未来の事情――03
恭弥が隣で微笑んでいる。だけど、それは今の彼よりもずっと大人で・・・・。
彼の腕に包まれて凄く癒されてる自分を感じながら、大人になっても彼と一緒にいれる事を、嬉しく思った――――。
カタン・・・シュー
カチャカチャ・・・
(何か・・・音が聞こえる・・・)
そう思いながら、まどろむ意識の中、かすかにコーヒーの香りに混じって美味しそうな匂いが漂ってきた。
(誰だろう?お母さんかな・・・)
漠然と思いながら寝返りを打った。
フカフカのベッドが気持ちよくて思い切り顔を埋める。そのまま再びウトウトとしていたけど、ふと小さな違和感を感じた。
物音がやけに近くで聞こえる。それにこの布団の匂いも・・・いつもと違う――――。
「――――ッ?」
そこでパチっと目を開け、思い切り体を起こした。
「嘘・・・」
見知らぬ部屋のベッドの上で、私は一瞬固まった。
でもすぐに昨日の事を思い出し、部屋の中を見渡す。
「夢・・・じゃなかったんだ・・・」
恭弥といた時、突然10年後の世界に来た事も。10年後の恭弥に会った事も・・・。
ハッと隣を見たが、そこには誰もいない。その時、静かにドアが開いた。
「起きた?」
「・・・・・ッ」
その声にドキっとして振り返ると、恭弥が立っている。
と言っても、彼は10年後の彼であって昨日まで隣にいた彼とは違う人だ。
何となく照れ臭くなって俯くと、彼はゆっくりと歩いて来た。
「よく眠れた?」
「あ・・・は・・・ぃ――――」
顔を覗き込まれドキっとした瞬間、唇が触れ合う。
あまりに突然の事で固まっていると、恭弥がふっと笑みを零した。
「毎日してる事だから」
「ま、毎日・・・?」
ベッドの端に座る恭弥を見ながら頬が赤くなる。
10年後の私は恭弥とこのマンションに一緒に住んで、毎日おはようのキスをしてるって事?
何だか・・・夢みたいな生活だ。
「それより・・・お腹、空いてない?」
「え?あ・・・・」
「簡単に朝食作ったし一緒に食べよう」
「う、うん・・・」
頷くと、恭弥は私の手を引いてリビングへと歩いて行った。
その奥にあるダイニングのテーブルにはコーヒーとトーストにサラダ、そして綺麗な形のオムレツがある。
さっきのいい匂いの正体はこれだったんだ、と思いながらテーブルにつくと、恭弥が隣に座った。
「はい、コーヒー」
「あ、ありがと・・・。あの・・・これ恭弥が・・・作ったの?」
「うん。早く起きた方が作る事にしてるから」
「そ、そう・・・なんだ・・・って、私・・・ちゃんと食事とか作ってるの?」
ふと疑問に思った事を口にすれば、恭弥がクスっと笑った。
「作ってくれるよ。料理だけじゃなく・・・。他の事だって何でも一生懸命にしてくれてる」
「そ、そっか・・・。良かった・・・」
自分の事を自分で聞く、なんて変な気もしたけど、未来の自分がきちんと家事をしてる事が分かり、少しだけホっとした。
今だって家にお母さんがいない事の方が多いから、家の事は私が殆どやってるし、それが未来でも役に立ってるようだ。
でも、未来の恭弥との生活を、こんな風に見れるなんてちょっと照れ臭い。
これじゃ何となく新婚夫婦みたいだ。
そんな事を思いながら、隣でコーヒーを飲んでいる恭弥を見た。
恭弥も時折、嬉しそうな笑みを浮かべて私がいる事を確認するように見る。
でも私が食べ終わるとすぐ、恭弥はジャケットを手に取り、立ち上がった。
「僕はこれからちょっと出かけてくるけど、はここにいて」
「・・・え?」
ドキっとして顔を上げると、恭弥は困ったような笑みを浮かべた。
「そんな泣きそうな顔しないで。行けなくなるよ」
「あ・・・ご、ごめんなさい・・・」
でも・・・この未来の世界で、私が頼れるのは恭弥だけだ。
だから置いて行かれることが少しだけ不安になった。
その気持ちを察したのか、恭弥はそっと私を抱き寄せ頭を撫でてくれた。
「ジンにだけ任せておけないし・・・僕もあの牛男を捜したいんだ」
「ランボくんを・・・?」
「こうして過去のと一緒にいれるのも嬉しいけど・・・。この世界のの事も心配だから・・・」
「恭弥・・・」
その言葉にハッとして顔を上げると、額に軽くキスをされた。
恭弥は今の私だけじゃなく、過去に行ってしまった私の事も心配してくれてるんだ。
優しい目で見つめてくる彼を見上げながらその事に気づき、小さく頷いた。
「・・・分かった。ここで待ってる」
「ありがとう。すぐ戻るから・・・絶対に外に出ないで」
「うん・・・」
恭弥の言葉に素直に頷くと、彼はホっとしたように微笑んだ。
その笑顔に私も何となく安心感を覚え、ふと過去に行った自分の事を考える。
多分、10年後の私はランボくんのバズーカの事は知ってると思うし、私ほど慌ててないかもしれない。
でも過去の恭弥は突然、入れ替わった未来の私を見てどう思ってるんだろう。
それに今頃・・・どうしてるのかな。
「・・・どうしたの?まだ不安?」
俯いたまま考え込んでいると、恭弥が苦笑した。
「ううん、違うの・・・。ただ過去に行った私は何してるのかなって・・・今頃心配になったって言うか・・・」
「・・・それなら過去の僕が何とかしてるよ。過去でも未来でも、僕がを放っておくはずがない」
「恭弥・・・」
キッパリとそう言ってくれた彼の言葉に、胸の奥がジーンとした。
――そうだ・・・。恭弥はいつだって私を守ってくれる・・・。
最初に会った頃だって、あのリング争奪戦の時だって、恭弥は必死で私を守ってくれたもの。きっと過去の恭弥も・・・。
「それに――――」
「え?」
不意に口を開いた恭弥の顔から、僅かに笑みが消えた。
「10年前は・・・今よりずっと安全だろうから」
「安全・・・・?」
まるで独り言のように呟いた恭弥は、それでもすぐに優しい笑顔を見せてくれた。
「とにかく・・・はここにいて。必要なモノは揃ってるし、着替えならのを着ればいい。元々君の服だしね」
「う、うん・・・。パジャマも借りちゃってるし」
