真相――14
「―――何だとっ?」
部下の報告に、入江正一は驚いたように振り向いた。
今まさに日本にいるホワイトスペル、ブラックスペル全員を集め、ボンゴレ迎撃に向けて命令を下そうとしていた矢先。
思わぬ朗報が届いた。
「…ボンゴレのアジトを突き止めた?」
「はっ。グロ・キシニアの反応を不審に感じたドクターが眼球の動きで文字を追わせたところ、敵に発信機を取り付けたと判明しました」
「我々と8部隊の副隊長、技術部が検証した結果、信憑性は高いです」
二名の部下とその後ろにいる、とんがり帽子をかぶった人物が、入江に向かって軽く頭を下げる。
その姿を横目で見ながら、入江は静かに口を開いた。
「…で…どこだ」
「ポイント座標A24・3-36・2.並盛の南西ですが――更地となっていて建物の存在しない地点です」
「――――ッ」
その説明に、その場にいる全員が息を呑む。
入江正一も大きく目を見開き、何かに気づいたように、「そうか…」と呟いた。
「そういう事か…何故、気づかなかったんだ…」
独り言のように呟き、強く拳を握り締める。
「奴らのアジトも地下にあると――」
そう呟き、入江正一は考え込むようにして目を伏せた。
「いかがなされますか?」
「…準備は?」
「すでに迎撃大隊のスタンバイは出来ております。すぐにでも出撃させる事は可能です」
「よし…」
それを聞いて入江正一は覚悟を決めたように、その場に集まった者達を見渡した。
「―――ただちにボンゴレアジトへ突入せよ!!」
「…こんのバカ!!何考えてんだっっ!」
「散々心配かけやがって!!」
顔を合わせた途端に怒鳴られて、私は首を窄めた。
「まあまあ、獄寺もジンも…そんな怒んなって!もこうして無事に戻ったんだし…」
「そ、そーだよ!さんだって怖い思いしたんだから…」
沢田くんと、相変わらずマイペースな山本くんが二人と私の間に割って入り、あの爽やかな笑顔を浮かべる。
久しぶりに見た二人のその笑顔に、堪えていた涙が一気に溢れてきた。
恭弥と再会を果たした後、心配をかけた皆にも謝りたいと彼に訴え、連れて来てもらったのだ。
けど、案の定、獄寺くんとジンは私の無謀さを厳しく叱った。
「ご…ごめんなさい…」
自分のした勝手な行動のせいで、皆にこれほど心配かけていたのかと思うと胸が痛み、唇を噛み締める。
目の前にいる皆に頭を下げると、溢れ出た涙がポロポロと零れ落ちた。
「…チッ、いーよ、もう…お前が無事なら」
「……ああ」
獄寺くんとジンは何ともいえないような顔でそう言うと、大きく息を吐いた。
二人の言葉には、もう怒りは感じられず、その声には安堵の響きを感じる。
「もういーだろ。、顔を上げろ」
その声にゆっくり顔を上げると、目の前にはリボーンくんが立っている。
沢田くん、獄寺くん、山本くん、そしてジンも、いつもの笑顔を私に向けていた。
「お帰り、。――怖かっただろ」
「……リボーンくん…」
「お前の気持ちは分かってる。皆の為にしたんだって事もな」
リボーンくんの言葉に小さく息を呑む。何もかも見透かしたような眼差しに、本当に不思議な子だ、とふと思った。
そう言えば、あれほど他人の事に無関心な恭弥も、リボーンくんには興味を持っていたっけ。
何となく、恭弥も一目置いている。そんな気がする…
そう思いながらリボーンくんを見つめ、小さく首を振った。
「でも騙されちゃって……」
「ああ…事情は少しだけヒバリに聞いた」
「え…?」
ドキっとして振り返る。恭弥は自分のアジトの入り口前に寄りかかりながら、私の事を待ってくれていた。
「きょ、恭弥に何を…」
「白蘭がに惚れてるって事だ」
「――――ッ」
サラリと言われ、私はドキっとしながら、他の皆を見た。
獄寺くんも、ジンも、沢田くんや山本くんでさえ気まずそうな顔で目を伏せているのを見て、皆には全てを知られている事を悟る。
「恭弥は…知ってたのね…」
「ああ。だから必要以上に心配してたみたいだな」
「…そっか…」
恭弥は何もかも知ってたから、私が外に出るたび、あんなに怒ったんだ。
なのに私は…甘い言葉に簡単に騙されて敵の罠にはまった…
「あ、あの!大丈夫だった…?!」
