querido.02

※R18(性的表現あり)










――――煌びやかな大広間。
そこには、この屋敷の主であるヴァリアー全員が顔を揃えていた。
上座ではヴァリアーの長でもあるザンザスが退屈そうに頬杖をつき、窓の外を眺めている。
そして時折、ウイスキーの入ったグラスへ口をつけながら、満足そうにそれを飲み干した。


「――――ボス。そろそろお話を」
「・・・・あ?」


背中にサーベルのような傘を背負い唇や眉にピアスといった一風変わったなりをした大男が声をかける。
ザンザスは不機嫌そうに眉を寄せると、席についているメンバー全員を見渡した。


「どうやら・・・・家光が何やら動いてるらしい」


と一言、口にすると、その場にいた全員に緊張が走る。


「奴を見張れ。そして怪しい行動をする者は即座にマークして捕らえろ」
「・・・・うしし♪ 遂にヴァリアー完全復活、かな」


ベルフェゴールが楽しげにナイフを指で回す。
それを横目で見ながら、隣にいた赤ん坊が、「ワクワクするね」と呟く。


「久しぶりに暴れられるかしらぁ♪」


メンバーの中でも一際派手な格好をしたサングラスの男――――もとい。オカマが両手を合わせ体をくねらせる。
それを隣で見ていたスクアーロは軽く舌打ちをした。


「う゛お゛ぉい、気持ちわりーぞてめぇ」
「ま、相変わらず口が悪いのねぇ、スクアーロってば☆」


悪態をつかれてもケラケラと笑うオカマに、スクアーロは再び舌打ちをする。
その様子を見ていたザンザスは、「黙れ、カスども」と静かに言った。
大きく声を張り上げたわけでもないが、その一言で全員が黙る。
ザンザスのいう事は、ヴァリアーでは絶対なのだ。


「いいか?ヘマしたら、てめーら全員かっ消すぞ」
「大丈夫よ、ボス♪ 怪しい動きを見せる奴がいたらとッ捕まえてひんむけばいいんでしょ?」
「ルッスーリア、ひんむいたらダメだよ」
「あら、残念」


赤ん坊の言葉に、ルッスーリアと呼ばれたオカマは言葉どおり残念そうに溜息をついた。


「家光がリングを持ち出すかもしれねぇ。随時、見張っておけ。もし動くようなら――――」


ザンザスはニヤリと笑った。


「・・・・消せ」
「――――はっ」
「りょーかい、ボス!」
「任せてよ」
「奴らにリングは渡せないからね」


大男、ベルフェゴール、スッルーリア、赤ん坊は、与えられたボスからのささやかな任務に、喜んでいるようだ。
が、一人スクアーロだけは何かを考え込むように黙ったままだった。


「おい」
「――――ッ」


ザンザスの一言に、スクアーロはハッと我に返った。
顔を上げると、ザンザスが厳しい顔つきで睨んでいる。


「分かったのか?スクアーロ」
「・・・・ああ」
「ヘマしやがったらお前から、かっ消すぞ。この計画に全てがかかってる。邪魔されれば――――」
「・・・・分かってる」


ザンザスの言葉に頷くと、スクアーロは静かに席を立った。


「あらぁ。どこ行くの?スクアーロ。これから久しぶりに皆で食事よ〜?」
「・・・・呑気に食ってられるか。動くなら早い方がいいだろーがぁ」
「ま、仕事熱心なのね♪私もついて行ってあげましょうか?」
「・・・・うるせぇ。オレ一人で十分だ。あんな野郎を見張るのはな」


それだけ言うと、スクアーロはザンザスに一瞬、視線を向けた。
ザンザスは何も言わず、ただニヤリと笑った。
何も言わない、という事はそれでいい、という事だ。
スクアーロはそのまま大広間を後にした。


「何か最近スクアーロってば変じゃない?」


出て行ったスクアーロを見ながら、ルッスーリアが溜息をつく。
それに反応したのは、赤ん坊だった。


「変って何がだい」
「何だか元気がないっていうの?何してても上の空〜って感じなのよねぇ」
「そう言われるとそうかもね。僕も時々そう思う事はあったよ」
「あら、マモちゃんもそう思う?」


ルッスーリアと赤ん坊――――マーモンの会話を聞きながら、ベルフェゴールは内心、苦笑いを零した。
スクアーロがおかしい原因を、自分だけは知っている。
でもそれは、他の連中には想像もつかないだろう。
まさか、たかが女一人の事であれほどダメージを受けている、なんて。


と、そこに部下がお酒や食事を運んできて、二人の会話も一時中断した。
ザンザスは食事に一切手をつけず、ウイスキーの入ったグラスをゆらゆらと揺らしている。
が、ふと視線を上げると、マーモンと一緒に、大男をからかって笑っているベルフェゴールを見た。


「――――おい」


その一言に皆がハッと手を止めると一斉にザンザスを見る。
ザンザスの視線の先にいたベルフェゴールは、自分が声をかけられたのだと気づき、「何、ボス」と返した。


「小耳に挟んだんだが・・・・てめぇ、女を飼ってるんだって?」
「・・・・・」


突然のその質問にドキっとした。
が、そこで顔に出すほど抜けてはいない。
いつもの飄々とした笑みを浮かべると、「さすがボス。耳が早いね」と肩を竦めた。


「けっ。珍しいじゃねぇか。てめーが一人の女にご執心とは。――――そんなにいい女なのか?」


さすがのベルフェゴールも、その問いには返答に困った。
珍しくザンザスが興味を示している。こういう時は大抵、ロクな事はない。


「いい女って事でもないよ。ただオレが処女頂いちゃったから、ちょっと調教しようかと思って飼ってるだけさ。しし♪」
「へぇ・・・・」


ザンザスは楽しげに唇の端を歪めると、揺らしていたグラスを一気に煽った。
それ以上、訊いて来る事もなく、ベルフェゴールは内心ホっと安堵の息をつきながら食事を再開する。
が、その会話を聞いていたルッスーリアが、放っておくはずもなく。


