これは遠い日の面影を忘れた罰-11


※軽めの性的描写あり


子供の頃からひとりの時間が好きだった。一人っ子だったというのもある。でも、"ひとりでいる"のと、"ひとりになる"のとでは意味が違うんだと、親が不仲になって家にあまり帰ってこなくなってから気づいた。夜、家にひとりでいると時間の経つのがものすごく遅く感じる。どんな小さな物音でも大きく聞こえる気がしてたまらなくなった。
そんな時、幼馴染のケンヤと夜遊ぶようになって、少しだけ寂しさが紛れた気がしたけど、結局家に帰れば、またひとりの時間がやってくる。誰かが傍にいるとかいないとかじゃなく、たとえ傍に誰かがいない時でも、ひとりじゃないって思えるような。私はそんな心のよりどころが欲しかったのかもしれない。夜になって、会いに来てくれた蘭ちゃんの顔を見た瞬間、そう思った。

「悪い。連絡できなくて」

蘭ちゃんはどこか疲れたような顔をしていたけど、優しい笑みを浮かべながら私を抱きしめた。やっぱり外だと恥ずかしいから、私は蘭ちゃんを家の中へ初めて招いた。親は今日もいない。でも寂しくない。私の傍には蘭ちゃんがいてくれる。

「何か飲む?あ、コーラあるよ」

玄関に入った瞬間、唇を塞がれて、離れた時には真っ赤になっているのが自分でも分かった。誤魔化す為に、わざと明るい声で問いかける。ドキドキ心臓がうるさくて、蘭ちゃんに触れられるだけでふわふわした感覚になってしまうから、今は少しだけ離れておく。

「あー喉乾いてっからもらうわ」
「うん。じゃあ上で待ってて。階段上がって一番奥が私の部屋だから」
「いいのかよ、入っても」
「え?も、もちろん」
「ふーん」

蘭ちゃんは軽く口端を上げて笑った。その笑みにドキっとしたけど見なかったフリをして、キッチンへ行く。ケンヤ以外の男の子を部屋に入れるのは初めてだから何気に緊張する。蘭ちゃんの部屋でふたりきりになるのとはまた違った緊張かもしれない。それにきっと最初の頃とは違う。私の中で蘭ちゃんに対する気持ちの変化があったからだ。

「蘭ちゃん」

グラスとコーラの缶を持って上に行くと、蘭ちゃんはベッドに座って窓の外を眺めていた。その横顔が少し元気がないように見える。でも私に気づくといつもの笑顔を見せてくれた。蘭ちゃんが笑顔だと、胸の奥がほっこりと暖かくなるから不思議だ。

「はい」
「おーサンキュ」

持って来たコーラとグラスを手渡すと「気が利くじゃん」と褒められた。一つ覚えたこと。蘭ちゃんは缶ごと飲むのを嫌う。誰が触ったかも分かんない場所に口をつけるのが嫌みたいだ。不良してるわりに繊細なとこがあるんだと聞いた時は驚いたけど、そんなとこも何となく、らしいなとは思う。蘭ちゃんは口は悪いのにどこか品がある。ある種の独特な雰囲気があるし、六本木の不良達が憧れてしまうくらい人を魅了する何かをすでに持っている。きっと人の上に立てる人。女の子にモテるのだって綺麗な顔だけが理由じゃない。低音で話す声も、綺麗で長い指も、見つめ合ったら吸い込まれそうな美しい瞳も、口にするだけで胸の奥に熱が生まれる華やかな名前も、全てに魅力がある人だ。そんな蘭ちゃんの彼女が、私みたいな平凡な女でいいのかなって思ってしまう。

「もう…落ち着いたの…?」

コーラを飲んでいる蘭ちゃんの隣にクッションを抱えて座る。ちらっと視線を向けると、蘭ちゃんの表情が少し曇った気がしてドキっとした。モメていたチームのトップ二人は倒したんだから抗争も終わったはずだし、何も心配することなんかないはず、なのに――。

「あー…アイツらのことなら大丈夫だから。もうに怖い思いはさせねえし心配すんなって」
「…うん」

違う。そんなことを心配してるわけじゃない。私は、私が心配なのは蘭ちゃん達のことだ。ジっと蘭ちゃんを見つめると「何だよ」と笑う。その穏やかな笑顔が好きだなって思った。

「…竜胆くんは?」
「アイツは家に帰ったし今頃寝てんじゃねーの。昨日から何だかんだ後始末があって寝てねえからな」
「え、じゃあ蘭ちゃんも寝てないんじゃない?」
「まあ…でもに会いたかったから…」

ふと私を見て言うから顔が熱くなった。何かを言う前に、蘭ちゃんの綺麗な顔が近づいて来て唇が重なる。それだけで肌が粟立つくらい、私の全てが蘭ちゃんを好きだって言ってるみたいだ。肩を抱き寄せられて、角度を変えながら何度も触れて来る蘭ちゃんの唇が、凄く熱い。触れ合うだけのキスが何度も下りて来る。でも次第に、少しずつ濃密になっていくのが分かった。酸素を求めて薄く開いた唇の隙間から、ぬるりとしたものが口内に侵入してきて体が震える。それが蘭ちゃんの舌だと理解した時には、私のに絡みついて軽く舌を吸われた。その初めての刺激でゾクリとしたものが首の後ろに走る。初めての深いキスに心臓が痛いくらい早鐘を打ち出した。