不意に沢田くんが私の顔を覗きこむ。その表情はひどく心配そうだ。
「…入江や白蘭に……何かひどい事されなかった?」
「……沢田くん…?」
「…されなかった?」
普段の弱々しい彼からは想像出来ないくらい真剣な顔で訊かれ、本気で心配してくれてるんだと感じ、胸が熱くなった。
並盛に転校してから、色んな事があって付き合いも長くなってきたけど、彼個人とはそれほど打ち解けてたわけじゃない。
それなのに、こんな私の事を、友達として大事に思ってくれてる事実に、泣きそうになる。
「……う、うん…。大丈夫……」
「…………良かったぁ…」
私が頷くと、沢田くんは大きく息を吐き出し、その場にへたり込んだ。
それでも私を見上げると、優しい笑顔を見せてくれる。
「…あんな危ない連中のボスだし…そんな奴がさんを好きになってさらったって聞いたから…何かひどい事されてないか心配だったんだ」
「沢田くん……」
「でも…やっぱり好きな子にはひどい事しなかったんだね。リボーンの言った通りだった」
「……え?」
その言葉に驚いてリボーンくんを見ると、彼はニヤリと笑って「ほらな」と言った。
彼はいったい何者なんだろう、と、そこでまた不思議な気持ちになる。
でもそれを聞く前に、リボーンくんから私の方へと歩いて来た。
「は白蘭と直接会ったんだな」
「……え、あ…うん…」
「そうか…。白蘭は…に何か話したか…?」
そう尋ねられ、そこで私は大事な事を思い出した。
そうだ、皆に伝えなくちゃ……二度と過去へは帰れない、と言われた事…そして―――
「もう彼女を返してもらっていいかい?」
「――――」
その声にドキっとして振り向くと、恭弥が待ちきれないといった顔で歩いて来た。
帰ってきた時、本当はすぐにでも休めと言われていたのを、先に皆に謝りたいと我がままを言って、渋る彼に、ここへ連れて来てもらったのだ。
まだ数分しか経っていないけど、彼にとって苛立つには充分過ぎる時間だったらしい。
「行こう、」
恭弥は私の手を握ると、自分のアジトの方へと歩き出した。
「ちょ、恭弥待っ――」
「――待て、ヒバリ」
その時、リボーンくんが行く手を阻むよう、目の前に立った。
「赤ん坊…彼女は疲れてるんだ。少し休ませたい」
恭弥は溜息一つ、ついてリボーンくんを見た。
「…それも分かるが…今は少しでも情報が欲しいんだ」
「そんなの僕には――」
「待って、恭弥…!」
私の手を強引に引いて歩き出す彼を、慌てて止めた。
「…?」
「私、大事な事を皆に教えないと…!」
「大事な事…?」
「うん……」
恭弥が訝しげに眉を寄せる。その彼に軽く頷いて、私は沢田くん達を見た。
皆、過去へ帰るために、この戦いに必死になっている。そんな彼らにだけは伝えなくちゃいけない。
「…さん?」
「私が聞いたこと…言わなくちゃ…」
沢田くんが不安げな表情で私を見る。
獄寺くんや山本くんも、私の様子を見てただ事じゃないと感じたのか、いつになく真剣な顔だ。
「……過去へ…返してと言った私に…白蘭はこう言ったの」
そう言って軽く息を吸うと、私は目を伏せた。
皆は不安げな顔で私の話に耳を傾けている。
その、皆の顔をゆっくり見渡すと、
「"一度タイムトラベルした者は、二度と元の世界へは戻れない"―――」
私の言葉に、その場にいた全員が驚愕したような表情を浮かべた。
用意された浴衣に着替えると、私は深く息を吐き出した。
――再び、この場所へ戻ってくるなんて思いもしなかった…。
静かに和室の中を見渡すと、私が出て行った時のまま。
今は私の気持ちを落ち着かせるためか、仄かにお香の香りが漂っている。
「恭弥らしい…」
部屋の片隅に置いてある、お香に目を向け、つい笑みが零れた。
その香りと、皆の元へ帰ってきたという安心感から、不意に睡魔が襲ってくる。
でも今ここで眠るわけにはいかない。
皆にとって大事な事は伝えた。でも…私にはもう一つ確かめなければいけない事が残っている。
ふと、先ほどの皆の反応を思い出し、溜息をついた。
"過去へは帰れない"
その事を聞いて、皆は案の定取り乱した。
でもそこはリボーンくんが皆を一喝し、納得させた。
