「・・・・ベル!――――ありがとう」
彼女はオレの大好きだったあの笑顔でそんな事を言う。答える代わりに手を振って、オレは彼女に背を向けた。
だから――――気づかなかった。
怪しい人影が、オレ達をこっそり見ていた事に――――。
「あれぇ?意外と早かったですねー」
ホテルの部屋に戻ると、嫌味なコーハイが声をかけてくる。
ソファにふんぞり返ってテレビを見ているフランを無視すると、オレは奥のベッドに寝転がった。
フランはそんなオレを無言で見つめながら、リモコンでやたらとチャンネルを変えている。
その音でさえ煩わしくて、オレは寝返りを打った。
「あーさっきロン毛隊長から連絡がありましたよー」
不意に口を開いたバカガエルに、鼓動が大きく跳ねた。
今の今まで会っていた彼女の顔と同時にあの、人を突き刺すような視線を思い出す。
「へぇ・・・・。スクアーロ隊長殿はなんてー?」
「敵のアジトが分かったんでー予定の日にそこへ直接、来いってー」
「あっそ・・・・」
それを聞いてホっと息をつく。
――――チッ。一瞬、彼女に会いに行った事がバレたのかと思った。
フランは何気にオレを観察していたのか、苦笑交じりでこっちを見ていた。
「・・・・何だよ」
「今、センパイが考えてた事、分かっちゃいましたー」
「あ?」
「彼女に会いに行った事、"ロン毛隊長にバレてなくて良かったー"」
「・・・・うっせぇよ」
「でもホントに可愛らしい人でしたねーさんて」
カエルはオレの抗議(?)はシカトして楽しげに言いながら、未だチャンネルを変えている。
それでも「何もないですねー」と言いつつ、目に留まった番組を見始めたようだ。
「センパイ、また会いに行くんですかー?」
「・・・・さーなー。つか・・・・寝る」
「えー?まだ夕方にもなってないですよー」
「・・・・早起きしたから眠いんだよっ」
「そんなー。センパイ寝ちゃったら、ミー暇じゃないですかー」
「・・・・・」
生意気なコーハイとおしゃべりを楽しむ気分にもなれなくて、オレは無言のままベッドに仰向けになった。
その態度を見てカエルも無駄だと分かったのか、すぐに視線をテレビへと戻したようだ。
静かな室内に、下らない番組の音声だけが響く。
ボーっと天井を見つめていると、先ほど彼女と過ごした時間が頭の中に蘇ってきて。
あの僅かな時間に・・・・暴力と殺戮の日々で、忘れかけていた"心の安らぎ"ってのを久しぶりに感じた。
彼女とまともに口を利いたのはあの夜以来で、今日までオレは自然と彼女を避けていた気がする。
ルッスーリアが毎年企画している、彼女の誕生日パーティにも、オレは参加した事がない。
――――まあ・・・・誘われてもそれを断り続けてきたのはオレなんだけどさ。
今更どんな顔をして会えばいいのか分からなかった。
スクアーロと一緒にいるところも見たくなかった。
それでも心のどこかでは常に気になっていて・・・・。
(チッ。女々しいったらねぇーよな・・・・)
自嘲気味に笑い、目を瞑る。自分がどれだけ女々しいかって事は、この10年で嫌ってほど思い知らされてきた。
そりゃオレだって今日まで彼女だけを想ってきたわけじゃない。
恋人、とまでは行かなくても、それなりの付き合いをしてた女だっている。
ヴァリアーってだけでモテるし、オレってば王子だし?自分で言うのも何だけど女の方から寄って来るんだから仕方ない。
その中に"綺麗だな"と思うような女もいたし、"いい女だな"って思うような女もいた。決して遊びだけの付き合いじゃなかったはずだ。
なのに・・・・ダメになるのはいつもオレのせいで・・・・。
『ベルにとって私は何?ただのセックスフレンド?!』
『ベルって何を考えてるのか分からない』
『仕事って言って実は浮気してるんじゃないの?』
何度そう怒鳴られ、泣かれてきたか分かったもんじゃない。
最初は"抱いてくれるだけでいい"って言う。
そのうち"ベルの特別になりたい"と強請る。
しまいには"どうして恋人としてメンバーに紹介してくれないの?"と泣き喚く・・・・
『――――私のこと、愛してないの?』ってな感じでさ。
――――愛?愛って何だよ。オレ、一度でも「愛してる」なんて言った事あったっけ?
