02-オレと寝たいよな



※性的描写あり


働いてた会社が倒産して、家賃も滞納。どん底から救ってくれたのは大好きな幼馴染の二人。
両親はわたしが高校卒業と同時に離婚。互いに再婚してるから今更迷惑をかけるわけにもいかず、行くアテのないわたしは結局幼馴染の高級マンションに転がり込むことになった。でも引っ越し当日、二人からエッチなアプローチを仕掛けられ、「オマエを手に入れる」とおかしな告白をされた。二人のことは大好きだけど、どっちも選べないからこそ、お兄ちゃん認定してたのに、いきなり男の顔で迫られたわたしは、毎日混乱する日々を送っている。

「今日から宜しくお願いします!」

元気に挨拶をして頭を下げると、職場のお姉さま達も笑顔で「宜しくねー」「若い子が入って華やかになったわー」と優しく受け入れてくれた。
新しい仕事を探していたわたしが今日から働くことになったのは、ヒルズ内にあるハイブランドのショップだ。主にメンズ服を取り扱っていて、その他にもアクセサリーや小物類も扱っている。何故わたしがこんな高級店で働くことになったのかというと、この店の常連でもある蘭ちゃんと竜ちゃんが、本店の主任さんを紹介してくれたからだ。ちょうどヒルズ店が人手不足ということで、意外とすんなり雇ってもらえることが出来た。と言っても、花形でもあるアパレル店員のように、すぐ店に立てるわけじゃない。やはりそこは見習いとして雑用もこなさなくちゃいけなかった。

「初日から結構ハード…」

バックヤードでいくつもの服が入った段ボールを運びながら軽く息を吐く。すでにヒールの穿いた足が痛くて脱ぎたくなってしまった。
でも蘭ちゃんと竜ちゃんのおかげですぐ働けたんだし頑張らなくちゃ。
二人は昔から顔が広かったと思う。この六本木を仕切っているカリスマ兄弟としても有名になって、今も二人の周りには色んな人種の人達が寄ってくるらしい。

「でも…相変わらず二人はモテてるんだなぁ…」

このお店で働くことになって初めての休憩。花形であるアパレル店員のお姉さま方にランチに誘われて凄く嬉しかったものの、食事の際に二人のことを根掘り葉掘り聞かれてしまった。

――蘭さんと竜胆さんの幼馴染なんだって?
――普段の彼らってどんな感じ?
――恋人とかいる?

などなど。皆さんわたしのことには一ミリたりとも興味がないのか、質問される内容は殆どが蘭ちゃんと竜ちゃんのことだった。
何でも常連である蘭ちゃんと竜ちゃんに憧れてる女性店員は数知れず。わたしがこの店に雇ってもらえるキッカケとなった本店の主任さん――綺麗な人だった――も蘭ちゃんにお熱らしく、だから「ちゃんはアパレル未経験でも雇ってもらえたんじゃないか」という話だった。まさかそんな下心で雇われたとは思わなくて少し驚いたけど、さすが蘭ちゃんだ、と感心すらしてしまう。年上美人のキャリアウーマンまで転がしてるなんて凄すぎる。ランチに誘ってくれたヒルズ店の店長さんは「わたしは竜胆くん狙いなの」なんて言ってたし、昔と変わらずモテモテのようだ。

(なのに…何でわたし…?)

二人も普段は忙しいみたいで――今は横浜の天竺とかいうチームに所属してるらしい――横浜と六本木を行ったり来たりの生活をしてるから働き始めたわたしとは時間が合わない。だからそんなに顔を合わせる時間はなく少しだけホっとしてる。あれ以来、変なことはしてこないし、やっぱりあの夜は二人も酔っ払って悪ふざけしすぎただけかも…と思い始めていた。

ちゃーん!こっちもお願いしていい?」
「あ、はい!」

運んで来た段ボールを置いて、再び事務所の方へ走っていく。ブランド服の店がこんなに体力のいる仕事だったのは誤算だ。痛む足を擦りながら、今夜はマッサージをして寝ようと心に決めた。


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「はあ…疲れたぁ…」

遂に終業タイムになり、怠い足を引きずりつつ、服を着替えていく。帰りに薬局で絆創膏でも買って行こうかなと思いつつ、ヒールの高い靴を脱いで踵をさすった。靴擦れで少し皮がむけてるから結構痛い。

「お疲れ様、ちゃん」
「あ…店長。お疲れ様です」
「どう?初日は。結構疲れたでしょ」
「はあ…まさかこんなに重労働とは思いませんでした」
「最初は皆が通る道なの。今日はゆっくり休みなさい。ああ、それで…」

