※性的表現あり
秋雨前線の影響で曇天が一週間以上も続いていた。仕事帰り、は重たい足を引きずり、乗り慣れない電車で乗り換えをしながら帰路につこうとしていた。夕方の満員電車内は誰もが濡れた傘を手にしているからか、湿気が充満している。外は肌寒いくらい空気が冷えていたが、こうした密閉空間だと人の体温で気温は上がり、湿度も高いことで蒸し暑く感じた。
(早く帰ってシャワー入りたい…)
首元に流れる汗が気持ち悪くて、は溜息を吐いた。そしてふと、前にこんな蒸し暑さの中、閉じ込められたことを思い出す。あの日は一日大変だった。そしてあの日のことが原因で、は梵天を辞める決心をした。
あの日、上司である灰谷蘭に「オレの女になれ」と言われた。上司以上に思えないと一度は断ったものの「じゃあ、オレのこと好きになれよ」と迫られ、不覚にもときめいてしまったのが遠い昔のように思える。蘭はが思っていた以上に、のことを認めてくれていたし、意外にもの心の傷に理解を示してくれた相手だった。なのに逃げ出してしまったのは、怖かったからだ。蘭が一人の女で満足するような男じゃないと、はよく分かっている。だからこそ怖かった。また本気で好きになっても、いつか裏切られるかもしれない。そう思うと素直に蘭の気持ちを受けとることが出来なかった。
あの次の日、は勝手に梵天を辞め、家出同然で父の元を離れた。あのままだと父や蘭に流されてしまいそうだったからだ。だが何も告げず突然いなくなった娘を父は必死に探すかもしれないと、は新宿からだいぶ離れた横浜市から、電車で数分ほど離れた付近にアパートを紹介され、そこへ住み始めた。今は横浜駅の近くにある不動産会社で事務の仕事をしている。アルバイトを募集していたのでそこへ面接へ行き、住む場所も紹介してもらえたのはラッキーだった。と言って、これまでのような贅沢な暮らしは出来ないので、足りない分は貯金を切り崩して生活している。
(…蘭さん、元気かな)
一度思い出してしまうと、一気に色んな光景が脳裏をよぎる。父に言われ、梵天で働きだした時は戸惑うことが多かったものの、何だかんだと充実した日々を送っていた気がする。元が極道の娘だけに、あの空気は肌に合っていたのかもしれない。
(怒ってるよね…逃げ出したこと…)
あの夜、蘭に"もっと自信を持て"と言われたことが嬉しかった。ただの気まぐれで抱かれたはずなのに、心まで動かされてしまったくらい、には嬉しい言葉だったかもしれない。けれども一度傷つけられた心はそう簡単に素直にはなれない。むしろ蘭に惹かれていく自分が怖くなった。
(…あれから二カ月近くも経つんだ…)
窓に打ち付ける雨を眺めながら、曇天の空を見上げる。その時、電車が最寄り駅のホームへ滑りこみ、ゆっくりと停車した。ホームへ下りたつと、むわっと土の湿った匂いが鼻腔を刺激する。雨は相変わらず激しさを増していた。
の住むアパートは駅から徒歩10分ほどのところにある。あまり広くはない改札を抜けて外へ出ると、手にしていた傘をさしては歩き出した。横浜市にある町とは言え、そこまで都会でもないこの地域は、隠れてひっそり暮らすには十分な場所だ。家に向かう前に近くのコンビニに寄って適当にお弁当や飲み物を買う。あくまで仕事はアルバイトなので給料も安いため、あまり贅沢は出来ないが、この雨の中スーパーで食材を買っていくのは億劫だった。
(明日は水曜で仕事も休みだ。それに週末はお給料日だし…今日はビールいっぱい買っちゃおう)
前とは違い、今は外へ飲みに出かけることもなく、家飲みするのがの楽しみの一つだった。飲み友達は東京に住んでいる為、そう頻繁にも会えない。それにその友達は父もよく知っている子なので、一応口止めはしているものの、なるべく東京に近づきたくはなかった。
