Nessuno ha bisogno la ferisca.

※R18(性的表現あり)






いつものように任務をこなし、アジトへと戻る。
一週間もかかったせいで酷く疲れていた。
ターゲットの男を見つけるのに苦労したのもあったが、その男の往生際の悪さに、ほとほと嫌気がさした。
任務を遂行する時、殆どの場合はその相手が何故殺されるのかなんて聞きやしない。
今日、狙った奴の事も詳しい事は知らないし、知りたくもないが、どこかのファミリーの幹部であった事は間違いないだろう。
大勢の部下を引き連れ、転々と場所を移動して逃げ回っていた。
その男を、やっと見つけたと思えば、次から次に雑魚が向かってくる。
そいつらを全て切り殺した後、ターゲットを追って行ったが、男は観念するどころか、散々逃げ回ってくれた。
最後、追い詰め、その男に剣の切っ先を突きつければ、今度は泣き落としの命乞いを始める始末。
あげくヴァリアーの、このオレを金でつろうとまでしやがった。


「こ、殺さないでくれ!金なら欲しいだけやる!だから見逃してくれ!頼む!」


そう泣きついてオレの足にしがみ付いてきた男を見て、オレは心底、吐き気がした。
大の男がオレの靴を舐める勢いで顔をすりつけ、「殺さないでくれ」と泣いている。
そんな情けない男を守る為に、オレに切り殺された奴の部下達が哀れにさえ思えた。


「う゛お゛ぉい!てめぇ、オレ様を買収しようっていうのかぁ?相手が悪すぎるぞぉ!」


こんなゴミみたいな男を殺すのに、何のためらいもなかった。
金などいらない。
オレの剣技を思う存分に味わわせてやるだけだ。
足元にひれ伏していた男の背中を一突きにし、断末魔を上げる男の首を一気に刎ねた。
動物の雄たけびのような声が一瞬で途絶え、静かになった時はホっとしたものだ。
その首を持って、雇い人の下へと持って行き、そこでやっと、この長く下らない追いかけっこが終了した。
報酬は倍額。
手間隙をかけたのだから当然だ。
あんなゴミを殺すのに、これほどの時間がかかった事が腹立たしい。
今夜はシャワーでも浴びてサッサと眠りにつきたかった。

アジトに戻ると、ちょうど他のメンバーも戻って来ていた。
顔を合わせても、特に話すこともなくエントランスへと向かう。
そこには金を目的とした女どもが集まりだしていて、オレを見つけるとすぐに甘い声を出して近づいてくる。


「ねぇ、今夜どう?」
「・・・・うるせえ。離せぇ」


腕に絡み付いてくる女の細腕を掴み、睨みつける。
だがこの手の女はこれくらいじゃ引く気配すらない。
更に身体を密着させ、豊満な胸をオレに押し付けてくる。


「疲れた顔してるわね、スクアーロ。そういう時は女が欲しくなるでしょ?」


女の身体を押しのけ、歩き出す。
だがすぐに、また別の女が近づいてきた。


「どんな女がお好み?」
「あ゛ぁ゛?」
「私なら色々と楽しませてあげられるけど。試してみない?」


そう言って妖しく微笑む女は他の女より少し華奢で、長く綺麗な黒髪をしていた。
確かこの女も、あのババァのところで雇われてる女だ。
そこで、ふと一週間ほど前に買った女を思い出す。
月が綺麗な夜、庭先で見つけた女・・・・と名乗っていた。
あの次の日に例の任務が入り、あれから会ってはいない。

不思議な女だった。
は朝まで他愛もない話に付き合い、時間が来て帰る時も、決して金は受け取らなかった。


「何もしてないんですから、もらえません」


その一点張りで、オレは戸惑うばかりだった。
そんな女、会った事もない。
は娼婦なんて仕事をしてるクセに、処女だった。
それが理由で抱けなかったわけじゃないが、何となく、ただ傍にいて欲しい、と思うような、そんな柔らかい空気を持つ女だ。
しかも初めてのキスを、オレに許してくれた・・・・。

彼女はあれから、どうしていたんだろう。
任務を遂行している間は他の事など一切、考えないでいられる。
だが、ここへ戻ってくると、ふと気になり視線だけで彼女を探した。
あれから一週間も経っている。
もしかしたら、すでに身体を奪われているかもしれない。
だが一ヶ月も男に呼ばれなかった彼女の事だ。
もしかしたら、まだ――――。

そんな淡い期待を持って、続々と現れる娼婦の中に彼女の姿を探す。


「ねぇ、どうするの?スクアーロ」


目の前にいた黒髪の女は何も応えず、突っ立ったままのオレに焦れたのか、腕を引っ張ってきた。
他の女どもと違い、馴れ馴れしく腕を絡めてこない、その態度はいいが、あの夜の時ほど胸をざわつかせるものじゃない。


「ねぇ、どうしたの?」
「う゛お゛ぉい。あの女はどうしたぁ」
「・・・・あの女?」


視線を他の娼婦どもに戻しながら尋ねると、黒髪の女は訝しげに眉を寄せる。


「お前と同じ、黒い髪の女だ」
「あら、黒い髪がお好み?なら私でも――――」
「うるせぇ、聞かれた事に応えろ、女ぁ」


ジロっと睨みつければ、女は諦めたように息を吐き出し、肩を竦めた。


「黒い髪の女なんて沢山いるじゃない。誰の事、言ってるの?」
、としか知らねぇ。お前のとこにいるだろう?」


名前を告げると、女は驚いたように目を見開いた。
綺麗にブローされた睫がぱちぱちと動く。


って・・・・あの子供みたいな子のこと?」
「知ってんのかぁ?」
「そ、そりゃ知ってるけど・・・・あんな子供がいいわけ?あの子なんてまだ経験も浅いし、私の方がよっぽど――――」
「・・・・う゛お゛ぉい!今、何て言ったぁっ?」
「きゃっ」