「ん…ん、蘭ちゃ…ん?」

頭の後ろに手を添えられたと思ったら、ゆっくりとベッドの上に押し倒された。抱えていたクッションが床へ落ちる。驚いて目を開けたら、蘭ちゃんが真上から私を見下ろしていて、垂れた三つ編みが頬を掠める刺激さえ、物凄くドキドキした。

「…イヤか?」
「……っ」

何を訊かれたか分かった気がした。思わず首を振ったものの、まだそういう関係になるのは早い気がして言葉に詰まる。でも、きっと蘭ちゃんのことが好きな気持ちは変わらない。初めては絶対に蘭ちゃんがいい。そして私も、蘭ちゃんの初めてになりたい。なら今でも後でも、同じなんじゃないかと思った。蘭ちゃんの唇が降って来る。泣きたくなるくらい優しく触れてくるから、体の力が抜けていくのが分かった。でも服の上から胸の膨らみに触れられてビクンと身体が反応する。男の子に初めて触れられたから、恥ずかしさで少し体が強張ってしまう。

「…ん…ふ…」

さっきみたいな深いキスをしながら、蘭ちゃんの手がTシャツの中へ侵入してきて、直にお腹を撫でていく。その手が更に上って来て、下着越しの胸を軽く揉み始めた。恥ずかしくて身を捩っても、蘭ちゃんの体が覆いかぶさっているせいで殆ど動けない。

「ら…んちゃん…っ」

離れた蘭ちゃんの唇が首筋をなぞって下りていく。くすぐったい感覚がそこから広がって、思わず顔を背けたら耳にもちゅっとキスをされた。ゾクゾクっと肌が粟立って思わず首を窄める。何もかも初めての刺激だ。怖いのと恥ずかしいのとで、頭がグチャグチャだった。

「ま…待って…」

背中のホックを外され、Tシャツを脱がされそうになった時、思わず蘭ちゃんの手を止めていた。

「…やっぱ怖い?」
「こ…怖いけど…それより…恥ずかしい…」

部屋の明かりが煌々としているところで裸を見られるのはさすがに抵抗があった。そんな気持ちを正直に言葉にすると、蘭ちゃんはかすかに笑みを浮かべて、私のオデコにちゅっと口付けた。

「首まで真っ赤…可愛いな、オマエ」
「そ…そういうこと言わないでよ…」

余計に恥ずかしさが増して顔が火照って来る。蘭ちゃんはちょっと笑うと、私の上から避けて、部屋の電気を消してしまった。

「これでいい?」
「う…うん…」

窓から入る月明りだけで、蘭ちゃんの表情はあまり見えなくなった。それが少し寂しいと思っていたら、さっきのように覆いかぶさって来て、またキスをされる。そのままTシャツを脱がされて行く感覚に、どうしようもなくドキドキしてきた。

「あ…あまり見ないで」
「何で?すげー綺麗だし可愛い」

蘭ちゃんは胸を隠している私の手を掴むと、ベッドへそっと固定した。男の子の目に肌を晒すのは初めてで恥ずかしさがピークに達した。顔がやたらと熱くなってクラクラする。

「は…恥ずかしいよ…」
「何で」
「だって…その…小さいし…」

同じクラスの子の中にはすでにEカップの子がいるというのに、私は悲しいかな、まだまだBカップを卒業できていない。せめてCかDくらいまで育って欲しいと思っていた。なのに育つ前に好きな人に見られる羽目になるとは思わなかった。蘭ちゃんはちょっと笑って私の頬へキスをすると、

「そう?オレはのなら大きさなんてどっちでもいいけど」
「………」

蘭ちゃんがそう言ってくれるなら小さくてもいいかな、なんて思ってしまった。なんてゲンキンな女なんだろう。

「触ってい…?」
「……き、聞かないでよ」

私が恥ずかしがるのを分かってて、わざと訊いて来る蘭ちゃんは少し意地悪だ。言い返すと軽く笑みを浮かべて唇にキスを落とす。蘭ちゃんの舌先が私の唇をこじ開けて侵入して来るだけで、心臓がドキドキ音を立てるから、それがバレるんじゃないかと思うと、またいっそうドキドキが増していく。

「…んっ」

優しく胸を揉まれて、指先が先端を掠めた時、初めての刺激に襲われた。くすぐったいのとも違う、痺れるような甘い刺激だ。私の反応に気づいたのか、蘭ちゃんの指に乳首を何度も擦られ、そのたびゾクゾクとしたものが背中を駆け抜ける。

「ここ、硬くなって来た…」
「…ぁ…っ」

いつの間にか蘭ちゃんの唇は首筋や鎖骨に下りていて、気づいた時には胸の先にぬるりとした感触。敏感なところを蘭ちゃんの舌で転がされて、全身に電流のような痺れが走った。

「…気持ちいい?」
「…ゃ…んっ」

蘭ちゃんはまた私の羞恥心を煽るようなことを敢えて訊いて来る。絶え間なく与えられる刺激に、頭が沸騰しそうなほど熱が集中していた。硬くなった乳首を舌先で転がされ、もう片方の手がスカートをたくし上げていく。太腿の内側を撫でられると、そこからくすぐったいような感覚が広がった。

「…ん、ぁっ…ら…んちゃ…」
「…

蘭ちゃんの低音で名前を呼ばれると、それだけで熱が加速する。恥ずかしさとか、怖さとか、そういうものが全て体から溶けだしていくみたいに、蘭ちゃんのことしか考えらえない。それくらい触れられた場所全てに、もどかしく、甘い疼きが生まれていた。