「うわ…また強くなった…」
一時小雨に変わった雨が再び本降りになり、は足を速めた。この雨では視界も悪く、いつも聞こえる虫の音すら聞こえない。蝉の鳴く声が鈴虫の鳴き声に変わり、最近はだいぶ秋めいてきたことで、そろそろ衣替えをしなきゃな、と考えながら家路を急ぐ。激しい雨音は足音も全て消した。だからその夜、はあとをつけられていることに気づかなかった。
「はぁ…足がびしょびしょ…」
ようやく自宅アパートにつき、は深い息を吐いた。一週間の疲れがあるのか、早く汗を流して寛ぎたいと自室の前へ歩いて行く。一階に四部屋。外階段を上がって上に四部屋という世帯数8つの平均的なアパートだ。どの部屋もまだ明かりは点いていない。住む場所を早く決めたかったこともあり、職場の面接が受かった際、すぐに入れると言われて、ここへ決めてしまったが、お金に余裕が出来ればもう少しマシな場所へ引っ越そうと考えていた。木造で築年数の古いアパートは隙間風も酷く、セキュリティなど皆無だ。女の一人暮らしには向かない建物であることは間違いない。しかもの部屋は一階だった。
疲れた足を引きずりながら、はアパートの木製のドアにカギを差し込んだ。古いディスクシリンダーの鍵穴は針金を使えば簡単に開けられるようなものだし、おそらく本気で侵入しようと誰かが思い切り蹴飛ばせば、あっさり壊されるような代物だ。要するに防犯機能など一切ないに等しい。だからこそは常に警戒していた。高い買い物だとは思ったが鍵はもう一つ自前で設置してある。今夜はそれが仇になった。鍵を開けるこの瞬間が一番危ないということはも分かっている。いつもならもっと警戒していたはずだ。ただ二つの鍵を開ける動作は、疲れのせいで緩慢だった。その隙を突かれた。
二つの鍵を開け、ドアを開けようとした時だった。
「声を出すな」
「…きゃ」
後ろから抱きつかれ、手で口を押えられた。顔は見えないが声からして男には間違いない。
しまった――!
の顏から血の気が引き、一気に体が強張った。安アパートの一階。周りは静かな住宅街で、女の一人暮らしには最悪の環境に住んでいる自覚はあったはずなのに。
「大人しくしてればケガはさせねえから…彼氏いないんでしょ?オレが可愛がってやるよ」
荒い息を吐きながら、男は勝手なことを囁く。しかしはその声に聞き覚えがあった。
「…た…田代…さん…?」
それは今働いている不動産屋の社員で、の指導係の男だった。
「へへ…前から狙ってたんだよ…。さん、地味で目立たないけど美人だよねえ。それに親や友達からも距離を置いてるって言ってたでしょ。それって前の環境から逃げて来たってことだよね。寂しいんじゃないかと思ってさ…」
「や、やめて…っ」
「大きな声出すな。ほら、早く家に入れ」
が抵抗すると、田代は後ろから喉を締め付けてくる。恐怖で足がすくみ、震える手でドアノブを掴む。しかし部屋の中に入れば確実に襲われてしまう。
まさか同じ職場の男がこういった行動に出るとはも思わなかった。時々ランチをご馳走してくれる気のいい先輩だと思っていたのに。きっと孤独な女だと思われたんだろう。家族も友人も恋人もいない。相談する相手もいない女なら多少乱暴なことをしても泣き寝入りをするだろうと。
「いい匂いすんなァ…まあ体は細すぎるけど…」
「…んっゃっ」
スーツのジャケットの中へ忍ばせた手が、シャツの上から胸の膨らみへ伸びて乱暴に揉まれた。敏感なはずの身体が男の愛撫を拒否するかのように総毛だつ。好きでもない男に触れられのは不快でしかなく、委縮して肩が跳ねた。しかしそれを勘違いした田代は「へへ…いい反応しやがる」とますます興奮したように呟き、に再度「早くドアを開けろ」と耳元で恫喝する。幸い田代は刃物などの凶器は所持していないようだ。となればにもまだ抵抗する術はある。伊達に極道の娘として生きて来たわけじゃない。玄関のすぐ左に台所。そこには今朝使った包丁が洗って食器カゴに入れてある。
