才能の塊①




※性的描写があります。苦手な方、18歳未満の方の観覧はご遠慮ください。




高層ビルの窓から見える夜景を瞳に映しとりながら、オレは無意識でガラス越しに見える後ろの三途を睨んだ。
今日はまだ帰れない、と言った先から通話口の向こうで不満そうな声が聞こえてくる。
オレだって本当は早く帰りたい。でも組織の仕事でトップのオレが出張らないといけないこともある。その方が話は早く済むし、大口の契約も一声で済む。三途がよく言う「信頼度」が違ってくるからだ。

梵天の傘下に入りたい組織はいくらでもいるし、そういう奴らが金を生んでくれるからバカに出来ないと九井にも言われた。
細かな仕事は部下や幹部の連中がやってくれるし、オレはあまり面倒なことをしなくていい。
オレに必要なのは圧倒的な存在感なのだと、耳にタコが出来るくらい三途に言われてる。
でもそうなるとマンションに残して来た存在が心配で仕方がなかった。一応、幹部の一人を置いては来てるけど、彼女は甘えたがりだから寂しくなったら他の男に甘えそうで怖い。

「帰りにの好きなケーキ買ってくから」

ご機嫌を取りたくて言えば、案の定『ほんと?!』とすぐに食いついてきた彼女が可愛い。

「だからいい子で待ってて」
『……うー。分かったぁ』
「帰ったら一緒にお風呂な」
『うん。あっためてって言っておく。ココちゃんに』

今日の見守り当番はココだから、そこは安心だった。アイツなら一定の距離を保ちつつを上手に甘やかしてくれるだろうし、だからと言って変な考えは起こさない男だから信用できる。幹部の中では鶴蝶と並んで圧倒的に紳士という部類に入るやつだ。
その点、灰谷兄弟のどちらかが見守り当番の時は心配しかない。女たらしという点ではもちろん、におかしな遊びを教えたり、余計な知識を与えるからだ。
は一時キャバで働いてたわりに世間知らずもいいとこで、そのくせ変に素直だから何でも吸収してしまう。危なっかしいところは昔と何ら変わってない。

でもそんな彼女につけ入ったのはオレで、強引な手で自分のものにしてしまったのもオレだ。
誰にもとられたくない。自分勝手な我がままな感情で、何も知らない彼女にオレを好きになるよう仕向けた気がする。当時はそんな小難しいことを考えてたわけじゃないし、がずっと家にいるもんだと信じて疑わなかったオレは、純粋にアイツのことが好きだっただけ。そこには駆け引きとか面倒な物は一切なかった。


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「なあ、オレと結婚して」

中学入学の時に万次郎から何度目かのプロポーズをされた。子供の頃から言われてたけど、その頃は恋愛とかよく分かってなくて、分かってないくせに好きな芸能人と結婚したいなんて願望を口では言ったりしてたっけ。
そのたびに万次郎がショックを受けるから、後半は殆ど面白半分でからかってたけど、何となく心のどこかで万次郎ならわたしの傍にいてくれるだろうなって、根拠もなく信じてたっけ。
だから万次郎がまたプロポーズをしてくれた時、子供の頃とは違う「好き」が生まれた。
あの時、素直に「うん。万次郎のお嫁さんにして」と言えたのは、きっとわたしも万次郎のことを初めから好きだったから。
ちょっと意地悪で、だけど本当は誰よりわたしを近くで見守ってくれてたことを知ってる。

「オレの嫁にちょっかいかけたらぶっ殺すから」

正式に付き合うことになった時、万次郎はわたしに近づく男子がいれば、そんなことを言って牽制するようになった。でも他の男の子と付き合う気も仲良くする気もなかったし、わたしにはエマを筆頭にドラケンや春ちゃん、ケースケもいたから寂しくもなかった。
だいたいベッタリくっついてくるのは万次郎の方で、どこに行くにも一緒。だから寂しいなんて思う暇もない。