と店長はそこで声を潜めると、「竜胆くんが迎えに来てる」とひとこと言った。

「えっ?竜ちゃんが?」
「…竜ちゃん…?」
「あ、えっと…昔からそう呼んでて…」
「そう。本当に仲がいいのね。彼、店の方で待ってるわ」

一瞬、店長の口元が引きつった気がしてドキっとした。そう言えば店長は竜ちゃん狙いだって言ってたっけ。何かマズかったかな。

「ところで…」
「はい?」

迎えに来てると聞いて急いで帰る用意をしていると、店長はまたしても声を潜めて「竜胆くんって恋人いないって言ってたけど…」と口ごもった。

「はい。いないって言ってましたけど…」
「なら…彼、どんな女性がタイプとか知ってる?」
「え…?」
ちゃん、幼馴染なら何かその辺のこと知ってるかなと思って」

薄っすら頬を染めながら聞いてくる店長を見て、これはマジだな、と思った。でも竜ちゃんの好きなタイプなんて聞いたことがない。いつも連れ歩いてるのは主に年上の美人系か、年下だとアイドルタイプの可愛らしい女の子だった気がする。わたしは竜ちゃんが連れ歩く女の子達を見かけるたび、いちいち自分と比べてヘコんでたっけ。
でも、そうか。あの時は彼女なんだろうなって思って見てたけど、この前は彼女なんていたことないって言ってたから、彼女達は遊びの子ということなんだ。
となるとタイプとは?と首を傾げてしまう。

「すみません。その辺のことはあまり…あの…帰ったら聞いてみます」
「ほんと?なら…お願いしちゃおうかな」
「はい。そんなことで良ければ」
「ありがとう。じゃあお願いね。お疲れ様」

わたしが承諾すると店長は嬉しそうな顔で事務所に戻っていく。それを見送りながら「本気でモテてるな…」と思わず苦笑が洩れる。そこでハッと思い出してすぐに竜ちゃんが待ってるという店内の方へ向かった。

「おー。お疲れ」

店内に行くと、竜ちゃんは早速お姉さま方に囲まれていた。閉店時間ともあって客はいないけど、その光景に思わずギョっとしてしまう。竜ちゃんはさりげなく、この店のジャケットを着こなしていて、それが凄く似合ってるし、背中に薔薇でも背負ってんのかと思うくらい眩しい。

「迎えに来なくていいのに…近いし」
「仕事初日だし飯でも奢ってやろうかと思って」
「え…」

その瞬間、後ろにいたお姉さま方が「食事なんて羨ましい」「私も行きたーい」と騒ぎ出した。これはマズいと思って、皆さんに「お疲れさまでした」と声をかけると、すぐに竜ちゃんと店の外へ出る。竜ちゃんはわたしに腕を引っ張られたことで「何だよ」と怪訝そうに足を止めた。

「だ、だって…店の人にまた明日あれこれ聞かれそうだし…」
「何を?」
「だ、だから竜ちゃんのこと…」
「は?オレの何を聞かれんだよ」
「…何って…彼女のこととか…家でどんな感じだとか?」
「はあ?そんなの聞いてどーすんだよ」
「わたしに言われても…」

そもそも竜ちゃんは外じゃ無駄に愛想が良いのがいけない。家では口も態度も悪いのに、お姉さま方の前じゃ可愛い笑顔を振りまいてるんだから。

「んなことより、何食いたい?」
「え?あ…でもわたし、ちょっと足が痛くて…歩くの限界かも」

そう言いながら踵を指さすと、竜ちゃんは「マジ?見せて」と言ってその場にしゃがんでいる。でもヒルズ内にもまだ客がいて、店の前で足を見せるのは恥ずかしい。だからすぐに足を引っ込めた。

「い、いいよ…それより帰ってマッサージしたいから、今日はわたしがご飯作るね」
「お、マジ?なら外食より、の作る飯がいい。ああ、足が痛ぇなら、ほら」
「え…?」

不意に手を出されて竜ちゃんを見上げると「掴まれよ」と言われて驚く。

「え?」
「痛いんだろ?靴擦れかもしんねえし、あまり体重かけねえほうがいいから」
「あ…ありがとう…」
「ん」

差し出された手をそっと掴むと、すぐにぎゅっと握られた。ドキっとして顔を上げると「何だよ」と素っ気ない言葉が降ってくる。何となく照れくさくて首を振ると、竜ちゃんは「早く帰んぞ」とわたしの速度に合わせて歩き出した。

