Notte lunga―03

※R18(この先の内容には、暴力的な表現OR性的表現が含まれています。苦手な方は観覧をご遠慮下さいませ)












彼の事が好き――――

娼婦の私が、持ってはいけない感情を抱いてしまった。
こんな私に、優しくしてくれる彼のことを。
娼婦の私に触れてもくれない、彼の事を――――



薄明かりの下で、彼の心配そうな表情が揺れる。
私は溢れ出そうな涙を堪えながら、彼を諦める為にその言葉を、口にした――――



「抱いて、下さい」


もう限界だった。
彼との少し変わった関係は、自分を苦しめるだけだと気づいた。
抱き合わないから、こんな感情が溢れてくるのかもしれない。
一度、抱かれてしまえば消えてくれるかもしれない。


「何・・・・言ってんだぁ?」


彼は驚いたように目を見開いた。
私の部屋を見たい、なんて言うから少し期待したけれど、その表情を見てそれは私の勘違いだったと気づく。
彼はやっぱり、そういうつもりでここへ来たんじゃない。
ただの気まぐれか、興味本位、ただそれだけ。

そう、きっとこの高価なプレゼントも。


「プレゼントは・・・・もらいます・・・・。でもその代わり・・・・私を抱いて下さい・・・・」
「・・・・、お前・・・・」
「私は娼婦だから・・・・男の人に何かをしてもらえば身体で返す事しか出来ないんです・・・・」


ドレスの脇のジッパーを下ろし、肩からゆっくりと脱いでいく。
それを驚いた表情で彼は見ていた。
でも上半身を曝け出した時、彼は私の身体を抱き寄せ強く抱きしめた。


「やめろっ」
「――――ッ」
「オレは・・・・そんなつもりでそれをやったんじゃねぇっ」
「分かってます・・・・。でも・・・・私はこうする事しか出来ないから・・・・」


涙を堪えて呟けば、抱きしめる腕の力が強くなる。
うるせぇっと怒鳴りながらも強く抱きしめてくれる彼の背中に、そっと腕を回した。


「・・・・抱いて下さい・・・・。お願いします・・・・」


こんな事を言うだけで恥ずかしさに震える。 でも、それが私の仕事だ。
経験が浅くても、それは間違いないのだ。


「どうして・・・・急にそんな事を言う?」
「私は・・・・娼婦です・・・・。男の人に身体を売るのが仕事なんです・・・・」


私の顔を見つめながら、何故か彼は辛そうな表情を浮かべた。
どうして彼が私に優しくしてくれるのか、その答えがそこにあった事を、私は気づいていなかった。
誘った私を彼が拒んだ・・・・その理由さえも。


「・・・・お前の口からそんな台詞・・・・聞きたくねぇよ」
「スクアーロさん・・・・っ」


彼は不意に腕を解いて立ちあがると、私に背を向けた。
その背中は今まで見た事がないくらいに冷たい。
彼の背中はハッキリと私を拒んでいた。


「・・・・自分から抱いてなんていう女には・・・・興味ねぇなぁ」
「――――ッ」
「・・・・別にそんなもんの礼なんていらねぇ。今日の報酬代わりに取っておけぇ」


その言葉に息を呑む。


「スクアーロさん、待って――――」


怒ったように部屋を出て行く彼を追いかけようとした。
でも、身体は動かなかった。


「・・・・う・・・・っく・・・・」


一気に溢れ出した涙はポタポタとソファの上に落ちて、染みを作っていく。
それを見ながら強く手を握り締めた。


(彼を、怒らせてしまった・・・・)


胸が痛くて、痛くて、このまま壊れてしまうんじゃないかと思った。
人を好きになるとこんなにも辛いんだという事を、彼と出会って、初めて知った。

どうして出逢ってしまったんだろう。
どうして好きになってしまったんだろう。
私が娼婦じゃなく、あんな出会いじゃなければ、まだ救いはあったかもしれないのに。

こんな私が好きになってはいけない人だった。
頭では分かってたはずなのに。

私はもう、汚れている。
娼婦に"心"はいらないのだ。

そう何度も言い聞かせてきた。
でも・・・・また、そう言い聞かせればいい。
きっと彼に嫌われたから・・・・
もう私に笑いかけてはくれないかもしれないから・・・・。
それなら、今まで以上に心を殺して、男に抱かれればいい。

