
05.彼の思惑と、彼女の事情
暗い部屋。相手の息遣い。張り詰めた空気―――。
喉元にあてられた冷たいものがクナイだと理解した時、本当に恐怖を感じるハメになった。
忍具を持っているという事は、背後でを拘束している人物が忍という事になる。
「…あ、あなた、何者…?何故ここに―――」
「…黙れ」
低い声が言った。どうやら男は外の様子を伺っているようだ。
もしかしたら送ってきたカカシの事をどこから見ていて警戒しているのかもしれない。
(…そうだ、カカシさん!まだ近くにいるはず…。大声で叫べばもしかしたら―――)
ふとの脳裏にそんな考えが過ぎる。
だが声を出した瞬間に男のクナイが自分の喉を切り裂くかもしれない。
その恐怖からはカカシを呼び戻す事が出来なかった。
「…どうやら行ったようだな…」
男が独り言のように呟く。その一言に冷や汗が頬を伝っていった。
「…今の男は誰だ。お前の恋人か?」
「…な…違いますっ」
耳元で問われた言葉に思わずムキになる。男は鼻で笑うとクナイを下げた。
「じゃあ友人か?あの警戒心…あいつは上忍クラスだろう」
「…彼は私が働く店の常連さんよ…ただのお客さん。だからよく知らないわ」
クナイが離れた事でホっとしたが、背後にいる正体不明の男の存在はやはり怖い。
は少しだけ声が震えた。
男は少し無言になったが、すぐに「座れ」と、を茶の間へ押しやった。
そこで初めて振り返り、は僅かに息を呑む。
男は予想通り忍だったが、額につけている額あては木の葉のものではなかった。
口元を布で覆ってはいるが、鋭い目を見るだけでも男が危険な奴だと分かる。
「あなた…何者なの…?」
「そんな事はどうでもいい。それより、ここはお前の家か?」
「そうよ…」
「…フン。夜中に留守だからてっきり空き家かと思ったのに失敗だったな…。こんな里の外れに人が住んでるなんて思わない」
「わ、悪かったわね!っていうか何が目的?!」
男の言い草にカチンときて、はつい普段の調子で怒鳴ってしまった。
その瞬間、男が再びクナイをに突きつける。
「大きな声を出すな。こんな人里離れた場所でも木の葉の忍がうろついているんだ。見つかりたくはないんでな」
「偵察にでも来たの?あなた、木の葉の人じゃないでしょ。その額あては見た事ないけど、どこの―――」
「黙れ」
男は鋭い目つきでを睨みつけた。恐らく図星だったのだろう。
どこの国かは知らないが、木の葉の友好国じゃない事だけは男の様子と額あてを見れば分かる。
(他国の忍が偵察に来た…という事は、この男の国が木の葉を狙っているという事…?また戦になるの…?)
目の前の男を見据えながら、は戦いの中で散った父と母の事を思い出した。
そして戦になれば必ず戦いの最前線へ出向くであろう、あの人の事を…
大勢の敵に向かっていく彼を想像して、心がざわついた。ずっと平和だったから考えた事もなかったのだ。
(この男を…逃がしたらいけない。誰かに知らせなければ―――)
は咄嗟にそう思った。逃がせば、この男の目的は遂げられてしまう。
自分の国に帰り、木の葉で調べつくした全ての事を話すに違いない。といって、この状況では―――。
「…女…。忍でもないくせに、なかなか鋭いな」
「……っ」
不意に男がの方へと歩いてくる。
その目には感情といったものが読み取れず、ひどく冷たい視線がを真っ直ぐに見据えていた。
「ここには休みに寄っただけだ。殺さずにおこうかとも思ったが…お前を生かしておいたら俺の事を誰かに話すだろう?」
「そ、そんな事は―――」
「"計画"の前に、木の葉の連中に警戒されちゃ困るんでな…。悪く思うな」
「――――」
男がクナイを握り締め、自分の頭上へと振り上げるのを、は声もないまま見つめていた。
私は今ここで死ぬんだと理解した時、あっけない最期だと少しは笑ったかもしれない。
同時に一瞬で今日までの色んな事が頭を過ぎる。
