「う゛お゛ぉい!痛てぇーぞぉ!」
「肋骨折れてるんだから痛いのは当たり前でしょっ!少しは我慢しなさい!」
ルッスーリアはそう言いながらも、ギュウギュウと包帯を絞めて来る。
その度に胸が痛み、オレは軽く舌打ちをした。
あの後、治療班が到着し、簡単に傷の手当てをしてもらった。
そしてルッスーリアに部屋まで運んでもらったはいいが、「包帯の巻き方が甘いわ」などと言って、先ほどから巻きなおしている。
几帳面な性格なのは、相変わらずだ。
「はい、出来た!これくらい固定しておかないとね。スクちゃんてば、すぐ動き回るから」
「・・・・うるせぇ」
「とにかく!完治するまで安静にしててね!家光の見張りは私達が交代でやるから」
「チッ・・・・分かったよ・・・・」
と言って、折れた肋骨以外、オレにしてみたら、それほどの怪我じゃない。
2〜3日、休めば動けるようになるだろう。ザンザスと付き合うようになってから、こんな怪我は日常茶飯事だ。
「それより・・・・」
救急箱に包帯を仕舞いながら、ルッスーリアがふと顔を上げた。
「ホントにあの子の事、いいの?好きなんでしょ?」
「・・・・関係ねぇだろぉ」
「またそれ?全く・・・・どうして男って素直じゃないのかしら」
ルッスーリアは頬に手を当てながら、首を軽く振っている。
てめぇも男だろ、と内心思ったが、そんな事を言えばグダグダと文句を言われるのは目に見えている。
今はコイツの文句を聞いている気分じゃなかった。
「とにかくこのままじゃアンタもあの子も・・・・そしてベルちゃんも皆・・・・幸せにはなれないわよ?」
「・・・・・ッ」
その一言にオレがハッとして顔を上げれば、ルッスーリアは困ったように微笑んだ。
「だってそうでしょ?皆が自分の心を偽ってるんだから。そんなの不幸なだけよ」
「うるせぇよ・・・・」
「はあ。ホント、素直じゃない。――――じゃあ私はそろそろ部屋に戻るわね。ジっとしてるのよ?」
ルッスーリアは呆れたように溜息をつくと、ドアの方へと歩いていく。
それを見ながら、軽く息を吐いた。
――――皆、幸せにはなれない。
その言葉が胸を痛くさせる。
そんな事は痛いほど分かっている。でもの気持ちすら曖昧で、本当にオレの事を想ってくれているのか疑問だった。
それにベルフェゴールだってに本気で惚れている。金まで払って手に入れたんだ。簡単に手放すはずが――――。
「――――あら、ベルちゃん?!」
「・・・・ッ?!」
ドアを開けたルッスーリアが、驚いたような声を上げた。
ハッと入り口に目を向けると、ベルフェゴールがいつもの笑みを浮かべながら中へと入ってくる。
「よ♪ 怪我の具合はどう?」
「・・・・何の用だぁ」
「ちょっと話あんだよねー。――――悪いけど2人だけにして」
ベルは後ろにいるルッスーリアへ声をかける。
ルッスーリアも分かっていたのか、「了解♪ あ、ケンカはダメよ?」とだけ言って、そのまま静かに部屋を出て行った。
ドアが閉まると、ベルがゆっくりとベッドの方へ歩いてくる。相変わらず、ふざけた笑みを浮かべながら。
「・・・・話って何だぁ?」
「分かってるクセに。しし♪」
笑いながらベッドの脇に立つと、ベルフェゴールは「の事に決まってんだろ?」と言った。
今更の事で何を話すと言うんだ?内心そう思いながら、ゆっくりとベルを見上げた。
その浮かべている笑みからは、真意は読み取れない。
コイツがヴァリアーに来た時も、8歳ながら他人を笑顔で交わす術をすでに身につけていた。
「今更アイツの何を話すってんだぁ?ザンザスに平気で抱かせようとした事で罪悪感でも感じてんのかよ」
「はあ?オレが?バカ言うなよ。何で王子が罪悪感とか感じなくちゃいけないわけ?」
「・・・・てめぇ。に惚れてんじゃねぇのか」
ベルに言い草に腹が立ち、睨みつける。それでもベルは笑顔のまま人を馬鹿にしたように片眉を上げた。
「そんなにが欲しいんだ」
「何・・・・っ?」
「だったら、あげるよ。もう追い出したし早く追いかければ?」
「――――なっ」
ベルの言葉に一瞬息を呑む。