私はただの、娼婦だから――――











どれくらい、そうしていたんだろう。
ふと顔を上げれば、テーブルの上には彼が飲んでいたコーヒーカップが置いてある。
二つ並んだカップがやけに悲しく見えた。

彼はどうしたんだろう・・・・。 あのまま屋敷に帰ったんだろうか。
気にはなったが、もうどうしようもないのだ、と悟った。
冷たい彼の背中を思い出し、また泣きそうになるのを何とか堪えると、私はゆっくりと立ち上がりバスルームへと向かう。
半分、脱いだままのドレスを床へ落とし、そのままシャワーを浴びる。
熱いシャワーは少しだけ冷えた肌に、チクチクと痛みを走らせた。


「・・・・・・っ」


不意に嗚咽が漏れて、顔を覆う。 感じたことのない痛みで苦しくなる。
このまま死んでしまうんじゃないかと思うほど、心が痛かった。
いっそ取り出せたら、どれほど楽なんだろう。
この恋心ごと切り取れたら、すぐに忘れられるのに。

思い切り涙をシャワーで洗い流した。
愚かな自分の行動を、それでも正しかったんだ、と思い込ませる。
これ以上、彼に優しくされたら、後戻りが出来なくなるから――――。


「・・・・っ」


タオルで顔を拭きながらふと鏡を見れば、首元に綺麗な輝きが映っている。
そっと指で摘むと、光の加減で更に輝きを増した。


(・・・・どうしよう)


彼は今日の報酬だと言ったけど、これは多すぎるくらいの値段だったはずだ。
結局、何もしていないのに、本当にこれをもらっていいものか悩んだ。
でも例え返しに行ったとしても、彼はきっと受け取ってはくれないだろう。
また怒らせてしまうかもしれない。

小さく息をつきバスタオルで身体を巻くと、バスルームを出た。

その瞬間――――いきなり口を塞がれ、目を見開く。



「やーっと出てきたわね♪」
「――――ッ?」


その声にハッと視線を向ければ、目の前にはロベルタが笑みを浮かべて立っていた。
思わず息を呑むと、彼女は怖い顔で私の方へ歩いてくる。
私の口を塞いでいるのは見知らぬ大柄の男のようで、その力にゾっとした。


「ああ、その人ね、私のお客様なの。とっても優しい人だから、あんたにも紹介してあげようかと思って」
「・・・・・・ッ?!」


その言葉に眉を寄せると、口を塞いでいた男が臭い息を近づけてきた。


「へぇ・・・・かなり可愛いじゃねぇか。幼い顔して娼婦なんてなぁ。まあ、こういうのも好きだぜ?」
「でしょ?好きにしていいのよ?どうせお金はもらってるし」
「――――ッ」


そう言ってお金を数枚チラつかせるロベルタの言葉にゾっとした。
この人は私をこの男に売ったのだ。


「何よその顔。何か不満?」
「・・・・・・ッ」
「ふーん、こういう時でも騒がないのね。ああ、もしかしてスクアーロが戻ってきてくれるって期待してる?」
「――――っ?」
「あら、知らないとでも思ったの?あんたが彼をここへ連れ込んだこと・・・・。ずっと見てたのよね、私」


ロベルタはそう言うと途端に怖い顔で振り返り、私の頬を強く叩いた。


「何なのよあんた!さっきもわざと遅れてきて彼の気を引いたんでしょう!そんなに彼のお気に入りだって示したいわけ?!」
「・・・・・っ?」
「しかも、こんなものまで買ってもらうなんて・・・・あんたになんか似合わない!」
「・・・・・ぁっ」


ロベルタはネックレスを握ると、それを思い切り引きちぎった。
鎖が首に食い込んで物凄い痛みが走る。


「長い時間シャワー浴びてたみたいだけど、さっきまでスクアーロとヤってたの?」


ロベルタはそんな事を言いながら、ネックレスについているダイヤを忌々しげに見つめた。


「そうそう、スクアーロは屋敷に帰ったみたいよ?」
「・・・・・ッ!」
「だから助けなんか待っても無駄。あんたはその彼に朝までたっぷり可愛がってもらいなさい」
「・・・・っ!」