両親を亡くして、泣いていただけの日々…。生きる為、子供ながらに働くと決心した朝…。
そして彼に会った、あの雨の夜―――。
走馬灯のように、とはよく言ったものだ。
(―――ああ、こんなに突然、死を迎えるものなんだ…思えば後悔ばかりの人生だったな…)
最後に浮かんだ彼の顔を思い出しながらは強く目を瞑った。
―――が覚えているのはここまでだった。
「―――くっ!」
カラン…という音と共に、クナイが床に転がった。
自分の手に刺さっている別のクナイを、信じられない思いで見つめながら、男が慌てて振り返る。
そこには片目と口元を覆った銀髪の忍が、静かな殺気を発しながら立っていた。
「随分と油断してるじゃない。他人の家に上がりこんでるわりには」
「…貴様、さっきの…っ」
「上手く消したようだけど、さっき一瞬だけ感じた"気配"が気になって戻って来てみれば……おたく、誰?」
苦笑混じりでカカシが一歩近づくと、男は小さく舌打ちして倒れているの方へ視線を向けた。
「やめておけ。彼女にちょっとでも触れたら、今すぐ殺すよ?」
「………ッ?」
男の考えを見透かしたようにカカシは言った。その顔にはもう笑みはない。
「お前のそれ。最近出来た音の里の額あてだよねぇ。木の葉まで、わざわざ偵察に?」
「………」
「話す気はないって顔だな。なら…お前とっ捕まえて吐かせるまでだ」
言った瞬間、カカシが素早く動き、拳を突き出した。男は僅かな差でそれを避けると天井の柱へしがみ付く。
同時にカカシはクナイを投げた。が、一瞬にして男の姿が消えて、代わりに木の幹がゴトンと目の前に落ちる。
「チッ…変わり身…逃げられたか…」
軽く舌打ちをしながら、外へ逃げた気配を探る。
(出来れば生きたまま捕まえて色々聞き出したかったが…まあでも…彼女が無事だったのが救いかな…)
そう思いながら、カカシは気を失ったままのの元へ急いで駆け寄った。
壊れ物を扱うかのように抱き起こし、彼女の息遣いを聞いてホっと安堵の息を漏らす。
「ったく…。気づいて良かったよ…」
それは心からの言葉だった。
先ほど帰りかけたものの、僅かに感じた人の気配が気になり、家の明かりがつくまでは、と様子を見ていたのだ。
「…これじゃ心配で一人にしておけないね…」
溜息交じりで呟くと、カカシはを抱きかかえ、そのまま家を出た。
が目を覚ませば、きっと烈火のごとく怒るだろう。
カカシはそう思いながら、優しい眼差しで意識のないを見つめる。
「ま、仕方ないデショ。この場合」
自分にそう言い聞かせながら、カカシはゆっくりと歩き出した。

「気がついた?」
目が覚めた時、ぼんやりとした視界に映る女性にそう尋ねられ、は何回か瞬きをしながら思考をめぐらせた。
見た事のない部屋のベッドに寝ている自分に驚くまで、軽く2分は経っていたかもしれない。
「あ、あの私―――」
「気を失っていたのよ。怪我はしてないから安心して」
優しい微笑を向ける女性が、時々店に猿飛アスマと一緒に来る紅とという名のくの一だという事も気づき、更に驚いた。
「偵察に来ていた忍と鉢合わせしたんですってね。怖かったでしょう」
「…え、あ……」
紅に言われてあの時の恐怖を思い出した。突然、自分の死と直面するなんて、忍でもない限り滅多にない事だ。
「あの…私、どうして…」
「ああ…カカシがね。ギリギリのところを助けたんだって。ちなみにここは彼の部屋。意識がないあなたを一人に出来ないからって連れて来たのよ」
「え?!」
いきなりカカシの名を出され、あげく彼の部屋だと言われれば誰だって驚く。
慌てて部屋を見渡せば、確かに彼の物らしい衣服や本などが飾ってあり、思わず鼓動が早くなった。
「あ、あの私、帰ります…!」
カカシのベッドで寝ている事ですら気恥ずかしくなったは急いでベッドから起き上がった。
それを見ていた紅が驚いたように止める。
「ダメよ。あなたを一人で帰すわけにはいかないわ」