追い出した、という一言が胸に突き刺さった。
「オレさぁ。他の男を好きな女、いつまでも飼ってる趣味ないんだよね」
「・・・・・・ッ?」
ふとベルの顔から笑みが消えた。
「知ってんだろ?が惚れてるのが誰かって事くらいさ。だから追い出した。欲しいならスクアーロにあげるよ」
「てめぇっ!!!・・・・っつ」
カッと来てベルの胸倉を掴む。同時に激しい痛みが体全体を走り抜けた。
「あんま無理しない方がいんじゃね?肋骨折れてんだろ?」
「う・・・・るせぇっ!!を・・・・アイツをどうしたっ!」
「言ったじゃん。追い出したって。他の男に惚れてて、かつボスを怒らせた女、オレが置いておくと思う?」
「ふざけんなぁ!!アイツがザンザスを怒らせたわけじゃねぇ!それにアイツはここ出てっても行くとこなんかねぇだろうが!」
はコイツのおかげで借金がなくなった。それと同時にあの強欲ババァとも縁が切れたはずだ。
なのに今、ここを追い出されてしまえばアイツは路頭に迷ってしまう。
それとも――――。
「てめぇ・・・・まさかに金を返せなんて言ってねぇだろうな・・・・」
そう言って睨みつけると、ベルは楽しげな顔で笑った。その、いかにもバカにしたような笑みに嫌な予感がする。
「当たり前じゃん。もうオレのもんじゃなくなった女に、大金出す必要もないだろ?」
「――――ッ」
「仮にも引き受けしてやったオレに、"他に好きな奴がいる"って言ったんだよ?冗談じゃないっつーの。その罰として金は返せって言ってやった。うしし♪」
――――また体でも売って稼ぐんじゃないの?と、ベルは笑った。その一言にカッとなる。
左腕に仕込んである剣で思いきり切りつければ、ベルは身軽な動作で後ろに飛んだ。
「・・・・くっ」
「ぁっぶね。まだそんな動けんだ」
「てめぇ・・・・に惚れてたんじゃねぇのかぁっ?!そんな軽い気持ちでアイツを無理やり手に入れたのかっ!」
「言ったろ?他の男に惚れてる女なんて飼う趣味はないってさ。分かる?お前に惚れてる女なんてオレはいらないんだ」
「――――ッ」
「ゴチャゴチャ言ってないで早く追いかければ?それだけ動けるんだからさ」
ベルはそう言うと、窓の外へと視線を向けた。
「さっき雨が降って来たんだよねぇ。、この雨の中、どこ行くんだろ」
「・・・・・チッ!」
窓の外からは確かに雨の降る音が聞こえてくる。
この雨の中、一人屋敷を出て行くの姿が脳裏に浮かんだ。その瞬間、考えるよりも先に、体が動いていた。
――――オレのせいで、またアイツは最悪な場所へ戻されてしまう。
ベッドから飛び出し、ベルを押しのけるとドアの方へと走る。
が、その瞬間、足が、止まった――――。
「・・・・?」
ドアの前に、不安げな顔で立っている一人の少女。
ここを出て行ったと聞かされたはずなのに、何故ここにいるんだ。
そう問いかけたいのに言葉が出てこない。
その時、後ろでベルの笑い声が聞こえてきた。
「ほーら、オレの言ったとおりだろ?」
「・・・・何っ?」
「がスクアーロの気持ちに自信ないみたいだったからさ。だったら実際に見せてやればも分かるかと思って」
「てめぇ・・・・何言ってやがんだぁ?」
「鈍いなぁ・・・・。スクアーロも。ま、でも・・・・もこれで良く分かったろ?」
ベルはオレを押しのけると、ドアの前で泣きそうな顔をしているの方にゆっくりと歩いて行った。
「元々スクアーロは好きでもない女の為にこんな雨の中、追いかけるような男じゃねーし」
「ベル・・・・てめぇ!」
「スクアーロもちゃんとに言ってやれよ。自分の気持ち、素直にさぁ。お邪魔虫は退散すっから」
ベルはそう言って笑うと、の頭を軽く撫でて、
「スクアーロに振られたらオレんトコ、いつでも戻っておいで♪」
「ベル・・・・」
「ああ・・・・それと言っておくけど――――」
ドアの手前で、ベルが振り向き、オレの方を見た。
「オレがの借金を肩代わりしたの、コイツに内緒でやった事なんだよね」
「何だと?」
「に言うと断られるの分かってたし、勝手に払っただけ。だから金の事は気にしなくていいーよ。さっきのも嘘だし」