グイっと手首を掴むと、女が驚いた顔でオレを見上げた。


「な、何よ、急に・・・・。ビックリするじゃない」
「"経験が浅い"だと?」
「え・・・・?」
「あの女・・・・処女だったろうがぁ」
「な、何でそんなこと知ってるのよ・・・・」


女は更にビックリしたように目を瞬かせたが、すぐに意味深な笑みを浮かべた。


「もしかして・・・・処女の子とヤリたかった?」
「うるせぇ!おろされてぇのか、てめぇ!サッサと応えろぉ」
「わ、分かったわよ・・・・」


オレの怒声に怯えたように肩を竦めると、女は小さく溜息をついた。


「あの子なら・・・・とっくに食われちゃってるわよ。ベルのお気に入りになったみたいだからさ」
「ベル・・・・?ベルフェゴールかっ?」
「一昨日、だったかな?何か知らないけどベルがあの子に目をつけて。その時に邪魔しに入った私らの仲間が殺されて、ちょっとした騒ぎになったのよ」


女は自分が見た事を思い出すように、身震いさせて首を振った。


「あの子もその場にいて、ベルがどんな男だって分かったはずなのに、素直に呼ばれて行ったみたいだけどね。まあ拒んでも殺されるんだから同じよね。
ただあの子、それまで上手く客を捕まえられなかったし処女だって噂では知ってたから、最初の男がベルだなんて悲惨ねって話してたとこ。でも結局、ベルはあの子を気に入って今じゃ毎晩、呼んでるみたいよ?」
「毎晩・・・・?」


饒舌に話す女の言葉に、何故か胸の奥がざわついた。


「ええ、今日も一番にあの子を呼びつけて部屋にこもっちゃってるしね」


そう言ってメンバーのプライベートルームへと続く廊下を顎で示す。
女の話を聞いて、あのベルがを組み敷いている姿が脳裏に浮かび、慌てて消し去った。


「でも・・・・意外ね。スクアーロもああいう子が好みなの?」
「・・・・そんなんじゃねぇ」
「なら・・・・今夜は私でいいでしょ?黒髪だし・・・・」


女はそう言いながら、オレの手をぎゅっと握り締めた。
その体温で、脳裏に浮かぶのはの細く滑らかな手だった。
オレの髪を綺麗だ、と言いながら触れていたあの綺麗な指先を思い出し、ゾクっとしたものが背筋を走る。


「どうする?スクアーロ。嫌なら私は別に――――」
「ふん・・・・なら、一緒に来い」


握ったままの手をそのまま引っ張り、オレは自室へと歩いていく。
女は妖しい笑みを浮かべて素直についてきた。
本当なら疲れた身体を休ませたかったが、込み上げてくるものを抑えられない。
途中、ベルフェゴールの部屋の前を通った。
無意識に視線が向いてしまう。
今、この部屋の中で、あの細い身体を、ベルが好きなようにしているのか、と思うだけで胸の奥がざわついた。
それと同時に、こんな事で心を乱している自分に失笑する。

は娼婦だ。
呼ばれれば素直に従うしか術はない。
借金があるのなら尚更だ。
いつまでも清らかな身体のまま、いられるわけなどなかった。

そう分かっているのに、何故かの、あの綺麗な笑顔が頭から離れなかった。
たった一度、買っただけの女。
それも抱いたわけでもなく、ただ一度、キスをしただけの女なのに。

あの時の彼女の小さく、柔らかな唇を思い出し、また胸がざわつく。
オレを受け入れたあの唇が、今はベルを受け入れてるのか、と思うと、どす黒い感情が込み上げてくる。

バカな――――。
あの女は娼婦だ。
娼婦に情を持ってどうする。

ベルの部屋の斜め向かいにある、自分の部屋のドアにカードキーを差し込み、女を押し入れる。
女は乱暴ね、と軽く文句を言いながらも、後ろ手にドアを閉めたオレを妖しく見つめた。


「どうして欲しい?」


妖しくぎらつかせた目はひどく貪欲で、これまで、どれほどの男を咥え込んできたのか、安易に想像がつく。
だが華奢な体つきと、綺麗な黒髪は、触れてみたい、と思わせるくらいのものはあった。


「・・・・ぁっ」


乱暴に女の細腰を抱き寄せ、首筋に顔を埋める。
荒々しく舐め上げれば、女の身体が僅かに震えた。
ゆっくりと鎖骨まで舐め上げ、ざっくりと開いた胸元に顔を埋めると、甘い声が女の喉から洩れ聞こえてくる。
肩に手を伸ばし、服をスルリとおろせば、何も身につけていない女の小降りの胸が露になった。


「ぁ・・・・ン・・・・。ここでするの?」
「・・・・黙れ」


女はまだ何もしていないのに息を乱している。
ツンと上を向いた胸の先を舌先で軽く転がしただけで、女の身体がビクンと跳ねた。
チラリと女を仰ぎ見れば、恥じらうように視線を反らす。
反応もよく、何人もの男と寝てきたと分かるほど、オレの舌先に応えるクセに、そんな顔をするのは、わざとなんだろう。
だがその女の演技は、オレの中の欲望を一気に溢れさせた。
背中に腕を回し、そのまま腰へと滑らせる。
ドレスのスカートをそのまま捲り上げると、形のいい尻が露になり、その窪みへと指を這わせる。


