10-幼馴染は心配性




※性的描写あり




「ん…ッダ、ダメ…蘭ちゃ…ぁっ」

下着の上から撫でられていた場所が疼いてきた頃、するりと中へ指が侵入してきた。慌てて腰を浮かしかけたけど、指が直にそこを撫でてくるから背中が反るくらい身体が跳ねてしまう。

(朝っぱらから…どうしてこんなことになってるのー?!)

その理由は今から15分ほど前。今朝も仕事の用意をして、少し早めに出かける準備が整ったところで、ちょうど蘭ちゃんや竜ちゃんに起こしてと言われた時間になった。何でも今日は朝から横浜に行く用事があるとかで、仕事に行く前に起こしてと二人に頼まれたのだ。竜ちゃんは寝起きがいい方だから、まずは蘭ちゃんを先に起こさねば。軽く気合を入れて蘭ちゃんの部屋のドアを開けた。

「蘭ちゃん。朝だよ」

一応、声はかけたものの反応はなし。ここまでは予想通りだ。
蘭ちゃんは昔から寝起きが超悪い。寝ることが大好きで何時間でも寝てられると豪語するだけあって、ちょっとやそっとのことじゃ起きてくれないのだ。しかも昔からわたし以外の人が起こすと怒り出すらしく、昔もよくわたしが蘭ちゃんを起こす係だった。

「何か久しぶりだなあ、蘭ちゃん起こすの」

すっぽりと布団を被って寝てる蘭ちゃんを見て笑みが零れる。やはりベッドが大好きな蘭ちゃんだけに、高級感溢れるかなり大きなダブルベッドで、そのど真ん中に蘭ちゃんは寝ている。

「さすが蘭ちゃん、相変わらず綺麗に片付いてる」

黒で統一された室内を見渡すと、きちんと整頓されている。蘭ちゃんは綺麗好きだから常にこんな感じだ。適当な竜ちゃんとは大違いだなと苦笑が洩れた。

「蘭ちゃん、起きてー」

まずは軽めのジャブくらいの声かけと、布団の上から身体をゆすってみる。でも全く微動だにしない。そこで今度は被ってる上掛けを思い切り捲ってみた。

「…わ…可愛い」

蘭ちゃんは寒かったのか、横になって背中を丸めるようにしながら眠ってた。長い髪で隠れて顔は見えないけど、身体は大きいのに何となく子供の寝方を連想させる。

「蘭ちゃん、朝だよ。起きて」

今度は耳元で少し大きな声を出すと、さすがに「ん…」と小さな反応があった。ついでに肩をゆすりながら「蘭ちゃん」ともう一度名前を呼ぶ。今朝は意識して寝てたせいなのか、比較的早い段階で蘭ちゃんは「…んあー…?」と寝返りを打ちながら応えてくれた。そこで最後の一押しだとベッドの上に片膝を乗せて蘭ちゃんの両腕を引っ張る。でも小柄なわたしの力じゃ身長の高い蘭ちゃんの上半身だけだとしても重たくて起こすことが出来ない。そこに気づいたのか、蘭ちゃんは欠伸をしながらも自分で上体を起こしてくれた。

「…もう朝?」
「うん。蘭ちゃん、目が覚めた?」

一応確認しておく。蘭ちゃんはこの状態からでもすぐ寝に入れる人だから、体を起こしてくれたからと言って油断は出来ない。顔を覗き込むと蘭ちゃんは眠たそうな目を何度か瞬かせながら「ん、起きた」と言ってわたしのオデコに自分のオデコをくっつけてきた。いつもお兄さんしててシッカリしてる蘭ちゃんも、寝起きだとこういう一面があるから可愛いなんて思ってしまう。竜ちゃん曰く「そりゃだからだよ。オレとか他の奴が起こそうもんなら速攻で鉄拳制裁」らしい。
とりあえず難関だった蘭ちゃんは起きてくれたから次は竜ちゃんを起こさなくちゃならない。

「じゃあ竜ちゃん起こしてくるね」

そう言ってベッドから下りようとした時だった。ガシッと腕を掴まれ、強い力で引き寄せられたと思ったら蘭ちゃんの腕の中に閉じ込められていた。ふわっと香るのは蘭ちゃんの使っているシャンプーの香りだ。行きつけの美容室で買っているというそのシャンプーは珍しくオーキッドの香りらしい。それほど強い匂いじゃないのが特徴だけど今は髪を下ろしてるから普段よりも強く感じるのがドキドキを加速させていく。

