08-マッサージの意味
※性的描写あり
「…ッ…ン」
蘭ちゃんのくちびるを受け止めながら、今度は竜ちゃんに後ろから攻められて、息が途切れ途切れになる。苦しくて蘭ちゃんに抱き着けば、優しく髪を撫でられた。
「おい、竜胆…あんま強くすんな!がかわいそーだろ」
「は……オレだって…余裕ねえ…からムリだって…っ」
「んぁ…っ」
最奥を突かれて背中がのけ反る。わたしの腰を掴む竜ちゃんの手の強さが、余裕のなさを感じさせた。蘭ちゃんの肩に掴まっていた手の力が抜けそうになった時、蘭ちゃんの腕がわたしの頭を抱き寄せた。
「…」
蘭ちゃんの呼吸も荒くて、切なげに名を呼ばれて勝手にドキドキしてると、くちびるを塞がれて舌が躊躇うことなく滑り込んできた。蘭ちゃんのキスは酷く甘くて優しい。いつでもわたしを酔わせるくらいに甘美なキスをしてくれる。
唇を愛撫するように口付けていた唇がちゅっという音と共に離れていくのを少しだけ寂しいと思っていた時、わたしの手を取って蘭ちゃんはガチガチに勃起している場所へと導いた。
「ら…蘭ちゃ…」
「…触って」
新しいゴムを付けたそこへ触れた瞬間、凄く硬くなってて驚いた。さっきしたばかりなのにと頬が熱くなる。視線を上げれば蘭ちゃんの頬は赤く上気していて、凄く色っぽかった。それ以上に、こんな余裕のない蘭ちゃんを、わたしは初めて見たかもしれない。
蘭ちゃんはわたしの手に勃起した陰茎を握らせると、自分の手でわたしの手を包むようにしながら上下に扱きだした。
「こうやって、もっと強くしていいから」
「ん、うん…」
甘えるように言われると竜ちゃんと繋がってる部分がぎゅうっと収縮してしまう。それを竜ちゃんが気づいて「兄貴の扱いて感じてんの」と笑うから凄く恥ずかしくなった。
「…が恥ずかしがる姿に兄貴もコーフンするんだって。見せてやれよ」
「…あ…」
竜ちゃんの手が伸びてきて、わたしの顎をぐいっと上に向ける。蘭ちゃんはかすかに笑みを浮かべて「かわい」と呟くと、またくちびるを塞いできた。
「…また締まった…兄貴の顔見てもコーフンしたのかよ。ムカつく」
「…ち…違…んぁ…っ」
急に竜ちゃんの動きが激しくなって、奥のいいところをピンポイントで突いてくる。そのせいで蘭ちゃんの陰茎を握らされてる手にぎゅっと力が入ってしまった。
「…く……それヤバい…」
「…ん…ぁあ…っ」
「オレも…ヤバいかも……は、出る…」
一気に腰の動きが速まって肌と肌のぶつかる音が響く。激しく揺らされながら、わたしは必死に蘭ちゃんのを扱いていく。
「あー…ヤバ…に扱かれてると思うと、マジですぐイっちゃそう…」
「オレも…もうイク…」
「ンぁ…っあ」
そう言った瞬間、激しく奥を突かれて竜ちゃんが果てるのと同時に、わたし、そして蘭ちゃんまでが同時に絶頂を迎えて、わたしは蘭ちゃんの胸に倒れ込んだ。その瞬間ぎゅうっと抱きしめられて、力なく身を任せる。
「かわい…」
蘭ちゃんはゴムを外して事後処理を済ませると、わたしの額に「んー」っと擬音付きで長いキスをしてきた。そのくちびるが頬、そして最後に唇へもちゅっとキスをしてくる。行為のあとなのに優しくされると、何故か泣きそうになった。
「おい兄貴、イカせたのオレなんだけど。イチャイチャすんなし」
「うるせえなぁ、が可愛くて余韻に浸ってんだからほっとけ」
「あ?オレもにちゅーしたい」
「ダメ~。はこれからオレとまたすんのー」
「は?」
「え?」
ギョっとしてゆっくり顔を上げると、蘭ちゃんは艶のある笑みを浮かべて「またオレがイカせてやっからなー?」と頬にもキスを落とした。
|||
「…いたた…」
「大丈夫?さん」