「落ち着け。白蘭の言う事なんかあてになんねーぞ。"過去へ帰りたい"というの気持ちを完全に消そうとして言っただけかもしれねえ」
「そ、そっか…そうだよね…。まだ分からないよね」
「そうですよ、10代目!白蘭のいう事なんかアテになりません!それより明日入江のアジトに行って直接本人に吐かせりゃいいだけの事です」
「そういう事だぞ。入江に会うまでは分からない。お前達は明日の戦いの事だけを考えてればいい」
その一言で、皆も少し安心したようだった。
明日は入江正一のアジトへ奇襲をかける予定だったらしい。
そこへ行ってみなければ分からないというリボーンに、皆も納得したようだ。
そして私もそれを聞いて、確かにそうかもしれないと思った。
あのずる賢い白蘭なら、そんな嘘くらいつきそうだ。
だから……だから白蘭から聞いた恭弥の事も、嘘だったらいい……そう思いながら彼の元へ行こうと立ち上がる。
「…着替えた?」
「――――」
でもその前に、襖の向こうで恭弥の声が聞こえて、僅かに鼓動が跳ねた。
「入るよ」
返事に一瞬躊躇っていると、音もなく襖が開く。
「……恭弥…」
「やっぱり…その浴衣、に似合ってる」
恭弥は私の姿を見て優しい笑みを浮かべると、静かに部屋の中へと入って来た。
彼も着替えたのか、スーツではなく今はいつもの黒い着流しを着ている。
その姿はやっぱり大人の男の色香が漂っていて、勝手に鼓動が早くなった。
「お帰り…」
恭弥はそう言うと、私の手を引き寄せ、強く抱きしめてきた。
その温もりが体全部に沁みて、涙が溢れてくる。久しぶりの彼の匂いに、心の底からホっとした。
でも―――それと同時に鈍い痛みが胸に走る。
"―――先に裏切ったのは彼の方だよ。幼馴染の女とね"
白蘭に言われた言葉を思い出すと、今でも心が引き裂かれそうになる。
嘘であって欲しい…そう願いながら私は彼を見上げた。
「…眠い?」
恭弥は私の体を気遣ってか、心配そうな顔で見つめてきた。
その優しい眼差しが、また胸を痛くさせる。
大丈夫、というように小さく首を振ると、彼は無言のまま、私の額へ優しく口付けた。
その行為で一気に鼓動が早くなり顔を上げると、恭弥は私に座るよう促し、自分もその場へと座る。
その様子を見て、彼も何か私に話があるのだと分かった。
本当の事を聞きたくて仕方なかったはずなのに、恭弥のそんな顔をいざ目の前にすると、途端に怖くなる。
(―――もし…白蘭の言っていた事が本当なら…私はどうするべきなんだろう)
仮に恭弥が裏切っていたとして、それは未来であるここでの話だ。過去から来た私を裏切ったわけじゃない。
過去から来た私が、未来に生きている彼を、責めてもいいんだろうか…。
「…?」
「……えっ?」
頭の中であれこれ考えていると、不意に恭弥が口を開いた。
「そんな畏まらなくていいよ。足、崩して」
「え?あ……」
気づけば硬くなっていたらしい。正座して膝の上で両手を握り締めている私を見て、彼は苦笑いを零した。
その大人びた表情に、改めて10年という年月を感じ、少しだけ寂しくなる。
それでも言われたとおり足を崩し、心を落ち着かせるために深呼吸をした。
そんな私を見て、恭弥は僅かに眉を寄せると、小さく息を吐き出す。
「…何か話したそうだね」
「…え?」
「さっきからそんな顔してる」
「……きょ、恭弥こそ…」
そう言って彼を見る。恭弥は僅かに眉を上げて、軽く溜息をついた。
「―――白蘭から…何か吹き込まれた?」
彼の口から白蘭の名が出て、びくりと肩が震えた。
恭弥は私が何を言おうとしているのか、分かっているような気がして、どう切り出せばいいのか迷いが生じる。
そんな私の様子に、恭弥は深い息を漏らした。
「…僕らの事だろ」
「…………………」
「やっぱり、ね」
答えることの出来ない私を見て、恭弥は全て理解したかのように微笑んだ。
「彼に何て言われたの?」
「……何って……」
落ち着いた様子の恭弥に困惑しながら、私は視線を左右に泳がせた。
ハッキリ聞いてもいいんだろうか。でも恭弥は私が聞きたい事を全てを分かっている様子なのに動揺すらしてないように見える…
