陰謀――05
平凡な中学生だった私が、並盛に来てから生活が一変した。
恭弥と出会い、沢田くん達と仲良くなって・・・そこから気づけば色んな出来事に巻き込まれていった。
普通では考えられないような世界があるのだ、と思いしらされ、気づけばその世界の輪の中に入っていたように思う。
望む、望まないに関わらず、恭弥を好きでいれば嫌でもその渦へと巻き込まれていく。
そのおかげで信じられないような出来事が起きても、以前よりは動じないようにはなっていった。
知らないうちに免疫が出来てたのかもしれない。
普通の感覚が麻痺して、何が起きても受け入れられるようにはなっていたと思う。
だけど、他の人は別だ――――。
いつもの日常の中から、突然未来に来てしまった現実に、京子ちゃん達が動揺するのは当然の事で。
しかもその未来の世界は恐ろしい戦いの場となっていて、自分の大切な人達がその戦いの中心にいる。
そんな事を聞かされれば、誰だって心配になる。
私は分かっているつもりでいて、彼女の本心を分かっていなかったんだろう。
京子ちゃんが姿を消すまでは――――。
朝、目が覚めた時。隣に誰もいない事が少しだけ寂しくなった。
寝ぼけた目で携帯の時計を見れば午前7時過ぎ。
そろそろ起きなくちゃ、と重たい体を起こした。
顔を洗い、歯を磨いて髪を整える。
そしてクローゼットの中から、恭弥のシャツを借りた。
少し大きめだけど腕まくりをすれば何とかなる。昨日、山本くんの雨で濡れてしまったスカートはすでに乾いていた。
「朝食にしないと・・・」
身なりを整えると、京子ちゃんとハルちゃんの部屋へ向かう。私達が使っている部屋は同じB7にあるのだ。
二人はちゃんと寝れたかな、と思いながら部屋の前に立つ。
ドアには『ハル&京子&イーピンちゃん・男子禁制!』と書いた張り紙がしてあった。
そこには可愛い猫の絵も描かれている。
「京子ちゃん、ハルちゃん・・・。起きてる?」
軽くノックをしてからドアを開ける。中は薄暗く、まだ寝ているようだ。
部屋の隅には二段ベッドがあり、そこの下で寄り添うように寝ているハルちゃんとイーピンが見えた。
「ハルちゃん、朝だよ」
疲れているのか、私が傍までいっても起きる気配がない。
このまま起こすのは可哀想かな、と思いながら、ふと上の段を見た。
「あれ・・・」
小さな違和感。
京子ちゃんが寝ているはずなのに上掛けが畳んである。
「あ、もしかして朝食の準備、一人でしてくれてるのかな・・・」
そこに気づいて急いで部屋を出る。
ハルちゃんとイーピンはもう少しだけ寝かせてあげよう、とそのまま起こさない事にした。
キッチンも同じ階にある。長い廊下を走って角を曲がった。
「あ・・・そうだ」
エレベーター前に来た時、ふと怪我をした沢田くんが気になり、キッチンへ寄る前にB5にある第一医務室へ寄ってみる事にした。
エレベーターに乗って上へと向かう。到着して廊下に出ると、ちょうど前方に見覚えのある後姿が見えた。
「沢田くん、おはよ」
「あ・・・さん。おはよう」
沢田くんが寝ぼけた顔で振り向いた。
腕を包帯でつっている姿がまだ痛々しい。
「怪我の具合はどう?」
「あ、うん。少し痛みが和らいだかな」
「そう!なら良かった!――――皆は?」
「さあ・・・オレも今、起きたんだ」
「そっか。あ、今すぐ朝食作るから。京子ちゃんがもう起きてるみたいなの」
「ホント?良かった。お腹空いてたんだ」
沢田くんはお腹を押さえながら笑った。
二人で廊下を歩いていくと途中で主作戦室ORモニタールームがある。
そこを覗いて見ると、
「あ、おはよう。十代目、さん」
「ちゃおっス」
「ジャンニーニさん、リボーンも」
二人は沢山の機械やモニター前に座っている。
沢田くんと中へ入っていくとリボーンくんがニッコリ笑って、「朝一番のグッドニュースだぞ」と言った。
「えっ?何?」
「外にミルフィオーレのブラックスペルがウジャウジャいる。こりゃ外に出たら戦闘は免れねーな」
「どこがいいニュースだよっ!」
リボーンくんの言葉に沢田くんがいつもの突っ込みをする。心なしか顔が青い。
でも私もそれを聞いて心配になった。外に敵が沢山いるなら、恭弥にとっても危険だという事だ。
彼は今、自分の研究所にいると言っていたけど、出来ればそこから出ないで欲しいと思う。
――――今日帰ってくるって言ってたけど・・・これじゃ危険すぎる。
そう思っていると突然コンピューターが派手な音を上げた。
「何これ?」
「救難信号をキャッチ!味方からのSOSです!」
「味方って?!」
ジャンニーニの言葉にモニターを覗き込んだ。
「ボンゴレ内で決めた秘密信号です。信号の発信源を補足しました!モニターに映しますよ!」
ジャンニーニがパソコンをいじると、目の前のモニターが一瞬で切り替わる。
そこに映っていたのは見覚えのある小鳥だった。
「あ!あれはヒバリさんの!」
「――――ッ」
思わず息を呑んだ。この小鳥はいつも彼の傍にいた。
未来へ来てからは見かけなかったけど、まさか今も――――。
「ヒバードだ!」
「・・・ヒバード?」
「ヒバリさんの小鳥だからってハルがつけたみたいで・・・」
沢田くんが苦笑しながら頭をかいた。
何てベタなんだ、と思わないでもなかったけど、とにかく恭弥が飼ってる小鳥が救難信号を発信したって事だけは確かでますます心配になった。
「発信機を取り付けられてんだな」
「まずいですよ!信号が弱まってます!」
「え・・・どういう事?恭弥は――――」
「落ち着け・・・。旋回するぞ」
リボーンくんの言葉に再びモニターを見ると、小鳥が確かに旋回している。
あの場所に恭弥がいるんだろうか。そう思うといても経ってもいられなくなった。
「定点カメラよりフレームアウト!モニターをレーダーに変えます!」
その時、廊下から足音がして獄寺くん、山本くん、そしてラル・ミルチという人が入って来た。
「何スか、今の音!」
「何があった!」
「みんな・・・!大変だよ!今、ヒバリさんの鳥からSOSが・・・!」
「何?」
「あのヒバードとかってやつ?」
「場所は?」
「現在7丁目を時速37キロで移動中!高度下がります・・・。25・・・2・・・き、消えました!」
「嘘・・・」
ジャンニーニの言葉に一瞬、足がフラつく。それを山本くんが支えてくれた。
「大丈夫か?・・・」
「恭弥が・・・」
「アイツなら大丈夫だって」
「でも救難信号だったのよ?!何かあったんじゃ――――」
「落ち着け。今、調べる」
リボーンくんはそう言うと、「消滅した場所には何があるんだ?」とジャンニーニに訊いている。
「待って下さい。今出しますんで・・・出ました!神社です!」
「並盛神社・・・?ヒバリの奴、あんなとこで何してるんだ?」
山本くんが訝しげに首をかしげている。
