチと話し続けていたようだ。
はそれを聞かず、ケンカを始めた二人に腹を立てているのか、すわった目でジトっと両者を睨んでいる。
それにはスクアーロもベルフェゴールも戦意喪失といった顔で互いの武器をしまった。
「ケンカしてる場合じゃねーんじゃん?」
「ああ…。一瞬で萎えたぜぇ……」
そう言いつつスクアーロは溜息をつくと、再びブツブツ言い出したを見た。
「…何よ何よ…男なんて皆ガサツなんらから…恭弥らってすぐ怒ってケンカしては相手を半殺しにしちゃうし…そのたびにわらしは心配で…」
「あーー解った解った!雲雀恭弥が悪いよな?だからもうちゃんは寝ろって。後ろに小さいけどベッドがあるし!な?」
「ん〜眠くらいもん……ってゆうかぁ…恭弥は悪くないのよ〜わらしが勝手にアジトを抜け出したから――」
「あ〜はいはい!それもさっき聞いたっつーの。ほら、立てる?」
ベルフェゴールは上手く宥めながら、フラフラしているの体を支え、後ろへと連れて行く。
それを見ながら、スクアーロは珍しい事もあるもんだ、と苦笑した。
普段なら自分が我がまま放題のベルフェゴールが、今は酔っ払いの少女の面倒を見ている。それは意外な姿であり、今更アルマゲドンかというほど珍しい姿だった。
(けっ。ったく面倒な仕事押し付けられたもんだぜ…。ま……たまには気晴らしになっていいけどなぁ…)
残りのワインを煽りながら、スクアーロは窓の外を眺めた。この天候なら、あと数時間で日本に無事到着するだろう。
をアジトに届けたら、またすぐイタリアにとんぼ返りしなければならない。
「…剣士小僧に会う暇もねぇかな…」
ふとリング争奪戦の時に戦った、能天気な男の顔を思い出す。今頃必死になって修行をしている頃だろう。
一瞬、懐かしい過去の戦いが脳裏を過ぎり、スクアーロはそれに浸るかのようにワインを煽った。
「きゃ…どこ触っれるのぉ!エッチーー!!」
「いてッ嘘!ジョークだって!うぎゃっ」
――が、その穏やかな空気が、甲高い声とマヌケな悲鳴で一瞬にして壊された。
「う゛お゛ぉい!!何してんだァ?ベルっ!」
慌てて後ろにあるベッドの元へ走って行くと、少女にポカスカ殴られ、謝っているベルフェゴールの姿に、思わず目が細くなった。
「あっち行っれよ〜〜スケベ!へんらい!」
「…ゴメンて!ちょっと魔がさしただけ!もう一緒に寝ようとか言わないし触らないからっ」
「……てめぇ……何してやがんだァ?」
口元を引きつらせながら、布団の中に非難しているベルフェゴールを見下ろす。
その声にベルフェゴールは「うしし…」と引きつった笑みを浮かべながら顔を出した。
「…い、いや…泣いてるから添い寝してあげようかと思ってさ。ついでにちょこっとオッパイ触ったら烈火のごとく怒り出して――」
「う゛お゛ぉい!バカかてめぇはァ!サッサとベッドから下りやがれっ」
いつもの悪いクセを出したベルフェゴールに、スクアーロは呆れたように項垂れる。ベルフェゴールもの剣幕に、渋々ベッドから抜け出してきた。
「はーあー。酔ってるから分かんねーかと思ったんだけどなー」
「…この女に手ぇ出すなァ!余計な揉め事が起きんだろーがァっ」
「はいはい、分かりましたよ…って、もう寝てるし!」
そこでベッドの方に視線を戻すと、が騒ぎ疲れたのか、枕を抱きしめながら眠っている。
その姿にスクアーロは大きく息を吐き出した。
「ま、あんだけ飲んで愚痴って騒げば疲れんだろ…」
「…寝顔もかーわいー♪やっぱ殴られてもキスの一つでもしとけば良かったかな」
「う゛お゛ぉい、いい加減にしろぉ!この女はてめーのオモチャじゃねぇぞぉ?」
「わーってますよ〜。でもさっき聞いた話だと雲雀恭弥だって、他の女とよろしくやってんじゃん?ならちゃん可愛そうだしオレが慰めてやりてーなー」
ベルフェゴールはそう言いながら眠ってしまったに布団をかけてやった。
「それはまだ分からねーだろーがァ。白蘭のヤツが嘘を言ったかもしれねぇ…。あいつはこの女に惚れてんだからありえるぜぇ?」
「…それもそっか。まあでも…ちゃんは少なからず、不安に思ってるんだろーな。オレがボンゴレのエースくんに説教してやろーかな」
「う゛お゛ぉい、オレ達はこの女の恋愛相談しにきたわけじゃねぇぞぉ?送り届けたらすぐイタリアへ戻る」
「はいはい……骸の言いなりってのが気に食わねーけど…ってか、あいつ大丈夫なの?ミルフィオーレのアジトにいるらしいって事だけど」
骸からはいつも一方的に連絡してくるので、居場所が分からず、ヴァリアーはいつも情報だけを受け取っていた。
でもをミルフィオーレのアジトから逃がしたとなると、居場所は――
「当然、あの中にいるんだろうなァ…。まあベールに包まれた本部の情報をいくつも流してきたんだ…それにヤツなら簡単に潜り込めるだろう」
「まーね。でも……白蘭も侮れねーと思うけど。特にちゃんを逃がしたとなれば…」
「ああ……今頃バレてるかもなぁ……」