「そんな高いヒール穿いてっからじゃん」
「…う…だ、だって…裏方でも時々店内にも顔出すから、服装はちゃんとしなくちゃいけないみたいで…」
「なら替えの靴、持ってけばいいだろ」
「あ…そっか」
「ったく、はマジで鈍いな」
「そんな言い方しなくても…」

こういう物言いは昔から変わってない。子供の頃から優しいのは蘭ちゃんで、ちょっと意地悪なのは竜ちゃんだった。まあ、根っこは優しいって知ってるけど。

「っていうか、蘭ちゃんは?一緒じゃなかったの?」
「あー兄貴はウチの大将に付き合って飲みに行ったから遅くなるんじゃねえかな」
「あ、イザナさん…だっけ。竜ちゃんは行かなくていいの?」
「オレはそん時、その場にいなかったから置いてかれたんだよ」
「ふーん…あ、だから寂しくてわたしをご飯に誘ってくれたんだ」

なーんだ、と思って笑ってると、竜ちゃんはふとわたしを見下ろして深い深い溜息を吐いた。何か呆れられてる気がする。

「オマエ、ほんと…」
「ん?」
「いや…何でもねえよ」

竜ちゃんはそう言って苦笑すると、それ以上何も言ってはこなかった。


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竜ちゃんに連れられて帰宅すると、まずはすぐにシャワーを浴びて汗を流す。その後にマッサージをしようと部屋着に着替えてリビングに行くと、竜ちゃんがテレビを見ながらビールを飲んでいた。

「マッサージ終わったらご飯作るから待っててね」
「んー?ああ…」

一瞬こっちを見た竜ちゃんはわたしの手に持っているボディクリームを見ると「オレがマッサージしてやろうか?」と言いだした。

「え、竜ちゃん出来るの?」
「当たり前だろ。誰の弟やってると思ってんだよ」
「あ…そっか…」

竜ちゃんの言葉に思わず笑ってしまったのは、蘭ちゃんが前から竜ちゃんに肩を揉ませたりしてたのを思い出したからだ。

「ん、ここ座って」
「うん。ありがとう」

竜ちゃんがソファの端に移動して胡坐をかく。わたしは空いた場所へ座ると、足を竜ちゃんの方へ向けた。気を利かせた竜ちゃんが膝裏にクッションを置いてくれたから、だいぶ楽になった。

「オマエ、ふくらはぎカチカチじゃん」
「今日ずっと重たい段ボール持って動き回ってたから…」
「マジ?見習い大変そうだな」

わたしの足を解しながら竜ちゃんが苦笑する。だけど二人がせっかく紹介してくれた仕事だから、こんなことくらいで泣き言は言ってられない。

「そう言えば、あのお店で竜ちゃんと蘭ちゃん大人気だね」
「あ?あー…まあ常連だしな。オレも兄貴も」
「みんなから二人は恋人いないの?って聞かれたし」
「へえ…で、なんて答えたんだよ」

竜ちゃんはクリームを塗った手でマッサージをしながら、ふと意味深な笑みを浮かべてわたしを見た。

「え、いないって言ってたから…いないって答えたよ」
「ふーん」
「あ、あとね。店長から竜ちゃんの好みのタイプを聞かれたの」
「…店長?ああ、サナさんか」
「…親しいの?」
「いや別に。店に行って接客してくれんのは毎回店長だから、そん時くらいかな、話すのは」
「そうなんだ…」

それだと店員とお客さんという関係以上のものはなさそうだ。でも竜ちゃんは店長が自分に好意を持っていることは知ってるっぽいなと思った。それでも手を出してないところをみると、あまりタイプではないのかもしれない。でも一応聞いておかないと。

「それで…」
「あ?」
「竜ちゃんのタイプ、教えてよ」
「タイプー?ねえよ、別に」
「えー?ないって…誰でもいいってこと?」

ひたすらマッサージに専念している竜ちゃんを更に追及する。何でもいいから答えをくれないと、店長に教えることも出来ない。ひたすら応えてくれるのを待ってると、不意に竜ちゃんが顔を上げた。ちょっとだけ顏が怖い。

「オマエ、ほんと人の話とか聞いてねえのな」
「え?」
「言ったろ?オレも兄貴も…昔からしか見てねえの。女のタイプっつーんならオマエだろ?」
「…う…」

スネたように目を細めながら睨んで来る竜ちゃんにドキっとして言葉に詰まった。前と同じノリで話してしまってたことを少しだけ後悔する。でも、この前のことは酔っ払ってたから、またわたしをからかったとかじゃないのかな。タイプがわたしって…ありえないよね。だって、わたしは竜ちゃんが連れて歩いてた子達みたいに可愛いわけじゃないし――。