「信号が弱まっていましたし単に発信機のバッテリーが切れただけかもしれません」
「そんな・・・バッテリー切れ?」
「もしくは敵に撃ち落されたかもな」
「おい、リボーン!さんの前でそんな――――」
「敵の罠だという事もある」
「敵の・・・罠・・・?」
ラル・ミルチの言葉にその場にいた全員が青くなる。
私は不安でぎゅっと手を握り締めた。
「じゃ、じゃあ一体どうすればいいの?」
「うるさいぞツナ。どっちみちヒバリがいるかもしれない。指を咥えてみてるわけにはいかねーだろーな」
「ですが見てください。あの点が現在確認できるリングです。つまり少なくとも、地上にはコレだけ敵がいるわけです」
ジャンニーニはそう言ってモニターを指差した。
そこには無数の点が映っている。
「あんなに・・・」
「その中でひときわ強いリングが一つ・・・。恐らく隊長クラス・・・精製度はAクラス以上・・・」
「
γだな・・・」
ラル・ミルチが溜息をついた。
「ガンマ・・・?」
「お前達が戦った第3アフェランドラ隊、隊長・・・電光のγ(ガンマ)。名のある殺し屋とマフィア幹部を何人も葬った男だ」
「・・・・・ッ」
「・・・大丈夫かっ?」
その場に蹲った私に山本くんが驚いてしゃがんだ。
大丈夫、とは言いながらも、そんな危険な人がうろついている中、恭弥は無事でいるのかどうかだけが気がかりだった。
出来れば今すぐ恭弥を探しに行きたい。
でもそんな事をしたところで、敵に見つかってしまうだけだろう。
獄寺くん達はどう動くか話し合っている。それを見ながら何も出来ない自分が悔しかった。
その時、いきなりドアが開いてハルちゃんが飛び込んできた。
「ツナさん!大変です!」
「ハル・・・?」
「今頃おせーえっつの。大変なのは分かってる――――」
「違うんです!」
ハルちゃんは獄寺くんの言葉を遮ると「京子ちゃんがいないんです!」と叫んだ。
「な・・・何だって?!」
「ちゃんと探したのか?」
「トイレに行ってんじゃねーの?」
「書置きがあったんです!ベッドのところに・・・"一度、家に行って来ます。ランボくん達のオヤツもらってくるね"って・・・」
「あの笹川が?」
「そんな無茶する奴には見えねーのに・・・」
ハルちゃんの言葉に沢田くん達も驚いている。そして私も慌てて立ち上がった。
てっきり先に起きたんだと思っていたのに、まさか抜け出してたなんて・・・。
「よほど了平の事が心配だったんだな」
「あ・・・そう言えば昨日、少し元気がなかった・・・」
ふと夕べの京子ちゃんの様子を思い出し、胸が痛くなった。
口には出さなかったけど、きっと色んな事が不安だったのかもしれない。
どうして気づいてやれなかったのか、と後悔した。
私はこれまで色んな事があったから、多少の免疫は出来ていた。
だから最初は驚いたけど、この未来でも何とかなるだろう、なんて少し呑気に構えていたところもある。
でも京子ちゃんは別だ・・・。
今までの事は皆が内緒にしていたから殆ど知らなかっただろうし、それなのに突然、未来に来てしまってきっと凄く心細かったに違いない。
私には10年後の恭弥がいたけど、京子ちゃんは・・・お兄さんに連絡が取れない、と心配そうだった。
「つ、つかどうしよう!」
「落ち着け、沢田。雲の守護者の鳥からの救難信号の件もある。今はどうするべきか総合的に判断するべきだ」
ラル・ミルチが冷静に言った。
「この場合、最優先事項は京子を連れ戻す事だな。次にヒバードの探索及び調査だ」
「笹川了平の妹がまだ敵に捕まっていないと仮定して・・・。出来ればまだ戦闘は避けたい。敵に見つからぬよう、少数で連れ戻すのがベターだな」
「それはヒバード探索にも言える。少人数で動いた方がいいっス」
「んじゃいっその事、二手に分かれて、両方いっぺんにやるってのはどうだ?」
「そう上手く行くか!ド素人!十代目は怪我してんだ!」
山本くんの提案に、獄寺くんがいつものように絡んでいる。
そこへリボーンくんが割って入った。
「だがSOSが本当にヒバリからのだった場合、ノンビリしてらんねぇのも確かだ」
「そりゃそーっスけど・・・どうしましょう、十代目!」
「決めてくれよ、ツナ」
「え、ええっオレ?」
二人に言われ、沢田くんの顔が青くなる。
そんな彼にラル・ミルチは「当然だ」と言い、リボーンくんが「ボスはお前だ」と言った。
「え・・・えと・・・。じゃあ・・・オレも行く!京子ちゃんとヒバード、両方進めよう!」
「十代目のお考えなら賛成っス!!」
「そうと決まれば準備開始だな!」
山本くんは明るくそう言うと、不意に私を見た。
「はここで待っててくれ。オレ達がヒバリを探して連れて来る」
その言葉に一瞬迷ったが、すぐに頷いた。
私が行ったところで足手まといになるだけだ。
その後、皆は作戦会議をしてから、沢田くんはラル・ミルチと京子ちゃんの家に、山本くんと獄寺くんはヒバードを追って神社へと出かけていった。
それを見送った後、私はハルちゃんと二人で食事の準備をしようとキッチンに向かった。
今、私に出来る事はこれくらいだ。
「はぁ・・・。ハル、心配です・・・。ツナさん大丈夫かなぁ・・・」
「大丈夫だよ。沢田くん何気に強いもの。きっと京子ちゃん探して連れ戻してくれるよ」
「そ、そうですよね!ハル、信じて帰りを待ちます!」
ハルちゃんの笑顔に私も微笑んだ。不安なのは皆、同じ。
恭弥の事も凄く心配だけど、今は山本くんや獄寺くんに任せよう。それに恭弥が簡単にやられるはずないもの。
「一応、皆の分も作っておこう」
冷蔵庫を開けながらメニューを考える。
その時、私の携帯が鳴り出し、ドキっとした。
(まさか恭弥から?!)
急いで携帯を開く。でもそれは恭弥からではなくジンからのメールだった。
恭弥の状況が分かるかもしれない、とすぐにメールを開く。
タイトルには"SOS"とだけあり、慌てて本文を読んだ。
『恭弥が一人で出かけて行ったからついて行こうと外に出たら敵に見つかって囲まれた!(>_<)
今ヤバイ事になってる。しかも恭弥の電話が通じねーんだ!
わりーけど、そこにいる奴に頼んで迎えに来て欲しい。今、並盛神社の近くにいる!ジン』
その内容を見て思わず息を呑んだ。
(じゃあ、さっきの救難信号ってまさか・・・)
「どうしたんですか?ちゃん」
「あ・・・何でもない。あの・・・ちょっと行かなくちゃ。悪いんだけどここ頼んでもいい?」
「はひ・・・。いいですけど・・・どこへ行くんですか?」
「リボーンくんのところ。すぐ戻るね」
「分かりました〜!ハルは準備してますから」
「ありがとう」
ハルちゃんにお礼を言ってキッチンを飛び出すと、私は急いでモニタールームへと戻った。
(もう、ジンのバカ!どうして恭弥と一緒にいないのよ!)