「やだ、ベルちゃんってばマジだったの?その話!」
「・・・・何だよ」
「仲のいい娼婦の子に聞いたのよ〜。今まで散々色んな女を食いまくってたアンタが、一人の娼婦を何度も呼んでるって」
「・・・・・・」


それ以上、の話はしたくなかったベルフェゴールは、僅かに顔を顰めた。
確かに彼女を屋敷に連れてくれば、こうなる事は分かっていたが、皆もいつもの気まぐれと思うだろうと大して気にしていなかったのだ。
が、予想以上にベルフェゴールが一人の女にご執心だという事が珍しかったのか、他のメンバーも興味津々といった顔で会話に聞き耳を立てている。


「聞くところによると、何だか子供みたいなんですって?」
「はあ?誰が言ったんだよ、そんなこと」
「その子の仲間の娼婦よ。何だか見た感じ幼すぎて、ベルちゃんが呼ぶまで、まともに仕事が出来なかった子らしいじゃない」
「・・・・・・」


楽しげに話すルッスーリアに、ベルフェゴールは内心、舌打ちをした。
ルッスーリアはこの屋敷に出入りしている娼婦と仲がいい事は知っていたが、そこまで詳しいとは思わなかった。
この分だと、ベルフェゴールが彼女の借金を肩代わりした事まで、そのうちバレそうだ。
そうなれば、さすがにおかしいと思うだろう。たかが気まぐれで調教している娼婦の借金を、全額返すバカはいない、と。


「だから何だよ。別にいーじゃん、そんな事は」
「そうだけど〜。私、その話を聞いて絶対ありえないって言ってたのよぉ?だってベルちゃんがそんな子、まともに相手にするはずないって思うじゃない」
「・・・・いつもの気まぐれだって。飽きたら追い出すつもりだし」



早く話を変えたくて、そんな事を口にする。
もちろん本心ではない。は今やベルフェゴールにとって大切な存在だ。出来れば嘘でも言いたくない言葉だった。
だがルッスーリアとベルフェゴールの会話を、ザンザスも聞いている。
あまり興味をもたれたくはない。
そんな気持ちを知ってか知らずか、ルッスーリアはニッコリ微笑みながら、ベルフェゴールの顔を覗きこんだ。


「でもちょっと興味あるわね〜。ベルちゃんが気まぐれにしろ、部屋で飼う女っていうのも」
「・・・・うざ。オレの事は放っとけよ。プライベートで何しようと詮索しないのがヴァリアーじゃん」
「まあまあ、いいじゃない。ね、その子、ここへ連れてきたら?今も部屋にいるんでしょ?」
「――――は?」


ルッスーリアの提案に、さすがのベルフェゴールも唖然とする。
二人の会話に聞き耳を立てていたマーモン、そしてピアスの男も賛成と言わんばかりにニヤリと笑う。


「・・・・オ、オレも見てみたいな」
「何でレヴィに見せねーといけねぇの?変態は引っ込んでろよ」
「な、何だと貴様!オレは変態などでは――――」
「うるさいわねぇ、レヴィは!私とベルちゃんの会話に入ってこないでよ。変態なんだから」
「ぬ!貴様にまで言われたくないわっ!」


レヴィと呼ばれた大男は、顔を真っ赤にして怒っている。
が、ザンザスが空になったグラスをテーブルに置いた瞬間、ハッと姿勢を正した。


「いいじゃねぇか」
「・・・・・っ?」
「なあ?ベル・・・・その女、ここへ呼べ。酒の相手をさせてぇ」
「な・・・・」


ザンザスはウイスキーのボトルを持ち上げると、空のグラスに注いでいく。
皆がここへ集まる前から飲んでいたらしいザンザスは、少し酔っているようだ。
――――まじぃな・・・・。
ザンザスの様子を見て、ベルフェゴールは軽く唇を噛みしめた。
もしここへを呼べば、当然ザンザスはを他の女と同じように扱うだろう。
ザンザスにとって、自分の部下の気に入ってる女だろうと関係ないのだ。
自分が気に入れば相手をさせる。そんな事はこれまでにも多々あった。
そしてそれを受け入れてきたのは自分達だ。
が・・・・だけは違う。
彼女に、これまでの女と同じ扱いなど出来るはずもない。
でもザンザスの命令に背くという事は、かなり勇気のいる行為だ。


「――――どうした?早く呼べ。ここから電話しろ」
「い、いや、あのさボス・・・・。アイツ、酒も飲めねぇし、相手させてもつまんないと思うよ」
「関係ねぇ。飲めねーなら無理やり飲ませるだけだ。女っ気もねぇんじゃつまんねぇだろが」
「・・・・・ッ」


ベルフェゴールを睨みながらウイスキーを煽る。こうなれば何を言っても無駄だという事は皆が知っている事だ。
他のメンバーも「早く呼べ」というようにベルフェゴールを見る。こうなれば呼ぶしかない、と携帯を取り出した。
だがはもう、娼婦ではないのだ。
ベルフェゴールが代わりに金を払い、自由にした女だ。
いくらボスでも、触れさせたくはない。
けど実際、その話をすれば、皆はますます興味を持つだろう。
どうしよう・・・・とベルフェゴールは携帯を耳に当てながらも悩んでいた。


『――――もしもし。ベル?』


ワンコールで一度切った後、かけなおすと――部屋に電話をかける際の合図だ――控えめな声が受話器の向こうから聞こえてきた。


「うん・・・・」
『どうしたの・・・・?今日はメンバーの皆で集まってるんじゃ――――』
「あ・・・・いや、そうなんだけど・・・・もう終わったっつーか・・・・」
『・・・・ベル?』



