※性的表現あり
初体験の時は無我夢中で何が何だか分からないくらいの間に終わった。噂で聞いていた痛みはさほどなく、異物感があった程度で、しかしそれ以上に好きな男から施される行為に身体が勝手に反応していった。と言っても半分以上はくすぐったい。それに尽きる。ただ終わった後は好きな人に抱かれたという幸福感に満ちていた。はずだった。その後に「嘘つき」と罵られて振られた後はしばらく落ち込み、自分の身体が人と違うことにショックを受けた。敏感すぎるというだけで病院に行くべきなのか散々悩み、躊躇しての繰り返し。ならば自分なりに調べてみようと、色々な本を読み漁ったり、ネットで調べたりもした。
そこで分かったのは、自分のような女が多くはないが、一定数はいるということだ。敏感だからこそ身体に施される刺激でたっぷりと濡れる。濡れると当然痛みは減る。処女喪失の痛みの原因は、緊張や恐怖心で愛撫を与えられてもあまり濡れないこと、そして潤いが足りない場所に男性器を挿入した際、周りの襞を巻き込む形で引っ張られるから、らしい。はその原因を知り、驚愕したのと同時に安堵もした。理由が分かれば自分の身体がそれほどおかしいわけではないと理解できる。ただ世間的に処女イコール痛がるという図式が成り立っていて、男は当たり前のこととして認識している。だからこそ、また恋人が出来たとしても、相手から理解が得られないのでは、と思ったし、心を傷つけられた分、恋に臆病になっていた。それから早数年、まさかこんな形で再び男に抱かれることになるとは、自身も思っていなかった。恋人でもなければ、好きでもない男に。
「……んっんぁ…っ」
長いキスの後、力の抜けた身体を抱えられてベッドへ運ばれた後は、蘭にされるがままだった。
――は黙ってオレに可愛がられてりゃいーんだよ。
その言葉通り、バスローブを脱がされ、全身に口づけられた。唇をたっぷり濡らされ、首筋から膨らみの足りない胸まで丁寧に唇や舌が這う。ただ酔いが足りないせいか、羞恥心が消えることはなく、何度か身を捩りながら抵抗とも言えない抵抗を繰り返す。そのたび蘭の手でやんわりと止められた。
「何で隠すんだよ」
「だ、だって…恥ずかしい…」
元カレとのことが原因で一時は体重が激減したことがある。大きなストレスに心身が耐えられず、食事をあまり摂れない時期が続いた。おかげで体重が激減し、体型が少し変わってしまったのだ。その影響が顕著になって現れたのは胸だった。元々母親譲りの細身な体型ではあったものの、以前は人並みに胸はある方だった。それが短期間で体重が激減したことにより、胸まで痩せて、体調が戻った後も何故かバストサイズだけは元に戻らなかった。Dカップだったものが今ではBカップにまでトップが落ちて、いくら食べてもCカップまでしか戻らない。むしろ体重だけ増えてしまうのでバク食いするのは止めたら、再びB~Cカップを行ったり来たり。理想のサイズにはならず、そのせいでますます自分の体型がコンプレックスになっているのは否めない。
「む、胸小さいし…」
「は?今更?すでに散々見てるけどー?」
ニヤリと口角を上げた蘭は、胸元を隠していたの腕をそっと外させた。再び蘭の目に白い胸を晒す形になり、は頬を染めながらそっぽを向く。こうなって気づいたのだが、横になってしまえば更に胸が小さく見えることが、の羞恥心を煽るのだ。
「…そ…そうだけど……」
「オレに抱かれてる間、ずっとそうやって縮こまってるつもりかよ」
蘭は赤く染まったの頬へ指を滑らし、顎を掴んでくいっと自分の方へ顔を向かせると、身を屈めて鼻先が触れるほど至近距離に顔を近づけた。色素の薄いの瞳が、戸惑うようにゆらゆらと揺れる。
「もっと自信持てよ。少なくともこのオレをその気にさせたんだ。んな情けねえ顔してんじゃねえ」
「……そ…その気…」
「そ。最近さー好みの女に誘われても、あんまその気になれねーし、飽き飽きしてたんよなーセックスに」
笑いながらの頬へちゅっとキスを落とし、蘭は上体を起こすと未だ強張っているの身体を解すように掴んでいた手をシーツにそっと縫い付けた。
「でもオマエにメチャクチャ欲情させられてオレもビックリ」
「……っ」