(中へ入って上手く腕を振りほどくことが出来れば――)
頭の中でシミュレーションをしつつ、はゆっくりとドアノブを回していく。すると部屋のドアが内側から開いた。「えっ」と声を上げたのは田代だけではなかった。も唖然とした。伸びて来た手にの体が左側へ押しのけられる。その瞬間、懐かしい香りがの鼻腔を掠めた。
「蘭さん…?」
室内から現れたシルエットは紛れもなくの記憶の中に住み着いている男のものだった。のすぐ後ろにいた田代の胸倉を蘭は思い切り引きはがすように突き飛ばした。どちらかと言えば痩せ気味の田代は容易く雨に濡れた地べたへ転がり、パシャリと水しぶきが上がる。
「え…?あ…」
まさか部屋の中に男がいたなんて思わなかったのだろう。水たまりに尻もちをついた田代は茫然と蘭を見上げている。仕立てのいいハイブランドのスーツに身を包んだ男は、どうみても素人の雰囲気ではない。田代の喉が上下に動いた。その姿を見てようやく我に返ったが慌てて鞄の中からケータイを取り出した。
「け、警察…」
「呼ばなくていい」
蘭がそれを制止し、一歩田代に近づく。よく見れば蘭は手に先ほどが思い浮かべていた包丁を握っていた。
「オマエに手を出そうとしたコイツは殺す」
「…ちょ…」
淡々と言われて、田代よりもの方が青くなった。蘭なら本気でやりかねないというのを知っているからだ。でもここで一般人を殺してしまえば、また面倒ごとが増える。梵天という組織が人一人消すことに長けてはいても、少なからずは田代と一緒に仕事をしていたのだ。身近過ぎてそこから辿られないという保証はなく、制裁を加えるなら殺すよりも出来れば警察に突き出したいとは思った。
「田代さん、早く行って!痛い目に合いたくないでしょっ」
焦ったは田代を追い立てるように急かした。が蘭にしがみつき、止めている間に今は逃げて欲しかった。それを見ていた田代はどうにか立ち上がると、這々の体で逃げ出す。それほど無様に逃げながらも田代は捨て台詞の如く叫んだ。
「ちゃっかり部屋に連れ込むような彼氏いんじゃねーかっ!見た目地味なくせにビッチかよっ」
「…な…」
田代の言いぐさにムカっと来ただったが反論する気力はない。どうせ身元は分かっているのだ。警察に突き出すのは明日でもいい。それに今の問題は田代のことより隣にいる蘭のことだ。
「…彼氏って響きもいいな」
の隣で蘭がぽつりと呟く。何故彼がここに、しかも部屋の中にいたのか分からず、は恐る恐る蘭を見上げた。鍵はさっきが解錠したのだから当然、かかっていたはずだ。
「な、何で…」
ここに?と言いかけた時、腕をぐいっと引かれた。蘭は「中で話す」との手を引きながら部屋の中へと戻る。ドアを閉めると、僅かに雨音が薄れた。内鍵をしっかり閉めたところで、はやっと一息つくと、改めて目の前の蘭へ視線を向けた。あまりに突然の、それも不可解な再会に、図らずも疲れは吹き飛んでいた。
(…何で嬉しそうなの、蘭さんてば)
犯罪者に"彼氏"と呼ばれたことで相好を崩している蘭を見上げながら、ドキドキとうるさい心臓を静めようと小さく深呼吸をする。いるはずのない人物がこの部屋にいる光景が信じられず、幻なのではと思ってしまう。
「…何で…蘭さんがこの部屋に…?どうやって入ったの…?」
「秘密。ってかがこんなボロ家に住んでるからだろ」
蘭が優しくを責める。一瞬言葉に詰まったは、僅かに目を伏せた。
「じゃ、じゃあ…どうやって居場所を…?」
「んなもん、オマエの友達を問い詰めた」
「えっ?」
唯一の居場所を知っている友達のことだろう。彼女の存在を知る父親が蘭に情報提供したに違いない。