頭をかきつつ、言葉を濁す。
背中に皆の視線を痛いくらいに感じ、ベルフェゴールはそのまま話すフリをして、ベランダへと出た。


『・・・・どうしたの?何かあった?』
「いや・・・・実は・・・・さ」


これを言えば、はきっと嫌な顔せず、来てくれるだろう。
ベルフェゴールと契約をしていると思い込んでいるは、彼のいう事を喜んで聞く傾向がある。
それはそれで嬉しい事だが、ベルフェゴールにとったら、彼女のそういった従順なところが悲しくもあった。
仕事、と思って素直にいう事を聞く彼女を見ていると、自分がただの客としてしか見られてないと思い知らされるのだ。


「ボスがを連れて来いって・・・・言ってんだよね」
『・・・・え、ザンザス様が?!』


ヴァリアーのボスが直々に呼んでいるという事を聞いて、も驚いたようだ。


『な、何で、私を・・・・?』
「それが・・・・まあ、ちょっと女っ気ねーってボスが言い出して・・・・。ほら、もう0時過ぎてっから他の女もいねえし」
『・・・・そう・・・ですか・・・・。でも私なんかでいいんですか?』
「い、いいも悪いもないって。ボスが呼んでるんだし・・・・。――――でさ・・・・。わりぃんだけど・・・・こっちに来れる?」
『あ・・・・そこには・・・・他のメンバーの方も?』


暫しの沈黙の後、がおずおずと訊いて来た。
それがどういう意味なのか、ベルフェゴールは一瞬で気づいた。いや、気づいてしまった。


「いや・・・・スクアーロだけ任務で出て行った。まあ・・・・だから他のメンバーだけだけど」
『・・・・そうですか』


受話器の向こうから明らかにホっとしたような声が聞こえる。
きっとスクアーロがいると気まずいと思ったんだろう。
そんな彼女の小さな心の動きでさえ、気づいてしまう自分に、ベルフェゴールは苦笑した。


『分かりました。ボスがお呼びなら行きます』
「あ・・・・いや、でも嫌なら・・・・いいっつーか・・・・」
『――――え?』


――――って何、言ってんだ?オレ・・・・
口にしてから自分で驚いた。
もし、ここで彼女が嫌だと言っても、ザンザスを怒らせるだけだ。
もちろん、ベルフェゴールが彼女を呼ばなかったとしても、それは同じ事だが。


『ベル・・・・?私なら別に――――』
「あ、うん。いいんだ。ごめん・・・・。今のは嘘で・・・・やっぱ来てくれる?ボス怒らせると後で大変だし・・・・」
『はい、もちろん。どこへ行けばいいですか?』


は少し笑いながら、そう言った。
ベルフェゴールは大広間のある場所を詳しく説明すると、そこで電話を切った。


「はあ・・・・」


深々と息を吐き出し、手すりに凭れかかる。
これからがここへ来る事を思うと、途端に心が重く沈んだ。


(ルッスーリアめ・・・・。余計なこと言いやがって!)


内心、腹を立てながら、もしザンザスがを気に入ったら・・・・と考えると不安になる。
ザンザスは欲しい物があれば、どんな手段を使っても手に入れる。これまでもそうしてきた。
そうなったら、いくらベルフェゴールと言え、逆らう事は許されない。


「はあ・・・・最悪」


素直に事情を話してもいいが、そんな事でザンザスが諦めるかどうか分からない。
まあ、ボスの事だ。例えを気に入ったとしても、一度抱けば気が済むだろう。
最初に逆らって殺されるよりはマシかもしれない・・・・
万が一の場合は・・・・心を封印して彼女に頼むしか――――。
そこで失笑が漏れた。
惚れてる女に、「頼むから一晩だけ、ボスの相手をしてくれ」と言うつもりか?


「オレも最低・・・・」


自分自身に嫌気がさして、深い溜息が漏れる。
その時、部屋の中から、「おい!何してやがる!」というザンザスの声が聞こえて、ベルフェゴールは仕方なく中へと戻って行った。









ベルとの電話を切ってすぐ、身なりを整え部屋を出た。
ボスからの呼び出しに多少の緊張はあったが、これもベルの為だと思えば怖くはない。
少しでもベルの役に立ちたかった。これだけ良くしてもらってるのだ。多少の事は我慢できる。
――でも・・・・彼がいなくて良かった。
ふと、スクアーロの事を思い、溜息をつく。
これでもしスクアーロがいれば、どんな顔をして会えばいいのか分からない。
この屋敷に来てからも、一度も顔を合わせてはいなかった。
私自身、部屋から出ないという事もある。
一生このままというわけにはいかないにしろ、今はまだ、彼と普通の顔で会う自信はなかった。
そんな事を思いながら、ベルに言われたとおり、エレベーターホールへと向かう。
これに乗って最上階へ行けば、大広間があるらしい。幹部しか入れない区域だ。
ボタンを押し、点灯している番号を見上げる。するとちょうど降りてきたエレベーターがあった。
チン、という音と共に、ゆっくりと扉が開く。
それを見て歩きかけた、その時――――そこから降りてきた人影に、息を呑んだ。


