訳アリ彼氏が抱かない理由
週末の金曜日、2時限目からガッコ―行って、適当に過ごして、午後はバックレてチームのアジトに向かう。そこで仲間と下らねえ会話して時間を潰しながら、を何時ごろ迎えに行こうか考えていた。明日は学校も休みってことで、今日は遅くなっても平気だとが言ってたし、バイトもねえからその分いつもより一緒にいられる。そう思うとちょっと、いや、かなり浮かれてるオレがいた。
「一虎ぁ~」
「あ?」
ゲーム台前の椅子に座っていると、いきなり肩に腕が回された。ケータイから顔を上げると仲間の一人、タツヤがニヤケ顔で立っている。
「女引っ掛けに行こうぜ~」
「…ヤダ。ってかオレ、もうそーいうの行かねえわ」
「えーっ何でだよ。ノリ悪りじゃん。一虎いんのといねえのとじゃ女の引っかかり具合がちげーんだわ。だから行こうぜ」
「いや…彼女いるからムリ」
しつけーと思いつつイラっとしながら応えると、タツヤは「エ、マジ…」と目が点になっている。
「えぇぇーっ!どうしちゃったんだよ、一虎!前なら彼女いてもフツーにナンパ行ってたじゃん!」
「いてぇって…」
タツヤの両手がオレの頬を挟んで来るから力任せに引きはがす。そこへ厄介な女が歩いて来た。タツヤの幼馴染のミサだ。
「もしかして、この前集会覗いてたあの子ー?まだ続いてたんだー。一虎にしては長くね?」
「ほっとけ」
ミサはに絡んでたあの時の女だ。濃いメイクをしてスタイルはなかなかいいが、セフレが何人もいるような女で、チームの何人かとも寝てるとタツヤが話してた。
「よぉ、アバズレ」
「うるせえな、タツヤ!」
うるせえのはオマエらだよ、とウンザリしつつ、にメッセージを送る。でもそこでタツヤがミサの話に食いついた。
「え、ってか集会に一虎の彼女来てたのかよ?どんな子?可愛い?胸デカい?」
「…おい、タツヤ――」
「うん来てたよー」
「おい、言うな」
「えっとねー。何か真面目ーって感じの地味な感じでーちっちゃくてー」
「おい、ブス」
「細くてー髪はこんくらいでー。おっぱいはちょーっと小さめ――」
「殺すぞ」
「マジかー!オレも会いたかったー!」
オレを無視して話し出した幼馴染コンビがウザすぎて口元が引きつる。ってか人の彼女のオッパイネタを話すんじゃねえ。
「え、でも地味系なんかー。あ、でもアレか?ヤってみたらめっちゃエロかったとか?」
「案外そーゆー地味な子の方がエロかったりするよねー」
「チッ。テメェら、いい加減にしろ。あと勝手にをエロい女にすんじゃねえっ」
頭に来て椅子から立ち上がると、今度はミサが勝手にそこへ座った。
「え~じゃあ、ああいう子ってどんな反応するわけー?エッチの時」
「…いや、知らね。ヤってねーし」
「「…………え」」
オレの一言に二人の顏が一瞬で固まった。
「「え"っ!ヤってないの?!」」
「…るせぇ…」
二人同時にハモってきて、オレは耳の穴を指で塞いだ。ホントにも言ったが、コイツらの脳みそはヤることしか考えてねえしゴリラ以下だ。まあ、オレも前は似たようなもんだったけど。
「ヤバ!ヤバいって!本当にオマエ、一虎かよ?」
「きゃはは!ウケるー!」
「はっ倒すぞ、テメェら」
「え、待って、相手小学生とか?…うぉふ…っ」
「フツーに1つ上だわ」
頭に来てタツヤの着ていたパーカーのフードのヒモを一気に締めて梅干しみたいな顔にしてやった。顔が隠れてマジで変態っぽく見える。
「えー今までヤリ目で付き合ってたじゃん。どしたん、マジで」
「別にー。今までの奴らはやることそれしかなかっただけ」
「で、今の子は違うってか!」
「………まあ。大事にしてーし」
ついポロリと本音が零れて急に恥ずくなった。
「「はわ~~~~」」
「何だよっ」」
二人して変な発声しやがって、と思いつつ歩きかけた時、タツヤが腰にしがみついて来た。ってか今の恰好で抱き着かれるとマジでキモい。
「一虎ぁ~!オレにもそんくらい優しくしてえ~」
「は?ムリ」
