オレの彼女はエロ可愛い
ガキの頃から、彼女の夢はオレの奥さんになること。離れ離れになってもその夢は変わることなく。彼女の愛はオレに注がれ続けてたようだ。
一昨年、その幼馴染と再会してから猛アタックを受け続け、最初は逃げ続けていたオレも、去年ついに観念した。
そして――現在、オレは悩んでいることがある。
「初めまして。黒川イザナといいます」
「まあまあ、いらっしゃい。からいつもお話は聞いてたのよ」
彼女、の義母はとても優しそうな人だった。横浜から一駅の街にある戸建ての家は、幼い頃に彼女が夢見ていた"絵に描いたような幸せの空間"だった。あの施設にいた頃、を養子にしたいと申し出てくれた夫婦は今、の良き家族になっているようだ。
「イザナさん、の言う通りカッコいいわね」
「でしょ?イザナは昔からカッコ良かったの。ね?イザナ」
「オマエ、そんな余計な話は――あ…すみません…」
いつもの調子でオマエと呼んでしまったことで、義母に謝罪する。でも彼女は「気にしないで普段通りにして」と楽しそうに笑ってくれた。
「それより…のお兄さん…鶴蝶くんはどうしたのかしら」
「あ…アイツ…鶴蝶は照れ臭いといって今日は…」
「あら、そうなの?残念ね。会いたかったのに…」
の義母は本当に残念そうに溜息を吐いた。
はオレの右腕である鶴蝶の妹だ。アイツの家族が事故にあい、鶴蝶と彼女だけが助かった。二人であの施設に入って来た時は周りが全て敵に見えていたのか、なかなか皆と馴染めないようだった。そこがオレと似ていて、オレからアイツに声をかけた。鶴蝶としか話さなかったも、何故かオレにはすぐ打ち解けてくれて、いっつもオレと鶴蝶の後をくっついて回るような女の子だった。
「別に親に挨拶なんてしなくていいのに…」
義母がキッチンに行ったのを見て、が小声で言ってきた。
「そーいうわけにもいかねえだろ。将来のこともあるし――」
と言いかけた時、オレの腕にの腕が絡まってべったりとくっついてきた。まあ、これはいつものことだ。
「おい、聞いてんのかよ…」
「聞いてるよー。イザナがわたしと結婚してくれるって話でしょ」
嬉しそうにニコニコしながらオレを見上げて来るはクソ可愛い。でもそれを言うと更に甘えてくるからぜってー言わねえけど。
「わたしの夢…叶えてくれるんだね」
「…ホントにオレでいいのかよ」
「イザナがいいんだもん。わたしはずっとイザナだけだよ」
「オレが…どんなに悪い奴でもか」
「うん、もちろん。だからもう何も心配しないで結婚して」
「何だ、そりゃ」
の言いぐさに思わず吹き出した。と再会してからというもの、コイツに「好き」「大好き」と何度も告白をされたのにオレが逃げ続けてたのは、を傷つけたくないからだ。にはまともな男と幸せになって欲しい。そう思ってた。でも「わたしの幸せはイザナなくしてありえない」とまで言われた時、オレの中で何かが崩れた。また求めたら裏切られるかもしれないという思いは、に浄化された気がした。だからと向き合うと決めて、きちんとつき合い始めたのが一年前。そして一年経っても彼女の気持ちが変わらなかったことで、こうして家族に挨拶に来た。
「んーイザナぁ…ビールばっかり飲んでるけど平気なの?」
「全然、美味いし」
「え、カッコいい!大人」
「……オマエ、酔ってんだろ」
「えへへ。ちょっと酔ってる」
そう言っては腕を絡めながらオレの肩に頭を乗せて来た。両親がいようと、コイツはとことんマイペースのようだ。
夕飯時、彼女の義父も仕事から帰って来て、挨拶を済ませて帰ろうとしたオレに「夕飯くらい食べて行きなさい」と言ってくれた。大事な娘の彼氏、という目では見られてるけど、まあ想像してたよりは友好的には接してくれている。
「わたしもビール飲んでみよ」
「あ、おい――」
はオレの手からビールを奪ってクイっと飲んでしまった。その瞬間、可愛い顔が梅干し食ったみたいになって「にがっ」と叫んでいる。
「だーから無理して苦手なもん飲むなよ」
「だってイザナが美味しそうに飲んでるから…」
「ちゃん!口直しにパパの作ったカクテル飲んで、ほら!」
そこでの義父がカクテルグラスを持って来た。中身は淡いピンク色だ。この義父は相当、を溺愛しているようで、甘やかされて育ったのがよく分かる。
「パパのオリジナルカクテル""だ」
「え、美味しい!」
「沢山練習したからねー。ちゃんのイメージで作ったんだよ。ちゃんとお酒飲める日が来るなんてパパは嬉しいよ」
「泣かないで、パパ。ほら、お酒注いであげる」
「~~!」
「………(娘バカだな)」
何ともアットホームな空間で、オレはだんだんむず痒くなって来た。こういう場に慣れていないせいだ。結局、義父はに注がれまくって飲みまくったせいで、酔いつぶれて先に寝てしまった。