そう言って自分の格好を見下ろした。
制服のままで寝るわけにも行かず、夕べは結局、未来の私のパジャマを借りたのだ。
「じゃあ・・・行ってくる」
ジャケットを羽織った恭弥はそう言って向き直った。
そしてポケットからメモを出すと、「これに僕の携帯の番号書いておいたから」と私に差し出した。
「何かあったら電話して」
「う、うん・・・。分かった」
メモを受け取って頷くと、恭弥はかすかに微笑んでゆっくりと身を屈めた。
ドキっとした時にはもう唇は重なっていて。それはすぐに離れていく。
「行って来ます」
「い・・・行ってらっしゃい・・・」
優しい笑みを浮かべながら出て行く恭弥に、何とか笑顔を見せて手を振る。
今のキスも、彼を見送るのも、どこか照れ臭い。
未来の私も、こんな風に恭弥を毎日見送ってるのかな、なんて思うと、自然に顔がニヤケてしまう。
「"行ってらっしゃい"っていいなぁ・・・こういうの」
メモに書かれた恭弥の携帯番号を自分の携帯に登録しながら、私はソファに腰を下ろした。
時計を見れば、午前11時半になろうとしている。
とりあえず、やる事のない私は朝食で使ったお皿を洗い、簡単に片付けておいた。
その後、バスルームを借りてお風呂に入ると、着替える為に寝室へと向かう。
「わ、何か沢山あるな・・・」
服を借りようとクローゼットを開けて驚いた。
今の私からは考えられないスーツとかがかけてあり、何となく変な気分になる。
「そっか・・・、私ってこの世界じゃ一応、社会人なんだよね。どんな仕事してるんだろ」
そんな事を呟きながら、着れそうな服を手に取った。
「これ借りちゃっていいのかな・・・」
未来の私の物なのだからイコール自分の物だけど、やっぱり心のどこかで人の物、と思ってしまうのは仕方ない。
ちょっと遠慮しつつ服を選ぶと、着れそうな白のブラウスシャツに黒のミニスカートを手にして、着ているバスローブを脱いだ。
「これ洗っておかないと・・・。あ、そうだ・・・。下着はどうしよう」
昨日、身に着けていた下着は今お風呂に入った時に脱いでしまった。
一度脱いだ物をまた身につけるのは何とも気が引ける。
と言って、いくら未来の自分の物とは言え、下着まで借りるのはいかがなものかと、暫し悩んだ。
「・・・わ、下着もいっぱい・・・」
クローゼットの下の段にあった棚の引き出しを開けると、そこには色とりどりの下着が入っている。
それもどこか大人びていて、少しだけ恥ずかしくなった。
「やっぱり大人になると下着もそれなりに大人っぽくなるんだ・・・」
今の私では到底選らばなそうなデザインのブラジャーを手に取りながら、軽く息をつく。
「しかも何気にサイズアップしてるし・・・」
アンダーのサイズは変わらないものの、トップのサイズがアップしている事実に、ちょっとだけ嬉しくなる。
でもこのサイズでは今の私には大きい事に気づき、溜息をついた。
「どうしよう・・・。やっぱり下着は買いに行かないとダメかなぁ・・・」
下着を元に戻し、暫し考える。
その時、隅に値札のついたままの下着を見つけた。
「あ・・・これ借りよう」
上はムリだけど下だけなら大丈夫だろうと、それを手に取った。
とにかく買い物に行くにも素っ裸に服を着る、というのは何とも落ち着かない。
少しホっとするとそのまま着替えを済ませ、脱いだものを洗おうと洗濯機置き場に向かう。
その時、チャイムが鳴り、ドキっとした。
「だ、誰・・・?」
ふと携帯の時計を確認すると、午後0時5分。
こんな時間ならセールスか何かかもしれない。
無視しようかとも思ったけど、何度も鳴り響くチャイムに思い切り溜息をつく。
「もう・・・。新聞の勧誘かな」
洗濯物を洗濯機に放り込み、仕方なく玄関に足を向ける。
出ない方がいいだろう、とは思ったけど、一応確認だけしておきたい。
ここはオートロックだと言っていたし、中まで入って来れるのは集金に来た人くらいだろう。
「あ、でも未来じゃ新聞なんてもうないかな・・・」
そう思いながらも一応、覗き穴から確認しようと、ドアに近づいた。
その時――――目の前にあったドアが外側に開き、ドアに置こうと伸ばした私の手が置き場所を失い空を切った。
「・・・キャッ」
「うぉっ」
前のめりに倒れると思った瞬間、私の体は何かに受け止められ、驚いて顔を上げた。
「あ・・・っ」
「何だよ、過激な挨拶じゃん。そんなにオレが恋しかった?」
そう言って苦笑いを浮かべていたのは、恭弥の従兄弟のジンだった。
「な、何で・・・って、ちょ、離してよっ」
ジンに抱きとめられてる事に気づいて素早く離れると、彼は切れ長の目を細め、「そっちが抱きついて来たんだろ?」と私の額を小突いてきた。
「そ、それは急にドアが開いたから――――」
「だってチャイム鳴らしても出ねーし、オレもここの鍵は持ってるから開けようとしたらドア開いてるみたいだったからさ。無用心だぞ?いくらオートロックマンションでも」
ジンはそう言いながら勝手に上がると、慣れた足取りでリビングに向かった。
慌ててその後を追いかけていくと、すでにソファに座って煙草を吸っている。
「ちょ、ちょっと・・・。何しに来たの?恭弥は出かけて――――」
「知ってる。車なかったし。だから来たんだ」
「だから来たって・・・」
「だって恭弥がいるとオレ、追い返されそうじゃん。でもの様子が気になって。どう?もうこっちの世界は慣れた?」
悪びれもせず、ジンは人懐っこい笑みを浮かべた。
私は溜息をつくと、彼の隣に座って「まあ」とだけ応える。
「そりゃ良かった。で?夕べはどうだったんだよ」
「・・・は?夕べって?」
「だから恭弥と!何もなかったわけじゃないんだろ?」
「――――ッ!」
言われている意味が分かり一気に顔が赤くなる。そんな私を見て、ジンは楽しげに笑い出した。
「な、何かあるわけないでしょっ?私と今の恭弥は10年の時差が――――」
「そりゃそうだけど?何て言っても同じ相手なんだし何も遠慮する事ないじゃん」