あの敵の数じゃ見つかって当然だ。
ジンもボンゴレの関係者に当たるんだから敵だって見逃すはずはない。急がないと、ジンが殺される――――!!
「――――あれ?さん。どうしたんですか?」
モニタールームへ飛び込んだ私を見てジャンニーニが驚いたように振り向いた。
「あ、ジャンニーニさん!リボーンくんはっ?」
「え?ああ、そう言えばいませんねぇ。さっきまでそこにいたんですが・・・何か急用でも?」
「それが・・・ああ、とにかく急いでるの!彼の行きそうな場所、分かる?」
「そう言えば、少し疲れたと言ってたから、もしかしたら昼寝をしに部屋へ――――」
「ありがと!」
「あ、さん!」
それだけ聞くと私は再び部屋を飛び出した。
でも走りながら、ふと。
「・・・・リボーンくんの部屋ってどこだっけ」
肝心なその部屋の場所が分からない。何せこのアジトは部屋数が多すぎる。
仕方なく居住区がある階に向かい、一つ一つ部屋を覗いて行った。
急がなきゃと思うと気ばかりが焦る。
「・・・リボーンくんっ?」
最後の部屋を見てみたけど、そこにも彼の姿はない。
困り果てて私は溜息をついた。モタモタしてる暇はない。
(こうしてる間にもジンは敵に狙われてるんだ・・・)
踵を翻して下へと降りる。まだ見ていない部屋を思い出したのだ。
モニタールームのある階の奥にはもう一つ部屋があったはず。
もしかしたらそこにいるかもしれない。急いでそこへ向かうと比較的、大きな扉が見えてくる。
いつも何の部屋だろう、と気になっていた場所だ。
軽く深呼吸してドアを押してみる。どうやら鍵はかかってないようだ。
「リボーンくん・・・いる?」
薄暗い部屋を覗き、声をかけてみる。でも中を確認してガッカリした。
この部屋では到底、昼寝など出来ないだろう。
「何なの、ここ・・・」
部屋の中には沢山ガラクタのようなものが散らばっている。見ればどれも武器のようだ。
「何だ・・・。武器庫か」
きっとジャンニーニの部屋なのだろう。作りかけの物から出来ている奴まで、色んなものがある。
が、ふとその中の一つを手にした。
銃の形をしたそれは可愛らしいデザインで、およそ武器らしくない。
(――確かリボーンくんが言ってたっけ。ジャンニーニは発明家だから、武器にも色んな改造がしてあるって・・・これもそうかな)
私は軽く深呼吸をすると、それを持って部屋を出た。――――何かの役に立つかもしれない。
こうなれば私がジンをここへ連れて来るしかない。
先ほどジャンニーニが、京子ちゃんが抜け出したルートの事を話していた。
『D
出入り口は内側のロックを修理中でした』
そこからなら何も言わずとも外へ出れる。
沢田くん、獄寺くん、山本くんがいない今、ジンを助けられる人は私しかいない。
いや、山本くんと獄寺くんの二人は神社の方へ行っているんだから、上手くすれば合流できるかもしれない。
決心した私はすぐにDハッチへと向かった。
後でリボーンくんに怒られるかもしれないけど、今はそんな事を言ってる場合じゃない。
「ここだ・・・」
"D"と書かれた扉を見上げ、ホっと息をつく。
かすかに開いているところを見ると、まだ京子ちゃんが出た時のままのようだ。
そっと押し開けて奥にあるエレベーターへと乗り込む。
上に上がると再び長い階段を上がって、やっと外へ出た。
「ここ・・・。並盛公園の近く?」
外に出てみると、そこには見慣れた風景がありホっとした。
ここから神社まで少し距離はあるけど、歩いて行けないほどではない。
私は辺りの様子を伺いながら、植木を抜け出し神社の方向へと走り出した。
行く途中、念のために、と恭弥に電話してみたが、ジンの言うとおり確かに繋がらない。
すぐに留守電に切り替わる所を見ると圏外にいるか電源を切っているんだろう。
仕方ない、とすぐに"今向かってるから頑張って"とジンにメールを送る。
獄寺くんと山本くんは神社についた頃だろうか。
(上手くジンが二人に気づいてくれればいいんだけど・・・)
そんな淡い期待をしながら必死に走る。
途中、いかにも怪しい黒スーツの男達がウロウロしているのを見て、その都度隠れながらも、何とか神社の近くまで来る事が出来た。
「はぁ・・・。もう少し・・・・」
神社がある林が見えてきて、私は息を整えながら再び走り出した。
でも次の瞬間――――神社の方から黒い煙が上がってハッと息を呑む。
「山本くん・・・獄寺くん・・・」
敵と戦っているのか、時々雷のようなものまで見えて私は立ち止まった。
(・・・それともジンが見つかったの?)
どっちにしろ誰かが戦闘しているのは間違いない。
私は一瞬迷ったけどすぐに走り出した。
その時、メールの着信音が鳴って私は走りながらそれを開いた。
『もしかして隼人と武を寄こしてくれた?