そうなりゃなったでオレもだんだん面倒臭くなって、後はお決まりのジ・エンド。
仕方ないっちゃ仕方ない。メンバーに紹介なんて冗談じゃねーって感じだし?
また別の女と出会っても、結局は同じ事の繰り返し・・・・。
そのうち特定の女を作るのは面倒くさくなって、複数同時に遊ぶ事にした。
気づけば"女にだらしない王子さま"なんて呼ばれるようになってたけど、オレとしてはその方が気が楽だった。
オレの中の"特別"は後にも先にも、一人だけ・・・・
一緒に生きていきたいと思わせてくれた女は・・・・あいつだけ。
世の中どうして、こう上手く行かないんだろう。
いい加減に生きてきたこのオレが、唯一、大切にしたいと思った女は別の奴に惚れてたなんて、さ。
ホント・・・・笑い話にもなりゃしねえって。
(いや・・・・。一人笑ってたっけ)
ヒゲ面の変態顔を思い出し、オレは小さく舌打ちをした。
オレが女に振られたのは後にも先にもあれが初めてで。
いつも振られっぱなしのレヴィの奴が、どこから聞いてきたのか――大方ルッスーリア辺りだろうケド――
その話を持ち出して大笑いしやがった。あの時はマジでムカついてサボテンの刑にしてやったけどな。
「チッ思い出したら何かムカついてきた・・・・」
「えー?何か言いましたー?」
「・・・・何でもねぇよ!」
カエルがバカ面で振り向くのを見て、顔を背けて目を瞑る。
――――その時、ポケットの中で振動を感じ、オレは目を開けた。ゆっくりとした動作で携帯を取り出すと、すぐに振動が止む。
携帯を開くと、一通のメールが届いていた。
「・・・・ミーナ?」
珍しい人物からのメールに、思わずその名を呟く。
この女も今オレの周りにいる複数の中の一人で、互いに時間があれば時々抱き合う程度の女だ。
でもここ最近はオレも忙しかったし向こうからも連絡すらなかったから、オレの中ではとっくに終わったものと思っていた。
"さっき見かけたわ。イタリアにいるなら会える?話があるの。私は家にいるから"
たったそれだけの文章。今夜オレに会いたいって事なんだろう。
見かけたって事は…さっきホテルに戻ってくる時か。どっちにしろ気が乗らない。
久しぶりにと会って話した後で、遊びの女を抱く気なんか起こらない。でも――――
(・・・・話?何だよ話って・・・・)
その言葉が気になった。少なくともミーナは今までこんなメールを寄こした事がない。
いつも"今日会える?"といった簡単なものだったはずだ。なのに今日に限って・・・・つーか今更オレに何の話だっつーの。
まーた面倒くせえ話なら冗談じゃない。
(でも・・・・やっぱ気になるな)
「あれー?また出かけるんですかー?」
ベッドから起き上がり、コートを羽織るオレを見て、カエルが振り向いた。
口いっぱいにクッキーを頬張るそのマヌケ顔に、かすかな苛立ちを感じたが、今はこいつをかまう気分じゃない。
「野暮用だよ。お前は死ぬまでクッキー食ってろ」
「あ〜いつもの尻軽女とデートれふかー?」
「・・・・軽い方が楽なんだよ。てめーも男なら同じだろ」
余計な一言を口にするバカガエルにそう返し、オレはドアを開けた。
「でもミーは軽い女性よりさんみたいな一途な女性が好みですけどー」
「・・・・ぐっ」
歩き出そうとしたその時、またしても余計な台詞が返って来て、額がピクリと動く。
素早くナイフを投げれば、それは全てカエルの後頭部へ突き刺さった。
「またあ・・・・。痛いですよー」
「黙れ。刺さったなら早く死ねよ、バカガエル!」
そう怒鳴ってドアを思い切り閉めると、中から「いってらっしゃーい♪」という何とも間抜けた声だけが追いかけてきた。
「――――ったく、あのカエルの中身どーなってんだっつーの」
なかなか、くたばらないカエルにブツブツ文句を言いながら、ミーナのアパートへと向かう。
彼女の家は比較的、今いるホテルから近かったはずだ。
(あ〜。だから見つかったのか?)