「がいなくなった後、最初におやっさんから友達のことを教えてもらってオマエの居場所を知ってるか聞きに行った。彼女は知らないって言ったが、何となく態度がおかしいのが気になってて、根気よく会いに行ったら話してくれたんだよ。ま…思ったよりも時間かかったけどな」
その友達は気の優しい一面がある。蘭が何度も会いにきたことで信用したのかもしれない。彼女も少なからずの現状を心配してくれていた。
「…んで、今度はコッチの番」
「…え…?」
ドキっとして顔を上げると、蘭はあの夜と同じく真剣な眼差しでを見つめた。
「オマエは何で逃げたんだよ」
「………」
「梵天辞めただけじゃ飽き足らず、家出までして…そんなにオレから逃げたかったわけ」
「……ち、違…」
その問いに思わず首を振っていた。逃げたのは確かだけれど、蘭が嫌で逃げたわけじゃない。
「違う?じゃあ…何でまたオレから逃げた」
「…っだ…だから…」
さっきの恐怖とはまた違う怖さで声が震えた。蘭と会わなくなって気づいたのは、自分が思っていたよりも――。
「ら…蘭さんのことが……好きになりそう…だったから…」
好きになって、恋人になって、だけど、また裏切られるのが怖かったから。
残りの人生をかけて愛するにはまだお互いに若くて早すぎる。自分は良くても、蘭は絶対にいつか飽きて離れていく。そう思ったからだ。
「は…?オマエ……そんなにオレのこと好きだったのかよ」
が話し終わった後、蘭は少し驚いた様子で呟いた。それも当然だ。いつも自分の手からすり抜けていく女に執着して、こんな場所まで会いに来てしまった。その逃げた相手から思いがけない心のうちを聞かされ、蘭もまた動揺を隠せない。
「お…重たいでしょ…わたし…。自分でもそう思うもん…絶対に…蘭さんには向かないと思う…だから――」
このまま放っておいて。そう言おうと思った。なのに強引に腕を引き寄せられた体は、強く抱きしめられていて。言葉は途中で蘭の口内へと消えた。
「向かねえ…?…勝手に決めんな、そんなこと」
何度か触れあった後で、蘭がポツリと呟いた。どこか苛立ちながらも切なげに揺れる虹彩に、は小さく息を飲む。こんな蘭はでも見たことがない。
「…ぁっ」
雨に濡れたジャケットを強引に脱がされたと思ったら、すぐに膝裏を抱えられた。そのままベッドへ転がされ、驚いて体を起こそうとしたの上に蘭が覆いかぶさって来る。
「ら…蘭さん…?」
「オマエに会えなかった二カ月間…オレがどんだけを抱きたかったか分かるかよ」
「…え…っ?ん…」
再び強引に唇を塞がれ、更に逃げ惑う舌を絡み取られる。熱い舌で互いの唾液を綯い交ぜにするような深いキスに、の息も少しずつ乱れていく。ちゅ…っと湿った音をさせて離れた蘭の唇からは細い糸が引いていて赤い舌がそれを舐めとった。
「……抱かせて」
艶のある低音で甘える蘭の声は、おねだりではなく、優しい脅迫だった。
*
「…ンっ待っ…って…」
「散々待ったし、もう待つ気はねえ」
の抵抗とも言えない制止を拒否した蘭に、シャツを脱がされ、穿いていたスカートも剥ぎ取られた。下着だけの姿にされ、羞恥で思わず胸元を隠した両腕も、蘭のネクタイで拘束されて頭上に縫い付けられる。
「…こ、これ…外して…っ」
「ダーメ。どうせ邪魔すんだろ?オマエは黙ってオレに犯されてろ」
「…な……ん、ぁ」
ブラジャーのホックを外され、指でくいっと上げられると、白い胸が蘭の目に晒される。大きな手がの乳房を撫でて、手のひらが先端を擦り上げると、それだけでビクンと細い腰が跳ねた。
「オマエ、また痩せたんじゃねえ…?」
「だ…だっ…て…んっ」
胸から脇腹、脇腹からまた胸へと細さを確かめるように動く手に、はくすぐったさを感じて身を捩る。痩せたのは自分でも自覚している。今の切り詰めた生活では太る要素がない。元々小さめの胸が更にサイズダウンしたのもそのせいだ。だから余計、蘭に触れられるのは恥ずかしかった。