「あ、あのねっ!あんたと一緒にしないでっ!」
ジンの言葉にムキになって言い返す。
そりゃキスはされたし一瞬は襲われそうになったけど、でも・・・いくら同じ相手でも未来の恭弥に先に身体を許すのはどう考えても抵抗がある。
ジンも分かっていたのか「冗談だって。そんな怒るなよ」と笑いながら、私の頭を撫でた。
「どう見ても今のは処女だし、恭弥だってそんな無茶はしないだろ」
「・・・・・ッ!」
「ただがすぐムキになるから、からかっただけ。そーゆーとこは今も昔も変わらないんだな」
「な・・・」
余裕の笑みを浮かべて笑っているジンに、顔が真っ赤になった。
そんな私を見て、ジンは更に楽しそうな顔をする。ホント、ムカつく男だ。
「そうやって、すぐ赤くなるとこも同じだ」
「わ、悪かったわねっ。成長してなくてっ」
「ほら、すーぐ怒る」
「う・・・」
その突っ込みに言葉を詰まらせると、ジンはクスクス笑いながら煙草を携帯灰皿に押しつぶした。
「それより・・・、仕事場に電話しといた方がいいんじゃない?」
「え・・・?」
「ほら、こっちのがいなくなったんだから、会社も当然、無断欠勤になってるだろうと思ってさ」
「あ!そっか・・・」
今更ながらにその事に気づき、慌てて立ち上がった。
「で、でも私、会社の電話番号なんて知らないし・・・」
「オレ、知ってる。時々かけるから」
ジンはそう言うと自分の携帯をいじって、番号を表示してくれた。
「ここにかけて。多分、受付の女が出るから高熱が出て連絡できなかったって言えば?声だけじゃ分からないだろ」
「う、うん・・・。ありがとう」
いくら今の私じゃないとしても未来で就職した会社に迷惑をかけるのも嫌だ。
と言って正直に話したって信じてもらえないだろうし、ここはジンの言うとおり病欠という事にしよう。
ジンから携帯を受け取り、通話ボタンを押す。でもその時になって、ふと気になった事を尋ねた。
「ところで私、いったい何の会社で働いてるの?」
「え?あ、そっか。まだ過去のには分かるわけないよな」
ジンはそう言って苦笑すると、
「会社名は"Il vongole approvvigiona"!はそこの社長秘書だよ」
「え、ボンゴレって――――」
『"Il vongole approvvigiona"です』
その時、受話器の向こうから、よく通る女性の声が聞こえてきた――――。
「ホントに私・・・ボンゴレの経営してる会社に?」
会社への電話を終えた私は、未だ信じられない気持ちでソファに座った。
「ああ。高校卒業してすぐに入社したって聞いたぜ?リボーンって奴にどうしてもって言われたんだろ?つっても、今のにゃ分からないか」
「わ、分かるわけないでしょっ。っていうかリボーンくんにって・・・」
「詳しい事はオレも知らないけど・・・ボンゴレが一応、日本にも隠れ蓑的な場所があった方がいいからって作ったらしい。だからリング守護者は皆、そこの社員って事になってる」
「えっ守護者の皆も・・・?って事は・・・」
「もちろん、恭弥もね。まあ・・・恭弥は殆ど出社してないみたいだけど。組織とか嫌ってるし、別に仕事があるんじゃないの?」
ジンはそう言って軽く肩をすくめた。
私はその話を聞いて何となく変な気分になりながらも、先ほど電話口に出た女性の雰囲気からして、私がそこの社員である事は間違いないようだ。
体調が悪くて、と説明すると、やたらと心配してくれてた事を思い出す。
「は真面目だから、きちんと毎日出社してたけどね。そこの社長もの事、相当お気に入りみたいだし」
「そう言えば社長って誰なの・・・?」
「ああ、十代目のオヤジだって話だぜ?まあ、あの人も殆ど日本にはいないらしいけど」
「え、ええっ?沢田くんのお父さん・・・って・・・。あの門外顧問の?」
「そ。ああ、今は十代目の母ちゃんとイタリアに旅行に行ってるって、この前、が話してたな。秘書だからスケジュール管理とかしてるし」
「そ、そうなんだ・・・。何か・・・ビックリ」
色々な事を聞きすぎて、私は少し唖然としつつも軽く息を吐いた。
この10年で色んな事があったんだろうな、と思いながらも、恭弥との関係は変わってなくて、それだけは心の底からホっとする。
「ところで・・・ランボくんは見つかった?」
「ああ、アイツか・・・。それが、どこに雲隠れしたのかどこにもいなくてさ。いつもツルんでるイーピンまでいないんだ」
「え、イーピン!あ、そっか・・・。私も前に一度この世界の彼女に会ってるわ」
「ラーメン屋のオヤジも知らないって言うし・・・。ちょっとお手上げ状態。ったく、二人してどこ行ったんだか・・・」
「じゃ、じゃあ・・・山本くんとか、獄寺くんは?」
「ああ、二人には夕べのうちに電話してみたんだけど繋がらないんだ。それにあの二人が戻れる方法知ってるとは思えないぜ?」
携帯を出しながらジンが溜息をつく。
確かにバズーカの持ち主であるランボくんに聞くのが一番いいんだろう。
だけど彼らも何か知ってたら、と思うと落ち着かない。
その時、再び部屋のチャイムが鳴って私とジンは互いに顔を見合わせた。
「誰だ?」
「きょ、恭弥じゃない?」
「恭弥ならチャイムなんか鳴らさない。自分ちなんだし・・・」
ジンはそう言いながら立ち上がると、ゆっくりとした足取りで玄関へと向かった。
私もその後からついて行くと、
「あ、今度こそ勧誘かも!」
「何のだよ・・・。ここはそういった類の奴らは入れない。結構、厳しいんだ」
「じゃあ・・・恭弥の家の人?」
「まさか。おじさんもおばさんも勝手にここへ来たら恭弥がキレるって嫌ってほど知ってる」
「じゃあ――――」
「しっ。覗いてみる」
人差し指を唇に当て、ジンはドアの覗き穴をそっと覗き込んだ。
瞬間、「あ!!」と大きな声をあげるものだからビクっとなる。
「な、何よ急に・・・あ、ちょっと――――」
胸を撫で下ろしていると、ジンは突然ドアを開けてしまった。