爆発音が聞こえたからコッソリ見に行ったら二人が今、敵らしい奴と戦ってる。
オレは隠れてっから見つかってねーけど、何かヤバそうな雰囲気だぞ!』
「やっぱり獄寺くんと山本くんが戦ってるんだ・・・」
その文章からは緊迫した状況が見て取れて、私は急いで神社へと向かった。
「つ、ついた・・・・」
神社の鳥居を見上げ、軽く息を吐く。
目の前の長い階段を見上げると、確かにジンのいうように上の方で激しい爆発音が響いてくる。
(どうしよう。このまま階段で上まで行けば、敵に見つかってしまう。
一瞬、考えると、私は階段を上がってすぐに横道の林の中へ足を踏み入れた。
真正面から行くより、神社の裏手に回ったほうがいいと思ったのだ。
汗で張り付いたシャツが気持ち悪く、時折吹いてくる秋風で体が冷えていく。
コートくらい羽織ってくれば良かった、と後悔しながら林の中を進んで行った。
ここは木々の葉が増えたくらいで10年前とそれほど景色も変わっていない。
「懐かしい・・・」
この神社には学校帰り、何度か恭弥と来た事がある。
彼が好きな場所の一つで、静かなところが気に入ってたらしい。
記憶を頼りに林の中を進んでいくと、やっと上に辿り着いた。
道のない場所を歩いてきたから相当疲れたけど、ここからだと隠れながら様子を伺える。
そう思って音のする方へ歩いていこうとした。
その時、突然、背後から口を塞がれ、ビクっと体が飛び上がる。
「――――しっ!オレだって」
「ジ、ジン・・・?」
すぐに手が放れ後ろを見ると、ジンが笑顔でピースをしている。
思わず文句を言う代わりに手が先に出てしまった。
「・・・ぃってっ」
思い切りジンの腕を殴る。
「な・・・何で殴んだよ・・・」
「お、驚かさないでよっ。ビックリしたでしょっ」
「だって急に声かけてお前が大声上げたら奴らに見つかるだろ?だから――――つか、何でがここにいるんだ?お前アジトにいたんじゃねぇのかよ」
「ジンのメール見て来てあげたのよっ。運悪く皆、出かけた後だったし、リボーンくんも見つからないから抜け出してきたのっ」
「は?誰もって・・・。じゃあ隼人と武は何でここにいるんだ?」
「偶然よ。恭弥の飼ってる鳥から救難信号があって、それを確認しに・・・」
「何だ、そっか・・・。オレを助けに来たわけじゃねぇんだ」
「って、救難信号出したのってジンじゃないの?私てっきり恭弥からかと思って心配したんだから」
「オレ出してねぇよ、そんなもん。敵から逃げながらお前にメール送るだけで精一杯だったし」
「え、じゃあ・・・。やっぱりあの救難信号って――――」
その時、バチバチバチ・・・っという感電したような音がして林の向こうが明るく光った。
驚いてジンと顔を見合わせると、そっちの方へゆっくり近づいていく。
ジンは気をつけろ、と小声で言った。
「二人が戦ってる奴はハンパじゃねぇ強さだ。もしかしたら隊長クラスかもしれねぇ」
「そんな・・・っ!二人が危険だよっ」
「しっ!見つかったらオレらだってヤベー。この世界の隼人と武なら大丈夫だろうけど、過去から来た二人じゃ時間の問題だ」
「な、何よそれ!何とかしてよ・・・っ」
「オレに出来るかよ!何とか出来るくらいならお前にメールなんかしねぇ」
「じゃ、じゃあどうするの?このままじゃ二人が・・・」
「し。見ろ。アイツだ」
木々に隠れながら進むと少し開けた場所が見えた。
そして視界に飛び込んできたのは――――
「――――がはっ!」
「山本・・・!!」
鋭い電撃を身体に受けて、山本くんがその場に崩れ落ちた。
それを楽しそうに見ている男は身体に電気をまとっている。この男は――――。
ふと先ほど、ラル・ミルチが言っていた事を思い出した。
『第3アフェランドラ隊、隊長・・・。電光のガンマ。名のある殺し屋とマフィア幹部を何人も葬った男だ』
そうだ・・・。彼女は確かに"電光"の、と言っていた。
そして二人の前に立ちはだかっている男は明らかに電気を操っている。
もしかしたらこの男が彼女の言っていた・・・ガンマ!
「ソイツの刀が死ぬ気の炎をまとっていたなら少し食らっていたかもな」
「――――ッ」
男が獄寺くんの方にゆっくりと歩いていく。
「さて。気になる事がいくつか出てきた。ボンゴレの十代目はいつ生き返ったのかな?そこんとこ口を裂いても教えてもらわなきゃな」
「・・・くっ」
「こいつはバッテリーボックスと呼んでいてな?予備の炎を蓄えて置けるボックスだ」
男はあのボックスを見せながらニヤリと笑った。
「こいつが炎を吹き飛ばされきる前に開匣したためにキツネは消えずに残りを防御した」
「・・・・・」
「最も野猿にお前の武器の話を聞かなけりゃ持っては来なかったろうボックスだがな」
「・・・くそっ」
「さあ、遊びはここまでだ。確かにお前らの若さにも驚いたが、あのボンゴレファミリーだ。それくらいの情報操作はありうる。
だがボンゴレ十代目が生きてるとしたら、これはただ事じゃあない。奴が射殺されるところは多くの同志が目撃しているしな」
「――――ッ!!」
男の話に獄寺くんの顔色が変わった。
「て・・・め・・・」
「ん?」
「てめーらよくも!!!」
獄寺くんの腕についている武器が炎を燃やした。
「――――許さねぇっ!!!」
その武器から一気に炎が噴出し、男めがけて飛んでいく。
が、それを男の電流――何故かキツネの形をしている――が弾き返し、それが獄寺くんを直撃した。
「ぐぁっ!!」
「・・・獄寺くんっ」
思わず飛び出そうとした私の腕をジンが慌てて掴んだ。
「バカ!出て行ってどうする気だっ!一緒に殺されちまうっ」
「で、でも獄寺くん達が――――」
その瞬間、背後で何かの気配を感じハッと息を呑んだ。
「――――こんなところにネズミが二匹・・・」
その声に振り向くと、黒いコスチュームを着た男が二人、空中に浮いている。
二人は昨日の男たちと同じ、炎の出るブーツを履いていた。
「――――チッ!見つかったかっ」
「ジン・・・!」
「は下がってろ!コイツらブラックスペルの連中は危ない奴ばっかだっ」
「クックック・・・。小僧、よく分かってるじゃねぇか」
「おい、コイツら殺すリストに入ってた奴らだぜ?」
後ろにいた男がそう言って私とジンを見た。
殺すリスト、と聞いて今更ながらに命を狙われている事に気づく。
「そりゃ好都合だ。誰の関係者だ?」
「男の方がボンゴレ雲の守護者、雲雀恭弥の親戚で雲雀仁。女は。同じく雲雀恭弥の――――恋人だ」
「・・・・・・ッ」
ジンばかりか私の名前まで調べている。その事実にゾっとした。
コイツらは本気だ。本気でボンゴレ関係者の人たちを皆殺しにするつもりだ。
「ん?待てよ・・・。でも女の方は後でリストから消えてなかったか・・・?」
「・・・そうだっけ?気のせいだろ。雲の守護者の恋人なら十分殺すリストに入る」
「そうかな・・・。ま、いいか」
男たちはそんな事を言いながら私達を交互に見ると、
「どっちからやる?やっぱ男からか?」
「そうだなぁ・・・。女の方はまだガキだが、なかなか可愛いツラしてるし。何なら隊長に手土産として持ってくか?」
「な・・・てめーら!コイツに指一本触れてみろ!ただじゃおかねぇぞ!」
「ちょ、ジンっ」
ジンは私を背後に隠し男たちに食って掛かる。それを見た男二人は楽しげに笑い出した。
「ひゃははあ!ただじゃおかねぇって、どうする気だ?小僧」
「リングも持たないお前にオレ達が倒せるとでも思ってんのかよ」
「うるせぇ!――――、逃げろ!こいつらはオレが食い止めるからっ!」
「な、何言ってんの?そんな事出来るわけ――――」
「うるせぇ!お前に何かあったら恭弥に殺されるだろーが!オレはそっちの方が数倍怖ぇーんだよ!」
「ジン・・・」
「早く行け!こいつらマジでヤバイっ!」
ジンがそう言って私を突き飛ばす。でも武器も何も持たない彼を残して逃げれるわけがない。
(――――ん?武器・・・?)