「ヤバ~!一虎に惚れるんだけど~!!彼女羨ましすぎ!」
「オマエみたいなアバズレお断りだわ」
「え、一虎、どこ行くのー?」
「帰るんだよ!!これからアイツ迎えに行くの」
「うえ~い、一虎がマジで優し~!今夜の大雨予報が台風になんぞ~!」
「うっせえな、テメェら!」
どこまでも引っ付いて来るタツヤを振り払い、どうにかゲーセンを飛び出す。あのクズコンビを相手にしてると時間がいくらあっても足りねえ。
「お、返事きてる」
ケータイを見ると、そこにはからのメール。"あと10分くらいで終わるよ"という文字と、可愛い猫のデコメが送られていた。何か女子高生って感じで、つい笑ってしまう。
(この前、一緒に映画観たいっつってたし…迎えに行って途中でレンタル屋行くか。後コンビニに寄って色々買って…)
そんなことを考えながら歩いてると自然に足も速まる。今まで女と会うのにここまで浮かれたことはない。自分でも相当キテんなとは思ったものの、これが今のオレなんだから仕方ない。ガラにもねえことしてんなーと苦笑しながらも、の学校へ急いで向かった。
*
「ってさー。一虎くんと付き合ってんの?」
「……は?」
帰り際、いきなり幼馴染の一馬に声をかけられ、ギョっとした。何で一馬が一虎くんの存在を知ってるのか意味が分からない。
「オレ、この前見ちゃったんだよなー。オマエと一虎くんが歩いてんの」
「そ、そう…ってか何で知ってるの?一虎くんのこと」
「え、だってあの人、ここらじゃ有名じゃん。悪い噂ばっかだけど」
「そ、そそうなんだ…」
「何それ。動揺してんの?ウケる」
一馬はゲラゲラ笑いながらわたしの顔を覗き込んで来る。コイツは昔から意地悪で人の嫌がることに喜びを感じる性格の悪いところがあった。顔はイケメンで学校の女子から騒がれてたりするけど、見た目で騙されちゃいけない部類の人間だ。まあ根はいいヤツなんだけど。
「一虎くん、知ってんの?オマエがイジメられてること」
「え?あ…うんまあ」
「フーン。んで、助けてくれねーの」
「…それは……わたしが解決しなきゃいけない問題だからって」
「へえ……意外と愛されてんじゃん」
「…え?」
一馬の言葉にドキっとしてケータイから顔を上げると、ニヤついた顔と目が合った。一馬がこういう顔をする時はたいてい碌なことを言わない。
「ってかと一虎くんってもうヤったの?」
「えっっ?そ、その情報知りたい…っ?」
「うん。だってあの人、手ぇ早いって聞いたことあるし、も出されたんかなーと素朴な疑問」
「……う……ま、まだだけど…」」
「…え」
恥ずかしくて小声で応えると、一馬は目が点状態になった。そんな驚かなくても。
「ま、待って待って。え、じゃ…チューは?」
「…ノ…ノーコメント…」
「はいはい。キスはしたんだな?」
「………(何で分かるの)」
「じゃあオッパイ揉まれたりは…?」
「な、ないと思うけど……」
「え……それヤバくね?」
「ヤバい…?」
一馬の一言にキョトンとしてしまう。だいたい普段は学校終わりや、バイト終わりに少し会うだけだし、一虎くんの家にお邪魔しても一時間もしたら帰る時間になってしまう。それにそんな雰囲気にはなってない…と思う。初めてキスをされて、その後は帰り際にされたりするけど、一虎くんはそれ以上のことを何もしてこない。でも何でそれがヤバいんだろう?
「あの一虎くんと付き合ってて、まして家に行ってんだろ?なのにまだシテないって…もしかして一虎くん、他の人と…」
「えぇ?!そそそそんな…っ。た、ただそういうことしなくてもいい人なんじゃないかな…」
「オマエ、あの一虎くんだぞ。そんな聖人君子なわけねーだろ」
「え、そ、そうなのかな……」
一馬の話を聞いてたら急に不安になってきた。でも言われてみると女の子の扱いは凄く慣れてる感じだし、あんなにカッコいいんだからモテてるはず。っていうか集会の時だって一虎くんのこと好きっぽい子、すでにいたし。
(やっぱり……わたし遊ばれてる…?)