ニッコリ微笑むロベルタにゾっとする。
嫉妬がここまでの憎しみを生むなんて知らなかった。


「サッサとヤっちゃっていいわよ?素人同然だからテクはないけど」
「関係ねぇ。オレが一方的に可愛がってやるさ」
「・・・・きゃっ」


口を解放されたと思った瞬間、床に押し倒され背中に激しい激痛が走る。
叫ぼうとしたが、すぐに布のようなものを口に入れられた。


「こんな時間に叫ばれちゃ、さすがにドナおばさんにもバレそうだし・・・・静かにしててよね」


近くまで歩いてくると、ロベルタは楽しげに私を見下ろしている。
その目には、もう情というものは一切ない。 本気で私をレイプさせようとしてる。


「んー・・・・っんーっ」
「うるせぇ!騒ぐな!お前も娼婦なんだろ?だったら誰にヤられようが同じじゃねぇか!」


覆いかぶさってくる男はかなり大柄で、口からは酒臭い匂いがした。
簡単に私を組み敷くと、身体に巻いていたバスタオルを一気に剥ぎ取り、それで両手を縛りつける。
その痛みと恐怖に、涙が溢れてきた。


「へへ・・・・。可愛い身体してんじゃねぇか」
「ん〜っ・・・・ゃ・・・・ん・・・・〜っ!!」


男が露になった胸の尖りにしゃぶりついてくる感覚に、思い切り声を上げ身体を捩った。
それでも凄い力で押さえつけられて、身動きが取れない。
男の手や舌が身体中を這っていくのを感じながら、涙で視界が曇る。
その中でロベルタはニヤニヤしながら、襲われている私を見ていた。


「どう?気持ちいい?そろそろあんたの身体も発達してきたでしょ?あのベルに調教されたんだから」
「・・・・・ッ」
「ベルに呼ばれるだけで満足してれば良かったのよ・・・・。それなのにスクアーロまでたらしこむなんてっ」


彼の名前を口にした時、彼女の顔に激しい怒りが見え隠れする。
今朝も怒りに震える彼女を見て思った事があった。
最初はヴァリアーのメンバーが私を呼ぶ事への怒りかと思っていた。
でも今朝、彼女の怒りに触れ、漏らした言葉の真意に気づいた。


"私だって・・・・彼と・・・・スクアーロといつかって思ってたのに――――"


その言葉を聞いて思った。
彼女は多分、スクアーロの事を本気で好きなのかもしれない、と――――


「・・・・っ・・・・んっ・・・・っ」
「そろそろ我慢できねぇ・・・・」


指で乱暴に中をかきまわしていた男は、徐に自分のものを私の秘部へと押し付けてきた。
その感触に背筋がゾっとする。
条件反射で腰を引きかけたが、すぐに男は私の身体を押さえると、勢い良くそれを押し込んできた。


「っ・・・・ん〜っっ・・・・!!」
「・・・・く・・・・っ最高だ・・・・ぁ」


殆ど濡れてもいない場所に無理やり入ってきたせいでビリビリと痛みが走る。
男に貫かれた感覚に、頭の奥で何かが切れた音がした。
同時に全身の力が抜け、抵抗する気力も失う。
男を押し戻そうとしていた両手は力なく床に落ち、私はただ黙って涙で歪んでいる天井を眺めていた。


「あら、もう諦めたの?それとも気持ち良くて放心状態なのかしら」
「・・・・へへ・・・・。マジでいいぜ、この子・・・・う・・・・」


興奮したように男は何度も腰を打ち付けてくる。
それでも私は、何も感じなかった。
今更、この男一人、拒んだ所で何になるというんだろう。
私は娼婦であり、お金で身体を売る女なのだ。
同じ事をするのだから、この男の言うとおり誰に抱かれても同じじゃないか・・・・。


「何よ、本気で諦めたの?つまんない子――――」


ロベルタはそんな事を言いながら、私の方へ歩いて来た。
そしてニヤニヤした顔で私を覗き込んだ瞬間――――彼女の首筋から真っ赤な血しぶきが噴出した。


「が・・・・はっ」
「な、何だ?どうした?ロベルタ――――うわ、ぎゃぁぁっ!!」


彼女の血が私、そして男に降り注ぐ。
跨っていた男は仰天したように私から離れると、目の前に倒れている彼女を見て目を見開いた。
彼女の首はざっくりと切れ、赤い血が未だ噴出している。
その恐ろしい光景に、私は息を呑んだ。