そこで、ふと自分が持っている物を思い出した。
アジトの武器庫から念のため、と拝借してきた(!)変なデザインの銃だ。
「何してる!早く――――」
「ちょ、ちょっと待って、ジン!これ、使えないかな」
「あ?そういや、さっきから大事そうに抱えてたけど何だそれ」
「分かんないけどアジトの武器庫にあったのを持って来たの。多分ジャンニーニが作った武器だと思う」
「・・・マジ?――――貸せ!」
一瞬目を丸くしたジンだったけどすぐにその銃を構えると、ニヤニヤしながら私達を見下ろしている男へと向けた。
「おいおい・・・。何コソコソやってんのかと思えば、何だよそりゃあ」
「オレ達とマジでやろうってのか?」
「うるせぇ!それ以上近寄れば撃つぜっ?これはボンゴレ御用達のメカニックが作った武器だからなっ!」
「へぇ。そりゃ凄いな。撃ってみてくれよ」
「ぎゃはは!ガキのクセに銃なんて早すぎるぜ。どーせ撃てても当たらねぇだろ。オレ達は素早いぜぇ?」
「く・・・っ」
銃を向けても一向にひるんだ様子もない男たちに、さすがのジンも舌打ちをした。
「撃たねーのか?なら・・・こっちから行くぜ!!」
「ひゃほうっ!」
「――――ジン!!」
男二人が凄いスピードで飛んできた。それを見てジンが慌てて引き金を引く。
が、男たちのスピードが速すぎてギリギリでかわされた・・・・と思った瞬間。
「・・・ぐあっ!!」
「な、何じゃこりゃ!!!」
「は・・・?」
撃った張本人のジンまでが目を丸くする。
と言うのも、銃口から出たのは銃弾ではなく何かドロっとしたような液体だったからだ。
それが銃口から飛び出した瞬間、一面に広がり二人の男の体全体にかかった。
「くそぅ!!取れねぇ!!」
「気持ちわりぃー!!何だよこりゃぁ!!」
その液体に包まれた男たちは身動きが取れずもがいている。
見れば液体はネバネバと弾力があり、男たちが動けば動くほど、身体に張り付いていく。
「な・・・何だ?これ・・・」
とジンが呆気に取られつつ自分の持っている銃を見た。
「まるでゴキブリホイホイの銃バージョンじゃん」
「ホント・・・。凄い粘着力・・・」
男たちの無様な姿を見ながら私は思わず噴出してしまった。
まさか銃からこんなものが飛び出すとは、夢にも思わない。
「ちきしょう!てめーらナメたマネを――――」
「あんま動くなって。動けば更にくっつくぜ?オッサン」
「何だとコラァ!!クソガキのクセに・・・うぁっ」
男の一人がバランスを崩し、空中から地面に落下した。
どうやら張り付いた液体が、靴から出ていた炎にまでくっついて、その効力を奪ったようだ。
続いてもう一人の男も地面に落ちると、まるでゴキブリのように必死にもがいている。
「バーカ。お前らみたいな奴はそこで這いつくばってろ」
「クソガキ、コラァ!コレを外せっ」
「冗談だろ。つーか、それ取る方法なんか知らねーもん」
「な、何だとうっ」
「後で仲間にでも助けてもらったら?ま、オッサン達に触ってそれ取ってくれるような優しい仲間だったら、の話だけど」
「く・・・っ」
ジンの言葉に悔しそうに顔をゆがめている男たちを残し、私達はその場を後にした。
「つか、コレすげぇな。ジャンニーニって変なもんばっか作るって前に隼人がボヤいてたけど、結構おもしれーじゃん」
ジンは銃を見ながら苦笑いを零している。
これを拝借してきた張本人の私でさえ驚いたけど、心の底から持ってきて良かった、と思った。
「それより、お前は先にアジトへ戻ってろ。ここにいちゃ、いつまた敵が現れるか分からねーし」
「一人で戻れるわけないでしょ?今すぐ獄寺くんと山本くんを助けに行かなくちゃっ」
「バカ言うな!お前を連れてけるわけねーだろ?オレが行くからお前は戻ってろ!」
「嫌よ!それ持って来たのは私なのよ?私も行く――――」
「――うぁぁああ・・・っ!!」
「・・・獄寺くん?!」
その時、彼の悲鳴が聞こえて私は一気に走り出した。
ジンもギョっとしたように「待てよ!」と追いかけてくる。
その声を振り切り、悲鳴が聞こえた場所まで走って行くと、恐ろしい光景が目に飛び込んでいた。
「――――獄寺くん・・・!!」
先ほど電気をまとっていた男が右手一本で獄寺くんを持ち上げている。
獄寺くんの体はボロボロで、血が地面に滴り落ちていた。
「ん?何だぁ?人がいやがったのか」
「・・・・ッ」
男が私に気づき、視線を向ける。
ドキっとして一歩、後ずさると男はニヤリと笑った。
「お嬢チャン。ここは危ないから早くお家に帰りな」
「・・・ご、獄寺くんを離して!!」
「ぁん?お嬢チャン、コイツの知り合いか?」
「バ・・・カ・・・ヤロ・・・・・・逃げ・・・ろっ」
「獄寺くん・・・っ」
獄寺くんは苦しげに呟くと「逃げろ」というように僅かに指を動かした。
でも男は彼の言葉に訝しげな顔をして、再び私を見た。
「・・・?どっかで聞いた名だな・・・」
「いいから獄寺くんを離してよ!そこまで傷つければ、もう気が済んだでしょッ!!」
「・・・ははは。なかなか気の強いお嬢チャンだ。でも勘違いしないで欲しい」
「・・・・っ?」
「オレはコイツを好きで拷問してるわけじゃない」
「・・・え?」
「オレの質問の答えをくれたなら苦しまずに殺してやりたいと思ってるんだ。――――優しいだろ?」
「――――ッ」
男はニヤリと笑い、獄寺くんの首を締め上げる。
苦しげな声が漏れ、私は思わず「止めて!!」と叫んだ。
その時、男は獄寺くんを空中に飛ばし、持っていた武器で彼を叩き落した。
獄寺くんの口から沢山の血が吐き出され、声もなく地面に転がる。思わず顔を覆った。
「きゃぁぁ!止めて――――」
「まあ、いい。オレの知りたい事はお嬢チャンも知ってそうだ」
「・・・・ひっ」
気づけば男は私の目の前に立っていた。
私を見下ろしてくる視線は楽しげで、狂気はどこにも見えない。
笑顔で人をいたぶれる男なんだ、と実感した時には、男の手が私の首にかかっていた。
「どこかで聞いた事のある名前だと思っていたが・・・お前も抹殺者リストに載っていたな。確か・・・雲の守護者の恋人だ」
「・・・・ッ」
「なら・・・知ってるよな?」
「・・・・・っ?」
「何故、ボンゴレ十代目が生きているのか。コイツらのつけているリングは何故ここにあるのか・・・知ってるんだろう?」
「・・・ぁっ」
男の手に僅かな力が入る。
それだけで空気が遮断され、息が出来ない。
「ジ・・・ン・・・」
後から来ていたはずのジンを、視線だけで探した。でも、どこにもその姿は見えない。
(まさか一人で逃げたの・・・?)