「―――ッ」


降りてきた人物も気配を感じたのか、落としていた視線をふと上げて驚いたように目を見開いている。


「・・・・・・・・・」
「スクアーロ・・・・さん」


暫し互いに見つめ合う。――――あの夜以来の再会だった。


「・・・・こ、こんばんは・・・・」


思ってもみなかった再会に動揺したものの、ついそんな言葉が零れる。
彼が私とベルの事をどこまで知っているのかは分からないが、今はそこまで考える余裕もない。


「あ、あの――――」


何も言わない彼に、鼓動が早くなる。
が、黙って私を見ていたスクアーロは、そのまま無言で横を通り過ぎていった。
その瞬間、胸の奥が引き裂かれたかと思うような痛みが走る。
まるで見知らぬ人間にでも会ったかのように、無言で通り過ぎていったスクアーロに、心が悲鳴を上げた。
彼の足音が少しづつ遠ざかっていくのを聞きながら、強く唇を噛み締める。
――やっぱり・・・・嫌われてしまった。
あの夜の事を思い出し、涙が溢れてくる。
それを慌てて手で拭うと、エレベーターに飛び乗った。
こんな事くらいで泣いてちゃダメ。
そう自分に言い聞かせながら、ざわついた心を静めようと深呼吸する。
そうしないと今にも泣いてしまいそうだった。
こんな事はこれからもある。この屋敷に、ベルの傍にいるなら、あれくらいで動揺してはダメだ。
もう一つ、深呼吸をしてから、最上階に到着して、開いた扉を見つめた。


!」
「あ・・・・」


一歩、廊下へ踏み出した途端、ベルがこっちへ歩いてくるのが見えた。
どうやら私を待っててくれたらしい。


「わりぃ。急に呼び出して・・・・」
「いえ、私に出来る事があれば何でもします」


そう言って見上げると、ベルは少しだけ寂しそうな顔をした。
でもすぐに、いつもの笑顔を見せると、


「ボス、怖ぇー人だから、言葉遣いとか気をつけて・・・・つってもなら大丈夫か。丁寧すぎるくらいだし」


うしし、と笑いながら私の手を引いていく。
そんな彼の背中を見ながら、僅かに目を伏せる。ベルはこんな私に凄く優しい。
それが時々、つらくなる。


「・・・・ベル?」


奥の扉の前に立つと、ベルが振り返った。
その表情はどこか真剣で、私が首を傾げると、彼は小さく息をついた。


「あのさ・・・・。知ってると思うけど・・・・この屋敷の中でボスの命令は絶対なんだよね」
「・・・・はい」
「だから・・・・もし・・・・もしも、の話だけどさ」


珍しくベルが言葉を濁している。
黙って彼を見上げると、軽く抱き寄せられた。


「――――ボスがを抱きたい・・・・つったら・・・・オレ、止められない・・・・」


耳元で囁くように呟かれた言葉に、ビクっと体が跳ねる。
それを感じたのか、ベルは慌てて顔を覗きこむと、「でもオレ・・・・お前の事はマジで好きだからっ」と言った。


「ベル・・・・」
「けど・・・・けど、しょーがねぇんだ・・・・。ボスに逆らえば殺される・・・・オレも、お前も・・・・だから――――」
「・・・・はい。分かりました」
「――――ッ」


ベルの気持ちが痛いほど伝わり、私は微笑んだ。
そんな私を、ベルは驚いたように見つめる。


「ベルの役に立つなら何でもします。だから、そんな顔しないで下さい」
・・・・」


彼はまた悲しそうな顔をした。
その顔を見るたび、私が彼の事を傷つけてるような気がして、悲しくなる。


「――――好きだよ。お前を愛してる」


掠れた声が、耳に響いて、唇がゆっくりと重なる。
ベルは泣きそうな顔をしていた。
それほどまでに私の事を想ってくれてるんだという事実に、また胸が痛くなる。


「ボスが気に入らないといいな・・・・の事」


そう言って苦笑する彼に、私も微笑んだ。


「・・・・きっと気に入られたりしません。自慢じゃないけど、私はずっと落ちこぼれの娼婦だったから」


私の言葉に、ベルが小さく噴出した。
その笑顔を見て、ホっとする。


「・・・・だね。未だにオッパイもちっちゃいし?ボスはグラマなー美女が好みだから心配する事ないか」
「き・・・・気にしてるのに・・・・」


笑いながら額を突付いてくるベルに、顔が赤くなる。
そんな私を見て、彼は苦笑すると、


「んな可愛い顔すんなって。ここで押し倒したくなるじゃん?」
「・・・・・ッ」


ドキっとして顔を上げた瞬間、唇が重なる。
首の後ろに腕が回り、顔が自然と上に向けば、更に深く唇が混ざり合う。
彼の唇の熱さに、体の力が抜けそうになった。


「・・・・んじゃ行くよ?」


かすかに唇を離し、彼が微笑んだ。
小さく頷くと、最後にチュっと軽いキスをされた。


「・・・・ま、他のメンバーはバカばっかだから気にしないでいーよ」


そう言って笑うと、ベルは軽く深呼吸をして、静かに目の前のドアを開けた。









部屋に戻り、コートを羽織ると、オレは深く息を吐き出した。
――――まさか、あんなところで会うなんて。
予想もしていなかった。
大広間を出た後、待機していた部下たちに指示を出し、それからエレベーターへと乗り込んだ。
そこを降りた瞬間、目の前に彼女が驚いた顔で立っていた。
あの夜以来の再会で、予想以上に心臓が早鐘を打ったが、それも顔に出す事など出来ない。
かけてやる言葉さえ、見つからなかった。
だって今更オレに話しかけられても迷惑だろう。
オレ達は友達でもなければ、恋人でもなかった。
彼女は娼婦で、オレはただの客・・・・そんなオレが、ベルのものになった彼女に何を言ってやれる?
あのネックレスを返して来たんだ。彼女はオレとの事を終わらせたかったのかもしれない。
もう、私はベルフェゴールのものだ、と言われたようなものだ。


「・・・・チッ。分かってんだよ、そんな事・・・・」


溜息交じりでクローゼットを閉める。
――――そろそろ行かなければ。部下が待ってる。
頭を切り替え、任務に集中しようと、軽く息を吸い込んだ。
もう少ししたら、ザンザスにとってもオレにとっても凄く重要な戦いが始まる。
女の事で悩んでる暇はない。