「えっ?あ、は、はい。すみません」
腰を押さえていると、お店のフロアマネージャーである一条さんが声をかけてくれた。わたしより一つ上という若さでフロアを任されてるらしい。
「今日初日だし、ずっと立ちっぱなしで疲れたんじゃない?今、お店も落ち着いてるから裏で少し休んできていいよ」
「え、でも…」
「遠慮しないで。夜のシフトの子も来たから10分くらいなら平気だから」
「はあ…。じゃあお言葉に甘えて…」
「うん」
優しい笑顔で言われて、わたしもつい甘えてしまった。軽く頭を下げて裏にいくと、そこに休憩室がある。お洒落なお店の休憩室もこれまたお洒落で、なおかつ広い。店内と変わらない装飾にテーブルやソファなどが置かれていて、働く人への気遣いが見られるから素敵だなあと感心してしまった。
「いたたぁ…」
コーヒーメーカーで出来上がっているこの店オリジナルのコーヒーをカップに注ぐと、ミルクを足してソファへ座る。でも屈めた瞬間、またしても腰に鈍い痛みが走った。
(もう…あんなに何回もするなんて……エッチ初心者相手に二人とも遠慮ってものを知らないのか…!)
腰を擦りながらコーヒーを一口飲んでホっと息を吐く。結局夕べは求められるまま二人に抱かれて、寝られたのは0時を少し過ぎていた。最後に軽くシャワーで体を流してフラフラで布団に倒れ込んでから朝まで記憶がなく。でもちゃんと起きれたのは蘭ちゃんがセットしておいてくれたアラームのおかげだった。
(ああいうとこ、ほんと蘭ちゃんらしい)
朝、起きたらアラームだけじゃなく、今日着ていく服もワンセット準備してくれていて、下着から始まってトップスにスカート、靴やアクセサリーまで、きちんとコーディネートしてくれていた。竜ちゃんは朝食用に夕べスーパーで買って来たパンと、コーヒーをあらかじめセットしておいてくれたらしく、おかげで用意にモタつくことなく出勤できた。何だかんだで二人から相当甘やかされてる気がする。
――可愛すぎて何回でも抱きたくなるわ。
――とエッチするとすげー癒される。
突然、夕べの会話を思い出し、顏からぼわっと火が出たのかと思うくらい顔が熱くなった。ついでに余裕のない二人の顔まで浮かんできて慌てて脳内から追い出す。蘭ちゃんも竜ちゃんもそばにいないのに、ふたりから触れられた時みたいに心臓が早鐘を打っていた。
「ダ、ダメだ…何回しても、まだまだわたしには免疫なんてできない…」
大好きな幼馴染二人と深い関係になってしまうなんて背徳的だと思うのに、二人に触れられると勝手に体が反応してしまうのも問題だ。
(ほんとに…このままでいいのかな……)
お互いに好きなのは同じで、二人はこれからも彼女という存在は作らないって言ってたけど、将来的にいつかは結婚とか、そういう選択肢はないんだろうか。いつか結婚をして子供が出来て、家族になっていく。少なくとも、わたしは前の会社に就職した時、そんなありきたりの未来を想像したりした。二人のことは大好きだけど、幼馴染以上の関係なんてなれないだろうな、とモテる二人を見て育って、とっくのとうに諦めてたからだ。
その時、ふと子供の頃の夢を思い出した。あの頃のわたしは将来の夢が"可愛いお嫁さん"で、無邪気に蘭ちゃんと竜ちゃんのお嫁さんになりたいって思ってたし、なれると信じてた子供だった。だから大人になったら二人と一緒に暮らすのが夢だって言ったこともある。二人はそれを覚えていてくれて、まさに今、その夢が叶っている状態だ。でも子供の頃みたいに無邪気に喜べないのは、大人になって一般常識というものが分かってきたからかもしれない。
「はあ…普通の恋愛なら、長年の想いが叶って幸せいっぱいってとこなんだろうけど…」