「・・・・ぁっ・・・・ゃ・・・・あっ」


胸の先を口に含みながら、指を下着の中へ滑り込ませ、すでに潤んでいる場所を擦り上げた。
その瞬間、ビクビクと身体が跳ね上がり、小刻みに震える。
卑猥な水音をさせながら、何度か潤んだ窪みを指で擦ると、女の敏感な場所がひくついているのが分かった。


「・・・・ぁ・・・・ん・・・・焦らさないで・・・・」
「・・・・もう欲しいのか?」


鼻で笑い、指の動きを早くすれば、女は喉をのけぞらせて快感に震えた。
たっぷりと蜜で濡らした指先で女の入り口を突付くと、オレの首に女が腕を回してくる。
入り口付近で指を抜き差しするだけで、女は何度も喘ぎ声を上げ、腰を押し付けてきた。


「も・・・・ゃ・・・・お・・・願い・・・・」
「・・・・降参すんのが早いなぁ。我慢しろぉ!」
「・・・・あぁ・・・・!やぁ・・・・っも・・・・もっと突いて・・・・く・・・・っ」


奥までは入れず、あくまで浅い所を擦り上げる。
指一本に翻弄され、腕の中で悶え苦しむ女をオレはどこか冷めた目で見ていた。
身体は熱いのに、高揚感はない。
俺の意識は、向かいにある部屋へと向かっていた。


「・・・・ぁあ・・・・っスクーアーロ・・・・!も・・・・ダメ・・・・ぉ・・・・願い・・・・」


胸の尖りを転がしながら指で何度も入り口を犯すと、女の方から脚を広げて来た。
もっと奥まで欲しいという意思表示だろう。
貪欲な女の欲情に失笑しながら、お望みどおりのものをやる。
指を二本に増やし、一気に押し込めば女の身体が反り返るように跳ねた。
指をギュッと圧迫され、中がひくついているのが分かる。
焦らした効果なのか、どうやらこれだけで呆気なく達したようだ。


「こんなんでイったのかあ?」
「あ・・・・っあぁっ」


再び指を動かせば、女は狂ったように喘ぎ出した。
イったばかりで敏感になっているのか、何度となく女の身体がビクビクと痙攣する。
もっと、もっとと言わんばかりに指を締め付けてくる女に、どこか苛立ちを感じながら一気にそれを引き抜いた。


「舐めろ」
「ん・・・・っ」


引き抜いた指を女の口に押し込むと、女は素直にそれを舐め始めた。
指は女の蜜でびっしょりと濡れているにも関わらず、ピチャピチャと卑猥な音を立てて物欲しそうに舐めている。
その恍惚とした表情は、娼婦そのものだった。
こんな顔を、あの少女もするのだろうか、と、ふと思う。
今、この瞬間、ベルにこんな顔を見せているのか。
そう思うと、自分でも分からない欲情が込み上げてきて、女の口から指を引き抜いた。


「・・・・こっちも舐めろよ」


顎で自分のモノを指し示すと、女は言われたとおりオレの前に跪き、昂ぶったものを取り出した。
女の小さな口に自分のものが含まれていくのを見下ろしていると、変な興奮が襲ってくる。
黒い髪、華奢な身体・・・・
まるでがそうしているような錯覚を起こす。
こんな行為には慣れてるはずなのに、おかしいくらいに気分が高揚し女の口に腰を押し付けた。
だがそれとは逆に、頭の芯はひどく冷めたまま。
妙な苛立ちは今もまだ消えずに、そこに留まっている。
その苛立ちをぶつけるように腰を使い、女の口を犯して行く。
女は苦しげな声を上げたが、構わず激しく打ち付けた。


「・・・・ん・・・・んぅ・・・・ちょ・・・・」
「しゃべるな。集中しろぉ」


喉の奥まで突き立てると、女は抗議をするかのようにチラリとオレを仰ぎ見た。
その視線すらオレの苛立ちを増幅させ、何度も奥まで突っ込んだ。
女はもはや舐めるといった事も構わず、ただオレのモノを出し入れされるがままの人形のようだ。
粘膜の張り付く感触と、動くたびに卑猥な水音が響く。
女の髪に指を通し奉仕させていると、ゾクリとしたものが背筋を走った。
指から伝わる柔らかい髪は、あの少女のものと錯覚させる。
それだけで足元から快感の波が押し寄せ、女の口の中で大きく跳ねたのを感じた時、


「・・・・くっ」


脳裏を掠める綺麗な笑顔を打ち消すように、オレは女の口の中に全てを吐き出した。
出されるとは思ってなかったんだろう。
女は口の中のものを吐き出し、ゴホッゴホッと咽ている。
そして恨みがましい目つきで、オレを睨んだ。


「・・・・ヒ、ヒドイじゃな・・・・い。息が出来なかったわ・・・・」
「それが仕事なんだろーがぁ」


全てを吐き出した事で倦怠感が襲ってくる。
オレは女をその場に残し、バスルームへと向かった。
服を脱いで簡単にシャワーを浴びる。汗と体液を全て流すと、髪を拭きながら部屋へと戻った。
そこには帰ったと思った女が服の乱れを直した状態で煙草を吹かしている。


「自分だけシャワー浴びたの?」


文句を言いながら煙を吐き出す。
女を無視して、奥の寝室へと向かう。
さっきまであった疲れが一気に襲ってきたようで、ひどく眠い。
その時、ベッドに横たわるのと同時に女が入って来た。