気を取り直し、部屋を出ると、部下の待つエントランスへと向かった。
今は深夜で、いつも顔を出すうるさい娼婦どももとっくに帰ってる時間だ。
いるのは――――ベルのものとなった彼女だけ。


「でも何で・・・・」


そこで、ふと疑問に思った。
彼女がこの屋敷へ来てから、出歩く姿を見たのは、さっきが初めてだった。
ベルがいても、いなくてもずっと部屋へこもっていたようだったのに・・・・
何故かこんな時間にエレベーターホールにいた。


「まさか・・・・」


ベルはまだボス達と一緒にいたはずだ。
そのベルに黙って、彼女が勝手に出歩くはずはない。
という事は・・・・あの部屋へ呼ばれた、という事だ。


「どういうつもりだ・・・・?ベルフェゴール・・・・」


奴の真意が分からず、舌打ちをする。
まさか彼女をザンザスに紹介し、それほど自分は真剣なのだ、と示すつもりか?
これまでのアイツを考えれば、そんなバカな事はしないだろう。
コレまでの女ならどうって事はない。が、もしの事をザンザスが気に入れば・・・・どうなるかくらい、奴にも分かるはずだ。


「――――スクアーロ様!車が到着しました」


そこに部下が呼びに来た。無言のまま、車に乗り込む。
――――関係ねぇ・・・・。もうオレには何も・・・・。
彼女の面影を振り切るように、オレは左腕の剣を確かめた。
今は任務の事だけを考えろ。
家光にリングを奪われれば、面倒な事になる――――


「一人・・・・アイツのところにいたな。怪しい動きをしてるガキが」


頭を切り替え、資料に目を通す。
門外顧問の内情は、こっちにもなかなか情報が回ってこないのだが、ある程度の事は部下の報告で把握できていた。

窓の外に目を向けると、雲で滲んだ月がぼやけて見えた。










食事も終わり、ボス以外の奴らも酒を飲みながら、下らない雑談をしていた。
でも時折、の事を観察するように見ては、オレに意味深な視線を送ってくる。
特にルッスーリアなんかは、「可愛い子ねぇ。ベルにはもったいないわ」なんて、からかってくるからウザいったらない。
は言われたとおり、ボスの相手をしている。
ボスの膝の上に座らされ、飲めない酒を無理に飲んでる姿に、オレは内心ハラハラしどおしだった。


「――――おい、注げ」
「は、はい」


が突き出されたグラスに、ウイスキーを注ぐと、ボスは彼女の手にそのグラスを持たせた。


「飲め」
「・・・・はい、い、頂きます・・・・」


はゆっくりとグラスに口をつけると、思い切ってウイスキーを流し込んだ。
それでも飲みなれないからか、激しく咽ている。
その様子を見ながらボスは笑うと、「ホントに飲めねぇんだな、お前」と、彼女の手からグラスを奪う。


「す、すみません・・・・っ」
「別にいい。無理して飲むな」
「え?でも――――」
「飲めない酒を無理して飲まれても、こっちの酒が不味くなるからな」


ボスはそう言いながらも、妖しい目つきでを眺めている。嫌な予感がした。
あの目は彼女に興味を示している目だ。


「しかしお前・・・・ホントに娼婦か?」
「・・・・は、はい。い、一応・・・・」
「・・・・ぶ、ぁははは・・・・っ!一応?面白い答えだ」


今日のボスは機嫌がいい。あんな風に笑う所なんて久しぶりに見た。あまりにレアすぎる。
オレ以外の奴もそう思っているんだろう。
今までレヴィをイジメていたルッスーリアも、それを横で笑っていたマーモンも、皆がボスを驚いた顔で見ている。
そういうオレも少し離れたところで、ワインをチビチビ飲んでたけど、ボスの珍しい姿に、ゴクンと喉を鳴らした。


「おい、ベル」
「・・・・何?ボス」
「確かにお前が気に入るだけあって面白い女だ」
「そ、そう?ボスの好みじゃなくね?」
「好みなんてぇもんは、その都度変わるもんだ。そうだろ?」
「そりゃ・・・・そうだね」


小さな抵抗も空しく、ボスの言葉に大きく頷く。
確かにボスの言うように、オレだって好みが変わった。
以前は出るとこ出てて色気たっぷりで、かつ、どんなプレイでも文句を言わない女が良かったオレが、何故かみたいな色気もなければ経験もない女を好きになったんだから。
それはスクアーロだって同じ事だ。アイツは自分につり合う様な、モデル体型の女ばっか呼んでた気がする。
なのに蓋を開けてみれば、のようなお子ちゃまに本気になっている。
好みなんて、いつ変わるか自分でも分からない。


・・・・と言ったか?」
「はい」
「そうか・・・・。かなり細いな。折れそうだ」


ボスはそう言って膝の上に座らせているの腰をグイっと抱き寄せている。
その拍子に彼女の体がバランスを崩した。
は驚いたようにボスの肩に掴まると、「す、すみません」といちいち謝っている。
その姿が可愛くて、密かに笑いを噛み殺していると、彼女が不意に口を開いた。


「あ、あのザンザス様・・・・。膝から・・・・下りてもいいですか・・・・?」
「あ?何でだ」


がおずおずと切り出して、オレはギョッとした。
今までボスにそんな事を言う女はいなかったからだ。
ボスも訝しげに眉を寄せて、彼女を見ている。
だがはハラハラしているオレの気持ちはよそに、困ったような顔で俯いた。


「あの・・・・私が乗っていたらザンザス様の足が痺れてしまいますし・・・・。最近、太ってしまったので――」
「――――ぶぁはははは・・・・っ!」
「――――ッ」


ボスは一瞬、呆気に取られた顔をしていたが、突然大きな声で笑い出した。
それにはもビクっと首を窄めている。って言うか、オレもワインをちょとだけ噴出した。


「お前が重いだと?バカ言うな」
「え、で、でも・・・・このお屋敷に来てから美味しい物を食べ過ぎて、ホントに太ったんです・・・・」
「だとしても今のお前は体重があるのかってくらい軽いぜ?まるで子供を抱いてるようだ」
「こ、子供・・・・ですか・・・・?」