足元からじんわりと重苦しいものが這いあがって来る気がして、慌てて首を振った。その時、ケータイが鳴ってメールが届く。見れば一虎くんからで"ついたよ"という内容だった。
「あ…じゃあ一虎くん来たからわたし帰るね。付き合ってくれてありがとね、一馬」
「いや、いーよ。オレがそばにいるとアイツら何もしてこねーみたいだし、こんくらい」
「うん、助かった。じゃあまた来週ね」
「おう。ってかサッサとエッチしちゃえよー。心配なら」
「……っ!!」
靴を外履きに履き替えてると、一馬はとんでもない捨て台詞を残していなくなった。ホント、一馬は昔からあっけらかんとしたヤツだ。でも、わたしがいじめられないように付き合ってくれたり優しいところはあったりする。やっぱり一虎くんに会う前に殴られたりして傷をつけたくないから、迎えが来るまで一馬に付き合ってもらったのだ。
(また変な心配かけちゃうもんね…)
この前、海に連れて行ってもらったことを思い出し、何故か頬が赤くなった。
(キスも…慣れた感じだったな…やっぱりわたしの前に色んな人と付き合ってたんだろうな…)
一馬に言われたことが尾を引いてるのか、これから一虎くんとデートなのにズンと気分が沈んでしまう。だけど「!」と一虎くんのわたしを呼ぶ声を聞けば、すぐにドキドキしてきて、やっぱりテンションが上がってしまう。
「こっち、こっち」
校門を出ると向かい側の歩道から手を振る一虎くんを見つけて、思わず笑顔になった。
「今日もお疲れー。大丈夫だった?」
「うん。今日は幼馴染の子がずっとそばについててくれたから」
駆け寄ると一虎くんがすぐに手を繋いでくれるからドキっとしつつ。イジメはなかったことを報告した。
「幼馴染…?そんなのいんの、」
「うん。一馬はお隣さんで昔から仲良しなの」
「……え、一馬って…男?」
「うん。そうだけど…何で?」
「いや……(マジか)」
一虎くんは怪訝そうな顔をして、急に黙り込んでしまった。何かマズいことでも言ったかなと少し不安になりかけた時、一虎くんがぎゅっと手を握り締めてくる。
「一虎くん…?」
「今日、映画観たいっつってたし何か借りてこ」
「え、うん。嬉しい!」
「………(クソ…可愛い)」
思わずはしゃいでしまったけど、一虎くんも嬉しそうに微笑んでくれるから、わたしまで笑顔になる。彼氏と一緒にお部屋で映画を観る、なんて凄く憧れてた。さっきまで落ち込んでたのにすぐウキウキしてくるんだから我ながら単純な性格だと思う。
それから一虎くんちの近くのレンタルショップに行って、二人で見たい映画を探して回った。一虎くんは「ホラーがいいなぁ」と言うからドキっとしたけど――怖いの苦手――わたしは何か笑える映画を観たいなぁなんて思いながら面白そうなパッケージを探す。するとコーナーを間違えたのか、目の前にラブサスペンス系のエッチな映画がずらりと並んでたからギョっとした。アダルトではないけど、えちえち要素が多めのいわゆるB級ものだ。
(…ダメだ。こんなの見たからまた思いだしちゃった)
チラっと一虎くんを見ると、彼は目当てのホラーコーナーで映画を探してる。こうしてはたから見ても、カッコいいなぁと思った。派手だけどそーいうのが凄く似合ってるし、一虎くんは華やかさがある。なのに何で地味目なわたしなんか彼女にしてくれたんだろうと不思議に思うし、ちょっとだけ不安にもなる。
(エッチ…かぁ。わたしにはハードル高い。でも一虎くんも別に手を出してくる感じないし、そんなにわたしのこと好きじゃないってことかな…)
またしてもマイナスな気分になっていたせいで、隣に一虎くんが来ていたことに気づかなかった。急に「おい」と声をかけられ、ハッとした時には目の前に一虎くんの綺麗な顔があってぶっ飛んだ。
「え、えっ?ち、近っ」
俯いてたわたしの顔を覗き込んでいた一虎くんは「何ボーっと見てんの」と笑ってる。その美しいご尊顔をドアップで見せないで欲しい!