「続きはここでする?」


そう言いながらベッドの上に這い上がってくる。
オレのバスローブの紐を解き、艶っぽい笑みを浮かべる女に軽く舌打ちをした。


「お前にもう用はねえ・・・・。帰れ」
「な、何よ、それ・・・・っ」


オレの一言に女は顔を赤くした。
娼婦でも自尊心というものがあるらしい。


「口で奉仕させて終わりってこと?冗談じゃないわっ」
「お前もイカせてやっただろーが」
「な・・・・あれだけで終わりなんてヒドイじゃない」
「お前は娼婦だろぉ?男に奉仕して金をもらってる。オレがあれで十分だっつってんだからいいだろぉが。イカせてやったんだ、感謝くらいしろぉ」
「な・・・・」
「ほら、金だ」


まだ何か言いたげな女の顔に、札束をぶちまける。
それには女も驚いたような顔をした。


「ちょ・・・・こんなに?あれだけで?」
「うるせぇぞぉ・・・・?オレは疲れてんだ・・・・。金もって消えろ」


寝返りを打ち、女に背中を向ける。
この一週間、まともに寝てなかったせいで酷く眠い。


「・・・・分かったわよ。ありがたく頂いてくわ」


金額を見て納得したのか、女はそう言うとベッドから下りたようだった。


「私、ルカ。また気が向いたら呼んでちょうだい」
「・・・・ああ。気が向いたらな・・・・」


睡魔の襲う頭で小さく応える。
だが、ドアの閉まる音を聞いた途端、オレは眠りの中に引きずり込まれるように意識を失った。






どれくらい眠っていたのか、ふと目が覚めた。
時計を見れば午後の11時過ぎ。あれから4時間ほどしか経っていない。


「チッ・・・・」


中途半端な時間に目が覚めたもんだ、と舌打ちをする。
喉の奥がひどく乾いていて、何故目が覚めたのかが分かった。
重たい体を起こしてリビングに向かうと、部屋に設置してる冷蔵庫からぺリエを取り出し一気に飲み干す。
微量の炭酸が喉を刺激し、全て飲みきった。
もう一眠りするか、と瓶をテーブルに置き、寝室へと向かう。
だがその時、廊下の方でかすかにドアの閉まる音がしてオレは立ち止まった。

(誰かが呼んだ女でも帰るのか・・・・?)

そう思いながら再び寝室へと歩き出す。
が、ふと気になり、すぐにドアの方へと戻った。
今、聞こえてきたヒールのような靴音が妙に近かったからだ。
この部屋の真向かいにはルッスーリア、そしてベルとは反対隣にマーモン。
二人とも娼婦など呼ばないはずだ。
ルッスーリアは専門の店に自ら出向くし(想像するのも怖い)
マーモンは女よりも金にしか興味がない。
しかもこの時間、ルッスーリアは不在が多く、マーモンは早寝をしている時間だ。
この部屋の左右隣は誰も使ってないから、誰かが出歩くはずはない。


(と言う事は・・・・ベル、あるいは――――)


そっとドアを開けてみると静かな廊下に一つの小さな影を見つけ、思わず呼び止めた。


「う゛お゛ぉい」
「・・・・きゃ」


突然、呼ばれて驚いたのか、その小さな影はビクっとしたように身体を揺らした。
そして恐る恐る振り返ったのは、思ったとおりの人物だった。


「あ・・・・スクアーロ・・・・さん?」


相変わらずの呼び方に、思わず苦笑する。
だが呼ばれた事でこっちに歩いて来たはオレを見るなり、いきなり顔を赤らめ視線を反らした。


「どうした?」
「あ、あの・・・・前・・・・」
「あ?」
「前が・・・・肌蹴て・・・・ます・・・・」


その言葉に自分の格好を見下ろせば、着ていたバスローブの紐が解かれ前が肌蹴ている。
しかもシャワーを浴びた直後と言う事もあり、下には何も見につけておらず素っ裸の状態だった。
と言ってオレは男だし特に気にする必要もない。
しかも目の前にいる少女は、幼く見えるとは言え、一応娼婦だ。
いつもなら全く気にしないところだ。
だが真っ赤になって顔を背けているを見ていたら、何故か急に恥ずかしくなった。とりあえず前を隠し紐を結ぶ。


「わ、悪い・・・・」
「い、いえ・・・・」


何でオレが謝ってんだと思いながらも、恥ずかしそうに俯いているに、つい笑みが零れる。
こんな気持ちなどオレにあるはずもないと思っていたのに、あの夜と同じように目の前にいる少女が可愛い、とさえ思った。

(・・・・ん?待てよ?)

そうだ・・・・さっき呼んだ女、そう確かルカと言ったか。
ルカが話してた事によれば、はベルフェゴールに呼ばれ、抱かれたという事だった。
なのに何故、まだこんなにも恥ずかしがってるんだろう、と不思議に思う。


「あ、あの・・・・」


黙ったままのオレに気まずさを感じたのか、はおずおずと顔を上げる。
その顔を見た時、オレは無意識のうちに彼女のその細い腕を掴んでいた。


「え、あの」
「もう帰るのか?」
「は、はい・・・・」
「アイツは・・・・?」


そう言ってベルフェゴールの部屋の方を見る。
はドキっとしたようにオレを見て、すぐに目を伏せた。
アイツに抱かれた事を知られてるのが恥ずかしいのか、小さな声で、「寝てしまって」と呟く。


「今日は泊りじゃないし0時までに帰ろうと思って・・・・」
「泊まりじゃないって何でだぁ?」
「あ・・・・ベルフェゴール様が明日は朝早くから任務があると・・・・」


"ベルフェゴール様"か。
脳裏に、あのアイツの厭らしい笑みが浮かび、オレは内心、舌打ちをした。
あの男が彼女を好きなようにしている、と思うと、またさっき感じた苛立ちが込み上げてくる。
女に奉仕させた事で収まっていたはずなのに、また胸の奥から嫌なものが沸々と湧いてくるようだ。
一体、どうしたというんだ?