ボスは心の底から楽しそうに、笑っている。
は子供、と言われて恥ずかしかったのか、かすかに頬が赤く染まった。
その姿は端から見ていても可愛い。――――ああ、ダメだ。ボスにまで嫉妬してるかも。


「・・・・お前はなかなか可愛い」
「――――ッ」


ボスの一言にドキっとした。
の頬を指でなぞり、それが唇へと降りていく。の頬が更に赤く染まった。
ボスの彼女を見る目が細められ、それを見ていたオレはどんどん嫌な気分になっていく。
でも、それを止める事は出来ない。


「おい、ベル」
「な・・・・何?ボス・・・・」


不意に呼ばれギクっとしたが、ワインを煽りながら、立ち上がる。
ボスは酒の飲めないに水を与えながら、ふとオレを見上げた。


「この女、今夜オレの部屋へ連れていく。――――いいな?」
「・・・・・・・」


質問じゃない。これは決定だ。
いつになく楽しげなボスを見ながら、ぎゅっと拳を握る。
――――やっぱり嫌な予感は当たってしまった。


「どうした?返事がねえぞ」


黙ったままのオレに、ボスは初めて苛立ちを見せた。
今までのオレならこう聞かれれば、即OKを出していた。でもは今までの女とは違う・・・・。


「何だ・・・・?嫌なのか?」
「あ、いや・・・・」


ルッスーリアも、マーモンもレヴィも、気づけば心配そうにこっちを見ていた。
いつものボスの気まぐれなんだから早く返事をしろ、とでも言いたげだ。


「ベル・・・・」
「――――ッ」


その時、が小さく頷いた。それは――――私なら大丈夫。だからボスに応えて、と言う彼女なりの気遣いだった。


「おい、ベル!どうなんだ?」
「・・・・あ・・・・うん。いいよ・・・・ボスの好きにして」
「フン・・・・。何ボーっとしてやがる。酔ってんのかぁ?」
「・・・・ワイン、飲みすぎかも。オレ、ちょっと風に当たってくんね」


いつもの笑顔で交わすと、オレはすぐにベランダへと逃げた。
これ以上、ボスの前でヘタな演技なんか出来やしない。

――――ボスの好きにして。

言った瞬間から、後悔した。
はオレを責めるでもなく、優しく微笑んでくれた。
ギリっと唇を噛んで、拳を握り締めた。
今夜・・・・はボスに抱かれる。
それを思うと体中から棘が出てるみたいに心が痛む。オレは――――惚れた女一人、庇う事も出来ない。


「――――ベルちゃん」
「・・・・・・ッ」


背後で声がして、ハッと振り返る。
ルッスーリアは持っていたワイングラスを黙ってオレに渡すと、「らしくないじゃない」と隣に立った。
オレは無言のままワインを飲み干すと、星一つない夜空を見上げる。オカマに同情されたら、お終いだ。


「何が〜?」
「またまた!誤魔化そうたって私の目は誤魔化せないわよ?」
「・・・・誤魔化す?オレが?何を」


笑いながら肩を竦めると、ルッスーリアがチラっと部屋の中を見た。
同じく視線を向ければ、ボスが、の髪を撫でている光景が目に飛び込んできた。


「あの子の事・・・・本気なんでしょ」
「はあ?んなわけねーじゃん。オレ、王子だぜ?王子が娼婦に本気になるわけ――――」
「じゃあ、どうしてあの子の借金、肩代わりしたの?」
「・・・・・・ッ」


やっぱり、ルッスーリアはその話も知ってたようだ。


「私はそれ聞いて半信半疑だったのよ。だからあの子と一緒にいるとこを見たかったの」
「見て何が分かんだよ」
「分かるわよ〜?ベルちゃんてば、ずーっとあの子とボスの事、気にしてたじゃない?それも心配そうな顔して」
「はあ?バカじゃね?そんな顔してねーし」
「あら、私にはホントのこと言ってもいいじゃない。別に誰にも言わないわ?それに他の連中は気づいてもいないし」


オカマは人の恋路には勘が働くのよ、とルッスーリアは笑った。


「止めなくていいの?ボスの事だから、あっちの方も激しいわよ、きっと」
「・・・・だろうね」


真剣な顔でそんな事を言われ、つい苦笑いがこぼれる。
笑ってる場合じゃないわよ、とオレの背中を叩くと、ルッスーリアは軽く首を振った。


「いいの?あの子、ズタボロにされちゃうかもしれないわ。まだベルちゃんしか、男知らないんでしょ?」
「・・・・うん。ああ・・・・違うか。一人だけに手ぇ出した奴いたけど・・・・オレが殺した」
「あらら・・・・やだ。ボスにはナイフ向けないでしょうね・・・・」
「向けてもいいけど一瞬でかっ消されそう」
「そりゃそうよ。いくらベルちゃんが強くたってボスには敵わないわ?」
「って、お前はどっちの味方だよ・・・・。止めないのって言ったり、止めろって言ったりさぁ」


呆れたように笑うと、ルッスーリアは小首をかしげながら、「それもそうね」と笑った。


「出来れば・・・・ベルちゃんの味方をしてあげたいけど・・・・こればっかりはねぇ・・・・」
「そもそもお前がを呼べなんて言うからじゃね?」
「あら、いけない!もうこんな時間?!――――そろそろ寝ないとお肌に悪いわ!」
「って、おい!逃げんなよ!――――この、オカマ!」