ベルはそう言ってニヤっと笑った。
どうやらに金を返せと言ったというのは、オレにを追いかけさせようとするためのベルの演技だったらしい。
オレはまんまとそれに騙されたってわけだ。
「じゃあそうゆう事で♪ 今後の事は二人でゆっくり話せよ」
「う゛お゛ぉい、ベル――――」
「の事、泣かせたら・・・・オレも許さないから覚えておいてよ」
「・・・・・・ッ」
最後の最後で、ベルは本当の気持ちを口にした。
とことん、ムカツク野郎だ。
ベルが出て行き、部屋にはオレとの二人だけになった。
急な展開で、まだ頭がついていけていない。何て声をかけていいのかすら分からない。
もどうしたらいいのか分からないといった顔で、困ったように俯いていた。
そんな彼女を見ていたら、言葉がうんぬんよりも、身体が勝手に動いていた。
こういう時に、言葉なんかいらない。
黙って彼女の方に歩いて行くと、思い切り、その細い身体を抱きしめる。
折れた肋骨に響いたが、痛みなんかどうでも良かった。
は驚いたようだったが、抱きしめる腕に力を入れると何も言わず大人しくオレの胸に顔を埋めている。
の肩は、小さく震えていた。
二度と触れる事が出来ないと思っていた温もりが腕から伝わってくる。
たったそれだけの事なのに何とも言えない幸福感が、胸の奥から溢れてくる。――――チッ、ガラじゃねぇ。
「ス、スクアーロさ・・・・」
不意に身体を離すと、がオレを見上げてくる。
そのまま奪うように唇を塞いだ。の身体が僅かに跳ねて、すぐにオレの胸をぎゅっと掴んでくる。
その仕草一つ一つが、愛しい――――。
「好きだ・・・・・」
どれほどの時間、口付けていたんだろう。
ゆっくりと唇を解放した時、心から溢れてくる想いを口にした。
オレを見つめるの瞳からはいつの間にか涙が溢れていて、それを唇でそっと掬う。
「今まで、こんなに我慢した事はねぇ・・・・。もう我慢する気もねぇ・・・・・」
「スクアーロさん・・・・?」
「お前が許してくれるなら・・・・オレにお前を守らせてくれ」
「・・・・・ッ」
「お前の・・・・傍にいてぇんだ・・・・」
ホント、らしくねぇことを言ってる。でも、それが本心だ。もう何も隠す必要もない。
の頬に綺麗な涙が伝って落ちていく。
「それは・・・・私の気持ちです・・・・」
と、小さな声がオレの耳に届いた。
「ずっと・・・・私もずっと・・・・我慢してたから――――」
何度も諦めようと思って、自分の心を偽ってきた。
はそう言って泣き顔のまま、微笑んだ。その笑顔は今まで見た、どの女の笑顔よりも綺麗で、オレの心を、また奪っていく。
「もう誰にも遠慮なんかしねぇ・・・・。それでもいいか?」
強く抱きしめながら聞いたオレの言葉に、が小さく頷いた――――
「ホーント、バカね。ベルちゃんてば」
廊下に出た瞬間、背後から溜息交じりの声が聞こえて、オレはゆっくりと振り向いた。
そこには思ったとおりの人物が壁に寄りかかって立っている。
「何だよ。戻ったんじゃねぇの?」
「いくらなんでも心配でしょ?また殴り合いでも始まったら止めようと思ったのよ」
ルッスーリアはそう言いながら、軽く肩を竦めた。
「その様子じゃ、あっちは上手くいったみたいね」
「・・・・当たり前じゃん。お互い好き同志なんだから。オレはそこに割り込んだだけのバカな男ってわけ」
「あらら。王子が珍しく弱気じゃない。いつもの強気はどうしたのよ」
苦笑しながら歩いてくると、ルッスーリアはオレの頭を軽く抱き寄せた。
筋肉質のオカマに抱きしめてもらっても気持ち悪いだけだってのに。
「王子にも手に入らないもんってあんだなぁって、を好きになって気づかされたよ。よりによって――――」
「あんなバカなサメに盗られた・・・・って?」
「その通り。好きな女の気持ちにも気づかないクセに、美味しいとこばっか持ってくし、ムカツク〜」
「はいはい。でも・・・・偉かったわね。彼女の気持ちを考えて身を引くなんて。さすが王子だわ」
「・・・・・」
ルッスーリアの言葉が、胸に突き刺さる。