「あ、あの・・・・スクアーロさん・・・・?」
「じゃあ今からお前は誰のものでもなく、自由って事かぁ?」
「え、あ・・・・はい・・・・」
「じゃあオレが泊まりで買ってやる」
「・・・・え?」
「・・・・嫌か?」


そう問いかけた自分に対し内心苦笑する。こんな事、娼婦に聞いた事なんか一度もない。
そもそも買う方に選ぶ権利があり、命令できる。
なのに何故オレはの気持ちを聞こうとしてるんだろう。


「い、嫌じゃないです。でも・・・・いいんですか?さっき誰か呼ばれたんじゃ・・・・」
「・・・・あっ?」


いきなりそんな事を言われ、らしくもなくドキっとした。
何故オレが女を呼んだ事を、が知ってるんだろう。
そう思っている事に気づいたのか、は、「ご、ごめんなさい」と謝った。


「さっきベルフェゴール様がそう言ってたから・・・・」
「・・・・アイツが?」
「はい・・・・。女性の声がしたらしくてスクアーロさんも女を呼んだようだって・・・・」
「・・・・チッ」


思わず舌打ちをしたオレに、はビクッとしたようだった。
怖がらせないよう、気にすんなとだけ告げる。
確かに廊下で話せば多少の声は聞こえる。
男か女か、判別できるくらいには。
それにルッスーリアとマーモンが女を呼ばない事は誰でも知っているし、そうなれば後はオレしかいないと思ったんだろう。


「あの・・・・」
「いいんだ。いいから一緒に来い」
「は、はい・・・・」


の小さな手を握ると、彼女はやっと笑顔を見せて頷いた。
それにホっとしている自分がいて、何をバカな、と失笑する。
だけど会ってしまえば、この前のように帰したくなくなった。


「好きに座ってろぉ」


部屋に戻り冷蔵庫からビールを取り出す。
見ればは大きなソファにチョコンと腰をかけて、まるで借りてきた猫のように見えた。


「ほら。酒は飲めるか?」
「あ・・・・あの少し、なら・・・・。弱いですけど・・・・」
「じゃあ他の物でも――――」
「い、いいです。大丈夫です」


は慌てて顔を上げると、オレの手からビールを奪い、「い、頂きます」と言ってからそれに口付けた。
瓶の先が彼女の小さな唇に吸い込まれるのを見て、慌てて目を反らす。
先ほど受けていた行為が頭を過ぎったからだ。
ガラにもなく顔が熱い。
それを誤魔化すように、ビールを一気に口へと流し込む。
ふと視線を下げれば、はオレを見上げていて、大きな瞳の中にオレが映っているのが見えた。


「あの・・・・最近見かけなかったですけど・・・・任務ですか?」
「ああ・・・・今日戻ったばかりだ」


そう言って彼女の隣に腰をかけると、は「お疲れ様でした」とバカみたいに頭を下げる。
それには思わず笑ってしまった。


「お疲れ様、なんて言われたことねーなぁ」
「え、そうなんですか?でもお仕事してきたんだし・・・・」
「お仕事・・・・って・・・・。まあ・・・・そうだけどよ」


人を殺す事を"お仕事"と言われると、妙な感じがして苦笑した。
そんなオレを見ながら、はニコニコしてビールを口に運んでいる。
その姿は会った時と同じで、とても無邪気に見えた。
彼女が本当にあのベルに抱かれているのか?なんて考えるとどうも信じられない。


「あ、そうだ・・・・私、お仕事出来たんです」
「あ?ああ・・・・聞いた」
「え、誰から・・・・」
「さっき呼んだ女だ。ルカとか言ったな・・・・。お前と同じところにいるだろう?」
「あ、ルカさん・・・・。そうだったんですか・・・・」


は思い出すように視線を彷徨わせている。


「ベルが・・・・お前を呼んだって?」
「あ・・・・はい」
「何か・・・・ヒドイ事されなかったか?お前、初めてだったんだろ?」
「あ、あの・・・・最初はちょっと怖かったんですけど・・・・ベルフェゴール様は凄く優しくしてくれます。怖い噂とか遊び人、なんて噂があったけど、ホントは面白い方なんですね」
「・・・・・」


ニコニコしながら、そんな事を言うに、オレは呆気に取られてしまった。


(優しい・・・・?面白い・・・・?アイツが?)


そんな形容詞、最もアイツから遠いものだろうが。
ヴァリアーの中でも"天才"と称されるベルフェゴールは、サディストとしても有名だ。(まあオレも人の事は言えねえが)
今までしてきた悪行は全て知っている。
ここに来たての頃は、相当キレてる奴だったし、抱いた女を次から次に殺した事だってある。
今はボスの目があるからか、大人しくしてるが、それだって、いつまで持つかどうか。
自分の血を見て興奮してるさまは、まさにイカレ野郎としか思えないほど、異様だ。
そんなアイツの事を、優しいなんて、は男を見る目がないと言える。
まあ男を知ったばかりの少女に、そんな事まで分かるはずもないが・・・・。