普通自分が裏切っていたなら、こんなに落ち着いてはいられないはず。
という事はやっぱり白蘭の言った事は…
「…答えて。白蘭に何を言われた?」
恭弥の私を見る目は優しい。その瞳を見ていると、彼が裏切ったとはどうしても思えない。
私はもう一度息を吸い込むと、覚悟を決めて彼を見つめた。
「…白蘭は……恭弥が未来の私を裏切ってたって……」
その一言を口にするだけで、汗が一気に噴出してくる気がした。
でも、これで後戻りは出来ない。覚悟を決めて恭弥の表情を伺うように視線を上げると、彼は何かを考え込むように腕を組んだ。
その表情を見てドキっとする。すぐに否定をしてくれない恭弥の態度に、また言いようのない不安が溢れてきて、私の心に暗い影を落としていく。
知らないうちに、そんな思いが顔に出ていたんだろう。恭弥はふと私を見て、小さく息を吐いた。
「…信じたの?」
「…え?」
「白蘭にそう聞かされて、僕がを裏切ったって、君もそう思った?」
「………それ…は…」
恭弥の私を見る目の厳しさに、思わず首を振った。
「最初は信じなかった…。そんなの嘘だって彼にも言ったよ?でも…」
「…でも?」
「…白蘭の口から…彼女の…弥生さんの話を聞いた時に…分からなくなった」
正直に自分の気持ちを伝える。
何もかも見透かしている彼の前では、どんな誤魔化しも通用しない気がしたからだ。
恭弥は黙って私の話を聞いてくれていた。
「白蘭が、先に裏切ったのは恭弥の方だって…。"幼馴染の女とね"って……。そう言われた時…私、そんなはずないって言えなかった…」
「僕には前科があるから?」
「………恭弥…」
悲しげな顔をする恭弥を見て、胸が痛む。私は何度か首を振って、「ごめんなさい」と呟いた。
信じてる、と言えなかった事が、彼を傷つけたような気がして。
涙を堪える私に、恭弥は優しく微笑み、そっと手を伸ばして私を抱き寄せた。不意に暖かい体温と、彼の匂いに包まれる。
優しく頭を撫でられ、堪えていた涙が頬を伝っていった。
「…ごめん、意地悪だったね」
私の頭を撫でながら、恭弥は呟いた。
「でも信じてもらえなかった事は、少しショックだったから」
「………恭弥…?」
その言葉に驚いて顔を上げた。
恭弥の今の言葉の意味を考え、鼓動が一気に早くなる。
彼は濡れた私の頬を見て僅かに微笑み、指先でそっと涙を拭ってくれた。
「全てを説明する前に、一言、言っておくよ」
「…え?」
「僕は君を裏切ってなんかいない。確かに弥生とは君に内緒で会っていたけど…それも全て白蘭が仕掛けてきた罠だ」
「――――ッ」
彼の説明に、思わず息を呑む。白蘭がそんなところにまで関わっていた事実に驚かされた。
同時に、"君を裏切っていない"とキッパリ言ってくれた恭弥に、胸が熱くなる。
恭弥は私の頬を大きな手で包みながら、深い息を吐いた。
「でも罠とは言え、弥生と会っていた事を僕は君に秘密にしていた。それは事実だよ」
「……恭弥…」
「それでも、僕が今から話すことを、は信じてくれる?」
そう問いかけてくる恭弥の瞳は、どこか不安げで。そんな彼が嘘をつくとは到底思えなかった。
私がゆっくり頷くと、恭弥もホっとした表情を浮かべて、優しく微笑んだ。
「ありがとう…」
私を抱きしめ、耳元で呟く。
その声は、少しだけ、震えていた―――
「…遅いな、ヒバリの奴!まだ終わらないのか」
「落ち着け、了平。そんなに歩き回ると着物が乱れるぞ」
和服姿のまま、冬眠前の熊よろしく、その場をウロウロと歩き回る笹川了平に、リボーンは苦笑いを零した。
――そういうリボーンも、子供用の浴衣を身につけている――
了平は日本に戻ってからと言うもの、本人の意向はまるで無視して(!)雲雀のアジトに入り浸りだった。
最初は敵の報告がてら今後の相談をしに来たのだが、今では浴衣まで借りて、まるで我が家のように寛いでいる。
そこへ草壁が、熱燗と、ちょっとしたツマミを運んで来た。
「笹川さん、どうぞ。リボーンさんにはお茶を」
「悪いな、草壁」
「おーこれは助かる!ちょうど温まりたいと思っていたところだ」
了平は酒を受け取ると、やっとその場に腰を落ち着けた。
それでも未だに雲雀の動向が気になるのか、しきりに奥の廊下へ視線を向ける。