「あ…あんまり…見ないで…」
ジっと見下ろされるのが恥ずかしくて顔を背けると、蘭の手がの顎を元の位置へ戻す。そのまま背中を丸めて身を屈めた蘭に唇を深く貪られた。
「…ん、ら…蘭…さん…?」
「んなの気にすんなっつったろ…」
「き、気にするなって…ぁ、ん…」
首筋へちゅっと口付けられ、そこからゾクゾクとしたものが広がっていく。シャワーすら浴びていない肌を愛撫されるのは想像以上に恥ずかしかった。
「小さくてもオレはのここ気に入ってるし」
「……ひゃ…ぁっ」
指で捏ねられ、ツンと立ちあがった乳首を舌先で転がされ、背中が反りかえる。
「…元々めちゃくちゃ感度良かったけど…今日は格別エロイな…。こんな硬くさせて…真っ赤になってるし…そんな気持ちいい?」
「んんっ…ぁう…ゃあ…」
舌で舐られ、口内に含まれた乳首をちゅぅっと吸われると、全身の血流がそこへと集中してるのかと思うほどに痺れてしまう。耐えられないほど声が洩れて、疼き始めた下腹部からとろりと蜜が溢れてくるのが自分でも分かった。そこへ蘭の手が伸び、内側に入れられて、は反射的に蘭の手首を締めてしまった。それでもショーツの上を指でなぞられ、身を捩る。
「あ…ダ…ダメ…」
ショーツの上から亀裂をなぞっていた指に引っ掛けて最後の一枚を脱がすと、蘭は恥ずかしがるの両脚を開かせる。太腿の間に顔を寄せられて、は慌てたように蘭の髪へ手を伸ばした。
「イ、イヤ…シャワーも入ってないのに…っ」
「オマエの匂いに、むしろコーフンすっけど?」
「ん、あ…ぁあ…っ」
僅かな抵抗も空しく、蘭は両腿をがっちりと押さえて赤く色づく場所へ口付けた。の抵抗が緩いのをいいことに割れ目に舌を差しこむ。そのぬるりとした感触に溜まらずの声が跳ねた。添えた手に軽く広げられると、そのまま膨らんだ陰核に吸いつかれ、の嬌声が更に甘く響く。
「…ンん…っ」
密があふれ出す孔へ舌を入れられ、ナカを弄られる感触に耐え切れず、かすかに足を震わせる。じゅぷっと言う卑猥な音でさえ、の羞恥心を煽り、同時に淫靡な感覚に支配されていった。
「すげー濡れてきた…エロ過ぎ」
「い…言わない…で…っ」
濡れた唇を舐めながら呟く蘭に、は恥ずかしさのあまり頭を振りつつ、舌での淫虐に身を震わせている。そこを広げたまま亀裂に舌を這わされ、は蘭の髪に触れようとした。しかしネクタイで拘束された手は指先しか届かない。もうやめて、と抗議のつもりだった。でもそれは蘭を煽るだけの行為でしかなく、感じてぷっくりとした芽を舌先で転がされると、いっそう甘い声が跳ねた。
「可愛い…いい声」
「…ひゃ…ぁ、あ…んっ」
の反応を見た蘭は更に興奮したように淫行を続ける。剥き出しにされた部分を舌で包まれ、ぬるぬると舐めまわされたことでの口から悲鳴のような声が上がった。
「…いや…ぁっあ」
芯を弄られるたび悦楽が押し寄せて、ゾクゾクと肌が粟立つ。の白い肌は紅潮し、汗が滲み始めた。芽を舐られながら、再び開かれた場所からはとろりとした蜜が止めどなく溢れだす。
「……オレに舐められて…こんだけ濡れるんだ」
蘭の言葉で余計に快感が高まるのは、気持ちが入ってしまうせいだ、とは言いたかった。前に抱かれた時と違いがあるのなら、きっとそのせいだと。
「あ…んっ…ふ…」
くちゅくちゅと浅い場所に指を出し入れされ、見悶える。ナカはすっかり蕩けて蘭の指に絡みつく。同時に芽を蘭の口唇で愛撫され、更にきゅうっと締め付けてしまった。
「……あ…そ…そこ…ダ…メ…ぇ」
次第に動きが速くなる指にある部分を擦られ、芽を吸われながらは達した。すでに息も切れて声が掠れるほど喘がされている。久しぶりの絶頂は長く尾を引いて、足の爪先まで痺れて丸まっている。自分の意志では制御できないほど、肉体が悦んでいるようだった。