「―――武!」
「――――ッ?」
その名前を聞いて顔を上げると、ドアの向こうに驚いた顔をした一人の男性が立ち尽くしていた。
「・・・・・・か?」
「や、山本くんっ?!」
目の前にいる大人びた顔の男の人を見上げ、私は思い切り目を見開いた。
私が知ってる山本くんより身長が高く、どこか大人の落ち着きが見える。
「家に戻ってたのか!探してたんだ・・・って、何か・・・、幼くなってねえ?」
「――――ッ!!」
(10年経っても天然は変わってないようだけど・・・・)
内心そう思いながら、過去から来た経緯を詳しく説明すると、山本くんはやっと納得してくれたみたいだった。
「何だ・・・。そうだったのか。オレはてっきり、アイツらに・・・」
「アイツら・・・?」
「いや・・・今朝、会社の方からオレに連絡が来たんだ。が時間になっても来ないし、携帯も繋がらないって・・・」
「あ、会社には今さっき連絡したの。一応、病欠って事にしておいたわ。本当の事は言えないし・・・」
「そっか。まあ、でも良かったよ、無事で。ジンまでいるとは思わなかったけどな」
山本くんはそう言いながら明るく笑った。その笑顔は昔と変わらない。
「でも何か懐かしいな・・・。14歳のなんて・・・」
山本くんは懐かしそうに目を細めると、優しい目で見つめてくる。
それが少し恥ずかしくて俯くと、隣で聞いていたジンが軽く指を鳴らした。
「思い出した!そういや武の初恋の相手ってだったんだよなっ?」
「――――ッ?」
その言葉にギョっとして顔を上げると、山本くんは苦笑いを浮かべながら私を見た。
「ほら、前に隼人とかと一緒に飲んだ時に酔っ払ってポロっと話してたじゃん!」
「ああ・・・・」
「・・・・・ッ」
素直に肯定する山本くんにドキっとして顔を上げると、彼は困ったように頭をかいている。
「なのに武はと友達のままでいる事を選んだって。オレそれ聞いて感動したし。でもの事はずっと好きだったんだよな?」
「はは・・・。ま、もういいだろ?その話は」
「・・・・・」
山本くんも照れてるのか、苦笑しながらジンの頭を軽く小突いている。
私もだんだん恥ずかしくなってきて顔が赤くなった。
あのリング争奪戦の時、山本くんに好きだって言われた事を思い出したのだ。今の私にとっては、それほど前の事じゃない。
でも山本くんはこれからも友達でいて欲しい、と言ってくれて、その気持ちが素直に嬉しかった。
「いや、でもそれ聞いて、武カッコいいーって思ったもん。オレも見習おうかなーって」
「嘘つけ。お前は相変わらず、とっかえひっかえしてるんだろ?ナギサちゃんはどーした。会ってるのか?」
「ナギサ?あんな女、とっくに別れたよ。何回かヤったら、すぐオレの女気取りだし」
「またか・・・。お前もそろそろ本気の彼女くらい見つけろよ・・・」
「いいよ、別に・・・。ろくな女いないしね」
「ったく・・・。ヒバリとは正反対だな、お前。な?」
「え、え?」
不意に話を振られ、ドキっとした。
まあ確かに昨日会った時に、私もそう感じてはいたことだ。
「ま、まあ・・・」
「からも何とか言ってやってくれよ。コイツ、のいう事なら聞くんだよな」
「え、いや、あの・・・そう言われても・・・」
未来の私なら言えるかもしれないが、今の私はジンと同世代だ。
そんな私が偉そうに「女グセを直せ」とは言いづらい。
ジンも私の気持ちに気づいたのか、苦笑しながら肩を竦めると、「それより武。何かあったのか?直にを探しに来るなんて」と話をそらしてくれた。
その問いに山本くんも、ふと真剣な顔に戻る。
「ん?ああ・・・まあな。ヒバリに電話しても出てくれねーし」
「恭弥に電話って・・・そこまでしてを探す必要があったのか?ちょっと一日、会社休んだだけだろ」
「は無断欠勤なんてした事がない。それに今色々とヤバイ状況なんだ。だから何かあったのかもしれない、と幹部であるオレに連絡が来た」
「ヤバイ状況って・・・?」
「・・・・・・」
ジンの問いに応えることなく、山本くんは私を見た。
「こんな事してられないな。・・・オレと一緒に来て欲しい。ここにいたら危ない」
「えっ?来て欲しいって・・・どこに?」
「オレ達のアジトだ。ジン、お前も来い」
「え、オレもっ?」
「ボンゴレ関係者全員、巻き込まれてるんだ。お前も例外じゃない」
「だ、だから何に巻き込まれてんだよ?またマフィア間の抗争か?」
ジンの問いに山本くんは視線を反らすと、小さく息を吐いた。
「移動しながら話すよ。とにかくここを離れないと」
「で、でも・・・恭弥は?私、ここから出るなって――――」
「ヒバリも事情は知ってる。だからそう言ったんだろう。でも奴らは手加減なしだ。ここにいても、いずれ見つかる。危険なだけだよ」
山本くんはそう言うと、ドアを開けて外の様子を伺った。
「ヒバリには随時、連絡を入れてみる。だから今はオレと一緒に来て欲しい」
「う、うん・・・」
よく分からないけど・・・彼の真剣な顔を見てると言う事を聞いた方がいいような気がしてきた。
恭弥は怒るかもしれないけど彼も事情は知ってるようだし、後で説明すればいい。
「じゃあすぐに出るぞ」
「・・・うん」
「OK」
ジンも渋々ながら頷くと、山本くんの後からついていく。
私は携帯だけしっかりと持って、部屋に鍵をかけ――今朝、恭弥から合鍵を預かった――彼らの後を追いかけて行った。
よく分からないけど、未来でもまだ誰かとの戦いは続いている。
その中に恭弥もいるのかと思うと胸の奥が痛くなるのを感じ、私は強く携帯を握り締めた。
「ボンゴレ・・・狩り・・・?」
「ああ・・・」
ハンドルを切りながら、山本くんは僅かに眉間を寄せた。
その話を聞いてジンも急に黙り込んでいる。それも当然だろう。
敵であるミルフィオーレファミリーとかいう連中は、ボンゴレを潰す為、関係者を片っ端から殺しているというのだから。
山本くんのお父さんも、そいつらに殺された・・・・。そして――――