出来ればオレだって、彼女を手放したくはなかったんだ。
「だって・・・・オレ、の事、泣かせちったし・・・・。オレはアイツに・・・・笑ってて欲しいだけなんだ・・・・。幸せそうにさ」
「ベルちゃんてば・・・・ホント、いい男ね。私と付き合う?」
「それだけは勘弁して・・・・」
ぐすっと鼻を鳴らすルッスーリアのお誘いを軽くお断りすると、それはすぐに笑い声に変わった。
「じゃあ仕方ない。今日は私がやけ酒に付き合ってあげる。つぶれるまで飲みましょ」
「いいの?家光の見張りあんだろ」
「いいのいいの。あんなのはレヴィとマモちゃんにやらせとけば」
「レヴィの奴、まだ寝てんじゃねぇの?さっき散々飲ませちゃったし」
「たたき起こせばいいのよ。さ、私の部屋で飲みましょ!今日はとことん飲むわよ〜♪」
オレの肩を抱くと、ルッスーリアは楽しげに歩き出した。
ホントはオカマと飲む気分じゃないんだけど・・・・ま、たまにはいいか。
どうせ部屋へ戻っても、誰もオレを待ってる奴なんか、いないんだから。
「んじゃボスの酒、くすねてくる?25年物のワイン、見つけたんだオレ」
「んまーあ!見つかったらボスに殺されるじゃないの。ダメよそれは」
「大丈夫だって!レヴィの奴が酔っ払って飲んだ事にすればいいし」
「あ、それもそうね。あれだけ泥酔してたら、きっとレヴィも覚えてないだろうし」
「だろ?きっと青い顔してボスに土下座しまくるんじゃね?それも見たいしさぁ、しし♪」
「ベルちゃん・・・・性格の悪さにまた磨きがかかったわね・・・・」
ルッスーリアが溜息交じりで呟く。
お互い様だろ?と返しながら、オレは普段の自分を取り戻していった。
仲間とバカを言い合いながら、命がけの任務をこなす。
これがオレの日常だった。また、そこに戻ってきただけ。
のいない、あの頃のオレに・・・・・。
(バイバイ、。スクアーロに幸せにしてもらえよ)
そう心の中で呟いて、オレは歩き出した――――
一ヵ月後――――
そこは取り立てて綺麗なわけでもなく、広いわけでもない、普通のアパートだった。
さすがにヴァリアーの屋敷には住めないというの気持ちを考え、近所に部屋を借りようと言い出したのはオレだ。
「じゃあ自分で探します」
任務で忙しくなってきたオレを気遣い、そう言ってくれたが探してきたのは、そういうアパートだった。
もっと綺麗なとこにしろ、と何度も言ったが、がそこをいたく気に入ったらしく、最後はオレが折れる形になった。
そこにが好きだというアンティークの家具を入れ、少しづつ生活用品も増やしていった。
もっと高くていいと言っても、は「これで十分」といって、使いやすい物を自分で選んでは嬉しそうにオレに見せてくれる。
これはこんな機能がある、とか、これはお店の人にオマケしてもらった、とか、そんな他愛もない話を楽しそうにしている彼女を見ていると、オレも自然と幸せな気持ちになってくる。それは今までに感じた事もない、幸福感だった。
でもオレの中で、一つ譲れないものがベッドだった。
は小さめのものを選らんでいたが、オレがキングサイズのベッドにしろと、無理やりそれを買ってやった。
は、「あの狭い部屋にこんなサイズのベッドがあったら歩く場所がない」なんてボヤいていたが、
どうせオレが泊まる時は一緒に寝るんだし、だったら大きい方がいいだろうと言ったら、真っ赤になっていた。
そんなところも、全て愛しいと思える。
「何とか人が住めるくらいに片付いたじゃねぇかぁ」
忙しい任務の合間、久しぶりにのアパートを訪ねたら、ほぼ完璧に片付いている部屋を見て感心した。
きっとオレが来れない間に一人で頑張ったんだろう。
は嬉しそうな笑顔を見せて、オレにビールを出してくれた。
「スクアーロさんのおかげです。家具とか、すぐに送ってもらえるよう頼んでくれたから。このソファも昨日、届いたんですよ?」
「ああ・・・・やっぱ、こっちにしておいて良かったな。なかなか座り心地もいいじゃねぇか」
「はい。あまりにフカフカだから、昨日はつい、ここで寝ちゃいました」
「あ?ここで・・・・って・・・・。ベッドはもうついてんだろ」