「は何か観たい映画とか――」
「あっあああ…あの…わたし、こ、これでいい!」
未だに男の子に関する免疫が足りなさすぎるわたしは、恥ずかしさのあまりテキトーにDVDを取って、一虎くんの胸に押し付けた。
「お、おう…これね?」
一虎くんは一瞬、呆気にとられたような顔をしたけど、わたしは自分の犯した間違いに気づくことなくレジへ向かってしまった。
*
「え、コレ?マジでコレ観んの、のヤツ」
オレの胸にDVDを押し付けてレジへ歩いて行ったを見ながら、手の中にあるパッケージを見下ろす。それはだいぶエロシーン多めのラブサスペンスで、思い切り首をひねる。何となくのイメージと違ったからだ。
(つーか、さっきコメディ探してくるつってたような…)
考えること数秒。
「ま、いっか。が観たいなら」
深く考えることをやめたオレは、のあとを追ってレジへと歩いて行った。そこでオレの選んだホラー何作かとの選んだエロ映画を借りて、まずはの家に寄る。制服から私服に着替えたと途中のコンビニで適当に飲み物や食いもんを調達してから、オレのマンションへ行った。それでもいつもより時間もあるし、余裕で全部観られそうだ。
「親には何て言って出て来たんだよ」
部屋について飲み物を用意しながら訪ねると、は「えっと…バイト先のお友達の家に行くって」と恥ずかしそうに笑った。彼氏なんて言えば心配するだろうし、まあ今はそれでいいかもしれねえけど、やっぱ何となくに嘘をつかせるのはいい気分じゃない。
「の両親ってやっぱ厳しい?」
「え?全然だよ。何か緩いってうか…二人とも凄く優しいし」
「へえ…あんな進学校に行かせるくらいだし、めちゃくちゃ厳しいのかと思ったわ」
「ああ、学校はね。わたしが行きたいって行ったの。勉強好きだったし、あの学校に入るまではそれなりに成績も良かったから。でも想像以上にレベル高くてすぐ勉強についていけなくなって…」
「まあ、オレに勉強教わるくらいだしなー」
「う…ひどい」
「うーそ、ごめん」
ちょっとからかうだけでションボリするが可愛くて、隣に座るとぎゅっと抱きしめる。でもその瞬間、の肩がビクっと跳ねて、慌てて腕を放した。
「悪い。ビックリさせた?」
「う、ううん…大丈夫…」
は耳まで真っ赤になって、ぶちゃければすげー可愛いし、また手を出しそうになる。でも怖がらせたくはねえから、グッと我慢して飲み物をのグラスに注いでやった。
「何から観る?」
「えっと…」
「やっぱが選んだやつか。何か面白そうだったし。B級感溢れてて」
「え…そ、そう…?(何借りたっけ?)」
DVDプレイヤーに借りたDVDをセットすると、はちょこんとソファに座り直してジュースを飲んでる。その姿が子供みたいで軽く笑いを噛み殺した。でも映画が始まって10分。いきなりエロシーンが始まった瞬間、の顏が真っ赤に染まった。
「ななな何なの、コレ…」
「何ってが選んだやつじゃん」
『…あん…っぁあん』
その間もテレビからは女の喘ぎ声が流れてきて、の顏がますます茹蛸のように赤くなっていく。
「わ、わたし、こんなの選んでない」
「え、そーなの?でもコレ、意外とツッコミどころ多くて面白いけど」
『あん…あっ…んああ…』
「……も、もう嫌!これ…ち、違うの観よう?」
「え、マジで?」
隣で顔を覆う彼女を見てちょっと驚く。これくらいのヌルいエロシーンもダメなんか、と苦笑が洩れた。するとが真っ赤な顔でオレを見ながら、何故か泣きそうな顔をした。
「そ、そんなに観たい…?一虎くん」
「え?いや、別に。あ、じゃあオレの借りたホラー観る?」
「……う…うん…(ホラーも怖い…)」
の顏が少し引きつった気もするけど、とりあえずDVDを変えてホラー映画をセットした。オレが借りたのもいわゆるB級ホラーというやつで、頭からっぽにして見れるから意外と面白い。でも化け物が人を襲うシーンを見てたら、何故かオレの背中に張り付いてるがビクっとなっていて、思わず吹き出した。
「ははっビビってんの?かわいー」
「こ、怖いとこ見なきゃ平気…」
「ほー」