「ら…蘭ちゃん…?」
「んー。竜胆なんて放っておけよ…アイツ自分で起きれっから」

駄々っ子のように耳元で呟く蘭ちゃんの声は、寝起きだから普段よりも更に低くて掠れてる。その声が鼓膜を伝ってわたしの五感を震わせてくるんだから困ってしまう。

「ら…蘭ちゃん…くすぐったいってば…」

蘭ちゃんの足の間に膝立ちするような恰好で抱きしめられてるせいか、蘭ちゃんの顏がちょうど鎖骨の辺りに来て、そこにちゅっと口付けられた。蘭ちゃんはくすぐったがるわたしを見て「かわいー…」と満足げな笑みを浮かべると、またそこへ軽く吸い付いた。その刺激でビクっと肩が跳ねる。でもその瞬間、ふと先日、コウさんに胸元のキスマークを見られた時のことが脳裏に浮かんで慌てて離れようとした。

「ダ、ダメ…そこに付けないで」
「…あ?何で」
「見、見られちゃったから…店の上司に…」
「………は?見られたって…いつ?いや、てかどこでだよ。の上司って、あのヒョロっとした男だろ…っ?」

わたしの一言に蘭ちゃんは急に怖い顔をして質問攻めにしてきた。どうやら胸元にあるキスマークをコウさんが見たということで何か勘違いしたらしい。そこは誤解されないよう、ちゃんと説明した。

「あー…そういうことか…」
「咄嗟に虫に刺されたって言っておいたけど、またついてたら変に思われるし…だ、だからその…」
「…分かった。ごめんな?恥ずかしい思いさせて」

真っ赤になったわたしを見上げて、蘭ちゃんは優しい笑みを浮かべながら頬にもちゅっとキスをしてきた。朝からこれはかなり心臓に悪い。そう思った時だった。腰に回っていた蘭ちゃんの手がするすると下りてお尻の丸みを撫でていくからビクっと腰が動いてしまった。

「蘭ちゃん…?何して――」
がんな可愛い顔すっから…それに朝だしオレのすでに元気になっちゃってるし」
「え?げ、元気って…」

何が?とは怖くて聞けなかった。その間もお尻を撫でていた蘭ちゃんの手がスカートをまくり上げて指先が足の間に動いていく。それだけで腰の辺りがもじもじしちゃうのに、あげく恥ずかしい部分を優しく撫でるから、その刺激でかぁっと顔が熱くなる。

「ダ、ダメだよ…蘭ちゃん…わたし、これから仕事…」
「まだ時間あるじゃん」
「そ、そうだけど……んっ」
「キスマークはつけないから」

蘭ちゃんは首筋に触れるだけのキスをして、下着の上から撫でている指先が奥へ動くと、前の方の膨らみをピンポイントで撫でてくる。それにはハッキリと身体がびくん、と反応してしまった。

のここ、下着の上からでも硬くなってんの分かる」
「や…やだ…」

恥ずかしくて蘭ちゃんから離れようとしたけど、膝立ちしてたせいで足が痺れて咄嗟には動けない。その際両足を少し開かされてしまった。

「ん…ッダ、ダメ…蘭ちゃ…ぁっ」

下着の中にスルリと侵入してきた手が直にその場所を撫でる。さっきから弱い刺激を与えられて焦らされた分、すでに濡れているのが自分でも分かった。

のここは嫌じゃないって感じだけど?」
「んん…や…ダメ…」

ぬるぬるとした指の動きに全神経が持って行かれそうになる。だけど今から仕事に行かなくちゃいけないという理性もまだ多少は残っていた。なのに蘭ちゃんは指を容赦なく埋め込んで、わたしのなけなしの理性を簡単に崩してこようとする。

…キスしたい」
「ん…」

指の動きを休めないまま蘭ちゃんが顔を寄せて優しくくちびるを重ねてくる。このままだと確実に襲われてたかもしれない。でも突然バンとドアが開いて竜ちゃんの叫び声が聞こえて来た。

「あぁっ!やっぱヌケガケしてるし!」
「……チッ」

竜ちゃんの叫び声を聞いた蘭ちゃんは、わたしの体を離すと同時に小さく舌打ちをした。その瞬間今度は後ろ側に体が引っ張られて、仰ぎ見れば竜ちゃんがわたしを背後からぎゅっと抱きしめている。きっと自然に目が覚めて起きて来たけど、リビングにわたしの姿がないから蘭ちゃんの部屋の様子を見に来たんだろう。おかげで朝から襲われずに済んだ。

「ったく、マジで油断も隙もねえな」
「仕方ねーじゃん。寝起きにがいたらオマエもそーなるって」
「いや、それでも仕事前にしようとすんなっ。ってかだよ。少しは抵抗しろ」
「ご、ごめん…」