軽く舌打ちをして石畳の道を歩いていく。角を曲がるとミーナのアパートが見えてきた。
――――前にここへ来たのはいつだったか。
もう思い出せないが多分ミルフィオーレとの抗争が始まる前だったはずだから二ヶ月は軽く過ぎてるだろう。
「話、ねぇ・・・・」
頭をかきつつ目の前の建物を見上げる。ミーナの部屋は確か四階の端だった。
(まーた、いつものパターンで泣き喚かれたら・・・・どーすっかな)
こっちは遊びと割り切ってきたつもりだし今更ヤる以外に話し合う事なんて何もないはずだ。
でもこうして足が向いたのは、ミーナという女がオレが遊んでる女の中でも少し変わっていたからで。
「私はベルにベッド以外での事を何も望む気はないの」
彼女はよくそう言っていた。
その言葉通り、ミーナはオレに対し、何を求めてくるわけでもなく、ただ互いにヤりたい時に抱き会う関係。
ベッドの中では大胆な彼女も、それ以外では控えめな女で、オレは彼女のそういう気楽なところが気に入っていた。
そんな女から改まって"話がある"と言われれば、少しは気になるってものだ。
(まさか・・・・デキちゃったとか言うんじゃねぇだろーな)
一瞬そんな不吉な事が脳裏に過ぎる。女から話があると言い出す時は、だいたいがロクな話じゃない。
「いやいやいや・・・・。ありえねぇ」
思いなおし首を振る。デキて困るのは女よりも、むしろオレの方だ。
だから相手にもそれなりの避妊はさせてたしオレだって上手くやっていた。妊娠なんて可能性はゼロに近いはず・・・・。
「ま、行きゃ分かるか・・・・」
自分に言い聞かせるように呟きながら、アパートへと足を踏み入れる。
その瞬間――背後にかすかな視線を感じ、素早くナイフを投げた。鋭いナイフが街灯の鉄柱に突き刺さる。
アパート前の道路には数人の通行人が歩いていたが、その事にすら気づかず足早に通り過ぎて行った。
「気のせいか・・・・」
ミルフィオーレとの戦争が始まってから多少、過敏になっているのかもしれない。
オレは軽く苦笑いを零し、エレベーターへと乗り込んだ。
「――――ベル、来てくれたのね」
ドアが開くと同時に、ミーナは少し驚いたように微笑んだ。
その青い瞳は戸惑いに揺れている。
綺麗なブロンドを肩まで垂らし、身体の線がハッキリ分かるドレスからはスラリと伸びた足。
相変わらずオレを"ソソる"ほどのスタイル。
「生意気なコーハイとジャレてんのも飽きたとこだったしね」
そう言いながら部屋に入ると、勝手にソファへと腰を下ろす。
ミーナはそんなオレに視線を向けながら、「それでも・・・・嬉しいわ」とキッチンへ向かった。
「・・・・何か飲む?」
「んあ〜。いらね。すぐ帰るし」
ソファの背もたれに頭を乗せ、意味深に笑うと、ミーナは手にビールを持って隣へと座った。
「そんな・・・・来たばかりじゃない。一杯くらい飲んでけば?」
「・・・・酒よりオレは――――こっちかな」
彼女の手からビールを奪い、それをテーブルに置くと、オレはソファにミーナを押し倒した。
オレを見上げる青い瞳が驚きで揺れる。
彼女の頬から唇に指を這わせると、細い肩がピクリと跳ねた。
「お前もこういう事されたくてオレにメールしたんだろ?しし♪」
「・・・・ベル・・・・」
「それとも・・・・マジでオレに話があるとか?」
そう言いながらも胸の谷間から首筋までべっとりと舐め上げる。
それだけでミーナの白い喉から甘い声が漏れてきた。
「・・・・ん、べ、ベル・・・・」
「あんなの口実、だろ・・・・?」
一本のナイフでミーナのドレスの胸元をゆっくりと切り裂けば、彼女の白い頬が期待で赤く染まる。
だが・・・・オレはその"期待"に応えてやるつもりは、さらさらなかった。
「――――オレをおびき寄せて、コイツラに襲わせるためのさ!!」
ドレスを切り裂いていたナイフを、オレの背後へと投げる。手ごたえを感じたのと同時に狭い室内に悲鳴が響き渡った。
驚愕しているミーナの上から、ゆっくりと起き上がれば、周りを四人の男が囲んでいる。
おかしなマスクをしてるところを見れば、今戦っている相手と見てまず間違いないだろう。
「お前らミルフィオーレ?」
「ちぃ!バレたぞ!!」
四人の刺客は一斉にオレから距離をとり、その手におのおの匣を握っている。
そして素早い動きで部屋の外へと飛び出して行った。大方オレについて来いと言うんだろう。
確かにこんな狭い部屋の中での戦闘は無理がある。