何せ相手は二人もいて、その二人は兄弟なんだから困ってしまう。
その時、休憩室のドアをノックされて、ふと顔を上げた。こんな場所のドアをノックする人なんていないのに、と訝しく思いながらも「はい」と応える。すると中に入って来たのは一条さんだった。
「少しは休めた?」
「は、はい。あの…何でノックしたんですか?」
素朴な疑問を投げかけると、一条さんはきょとん、とした顔でわたしを見た。
「え、だって女の子が一人で休憩してるんだし、当然だろ」
「……はあ」
どうやら気を遣ってくれたらしい。まあ着替えたりするのはロッカールームがあるからしないけど、中にはこの場所で横になって休んだりしてる子もいる。そういうのを知ってて何かあってはいけないと思ったのかもしれない。一条さんは若いのにシッカリしてる。さすがフロアマネージャーを任されるだけあるなあと、また感心してしまった。
「それよりさん、これ」
「え?」
彼に手渡されたのは湿布薬だった。
「え、これ…」
「立ち仕事で痛めたんじゃない?さっき腰をおさえてたし」
「あ…あはは…そ、そうなんです…」
多分それもあるんだろうけど、この腰の痛みは夕べのせいでもある。思わず赤面しながら湿布薬を受けとった。
「あ…ありがとう御座います」
「いや、これくらい。僕も時々そうなるから常備してるんだよね」
一条さんは笑いながら自分もコーヒーをカップに注ぐと、「僕も少しだけサボり」と舌を出して笑った。その笑顔が可愛くて、かすかにドキっとしてしまう。
一条さんは顔も少し童顔ながら端正な顔立ちだし、スタイルもモデルさんみたいにスラっとしている。というか、このお店で働いてる子達は、何かしら芸能活動をしてる子も多いみたいだった。通りでみんな、可愛い子やイケメンが多いはずだ。そう考えると、何でわたしが受かったのか未だに謎なんだけど、面接をしてくれた店長さんは「君は磨けば光る」と訳の分からない力説をしていた。そう言えばその面接の時、この一条さんもいたんだっけ。
――彼女、ウチの店のコンセプトに合うと思うんですけど。
店長さんにそう進言してくれたのは一条さんだった。
「帰ったら…しっかり貼ります。すみません。気を遣わせてしまって…」
「全然。僕も可愛い子の役に立てるのは嬉しいから」
「……っ?(サラリと凄いこと言った!)」
よく知らない人から可愛いと言われて顔が赤くなる。もしかしたら一条さんも蘭ちゃんや竜ちゃんとは違うタイプの誉め上手な人なのかもしれない。
まさか知り合ったばかりの男の人から自己肯定感を上げてもらえるとは思わない。ありがたや…と心の中で手を合わせて拝んでしまった。
「あと一時間、頑張れそう?」
「はい。大丈夫です。座ったらだいぶ楽になってきたので」
「そう?なら良かった」
一条さんはニッコリ微笑んでコーヒーを飲んでいる。その横顔を見ながら、優しい人なんだなあと感じた。何なら前の会社の上司より出来た人だと思う。
あの潰れた会社の上司は何かとパワハラセクハラの多い厄介な人だったから、殆ど尊敬したことなんてないけど、この一条さんなら尊敬できる。
彼はこのお店も長いんだろうか、とふと気になった。
「あの…」
「ん?」
「一条さんはずっとこの店にいるんですか?店長さんも凄く頼りにしてる感じでしたし」
「ああ、うん。僕がまだ学生の頃からだから…かれこれ3年はいるかな」
「3年…じゃあ一条さんも最初はただのバイトで?」
「そう。…ってコウでいいよ。歳も近いんだし」
「えっ?で、でも…」
「僕もちゃんって呼ぶから。ウチの店、全員下の名前で呼び合ってるんだよね。その方が親しみやすいでしょ」