慌てて部屋の中へと戻っていくルッスーリアに悪態をつく。
それでも一人になると、大きな溜息が漏れた。
ふと部屋の中を見れば、ボスが立ち上がり、の肩を抱いて出て行くのが見える。
その瞬間、言いようのない痛みが胸の奥を走って、オレは慌てて部屋の中へと戻った。


「あれ、ベル。どうしたのさ。そんなに血相かえて」
「うるせぇよ、チビ。お子ちゃまは早く寝ろ」
「む。心外だね。ボスに女、取られてイラついてるのかい?」
「・・・・黙れよ、お前の相手してる暇なんかねぇ!」


そう言って急いで部屋を出る。マーモンが後から何か叫んでいたけど、この際無視だ。
つかオレ、何で二人のこと追いかけてんだろ。
追いかけて何を言う気だ?を返せって?あのボスに?――――無理だ。マジでかっ消される。
でも・・・・オレだけのものにしたくて、やっと手に入れたのに、こんな簡単に盗られていいのか?
だからってボスに逆らって、もし彼女まで殺されちまったら?あのボスならやりかねない。


「・・・・・ッ」


そこで、足が止まった。
前方にはエレベーターホールが見える。
その前に、ボスとが並んで立っていた。これからボスの部屋へ行くんだろう。
ボスはの腰を抱き寄せ、何やら耳打ちをしている。それを見て嫉妬で狂いそうになった。
チン、という音がして、扉が開く。二人がエレベーターに乗り込んだ。その時、自然と足が動いていた。


「――――ボス!」


エレベーターの前に走って行った時、扉は閉まりかけていた。
一瞬、驚いたように顔を上げたと目が合う。ボスも僅かに眉をあげてオレを見た。


「・・・・明日の朝には返す」


扉が閉まる直前、ボスの楽しげな声が耳を掠めていった――――











「――――入れ」


背中を押され、中へ入ると、一際広いリビングが目の前にあった。
さすが、九代目の息子であり、ヴァリアーのボスらしい、高価な装飾品に囲まれた部屋・・・・
私は少し緊張しながら、部屋の中央へと歩いて行った。


「何か飲むか?」
「あ・・・・はい、ではお水を・・・・」


先ほど飲みなれていないウイスキーを飲んだからか、少しだけフラつく。
それを知っている彼は苦笑しながら、ミネラルウォーターを備え付けの冷蔵庫から取り出すと、こっちへ歩いて来た。


「ザンザス様・・・・?」


てっきり、くれるものかと思えば、彼がそれを口に含んでいる。
キョトンと彼を見上げていると、いきなり抱き寄せられ、唇を塞がれた。


「・・・・ん・・・・ぅ」


彼の口から、水が注ぎ込まれ、私は必死でそれを飲み込んだ。
少しだけ気管に入り、小さく咽ると、彼は背中を擦ってくれている。


「ゴホ・・・・ッ」
「大丈夫か?」
「は・・・・はい・・・・」


突然の事で驚く暇もない。
恐る恐る彼を見上げると、熱い視線と目が合った。


「ベルの奴・・・・よほどお前が大事みたいだな・・・・」
「・・・・え?」


ドキっとした私に、ザンザスはニヤリと笑った。
何もかも見透かしたような目だ。


「何だ?オレが気づかないとでも思ったか?アイツの視線に」
「・・・・・・」
「あんなベルは初めて見た・・・・」


ザンザスはそう言って笑うと、不意に私の顎を持ち上げた。


「だから・・・・お前を抱いてみたくなった」
「・・・・・ッ?」
「ベルしか、男は知らないんだろう?」
「・・・・はい」


小さく頷くと、彼は満足そうな笑みを浮かべた。


「たまにはお前みたいな女も初々しくていい・・・・」
「―――ん、」


覆いかぶさるように唇を塞がれ、呼吸が止まる。
彼のキスは、ベルよりもスクアーロよりも、激しく荒々しいものだった。
最初から舌が入ってきて、強引に唇を割ってくる。
苦しくて身を捩っても、彼はそれを許さないというように私を抱き上げた。


「・・・・ん・・・・ぁ」


彼はキスをしたまま私を大きなソファに座らせると、脚の間に体を入れてくる。
そうする事で大きく脚が開かれ、羞恥心で赤くなる。そんな私を満足げに眺めながら、彼は右手で太腿を撫でていく。
その手が少しづつ上がって、ドレスが捲れて足が露わになるのを感じ、かすかに体を捩った。
肌に空気が触れ、太腿を彼の手が優しく撫でていくと、開かれた中心に指が触れた。


「・・・・んっ」


敏感な場所を指で撫でられ、ビクリと腰が跳ねる。
彼は何度もそこを撫でながら、割れ目に沿うように奥の方へと指を滑らせた。
そして下着の上から指を突き立てる。


「・・・・や・・・・ぁ」


一気に電気が走ったような感覚で体が跳ねる。
そんな私を楽しむかのように、ザンザスは舌なめずりをした。


「・・・・なかなか、いい反応だ」
「・・・・ぁっ」
「さすが、ベルに調教されてるだけあるな・・・・」


ニヤリと笑いながら、彼は下着の上を何度も撫で回す。
休む事なく与えられる刺激に、次第に体も熱くなっていくのが分かった。


「ほら・・・・下着まで濡れてきてるぜ?」
「・・・・ゃ・・・・っ」


彼の言葉にますます羞恥心が煽られる。
本当は今日、初めてまともに口を利いたザンザスに体を許すなんて怖かった。
でもそうしないとベルが困ると思ったのだ。
それに今は専属でも、元々複数の男を相手にする商売だ。
何も恐れる事はない、と彼の言うがままについてきた。
でも・・・・慣れていない男の人の愛撫に、私は恥ずかしさでいっぱいになった。
そんな心とは裏腹に、どんどん反応していく自分の体さえ、恥ずかしいと思った。