「嘘だろ・・・?十代目が・・・殺られた、なんて・・・・」
ジンが唖然としたように呟く。
私の脳裏に、沢田くんの、あの人懐っこい笑顔が浮かんでは消えた。
「本当だ。まだこれは極秘事項でオレ達しか知らないがな・・・」
「嘘だ・・・。沢田くんが死んだなんて・・・・」
身体が震えた。それにショックだった。
そんな恐ろしい敵と、山本くん達は戦っているのだ、という事実に、そしてその抗争に恭弥も入ってる、という現実に。
「でも・・・まだ望みはある。オレは諦めちゃいない」
「山本くん・・・」
「必ず守護者全員を集めてみせるさ。それに――――」
そう言って私を見ると、山本くんはニカッと笑った。
「過去から来たの、だけじゃねーんだ」
「・・・え?」
「お、ついたぜ」
彼の言葉の意味を問う前に、車は静かに停車した。
「ここの奥にアジトへの入り口がある」
「ここは・・・・」
そう言って目の前の工場跡地を見上げると、山本くんは「こっちだ」と先を歩き出した。
ジンと顔を見合わせながらも急いでついて行けば、大きな機材や故障したブルドーザーがあちこちに転がっている。
その中をついて行くと、山本くんが不意に足を止めて胸ポケットから小さな箱を出した。
「オレを見失わないようについてきてくれ」
「・・・・え?」
どういう事かと首をかしげた瞬間、彼は指にしていたリングを取り出した小さな箱に差し込んだ。
その瞬間、箱が開いて炎のようなものが飛び出てくると、山本くんの周りをグルグルと回りだす。
「そ、それ・・・何?」
「防犯対策のカモフラだ。よそ見はするなよ?」
「え?ぁ――――」
その時、突然ポツポツと顔に雨粒が落ちてきた。
でも次の瞬間――――それが突然、土砂降りに変わり、顔すら上げていられない。
「ちょ、武・・・!前、見えないってっ!」
「こっちだ」
「や・・・山本く・・・ん待っ・・・」
話すことも困難なほどの大雨に、私は必死で声のする方へと歩いて行った。
後ろにいるジンも前が見えないのか、私の手をぎゅっと掴んでいる。
そのまま二人で歩いて行くと、不意にもう片方の手を、山本くんが掴んだ。
「ここだよ」
「・・・え?」
そう言ってゆっくり片目を開けると、廃屋の裏手に地下に続く階段が姿を現した。
「こ、これ・・・」
「この下だ」
山本くんはそう言って私の手を引きながら階段を下りていく。
そこはハイテクのビルのような作りで、下まで下りた所に指紋認証で開く扉が現れた。
そこに山本くんが手を置くと、重たそうな扉が静かに開く。
「他にもここと同じような入り口が6ヶ所ある」
中へ入るとそこはエレベーターのようで、乗り込んだ瞬間ゆっくりと下へ下がっていくのが分かった。
「凄い・・・。これ・・・全部、ボンゴレの・・・?」
「ああ。アジトだ。ツナが作らせた」
「・・・沢田くんが?」
「ついたぞ」
B5Fで止まったエレベーターを降りると、今度は目の前に地下駐車場のような場所があった。
更にその奥に通路があり、山本くんはそこを歩いて行く。急に明るいところに出た事で目がチカチカする。
堪えながら手で擦っていると、今まで黙ってついて来ていたジンが、「あぁっ」と大きな声を上げた。
「な、何だよ、ジン。驚くだろ?」
「そうよ・・・。ビックリするじゃない・・・」
そう言って振り返ると、ジンは真っ直ぐ私の方を見ていた。
それも何気に顔がニヤケている気がして、「何?」と言えば、ジンは更にニヤリと笑い、私の胸元を指差した。
「、今日、ブラジャーつけてないだろ」
「は?・・・・・きゃっ!」
そう言われて自分の胸元に視線を向けると、白いシャツが雨に濡れて透けている事に気づいた。
慌てて両手で隠すと、ジンがニヤニヤしたまま、「教えなきゃ良かった」と肩を竦めている。
それには一気に顔が赤くなった。
「さ、最低!」
「何でだよ。教えてやったろ?」
「そ、そうだけど・・・っ!」
恥ずかしさでいっぱいになりながらも恐る恐る後ろにいる山本くんを見ると、彼は思い切り視線を反らしている。
でもその頬は何気に赤く染まっていて、シッカリ見られた事に気づき耳まで赤くなった。
「あ、あの・・・。わ、悪りぃ・・・。オレが雨降らせたりしたから・・・・」
「い、いいよ・・。別に」
「あ、そうだ・・・。これ着てろよ」
山本くんは自分のジャケットを脱ぐと、すぐに私の肩へかけてくれた。
「あ、ありがとう・・・」
「い、いや・・・えっと、あ、そうだ・・・。こっちだったっけ・・・」
まともに視線を合わせないまま、山本くんはスタスタと廊下を歩いて行く。
その狼狽えた姿を見ながらジンは笑いを噛み殺していた。
「ぷっ。何だよ、武の奴、案外純情なんだな。大人のクセに」
「・・・言ったでしょ?スケベなあんたとは違うって」
「あのな・・・。男は皆、スケベなんだよ。武だって相手がだから動揺しただけで、他の女だったらあそこまでうろたえないって」
ジンはそう言って笑うと、山本くんの後を追いかけていく。
ホント憎たらしい、と思いながらも、ジャケットのボタンを留めてホっと息をついた。
その時、不意に携帯が鳴り出し、ドキっとした。
「あ・・・」
「もしかして・・・ヒバリか?」
前を歩いていた山本くんが期待するような顔で振り向いた。
小さく頷くと、山本くんはホっとしたように息を吐いている。
「ヒバリにすぐ、ここへ来るように言ってくれないか?場所は知ってるから」
「う、うん。分かった・・・」
頷きながら通話ボタンを押すと、こっちが話す前に、『?!今、どこ?』と慌てたような声が聞こえてきた。
「あ、恭弥――――」
『心配になって戻ってみれば・・・家にいないし心配するだろっ』
「ご、ごめんなさい・・・。実は・・・」
そう言って事情を説明すると、恭弥は「すぐ行く」とだけ言って、電話を切った。
「どうだった?」
「う、うん・・・。すぐ来るって・・・」
「怒ってたか?」
「う、うん・・・まあ・・・。それなりに・・・・」(!)
