I knew

第十九幕:過去よりも今



※性的描写あり


、ここ気持ちいい?」

すぐ耳元で竜ちゃんの低音が囁く。くすぐったさと恥ずかしさで身が震えて言葉になんて出来なかった。さっきからナカで竜ちゃんの指が動くたび、その場所から甘い刺激が広がっていく。
例のマンションに引っ越してから一週間――。
毎晩のように竜ちゃんからの甘い責め苦が続いている。
最初は僅かながら鈍痛があったのに、今じゃすっかり開発されて、わたしの体は竜ちゃんの望む通りの反応をするようになったみたいだ。

「ここ弱いだろ。突いたらキュって締め付けてくるし可愛い」
「い、言わないで、そういう…こと…んっ…」

竜ちゃんの声は男の欲を含むような艶があるから、それだけで背中の辺りがゾクゾクとしてしまう。恥ずかしいのに、竜ちゃんが言うようにある部分を刺激されると勝手に快感が溢れてくるのを止められない。
自分の体なのに自分で制御できないなんて思わなかった。
最初からじっくりと可愛がられたそこはすでにグズグズで、竜ちゃんの指が出し入れされるたびに卑猥な音を立てている。自分の体がこんなことになるなんて想像すらしてなかった。
同じ場所を何度も突かれて、一気に上り詰めていく。外でイカされたことはあるけど、ナカでイクのは初めてだった。全身が震えて目の前が真っ白になるほどの快感に襲われたわたしは、自分でも聞いたことのない甘い声を上げた。

「ちゃんとイケて偉いなー?ってかのイクとこ可愛いすぎてヤバい。マジですぐ勃つわ」

竜ちゃんはあやすように頭を撫でながら、肩で息をしてるわたしを何とも甘ったるい顔で見つめてくる。
ああ、好きだなあと感じる瞬間だ。
だけど――。

「だ、だから…そういうこと言わないで…恥ずかしい…」
「感じてるも恥ずかしがるも可愛いから、つい意地悪したくなんの」

行為の最中、竜ちゃんはいつもわたしが恥ずかしがるようなことを言うけど、そんな理由だなんてもっと恥ずかしい。
でも行為はこれで終わりじゃなく、これからが始まりだ。

「今度はオレをイカせて」

甘いキスをくちびるに落としながら、竜ちゃんが呟く。もうその顏にさっきまでの余裕はない。
応える前に、竜ちゃんはわたしの脚を持ち上げ、自分の劣情をすっかりと解れた場所へあてた。

「ぁ…っん…」

ゆっくりと挿入されていく熱の塊。その苦しくも甘い刺激は、何度経験しても慣れることはない。なのに体は快感に震えて、わたしの思考まで朦朧とさせていく。
竜ちゃんと一つになれる幸せも合わせて、快楽を勝手に貪ってしまう。
竜ちゃんが好きでたまらない。心身ともに訴えるような快感が全身を襲って、竜ちゃんが抽送する前に再び何かが弾けた。

「挿れただけでイクとか…マジ可愛い…」

くちびるに竜ちゃんのくちびるが触れる。だけど、ちゅっという可愛いリップ音とは裏腹に、竜ちゃんは不意に腰を激しく動かし始めた。
イったばかりで敏感になっているナカに強い刺激が与えられて、すぐにまた快感の波が襲ってくる。ゾクリとしたものが足元から這い上がってくるのを感じて、わたしは乱れた呼吸の合間に彼の名前を呼んだ。

「り…竜ちゃ…待っ…」
「…無理だって…こんな締め付けられて待てが出来るほど余裕ねえもん」
「んん…っで、でもまたイっちゃう…っ」
「いいよ…何度でもイクとこ見せて…」

わたしの手をぎゅっと握り締めながら、竜ちゃんは言葉通り、余裕のないほど腰を打ち付けてくる。
さっき弱いだろと指摘された場所をピンポントで突いてくるのは確信犯的なものがあった。

「んぁ…や…ダメ…もう…」

自分でも何を言いたいのか分からない。最後の言葉は言葉にならなかったと思う。
竜ちゃんに何度も突き上げられた体は限界を迎えて、わたしは二度目の絶頂を迎えた。それでも竜ちゃんは許してくれない。

「…気持ち良すぎて意識飛びそう…」
「…っな…なに…それ…んっ」

朦朧としてきたわたしの体を抱き起こした竜ちゃんは、座った体勢のまま強く抱きしめてきた。起こされたことで繋がっている部分がより密着して、ナカを深いところまで犯してくる。同時に今までとは違う刺激が下腹へ走った。

「ぁ…っあ…っ」

竜ちゃんのものが最奥まで届いて子宮に当たる感覚。下から突き上げるように抽送されると電流のようなものが背中に流れた気がして、わたしは必死に竜ちゃんの首へしがみついた。繋がってる部分からはぐちゅぐちゅと卑猥な音がして、それが恥ずかしいのに勝手に体は上り詰めていく。