小さな疑念が頭を過ぎる。でもそんなはずない。さっきだって自分を犠牲にして私を逃がそうとしてくれた。
きっとジンに何か考えがあるはず―――――。
「どうした?お嬢チャンも応えられないのか?」
「・・・ぁあっ」
「細い首だな。これなら少し力を入れただけで折れちまいそうだ。サッサと吐いた方が身のためだぜ?吐けば楽に殺してやる」
「だ、誰・・・が・・・吐くもんです・・・かっ」
力を振り絞って叫ぶ。男の顔から笑みが消え、更に首を絞められた。
もう悲鳴を上げることすら出来ない。
「可愛い女の子が苦しんでる姿もなかなかそそるな。抹殺者リストに載ってなければイタリアへ連れ帰っても――――」
「・・・・っ?」
男は突然言葉を切った。その様子を見て意識が朦朧としながらも体を動かす。
男は訝しげに眉を寄せると、必死に逃げようともがく私を見つめ、「まさか・・・」と何かを考え込むように手の力を緩めた。
一気に空気が入り込み、激しく咽ながら地面に崩れ落ちる私を、男は驚いたように見下ろしている。
「お前・・・・・・なんという?」
「ゴホ・・・え・・・?ゴホっ」
「名前だ。お前の名前は、なんと言うんだ?」
「な、何であんたなんか・・・に名乗らなくちゃいけないのよ・・・」
「気が強いな、お嬢チャン。が・・・これだけは応えてもらう。ヘタすりゃオレの首が飛ぶんでね」
「・・・?それってどういう・・・?――――きゃっ」
突然、腕を凄い力で引っ張られて痛みが走る。
男は私を立たせると再び首に手をかけ、「応えろ。名前は?」と目を細めた。
さっきよりも真剣なその表情に少しだけ戸惑った。その時――――男の背後で何かが動いた気がした。
(ジン・・・!)
男の肩越しから見えたのは、木々の合間からそっとこっちへ向かってくるジンの姿だった。
やっぱり隠れて隙を伺ってたのか、と安堵する。
ジンはあの銃を構えると男の背後まで近づいてきた。
「――――おい!!その手を離せ!」
「まだネズミがいたのか・・・」
男は動じる風でもなく溜息をつくと、パッと私の首から手を離した。
ジンはそれを見て、「は下がってろ!」と叫んだ。
きっとあの銃を撃つ気だろう。男の傍にいれば巻き込まれてしまう。
慌てて距離をとると、男はこっちへ振り向いた。
でもその顔は逃げた事で怒っている様子でもなく、どちらかと言えば驚いてるようだった。
「・・・だと?」
「・・・・?」
「お前・・・というのか・・・?」
「だ、だから何?抹殺者リストにも私の名前が載ってるんでしょっ!あんたの部下がそう言ってたわよっ」
「・・・・・・」
「な、何よ・・・」
男は黙って私を見つめると、ゆっくりとこっちへ歩いて来た。
ドキっとして逃げようとしたその時、ジンが慌てて銃を男に向ける。
そして男の背中に向けて一気に引き金を引いた。
「あ・・・!」
さっきの液体が男に向かって飛んでいく。
その瞬間――――男は素早く武器から雷のような電流を放つと、その液体は一瞬で蒸発してしまった。
「嘘・・・だろ?」
「ジン・・・逃げて!!」
ジンが唖然としていると、男は武器を振り上げ彼の頭めがけて一気にそれを振り下ろした。
ガツッという鈍い音がして音もなくジンが倒れたのを、信じられない気持ちで見ていた。
その上、男はトドメを刺そうと再び武器を振り上げている。
「止めて・・・!!」
「――――ッ?」
思わず男の腕にしがみついた。でも男は私の腕を掴み――――
「お前を・・・イタリアへ連れて行く」
「――――は?」
その一言に私は唖然とした。
「な・・・何それ・・・。私を・・・殺すんじゃないの?」
ボンゴレの関係者は全て抹殺される。
リボーンくんだってそう言ってたし、さっきの男たちだってそう話していた。
この男だって今の今まで私を嬲り殺そうとしていたはずだ。
なのに何故、急に・・・。しかもイタリア?ありえない。
「お前がだというのなら・・・抹殺者リストから、すでに消されてるはずだ」
「え・・・?」
「というファーストネームは知っていた。彼がよく口にしていたからな・・・。が・・・何の守護者の恋人だったかは忘れてたぜ」
「な・・・に・・・?」
「一度、写真は見たが・・・今のお前はその写真より少し幼い。だから気づくのが遅れた」
「何・・・言って・・・」
「オレはお前を殺せない、という事だ。とにかく・・・お前をイタリアへ連れて行く。いい土産になりそうだ」
「・・・は?!ちょ、やだ!やめて!離してよ・・・!!」
突然わけの分からない事を言いながら歩き出した男に驚いて思い切り暴れる。
なのに男は少しも動じる様子もない。ただ凄い力で私の腕を引っ張っていく。
「おっと・・・その前に。コイツらのトドメを刺さねぇとな・・・」
「え・・・?ちょっと・・・やめて!」
草むらに血だらけで倒れている獄寺くんと山本くん、そしてジンを見た男は自らの武器をかざした。
「お前はそこで仲間が殺されるのを見てろ」
「きゃっ」
思い切り突き飛ばされ、地面に倒れる。
それでもすぐに体を起こすと、「やめて!!」と叫んだ。
その瞬間、男の持つ長い棒のような武器に再び電流が流れ始め、バチバチと音を立てている。
「よく見ろ。これがボンゴレの行く末だ」
「いやーーーっ!!!」
「コイツらが何故リングを持ってたのか・・・それは後でお嬢チャンに聞くとしよう」
男が武器を振り上げる。絶望を感じながら、私は必死に叫んだ。その時――――。
……シュ!という音がして、何かが真横を走って行った。
そしてドゴォォン!という激しい音が響き、あたり一面が真っ白い煙で覆われる。
何が起きたのかを考える前に、私は誰かの腕に抱えられていた。
「君の知りたい事のヒントをあげよう。――――彼らは過去から来たのさ」
「――――ッ?」
「僕は愚かじゃないから・・・入れ替わったりはしないけどね」
「――――恭弥!!」
煙が晴れて来た時、私を抱えている人物を見て驚いた。
「何やら・・・あんた詳しそうだな・・・。だがドンパチに混ぜて欲しけりゃ名乗るのがスジってもんだぜ」
「その必要はないよ。僕は今、機嫌が悪いんだ。――――君は・・・ここで咬み殺す」
恭弥の肩にはあの小鳥、そして掌にはあのボックスが握られていた。
「な・・・なんで・・・」
「それは僕の台詞だよ。が何故こんなところにいるの」
「だ、だってジンからメールが・・・」
「そんな事だろうと思った。後を着いてきてたのは知ってたからね。すぐ引き返すかと思ってたんだけど」
「な・・・恭弥こそどこに行ってたの?」
「僕は並盛に溢れかえったコイツらの仲間を咬み殺しに行ってただけだ。こんなバカどもにウロウロされると街の風紀が乱れるからね」
恭弥はそれだけ言うと、私を腕から下ろした。
「下がってて。君を傷つけた代償はきっちり払わせないとね」
