04- 戦場に揺らめく蒼炎 
「つ、津波だぁぁあ!!」
ゴゴゴ…――。大きな海震と共に、白ひげの放った力が戻ってくる。その絶望的な光景に、海軍の兵士達は阿鼻叫喚の如く叫びだした。
湾内にいる全ての兵士を飲みこもうと、巨大な波がうねりをあげる。
「何て力だ…!まさに伝説の怪物!!フッフッフ!」
「あああああ〜〜〜っっ」
王下七武海の一人。ドフラミンゴが声高らかに叫ぶ中、海軍兵士達は押し寄せる波の大きさに悲鳴を上げる。左右同時に、空を覆いつくすような大波は、確実に海兵らを捉えていた。
その時――海軍本部の大将"青キジ"が、座していた場所から瞬時に消えた。
「――氷河時代」
"自然系"――<ヒエヒエの実>の能力。
青キジはその力を以って、巨大な波を一瞬で氷の塊へと変えた。
「青キジィ…!!若造が…っ!!」
己の攻撃を台なしにされても、白ひげは笑っていた。そこへ畳みかけるように氷の槍が飛んでくる。白ひげが、またも空間を殴りつけた。大地が震えるほどの振動で、青キジの放った氷の槍は全て砕け散る。両者の間に見えない火花が散った。
しかし青キジの攻撃で今も周りの海は全てが氷漬け。最初に奇襲をかけた海賊船は、その場から動けなくなっていた。
「湾内も全て氷に!!」
「船の動きを封じられた!!」
辺り一面、氷の海。それを見下ろしながら海賊達が騒ぎ出す。その時だった。大気が僅かに震動し、誰かが空中へと浮かぶ。
「――お嬢さん?!」
その場にいた白ひげ、そしてクルー全員が空を見上げると、宙に舞ったが皆を見下ろしていた。
「先に行く!」
「ダメだい、ちゃん!!大将も、王下七武海もいる場所にちゃんを行かせるわけには――」
「マルコ!私の"力"ならあの場所まで攻撃を受けずに飛んでいける!」
「そ、そりゃそうだけど、もし大将の奴らに見つかったら――っつーかオヤジも何とか言ってやってくれよい!」
「グラララ…!!」
1番隊の隊長、マルコが慌てているのに対し、の父親でもある白ひげは楽しげに笑い声をあげた。
「それでこそ、おれの娘だァ!よぉぉし!行って来い、!!」
「はあ?!オイ、オヤジ――」
「エースんとこまで飛んで、あいつをかっさらって来い!!おれ達が援護してやらァ!!」
「ヨロシク、バカ親父!雑魚は吹っ飛ばしておくから大物はそっちで片づけて!」
そう叫んだ瞬間、は自らの能力で天高く舞い上がる。下からの攻撃も届かないほどの高さへ飛んでいき、すぐに上から攻撃を始めた。
空気圧を利用した上昇気流を作り出し、それに巻き込まれた兵士達は海の彼方へと次々に飛ばされていく。まさに自然を味方にする力だ。相変わらずのお転婆ぶりに、隊長や船員たちは苦笑いを浮かべていたが、白ひげだけは誇らしげに娘を見つめていた。
「はあ…オヤジに向かって、またあんな口きいてるよい…」
「グラララ!頼もしいじゃねえか!今じゃあの力も使いこなしてる…。悪魔の実を間違えて食っちまった時ァ、あんなに嫌がってたのになァ」
「…そういや、そうでしたねェ…。"また普通の人間から遠ざかったー!"とか言って、あん時は一週間も部屋から出てこなかった…」
マルコは懐かしげに笑いながら、エースの元へ真っすぐに飛んでいくを見上げた。
船の下では海軍の中将達と海賊達が戦闘しており、怒号や悲鳴が辺りに響き渡っている。
「…確かあの時はエースが説得してちゃんを部屋から連れだしたんでしたねぇ…。能力を使いこなせるよう特訓したのも」
「あァ…。があれほど嫌ってた海賊を、また少しづつ受け入れてくれるようになったのもな。エースにゃ、でっけェ借りがある……」
かすかに目を細めた白ひげは、遠くに見えるエースを見上げた。
「あいつァ、おれの"本当の息子"になる男だ…。必ず助ける」
そう決意を新たにした時だった。
殺気――鋭い斬撃が白ひげに向かって飛んできた。王下七武海、"鷹の目"だ。
十字架を模した長刀――黒刀の一振りは、凍てついた海をいとも簡単に両断する。だが、白ひげに向かってきたそのすさまじい斬撃を体当たりで止めたのは――。
「3番隊・隊長"ダイヤモンド・ジョズ"!!」
「と、止めた?!世界一の斬撃を!!」
直撃した瞬間、爆弾が投下されたかのような爆発音が響く。しかし舞い上がる黒煙が晴れた時、立ち塞がったジョズの体は半分、美しいほどの輝きを放っていた。今の斬撃にもダメージを受けた痕跡はない。
不敵に笑うジョズの姿に、鷹の目は無言のまま刀をゆっくりとおろした。その刹那―。
「――"八尺瓊曲玉!"」
空の上から声と共に眩いほどの閃光が走る。今度は大将"黄ザル"が、白ひげに向けて攻撃を仕掛けてきたのだ。黄ザルもまた自然系"<ピカピカの実>の能力者。指先から光の弾丸を白ひげに向かって放ったらしい。一帯が目を開けていられないほどの光輝に包まれた。
「オイオイ…眩しいじゃねェか…」
大多数の海賊たちが眩しさで顔を背ける中、己に飛んでくる光の攻撃に対し、白ひげの表情は変わらない。避ける素振りもなく、不動の姿勢を貫いている。その時、またしても白ひげの前に飛び出した者がいた。
ドドン…!という凄まじい音と共に、光の弾丸が青い塊へと直撃する。それを見ていた海軍兵士達が再び驚愕の声を上げた。
「大将の攻撃を防いだ?!」
「何だ?青い炎をまとってるぞ…!!!」
光の弾丸を吸いこんだ炎は、次第に人の形へと変貌していき、揺らめく蒼炎からひとりの男が姿を現した。
「1番隊、隊長…!マルコ…!」
姿を認識した兵士達がその名を一斉に叫んだ。初めて見る能力に度肝を抜かれている。
「何だ?あの体…!黄ザルさんの攻撃を正面から受けて…倒れねェ…!!」
「やっぱり噂通りの能力を…?!」
それぞれの兵士達が騒ぐ中、黄ザルはいったん、攻撃をとめた。
「"自然系"より更に希少…"動物系"――<幻獣種>!!!」
マルコはニヤリと笑みを浮かべながら、大将黄ザルの前に立ちふさがった。
「いきなり"キング"は取れねェだろうよい」
「コワイねェ〜〜!"白ひげ海賊団"」
己の攻撃をいとも簡単に止めたマルコを見て、黄ザルは引きつりながら呟いた。
<ポートガス・D・エース 公開処刑まで――あと2時間>

