01-開幕の



――海賊なんて、大嫌いだったはずなのに。


「おれの愛する息子は…無事なんだろうな…!!」

地鳴りのような大きな声が湾内に響き、一帯が海賊たちの怒号に包まれる。
すぐに反応したのは、囚われの身となった――。

「―――オヤジィィ!!!」

白ひげ海賊団2番隊隊長。<火拳のエース>
海軍に捕らわれ、見せしめとして今まさに処刑されようとしている男。
仲間を助けるべく"白ひげ"が動けば、その傘下にある海賊たち全てが動く。
壮大な数の海賊船が、海軍本部のある"マリンフォード"へ集結しようとしていた。

…心の準備はいいかァ?」
「誰に言ってんの。サッサと始めちゃってよ、バカ親父」
「グラララ…!海軍の大将や王下七武海を見てもビビらねえとは、我が娘ながらい〜い度胸だァ…」

白ひげ海賊団、船長"エドワード・ニューゲート"は楽しげに笑いながら、戦いの狼煙を上げるよう両拳を左右の宙へと叩きつけた。
大気にヒビが入り、波が大きなうねりとなって盛り上がる。辺りからは一斉に悲鳴が上がった。
その海震の凄まじさは海軍の軍艦をも大きく傾かせ、波が激しさを増していく。

「…オヤジ…みんな…」

本部の一番高い塔。両腕を拘束された男が見える。背中に白ひげ海賊団の証を背負うこの男こそ、これから救い出す大切な仲間―――。
全ての海賊の視線が、囚われの身となったエースへと向けられていた。

「おれはみんなの忠告を無視して飛び出したのに…っ…何で見捨ててくれなかったんだよ…!おれの身勝手でこうなっちまったのに…!!」

それはエースの悲痛な叫びだった。しかし、大艦隊を率いている船長…いや、"白ひげ海賊団"には届かない。

「いや…おれは行けと言ったはずだぜ、息子よ」

白ひげの一言にエースは我が耳を疑った。

「……ウソつけ!バカ言ってんじゃねえよ!あんたがあの時、止めたのにおれは…」
「おれは行けと言ったはずだ。――そうだろ?マルコ」

船長に問われた男――白ひげ海賊団1番隊隊長であるマルコが、白ひげと並ぶ少女の隣に立った。

「ああ。おれも聞いてたよい!とんだ苦労かけちまったなァ、エース!この海じゃ誰もが知ってるはずだ…おれ達の仲間に手を出せば一体どうなるかってことをなァ!!」

マルコがそう叫んだ途端、後方にいる海賊たちも一斉に叫ぶ。

「お前を傷つけた奴ァ、誰一人、生かしちゃおかねぇぞ、エース!!」
「待ってろ!!今、助けるぞォォォ!!!」
「覚悟しろ、海軍本部!!」

仲間の思いを聞いたエースは言葉を詰まらせ、一瞬だけ泣きそうな顔をした。
単純バカで感激屋の彼のことだから、きっと本当に泣きたかったのかもしれない。気持ちを察したように、は静かに拳を握り締めた。

「エース…」
「…ちゃんの為にも…エースは必ず助け出すよい」

マルコが不意にを見下ろし、意味深な笑みを浮かべた。その言葉の意味を問うように何度か瞬きを繰り返したは、マルコの言いたいことに気づき、頬が僅かに赤くなる。

「バ、バッカじゃないの…。私は…あの時、ひとりで戦いに行ったあいつを許したわけじゃないし、一発殴るためにここに――」
「ったく素直じゃねぇよい!まあいい…エースは将来あんたと共に生きていく男だ!こんなとこで死なせやしねえ!」
「ちょっとマルコ!また勝手なこと言って…――」

そう言いかけた瞬間だった。ゴゴゴ…という音とともに、地鳴りが辺りを包み込む。大気が揺れ始め、不気味な音が一帯を覆っていく。

「な、何だ、この地鳴りは…!!」

海軍の慌てる姿が見える。辺りをキョロキョロと見渡し、音の元を探ってみたところで、彼らの常識からは大きく外れる現象だった。

「そら来たぞい…。さっきあいつが仕掛けた"海震"が…。"津波"になってやって来る…!!」

白ひげが仕掛けたものを分かっているのか、海軍中将であるガープが呟く。その時、地鳴りが大きな揺れに変化し、海軍の兵士達が騒ぎ出した。

「"グラグラの実"の<地震人間>"白ひげ"エドワード・ニューゲート!!」
「うわ…!」
「見ろ!津波だ!!!」
「でかい…!」

遠くの方から、全てを飲み込まんとする巨大な海の壁が迫ってくる。悲鳴に近い声が響く中、海軍本部元帥であるセンゴクが前へと出て、慌てふためく兵士達を睨みつけた。

「戦力で上回ろうが勝ちとタカをくくるなよ!!最期を迎えるのは我々かもしれんのだ…。あの男は…世界を滅ぼす力を持ってるんだ!!!」

センゴクの言葉は風に乗って海賊達へも届く。津波を仕掛けた男、白ひげが不敵な笑みを浮かべた。

「……ああ…っ!!始まるぞ!戦争が――!」

誰かが叫んだのを合図に、海賊たちが一斉にときの声を上げる。

「――行くぞォォ!!!」

攻め入るは――<白ひげ>率いる新世界47隻の海賊艦隊。
迎え撃つは――政府の二大勢力"海軍本部"と"王下七武海"。
誰が勝ち、誰が敗けても時代が変わる。

「…待っててよ、エース…。あんたを助け出したら思い切りぶん殴ってやるんだから――」
「……」

その小さな呟きを受け止めたかのように、エースの瞳がかすかに揺れていた――。