そんな事を考えていると不意に目の前がかげり、至近距離であの黒い瞳と目が合う。
一瞬、ドキっとしてソファに凭れかかった。


「どうしたんですか?そんな難しい顔して・・・・」
「べ、別に何でもねぇ・・・・」
「あ・・・・じゃあ・・・・あの・・・・ベッドに・・・・行きます・・・・?」


恥ずかしそうに目を伏せながら呟くに、またしてもドキっとさせられる。
コイツはオレがそういう意味で呼んだと思ってるらしい。
まあ、この前の事は置いといても、二度目はさすがにそれが目的で呼んだと思われても仕方がない。
そう思いながらを見つめた。
華奢な身体つきは相変わらずで、身につけているドレスの上からだと、かすかにしか分からないような胸元。
男に抱かれたといってもまだ身体は幼く、色気など感じるものではない。
なのに、何故か引き寄せられる。
言ったとおり、アルコールは強くないようだった。
ほんのりと赤く染まった頬、そして唇――――。それは酷く甘そうだ。


「あ、あのスクアーロさん・・・・?」


黙ったままのオレを訝しげに見つめる瞳は、男を知ったとは言え、澄んだまま。
この瞳でアイツを見つめたのかと思うと、また心の奥がざわついた。


「・・・・別にいい。ここにいろ」
「で、でも時間がもったいないですし・・・・」


そう言ってはいきなり立ち上がった。
だがその拍子に足元がふらつき、オレは慌てて立ち上がるとその身体を支えた。


「す、すみません・・・・!私・・・・どうして・・・・」
「・・・・酔ってるんじゃねーかぁ?」


未だフラフラしているを見て、そう言うと、潤んだような瞳がオレに向けられた。
その艶っぽさにドキっとする。


「でもビールで・・・・」
「お前・・・・酒、飲んだことあるのか?」


オレの問いには困ったように目を伏せて、小さく首を振った。
それには思わず溜息が出る。


「飲んだ事ないならビールでも酔っ払う。無理して飲むなぁ」
「で、でもせっかくスクアーロさんが出してくれたし・・・・」
「バ・・・・バカじゃねーのかぁ?オレが飲めって言ったら飲めない酒も飲むってのか」
「・・・・はい」


オレの問いにコクンと頷くに、また溜息が出た。


「だ、だって・・・・スクアーロさんは私に初めて優しくしてくれた人だから・・・・」
「・・・・う゛お゛ぉい、別に優しくした覚えはねーぞぉ?」
「で、でも!私は・・・・嬉しかったから・・・・」


あまりに必死に訴えてくるに言葉が詰まる。
その瞳は真剣で、本当にオレを慕ってるように感じた。
あまりに無防備なその姿に、身体の奥から言い知れない思いが込み上げてくる。


「バカじゃねえのかぁ・・・・?。オレは・・・・お前を金で買った男だろ」
「お金は・・・・もらってませんから・・・・」


そう言ってオレの胸元にコツンと頭がぶつかるくらい俯いたに、たまらなくなって抱きしめた。
すっぽり入ってしまうほど細い身体を抱きしめると、さっきとは違う高揚感がオレを包む。


「ス、スクアーロさ・・・・ひゃっ」
「少し横になれ」


そう言って彼女を抱き上げる。 思ってた以上に軽くて、驚いた。


「すげー軽いぞぉ?ちゃんと食ってんのかぁ?」
「あの・・・・スクアーロさん・・・・?」


そのままベッドにを寝かせるとオレも端に腰をかけ、起き上がろうとする彼女の肩を押し戻した。
その行動にひどく驚いたように、大きな瞳をパチクリとさせている彼女に、ふと笑みが零れる。


「酔ってフラフラされちゃオレも困る。アルコールが冷めるまで寝てろ」
「で、でも、それじゃ仕事に――――」
「今日はこれが仕事だぁ。言う事、聞け」


そう言いながら、そっとの頭を撫でると、柔らかい髪が手に吸いついてきた。
ああ、この髪だ、とその感触を楽しむかのように彼女の頭をゆっくりと撫でる。
困った顔をしていたも、さすがに動いてアルコールがまわったのか、大人しくなった。
撫でられて気持ちがいい、というような顔でゆっくりと目を瞑る彼女は、やっぱり子猫に似ていた。


「・・・・スクアーロさんの手、気持ちよくて寝ちゃいそう・・・・」
「寝てもいいって言っただろーが。目ぇ瞑ってろぉ」
「でも・・・・寝たくないです・・・・」


そう言って目を開けたと、視線が絡み合う。
アルコールで潤んだ瞳はとろんとしていて、妙に艶っぽい。
先ほど吐き出したはずの欲望が小さく身体の奥で蠢くのが分かり、オレはその瞳から視線を外した。


(何を遠慮してるんだ・・・・?相手は娼婦だっていうのに・・・・こんな風に介抱するなんて、らしくねえ・・・・)


いつだって、さっきの女と同じように好き勝手してきたはずのオレが、こんな少女一人に心を動かされてる。
認めたくないものがどんどん近づいてくるようで、オレは思い切り頭を振った。


「スクアーロさん・・・・?どうしたんですか・・・・?」


小さな手が胸元へと伸びてくる。 ぎゅっと掴まれたバスローブが僅かに肌蹴た。


「あ・・・・ご、ごめんなさ・・・・」


が慌てて手を引っ込めようとした。
だがオレはその手を掴み、の上に覆いかぶさる。
ワケの分からぬ感情と欲情が、オレの中に渦巻いていくのを感じた。


「ス、スクアーロさ・・・・ん、ぅ」


遠慮する事はない、と頭の中で声がして、オレは奪うようにの唇を塞いだ。
その突然の行為に、の身体が強張る。
それをほぐすように、僅かな隙間から舌を差し入れた。


「ん・・・・ふ・・・・っ」


小さな舌を絡めとり何度も吸い上げると、ピチャっと音が跳ねる。
それに敏感に反応して、がオレの胸元を掴んできた。

(・・・・怯えている)