の言葉に眉を寄せれば、は照れ臭そうに微笑んだ。
「でも・・・・あのベッド、一人だと凄く広すぎて落ち着かないんです」
「・・・・・・・」
思わず言葉を失った。
確かにあのキングサイズのベッドに、小柄なが一人だけじゃ、余ってしまうだろう。
だからって何もソファで寝なくても・・・・。
そう思いながら、軽く噴出した。こういうところが可愛くて仕方がない。
「じゃあ・・・・今夜はオレが泊まってやろうかぁ?」
「えっ?」
オレの一言に、ハッキリ分かるくらい、の頬が赤くなる。
ここに引っ越してから、オレは忙しかったのもあり、まだ一度も泊まった事がなければ、未だを抱いてすらいない。
オレが泊まる、という意味がにも分かったのか、どう答えていいのか分からないような顔で見上げてくる。
そんな顔を見せられると、つい意地悪したくなるからオレもタチが悪い。
隣に座っているの方へ身体を寄せ、逃げ場を塞ぐように覆いかぶさると、は背もたれに身体をくっつけて大きな瞳を見開いた。
「ス、スクアーロ、さん・・・・?」
鼻先が触れるくらい、顔を寄せると、の頬はどんどん赤く染まっていく。
そっとの長い髪を指で避けて首の後ろへ腕を回すと、そのまま小さな唇に優しく口付けた。
最初から舌を入れれば、かすかにの身体が跳ね上がる。
にキスをするだけで、身体中の熱が一気に溢れてくるから不思議だ。
そのまま何度も角度を変えて口付けながら、の身体をソファに押し倒し、上に覆いかぶさる。
それには驚いたのか、が慌てて目を開けた。
「あ、あの」
「・・・・何だぁ?嫌か?」
「い、嫌って言うか・・・・そうじゃないけど、でも心の準備が・・・・って言うか、シャワーも浴びてないし、その」
真っ赤になりながら、あたふたと言い訳をするに、オレは内心、苦笑した。
ホントにこれで"元娼婦"か?と疑いたくなるくらいに、彼女は恥ずかしそうにしている。
以前、オレに「抱いてくれ」と言った少女と同一人物とは思えない。
でもは分かってない。そういう純粋なところが、またオレの心を暴走させるんだって事を。
「・・・・言ったはずだぁ。もう我慢はしねぇ」
「・・・・・・ッ」
「もう、散々待ったからな・・・・・」
そう言ってもう一度、口づける。今度は最初から深く、奪うように。
舌で口内を愛撫すれば、の喉から甘い声がかすかに漏れる。
ゆっくりと腰から胸にかけて撫で上げながら、胸元のボタンを外していくと、がかすかに反応した。
一つづつ、ボタンを外していきながら、唇を首筋へと移動させていく。
白い肌が露になっていくのを視界の端に捉えながら、初めてといって良いほど気分が高揚していくのを感じた。
これまで何人もの女を抱いて来たが、こんなにも身体全てが反応するのは初めてだった。
特別グラマーなわけでもない。逆に細すぎて幼いほどの身体だ。色気などあるはずもない。
でもそんなものはどうでもいいと思えるほど、オレは目の前の女に欲情していた。
本気で惚れた女だとこうも違うのかと頭の隅で驚きながら、滑らかな肌に口付けていく。
「ん・・・・っ」
胸の尖りを口に含むと、の控えめな声が耳を刺激する。
その声をもっと聞きたくて、舌を使い硬くなったそこを何度も愛撫していく。
は恥ずかしいのか、声を殺すようにしながら、それでもオレの愛撫に答えようと、そっと手を伸ばしてきた。
「スクアーロ・・・・さん・・・・」
「・・・・スクアーロでいい」
伸ばしてきた指先に軽く口付けると、がビクっとしたように目を開けた。
潤んだ瞳はまるでオレを誘うように、揺れている。
――――が、その瞬間、耳障りな着信音が部屋に鳴り響き、オレは慌てて身体を起こした。
も驚いたように、肌蹴た胸元を隠している。
オレは軽く舌打ちをすると、「わりぃ」と一言呟いて、携帯をポケットから取り出した。――ルッスーリアからだ。
まだ任務は終わったわけじゃない。何か動きがあったのだろう。
当然、無視を決め込むわけにも行かず、大きな溜息をつきつつ通話ボタンを押した。
「もしも――――」
『あ、スクアーロ!私!ルッスちゃんよ〜!』