「…相変わらずイった時のは可愛いな」
呼吸を乱し、ぐったりと体を投げ出しているを見下ろし、蘭はスーツのジャケットを脱ぎ、シャツも脱ぎ捨てた。ベルトを外し、昂ったものを出すと、の手首に巻き付いていたネクタイを外す。
「これもう使えねえな」
皺になったネクタイをベッドの下へ放り投げ、蘭はへ圧し掛かり、身体を重ねてきた。薄っすらと開いた赤い唇を塞ぎ、舌を探りあうようなキスを交わす。そのまま熱い昂ぶりをの濡れた部分に押し当てた。
「…あ…っんぅ…」
少しずつ押し入ってくる硬く大きな熱に、の背中が自然とのけ反る。細身の体では有り余るほどの質量を受け入れながら、また涙を溢れさせた。
「…いてえ?」
「……へ、…平気…」
さっきまでは少し強引なほどだったのに、蘭は心配そうにの顔を覗き込む。その優しいバイオレットの眼差しに、の胸がかすかに音を立てた。こんなに想いを寄せることになるなんて、最初に抱かれた時は思いもしなかった。たった一度、抱かれただけなのに、逃げ出したくなるほど、今は蘭のことを愛しいと感じている。最初に出来た心の傷を知らないうちに癒してくれたのは蘭だったのかもしれない。
「…やべ…久しぶり過ぎて挿れただけでイキそ……オマエのナカ、マジで良すぎる…」
深い吐息と共に蘭が呟く。その言葉を聞いては小さく息を飲んだ。のその表情に気づいたのか、蘭がかすかに苦笑している。
「何だよ…オマエがいなくなった後で…オレが他の女を抱いてるとでも思ってた?」
「…う…」
「…チッ。ムカつく…」
気まずそうに視線を逸らすを見下ろし、蘭は徐に目を細めた。よく分からない劣情を煽られ、あげく何度も自分の腕からすり抜けるように逃げた女に、言葉通り蘭はムカついていた。でもムカつく以上に、こうして触れ合うと別の感情がこみ上げてくる。二カ月前には名前さえつけられなかったその感情に多少は戸惑ったものの、もう誤魔化せないほど溢れてしまっている。
「…ム…ムカつくって…」
「…こんなにオレが惚れてんのに…オマエはちっとも気づかねえからなァ?」
「……っほ…惚れて……んぁ…っ」
さらりと告げられた告白に驚く間もなく腰を押し付けられ、は喉をのけ反らせた。一時静まっていたものの、根元まで飲み込んだ場所から再び甘美な痺れが広がっていく。
「…ぁ…ら…蘭…さ…」
「……あー…我慢出来ねえ…動くぞ…」
ジっとしている間に最初の射精感を乗り切ったのか、蘭がいよいよ本格的に腰を動かし始めた。滑りの良くなった場所を強く擦られ、突き上げられると、の啼き声がいっそう高まる。蘭の手に腰を引きよせられ、より深く繋がった。ナカを突かれるたびにまた密が溢れ、卑猥な音がその場所から漏れ聞こえてくる。
「……もう…逃がさねえから」
「…んぅ…?…ぁ…ふ…」
「連れ帰ったら…部屋に閉じ込めて…二度と外に出してやんねえ……」
「……な……ぁっう…」
恐ろしいことを言う、と抗議をしたくても、激しく腰を打ち付けられ、言葉に出来ない。蕩けきったナカを満たされて、舌を絡め合うキスはの頭を混濁させていく。あまりの快楽に、この後のことはどうでも良くなってしまった。蘭の求めるまま身体を差し出し、この腕に抱かれるだけで、幸せだと感じてしまったから。
「…ん…っら…んさんの…言う通り…にする…ぁ…っう…」
「……いい子」
が必死で紡いだ言葉に、蘭は満足げな笑みを浮かべて、体の最奥まで犯すよう腰を打ちつけ、一番奥のところで今日までの劣情をたっぷりと注いだ。
「……まだまだ、これからだし、覚悟しろよ」
「……え……っひゃ…」
出したばかりのモノがすでに大きくなったのを感じて、の頬が真っ赤に染まった。