彼女の反応で、一瞬、舌の動きが止まった。

やめろ、怖がらせてどうする。

そんな声とは裏腹に、

かまうな、この女は娼婦だ。ベルフェゴールに調教されて、もっと凄い事をしてるさ。

と、もう一つの声が頭を駆け巡る。
触れ合っている唇の柔らかさと、胸元を掴んでくる震えた小さな手。
二つの感覚が同時に脳へと送られてくる。
最後の最後に勝ったのは理性で、オレは咄嗟に彼女の唇を解放した。


「ス、スクアーロさん・・・・?」


息を弾ませ、潤んだ瞳でオレを見上げるは、いきなりキスをやめたオレを訝しげに見ている。
それでも胸元を掴んだ手は、やっぱり震えたまま。
怖いけど、拒絶はしない。
そう言われてるような気がした。


「あの・・・・」
「・・・・悪い。乱暴にして」
「え、あの・・・・」


つい、そんな言葉が口から零れた。
自分で聞いても耳を疑う。 いつからオレはこんなに優しくなったんだ?
バカらしい。 オレはいつもやりたいようにやってきたはずだ。
たかが娼婦の女、一人、怖がったからって何だって言うんだ。

そう思いながら、を気遣う自分を振り払うよう、頭を振った。
だがいきなり胸元を掴んでいた手に引っ張られ、華奢な身体の上に倒れこむ。


「お、う゛お゛ぉい!何すんだぁ?」
「あ、謝らないで下さいっ」
「・・・・あ゛ぁ゛?」
「べ、別に私なら何されても平気だし、だ、だから、そんな顔しないで・・・・」
「・・・・・っ」


そう言って必死に抱きついてくるに、思わず唖然とした。
ぎゅっとしがみ付く手は小さいのに、どこにこんな力があるんだと首を捻る。
が、その瞬間、肌蹴た胸元にの鼻先が当たり、ドキっとした。
よく見れば、はオレの裸の胸に顔を押し付けていて、直に温かい吐息が肌にかかる。


「う゛お゛ぉい、離せ」
「い、嫌です・・・・。今日こそは・・・・スクアーロさんに奉仕する為に来たんです・・・・っ」
「ほ、奉仕・・・・って、おま・・・・ぅ」


胸の尖りに吐息を感じたと思った瞬間、ヌルリとした感触がして、ビクっと身体が跳ねた。
見ればが真っ赤な顔で、舌先を伸ばしている。
それにはカッと身体が熱くなった。


「やめろぉ、う゛お゛ぉいっ」


慌てて自分の身体を両腕で支えると、彼女の顔から離れる。
ドクドクと心臓が波打っているのが分かり、腰まで疼きだした。
自分の下には真っ赤になりながらも泣きそうな顔で見上げてくる少女。
普通の男なら到底我慢できるものじゃない。


「・・・・お前・・・・どこで、そんなこと覚えてきたぁ?」
「・・・・・っ」


の顔は更に真っ赤になり、首まで染まっている。
だがオレはバカな事を口にした、と内心、舌打ちをした。

どこでって、そんなものは決まってる。
アイツに教えられたんだ。

(・・・・あの変態野郎・・・・。こんな初心うぶな女に何、やらせてんだ!!)

さっきから脳内に居座り、あの厭らしい笑みを浮かべているベルに、何故か激しい怒りが込み上げてくる。
普通ならそんな事は当たり前の事で、娼婦を自分好みの女に調教するなんて、当然の権利だと思っていた。
だけどだけはどうしても、そんな風に見れない。
やっぱりオレはどうかしてるのか?
この胸の奥にある痛みやざわつきは一体何なんだ?

あれこれ考えていると不意に小さく鼻をすする音がして、ハッと視線を下に戻した。


「な・・・・何、泣いてやがる・・・・」


見ればは瞳いっぱいに涙を溜めて、ぎゅっと唇を噛んでいる。
それにはオレも動揺してしまう。 女に泣かれて、これほど困った事はない。


「す、すみませ・・・・私・・・・」
「あ、謝るな!何、謝って――――」
「だ、だって・・・・私がヘタクソ・・・・で・・・・色気もないから・・・・スクアーロさんはその気になって・・・・くれないんでしょ・・・・?」
「な・・・・」


グスグスと鼻をすすり、嗚咽を堪えながら話すは、まるで子供だ。
ホントにあのベルに抱かれたのか?と聞きたいくらいに純粋で、真っ白だ、と思った。

(それにしても・・・・その気って何だ?)

ふとが言っていた言葉を思い返し、ドキっとする。
言ってる意味からして、自分がヘタで色気がないからオレが何もしない、とそう言うことか?