「何考えてんだよ」
「…ひゃ」

ふくらはぎをマッサージしてくれてた竜ちゃんの手がするすると上がってきて、内腿の辺りを撫でられた。ついでにくすぐったさが襲って引きかけた足をガシっと掴まれる。

「り…竜ちゃん…?」
「ん?」
「く、くすぐったい…」

それまでは解すように動いていた手が今はどこか厭らしく太腿を撫でていて、その手がショートパンツの裾辺りまで上がってくる。そのまま指先がショートパンツの中にするりと滑り込んで、付けねの辺りを軽く解された。くすぐったさとむず痒いような、ぞくりとした刺激が走って足がびくん、と跳ねてしまう。

「り…竜ちゃん…何して――」
「何って…マッサージだろ。、あっちもこっちもガチガチだし」
「で、でもそこはしなくていい…よ…」
「ん?何で?」

竜ちゃんが笑いながら膝裏を持ち上げて内腿へ口付ける。その刺激でまたピクリと脚が動いて恥ずかしくなった。この間のことを思い出して顔まで赤くなってしまったかもしれない。

「ひゃ…」

内腿をペロリと舐められてビクっとなった。脚をマッサージするのにショートパンツにしたのが仇になった気がして、慌てて閉じようとした時、また竜ちゃんの指がするりと裾から滑り込んだ。

「や…何…ぁっ」
、まーだ分かってねえみたいだから体に教え込もうと思って」
「…ちょ…ぁ…っ」

ショートパンツの裾から侵入した指先が、下着越しに敏感な場所へ触れてくる。気づけば脚を開かされ、その間に竜ちゃんが体を入れて閉じさせないようにしていた。あの夜のことは酔っていたからだ、と思い込もうとしてたけど、そうじゃなかったらしい。

「り、竜ちゃん…ゃめ…やめて…」
「この前は中途半端だったからな。今度はちゃんとイカせてやるよ」
「…え…ぁっ」

下着越しに撫でていた指が、今度は下着の中へ侵入してきて直に触られた。同時に膝裏をぐいっと持ち上げられソファに寝転ばされると、竜ちゃんが覆いかぶさってくる。驚く間もなくくちびるを塞がれて、最初から舌を入れられた。

「んん…っ」

濃厚に舌を絡みとられて息苦しい。でも下着の中で動いていた指が一度引き抜かれ、ホっとしたのもつかの間だった。今度は腰ひものリボンを解くと、緩くなった場所から再び手を入れてくる。

「や…ダメ…」

くちびるを解放された時、哀願するように言っても、竜ちゃんは首筋に口付けながら苦笑するだけだった。

「この前も感じてたじゃん。また気持ち良くしてやっから」
「…やぁ…ぁ…あっ」

下着の中で竜ちゃんのゴツゴツした手が動くたび、体におかしな痺れが伴う。恥ずかしい部分を指で上下に撫でつけられて、ある部分に触れると電流のようなものが背中を駆け抜ける。強烈なくすぐったさと同時に、疼きを覚えるような刺激で、何度か体が跳ねてしまった。

「…濡れてきた」
「…んぁ…や…っ」

こんなことやめて欲しいって思うのに、与えられる刺激に体は勝手に反応していく。思わず竜ちゃんにしがみつくと、「の顔、真っ赤だし目も潤んでるじゃん…かわい」と頬にキスをされた。

「こんなに濡れてきたならすんなり入りそう」
「え…ぁ…んっ」

体内に異物が埋められていく感覚に腰が跳ねてしまう。何度か指を出し入れされてるうちに、ちゅぷ、ちゅぷと卑猥な音が聞こえてきて、顏が一気に熱くなった。

「…気持ちいい?」

その恥ずかしい問いに思い切り首を振る。気持ちいいのかどうか、経験がないから分かるわけがない。ただ大好きな竜ちゃんエッチなことをされてると思うと、また奥から何かが溢れてくる気がする。