の脚の間に蘭は自分の下半身を割り込ませると、太腿が自然と開かれる。次の瞬間、中央部分のその場所へぐりっと硬いものが押しつけられたことで、の瞳が大きく見開かれた。
「まだ何もしてねーのにオレのがこんな感じで暴走気味だし?」
「……ちょ…」
「言ったろ?は黙って感じてりゃいい」
そう言うや否や、蘭は自分のバスローブを脱ぎ捨て上半身をの目に晒した。細身のわりに筋肉質な蘭の身体の半身には、も初めて見る大きな図柄のタトゥーが彫られていて、僅かに息を飲む。の父の身体に彫られてる入れ墨とはまた違った艶やかさがあった。
しかしタトゥーに見惚れていたは、蘭の次なる行動にギョっとした。
「な、何するの…っ」
「んー?こうしておかねえとオマエ、また隠しそうだし」
蘭はバスローブの腰ひもでの両手を縛ると、頭上に縫い付けニヤリと笑う。まさか手を拘束されるとは思わず、は「は、外して下さい」と哀願したが、蘭は「ダーメ」と言って笑うだけだ。
「こ、こんなの恥ずかしい…ってば…」
普段隠れている部分を晒すのは恥ずかしく、両腕を上げていることで脇の下が丸見えなのも落ち着かない。
「恥ずかしがるが見てえんだよ」
「え……ひゃ…ぁんっ」
再び身を屈めた蘭はの細い二の腕に口付け、脇まで舌を這わせていく。その刺激があまりに強いのと、脇を舐められるという恥ずかしさで、は身悶えしながら頭を振った。
「やっぱどこもかしこも感度最高だな、は。ここも気持ちいいんだ」
「…んぁ…ゃ…く、くすぐったい…から…んん…っ」
脇をちろちろと舌先で攻められ、は必死に身を捩ろうとする。しかし蘭の体重を乗せられた身体はびくともせず、言葉通りされるがままだった。脇から下がり横腹へと舌が移動して、蘭の手に納まるほどの胸をやんわりと刺激される。すでに芯を持つほど硬くなった乳首を指でくりっと弄られるだけで、全身が粟立つほどの快感が襲って来た。
「…んあ…は…ぁっん」
「のここ、真っ赤」
「…ん…ふぁ…っぁ」
赤く色づいた小さな乳首を口へ含み、軽く吸うだけでの身体がビクビクと跳ねる。舌で転がし、合間にちゅぅっと吸えば、背中をしならせ、更に甘い声が蘭の腰を疼かせていく。これまで抱いて来たどの女とも違う反応がたまらない。
「…ら…蘭さ……ふ…ぁっ」
はで、蘭に触れられるたび呼吸が乱れていくのが苦しかった。身体のあちこちが甘く疼いて、燃えるような熱が生まれていく。蘭の筋張った細く長い指が肌をなぞるだけで、の中の隠れた官能を引きずり出して煽り立てるせいだ。ゾクゾクとした快感が止まらない身体に、ねっとりと舌を這わせられ、更に熱く湿った唇で火照った肌を吸い上げられるのだから、呼吸が整う暇もない。まだ始まったばかりだというのに、はすでに声が掠れるほど喘がされている気がした。経験豊富だとは思っていたものの、蘭の愛撫は予想以上に巧みで、人よりも刺激に弱いの身体は従順なほどに感じている。
「やっぱいい顔で啼くな、オマエ。もっと啼かせたくなるわ」
耳元で囁く蘭の低音な声は、どこまでも艶っぽくの心をざわめかせる。最初は蘭の気まぐれで手を出されたのだと思った。だから一度でも抱けば満足するはずだと。
正直、初体験は済ませたけれど、それ以降、誰とも肌を合わすことはなく、蘭が好むようなセックスが出来るか不安ではあった。その場合は感じてるフリでもしてサッサと終わらせてしまおうとさえ思っていたのに、フリどころか問答無用で喘がされている。は自分の考えが甘かったことを理解した。殆ど経験のない素人の自分が、蘭相手に一度きりとはいえ、相手になろうなどと思ってしまったことじたい、間違っていたのかもしれない。
そもそも感じやすい身体だからと言って、好きでもない男の舌や唇、指先だけでこんなにも敏感に反応するとは思いもしなかった。蘭の愛撫はストレートにの官能を引き出そうとしてくる。まるで自分好みの食べごろになるまで熟成させられている気さえした。
「…気持ちい?」
蘭はちゅっと音を立てて胸から唇を離し、甘い声で問いかける。その声は聞こえていたものの、は応える前に喘ぐ声しか出せない。その間に大きな手のひらがの太腿を撫で上げ、彼女の片足を持ち上げるようにして折り曲げると、すっかり濡れて蕩けている場所へ指を滑らせる。くちゅりとした音と共に、の身体がビクンと跳ねた。