「しかし本当に大丈夫なのか?ヒバリが彼女を厳しく叱る、なんて事は…」
「大丈夫だぞ。ヒバリは確かに短気で凶暴だが(!)にだけは死ぬほど優しいからな」
リボーンの説明に、思わず草壁も苦笑いを零す。そこは敢えて否定しない。
「彼女が勝手に敵のアジトへ向かったのは皆さんの為だった、とヒバリも分かっています」
「……そうか。ならいいが…」
二人の意見を聞いて、了平もやっと納得したように頷くと、酒を一気に飲み干している。
安堵の息を漏らす了平を見て、見かけによらず、フェミニストなところもあるんだな、と草壁は内心思った。
「ところで…さっきの話は本当なんだな?ヒバリがを裏切ってないというのは…」
不意にリボーンが口を開き、草壁は真剣な顔で頷いた。
「はい…。ヒバリはさんをとても愛しています。そんな事をするはずもない…」
草壁の口から"愛してる"という台詞が出てくるなんてな、とリボーンが笑う。
それに対し、草壁は頬を赤く染め、コホンと軽く咳払いをした。
「…からかわないで下さい。ともかく――ヒバリはさんを裏切ってなどいません。全ては…」
「白蘭が仕掛けた罠…か?」
「その通りです」
リボーンの問いに、草壁は厳しい顔つきで頷いた。
「以前にも話しましたが…白蘭はしつこくさんに言い寄っていた。彼女の恋人がボンゴレ、雲の守護者であるヒバリだと知った後も、です。ヒバリもその事を知り激昂しました。もちろんさんも白蘭が敵のボスだと知り、連絡が来ても無視するようになった…」
そこまで話すと、草壁は小さく息を吐いた。
「でも白蘭は逆にさんを手に入れようと本気になったのでしょう…。これは後で知った事なんですが…
ヒバリの事を調べ上げた時に、白蘭はヒバリが過去に他の女性と婚約していた事を知ったようです」
「…そう言えばそんな事もあったな」
思い出したようにリボーンが頷く。草壁は苦笑いを零し、肩を竦めると、
「互いの親が勝手に決めたものですがね…。でもヒバリはさんと出会い、好きでもない女性との結婚など出来るはずがないと気づかされた」
「あの時のヒバリは荒れてたな」
「ええ…」
草壁も苦笑気味に頷く。
「で…白蘭はそれを利用しようと考えたんでしょう。かつてヒバリの婚約者だった上本弥生さんを探し出し、接触したようです」
「…上本弥生なら覚えてるぞ。彼女は今でもヒバリを?」
「…弥生さんは現在、某宝石チェーンのオーナーでもある男性と結婚をしています。ですが…今でもヒバリに対する想いは変わってないでしょうね…。時々ヒバリに、食事をしないかという連絡をしてきてましたし…。ヒバリもそういう時は彼女に付き合っていました。ヒバリも弥生さんの事を他の人間よりは大事に思っていましたし…まあそれは、あくまで幼馴染としてですが」
「…その事をは知ってたのか?」
「いいえ…どうやら内緒にしてたようです。ヒバリはさんに心配をかけたくないという思いから言えなかったようで…」
そう言いながら溜息をつく草壁を見て、リボーンも同様、軽く息を吐いた。
「それで…上本弥生は本当に今でもヒバリを?」
「はい。一度ヒバリと食事をした際、酔った彼女を私が家までお送りした事があったんですが、その時彼女は私に"恭弥の事、どうすれば諦められるのかな"と自嘲気味に言った事がありまして…」
草壁はそこまで話すと、はあっと溜息をついた。
「きっとそういうところを白蘭につけこまれたんでしょう。弥生さんは白蘭に言われるまま、ヒバリを欺いたのです」
「…欺いた…?」
「はい…」
草壁は渋い顔で頷くと、軽く首を振った。
「ある日、彼女の方からヒバリへ、いつもの食事の誘いではなく"相談があるから会えないか"と連絡が来まして…」
「相談?」
「ええ。そんな事は初めてだったので、ヒバリも当然その誘いを承諾しました。そして言われるがまま、彼女の指定するホテルの部屋へ」
「ホテル…?」
「はい。いつもならホテルのロビーで待ち合わせをしてたんですが、その時は何故か彼女のとった部屋へ来てくれと」
「で、ヒバリは行ったのか」
「もちろん最初は渋ったようですが、どうしても人に聞かれたくない話だからと弥生さんが…」