「もう少し馴染んだら気持ち良くなるから」
「…り、竜ちゃん…」
「ん?もっと?」
「ち…違…んぁ…っ」

竜ちゃんが優しく指を動かすたび、異物感が薄らいでいく。恥ずかしいのに火照った体に竜ちゃんが口付けるたび、次第に甘い刺激に変換されていく気がした。

「ん…っ」

首筋にちゅうっと吸い付かれて、チクりとした痛みが走る。でもその痛みも全てが快感に変わっていくほど、全身が性感帯みたいになっている気がした。竜ちゃんの指が抽送を繰り返しながら、敏感になっている芽を他の指で撫でるように刺激してくる。その瞬間、撫でられた場所から生まれた強烈な刺激で何かが全身を駆け抜けていった。この前よりも早く訪れたそれは、肌がぶわっと粟立つほどに気持ちいい。

「ン、あぁ…あ…ぁっ」

脳天まで突き抜けるような快感に襲われて目の前がチカチカする。背中が反りかえるように跳ねた時、またくちびるを塞がれて、それはちゅっと音を立てて離れていった。

「イク時の、すげー可愛い」
「…っ…」

涙目で浅い呼吸を繰り返していると、竜ちゃんが満足そうな笑みを浮かべて頬にキスを落とす。今のがイクという感覚だったんだと初めて知って更に顔が熱くなった。強引にイカされたのかと思うと恥ずかしくて、今すぐこの場から逃げ出したくなるのに、竜ちゃんが甘ったるい眼差しで見つめてくるから違う意味でドキドキしてしまった。

「…言ったろ?オレが先にをイカせるって」
「…な…何で…こんな…」
「何でって…が好きだからに決まってんじゃん」
「…好…き…?」
「そーだよ。はオレと兄貴の大事な女の子だから」

竜ちゃんはわたしの髪を撫でながら優しくくちびるを重ねてくる。さっきの強引さとは違って、慈しむように柔らかく触れてくるから、強張っていた体が次第に脱力していく。
その時だった。玄関の方からドアの開く音、そして蘭ちゃんの「ただいまー」という声が聞こえてきて、わたしと竜ちゃんは顔を見合わせて固まった。

「ったく、イザナのヤツ、自分が誘ったクセに女から電話来たら――は?」
「「………」」
「はぁぁぁああ?!っつーか、何やってんの、オマエら?!」

バンとドアを開けてリビングに入って来た蘭ちゃんは、ソファの上で重なっているわたしと竜ちゃんを見て驚愕の声を上げた。しかもすぐに竜ちゃんを引きはがし、わたしを自分の腕におさめると、「何やってんだ、竜胆!」と怒り出した。

「お帰りー」
「はあ?お帰りじゃねえ!に何してたんだよ、テメェ!」
「え、ナニって…聞きたい?」
「マジ、最悪。ヌケガケすんなっつったよなあ?」

蘭ちゃんはわたしをぎゅうぅっと抱きしめながら、顔を真っ赤にして怒ってる。でも竜ちゃんは「兄貴がいないのが悪いんじゃん」と悪びれた様子もなく言ってのけた。わたしはわたしで恥ずかしくて、蘭ちゃんの腕の中でジっとしていることしか出来ない。

「ったく油断も隙もねえな、オマエは!」
「兄貴だってオレがいなかったら絶対同じことすんだろ」
「黙れ、竜胆。こうなったら今夜オレがと寝るから。オマエは一人で寝とけ」
「は?ダメだって、最後までヤる気だろ。それは反対」
「オマエに決定権はねえから」

またしてもわたしを間にして二人の言い合いが始まったようだ。そのうち二人はわたしに視線を向けると、とんでもない質問をしてきた。

、今夜はオレと寝たいよな?」
「…え?」
「いや、寝るのはダメだって。ルール違反」
「オマエ、どの口でルールとか言ってんだよ」
 「あ、あの…」
「だってオレ、最後まですんの我慢したし。兄貴も我慢しろよ」
「だーからどの口で我慢とか言ってんの?」
 「ケ、ケンカしないで…」
「だいたい、オマエ、イザナ来た時、わざと席外したろ」
「あ?普通に喉乾いたからコンビニ行ってたんだよ。戻ったらいなかったから先に帰って来ただけだけど」
 「ふ、二人とも!いい加減に――」
「つーか、早く答えろ。今夜はオレと寝るよな」
、兄貴と寝ないだろ?」

またしても二人から詰め寄られて、頭がクラクラしてきた。ここで蘭ちゃんと寝るなんて言える空気でもなく。

「ひ…ひとりで寝る…」

そう応えた瞬間、蘭ちゃんは不満げに「えー…」と悲しそうな顔をして、竜ちゃんは何故かガッツポーズをしていた。
前途多難な同居は、こうして続いて行く――。


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