「ひゃ…ぁ、ぁっ」
閉じていた襞を長い指がこじあけるようにしながら上下に撫で上げられ、湿った音が響く中、一定のリズムで動く指に合わせて、の嬌声が一際高く上がる。快楽の波が絶え間なく襲い、を徐々に追い詰めていった。溢れる愛液を指で撫でつけ、主張している陰核に塗り付けるように円を描く。それだけで白い裸体が良さげに悶える姿は、蘭の男の欲を更に煽っていく。
「なあ…気持ちいい?」
もう一度、今度は答えを欲しがるように囁けば、は涙で潤んだ瞳を彷徨わせた後、小さく頷いた。
「き、気持ちいい…おかしくなり…そう…」
蘭の甘く誘惑するような問いに、はたどたどしい口調で応える。
「そ?…素直でいい子」
蘭は満足げに微笑むと、子供をあやすように言った。ぬるぬると割れ目を擦り続けながら、片手での頭を抱き寄せ、優しく髪を撫でる。汗でしっとりと濡れた額にも唇を押し付けられ、まるで恋人にするかのように扱われると、はどうしていいのか分からなくなる。無性に胸の奥が疼いてドキドキしてきた。
(蘭さんは…魅力的な人だけど…好きとか思ったことないのに…)
過去のトラウマで男を感じさせる相手は極力避けて来た。ひたすら地味に生きて、相手に興味を持たれないよう、自分も興味を持たないよう、自制してきたはずなのに、その頑なだった心が解けてしまいそうなほど、今のは蘭の手に落ちてしまいそうだった。それでもギリギリのところでとどまっているのは、この行為は一度きりという約束があるからだ。
「はどこもかしこも弱いんだな」
与えられる甘い快楽に身を委ねていると、自分を見つめているバイオレットの双眸に気づいた。普段は冷たく感じていたその美しい瞳が、今は存分に欲を孕んだ熱を宿している。互いの息がかかる距離でを見つめる虹彩は一層熱を帯び、ゆっくりと唇が近づいて来る。それは唇ではなく、の耳に口付け、耳輪をなぞるように舌が動いた。
「…ひゃ…ぁ…み、耳は…ダメ…」
ゆるゆると耳の中を口淫され、ゾクゾクが止まらない。なのに蘭は容赦なく入口を撫でていた指をナカへゆっくりと埋めていく。
「…んぁ…ぁ…ん…っ」
先日された時よりも変な力が抜けているせいか、より強い快感がそこから全身へと広がっていった。指が抜き差しされ、内壁を擦られる。そのたび電流にも似た甘い痺れが身体を駆けぬける。
「のナカ…熱くてトロトロ…オレの指、こんなに締め付けちゃって可愛すぎ」
耳に吐息を吹きかけながら、艶めいた声でそんな恥ずかしいことを言わないで欲しい。そう思うのに、蘭からの刺激に意識を向けるほど、切迫感が強まって、暴力的に膨れ上がる何かが弾け飛んでしまいそうになる。
「…もう我慢出来ねえし挿れていい?」
ゆったりと見下ろしてくるバイオレットの瞳は、情欲に滾り、ゆらゆらと熱を孕んでいる。それが蘭の男としての色気をより強めているようで、は思わず身を震わせた。こうして肌を合わせて改めて気づかされたのは、灰谷蘭という男が自分の思っていた以上に魅力のある人だということ。そして、予想外だったのは、蘭が自分に触れる時の動作がやたらと優しいということだ。そこに気づいた時、の中に残っていた躊躇いが、綺麗に消え去って、無意識のうちに頷いていた。
「…ぁっ」
に了承を得た途端、蘭は指の動きを少しずつ速めていく。奥の敏感な場所を見つけてそこを突かれた瞬間、これまでの余韻も相まって急速に押し上げられていった。
「…ら、蘭さ…イ…イっちゃ…っあ…ああっ」
喉をのけ反らせ、声が絞りでそうになった瞬間、蘭に片手で抱かれて唇を奪われた。嬌声を蘭に飲まれながら、は強張った身体をビクンと何度も跳ねさせて絶頂を迎える。指が乱暴に引き抜かれた後、もつれるように絡まる舌が優しく動き、頭を撫でられた。達した後の倦怠感に加え、蘭の甘いキス攻撃で脱力したは一瞬だけ意識を飛ばしたものの、ふと気づけば蘭が覆いかぶさっている。床には封の切られた避妊具の袋が落ちていて、意識のない間に準備は済んでいたようだ。
(とうとう…蘭さんと…)
この期に及んでまだ少し迷いながらここまできたものの、先ほどの絶頂で最後の迷いも一緒にはじけ飛んでしまった。は覚悟を決めて、蘭の「いい?」という問いに、再び頷いた。