「で、でも助けてもらった上にこれ以上、迷惑は―――」
「迷惑だなんて、とんでもない。カカシは心配なのよ。里から離れた場所に一人で暮らしてるちゃんの事」
「…心配って…」
「今回の事も…運良く彼が近くにいたから気づいたけど…。もしそうじゃなかったら?」
そう言われて再びあの恐怖を思い出す。確かに今日一人で帰っていたら今頃はあの男に殺されていただろう。
でもカカシが気づいて助けてくれた。あの時、彼を呼ぶ事が出来なかったのに…気づいてくれた。
「さ、分かったら寝てて。急に動かない方がいいわ」
紅はそう言うと、をベッドに寝かせてニッコリ微笑んだ。
彼女とこんな風に話すのは初めてだけど、やっぱり綺麗な人だと思った。
「あ、あの…紅さん、もしかしてカカシさんに頼まれて、ここに…?」
ふと気になって尋ねると、彼女は苦笑交じりで頷いた。
「ええ。男一人の部屋に女の子を連れ込むのは何だし…って、何だかモゴモゴ言いながら頼みに来たの」
くすくす笑う彼女の言葉に、思わず顔が赤くなる。
そんな事など気にしなさそうなのに、と思っていると、紅さんも同じ事を感じたようだ。
「彼らしくなくて驚いちゃったわ。今更、思春期でもあるまいし…って、そう言えばちゃんはカカシと幼馴染なんですってね」
「え?あ…いえ…そんな大層なものじゃ…。子供の頃から知ってるってだけです」
「そう?ああ、でもそっか。小さい頃から知ってるから尚更、些細な事も色々と考えちゃうのかもね」
「え?」
「もう互いに大人なのに…カカシもちゃんの前だと昔の自分に戻るんじゃないかしら、って」
「昔って…」
「照れ臭いんじゃない?部屋で二人きりになるのは」
「まさか!ありえません、カカシさんに限って―――」
ムキになったの一言に、紅は小さく噴出した。
カカシの素行の悪さ(!)は彼女もよく知っているようだ。
「まあ…カカシも大人の男だし今までそれなりにあったとは思うけど…。やっぱり幼馴染の子っていうのは他の子と違うものよ?」
「そんな…ものですか?」
「逆にどう扱っていいのか分からないのかもねえ」
紅はそう言って意味深に笑った。
「どういう…意味ですか?」
「ん~まあ…そのうち分かるわよ。"木の葉一の業師"なんて異名を持つカカシも、案外、フツーの男なんだって事がね」
「…はあ」
ふふ、とまた彼女は笑う。
その意味が分からずに、は首を傾げる事しか出来なかった。

「お前さんもバカだねぇ」
ふうーっと白い煙を吐き出しながら、アスマが笑った。その横には半目になったカカシが温くなったコーヒーを飲んでいる。
今は二人、とりあえず紅の部屋で寛いでいる所だ。
を連れて来たはいいが、こんな遅い時間に意識のない彼女と部屋で二人きり、というのは何となく気まずくなり、同じ上忍仲間の紅に助けを求めに来たのだ。
案の定、そこにはアスマがいて、あれこれ聞かれるハメになってしまった。
「彼女が気づくまで傍についててやれば、目を覚ました時に感激してくれるかもしれねーのに。"助けてくれたのね!カカシさんありがとう!"ってな」
「いやいや…俺が来たこと気づく前に気を失ったのよ?自分の状況も分からないまま俺が目の前にいたらビックリするでしょーが。ヘタしたら引っぱたかれるかも」
「彼女が寝てる間に引っぱたかれるような事をすればな」
アスマはそう言ってニヤリと笑う。カカシの目が更に細くなった。
「するわけないでしょー。木の葉一、紳士の俺が」
「誰が紳士だコラ!」
カカシのとぼけた返答にアスマが煙草の煙を吹きかける。
カカシは更に目を細めて、「煙いでしょーが」と手で煙をパタパタと扇いだ。
「ったく…。よく紅も一緒にいられるよ…。お前の傍にいると肺がんになりそう…」
「これは俺の滋養強壮剤なんだよ。嫌なら来るな。こんな夜中に叩き起こしやがって」
「……………」
これにはカカシも言葉が詰まる。確かに、いくら親しい仲間とはいえ、遊びに来ていい時間帯ではない。