私が頷くと、山本くんは苦笑しながら「やっべーな」と頭をかいている。
「まあでも緊急事態だしヒバリも分かってくれるだろ。それより・・・ついたよ。皆、ここにいるから」
「え?皆って・・・・」
廊下奥の扉前に立った山本くんは、私の問いにニッコリ微笑むと、静かに扉を開けた。
「おい、ツナ、獄寺。も来てたぞ」
「――――ッ?!」
その言葉に顔を上げると、目の前に沢田くんと獄寺くんが走ってくる。
「な、さん?!」
「おま・・・何で・・・」
「沢田くん・・・生きてるの・・・?」
目の前に来た沢田くんと獄寺くんに、私は目を見開いた。
二人はどう見ても普段会ってる二人と変わらなかったからだ。
「ってゆーか・・・、全然変わってねーじゃん!」
「そ、そっちこそ――――」
そこで言葉が途切れハッと山本くんを見れば、彼は笑いながら肩を竦めていた。
「その二人は10年後の二人じゃない。過去から来たんだ。と同じようにね」
「えっ?」
「マジ?、お前も・・・過去から来たの?」
山本くんの説明に、獄寺くんが驚いている。
そこで私は昨日の話を、もう一度二人に話した。
「そ、そうだったんだ・・・」
「あんのバカ牛!!何で学校に・・・っっ!」
獄寺くんは握り拳を震わせながら、怒っている。
でも私はふと、あの時のランボくんの言葉を思い出し、思わず息を呑んだ。
「そうだ・・・。あの時、ランボくん、確か"ツナがいなくなった"って応接室に来たわ・・・」
「あ、そっか。オレはランボにバズーカの事を聞きに行って・・・。それでランボの目の前で当たったから」
「戻って来ないからビビってんとこに助けを求めに行ったのか?アイツ、とことんバカ牛だなっ」
獄寺くんはそんな事を言いながら、軽く舌打ちをした。
でもこれで少しづつだけど事情が分かってきた。
それだけでも安心するし、何て言っても沢田くんと獄寺くんも過去から来てるのだと知って、それが一番心強い。
「ちゃおっス」
「あ・・・リボーンくんっ?!」
懐かしささえ感じるその声に振り向くと、リボーンくんが可愛い格好で立っていた。
「もしかしてリボーンくんも過去から・・・」
「そうだぞ。もみたいだな」
「う、うん・・・。ビックリしちゃったけど、もう大丈夫」
「そうか。で・・・こっちのヒバリとは会ったのか?」
「あ・・・うん。昨日・・・」
「え!ヒバリさんに会ったの?!」
「う、うん・・・」
沢田くんは驚いたように獄寺くんと顔を見合わせている。
それを見て山本くんが、「今からここに来るよ」と説明してくれた。
「それは探す手間がはぶけたな」
「え、探すって・・・?」
「ヒバリは一番、連絡が取れづらいんだ。今住んでる家も分からなかったしな」
「え、でも山本くんが――――」
「オレも必死で探したんだ。緊急事態だったしね。会社の極秘ファイルで見つけた」
「そ、そうだったんだ・・・」
それを聞いて少しだけ驚いた。
という事は、夕べ私が恭弥と会えたのは凄くラッキーだったのかもしれない。
(そう言えばジンくんも電話が繋がらないって言ってたっけ・・・)
「ところで・・・何で山本のジャケットを着てるんだ?」
「え?あ・・・。こ、これは・・・・」
不意にリボーンくんに突っ込まれ、顔が赤くなる。
山本くんも恥ずかしそうに視線を反らしながら、「さ、寒そうだったから?」と誤魔化した。
その時、背後でコツ・・・っと足音がしたと思った瞬間、山本くんの顔色が変わり、素早く剣を抜いた。
キィンッという金属音が響き、驚いて顔を上げるとそこには――――。
「きょ、恭弥・・・?!」
「おいおい・・・。いきなりの挨拶にしちゃ物騒だぜ?」
恭弥のトンファーを剣で受けながら、山本くんが苦笑いを零した。
でも恭弥は怖い顔で彼を睨んだまま「君が悪いんだよ」と呟き、剣を弾く。
「勝手にうちに来てを連れ出すなんて・・・どういうつもり?」
「恭弥・・・待って!」
慌てて走り寄ると、恭弥はチラっと私に視線を向けて僅かに顔を顰めた。
「それ・・・誰の服?」
「え?あ・・・こ、これは――――」
「オレんだよ。ちょっとアクシデントがあってな」
「アクシデント・・・?」
「う・・・。そ、そう・・・なの」
怖い顔で見てくる恭弥に、顔が引きつる。こういうところは少しも変わってないみたいだ。
と言うよりも以前にも増して、迫力がある。
「あ、雨で濡れちゃって・・・だから――――」
「雨なんか降ってなかったけど?」
「だ、だからその・・・」
「オレが降らせた。アジトに入る前は必ずカモフラするからな」
山本くんの言葉に恭弥は更に目を細めると、小さく口元をゆがめた。
「・・・やっぱり君が悪いんだ」
「ちょ、待って・・・。違うの、これは――――」
「仲間同士でケンカしてる場合じゃないぞ、ヒバリ」
「・・・・・ッ」
その声に振り返ると、リボーンくんが歩いて来た。
恭弥もそれに気づき、ふっと笑みを浮かべている。
前から思っていたけど、恭弥とリボーンくんの間には何かあるような気がするのは私だけなんだろうか。
