※軽めの性的表現あり
こんな光景、前にもあったような気がする。
「何で逃げんだよ」
「だ…だって…」
「だって、何?」
「う…」
至近距離で見下ろされて、その綺麗な顔の迫力に負けそうになる。前よりも大人っぽくなった蘭ちゃんは、少し別人みたいに見えるし何かドキドキする。
「…ん…」
答えに困っていると、蘭ちゃんは痺れを切らしたのか、少し強引に顎を持ち上げ唇を塞いできた。不意打ちのキスに、そこから一瞬で甘い電流のようなものが全身を巡っていく。何度も角度を変えて啄んでくる蘭ちゃんの優しいキスは、どれだけ見た目が違っても、何一つ変わらない。
「…ひゃ…」
腰を抱いてた手が、また服の中へ滑り込んで来て、くすぐったさで身を捩った。でも蘭ちゃんの唇が首筋に吸い付いて、更に体がビクンと跳ねてしまう。
「ら…蘭ちゃん…や…ダメ…」
「んー…もう我慢できねえ…」
「で、でも…ここリビング…」
煌々と輝くシャンデリア――いま気づいた!――の下でエッチなことをされてると、恥ずかしいしか頭に浮かばない。さっき外されたせいでブラジャーが意味をなしてないから、蘭ちゃんの手が容易く膨らみへ辿り着いた。やんわり揉まれて、胸の先端を指でつまんだり擦られたりすると、またビリビリとした疼きが、そこから生まれていく。あれ以来、久しぶりに触られるからなのか、気持ちいいというよりくすぐったい感覚の方が強い。
「んんっ…や…だ…ら…んちゃん…」
「は…んな可愛い声で言われても逆効果だって…」
首にキスを落としていた唇が耳まで上がって来て、いきなりぬるりとした舌で耳たぶを舐められ口に含まれる。首筋がゾクゾクっとして、抵抗する力さえ奪っていくような刺激が背中を走り抜けた。トップスの背中にあるジッパーを下ろされ、肩からゆっくり脱がされていくのを感じて、私は最後のあがきとばかりに、蘭ちゃんの胸元を手で押した。
「何だよ…」
「こ…こんな明るいとこで脱がさないで…」
「……」
恥ずかしくて思わず口から出た言葉。なのに蘭ちゃんは少し驚いたような顔で「オマエ…それわざと?」とかすかに頬を赤らめた。
「え…」
「そんな可愛いこと言われたら余計ムラムラすんだろーが」
「えっちょ…」
蘭ちゃんはいきなり私を抱き上げると、別の部屋のドアを開けた。電気は消えたままで見えにくいけど、そこは蘭ちゃんの部屋なんだってすぐに分かった。
「な、なに…」
「もう我慢できねえって言ったろ。無理やりにでも抱く」
「は?ちょ、ちょっと――」
「年少帰り舐めんなよ?ずっと男ばっかに囲まれて、こっちは欲求不満マックスだっつーの」
「な、なにそれ、知らな…ひゃっ」
急に蘭ちゃんの腕が離れたと思ったら、ベッドに転がされて、驚く間もなく蘭ちゃんが覆いかぶさって来る。薄闇の中に見えるバイオレットの綺麗な輝きが、欲を孕んだ熱でゆらゆら揺れていた。
「ら…蘭…ちゃん…」
「明るくなきゃ…脱がせていーんだろ…?」
蘭ちゃんの顏からは余裕の笑みが消えていて、どこか切羽詰まったように私を見下ろしてる。その表情がやたらと色っぽくて心臓が一気にバクバクと音を立てだした。男の子が欲情すると、こんな顔をするんだって思うと、こっちまで顔が火照ってしまう。
「ん…っ」
私が何かを言う前に、蘭ちゃんは強引に唇を塞いできた。すぐに舌が入って来て、私の舌を器用に絡めとりながら、蘭ちゃんの手がもどかしそうに服を脱がしていく。それが本当に余裕がないように感じて、ドキドキが加速していった。
「ん…ぁっ」
首筋から胸元まで口づけられたと思った時、すでに硬くなっていた先端を口に含まれ、ちゅう…っと軽く吸われた。その強い刺激で背中が反るくらい体が跳ねる。蘭ちゃんに与えられる甘い刺激に、体が物凄く敏感になっているみたいだ。
「ぁ…んん…っ」
舌先で転がされるたび、快感の波が襲って来る。まるで全身が性感帯になっているみたいに、蘭ちゃんが触れるとこ全部が疼いてしまう。
「ら…蘭…ちゃ…ん」
「やべ…マジで余裕ねえかも…」
「…ん…っ」
言葉通り、初めての時よりも蘭ちゃんは余裕がないように見えた。スカートの中に入って来た手が内腿を撫でていく。その刺激ですらびくりと体が跳ねるくらいで、自分でも怖くなってくる。
「ひゃ…」
下着の上から敏感な場所を指で撫でられ、強烈なくすぐったさが襲って来た。でも何度かそこを往復されると、次第にくすぐったいのが和らいで、じわりとした熱を生んでいく。中からとろりとしたものが溢れてくるのは自分でも分かった。
「……濡れて来た…?ここ…湿って来たんだけど」
「…っい、言わないでよ…」