でも今回はの事もあるが、他国の忍が木の葉に潜入していたのだ。その事についてもアスマと話しておきたかった。
それはアスマも察していたのか、煙草を灰皿に押しつぶすと、呑気に新しいコーヒーを注いでいるカカシを見た。
「で…そいつは本当に音の?」
「ああ。間違いないね、ありゃ」
「でも何故出来たばかりの里の忍が木の葉に…。攻め入ってこれるほどの戦力もないだろう」
「そりゃそーだ。でも…」
カカシはそう言って小さく息を吐くと、ソファにもたれかかった。
「今度の中忍試験…。あれに招かれてた里の中に確か音の里も入ってたでショ」
「ああ、そう言えば…。でもそれが?」
「試験前のこの偵察……。何かあるって思うのが普通じゃない?」
そう言いながら、熱いコーヒーを軽くふうっと吹きながら、カカシはアスマにニヤリと笑った。
「何かあるって…何をするってんだ?試験を潰しに来るとでも?あの試験には他からも大勢の忍が来るんだぜ?出来たばかりの音に何が出来るって…」
「まあねえ…。中忍試験を潰したって何のメリットもないだろーし…」
カカシは考え込むように天井を仰ぐと、軽く頭を振った。
「ま!警戒しとくに越した事はないでしょ。相手も俺に気づかれて逃げたわけだから、こっちが警戒するのは分かってると思うし」
「そうだな…。ま、音のヤツラには目を光らせとこう。オヤジにも明日、俺から伝えておくよ」
「頼むね~。俺、明日も朝から任務だからさ」
呑気に笑いながらコーヒーを飲むカカシに、アスマは苦笑いを浮かべながら、本日20本目の煙草に火をつけた。
「朝から任務なのに起きてて大丈夫かよ」
「いや、明日はCランクくらいの任務だったし…。何せ護衛で相手の国まで送るだけだから、まあ何とか」
「どこだ?」
「波の国まで」
「へえ。ところでどうだ?お前んとこのガキどもは。モノになりそうか?」
「うーん。どうでしょ。まあ…ボチボチやるんじゃないの」
「うちは一族の生き残りもいるだろう。彼はどうだ?」
「サスケ?あ~アイツは確かにセンスはあるねえ。まだムラはあるけど。そっちは?確か…奈良一族の子がいたろう」
カカシが尋ねると、アスマはおもむろに顔を顰め、煙を盛大に吐き出した。
「シカマルね…。アイツなあ…頭はいいんだが、どうもやる気がねぇっつーか、呑気っつーか…よく分からねえ奴だよ」
「あ~いつ見ても欠伸してるしねぇ、彼。でも…中忍試験には推薦するんでショ?」
アスマの嘆きに苦笑しながらカカシがニヤリと笑う。アスマも否定しなかった。
「そっちこそ、どうなんだ?」
「ま。今回の任務を無事に終えたら考えるよ。まだまだ鍛え甲斐のありそうなヤツラばかりだしね」
カカシはそう言って笑うと、不意に「あー眠…」と呟いた。
「じゃあ部屋戻って寝ろよ。明日早いんだろ?」
「そうだけど…彼女がいるのに戻れないでショ」
「は?じゃあ今夜はどうする気……」
そこまで言ってハっとした。
「まさかお前ここに……」
「泊めてもらおうかなー。もちろんソファで寝るし二人の邪魔はしないからさ」
「…………ふざけんな。仮にもここは紅の部屋だぞ?どこか他の奴のところに―――」
「でもさっき彼女に頼んだら"いいわよー"って言ってたし許可とったから」
「……………」
カカシのすっとぼけた言葉に、アスマは口元を引きつらせた。
まあカカシがすっとぼけているのは今に始まった事じゃない。
アスマもその辺は長い付き合いの中で学習している。
盛大に溜息をつくと、煙草を消して立ち上がった。
「ったく…。勝手にしろ…。俺ぁ先に寝るぜ」
「あーちょっと待って」
カカシが慌てたようにアスマを呼び止めた。
「何だよ。布団ならねーぞ」
「そうじゃなくて…。彼女のこーと」
「彼女…?ああ…彼女がどうした?」
アスマが溜息をつきつつ振り返ると、カカシは困ったように頭をかいた。
「いやさ…。俺は明日から一週間くらい任務でいなくなるし…出来れば彼女を俺の部屋に置いておきたいんだよねぇ」