「・・・・チッ。面倒くせぇ。バカガエルも連れてくりゃ良かったかなー」
「べ、ベル・・・・」
先ほど仕留めた刺客の死体を蹴り上げながらボヤくと、怯えた顔でミーナが起き上がった。
その目にはオレに今まで見せた事もない涙が浮かんでいる。
震えているミーナを、オレは無言のまま見つめた。
「・・・・ご、ごめんなさい!私・・・・あいつらに脅されて――――」
「別にいーよー?」
「え・・・・?」
「巻き込んだのオレの方だし?うしし♪」
オレの言葉にミーナは涙を一粒零した。その顔を見て何故か胸がかすかに痛くなる。
「この死体も、あいつらもオレが始末しとくから・・・・お前は今まで通りの生活してろよ」
そう言いながら敵の死体を窓から投げ捨てる。そしてオレも奴らを追うべく窓枠に足をかけた。
「――――待ってベル!!私、本当にベルの事が・・・・っ」
「・・・・・」
背中にミーナの想いがぶつかる。それを振り切るように、オレは静かに口を開いた。
「・・・・悪かったよ。巻き込んで・・・・。元気でね」
一度も振り向かないまま、オレは窓から飛び出した。
オレの名を呼ぶ彼女の声がかすかに耳に届いたけど、その声にオレが応える事は二度とないだろう。
「まーったくさぁ・・・・。セコイ手使っちゃって」
静かな怒りが足元から這い上がってくるのを感じながら、先ほどの刺客どもが逃げた駐車場まで追いかける。
奴らはすでに匣兵器を出して、オレを攻撃しようと待ち伏せていた。
「女使えばバレねーとでも思った?バレバレなんだよ、お前らの殺気」
「・・・・くっ」
ジリジリ追い詰めながら鼻で笑えば、一人の男が攻撃を仕掛けてくる。その瞬間、オレも自分の匣に嵐の炎を解放した。
「―――ヴィゾーネ・テンペスタ!」
匣から飛び出した物体は、低い唸り声を上げながらオレの首に巻きついた。
コイツはオレの匣兵器で、嵐属性の赤い炎をまとっている。
刺客たちはそれを見て一瞬ひるんだように、後ろへと後ずさった。
「ガルルル・・・・」
「ミンク。やっちゃっていいぜ?」
オレの合図でミンクと名づけた匣兵器が勢い良く敵に向かって飛んで行く。
その瞬間、一面が赤い炎の海と化し、断末魔ともいえる悲鳴が辺りに響き渡った――――
「あーあー。住宅街を燃やしちゃうなんて、大火事じゃないですかー」
ビルの屋上から火の海を見物していると、不意に後ろから能天気な声が聞こえてきた。
「うるせぇ。つーか何しに来たんだよ、カエル」
振り返ると足元にフランが呆れ顔でしゃがみ込んでいて、下の騒ぎを覗きこんでいる。
「面白い番組もなくて暇だったんでーセンパイの後を――――」
「つけんな!!」
怒鳴ると同時にゴツンという鈍い音が響く。つーかカエルかぶってんだから殴っても痛くもねーんだろうけど。
案の定、カエルはケロっとした顔でオレを見上げると、目の前の建物を指差した。
「あの女性、始末しとかなくていーんですかー?いくら脅されたからといってセンパイを裏切った人ですよー」
「別にいーんだよ。あいつを巻き込んだのはオレの方だし」
「へー!センパイって意外と優しいんですねー」
「・・・・ったりめーだろ。ま・・・・あいつにはイロイロとお世話にもなったしな。うしし♪」
「あー。センパイ、顔がいやらしいですってばー」
「うるせぇよ!」
一言多いカエルにもう一発お見舞いしてから、ミーナのいるアパートを見下ろした。
(――――私、本当にベルの事が・・・・かあ。ま、会ってるうちに何となくは気づいてたんだけどね、あいつの本心に)
ベッドの中だけでいい、と口では言いながらも、細かいところでオレの事を気遣ってくれていたミーナに、ほんの少しだけ罪悪感を感じた。
でもいくら、そんなもんを感じたところで、オレはあいつの事を本気で好きになってはやれない。
これで良かったんだ。あいつもよく分かっただろう。暗殺部隊であるオレに関われば、どんな事に巻き込まれるのかを。
「・・・・帰るぜ、カエル」
「えー?もう帰るんですかー?帰ってもどうせ暇だし、どっか行きましょうよー」
「男とデートする趣味はねーの。帰りたくねーなら一人でブラブラして来い」
そう言ってサッサと歩き出すと、カエルも渋々後ろからついてくる。その時――――オレの携帯が振動した。
「・・・・げ、ルッスーリア?」
ディスプレイには"変態オカマ"と表示されていて、オレは思い切り溜息をついた。
(この分じゃ他の奴らも襲撃されたかな?)