「・・・・ぁっ」


不意に中心を撫でていた指が、下着の隙間から入ってくるのを感じ、ビクンと体が跳ねる。
大きく開かれた脚のせいで、彼の指の侵入を簡単に許してしまう。


「・・・・感度がいいな」
「あ・・・・や・・・・ぁ・・・・ぁっ」


直接、指で中心を撫でられ、何度も体が跳ねる。
彼はわざと焦らすように愛液を指に絡め、割れ目を何度も行き来させている。
そして一番敏感な場所には触れず、彼はそのまま熱くなっている中心に指を入れてきた。


「・・・・んっ」


異物が入れられ、喉がのけぞる。
ザンザスはそんな私の唇に軽くキスを落とすと、ゆっくりと下へ体をずらして行った。


「・・・・な・・・・何・・・・を・・・・ひゃ・・・・っ」


私の両脚の間まで顔を下げる彼に慌てて体を起こそうとした。
が、いきなり内腿を舐められ、ビクっとなる。
その間も中では指が動いていて、次第に力が抜けそうになった。


「・・・・あ・・・・ぃや・・・・っ」


突然、彼の手が私の脚を、それまで以上に広げてきて驚いた。


「この方が良く見える」
「・・・・や・・・・ぃ・・・・やっ」


更に広げられた脚は、彼の肩へと乗せられた。
その格好が死ぬほど恥ずかしくて、涙が溢れてくる。
それでも彼は楽しげに顔を歪めると、ゆっくりと脚の間に顔を埋めた。


「・・・・ぁ・・・・んんっ」


下着の上から唇が押し付けられ、今まで以上に体が跳ねた。その瞬間、足からヒールが脱げて床に落ちる。
彼は濡れてる場所にわざと舌を突き立てていた。その激しい刺激に体全体に力が入る。


「・・・・く・・・・。キツイな・・・・指が食いちぎられそうだぜ」
「・・・・や・・・・ぁっ」


下着の上から舌を轟かせながら、彼が笑う声が耳に届く。中を犯す指の動きは少しづつ早くなって行き、厭らしい水音に耳を塞ぎたくなった。
ベルよりもどこか乱暴なその動きに、恥ずかしさで涙がボロボロと頬を伝っていく。


「・・・・恥ずかしいか?」
「――――ッ」


その問いにビクっとなる。彼は羞恥に震える私を見て、更に興奮しているようだ。
彼は舌と指をを休めることなく動かしながら、「直接、舐めるぞ」と私の下着を思い切り引きちぎった。
恥ずかしい部分が全て彼の目にさらされ、私は思わず脚を閉じようとした。
それよりも早く敏感な部分にヌルリとした感触が走り、悲鳴に近い声が上がる。


「・・・・いや・・・・ぁ・・・・ザンザ・・・・ス様・・・・っ」
「一度、イクといい・・・・。楽になる」
「・・・・や・・・・!ぁあ・・・・っ」


激しく舌が動いて厭らしい音が耳に届くたび、体全体が痺れて甘い刺激が脳に伝わる。
恥ずかしくて死にそうなのに、体は勝手に彼の愛撫に応えようと、絶頂へと駆け上がっていく。
その時、一番敏感な芽に吸い付かれ、体全体にビリビリと電気が走った。


「・・・・ぁぁあっ」


背中が反るくらいの刺激に襲われる。
次の瞬間、体の力が一気に抜けて、私はグッタリとソファに凭れかかった。


「・・・・イったか?」
「・・・・・・」


口を拭いながら、彼はゆっくりと体を起こして笑った。
そして力なく凭れている私にキスをすると、肩から一気にドレスを下げた。


「・・・・・ぁっ」


あらわになった胸に、彼の唇が吸い付く。
休む事のない激しい愛撫に、私は意識が朦朧としてきた。
涙が溢れては頬を濡らしていく。


「・・・・泣くほど気持ちいいのか?それとも・・・・ベルを思って泣いてるのか?」


胸の先を舌で転がしながら、彼は笑った。


「他の男を思って泣いてる女を抱くのも、そそる」


体は愛撫に反応している。だけどそれは男を一度知ってしまった体だからだ。
愛情がなくても、例え望んでいないセックスでも、女は濡れるように出来ている。
自らの身体を守る為にそうなるのだ、と前にベルが教えてくれた。多分レイプされた私を気遣っての事だ。
でも心は・・・・何が守ってくれるんだろう・・・・。この涙は何故、溢れてくるんだろう。私は娼婦なのに。
こんな事くらいで泣くなんて、バカみたいだ。
ベルを思って泣いてる?そうじゃない・・・・。悲しい時に思い出すのは・・・・・会いたいのは――――。



―――バンッ!!



意識が朦朧としてきた時、激しくドアが開く音が聞こえた。
私の上に乗っていたザンザスが驚いたように起き上がり、銃を構えている。
何が起きたのか、分からない。でもハッキリと聞こえた気がした――――彼の、私を呼ぶ声が。



「――――!」


「・・・・スク・・・・アーロ・・・・?」



涙でボヤけた視界に、見覚えのある綺麗な長い髪が、なびいて見えた――――














今回は鬼畜ボスで(オイ)
そろそろ終わりに近づいてます。



■スクアーロの優しさが胸にしみます。いつもSICILYさんの作品を読むと、それまで以上にその漫画のファンになってしまいますwwこれからも末永くよろしくお願いしますね。(高校生)
(当サイトのドリを読んで、更に原作のファンになるなんて言ってもらえて感激の極みです(*TェT*)これからも頑張りますね!)

■ぜひ、ボスを絡めてほしいです・・・・!(高校生)
(今回は何気にボスが絡んでます(笑)

■惚れました!もうこれは大大大好きです!!(高校生)
(ありがとう御座います〜!そんな風に言って頂けて大感激っ(TДT)ノ