「赤ん坊・・・。いたんだ。君も過去から来たの?」
「まあな。それより・・・ちょうどお前を探そうと思ってたところだったんだ」
「何。やっと戦ってくれる気になった?」
「それもいいが・・・今はそんな事をしてる暇はないぞ。お前も聞いてるだろう?ボンゴレ狩りのことを」
「・・・・・・」
リボーンくんの言葉に、恭弥の顔が僅かに動揺した。
そして私を見ると、そっと肩を抱き寄せてくる。
「ああ・・・」
「関係ない、とは言ってられない状況だ。奴らは関係者全員を襲う気でいる」
「・・・その前に僕が咬み殺すよ」
「恭弥・・・・」
その真剣な顔にドキっとした。今、ここで起こってる抗争は想像以上に恐ろしいものなんだと肌で感じる。
「分かってるならいい。だからもここへ非難させた。山本を責めるな」
「・・・分かったよ。 ――――でも必要以上に彼女に近寄らないでくれる?」
恭弥がそう言って山本くんを睨む。
それにはハラハラしたけど、山本くんはいつもの笑顔を浮かべて頷いた。
「了解・・・。ああ、それより彼女を空いてる部屋に案内して風呂でも入れてやってくれ。このままじゃ風邪引いちまう」
「・・・言われなくても」
恭弥はそう言うと私の手を引いて奥へと歩いていく。
でも、ふとジンに気づき視線を向けると徐に顔を顰めた。
「ジンまでいたの」
「う・・・。いや、あの」
「牛男は?」
「そ、それがまだ見つからなくて・・・・」
「ランボならイーピンと二人で京子とハルを迎えに行ってる。もうすぐ来るだろう」
そこでリボーンくんが説明すると、恭弥は小さく息をついた。
「来たら呼んで。色々聞きたいことがある」
「分かった。まあ・・・それで帰れるか分からないけどな」
リボーンくんはそう言うと、そのまま奥の部屋へと戻って行った。
それに皆もついていく。
私は気まずそうな顔のジンと、「後でな」と笑顔で手を振ってくる山本くんに手を振り返すと、恭弥に引かれるまま奥の部屋へと歩いて行った。
「ここ誰も使ってない部屋なんだ。お風呂もあるから」
「う、うん・・・」
建物の中の一室はシンプルなデザインだったけど、一応ベッドやバスルームは設置されてるようだ。
部屋の中に入ると恭弥は暖房を入れて、深く溜息をついた。
その様子に怒っているのかとドキっとしたが、恭弥は不意に振り返るといきなり繋いでいた手を引っ張った。
「ちょ、」
「黙って」
ぎゅっと抱きしめられ、一瞬で身体が金縛りにあう。
それでも腕の強さにホっとしている私がいた。
「・・・どれだけ心配したと思う?」
「ご、ごめんなさい・・・」
「せめて電話くらいしてよ」
「う、うん・・・。ごめん」
耳元で呟かれる恭弥の言葉に胸の奥が痛くなる。
言われてみれば出かける時、すぐに電話をかければよかったのだ。
「・・・寒い?」
「ううん・・・。大丈夫・・・」
恭弥の体温で濡れた身体が温まっていくのを感じながら、そう呟いた。
その瞬間、不意に身体が離れ、
「じゃあ、これ脱いで」
「えっ?」
「アイツの服をが着てるなんて嫌なんだ」
「え、ちょ」
そう言って恭弥は羽織っていたジャケットをいとも簡単に奪っていく。
いきなりの行動に唖然としていると、恭弥はジャケットを放り投げ、ふと私に視線を向けた。
「・・・・ッ」
「恭弥・・・?」
「・・・・アクシデントってそう言うこと・・・」
「え・・・?」
私を見て溜息をつく恭弥に首を傾げる。
すると再び腕を引っ張られ、強く抱きしめられた。
「服・・・透けてる」
「・・・・ッ」
その一言にドキっとして顔を上げると、恭弥はしかめっ面で私を見下ろしていた。
「だからアイツにジャケット借りたの?」
「あ、あの・・・」
「って事は・・・見られたんだ。アイツに」
「え・・・で、でもほんの一瞬で――――」
「一瞬でも嫌だ」
「・・・んっ」
恭弥はそう呟くと強引に私の顎を引き上げ、唇を塞いだ。
身を捩る私を強く抱きしめながら、キスは徐々に深くなっていく。
押し入ってきた舌に絡め取られると全身の熱が一気に上がった。
「ん・・・ゃ・・・」
「・・・誰にも見せたくないし・・・・触れられたくない・・・・。何度言えば分かってくれる?」
キスの合間に紡がれる恭弥の言葉に、鼓動がどんどん早くなっていく。
「・・・ぁっ」
「・・・肌を見せていいのは・・・僕の前でだけだよ」
恭弥の唇が首筋に下りていく。それとは逆に、彼の手が腰からお腹、胸元へと上がっていった。
濡れたシャツが肌にピッタリとくっついてるのを感じながら、こんな状態で触れられる事を想像し、更に身体が熱くなっていく。
「ゃ・・・恭弥・・・」
「過去でも未来でも・・・は僕のものだから」
胸の膨らみに彼の手が触れ、ドクンと鼓動が跳ねる。
シャツ一枚しか身に着けてないからか、直にその感触が伝わってきた。
同時に恭弥の唇がシャツの上から肌を確かめるようにつたっていって、それが透けた胸の先に下りた時、甘い痺れが身体を走る。
「ぁ・・・んっ」
シャツの上から舌で舐められ、ビクンと身体が跳ねた。