そんなことを言いながらも、オレの肩越しから目だけ出して見てんの可愛すぎだろ。腕にしがみついてる小さな手が、ぎゅっとオレの服を掴むたび、胸の奥がキュンキュンくるから、つい――。
「…」
「…え?」
顔を上げたのくちびるへ顔を寄せて、軽くちゅっとキスを落とす。一瞬、至近距離で目が合って、もう一度キスをしようと顔を近づけた時だった。窓の外からドーンっという大きな雷の音が鳴り響いた。
「きゃーっ!」
「お」
から抱きつかれて思わず顔がニヤケたものの。窓を見れば急に降り出した大雨、ついでに雷がゴロゴロと鳴っていて、ちょっとだけ心配になった。遅くても夜の11時にはここを出てを送って行こうと思ってたからだ。
「いきなり降ってきたなぁ…これ止むかな」
「…ぅ…雷怖い~…」
は昔から大の雷嫌いらしい。今もオレにしがみついて震えてるのを見ると、この雷雨の中、家に帰すのはかわいそうな気もした。
「大丈夫だって。そうそう落ちねえよ」
「…で、でも本当にダメなの…雷だけはムリ~…帰れない…」
「え~…」
はよじよじとオレの脚の間に入って耳を塞いで震えてる。嬉しい反面、困ったなと思いつつ窓の外を見た。雨は止むどころか時間が過ぎるほどに風も強くなっていく。相変わらず雷もゴロゴロ鳴っていた。
(そうだよな…この雷雨で帰すわけにも…つっても刻一刻と時間が過ぎてく…)
あまり遅くなっての親に心配かけんのは良くない気がする。それにもう一つ心配なのが――。
(コイツと一晩過ごしたら確実に手を出しそう…)
自分で自分が信用できねえってことだ。
「やっぱダメだ。なあ、雨が弱まって来たら家まで送ってやるから――」
「ぎゃぁぁぁーっ」
再び近くで雷が鳴った瞬間、はオレの首に腕を回してしがみついてきた。この姿を見てたら、やっぱこの雨の中を送っていくのも無理そうだ。
「んん~~~~~っ(悩む)」
「か…かずとら…くん…?」
頭を抱えて悩んでるオレにビックリしたのか、が涙で濡れた顔をやっと上げてくれた。
「ハァ~…しゃーねぇなぁ~…!」
「え…」
「…泊めてやるよ」
オレの一言での顏が真っ赤に染まった。ただ誤解されたくねえし「何もしねえから」と付け足す。けど、その時のは複雑そうな微妙な顔で俯いてしまった。
「…とりあえず風呂ためておくから映画観たらは風呂に入れよ。気分が落ち着くから」
「……う、うん」
「あー、あと親にも電話しろ。ってか外泊とか大丈夫なのか?んち」
「そ、それは…多分平気」
「ん。じゃあ、ちゃんとかけろよ」
「分かった……ありがとう、一虎くん…」
「いや別に……てか、あんま潤んだ目で見んなって」
「……??」
キョトンとした顔をされたけど、頬が赤くてウルウルした目で見つめらてたら、今フル回転させてるオレの理性が簡単に吹っ飛びそうになる。とりあえずここは映画に集中することにした。
*
(、遅くね…?)
映画を観終わって少し気分が落ち着いた様子のを先に風呂へ入れたものの、30分以上経っても出てこない。待ってる間、ボケーっとテレビを見てたものの、さすがに心配になってきた。雷をあんなに怖がってたし、まさか風呂場で動けなくなってるんじゃと思いつつ、脱衣所の扉を開ける前に「?」と声をかけてみる。
「まだ入ってんの?」
「か…かず…とらくん」
その時、か細い声がすぐそこで聞こえた。しかも弱々しい声に焦ったことで、遠慮なしに扉を開ける。するとキャミソール一枚とパンツ姿のがその場にへたり込んでいた。顔が真っ赤なのを見れば長風呂しすぎて逆上せたんだろう。
「大丈夫か?逆上せた?」
「う、うん…ごめん」
「いいよ。このまま運ぶから」
オレが聞くとは具合が悪そうな顔で何度か頷いたから、すぐに抱き上げてベッドへ運んだ。あまりの軽さにちょっとビビる。とりあえず体を冷やそうと冷えピタをオデコに貼って、ついでに下はパンツ一枚じゃオレの理性が崩壊しそうだから、ショートパンツを穿かせた。
「…ご、ごめんね、一虎くん…迷惑かけて」
「いや…気にすんな。楽になった?」
「…うん…ちょっと考え過ぎたら長風呂になっちゃって……」