「何言ってんだぁ?だったらお前を呼ぶはずないだろ」
「そ、そうですけど・・・・で、でも――――」
「いいから泣くな!」


どんどん溢れてくる涙を見て、溜まらず大きな声を出す。
するとはビクっとした顔で大きく目を見開く。


「ご、ごめ・・・・」
「あー謝るのもなしだぁ。お前は別に悪くねぇ」


そう言って濡れた頬を指で拭う。
涙で歪んだの顔は迷子になったガキのようで、つい小さく吹き出してしまった。


「ホント・・・・。お前には参るぜぇ」
「・・・・わ、私・・・・困らせてばかりで・・・・」
「そういう意味じゃねえ。いいから、もうしゃべるな・・・・」
「・・・・ん、」


震えるように動く柔らかい唇を指でなぞると、ピクリと反応して視線を上げる。
一瞬で子供の顔から艶やかな少女の顔に変わるは、どうしようもなくオレの心を揺さぶる。
もう、誤魔化しようがない。

オレは・・・・コイツに惹かれてる――――。

指を顎に滑らし僅かに持ち上げると、今度はゆっくりと口付けた。
かすかにの身体が跳ねたが、優しく何度も触れ合わせると、次第に身体の力を抜いていく。
最初にキスした時のように啄ばむように口づければ、少しづつ吐息が洩れ、唇が開いていった。
確かめるように舌を侵入させると、それに応えようと彼女の小さな舌が動く。
お世辞にも上手いとは言えない、そのぎこちない舌の動きは、逆にオレの中の欲を疼かせた。
ルカという女に奉仕させたものとは比べ物にならないほどの甘美な痺れが、身体を駆け巡る。


「・・・んっ・・・・」


口内を余すことなく愛撫しながら、舌と舌を絡ませる。
何度も角度を変えて唇を重ねると時折、卑猥な音がした。
その時、力なく置かれていた彼女の手が動き、ぎこちない手つきでバスローブの紐を解いていく。
瞬間、前が肌蹴て肌に冷んやりした空気を感じ、オレは唇を僅かに離した。


「やめろ・・・・」
「・・・・っ」
「何もしなくていい・・・・」


驚いたように瞳を見開くの頬にも軽くキスを落とす。
そして瞼や額にもそっと口付けた。


「・・・・キス、したいだけだ」


そう呟くと、は戸惑うように瞳を揺らし、それでもすぐにキュっと目を閉じた。
恥ずかしいのか、かすかに頬に赤みがさしていて、何ともいえない愛しさが込み上げてくる。
自分自身でも戸惑っていた、その感情がだんだん形を帯びてきて、オレの身体も、そして心も熱くさせているのが分かった。

もう一度、ゆっくりと唇を近づけ、触れ合う瞬間の感触を味わう。
そこはしっとりと濡れていて、とても甘い味がした。
身体は他の男に奪われたかもしれない。
でも、この唇だけはオレの刻印を刻んだような、そんな思いが溢れてくる。
ガキじゃあるまいし、と、内心、失笑する。
今時、キスだけのプラトニックな関係が、男女の間で成立するはずもない。
特に彼女は娼婦で、身体を売っている仕事だ。
なのにオレはどうして、こんなキス一つで、身も心も満足しているんだろう。
身体も心も熱くて、を求めているのは間違いない。
でも今は・・・・まだ、こうして彼女を抱きしめ、キスするだけで満たされてしまう。

口内から舌を抜き、そのまま唇を舐めると、ビクっと細い身体が震える。
唇のすぐ横、そして頬、目じりに、優しく口付けていくと、閉じた目から涙が溢れてきた。
それをまた唇で掬い、再び唇を重ねる。
まるで身体を愛撫するように、顔のあちこちにキスを仕掛けていくと、ゆっくりと大きな瞳が開いた。


「何・・・・か・・・・身体が熱い・・・・です・・・・」


そう言ってオレの頬に指先を伸ばす。
その指さえも絡めとリ、口に含めば、の口から、甘い声がかすかに洩れた。
指先を舐め、舌を這わせると、の顔が赤く染まっていく。
時折、ピチャリと音を立てれば、は唇を噛み締め、何かに耐えるような顔をした。
きっと声を出すのが恥ずかしいんだろう。
軽く指を吸えば、「ん、」と声を押し殺し、我慢している。
その仕草が、オレを余計に煽るだけだとも知らずに。


「・・・・感じてる時は、声を出せ。我慢するな」
「・・・・で、でも・・・・」
「身体だけが感じるわけじゃない。ここも、ここも、感じるようになっている」


そう言って指先、唇、と触れていく。
きっと身体を触られてるわけでもないのに、感じている自分が恥ずかしかったんだろう。
そう告げると、は安堵の表情を浮かべ、小さく頷いてくれた。


「・・・・ん・・・・ぁ、」


指の付け根にも舌を這わすと、控えめな喘ぎがの口から洩れる。
その声を聞くだけで、オレの脳も刺激され気持ちが昂ぶってきた。

(こんな声を、アイツにも聞かせたのか・・・・)

下らない、と思いながらも、一度浮かんだその情景を、オレは打ち消す事が出来なかった。
これからだってそういう事は何度もあるだろうし、何もに目を着けるのが、ベルだけ、というわけじゃない。
ましてオレのように、こんな焦れた関係を楽しむ奴ばかりでもないだろう。
のような娼婦はボンゴレだけに出入りをしているわけでもなく、他のファミリーのところにも行く事があるのは知っている。
そして、たとえが他の男にこの身体を差し出したとしても、オレにはそれを止める権利もないし、また止める術もない。


―――彼女が娼婦をしている限り。


再びの唇を塞ぎながら、誰も彼女を傷つけなければいい、と願った。















スクアーロ第二弾!
微妙にプチですが鬼畜なスクは書いてて楽しかったですよー(笑)
この作品はスクアーロ、そしてベルといったメンバーが同じヒロインを相手にしちゃうものです。
しかも今後は更にエロスで行こうと心に決めましたので(え)未成年の方は観覧注意して下さいね。
もうスクベル、鬼畜ネタでいこっかな(笑)
という事で、この作品全て18-R指定とさせて頂きます、ね(* ̄m ̄)




2007:6.17