その話を聞いて、リボーンは僅かに顔を顰めた。
「で、相談って何だったんだ?」
その問いに、草壁は渋い顔をして目を伏せた。
「…会いに行った時、弥生さんは体中、痣だらけだったそうです…」
「…痣?」
「どういう事だ?」
リボーン、そして了平は訝しげに眉を寄せた。そんな二人に、草壁は苦笑いを零すと、
「今思えば、とんだ茶番なんですが……弥生さんはヒバリに"夫から暴力をふるわれている"と訴えたようです」
「何だと?夫が妻に暴力なんぞ、極限に許せん!!」
突然、拳を握り締め、了平が叫ぶ。それを見たリボーンが、苦笑気味に了平を見上げた。
「落ち着け、了平。草壁が今、言っただろ?上本弥生は多分、嘘の相談をもちかけたんだ」
「なぁんだとぅ?!」
いちいち熱くなる了平に笑いを堪えながら、草壁は話を続けた。
「その通りです。でも…ヒバリも最初はまんまと騙されました。彼女の体の傷も本物でしたしね」
「おそらく白蘭の入れ知恵だろうな」
「だと思います。そのせいでヒバリは何度となく彼女に呼び出されては、ホテルの部屋に会いに行った。
そこで涙ながらに相談してくる彼女を、ヒバリは無視する事も出来ず、慰めてあげてたようです」
「意外にヒバリも優しいんだな」
「…過去に彼女を傷つけたという思いがあるからでしょうね…。だからさんに怪しまれるようになっても、弥生さんからの呼び出しを断れなかった…」
もっと私が調べておけばあんな事には、と草壁は悔しそうに呟いた。
「はヒバリが嘘をついて出かけていたのを気づいてなかったのか?」
「…さんはヒバリが仕事と称して帰りが遅くなっても愚痴一つ言いませんでした。ですが…ある日、ヒバリの体から女性物の香水の香りがするのに気づいたようで…」
「香水…?」
「はい。弥生さんは相談という理由付けでヒバリを呼び出してはいましたが、その間に何度か色仕掛けで迫った事があるようでして…
もちろんヒバリはいつもの調子で断ってはいたそうですが、その辺りから少しおかしいとは思っていたようです。でも気づくのが遅かった」
「…にバレたのか」
「はい…。さんはその香水が誰のものか、気づいていたようで…そしてそれを見計らったようにさんの下へ一枚の写真が…」
「写真…?」
「はい…。ヒバリがホテルの弥生さんの部屋へ入って行く時の姿が写されたものでした…」
「……なるほどな…。そんな写真を見れば誰でも疑う」
「そうですね…。それを見てヒバリも、これは仕組まれたものだと感づいたようで…すぐに弥生さんを問い詰め、陰に白蘭がいた事を知ったようです」
「そんなタイミングで盗み撮りした写真が届くのは相当不自然だしな」
「はい。でも写真が届いた時はまだハッキリ分からずじまいで…その写真で誤解したさんは今回の事件が起きる前日、思い切ってヒバリにその事を問い詰めたんです」
草壁は思い出すように天井を仰ぎ見ると、軽く頭を振った。
「"弥生さんと会ってるんでしょう?"――さんは写真を見せてヒバリにそう切り出した。突然の事にヒバリも驚いていました。ですが会っていた事は本当だから、と否定しなかったんです」
「それを裏切られた、とは誤解したってわけか…」
「…そうです。それを聞いた後に二人の間には何もなかった、と言っても、到底信じられるものじゃありません。さんは傷つき、ここを飛び出した…」
「それで白蘭のもとへ…?」
過去から来たが白蘭に聞かされた話では、雲雀の裏切りに傷ついたは自分に想いを寄せている白蘭に会いに行った、という事だった。
その事を思い出し、リボーンが尋ねると、草壁は僅かに目を伏せ、辛そうな表情を浮かべながら頷いた。
「そのようですね…。しかしさんが、そんな理由で白蘭のもとへ走るなど、私には思えないんです」
「……オレもそう思うぞ」
草壁の言葉に、リボーンもハッキリとした口調で言った。
「あのがヒバリに裏切られたと思ったからといって、簡単に他の男を選ぶとは思えない」
「リボーンさん……」
リボーンの言葉に、感動した草壁は渋い目を潤ませながら身を乗り出した。
それまで黙って聞いていた了平も「オレも極限にそう思うぞ!」と、すでに泣いている(!)