「は?どういう意味だ?」
「いや危ないでショ。また一人であの家に戻るのは」
「あ、ああ…言われてみればそうだが…」
「だから俺が戻るまであの部屋に住むよう言っておく。で、その間……」
「……俺らに監視しておけ、と?」
「監視っつーか…。まあ万が一の事を考えて、ね」
口調は軽いが表情は真剣そのもの。
カカシの言葉にアスマも小さく息を吐くと、「分かったよ」と肩を竦めた。
「俺と紅で彼女の事は気にかけておく。だから心配せずに任務に行って来い」
「…ありがとう」
アスマの一言にカカシはホっとしたように息をついた。その様子に、彼の本気が見て取れる。
「じゃあ明日、任務に行く前にでも彼女と話して来い。あの子の事だから勝手に家に戻りそうだ」
「分かってる。説得するよ。まあ彼女も今回怖い思いをしてるから言うこと聞いてくれるとは思うけどねぇ」
「ったく、もどかしいヤツラだな…。ちゃっちゃと気持ち告げりゃあいーのに」
アスマが呆れたように笑った。でもカカシの顔に笑みはない。
"それが出来れば苦労はしないよ―――。"
そんな言葉を言いたげに、微笑むだけだった。

紅と入れ違いにカカシが部屋に入って来た時は、さすがに眠気も吹っ飛んだ気がした。
助けてもらったお礼を言うと、照れ臭そうに頭をかきつつも、あまり寝ていないのか大きな欠伸をしていた。
「…というわけだから…。出来れば俺が戻るまで、ここで寝泊りしてくれないかな」
説得するような静かな口調でカカシが言った。
も悩んだが、やはりカカシの言うように、あの家に一人で戻るのは怖い。
仕事から帰っても、また誰かがいたら…という恐怖は、きっとこれからも消えないだろうという事はも分かっていた。
「…分かり…ました」
「ホント?良かったぁ」
が素直に頷くと、カカシはホっとしたように息を吐いた。
「嫌です!とか言われるだろうなと思ってたから」
「……いえ。私も引越しとか考えてたし…この機会にこの辺で部屋を探してみます。もうあの家に一人っていうのは怖いし…」
俯いたままそう言うと、カカシの手がの頭にそっと乗せられた。
その温もりに驚いて顔を上げると、カカシは優しい目で私を見つめている。
「俺もなるべく早く戻ってこれるようにするし…。帰った時に新しい部屋が見つかってたら引越しも手伝うよ」
「え、や、でもそこまでは―――」
「いいって。引っ越すにしろ、一度はあの家にも帰らないといけないでしょ」
「まあ…」
「俺達に任せれば引越しなんてすぐに終わるしね」
俺"達"というのは誰をさしているんだろう?と疑問に思ったが、カカシがあまりに嬉しそうな顔で微笑むから、いつもみたいに突っ込めなくなった。
「この辺なら、団子屋も火影邸も近いし、仕事に行くのも楽だよ、きっと」
「うん…って、そう言えばカカシさん…そろそろ任務に行く時間じゃ…」
「いーのいーの。待たせておけば」
カカシはそう言って笑うと、静かに立ち上がった。
「ま、でも今回は依頼人も一緒だから遅刻すんのはまずいか」
「あ…あの…何から何まで、ホントに…ありがとう…。お世話になります」
異変に気づいて助けに来てくれた事。心配して部屋を貸してくれた事。色んな事をカカシに助けてもらったとしては複雑な気持ちが入り混じる。
でもカカシはいつものように微笑んで「のファンなら当然の事だよ」と、照れるような事をサラリと言うだけだった。
「行ってらっしゃい…。あの、気をつけて」
「ありがとう。も仕事、あまり無理しないよーに」
まるで兄のような事を言いながら、カカシはの頭を最後に軽く撫でた。
その行為が恥ずかしくて俯いてしまったが、誰かに頭を撫でてもらう事がこんなにも安心するという事を、カカシが思い出させてくれた気がした。
>>> BACK
久々に更新。
今はNARUTOの気分なので我愛羅のも、そろそろ続き描きたいなあ、なんてね。