すでに身体を支える足にも力が入らず、恭弥の肩に必死にしがみ付く。
「・・・んんっ・・・ゃ」
その時、硬くなった部分をシャツごと口に含まれ、強い刺激が駆け巡る。恭弥の肩を掴む手に力が入った。
全身に走る痺れに足が震えて必死に身を捩る。――――その時、不意に恭弥が私を仰ぎ見た。
「・・・の身体、凄く熱いよ」
「・・・・ッ」
「そんな顔されたら我慢できなくなるんだけど・・・・」
そう言って苦笑いを零すと、ゆっくりと腕を解き私を抱きしめた。
力の入らない私の身体を支えるように包むと、耳朶に軽くキスをする。
ちゅっという音が響き、それにさえ反応する私に、彼はまた小さく笑った。
「ごめん・・・。意地悪しすぎたね」
「恭・・・弥?」
「の事になると・・・いつも冷静じゃいられなくなる・・・」
「・・・・・ッ」
そんな事を耳元で囁かれ、顔が赤くなる。
先ほどの行為のせいで心臓はまだ激しく打っていた。恭弥の一言、動き一つを敏感に感じ取ってしまう。
「シャワー入っておいで」
「・・・・恭弥?」
「着替えは僕ので良ければ用意しておくから」
そう言って背中に回していた腕を解く。
顔を上げると、恭弥は困ったような笑みを浮かべていた。
「これ以上その格好でいられたら、本当に我慢できなくなるし」
「・・・・・ッ」
「ほら、早く入っておいでよ。風邪引く」
「う、うん・・・」
優しく微笑んで背中を押してくれる恭弥に頷くと、私は胸元を隠しながらバスルームへと飛び込んだ。
後ろ手にドアを閉めると、ドキドキとうるさい心臓を沈めるために何度も深呼吸をする。
それでも火照った頬の熱が冷める事はない。
「熱い・・・」
両手で頬を包みながらふと顔を上げれば、目の前の鏡に映る自分の姿にドキっとした。
白いシャツが雨で濡れて、薄っすらと透けている。
そしてそれは、ささやかな膨らみがハッキリ見えるくらいに肌に張り付いていた。
恭弥に刺激を与えられた胸の先はツンと立ち上がり、それがやけに厭らしく見えて、今更ながらに私の羞恥心を煽っていく。
「やだ・・・。ホントに真っ赤だ・・・・」
首まで赤く染まった自分に失笑が漏れる。
それと同時に身体が冷えてきたのを感じ、急いで濡れたシャツを脱ぎ捨てると熱いシャワーを浴びた。
そうする事で少し気分も落ち着いてきたけど、何度となくさっきの行為を思い出してはまた頬が熱くなった。
「はあ・・・。未来の私ってホントにあんなことされてるのかな・・・。何か信じられない・・・」
経験がない私には未知の世界だ。それに25歳の恭弥がすること全てが刺激的だった。
これ以上一緒にいたら、いつか流されてしまいそうなほどに――――。
「って、ダメダメ・・・!いくら恭弥だって言っても彼は過去の恭弥とは違うんだから・・・・」
一瞬過ぎった思いを慌てて打ち消すと、棚にあったバスローブを身に着けた。
この格好も何だけど、これしかないのだから仕方がない。
軽く深呼吸をすると、そっとドアを開けてバスルームを出た。
「恭弥・・・?」
何の物音もしない事に気づき、彼を呼んでみる。
返事がないことを不審に思いながら歩いて行くと、ベッドに横になっている恭弥が見えるとホっと息をついた。
そっと近づけばかすかに寝息が聞こえてくる。
「・・・熟睡してる。疲れてたのかな・・・」
そっとしゃがんで恭弥の寝顔を見ていると、つい笑みが零れる。
こんな風に無防備に寝顔を見せてくれる事が、少しだけ嬉しい。
寝顔は過去の恭弥とそれほど変わらない気がして、不意に彼が恋しくなった。
「会いたいな・・・。恭弥に・・・・」
こうして目の前にいるのに、そんな言葉が零れ落ちる。
今頃・・・過去の恭弥はどうしてるんだろう?未来の私と一緒にいる?
こっちの恭弥のように、未来の私を抱きしめてる?
そんな想像をして少しだけ未来の自分に嫉妬してしまう私は、バカなのかな・・・・。
「自分に嫉妬するなんて・・・おかしいよね」
そう呟きながら、恭弥の柔らかい髪にそっと指を通した――――。
いつも素敵なコメントをありがとう御座います!(´¬`*)〜*
■ここの雲雀さんを読んで、本当に彼が好きになりました。(社会人)
(ありがとう御座います!当サイトの雲雀夢で好きになったなんて、本当に嬉しい限りです(´¬`*)〜*
■好き同士なのになかなかくっつかない…切なすぎる!!!雲雀さん最高にかっこいいです♪他のキャラもいい味出してます★(中学生)
(もどかしい恋というのが当サイトのテーマです(笑)思い切り切なくなって頂けたら私も嬉しいです!)
■10年後の雲雀さんの色気が最高です!!(高校生)
(最高だなんてありがとう御座います!大人な雲雀を楽しんで頂けると嬉しいです(^^)
■管理人さんの雲雀夢に毎日癒されていまーす、もうドキドキと胸キュンが止まらないでーす、これからも雲雀、ヒロインをラブラブにさせてほしいでーす(社会人)
(私の書く雲雀で癒されてるなんて感激です!胸キュンして抱ければ、私も胸キュンですからー!(*ノωノ)(オイ)