「んー」
「……万次郎、くすぐったいし暑い」

付き合い始めて一年半経っても、わたしと万次郎は変わらなかった。
でも少しだけ変わったことがあるとすれば。そろそろ30度にも迫る暑さだというのに、部屋に二人でいる時も万次郎は殆どわたしにくっついてて、あちこちにちゅーをしてくるようになっていた。
最初はオデコとかホッペ。でもそのうち唇を奪われた。ファーストキスは万次郎がいいって思ってたから夢が叶ったし、凄く嬉しかったけど、最近は首筋や項、胸元にも吸いついてくるから、赤い痣だらけになってくのはちょっとだけ恥ずかしい。
今日は暑いから風呂上りにタンクトップとショートパンツ姿で万次郎の部屋に来たのが良くなかった。
いつもみたいにソファに並んでバラエティ番組を一緒に見てたら自然と抱き寄せられていて。気づけば足の間に座らされて後ろから抱きしめられてた。
暑いと苦情を言ったら万次郎はクーラーのリモコンをとって、温度を二つほど下げてくれた。離れる、という選択肢はないらしい。

「ひゃ」

涼しい風が吹いてきたなぁと、火照った顔を冷やしてたら、急に項をぺろりと舐められて変な声が出てしまった。伸びた髪を下ろしてるのすら暑いからポニテにしてたせいだ。

の汗の味がする。あとボディシャンプーの匂い」
「え、やだ。舐めないでよ」

耳元にちゅっとして万次郎が笑うから、恥ずかしさがこみ上げてくる。お風呂に入ったばかりで、まだ体が少し火照ってるせいかもしれない。くっつかれると余計にじっとり汗ばんでくる気がした。

「ん、」

やだって言ったのに万次郎はまたしても項にちゅっとして、すぐにちゅうっと強めに吸ってきた。その刺激で首元がぞくりとした時、小さな痛みも走る。またキスマークを増やしたらしい。

「もーマンジロー。目立つとこにつけたらだめ」
「髪を下ろしたら見えねぇじゃん」
「でも最近は暑いからたまに学校でも髪縛るもん……」
「それならそれで他の男への虫よけになるし」

そんな勝手なことを言いながら、万次郎は私の肌へちゅ、ちゅ、と口づけていく。そのたびに自分でもあまり出したことのない鼻から抜けたような声が出てしまうのが恥ずかしい。でも万次郎はこの声が好きらしく「の可愛い声、もっと聞きたい」って喜ぶから、最近は我慢しないようにしてた。
でもいつもはキスをするだけなのに、この日は少し違った。素肌にタンクトップ一枚だと「ムラムラするんだけど」と万次郎が耳元で呟く。その直後、お腹にあった万次郎の手がするすると上がってきて、胸の膨らみをなぞるように撫でてきた。

「ま、まんじろ……?」
のここ、エロくなってるし」
「……んっ」

万次郎の指がタンクトップの上から主張してたらしい乳首をむにっと押してきて、そのくすぐったいような何とも言えない刺激で「んぁっ」と変な声が洩れて肩もビクっと跳ねてしまった。それで火が付いたのか、万次郎の両手が後ろから私のささやかな膨らみをふにふにと揉んでくる。片手で余るくらいの大きさしかないから、やけにハッキリと揉まれる感触が脳に伝わって、よく分からない恥ずかしさがこみ上げてきた。その間も首筋にちゅっとキスをしてくるから、余計に全身がむずむずしてくる。

「ま、万次郎……何してんの」
「んー?のおっぱい触りたいなーと」
「な、何で……?」

わたしはまだあまり男女のアレコレを知らなくて、話は聞いたことがあったけど実際何をするとかも分かってなかった。でも万次郎は知ってるみたいだ。両胸を揉みながらも指先で乳首をくにくにと捏ねたり、軽く摘まんだりしてくる。そのたびわたしの肩がびくびく跳ねて変な声が漏れた。

「ん、ひゃ」

必死に胸を揉まれる恥ずかしさに耐えてると、項をれろぉって舐められた。だんだん体が丸まっていくのは無意識で、前に倒れるたび万次郎の手に戻される。万次郎に刺激を与えられたせいか、胸元の乳首の部分がツンと硬くなってタンクトップを少しだけ押し上げてた。それを見た万次郎が「えろ……」と呟いて、かすかに喉を鳴らす。
この時にはすでに顔が燃えるように熱くて、少しクラクラしてきた。