「な・・・・何だよコレ・・・・」


男が避けても私は起き上がる事が出来ず、その光景を唖然としたまま見ていた。



「―――誰がオレのモンに触れていいっつったよ・・・・」



その時、不意に足音がして視線を向けると、ドアの方から誰かが歩いてくる。


「ひぃぃ・・・・!だ、誰だお前・・・・!!」
「その子はオレの。それを汚い手で触れるなんて・・・・お前、死刑決定・・・・」


「――――ッ?」


明かりのあるところまで歩いて来たその人物を見て、私は目を疑った。
彼は両手にたくさんのナイフを持ち、腰を抜かして震えている男にゆっくりと近づいていく。
口調は普段と変わらないが、その顔に笑顔はなく、代わりに恐ろしいほどの殺気を身体中から放っていた。


「や、やめろ・・・・。オレはただ頼まれただけで――――」


そう言った瞬間、喉は切り裂かれ、悲鳴もないまま男は絶命した。






「・・・・大丈夫か?」


ベルはすぐに私の身体を起こすと、縛られていた手を解き、口に詰め込まれていたものを取り出してくれた。
ゴホッゴホっと何度か咽てる私の背中を、優しく撫でてくれる。


「ど・・・・ど・・・・うして、ここに・・・・?」
「・・・・今日、屋敷に来てなかったろ?だからすぐにババァんとこ行って聞いたんだけど、屋敷にいないんじゃ行き先が分からないって言うし・・・・。
あちこち探してもいねーし・・・・仕方ねーからお前んとこのルチアって娼婦に聞いたらここの場所教えてくれたんだ・・・・」
「・・・・な・・・・んで――――」


気遣ってるのか、明るくそう話すベルを黙って見れば、彼は少し悲しげに微笑んだ。


「何でだろ・・・・。会いたかったんだよね、に。この前と同じじゃね?」


そう言って笑うと、不意に真剣な顔で私を抱きしめた。


「・・・・気にすんなよ・・・・。こんなの、ただの事故だって」
「・・・・・ッ?」
「ルチアって女に全部聞いた・・・・。この女がしようとしてること・・・・」


そう言って床に倒れているロベルタの遺体を見た。


「急いで来たんだけど・・・・遅くなってゴメン・・・・・」
「・・・・ベルフェゴール・・・・さま?」


優しく頭を撫でながら、強く抱きしめてくれる彼に、戸惑った。
こんな風に私を助けに来てくれた事が、前にもあった事を思い出す。
あの時もどうしてそこまでって、凄く驚いた。
でも彼は気まぐれだからって、周りの人はよくそう言ってたから、私もそうなんだろうって、彼の気まぐれだったんだろうって、そう思ってた。
なのに・・・・彼はまた、助けに来てくれた・・・・。
どうして・・・・皆、私に優しくしてくれるの――――?

私はただの娼婦なのに。
彼らの優しさに触れるたび、何故かつらくなる。


「・・・・お前、オレんとこに来ねぇ?」
「――――ッ?」


突然のその言葉に、息を呑んだ。


「・・・・こんな部屋にはもう住めないだろ?まあ、汚したのはオレなんだけどさ・・・・」


そう言って苦笑すると、身体を離して私の両頬を手で包んだ。


「な?そうしろよ・・・・ってか、オレ、ババァと――――」
「・・・・めて・・・・」
・・・・?」
「やめて・・・・下さい・・・・」


かすれた声でそう言えば、ベルはハッとした顔で私を見つめた。


「優しく・・・・しないで・・・・。放っておいて下さ・・・・い・・・・。こんな時に・・・・優しくしないで・・・・ひ・・・・く・・・・」
・・・・」


嗚咽が漏れて小さく咽ると、ベルは黙って背中を擦ってくれた。


「放っておければ苦労しねーよ・・・・」
「――――ッ」
「ずっと考えてた・・・・。何での前だと調子が狂うんだろうってさ・・・・。一緒にいて楽しいし・・・・お前のこと可愛くて仕方ないし・・・・この気持ちは何なんだろうって・・・・」