「・・・・分かってる。用件を言え」
との久しぶりの時間を邪魔され、額がピクっと動く。
が、次の言葉を聞いた時、すぐに頭が切り替わった。
『動きがあったわ!家光のところにいた少年がこっそり出て行ったらしいの!今、部下から報告が――――』
「で?そいつはどこに向かってる?!」
『どうやら空港らしいの。今、私も向かってる』
「オレもすぐ行く!」
『あら、いいの?今夜はちゃんとこに行くって――――』
「オレが任されたんだ、そのガキの事はオレが追う!お前は奴から目を離すなぁ!」
それだけ言って電話を切ると、すぐにコートを羽織った。
はすでに身なりを整え、不安そうな顔でオレを見上げている。
「わりぃ・・・・。行かなくちゃいけなくなった」
「分かってます・・・・。でも・・・・大丈夫ですか?」
心配そうな顔をするに、ふと緊張が緩みそうになる。
でも今は大事な時だ。ザンザスの夢が叶うかどうかの。そしてそれはオレの夢でもある・・・・。
「そんな顔するなぁ。すぐ戻る」
「ご、ごめんなさい」
「すぐ謝るとこは変わってねぇなぁ」
そう言って笑うと、もあっという顔でオレを見上げた。
そんな彼女が愛しくて、強く抱きしめる。
「せっかく久しぶりに会えたのに・・・・わりぃな」
「私は・・・・大丈夫です」
「オレが戻るまで一人で平気か?寂しかったらルッスーリアの奴でも呼んで――――」
「い、いえ・・・・皆さん、お仕事で忙しいんですから、ホント大丈夫です」
「あいつら、オレが戻るまで仕事なんかしねぇよ」
そう言って苦笑すると、も楽しげに笑った。
「スクアーロさんが帰ってくるまでに・・・・美味しいお料理覚えておきますね」
「・・・・そりゃ楽しみだな」
そっとにキスをして、もう一度抱きしめる。
出来れば今回の任務が長引かなければいいと思いながら、彼女の額にもキスを落とした。
「ったく・・・・ルッスーリアの奴、いいトコで邪魔しやがって」
「・・・・ス、スクアーロさんっ」
何気ない一言で赤くなるに苦笑しながら、名残惜しい気持ちを押し殺し腕を離した。
「じゃあ・・・・行って来る」
「はい」
エントランスまで見送りに出てきたの頬にキスをして、オレは部屋を飛び出した。
今からヴァリアーでの大事な任務が待っている。ヘマは許されない。
闇の中を駆け抜け、オレはヴァリアーとしての自分を取り戻しながら、それでもオレを待っていてくれる存在を想った。
――――必ず、帰る。
そう、心に誓って、夜空を見上げる。そこには、彼女と初めて会ったあの夜のような、青白い月が浮かんでいた――――。
******オマケ******
「スクアーロ!!こっちよ!あの子の行き先が分かったわ!」
「どこだ?」
「行き先は日本。家光の息子がいる国よ。はい、これチケットとパスポート」
「あのガキがぁ・・・・。舐めたマネしてくれるぜ」
「今になってこの動き・・・・。ボスが言うとおり、やっぱり何かあるわね」
「絶対逃がさねぇ・・・・。オレが三枚に下ろしてやるぜぇ」
「頼んだわよ?私はあんたを空港まで送ったら、すぐにボスのとろこへ行くわ。とっとと捕まえて、サッサとちゃんのとこに戻ってあげなさい」
「・・・・言われるまでもねぇよ」
「あらあら。その分じゃ上手くいってるみたいね」
「うるせぇ・・・・。あんな思いしてまで手に入れたんだ。すぐに壊れてたまるかぁ」
「ところで・・・・今回はデキたの?」
「あ?」
「ちゃんと、エッチ♪」
「・・・・・・ッ」
「あ、もしかして、さっき電話した時、真っ最中だった?」
「うるせぇ!その前に邪魔したんだろーがぁ!」
「あ、やっぱり?何か声の調子が怒ってるっぽかったから、もしかしたらそうなのかしらって思ってたんだけど♪」
「う゛お゛ぉい!嬉しそうな顔すんじゃねぇ・・・・たたっ切るぞぉ?!」
「やぁねぇ、イライラしちゃって。欲求不満じゃないの?プラトニックもいいけど、あまり長引くと体に悪いわよ♪」
「・・・・・・ッ(ピキッ)」
「あら、図星?」
「うるせぇ!このオカマがぁ!」
Fin......