わたしまで竜ちゃんに怒られ、シュンとなる。でもふと腕時計を見ればもうすぐ家を出る時間だった。

「じゃあ起こしたからね、蘭ちゃん」

と言ってからすぐに自分の部屋へ戻った。蘭ちゃんにエッチなことをされたせいで下着を替えなくちゃいけないからだ。

「…もう…すぐ触って来るんだから…」

と文句を言ったところで流されそうになったのは自分だ。竜ちゃんに言われた通り、今度からはちゃんと抵抗しなきゃいけないなと思う。と言って、蘭ちゃんの誘惑に勝てるかと聞かれれば、自信がないとしか言えないんだけど。今も中途半端に煽られた体が、というかアソコがじんじんして変に疼いたままだ。

(何か…二人のせいで、ほんとにエッチな身体になった気がする…!)

二人の強引さに流されすぎて今や、当たり前のように受け入れてしまってる自分に溜息を吐きつつ。家を出る時間が少し過ぎていることに気づいて、慌てて仕事場へと向かった。


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今日も一日立ちっぱなしで動き回って、わたしのバイト時間が終わりを迎える頃。一条さんが「ちゃん」と声をかけてきた。

「はい。何ですか?」
「今日、お店が終わった後で当店恒例の飲み会あるんだけど来れる?」
「え?飲み会?」
「うん。毎月給料日は親睦会と称した飲み会をやることになっててさ。今日はちゃんも入った歓迎会も兼ねてるからどうかな。あ、もし用があるならいいんだけど。また来月もあるしね」

そういうことしっかりやってくれる会社なんだ、と少し感心しながらも、歓迎会と聞いて嬉しくなった。まだ見習い期間だけどちゃんと受け入れてもらえてる気がするし、実際このお店の人はコウさんを筆頭に皆が優しい人ばかりだ。前のお店の人達と違ってマリナさんも蘭ちゃんのことをアレコレしつこく聞いてきたりはしないし、彼女はいないみたいだと伝えたら喜んでたくらいだ。マリナさんが過去に蘭ちゃんと…と考えるとモヤっとしたものは感じたけど、過去に蘭ちゃんも竜ちゃんも色んな女の人とアレコレあったのはわたしも気づいてたし、今更という感じはある。

「それで、どう?空いてる?」
「はい。今夜は特に予定ありません」
「良かった。じゃあ店が閉店してから集合するから時間と場所は後で連絡するよ」
「分かりました」

職場の人達と飲み会なんて、それこそ倒産した会社でやって以来ぶりだから懐かしい気がした。ただあの会社の時は周りがオジサンばかりで、同年代の女の子はいなかったから、結構セクハラの嵐であまり行きたくなかったことまで思い出した。でもこのお店は同年代の男女だし、そんな嫌な思いはしなくて済みそうだ。
それから上がる時間がきてロッカーに戻ると、すぐにケータイをチェックする。蘭ちゃんと竜ちゃんは今日チームの用事で朝から横浜に行ってるから何か連絡が入ってるかと思ったのだ。

「あ、竜ちゃんからだ」

案の定、竜ちゃんからメッセージが入ってて『今日泊まりになるかもー泣』という内容だった。何でも今のチームのトップは超がつくほどの唯我独尊的な王さまらしい。竜ちゃんいわく「我がままな兄貴の上をいく男は初めて会った」とのこと。だからきっと今日も王さまの我がままに付き合わされてるんだろう。なら夜は本当に自由時間になりそうだ。まずは帰ってシャワーを浴びて出かける準備をしよう。店の制服から自分の服に着替えると、わたしはすぐに店を飛び出した。

家につくとまずシャワーを浴びて汗を流す。その後は着ていく服を選ぶ。でも意外とこういうのは昔から迷ってしまいがちだった。

「うーん…何を着てこうかな…」

3候補に絞って、それを前に首を傾げる。店のスタッフは全員華やかな人ばかりだから、あまり地味なのは逆に浮いてしまう気もする。

「やっぱりこの前蘭ちゃんに買ってもらったプラダのシャツワンピにしようかな」

そう思い立ち、ハンガーから取って体に当てる。この服なら淡いピンクで華やかだし、竜ちゃんが買ってくれた白のヒールにも合うからバッチリだ。

「首元も隠れるしね」

だいぶ薄くなってきてたところへ、今朝も上書きされてしまったから、あまり首元の開いた服は着れないのだ。また店の誰かに気づかれでもしたら困る。でも今朝、蘭ちゃんにキスマークが見つかったことを話したら納得してくれてたから少しホッとした。
その時、ケータイの着信音が聞こえてきた。一条さんかな、と思って見てみると、ディスプレイには蘭ちゃんの名前が表示されている。それも電話だったから思わず笑みが零れた。