「…り、竜ちゃん…っぁ…っ」

待って、と言いたかったけど言葉にする前に、それは嬌声へと変わってしまった。
強い刺激に背中をのけ反らせた時、突き出した胸元へ竜ちゃんのくちびるが触れたせいだ。今ではすっかり敏感になっている突起にぬるりとしたものが絡みつき、ちゅぅっと強く吸われた瞬間、また目の前が真っ白になった。

「またイった?マジで可愛すぎだろ…」
「…竜ちゃ…ん…」

ぐったりとしたわたしの体を支えると、竜ちゃんは苦笑交じりで呟いた。もう文句を言う元気もない。
竜ちゃんは背中を支えたまま、わたしをベッドへ寝かせると、少し抽送を弱めて涙のたまった目尻へ優しく口付けた。

「オレもそろそろイクから…」

竜ちゃんはそう言うと再び腰の動きを速めながら、わたしの下半身へ指先を伸ばした。何を、と問う間もない。胸より敏感になっている陰核を何度か指の腹で撫でつけると、軽くキュっと摘まんできた。

「あ…っ――」

思わず顎が上がって声が漏れた。油断していたところへ強い刺激を与えられ、静まりそうだった快感が再び襲ってくる。無意識に腰が揺れて、その快楽から逃れようとしたわたしの脚を、竜ちゃんは軽く持ち上げて浅い場所をぬるぬると何度も出し挿れし始めた。その間もざらざらとした指に陰核を弄られ、溜まらず声を上げる。

「ヤバ…気持ちいい…」

思わず締め付けてしまったらしい。竜ちゃんの口からも切なげな声が漏れて、その表情は女のわたしから見ても色っぽかった。

「最後は一緒にイこうな」
「あ…っや…ダメ…そんなに…あぁっ」

激しく腰を打ち付けられ、同時に陰核を刺激されたことで、脳内が沸騰してるのかと思うほどにぐるぐると視界が回った。体は痺れて視界が霞み、足先までビリビリと痺れていく。
ナカが一気に竜ちゃんのものを締め付けてるのが自分でも分かった。

「く…出る…」

ポツリと呟きながら、竜ちゃんが少しだけ自身のものを奥へと埋め込み、思わずわたしも声が漏れる。そこで彼も絶頂を迎えたらしい。竜ちゃんのものがナカでどくんと脈を打つ。この瞬間、何故かわたしまで満たされる気がした。

「は…やべ…マジで意識飛びそ…」

竜ちゃんはわたしの頭の横へ手をつき、深く息を吐き出しながら呟いた。。呼吸が荒くて苦しそうだ。
男の人が果てた時、全力疾走したかのような疲労感に襲われると聞いたことがある。
手でシーツをぎゅっと握り締めながら、竜ちゃんは何度か腰を動かして、それからゆっくりと自身を引き抜いた。その僅かな刺激さえ、快感へと変換されてしまうのだから嫌になる。
自分がこんなに厭らしいなんて、竜ちゃんに抱かれるまで知らなかった。

「大丈夫…?」

頭を撫でながら訊いてくる竜ちゃんは、ちょっとだけ悲しそうな顔をしてた。

「ん…。大丈夫だよ」
「…ごめん。ちょっと止められなくて…痛くなかった?」

何でそんな顔をするのって思ったけど、竜ちゃんはその辺が心配になったんだと気づいた。エッチの時はあんなに強引なのに、終わった途端、わたしの体を心配するなんて、何か竜ちゃんらしい。

「平気…痛くなかったもん…」
「ならいいけど…でもまあ…もめちゃくちゃ感じてたもんなー?」
「……っ」

安堵の表情を見せてた竜ちゃんは、すぐにいつもの意地悪な笑みを浮かべた。しかも恥ずかしいとこを指摘してくるせいで一気に顔が熱くなる。
確かにその自覚はあるけど、何も口にしなくたっていいのに。
そんな思いで竜ちゃんにジト目を向ければ「そんな怒るなって」と慌ててわたしを抱きしめてきた。

が可愛くてイジメたくなるって言ったろ」
「そういうの…小学生心理って言うんだよ」
「あー…。確かにそーかも。好きな子ほどイジメたくなるやつだわ」

ちょっとの意地悪でそう言えば、竜ちゃんは特に怒るでもなく素直に認めてる。そういうとこ、わたしも可愛いなあと思ってしまう。

「オレ、のこと可愛くて仕方ねーの。だからその気持ち持て余して意地悪しちゃうのかもなー」

そんなことを言いながら、竜ちゃんはわたしの頬にちゅぅぅっとキス…いや、これは吸い付いたという方が正しいのかも。何となく子供扱いされてるような気もする。だけどそんな風に言われたら――。