「あ…そう言えば…」
確かにフロアスタッフはお互いに名前で呼び合っていたのを思い出す。一条さんも「コウさん」と呼ばれていた。
「じゃあ…コウ…さんで」
「うん。それでお願い。もうちゃんも僕らの仲間だからね」
「はい…でもまだ見習いですけど」
「大丈夫だよ。ちゃんは覚えも早いし、すぐメインスタッフに上がれると思う」
メインスタッフとは言葉通り、このお店のメインで人気のあるスタッフ5名のことだ。女の子3人と男の子2人という構成で、彼らはバイトじゃなく若いのに正社員で常にシフトに誰かしら入っている。彼ら目当てのお客さんも多いことから、お給料もバイトの倍はもらえるようだ。
「ま、まさか…メインなんて」
「どうして?僕はちゃん推しなんだけどなあ。すぐ人気も出ると思うよ。他の子とは違う雰囲気があるから目立つし」
「……違う雰囲気…?」
「そう。今まではパっと目立つ華やかな子達を雇ってたんだけど、偏るのもいけないと思ってね。だから今回の募集では他の皆とは雰囲気の違う子を選んだってわけ。ちゃんは可愛らしいほんわかしたお花のイメージで、派手さはないけど癒し系タイプだから僕が店長にちゃんのことを勧めたんだ」
「そ……そうだったんですか…」
あまりに褒められたことで恥ずかしくて真っ赤になると、コウさんは軽く吹き出した。
「そーいうとこ。可愛いよね、ホント」
「え…か、かわ…」
「すぐ真っ赤になるとこ。シャイなのポイント高い」
「………」
コウさんはまたしてもサラっと照れるような誉め言葉を口にするから返事に困ってしまった。ぶっちゃけると、わたしはこれまで蘭ちゃんや竜ちゃん以外の男の人にはほぼ免疫がない。小さい頃から二人と一緒にいて、中学を卒業してわたしが進学しても、二人との関係は変わらなかった。
二人はケンカばかりしてたし危ないことをしてるのは知ってたけど、わたしの前じゃ普段と変わらず優しい幼馴染だったから、会うのをやめようとも思わなかった。そのせいなのか学生の頃は他の男の子ともそれほど接点もなく、高校を卒業して短大に行ってもあまり変わらなかった。何度か合コンにも参加してみたけど、帰りは何故か必ず二人が迎えに来てくれるから、男の子たちが怖がって近寄って来なくなったせいもある。ただの飲み会としか言わなくても、二人は持前の勘の良さで何かを察するみたいだ。
――合コンなんて行くなよ。オマエはオレと竜胆のもんだろ?
――そうだよ。はオレらのもんだし合コンしてじゃねえよ。どうせエッチ目的のサルしか来ねえんだから危ないだろが。
毎回そんな勝手なことを言っては説教をしてくる。わたしはいつから二人のものになったんだと初めは驚いたけど、それだけ大事にしてくれてるんだと思ったら嬉しくなって。結局わたし自身、他の男の子なんて見る余裕がなくなってしまった。そのせいで他の男の人と接する時はどうも緊張してしまう。こんな風に褒められたら余計に。
「あ…ありがとう…御座います」
「はは、お礼なんていいよ。思ったこと言っただけだし。あ、じゃあそろそろ戻ろうか」
コウさんはふと時計を見て立ち上がった。わたしもはい、と返事をしてから立ち上がろうと腰と脚に力を入れる。その際また腰に痛みが走って少しよろけてしまった。
「あ、危ない」
よろけたわたしを見てコウさんがサッと腕を出して支えてくれる。彼からはふわりとアロマの香りがした。
「あ、す、すみませんっ」
コウさんの胸元にしがみつくような形になり、慌てて顔を上げる。その時、わたしを見下ろしていたコウさんと目が合った気がした。でもよく見ると、彼の目はわたしの鎖骨辺りに向けられている。