「も、触っちゃだめ……」
「……何で?気持ち良くない?」
「き、気持ちいいって……何で?」
「ここを弄ると女の子は気持ちいいって聞いたし」
「んっ」

言いながら万次郎がすっかり硬くなった乳首を指で摘まむ。その瞬間びりびりとさっき以上に強い刺激がきて、勝手に背中を反ってしまった。

「気持ち良かった?」

万次郎はわたしの耳たぶをぺろっと舐めながら訊いてくる。低いのに甘さを含む声がいつもの万次郎じゃないみたいで、やけにドキドキする。

「わ、わかんな……何かびりっとした」
「そ?……じゃあ直接触らせて」
「……え」

何が「じゃあ?」と思って振り向くと、万次郎の頬もどこか高揚してて大きな黒目が潤んでいた。

「その方が気持ちいいかもだし」
「……ひゃ、」

タンクトップの裾からするりと万次郎の手が滑り込んで直接肌を撫でていく。こんな風に直に触られたのはさすがに初めてで、ぞわっとくすぐったい感覚が首元まで走った。万次郎の手はやけに熱い。

「……んんっ」
「はー……柔らか」
「ちょ、や、やだ。まんじろ……恥ずかし……よ」
「んー?恥ずかしがってるがかわいーからやめてやんねえ」
「あ、や、やだ……それ……」

胸をやわやわと揉みながら、万次郎の指が悪戯に乳首を刺激してくる。そのせいで更にぞくぞくぴりぴりが全身に広がっていく。そのうち「こっち向いて」と耳元で言われて、火照った顔のまま万次郎の方へ振り向けば、すぐに唇を塞がれてしまった。普段するような触れるだけのキスでも、啄むような可愛いキスでもなく。最近、初めてされた舌を入れるエッチなキスだった。

「ん……ふ……」

口内を万次郎の柔らかい厚みのある舌が好きに動き回る。そのたび、ぬち、とかくちゅ、と唾液の交わる音が鼓膜を刺激して、合間に乳首をくにくにされたら頭がボーっとしてきた。

「……わ」

体の力が抜けて来た頃、急に体が傾いて、気づけばソファの上に押し倒されていた。目の前には私を見下ろす万次郎がいる。少し伸びてきた金髪が頬に触れるだけで、わたしの体のどこかがぴりっとした。

「ま、万次郎……?」
「脱がしていい?」
「……え?」
「見せて」

ふわふわした頭で見せてって何を?と考える。その意味を聞こうとした時、「バンザイして」と言いながら、万次郎の手がわたしのタンクトップを捲って、一気にそれを脱がしていく。抵抗する間もなく、わたしは上半身を万次郎の目に晒していた。でも何年か前までは一緒にお風呂だって入ってた仲だから、恥ずかしさより驚きの方が大きかったかもしれない。

の胸、小さくてかわい」
「ちょ、まんじろ……さ、触っちゃだめ」

わき腹から手のひらを滑らせ、胸の形をなぞるように触れてくる。それがくすぐったくて体を捩っても、万次郎はやめてくれなかった。見上げたら見たこともない表情でわたしを見下ろしてる。

「最後に風呂入った時はまだぺったんこだったのに、ちょっと大きくなってんのエロい」
「そ、そんなの覚えてない……んっ」

手で優しく胸を揉まれると、手のひらに硬くなった乳首が擦られる。それをされるたび更にツンと上を向くのが分かった。

「はー……、可愛すぎてむり」
「え……んんぅ」

万次郎はツラそうな吐息を漏らすと、身を屈めて主張してる乳首をれろっと舐めてきた。ビックリして起き上がろうとしたら、もう片方の乳首を指で優しく摘ままれる。その瞬間、感じたこともない刺激に襲われ、肌がぶわっと粟立った。

……」
「あ……っん」

乳首を舌で転がされ、最後にぢゅうっと吸われた時、初めての感覚が全身に広がっていく。びくびくと肩が勝手に跳ねて、自然と涙も浮かんできた。とにかく、どこもかしこも熱くて熱くて、どうにかなってしまいそうだ。

「ま、まんじろ……」
「気持ちい?」
「な、何か吸われるたびにびりびりする……」
「……それ感じてるってことじゃん」
「そ、そうなの?……んん、ああっ」

今度は乳首をぢゅうっと強く吸われて声が跳ねる。ううん、声だけじゃない。肩も足もびくんとなったのが分かった。
でも万次郎は許してくれない。乳首を舐めたり、吸われたりしながら、もう片方はきゅっと摘ままれ、指の腹でくにくにと優しくこねられる。最初はくすぐったいだけだったソレも、だんだん甘い刺激に思えてきた。ずくずくと股の辺りが疼くのは何なんだろう。