その言葉に驚いて顔を上げると、ベルは真剣な顔で私を見つめていた。


「で、さっき気づいた・・・・」
「・・・・?」
「他の男に触れられてるお前見て・・・・気づいたんだ・・・・」


驚いている私にベルは優しく微笑むと、そっと私を抱き寄せた。


「――――好きなんだ。のこと・・・・。多分オレ・・・・本気で好きなんだよ・・・・」
「――――っ」


その告白に言葉を失った。
彼の声が少し震えている事で、それが本当なんだと思い知らされる。
でも、まさか。
こんな私の事を、本気で好きだと言ってくれる人がいるなんて――――


はオレのこと客としてしか見てねーだろーけど・・・・」
「ベル・・・・」
「・・・・やっとベルって呼んでくれた」


と、彼は嬉しそうに微笑んだ。
そして、もう一度私を強く抱きしめる。 その腕の強さに、涙が溢れた。
こんな私の事を、好きだと言って抱きしめてくれる彼の想いを感じて、苦しくなる。
でも私は・・・・何度、背中を向けられようと、どんなに嫌われようと、彼の事が好きだから・・・・。


スペルビ・スクアーロ――――


――――彼がもう二度と、私に笑いかけてくれなかったとしても。


「わ・・・・私・・・・好きな人が――――」
「・・・・うん。それでもいーよ」
「・・・・・・ッ」
「オレ、誰にも負ける気ねーもん。王子だしね」


首筋に顔を埋めながらそう呟いた彼の声は、かすかに震えてた気がする。


「それに・・・・もう契約してきちゃったし?」
「・・・・え?」
「・・・・今日からお前は・・・・オレ以外の男を相手にする事は出来ない」
「ベル・・・・?」
「お前は・・・・オレだけのモンだ」
「――――ッ」


彼はそう言うと、私の目の前に一枚の契約書を見せた。


「それ・・・・」
「お前はオレのモンだっていう証明書・・・・。ババァに聞いた」


ベルはそう呟くと、悲しそうな顔で微笑んだ。


「お前を手に入れる方法・・・・これしか思いつかなかった。オレが借金返すって言ってもお前は絶対、断るだろ?」
「・・・・・・」
「たった今から・・・・お前はオレのモンだ」


そう言って呆然とする私の頬を、そっと包んだ。


「だからもし・・・・お前の惚れてるっつー男が取り返しに来たら・・・・オレ、遠慮なく、そいつ殺すよ?」
「――――ッ」


真剣な顔。
彼は本気だ。


「ま、オレに向かってくるだけの勇気がそいつにあるなら・・・・の話だけど」


その言葉に、私は何も言えなかった。
そんな事、あるはずない。
元々彼は私の事なんか何とも思っていないのだ。
触れてももらえない時点で気づけば良かったんだ。
優しくしてくれたのは、ほんの気まぐれ・・・・。だからこそ彼は私に背を向けた――――


でもこれで良かったのかもしれない。
彼はもう私を呼んでくれることはないだろう。
それを思い知らされ傷つく前に、他の人の専属になった方が傷も浅い。


「お前の・・・・返事は?」


私の顔を伺うように覗き込んでくるベルを、私は真っ直ぐ見つめた。


「・・・・宜しく、お願いします・・・・」


心を決めてそう呟けば、ベルはホっとしたように微笑んだ。


「・・・・良かった。勝手に契約してきてお前にイヤだって言われたら・・・・オレ、立ち直れねーと思ってた・・・・。ししし♪」


そんな事を言ってくれるベルの気持ちが、今は素直に嬉しかった。
娼婦の私にはもったいないくらいの想い。
彼のために出来る限りの事はしたい、と、そう思った。
でもそれは娼婦として――――
今も胸の奥で燻っているスクアーロへの恋心は、きっといつまでも消えずに私の心に残ってるんだろう。

その後、彼に連れられて、私はヴァリアーの屋敷へ行くことになり、私の長い夜は――――終わった。













ヒロインVer、一応終わりです。
す、すみません、ちょいダークで;;;
でも、まだ続きますー
次回からはスク視点、ベル視点、ヒロイン視点を混合で書いていく予定。