「その痣…どこかにぶつけたの?」
「え…?」
「この辺り、何ヶ所か赤くなってるよ」
「え…」
驚いて指摘された場所を手で隠す。この店の制服は黒と白のワンピースだ。上の部分はシャツ型のデザインになっていて、その襟の部分は大きく開いている。だから上から覗かれて鎖骨の辺りが見えてしまったようだ。そして指摘された痣というのは夕べ蘭ちゃんと竜ちゃんにつけられたキスマークのことだと気づいた。
「あ、こ、これ…昨日野外で虫に刺されちゃって…」
まさかコウさんに見られるとは思わず、かあぁぁっと頬が赤くなっていくのが自分でも分かった。こんな顔をしたら本当のことがバレてしまうかもしれない。内心焦ったけど、でもコウさんは「ああ、僕もこの前、キャンプに行ったら変な虫に刺されちゃって大変だったよ」と言いだした。
「これから暑くなるし外出時は虫よけスプレー必須だよね」
「そ…そうですね。わたし、刺されやすいんで買わなくちゃ…」
コウさんが話に乗ってくれたことでホっとしながら、二人で店内の方へと戻る。でもわたしの後ろを歩くコウさんの顔が、怪訝そうな表情になっていたことに気づきもしなかった。
「ありがとう御座いましたー」
それから一時間後、お客を見送ったらちょうど上がる時間になっていた。テーブルのグラスや食器を下げてキッチンへ戻ると、そこへコウさんが顔を出す。
「ああ、ちゃんはもう上がっていいよ」
「あ…はい」
「初日なのに手際もいいし、よく頑張ったね、お疲れ様」
「い、いえ…あのお疲れ様です」
「明日も頼むね」
「はい」
そんな会話をしつつ、ロッカールームに戻ると着替えを済ませて裏口から帰ろうとした。でもその時「ちゃん」と背後から呼び止められて足を止める。
「はい」
振り返ると、そこにはメインスタッフの一人、マリナさんがいた。5人の中でも一番人気のスタッフさんだ。
「あ、お、お疲れ様です!」
元々この店に客で来ていた頃から綺麗な人だなぁと憧れていたのもあって、マリナさんから直々に声をかけられ、ビックリした。でも何故か彼女は慌てたようにわたしの前に来ると「お店の方にあなたの知り合いだって言って灰谷兄弟が来てるんだけど!ホントに彼らの知り合いなの?」と、開口一番、訊いてくる。それにはギョっとしてしまった。何故、彼女が二人のことを知ってるんだろう。
「え、あ、あの…はい…」
「ちゃんのこと呼んで来てって言ってるけど…どういう関係なの?」
「え…お、幼馴染…です、けど…」
「えっ?灰谷兄弟とちゃんが?」
「は、はい…。え、マリナさんは何で二人のこと…」
そこが気になってつい訪ねると、マリナさんは興奮したように話し出した。
「私、地元が港区なの。だから当然、灰谷兄弟のことは学生の頃から知ってるし、前は追っかけしてたんだ、私」
「…は?お、追っかけって…」
まさかのミーハー発言に唖然として彼女を見ると、マリナさんは頬を赤らめながら微笑んだ。
「だってその頃から二人とも凄く有名で、私もまあ六本木で遊ぶようになって知ったんだけど、カッコいいじゃない、二人とも」
「は、はあ」
「特にお兄さんの蘭くんは私が変なヤツにナンパされて困ってたとこ助けてくれて。それで…その時彼に誘われてついて行っちゃったの」
「……え?」
今の含みのある発言にドキっとすると、マリナさんは溜息交じりで「まあ向こうからすれば一回だけの遊びだったんだろうし、私のことなんか覚えてもないだろうけど」と苦笑している。
――一回だけの遊び。
その意味くらい、わたしでも分かる。マリナさんは蘭ちゃんとワンナイトしたってことだ。
それを想像した時、何故か胸の奥がぎゅーっと何かに掴まれたみたいに痛くなった。