「…そーいう反応されると意地悪したくなんだよ」
蘭ちゃんは薄っすら笑みを浮かべると、熱い吐息交じりで言った。
その時だった。不意にインターフォンが鳴り響いて、蘭ちゃんの動きがピタリと止まった。
「…げ…誰だよ、こんな時に…」
「だ…誰か来たよ…?」
「無視でいいって」
蘭ちゃんはそう言いながら、起き上がろうとした私の体を抑えて唇を塞いだ。でもその間もしつこくインターフォンは鳴っている。
「あーうるっせー…」
「で、出た方がいいんじゃない…?仲間の人かも…今日集まる予定だったんでしょ…?」
さっきのクラブでのことを思い出した。少年院を退院した二人のお祝いとかで、確かリコの彼氏とかもあのクラブのビップルームに集まるって言ってた気がする。なのに主役の蘭ちゃんがいないから迎えに来たのかと思った。
「…あー…まあ…でもまだ9時じゃん。集まって来るの、だいたい深夜だし、ちょっとくらい抜けても平気なはずだけど…って何で服着ようとしてんの」
起き上がっていた蘭ちゃんが、下着をつけてトップスを着直した私を、怖い顔で見下ろした。
「え、だ、だって…誰か来たし…」
「んなもん無視でいいつったろ」
「で、でも…」
「ほら、もう鳴りやんだし帰ったって。だから平気だよ」
言いながら、再び私を押し倒して服を脱がせようとする。その手を止めると、更に綺麗な瞳が半分に細められた。
「…嫌なのかよ」
「い、嫌とかじゃ…」
ただ今の来訪者のおかげで少しだけ冷静になれた。もし今ここで蘭ちゃんに抱かれても、蘭ちゃんはその後にあのクラブへ戻るんだろう。そう思うと少しだけ寂しい気がしたのだ。抱かれた後はやっぱりずっと一緒にいたい。出来れば朝まで二人で眠りたい。そう思った。
「蘭ちゃん…後で戻るんでしょ…?」
「あ?ああ…まあ…出所祝いみたいなもんだしな。あと六本木はオレと竜胆が仕切ることになるから、それを分からせるための集まりみたいなもん」
「だったら…今、戻っていいよ。私、帰るから」
「は…?何で」
「な、何でって…蘭ちゃんとはその…もっと落ち着いた時にゆっくり会いたいかなって…」
「何だよそれ…」
「だって…エッチしたら…その…」
「あ?聞こえねえ」
怖い顔を近づけて来る蘭ちゃんに、一瞬怯みそうになった。でもこういう女心なんて蘭ちゃんには分からないんだろうし、言える時に言っておかないと。
「だ、だから…エッチした後にどっか行かれるのは嫌なの…っ」
「……は…っ?」
思い切って気持ちを伝えると、蘭ちゃんはハニワみたいな顔になった。そのうち少しずつ頬が赤くなって、不機嫌そうに目を細めてる。一瞬怒ったのかと思ったけど、蘭ちゃんは私のほっぺをぎゅっと摘んで「そーいう可愛いこと言うの反則ー」とひとこと言った。
「つーかオレがをひとりにするわけねーだろ」
「…え?でも…クラブに戻るんでしょ…?」
「だーから出かける時はオマエも連れてくって」
「えっでも仲間の人が集まるって…」
「別にい~じゃん。オマエがオレの女だってアイツらに分からせた方が、さっきみたいなことも起きねえからな」
蘭ちゃんはそう言って私の頬にちゅっとキスをした。そこまで考えてくれてたんだと知って、胸の奥が熱くなる。
「ってことで…続きしてもいい?」
「え…」
ニヤリと笑う蘭ちゃんを見上げると、すぐに唇が塞がれた。でも――突然、玄関のドアが開く音と、「兄貴~帰ってんのー?」という竜胆くんの声がして、蘭ちゃんがガバっと体を起こす。
「チッ…アイツ、何で帰ってくんだよ…」
舌打ちをしながら蘭ちゃんはベッドから下りた。
「アイツ、先にクラブに行かせるからちょっと待ってて」
「え、で、でも…」
と言いかけた時、廊下の方から「蘭くーん、いるー?」という女の声が聞こえて来て、蘭ちゃんが一瞬で固まったのが分かった。
「兄貴、部屋かー?」
「げ…」
蘭ちゃんが慌ててドアの方へ駆け寄った時、先にドアが開いて竜胆くんが顔を出した。
「あ、やっぱいた――っ…は?!」
私を見て、今度は竜胆くんも固まった。
「な…何でがここに…」
「ってかオマエ、何でアイツ連れて来てんだよ!」
固まってる竜胆くんに、何故か蘭ちゃんが焦ったように怒っている。その時、竜胆くんの後ろから誰かが顔を出した。
「あ、蘭くん、やっぱ家にいたんだー」
「う…」
「もー約束すっぽかされたと思ったんだけどー」
竜胆くんの後ろから入って来たのはやたらと色っぽいお姉さんで、いきなり蘭ちゃんに抱き着いたかと思えば。私の目の前で蘭ちゃんの唇にその赤い唇を押し付けた。
「な――」
驚きのあまり、今度は私が固まる番だった。