呑気にそんな事を思いながら通話ボタンを押す。瞬間、耳を劈くようなだみ声が響き渡った。
『もしもし!!ベルちゃん?!!!』
「――――ッ」
思わず携帯を耳から離す。ルッスーリアの声はいつもより動揺しているようだった。
「・・・・でけーよ声が!王子の耳が壊れたらどうしてくれる――――」
『そんな事より・・・・!ベルちゃん!今、誰といるの?!』
「あ?誰って・・・・カエルとに決まってんじゃん」
おかしな事を聞くもんだと苦笑する。でも次の質問に、オレは言葉を失った。
『・・・・ホントに?実はちゃんと一緒、なんて事ないわよね?!』
「・・・・・ッ」
鼓動が跳ね上がり思わず立ち止まったオレを見て、フランが不思議そうな顔で歩いてくる。
何か聞きたそうなフランに背を向けて、オレは小さく深呼吸をした。
「・・・・何だよそれ・・・・。どういう意味――――」
『・・・・時間がないから手っ取り早く言うわ」
ルッスーリアは意味深な言葉を吐いて、深い溜息をついたようだった。
「――――ちゃんが行方不明なの!』
「な・・・・」
その言葉にオレは息を呑んだ。
『時間になっても帰ってこなくてバイト先に電話したの。そしたら店長さんが、ちゃんが帰る前に金髪の彼が迎えに来たって言ってて・・・・』
「ちょ、ちょっと待てよ・・・・」
『それ聞いてもしかしてと思ってベルちゃんにかけたの!ホントのとこどうなの?今ちゃんと一緒にいるの?』
「い、いねーよ!ホントに・・・・つーか夕方前には別れたし・・・・」
思わずそう口走ると、電話口の向こうから大きな溜息が聞こえてきた。
『やっぱりベルちゃんだったのね・・・・』
「いや、ちょっと店に顔出しただけで・・・・。ってかさ・・・・が行方不明ってなんだよ?あいつ家に帰ってねーの?」
『だから言ってるでしょ!スクちゃんが迎えに行った場所にちゃんがいなかったみたいで・・・・さっき慌てて電話してきたのよ!』
そう聞いて先ほどにかかってきた電話の事を思い出す。
あの後スクアーロは彼女を迎えにあの辺まで出てきたはずだ。なのにその場所にはいなかったって事か・・・・?。
『探してもいないから万が一すれ違いでが先に家に帰ってないかって電話きたんだけど、一向にちゃんも帰ってこなくて・・・・』
で、私も心配になってあちこち電話して聞いてたんだけど、バイト先で"金髪の男"の話を聞いたから、もしやと思って――――
ルッスーリアはそう言いながら『あ、この事はスクちゃんに言ってないから安心して』と苦笑した。
でもオレはそんな事よりも未だ家に戻らない彼女の方が心配だった。
「まさか・・・・」
『え?』
ふと今まで戦ってた奴らの事を思い出し、振り返る。
駐車場を埋め尽くすほどに燃えていた炎も、今は消防隊の手によって鎮火されていた。
(まさか奴ら、ミーナだけじゃなくまでも・・・・?)
ミーナが奴らとどこで接触したのかは分からない。でもさっきオレとが一緒のところを見られてたなら、あいつも確実に見られてるはずだ・・・・。
そう思った瞬間から、これまで感じた事のない不安が足元から這い上がってくる気がした。
『ちょっとベルちゃん!まさかって何?何か心当たりが――――』
「オレ・・・・今ミルフィオーレの奴らに襲われてさ」
『えぇ?!奴らに?』
「あいつらオレと関係あった女を利用してオレを殺そうとした。もしかしたらも奴らに・・・・」
『そんな――――』
ルッスーリアが息を呑む。オレも、それ以上、口にするのが怖くて言葉を切った。
――――まさかあいつらに?
そんな事が脳裏に過ぎった瞬間、オレの思考回路は完全に止まった気がした――――