(そろそろオレも帰るか…)
時計を見れば、すでに夜の10時過ぎ。オレも少し飲み過ぎたからタクシーでも呼んでおくかと思った。そこへ片づけを終えた義母がやってきた。
「、飲むペース早かったけど大丈夫…?」
「はあ。まあ…いつもと大して変わんないです」
「ふふ。そんな感じなのね」
はオレにベッタリとくっついて、さっきから頬や首にちゅっちゅっとキスをしまくってくる。これは別に酔っているからとかじゃなく、普段からはこんな感じだ。二人の時はまだいいが、天竺の仲間と一緒の時でも変わんねえから困る。ま、だいぶ慣れて来たけど。
「はいつもイザナさんのこと話してくれるの。付き合うことになったって時はそりゃもう大騒ぎで凄かったのよ」
「はあ…何か…すみません」
「甘えん坊なとこもあるけど、素直で優しい子だから…これからものこと宜しくね」
「はい。大切にします」
「あら、何かプロポーズみたい」
「え?あ、いや…はあ」
義母に笑われ、かすかに頬が熱くなる。彼女が望むなら、将来本当にそうなるだろうとは思っているが、今はまだも大学に通っているからそうもいかない。オレもチームのことがある。
「あら、寝ちゃったみたい。申し訳ないけど部屋に運んであげてくれるかしら」
「はい。彼女を寝かせたらオレは帰るんで――」
「え、泊っていかないの?お布団敷いておいたけど」
「………」
あまりに普通に言われたから少しだけ驚いた。
「いや…でも」
「、飲み過ぎたみたいだし夜中にもし具合悪くなったら困るから泊ってってくれると助かるわ」
「……はあ」
「じゃあを宜しくね」
義母はそれだけ言うと、を預けて行ってしまった。とりあえずを抱えて彼女の部屋へと運ぶ。最初に来た時案内された彼女の部屋は二階にある。
「ん~ん…」
「大丈夫か…?」
ベッドへ寝かせると目が覚めたのか、がとろんとした様子で目を開けた。
「気持ち悪くねえ?」
「ん-ん。全然…」
は寝返りを打ちながらオレの膝の上に頭を乗せると、手に頬を擦りつけて来た。
(猫みてえ…)
ふと笑みが零れて火照った頬を撫でてやると、が「ふわふわして気持ちいい…」と呟いた。
「ならいいけど…」
「あのねー…イザナとエッチしてる時みたい…」
「……ゲホってオマエ、それ両親の前で言うなよ…っ?」
いきなりの爆弾発言にこっちが赤面させられる。は無邪気で天真爛漫、そして天然なところが多々あるから平気でとんでもないことを言いだす天才だ。そもそもとそういう関係になったのも、なかなか手を出せないでいたオレにの方が積極的に迫ってきたからだ。
――他の子とはできるのに何でわたしにはしてくれないの!
を避けてた頃、色んな女と遊び回ってたのを知っているが、そんなことを言いながらキレた時は心底驚かされた。
「んん~?あれ…わたしの部屋…?」
ふと懐かしいことを思い出していると、少しだけ目が覚めたのか、が上半身を起こして室内を見渡した。
「もう夜の10時過ぎでお義父さんたちは寝たぞ」
「えー…イザナは?」
「オマエを寝かせたら帰るつもり――」
「や~!やーだ、やだ!」
いきなり叫んで抱き着いて来たは駄々っ子のようになっている。
「何でイザナが帰るのー?イザナのお家はここじゃないっ」
「ここではねーな」
あやすように背中をポンポンとしてやると、は額をくっつけてきた。
「だってイザナの帰るところはわたしのとこでしょ…?」
「………」
何とも言えない気持ちになって黙っているオレに、はぎゅっと抱き着いて来た。その温もりが愛しくて、オレからもぎゅっと返すように抱きしめる。昔から、オレだっての素直なところが本当は大好きだった。諦めていた子が、今こうして腕の中にいてくれる幸せをかみしめていると、不意にキスがしたくなって。髪を撫でながら「――」と声をかけた。
「んー…むにゃ…」
「……寝てんのかよ」
少し体を離して覗き込むと、子供みたいな寝顔が見えて苦笑が洩れる。そのまま頭を支ええてそっとベッドへ寝かせると、オレは義母が敷いてくれた布団に潜りこんだ。いつもはくっついて寝るが、さすがに彼女の実家ではそういうわけにもいかない。すぐそばで聞こえるの寝息を聞きながら、オレはゆっくりと目を瞑った。でも一時間もしないうちに「…イザナ…帰っちゃった…?」というぐずる声が聞こえて、オレはふっと目を覚ました。
「起きたのか…」
「えっ」
目を擦りつつ起きあがると、が驚いたように「何で」とベッドの下を覗き込んで来た。
「何でイザナが床に寝てるの?」
「お義母さんが泊ってけって敷いてくれたんだよ…」
「そうなの…?さすがわたしのお母さん」
は嬉しそうに布団をまくってポンポンと自分の隣を叩く。まだ少し酔っているのか目がとろんとしたままだ。
