何も彼の恋人になりたいわけじゃない。いつかは終わるような儚い立場より、わたしは彼の、"家族"で、"仲間"で、在りたかった。
真っ白な雪の中、彼に見つけてもらえた時から、温かい血を分けてもらえた時から。
それが――たった一つのわたしの願いだ。
*-*-*-*
"偉大なる航路"と新世界を隔てる"赤い土の大陸"付近にある島、シャボンディ諸島――。
そこは、これまで見たこともない巨大な樹木で形成されていた。樹木の根からは特殊な樹脂が分泌されてるらしい。根の呼吸と共に膨らんでは、次々に生み出されていく綺麗な泡。それが真っ青な空に向かって舞っていく。木々の合間から差し込む陽の光に照らされて飛ぶ様は、まるで虹色の宝石みたいだ。
あまりに幻想的な光景に圧倒されてしまう。
だから――ついつい…ひとり飛び出したのがいけなかった、かも。
「…これって迷子…」
視界いっぱいに広がる緑と、木々の合間からキラキラと降り注ぐ太陽の光。地面からふわりふわりと浮かんでくる宝石のような泡に誘われるよう、ウキウキしながら歩いて来た。この道がどこへ続いてるのかは知らないけど、目に映る景色があまりに綺麗だったから。
でもふと気づいた時、誰ひとりついて来てなくて驚いた。何度も何度も辺りを見渡したところで、ひとりぼっちという現実は変わらない。
「もー…何で誰も来てないの?」
仲間の顔を思い浮かべると自然に頬が膨れてしまう。この島に少し滞在すると言った張本人さえ、ついて来てないのは何でなんだ。しかも一本道を歩いて来たはずなのに、いつの間にか人が大勢いる場所に着いてしまった。
そこは賑やかな大通り。観光客らしき人達が往来していて何とも活気がある。ふと目に着いたのは小さな女の子が、母親らしき女の人と手を繋ぎながら楽しげに笑ってる姿だった。
後ろには父親なのか、優しそうな男の人が沢山の荷物を抱えて歩いてる。きっと家族でショッピングを楽しんでるんだろう。そんな光景を見ていたら、遠い遠い日の過去の自分が脳裏に過ぎったけど、わたしは気づかないふりをして再び辺りを見渡した。
「ここって…どこ…?」
景色に夢中だったから自分がどこをどう歩いて来たのかさえ分からない。船を止めた場所さえも。
この島のことを聞く前に飛び出してきたからだ。
どうしよう。本当に迷子かも。
てっきりみんながついて来てると思ってたから、何も確認してないのは失敗だった。
「19にもなって迷子センターにいくのは恥ずかしいし…みんなにまた叱られちゃう」
賑やかな街の一画に「迷子センター」のデカい看板。それを見上げつつ「う~ん…」と悩んだ結果、この辺をぶらつきながら待つことにした。
この場所は観光地みたいだし、みんなもまずはここを目指すはずだ。仲間がここへ来る根拠なんて何もないのに、そう考えたら少しホっとした。
それに――さっきから甘い香りが誘惑してくる。大好きな物を目の前にしながら、分からない道を引き返すのはもったいない。
「この匂いは…綿あめ?」
くんくんと鼻を動かしつつ、甘い香りのする方へ自然と足が動く。
子供の頃から甘い物に目がなく、すぐに釣られてしまうのは、わたしの悪いクセだ。
「あ、あれだ!」
フラフラと匂いのする方へ足を進めていくと、ピンク色の看板に"わたあめ"の文字。この瞬間、わたしの食欲が刺激されたかのようにお腹が鳴った。
"こんなもん飯じゃねえだろ"
脳裏にしかめっ面の船長の顔と、わたしに対する口癖が過ぎったけど、今はひとりだから説教されることもない。自由に、好きなだけ甘い物を食べられる。
「着いて来ないみんなが悪いんだよね。うん、わたしは悪くない」
言い訳よろしく。都合よく結論づけたわたしは、足取り軽くお店の方へと走りだした。
- ワンピース、再び続き見始めたので復活。ぼちぼちと書き始めました。このお話は原作で登場した辺りからの日常だったり、ローの小説の過去話だったりがベース。ずっと沿うわけじゃないですが、飛び飛びで原作の話も描く予定。その中で麦わらの一味と絡む話もあります。