「あ、そうだ。それで二人が呼んでるし行って。店側から回っていいし」
「あ…はい…」
「えーでもそっかー。まさか新人のあなたの幼馴染が灰谷兄弟なんてビックリしちゃた!今度詳しくお話聞かせて?」
「あ…分かりました…」
本当に嬉しそうな笑顔を見せるマリナさんに、わたしは引きつった笑顔を向けてしまった。彼女は今日夜のシフトらしく、すぐに店内へと戻っていく。わたしもその後からフラフラ歩いて行くと、店の入り口近くにあるカウンター席で蘭ちゃんと竜ちゃんが女の子に囲まれてるのが見えた。その殆どは店のお客さんだったけど、スタッフの中には二人を見てコソコソ話してる子達もいる。その光景に改めて、二人は有名人なんだと実感した。
「あ、、こっち」
最初に蘭ちゃんがわたしに気づいて立ち上がると笑顔で手を振ってくる。その笑顔が罪なんだよ、蘭ちゃん…と思いつつ、わたしは引きつったままの笑顔を返した。
「あーオマエ、おっせえよ」
竜ちゃんも気づいて椅子から立ち上がると、わたしに手招きをしてきた。周りを囲んでいた子達が一斉にコッチを見るから、その圧でまた顔が引きつる。彼女達の目つきが怖い。"このちんちくりんと二人はどういう関係なわけ?"と暗に言われてる気がする。
「ど、どうしたの、二人とも」
わたしが歩いて行くと、囲んでいた子達は潮が引くように自分の席へと戻って行った。あからさますぎて、むしろ気持ちがいいくらいだ。
「心配だから迎えに来たんだよ」
「え…心配って、まだ明るいよ、蘭ちゃん」
「いや、ちゃんと仕事出来てるかなと思って。竜胆も心配して迎えに行くかって言いだすし」
「え…」
「あー兄貴、言うなって!」
竜ちゃんが珍しく真っ赤になって怒っている。その姿を見てふと笑みが零れた。本当に二人は心配性すぎる。
「初日の仕事は無事におわったよ」
「そ?んじゃー帰ろうか」
と蘭ちゃんがわたしの肩に手を回し、お店を出て歩き出す。すると追いかけて来た竜ちゃんがその手を叩いて「ベタベタすんな」と文句を言いだした。
「あ?いーだろ、別に。はオレんだし」
「は?はオレのでもあるからな?ヌケガケは許さねえぞ」
「はいはい」
「あ、置いてくなってっ」
外に出た途端、見慣れた光景に戻ってホっと息を吐き出す。分かってはいたけど、二人の有名人っぷりを目の当たりにして何となく寂しくなったのかもしれない。でも三人に戻れば、その寂しさなんてどこかへ消えてしまうのだから不思議だ。
「、疲れたろ。帰ったらオレがマッサージしてやっからなー」
「兄貴はいっつもされる側だろ。オレがするし」
「オレだってマッサージ得意だから」
「でも兄貴にやらせたら、どうせエロいことすんじゃん」
「え」
「は?当たり前だろ。に触ってムラムラしないわけねえじゃん。つーか、それオマエも同じだろ、竜胆」
「は?」
「う…ま、まあ…前科はあるけど…でも兄貴にはやらせねえ」
「はー?オレに勝てると思ってんの」
また二人が揉めだして、最後は「どっちにマッサージされたいか言え」と迫ってくるから困ってしまった。時々くるこの質問は凄く難解だ。どっちか一人は選べるはずがない。というか選べるならとっくにそうしてる。
「え、えっと…ど、どっちも?」
「はあ?」
「ったく欲張り~」
どっちも選べなくて、つい応えてしまったわたしに二人は呆れたように笑っている。
「じゃあ夕べよりもっとエロいことしてやっから」
「は?蘭ちゃん…?」
「兄貴がすんならオレもしよ」
「え、竜ちゃん…?」
マッサージとは?と問いたくなった瞬間だった。

メッセージは文字まで、同一IPアドレスからの送信は一日回までひとこと送る