「じゃあ…こっち来て」
「いや、さすがに今日は――」
「イザナとくっつきたいー」
「はあ…」
いつもの甘ったれが出たのかホッペも唇も膨らませている。その顏を見てたら脱力して、彼女に誘われるまま隣へ潜り込んだ。
「へへ、イザナの匂い安心する」
「あんま、くっつくなって」
ぎゅっと抱きついてくるに苦笑しつつ額に口付けると、「こっちは?」と自分の唇を指さしてくる。そのぷっくりとした唇にも触れるだけのキスを落とすと、「もっと」と強請って来るまでがデフォルトだ。
「いつものちゅーして」
「…ダメ」
「えー…何で…?」
困ったオレが目を細めた途端、へにょっと眉を下げて悲しそうな顔をする。オレはこの顔に――かなり弱い。
「…したくなるから」
察しろよ、と顔を背ければ、がむくっと起き上がってオレの顔を覗き込んで来た。
「いいよ」
「は?」
「したくなったらエッチして」
「バカかよ…?ここオマエの実家だろ」
「大丈夫だよ。お母さんたちの寝室一階だし、もう寝てるし」
「いや、そーいう問題じゃ…」
いくら一階で寝てるとはいえ、これは気分の問題だ。あとは…ガラじゃねえけど道徳的なもんとか、その他もろもろ何となくってやつだ。こうして隣で寝てるだけでも地味に我慢してるっつーのに、は相変わらずお構いなしにグイグイくる。本当はオレだってに触れていたいってのに。体の関係になるまで散々待ったから、余計に気持ちは昂って来る。その時、オレの下半身にの手が触れてビクリと腰が跳ねた。
「おま…っ何触ってんだよ…っ」
「だって…イザナとちゅー出来ないの寂しいんだも……あ、おっきくなった」
「…っ当たり前だろ…ッ。触り方がエロいんだよ、テメェ」
慌てて股間からの手を引きはがすと、はふくれっ面で「イザナのケチー」と文句を言ってきた。つーか中途半端に煽られて、こっちは眠るどころの話じゃない。
「ケチとかの問題じゃ……って、何してんだよ…っ」
は全く人の話を聞かず、オレの股間まで顔を下げていく。
「何って…おっきくなったらツラいんでしょ?だからお口でしてあげようかと――」
「しなくていい…っ!」
思わず大きな声を出してしまってハッと口を押さえた。こんな夜中に騒ぐのも気が引けるほど、閑静な住宅街だから落ち着かない。そもそもは処女喪失したのも――奪ったのはオレだけど――ついこの前なのに、何でこんな知識だけはあるんだ?
「もー…ちゅーもダメ、お口でするのもダメ…じゃあ何ならしていいの…?」
「…何って…何もすんな。もう寝ろ」
「えー…せっかくイザナといるのに…」
ベッドの上に座り込んでシュンとしたように項垂れるに、オレは盛大な溜息を吐いた。つーか項垂れたいのはオレだ。は小柄だが胸もまあ人並みにあるし、腰は細くてくびれてる。肌も真っ白だから酔ってる今は頬が薄っすらピンク色で、要はやけに色っぽい。なのに童顔の甘えたで、ハッキリ言って男の欲をやたらと煽って来るタイプの女に育っていた。そんな彼女に迫られると、オレの少ない理性なんて簡単に崩されそうになるから恐ろしい。
「ったく…仕方ねえなあ…ほら」
「え?」
「腕枕してやるから来いよ」
そう言ってスペースを開けると、は「うんっ」と嬉しそうな顔で尻尾を振ってる子犬のように隣に寝転んでくっついてきた。今度は猫みたいに喉をゴロゴロ鳴らす勢いだ。
「イザナ…」
「んー?」
「今日…ありがとね。お母さんとお父さんに会ってくれて…」
「別に…と付き合った時から考えてたからな」
「…嬉しかった」
そう呟いて、はオレを見上げて来た。あの施設にいた頃、の両親になった二人とは一度顔を合わせている。あの時は養子にする条件の合う子を探しに来たようで、二人は一発でを気に入ったようだった。でもが「お兄ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌だ」と愚図って大変だった記憶がある。そこで鶴蝶はオレと施設を出る決心がついたようだ。でもあれで正解だったんだと思う。こうして、があの二人から愛されて幸せに暮らしてるのを見てたら、ふとそう思った。
「ん…」
自然と互いの唇が重なり、何度か啄むと、が胸元にぎゅっとしがみついてくる。いっそう体が密着して、再びオレの体が反応してしまった。その時、またしても硬くなった場所を刺激するように撫でられ、ゾクリとしたものが腰に走った。
「ん…おい…触るなって…」
「でもすっごく大きくなってる…」
「…オマエがしごくからだろ…っ」
「だってイザナのに触りたいんだもん…」
「…………」
と離れ離れになってから数年。ついに付き合いだした現在、オレは悩んでいることがある。
それはオレの彼女が――エロ可愛いことだ。