どうやら黙々と飲んでいた熱燗で酔っているらしい。
そんな暑苦しい二人を無視して、リボーンは疑問に思っていた事を口にした。
「でも…何故が白蘭のもとへ行ったと分かったんだ?はここを飛び出した後、次の日の夕方には過去に行ってしまったのに」
「…いえ、さんは次の日の朝、ヒバリに電話をかけてきたんです」
「電話…?」
「はい。今、自分は白蘭のところにいる、と言って…。そして今夜、話があるから会えないか、と」
「……そうか…じゃあヒバリもが白蘭と何かあったと思ってるんだな?」
「それは……分かりません。ヒバリは何も言いませんでしたし…。あの夜、さんに会って確かめようとしてたのかもしれないですね…」
「でも当の本人は過去へ行ってしまった…か。これじゃヒバリも気が気じゃないだろうな」
「そうでしょうね。そして入れ替わりに過去のさんが来た…」
「その彼女も白蘭に浚われたんだからな。あの動揺っぷりはそういう事情もあったのか」
「はい…。それにヒバリとしてはさんに誤解をさせたままいなくなられたのがきつかったんでしょう。過去から来たさんに白蘭が何を話すのかも怖かったはずです」
「そうだな…。彼女に惚れてる白蘭が、未来のから聞いた事を、過去から来たに黙っているはずもない…。心配どおりになったってわけか」
「でも少なくとも、過去から来たさんにはその誤解を解く事が出来ます。今、ヒバリは彼女に全てを話してることでしょう」
「…ああ、それだけが救いだな」
リボーンは遠くを見ながら溜息をついた。
暫し、重苦しい沈黙が流れる。庭の方からは"
鹿威し"が、カコンと小気味いい音を響かせた。
「―――しかし白蘭だけは極限に許せん!!」
その時、突然静寂を破ったのは、いい感じで酔い始めた了平だった。
「惚れてるからといって何をしてもいいと言う事はなーい!!愛し合う二人の仲を裂こうなどと、男の風上にも置けん奴だ!」
ドンっと足を踏み鳴らして立ち上がると、了平は再び酒を煽った。
「…さ、笹川さん…声が大きいです…」
その勢いに圧されながら草壁が慌てて了平の着物を引っ張る。
雲雀のアジトで騒がれれば、また揉め事が増えるからだ。そして当然それを止めるのは自分だと、草壁は分かっている。
そんな草壁の思いを知ってか知らずか、了平はいつものように大声を張り上げた。
「声の大きさは生まれつきだ!」
そう叫びながら、「白蘭め!今度会ったらこの拳で粉砕してやるぞ!」と、得意のシャドウボクシングを始める。
その極限の暑苦しさに、草壁はげんなりした顔で肩を落とす。その時―――静かに襖が開いた。
「…うるさいな。ボクのテリトリーで騒ぐのはやめてくれる?」
「ぬ?!」
その冷んやりとした声に、了平は赤い顔のままで振り向き、逆に草壁は青くなった。
「きょ、恭さん!」
振り向けば、そこには憮然とした表情の雲雀と、少し驚いた顔のが立っている。
その二人を見て、先に動いたのはリボーンだった。
「ちゃおっス、ヒバリ。邪魔してるぞ」
「ああ、赤ん坊、来てたんだ」
そう言いながら、雲雀はの手を引いて部屋へと入って来た。
「リボーンくん…それに京子ちゃんのお兄さんも…」
「よぉ、。ちゃんと話し合ったのか?」
その問いに、は僅かに微笑んで、隣に立つ雲雀を見上げる。雲雀はに優しく微笑みかけ、座るよう促した。