「ちょ・・・恭弥っ!この男は危険――――」
「いいから。黙ってそこで見てて」
恭弥はそう言うと男の方へと歩いていく。
でもいくら恭弥が強くても、ガンマという男は獄寺くんと山本くんをアッサリ倒したほどの男だ。
一人で大丈夫なんだろうか、と心配になる。
「んん?思い出したぜ・・・。お前はボンゴレ、雲の守護者、雲雀恭弥だ」
「――――だったら?」
「お前にはうちの諜報部も手を焼いててね。ボンゴレの敵か味方か・・・。行動の真意がつかめないとさ」
「・・・・・・」
「だが最も有力な噂によれば・・・。この世の七不思議にご執心だとか。――――ボックスの事をかぎまわってるらしいな」
「どうかな」
「得体の知れないものに命を預けたくないってのは同感だぜ?で、こいつは誰が何のためにどうやって創ったか、真実はつかめたのか?」
「それにも答えるつもりはないな。僕は機嫌が悪いと言ったはずだ」
恭弥の言葉に男は苦笑いを零した。
「やはり雲雀恭弥はボンゴレ側の人間だったというわけだな。いざファミリーが殺られるとなれば黙って見てはいられない」
「それは違うよ・・・。僕が怒っているのは並盛の風紀が汚される事と――――僕の宝物に手を出した、という事だ」
「宝物?ああ・・・そこのお嬢チャンの事か。確か恋人だったな?お前の」
「・・・・・」
「まあいい。敵の撃墜記録を更新するのは嬉しい限りだ。それと悪いが――――お前の宝物はオレが頂いていく」
「・・・・・ッ?」
男の言葉に恭弥の顔が一瞬でキツイものへと変わった。
男はどこか楽しげにボックスを取り出すと、そこへ指輪をはめた。
次の瞬間、大きな電磁波のようなものが飛び出し、恭弥へ向けて飛んでいく。
でもそれを何かが弾き、辺りは真っ白に光った。
見れば男の放った電流――中には先ほどのキツネが見える――を、ハリネズミの形をした炎が止めている。
「ハリネズミとは可愛いが・・・何てパワーだ。これだけのボックスムーブメントを良くそんな三流リングで動かせる」
「僕は君達とは生き物としての性能が違うのさ」
その時、恭弥の指輪が砕け、男は驚いた顔で彼を見ている。
「さあ。僕らも始めよう」
恭弥は再び新しいリングをはめると、それをボックスと合体させた。
その瞬間、ドシュっという音と共に彼の手にはトンファーが握られていた。
男と恭弥は素早く動き、互いの武器を交える。
ガキィンっという金属音があたりに響いて私は慌ててその場から非難した。
未来の恭弥が戦うところを初めて見たけど物凄い速さだ。正直何が起きてるのかすら目で追えない。
でも男が押されている事だけは分かり、ぎゅっと手を握り締めた。
「――――くっ」
キィィンっと金属音が鳴り、男の武器が恭弥に弾かれた。
その瞬間、恭弥は物凄いスピードで男の懐へと飛び込みトンファーを振り下ろす。
バキィっという音と共に男は吹っ飛び、辺りの木々が数本なぎ倒された。
「凄い・・・・」
恭弥の強さに驚いて立ち尽くす。過去の恭弥も物凄く強いけど、未来の彼はそれ以上に強い。
あのガンマが、ああも簡単に弾き飛ばされるなんて予想以上の強さといえる。
「立ちなよ」
「・・・ふう」
「上手くダメージを逃したね」
ガンマはフラつきながらも立ち上がり、苦笑交じりで恭弥を見た。
この場面でまだ余裕のあるガンマに、やっぱり多少の不安を感じる。
でも恭弥はどこか楽しげに笑みを浮かべていた。
「さすがだ・・・。もし守護者だったなら最強だって噂も本当らしいな。いやー参った・・・。楽しくなってきやがったぜ」
ガンマの電気をまとった炎がキツネからビリヤードのボールに変わった。
それを棒のような武器で素早く突いていく。
ボールは不規則に曲がりながら恭弥を襲ったけど、恭弥はギリギリのところでそれを交わした。
「あいにく、このショットの軌道には人が生きられるだけの隙間はないんだ」
「へぇ・・・。それはどうかな」
電気をまとったボールが飛び交う中、恭弥が一気に前へ出た。
それを見計らったかのようにガンマは「三番ボール」と呟き、ニヤリと笑う。
その時、三番ボールが恭弥の左手めがけて飛んでいった。
「・・・ぐっ」
「ビンゴ」
トンファーでボールを止めたがその勢いが強く、恭弥の腕にボールで押されたトンファーが当たった。
ドキっとして少しだけ近づくと、こっちへ来るなというように恭弥は私を見た。
その時――――二人の頭上で何かが少しづつ大きくなっていくのが見えて息を呑んだ。
「確かに全ては避けられそうにない。だから当たるのは、この一球だけって決めたのさ」
「・・・何ッ?」
「もう逃がさないよ」
ボールの合間を走りぬけ、恭弥がガンマへと向かっていく。
彼はまだ余裕の笑みで、「それとこれとは話が別だ」と、突然空中に逃げた。
「残念だな、雲雀恭弥」
ガンマが笑う。
が――――次の瞬間、彼の口から血が吐き出された。
「な・・・何だぁ・・・?こりゃあ・・・・」
ゆっくりと後ろを向いたガンマは、自分の体を貫いているものを見て唖然としている。
それは徐々に大きくなって行った、恭弥の放った球体の"ハリネズミ"だった。
丸い玉から無数の針が出ていて、それがガンマの体と彼の放ったキツネを貫いている。
「言ったはずだよ。逃がさないって」
「あのハリネズミ・・・か・・・」
「そう・・・。君のキツネの炎を元に彼がこれだけの針を発生させたんだ。まるで雲が大気中のチリを元に発生して広がるようにね」
「そーか・・・。雲属性のボックスの特徴は・・・"増殖"・・・だったな」
ガンマはグッタリとしながら呟いた。
「だが・・・こんな量の有機物を発生させられるなんて、うちの雲の奴からは聞いてない・・・。ナンセンスなボックスだぜ」
「素晴らしい力さ。ゆえに興味深い。――――さぁ、終わるよ」
恭弥がトンファーを構えて走り出す。
その時――――ガサガサっと背後で音がして、ドキっとした。
「あ・・・さん!」
「さ、沢田くん?!」
「あ、あれは・・・っ」
「――――遅すぎるよ、君達」
顔を出した沢田くんとラル・ミルチを見て、恭弥が笑った。
そのまま身軽な動作でトゲのある球体へと飛ぶと、ガンマめがけてトンファーを振り下ろす。
ガンマの体は更に深く針へ突き刺さり、辺りに血が飛び散った。
「きゃ・・・っ」
「・・・さん、見ちゃダメだっ」
ドサっとガンマの体が落ちてくる。彼が絶命する瞬間を見て、私は沢田くんにしがみついた。
今まで恭弥が戦ってきた姿は何度か見たことがある。
でも、相手の命を奪うところは初めて見た。自然と体が震えるのは仕方のない事だ。
「・・・雷のリングはいらないな」
恭弥が呟きボックスが閉じると、空中に浮かんでいた針の玉も消え、辺りは静けさを取り戻す。
恐る恐る顔を上げると、恭弥がジロっとこっちを見た。