スクアーロはそう呟くと、窓の外で沈みかけている、太陽に僅かに目を細めた――
カラン…という音と共に、折れた槍が床に落ち、骸は右目を手で抑えたまま、膝をついた。
右目からは血が流れ落ち、ポタポタと床に赤い染みをつくっていく。
「ハァ…ハァ……なんて…恐ろしい能力でしょう…」
苦しそうに息をしながらも、骸はゆっくりと目の前に歩いてくる白蘭を見上げた。
「さすがミルフィオーレの総大将…というべきですかね…敵いませんよ」
「また心にもないこと言っちゃって。喰えないなぁ、骸くん」
「………………」
今まで戦闘していたとは思えないほどの笑みを浮かべながら、白蘭は言った。
「君のこの戦いでの最優先の目的は勝つことじゃない。謎に包まれていたボクの戦闘データを外部の
他の体に持ち帰れればそれでよしってとこだろ?」
「ほう……面白い見解ですね。しかし…だとしたら?」
「叶わないよ、ソレ」
「…………ッ?」
白蘭の一言に、骸は小さく息を呑んだ。白蘭は相変わらず、淡々とした表情で骸を見下ろしている。
「この部屋には特殊な結界が張り巡らされてて、光や電気なんかの波はおろか、思念の類も通さないって言ったら信じてくれる?」
「クフフ…何を言っているのやら…僕にはさっぱり理解できませんねぇ……」
そう言いながらも、少しづつ弱っていく体に、骸は限界を感じていた。
(…この体も限界のようだな…。そろそろ戻るとしましょうか……)
「楽しかったですよ……」
最後に白蘭にそう告げると、今の体から自分の思念を外そうとした。
だがいつもならスムーズにいくはずが、この時ばかりは何かに邪魔されているかのように意識が飛ばず、骸はハッと目を見開いた。
その様子を、白蘭は楽しげに眺めている。
「実体化を解いて、ここからズラかろうとしたってダメだからね、骸くん。この部屋は全てが遮断されてるって言ってんじゃん」
「………ッ?!」
(バカな…!)
白蘭の余裕すらある笑みを見上げながら、骸はもう一度、思念を飛ばそうとした。
だが先ほどと同じように、何かの力によって、邪魔をされてしまう。
そこに気づいた骸の額に、じわりと汗が流れた。
「ボンゴレリングを持たない君には興味ないのね。それに…を逃がした罪は重いよ」
「……くっ」
ゆっくりと近づいてくる白蘭に、骸は僅かに後ずさる。
「…やっと手に入れたのに…。もう少しだったんだ…。彼女が本当の意味でボクのものになるところだった…。それを君は……」
「…それはどうですかね」
「…………何が言いたいの?」
「彼女…さんの心を埋めているのは…雲雀恭弥だけですよ…。あなたごときが奪えるような簡単なものじゃない」
「ふーん……何だか癇に障るね、その言い方」
「クフフ…本当の事ですよ…。あなたが…どんな小細工をしたって…彼女はあなたの元へはこない……あなたを愛することは絶対にない…」
その言葉に、初めて白蘭の顔から笑みが消えた。その鋭い瞳には、冷たい光が宿っている。
「死にぞこないのクセによく舌がまわるね……いっそ、本当の死を迎えちゃおうか…」
「……………ッ」
白蘭が手を翳すと、指に飾られた指輪が光を帯び始める。それを見つめながら、骸は唇を噛み締めた。
「―――バイバイ」
そう呟くと、白蘭はその手を骸の頭上へ、ゆっくりと翳した―――
今回はちょっくら短めで。骸はどうなってしまったんでしょうかー心配。
リボアニメも昨日までの分を全て見終わりました。獄寺の猫かーわいーーですよねー♪
ウリって私が前に飼ってたアメショーと同じ名前でビックリ!二匹飼ってたんですけど、ウリとキュウリって名前でした(笑)
原作では、かなりバトってますねぇ。新刊では雲雀が出なくて寂しい。
何気にガンマ嫌いだったのに、ちょっとカッコいいかも…なんて思えてきちゃいました…あわゎ;;
男の色気をかもしだしてるキャラに弱いオレ…
■本当に楽しくって仕方ありません!!!ふいつも読んでいるとにやけてしまうくらい雲雀さんとヒロインさんがかわいいです!!!(大学生)
(ありがとう御座います!楽しんで頂けて私も嬉しいです♪)
■雲雀さんがカッコよくて好きです。(大学生)
(ありがとう御座います〜(´¬`*)〜*
■雲雀さんのかっこいいです。とても読みやすいので感情移入しやすいです(高校生)
(読みやすいと言ってもらえて嬉しいです!今後も頑張りますね☆
■一筋縄ではいかないもどかしさと、雲雀に既に相手?がいるという切ない設定とストーリー展開に思わず感情移入してしまいます。ドキドキハラハラ、時々キュンとしながらとても楽しませていただいています。(社会人)
(気づけばこの連載も長くなって来てますが、楽しんでいただいてるようで私も嬉しい限りです!
■雲雀さんとヒロインの行末がかなり気になります!!(大学生)
(二人には色んな試練を与えてしまってますが、いつまでもラブラブでいれるよう、私も頑張ります(笑)