その様子を見たリボーンも、「ちゃんと誤解は解けたようだな」と安心したような笑顔を見せる。
が、そんなリボーンの発言に、雲雀は厳しい視線を、隅で小さくなっている草壁に向けた。
「また哲が余計な事を話したようだね」
「――――ッ」
青かった草壁の顔色が、更に青くなるのを見て、リボーンは苦笑気味に雲雀の前に立った。
「まあそう言うな。オレが無理やり話させたんだ。の事だからな。オレも心配してたんだ」
リボーンの説明に、雲雀は小さな溜息をつくと、隣に座るを見た。
「、お腹空いただろ。夕飯にしよう」
「え、でも明日の事で皆と話しに行くんじゃ――」
「―――すぐ用意します!」
の言葉を遮るように、素早く動いたのは草壁だった。よほどこの場に居辛かったのか、勢い良く飛び出していく。
それを見送りながら、リボーンは苦笑いを浮かべると、落ち着きなさげに座っているを見る。
今見る限りでは、ここへ戻ってきた時よりも顔色が良くなっていた。
「少しは落ち着いたか?」
「あ…うん…」
「白蘭に言われた事は何一つ信じるな。お前を手に入れる為なら何でもする奴だ」
「……リボーンくん…」
その言葉にホっとしたのか、は「ありがとう」と嬉しそうに微笑んだ。
だが逆に雲雀は厳しい表情でリボーンを見ると、
「明日はボクの好きにやらせてもらうよ、赤ん坊」
「ヒバリ…」
普段以上に冷静でいて、冷たい声。
その静かな怒りに気づき、リボーンは軽く肩を竦めた。
「……ああ。お前は好きに暴れろ。後はツナ達がうまくやる」
(まんまと白蘭の策略に乗せられ、雲雀は相当頭にきてるな…。でもまあ大事な宝物を浚われたんだ、仕方ないか)
リボーンは内心そう思いながら、スッカリ冷めたお茶を口に運ぶ。
「んー!極限!腹が減ったぞ!!」
その時、一人黙々と飲んでいた了平がまたしても大声を張り上げ、雲雀の闘争心を萎えさせていた……(ボンゴレ1のKY)
お久しぶりの更新で、すみません;;
あまりに久々過ぎて書いてる本人がストーリー忘れそうでしたよ(オイ)
今、未来編も凄いとこまで話が進んでますが、この後どうなるのか楽しみですな♪
今日のアニメではベルVSジルのやり取りに萌えってたHANAZOでした(* ̄m ̄)
そしてラストにドーンと……「――ドカスが…」なんつってボス登場★
ザンザスは過去よりも未来の方が男前になってますね。鬼畜な性格は相変わらずそうですが………
■こんな雲雀が大好きですww(社会人 )
(大好きだなんてありがとう御座います♪)
■甘かったりほのぼのしたお話が好きですがこちらの雲雀夢を読んで切ないお話も好きになりました!(社会人)
(雲雀夢、気に入って頂けて嬉しい限りです!これからも頑張ります(^^)
■コチラの雲雀さんが可愛くって格好良くって大好きです!!いつも楽しみにしてます!!(高校生)
(そう言って頂けて感激です!楽しみにして下さってたのに更新、遅くなって申し訳ありません;;)
■ヒロインには弱い雲雀さん・・・!素敵です!!大好きです!!(高校生)
(ありがとうございます!)
■ヒロインに優しい雲雀さんが大好きです!(中学生)
(雲雀の優しさは原作では見られないので(笑)自己満足で描いております♪そう言って頂けて嬉しいです!)
■雲雀さんが好きですが、この作品の雲雀さんにはクラクラします。(その他)
(クラクラしてもらえて光栄です♪)