「…何をそんなに考えてたんだよ」
「えっ?いや、その……ぅー…ん…」
「何だよ…言えよ。気になんじゃん」
あまりに言いにくそうにしているが気になった。そう言えばさっきも様子がおかしかったし、何かオレのことで悩んでたりするのか?と不安になる。でも別に何も悩ませるようなことをした覚えもねーし、キスだって嫌そうには見えなかった。こっちまで悶々としてきた時、がゆっくりと体を起こして、オレの腕をぎゅっと掴んで来た。
「あ、あの…ね…。えっと…か、一虎くんは……わたしとエッチなことする気は……ないのかなって…」
「……………」
「ほ、他の人で……済ませてるの…?」
「…………はぁ?!」
真っ赤な顔でとんでもないことを言われ、オレのビックリキャパを軽く100超えした瞬間だった。
「何でそーなんの?」
「え、だって…付き合ってしばらく経つのにエッチしてないのかって一馬に言われて……」
「…え、一馬……って、ああ…幼馴染か…(チッ。余計なことをっ)」
ってかそんな話まで、その幼馴染とすんのかよってオレもちょっと色々思うところがあれど。まずはの話を聞かないと始まらない。
「その幼馴染になんて言われたのかしんねーけどさ…オレは別に他の女なんて――」
「だって…か、一虎くん、こういうの慣れてるだろうからわたしじゃ物足りなくて他の人としてるのかなって…だからわたしとしなくても平気なのかと思って…さっきのエッチな映画観ても何ともなさそうに見てたし…わたしは結構意識しちゃったのに…」
意識してたのか、と思うと、確かに様子がおかしくなったのはアレを選んでる辺りだったかと思い出した。
「だってアレ演技じゃん。え、ってかされたいの?」
「えっ!いや…その…違う…あ、で、でもヤダってわけじゃなくて…」
は真っ赤になったままアタフタとし始めた。それを見てたら、やっぱそうだよなと苦笑が洩れる。でもそんな心配をさせてたとは思わなくて、胸の奥が変な音を立てた。真面目なが真面目にオレのことで悩んでくれるのは、申し訳ないと思う反面、ちょっと嬉しくもある。
「こ、こんなこと言っておいてあれだけど…まだそこまでの余裕は…」
「でしょ。それにオレはとしなくてもいいんじゃなくて、したいけど我慢してんの」
「え…」
「なんならオマエをオカズに抜いてるわ」
「…えっ」
「って何でこんなダセーこと言わせんの」
真っ赤になるを見て、こっちまで伝染してしまいそうなくらい顔が熱い。ちょっと釣られてバカ正直に言いすぎたかもしれねえ。でも、そんくらい我慢してんのは今も同じで。
「正直…こんなキャミ一枚でいられんのヤバいし……平気なわけねえじゃん」
「……ひゃ」
細い腕を掴んでぐいっと引き寄せると、の体が一瞬で強張ったのが分かる。でも我慢も限界で、そのまま顔を近づけて唇にちゅっと軽めに口付けた後、を抱きしめた。オレの腕にすっぽり入るくらい細くて、力を入れたら壊しちまいそうだ。
「がいいって思ってくれるまでは…手を出さないって決めてんだよ。怖がらせたくないから」
「……っ…(きゅーーん)」
「分かった…?」
少し体を離して顔を覗き込むと、の瞳からだぱーっと効果音がつきそうなほど涙が流れてギョっとした。
「よ、良かった~~」
「な、泣くなって…」
「だ、だってずっと不安で……。一虎くんが他の女の人とシテたら嫌だなって思って…」
「うん…しねーよ。大丈夫だから。泣くなって…な?」
指で涙を拭いながら頭を撫でてやってると、がいきなりぎゅうっと抱き着いて来て。心臓がヤバいくらいに鳴って一瞬飛び出たかと思ったくらいに焦る。でも次の瞬間、
「一虎くん…大好き…」
「……っ!!(バク萌え!)」
あまりに可愛い告白をされたせいで、オレの心臓が限界かもしんねえ。このままいけば朝にはHPが限りなく0になる気がする。
「オレも。オマエが大好きだわ」
未だに胸に顔を押し付けながらぐすっと泣いてるの髪を撫でながら、一応、男らしく余裕ぶってみたものの。今夜をどう乗り切ろうかと理性の神様に祈ったのは内緒の話。
オレの彼女、可愛すぎてしんどい。