「もしもし?蘭ちゃん?」
『飲み会って何だよ』
「え」

張り切って電話に出たら、第一声が不機嫌そうな低音でビックリした。今日は二人とも帰れなさそうだというから、一応報告としてさっき二人に飲み会の件をメッセージで送っておいたのだ。でもまさか機嫌が悪くなるとは思わなかった。前も飲み会に行って怒られたことはあるけど、それは男女が出会いを求める合コンだったからで、今夜みたいな職場での歓迎会ではさすがにないだろうと思ったわたしが甘かったのかもしれない。

「え、えっと…お店の恒例行事みたいで…特に今日はわたしの歓迎会って言われたから断りづらいし…」
『歓迎会って…まだ見習いなのに?』
「うん…でも見習い終わったら正式にスタッフとして雇ってもらえそうなの。だから…」

あまり上司である一条さんに悪い印象は与えたくない。そんな気持ちもあることにはあった。蘭ちゃんも察してくれたのか、溜息こそ吐いてたけど『分かった』と言ってくれた。

『まあ、あの店は女の方が多いしな』
「う、うん。そうだよ。だから心配しないで」
『でもこれだけは守ってくんねえと心配』
「え…?」
『酒は飲みすぎないこと。今日中に家に帰ること。あと帰りは男に送ってもらわずタクシーで帰ること。分かったー?』
「あ…う、うん…分かった」

確かに酔いすぎて失敗した例はある。ふと、ここへ引っ越して来た日のことを思い出して顔が赤くなった。でもあれは蘭ちゃんと竜ちゃんだから安心して酔えたんだけど、それが良くなったのかな、と思いつつ、他に言われたことも頭に入れておく。
0時は過ぎないようにして誰にも送ってもらわないでタクシーで帰る。頭の中で蘭ちゃんに言われたことを反芻していると、通話口の向こうから『オレにも変わって』と竜ちゃんの声が聞こえて来た。

『もしもし?マジで飲みすぎんなよ?』
「分かってるよ。皆、初めて飲む人ばかりだし緊張するからそこまで飲まないってば」
『ほんとかよ。むしろオマエ、緊張すると酒に頼るタイプじゃん』
「う…き、気を付けます…」

耳が痛くて素直に頷くと、竜ちゃんは『ほんとに大丈夫かよ』と苦笑している。でも二人とも心配してくれてるのか、何度も代わる代わるに注意事項を並べてきて、最後には竜ちゃんが『マジで早く帰れよ』と何回も言って電話は切れた。

「もー二人して心配性…そんなに信用ないかな、わたし」

前の会社での飲み会でもお酒で失敗はしたことないのに。まあ周りのオジサン達は酔わせようとしてくるから回避の為に飲まないようにしてただけなんだけど。

(でも今回の職場は男の人だけじゃなく女の子達もいるし、同年代だし楽しそう)

今日の飲み会をキッカケにまた仲良くなれるといいな、と思いながら、早速準備していた服に着替えて出かける用意を始めた。




*O MA KE ~天竺のアジトにて~*

、マジで早く帰れよ?0時過ぎんのは許さねえからな。あーあと無駄に笑顔を振りまくな。不愛想にしとけ。え?無理?いや、オレが無理だから」
「兄貴、ちょい貸して。――いいか?ぜってー男の傍に座るなよ?何でって何でも!は?オマエ、自分の可愛さ知らなすぎだろっ無防備にもほどがあんだよ!」

ケータイを代わる代わる持ちながら焦った様子で話している二人を二分ほど前からジっと見ていたイザナは、ふと自分の隣にいる下僕に視線を向けた。

「なあ、鶴蝶」
「あ?」
「蘭と竜胆、同じ女とでも付き合ってるわけ?何か会話おかしくねえ?」
「あ~何か昔からの幼馴染みてえだぞ」
「は?彼女じゃねえのかよ」
「彼女かどーかは知らねえけど、すんごく大切な子だとか言ってたな、確か」
「へえ…あの二人にもそんな存在がいんだな。意外すぎてウケる」
「でも会話だけ聞いてると…何かあの二人、その子の保護者みてーだよな」
「あー確かに。娘を送り出すお父さんかよ」
「でもあの二人が入れ込むくらいだから、すんげー美女なんだろうな」
「いや…案外、甘ったれの泣き虫かもしんねーぞ」
「あー…あの様子じゃ…そっちかもな」

「何で飲み会行くの許したんだよ、兄貴っ」
「仕方ねーじゃん。歓迎会だって言うし。オレだって嫌なんだよっ」

電話を切ったあと、兄弟ゲンカを始めた二人を眺めつつ、イザナと鶴蝶は「今度はお父さんとお母さんの会話みたいになってるし」と腹を抱えて笑っていた。



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