「あ……ぁ、ま、じろ……ふ……ぁあっ」

また強く吸われた時、ぶわっと何かが体内を駆けめぐって、最後はびくびくと背中を反らしながら溢れる何かを解放した。

「……、大丈夫?」

は、は、と浅い呼吸を繰り返すわたしを見て、万次郎は心配げな顔で見下ろしてきた。でも自分でも大丈夫なのか分からない。頭が痺れて体が勝手にガクガク揺れるから、ちょっとだけ怖くなった。

「もしかして……イった?」
「い、いったって……何のこと……?」
「いや、だから……」

万次郎はちょっと驚いた顔をしてたけど、ぽろぽろ勝手に溢れてくるわたしの涙を指で拭ってくれた。それからぎゅっと抱きしめて「好き。可愛い」と頭に頬ずりしてくる万次郎はどこか嬉しそうだ。背中をぽんぽんされると、だいぶ気分も落ち着いてくる。

「さっきの何……?凄く頭の奥があっつくなって痺れたみたいになってクラクラした……」
「んー。気持ちいいの最高潮のヤツ、だと思う」
「……最高潮。確かに何か凄く気持ち良かった気がする」
「ってかオッパイでイけるとか、エロい才能あるかも」
「え、な、何それ……そんな才能ないよ」
「いだだだっ」

万次郎がエッチな顔でニヤけるから思わずホッペを抓ってやったら大げさな声を上げる。
ほんとはあの時、ちょっとだけ怖かった。でも万次郎だからきっと体も素直に感じてたんだと思う。
この一週間後、わたしと万次郎は初めてセックスをした。


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「お帰りなさい、万次郎ー」
「わ、ただいま」

仕事から帰ると、は嬉しそうな笑顔を見せてオレに抱き着いてきた。普段はごろごろ甘える猫のくせに、こういう時は尻尾をぶんぶん振る子犬みたいで可愛い。

「いい子にしてた?」
「うん。ココちゃんとゲームしてた」
「へえ、何の?」

……なんて、ホントはカメラで見てたから知ってるけど。頭を撫でながらわざとらしく尋ねると、は満面の笑みで「えっとね、色塗る奴!」と応える。この前三途がの為に買ってきたSwitchのゲームらしい。

「ココちゃん、強いから10連勝中なの」
「面白い?」
「うん、すっごく。万次郎もやる?」
「んー。その前にお風呂入ろ」

の唇にちゅっと口づけながら誘う。帰ったら一緒に風呂。そう約束したのに、は「あ」と声を上げて、言いにくそうな顔でオレを見上げてきた。

「ご、ごめ……さっき入っちゃった……かも」
「え」
「ココちゃんに夕飯食べる前に入っておいでーって言われて、ついそのまま……」
「……」
「あ、マイキー。お帰り」

ちょうど玄関に顔を出したココをじっとり睨むと、「な……何スか。そのオレを殺したい的な殺気は……」と怯えた顔で後ずさる。
殺されて当然だ。オレの楽しみを奪ったんだから。
そう思ってると、つんつんとスーツを引っ張られ、が「万次郎」とオレを呼ぶ。その可愛さに殺意がちょっとだけ薄れたようだ。
ん?と屈んで顔を近づけると、ちゅっとキスをされた。

「お詫びに今夜はエッチなこといっぱいしてもいいよ」
「…………(ごくっ)」

そんなエロい誘いを可愛く耳元で囁かれたら、今すぐベッドへ浚いたくなった。
そこでふと初めてに触れた日のことを思い出す。

「……やっぱ、エロい才能あるよな」
「えーそうかなぁ」
「だってすぐイクだろ、オマエ」
「……え、そんなことないもん」

本人はあまり自覚がないようだ。ただ顔はじわじわ赤くなってくのが可愛い。
まあ、いつもが意識飛ばすまで抱き潰してしまうから、記憶がなくて当然だけど。

「じゃあ、今夜はオレをいっぱいイカせて」

下心満載での耳にこっそり囁くと、その耳が一瞬のうちに真っ赤な色へ染まった。
今夜も寝不足が決定した瞬間、ココがコソコソと部屋を出て行く。触らぬオレに祟りなしって心境らしい。
誰にも邪魔されないよう、ドアにしっかり鍵をかけたのは言うまでもない。


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