「・・・何してるんだい?沢田綱吉」
「えっ?あ!!」
私の肩を抱いていた沢田くんは恭弥に睨まれ、慌てて手を離す。
恭弥は今まで戦っていたとは思えないほど涼しい顔で歩いてくると、私の腕をグイっと引っ張った。
「に触れるなんて・・・そんなに咬み殺されたいの?」
「い、いえ、とんでもないです!」
「やめて、恭弥!沢田くんは何も――――」
「もだ」
「・・・う」
「昨日あれほど勝手に出歩くなと言ったよね。なのに何故また出てきたの」
恭弥は怖い顔で私を見下ろした。彼はひどく怒っているようだ。
でも・・・私にだって言い分はある。
「ジンからメールが来たの・・・。でも誰かに頼もうにも皆、他の事で出かけてたし。恭弥に電話も繋がらなかったからそれで・・・」
「だったら放っておけばいい。ジンは勝手に僕の後を追って外に出たんだ。自業自得だよ」
「な・・・そんな言い方って・・・!あ、そうだ・・・っ」
そこで思い出し、慌てて倒れている皆のところへ走る。
するとそこには懐かしい顔があった。
「大丈夫。命に別状はありません」
「あ・・・草壁さん?」
「お久しぶりです。さん」
「お、お久しぶりです・・・」
相変わらず長いリーゼントと、草を咥えたその姿に顔が引きつる。
「あ、あの・・・ホントに大丈夫なんですか?」
血まみれで倒れている三人を見て尋ねると、彼は「ええ」と微笑んだ。
「特にジンさんは気を失っているだけですよ。とは言え、こっちの二人はすぐに治療が必要だ。すぐにアジトへ運びましょう」
「お、お願いします・・・」
傷らだけの獄寺くんと山本くんを見て涙が浮かぶ。
あのままだったら確実に二人は殺されていた。
「・・・」
そこへ恭弥が歩いてくる。
「君も戻るんだ」
「恭弥・・・」
腕を掴まれ彼を見上げる。同時にさっきの光景が浮かび、ぎゅっと胸が痛くなった。
そこへラル・ミルチが歩いて来た。
「待て。戻るのはいいが負傷者もいる。今彼らを抱え、あの距離を引き返しハッチに戻るのは危険だ」
「その心配はいりません。我々の出入り口を使えば」
草壁さんがそう言うと、恭弥は黙って指輪を外した。
すると何処からかゴゴゴ・・・っと音が響いて、恭弥が小さな祠の前に立つ。
「隠し扉だ。ここから僕らのアジトへ入れる」
「なるほど・・・凄いや」
沢田くんは感心したように呟いた。
そこの入り口から草壁さんが怪我人を運び入れる。
祠の中に吸い込まれるように入っていく彼を見て少しだけ驚いた。
「さあ、僕らも戻るよ」
皆が入ったのを確かめた後、恭弥が私のところへ歩いて来た。
まだ怒ってるのか、どこか不機嫌そうだ。
「・・・・・・?」
「ごめんなさい・・・」
またしても彼に助けられ、心配させた事を素直に謝る。
恭弥は小さく息を吐くとそっと抱き寄せてくれた。
「・・・といると・・・心臓がもたない」
「・・・う・・・ご、ごめ・・・」
「僕が間に合わなかったら、どうなってたと思う・・・?」
「うん・・・」
「君は狙われてるんだ。少しは自覚してくれないと」
恭弥はそう言うとぎゅっと私を抱きしめた。
その力が強くてドキっとする。
「そう言えば・・・さっきの男、私を殺そうとしたけど途中でやめたの・・・。何でだろ」
「・・・・・・」
ふと思い出した事を口にすると、恭弥の息を呑む気配が伝わってきた。
どうしたのかと顔を上げると、恭弥は顔を強張らせている。
その様子が気になって、「どうしたの?」と少し体を離した。
「とにかく・・・戻ろう」
「う、うん・・・」
恭弥は何も答えないまま触れるだけのキスを落とすと、私の手を引いて隠し扉の中へと入った。
――――イタリア
「――――何だって?ガンマが?」
『はい。どうやら先に見つけたようです。一応、リストから外した事は伝えてあったのですが・・・』
「まさか奴は彼女を――――」
『いえ、その心配はありません。捕らえようとした時、雲の守護者が来て――――奴は負けたようです』
その報告を聞いて、男はニヤリと笑った。
派手な装飾のついた白のコスチュームをまとい、目にも独特のメイクをしている。
モニターに映っている日本人の男――入江正一――は彼の事を『白蘭サン』と呼んだ。
『どうします?』
「そうだなぁ・・・。っていうか・・・ガンマの奴は何で彼女を?」
『・・・きっと彼女を使い、白蘭サンに一泡吹かせようと思ったのではないですか』
「ふーん。まあ・・・ありえるね。彼、何気に腹黒いとこあるから・・・。じゃなかった。"あったから"だっけ」
白蘭と呼ばれた男は楽しげに笑うと、テーブルの上にあったマシュマロをポイっと口の中へ放り込んだ。
「で、彼女の今いる場所は当然、分かったんだよね?」
『僕の部下が確認したところ・・・やはり雲の守護者のところかと思います』
「・・・ふーん、先に彼が見つけたのか。何だか・・・妬けるね」
面白くなさそうに目を細めた白蘭に、モニターの向こうの入江正一は苦笑いを浮かべた。
「正チャンさぁ。前に頼んであった事、頼めるかな」
『・・・また仕事増やす気ですか』
「まあ、そう言わないでさ。計画は順調に進んでるんだろ?その合間にちょちょっとやってくれればいいから」
『簡単に言いますね。相手はそう簡単に穴倉から出てきませんよ』
「それを上手く引っ張り出すのが正チャンの腕のみせどころだろ?」
ニッコリ微笑む白蘭に正一も溜息をつきつつ、分かりました、と項垂れた。
こうなれば彼が引かない事を良く分かっている。
まあ、でもそれほど言ってくる理由も正一には分かっているから敢えて逆らわない。
『では・・・念のため考えていた計画を実行します』
「うん。頼むね、正チャン♪僕、楽しみにしてるから」
『成功したらすぐに連絡をします』
「そうだね。僕もその時の為に準備をしておくよ」
白蘭はそう言って微笑むと、モニターのスイッチを切った。
「・・・楽しみ、だなぁ」
満面の笑みでそう呟くと、白欄は出された紅茶を美味しそうに飲み干した。
「――――やっと、
君に会える」
そう呟いてクルリと椅子を回転させる。
それを後ろで見ていた部下が訝しげに首を傾げていた。
今日のアニメを見て、入江正一がいつツナ達と会っていたのかが分かりました(笑)
あの時の少年だったんですねー
原作では短編で登場してましたけど、リボーンって最初の頃、一話完結っぽい話ばかりだったので、まさかそこで登場したキャラが
今更出てくるとは思ってませんでした(;^_^A
いつも投票処へのコメント、ありがとう御座います!<(_ _)>
■ココの雲雀さんが一番しっくりと来ます!!^−^(その他)
(そう言って頂けて感激です(*TェT*)
■また以前のヒロインさんで雲雀さん連載を読めるのが嬉しいですww頑張ってください!!(高校生)
(喜んで頂けて嬉しいです!これからも頑張りますね♪)