「…怒るに怒れないんですけど…」
「ぶは…っそーいうとこな?」

今度は頭をクシャクシャと撫でてから、強く抱きしめてきた竜ちゃんは、地味に甘えん坊かもしれない。

~ぎゅーってして」

なんて言いながら胸元に顔を埋めてくる竜ちゃんが可愛い。いや、可愛いを通り越して愛しいし、果てしなく尊い。
エッチをした後のこの時間が、たまらなく幸せだと感じた。
だけど――ほんの少し心に引っかかってるのは、竜ちゃんの過去のこと。
抱かれて初めて分かったことがある。いや、分かってたつもりでいたけど、本当は何も分かってなかったのだと理解した。
抱かれたことで、わたしの知らない竜ちゃんをハッキリと感じてしまったから。
わたし以外の女の子にも、こんな風に触れてたんだと思うと、心臓が潰れるんじゃないかと思うくらい苦しくなる。
わたしは竜ちゃんが初めての人で、他の男の人がどうかなんて分からない。でも竜ちゃんはああいう行為に凄く慣れてるし、きっと上手い部類に入るんだと思う。
キスまでの持っていき方だとか、服の脱がせ方に至るまで、凄く慣れてると感じた。
それがどうしようもなく苦しい。
誰にだって過去はあるし、もちろんわたしにだってある。セックスはしなくても彼氏はいたし、キスくらいは普通にしてた。だから竜ちゃんを責めるようなことを言うつもりはない。
ただ勝手に想像して嫉妬をしてしまう愚かな自分が嫌になってしまうのだ。

…どうした?」
「…え?」

不意に体が離れたと思えば、視界に竜ちゃんの綺麗なバイオレットが現れてドキッとした。

「何か急に元気ねえけど…やっぱ体しんどい?」
「そ、そんなことないよ。少し気怠いだけ…」

それは本当のことだった。竜ちゃんに抱かれた後は必ず心地よい疲労感に襲われる。
それに新居に引っ越してまだ一週間。色んなものを住所変更したり、会社にも書類を提出したり、地味にやることも多かったし、そろそろ疲れが出てくる頃だ。

「もう寝る?まだ22時半だけど」
「え、寝ないよ。もったいないもん」
「もったいないって…明日も会えるじゃん」
「そうだけど…竜ちゃん夜は仕事だし、会えるの朝だけだもん」
「また今日みたいに早く帰ってくるって」

わたしの髪を優しく撫でながら竜ちゃんが笑う。
でもオーナーの竜ちゃんがそう度々店を不在にしてるわけにはいかない。蘭ちゃんは蘭ちゃんの仕事があって忙しくしてるし、竜ちゃんも任されてる仕事はたくさんある。
今は一緒に住み始めたばかりだから、こんなことが許されてるんだろうけど、そのうち竜ちゃんも深夜まで帰ってこなくなるはずだ。
そう思うと少し寂しい。

(…って…バカだな、わたしは…。前よりは二人の時間も作れてるのに、一緒に住み始めたら始めたで、もうそんなことで悩んでるなんて…)

人間の欲は尽きないというけど、本当にそうだな、と呆れてしまう。

「あ、そうだ。さ、来週の日曜って遅い?」
「え、日曜?」

唐突に訊かれてふとスケジュールを思い浮かべた。
今は担当の新人作家さまも休暇を取っていて海外に行ってるので、それほど忙しいわけじゃない。
今回わたしは一週間ぽっちの休暇だけど、売れっ子作家ともなれば一カ月の休みがとれるんだから羨ましい限りだ。

「ううん、そんなに遅くならないと思う。今は先生もいないし、通常の業務くらいだから」
「マジ?良かったー」
「え、何で?」
「いやさー。兄貴や天竺の皆が引っ越し祝いしてくれるっつーんで、オレらの店を貸し切りにしてパーティしようって話になってんだよ」
「えっ?引っ越し祝いで…パーティ?」

ちょっと驚いて竜ちゃんを見ると「楽しそうだろ」と笑っている。いや楽しそうというよりも、そんな大げさなことをするのかと驚いてしまった。

「そんで、その時にのこと、皆にも紹介するから」
「え…皆って…天竺の…?」

昔馴染みとは聞いてるけど、まだその仲間という人達には会ったことがなく、これまた驚いてしまった。

「そう。まあ前から会わせろって言われてて、今回いい機会かなと」
「そ、それは…緊張しちゃうな…」
「緊張するほどの奴らじゃねえよ。ただの元不良ってだけだし」
「ある意味…それも緊張するんですけど…」

わたしの人生、不良と呼ばれるような人達との交友関係は一度もなかっただけに、そこは少しだけ怖いという気持ちがある。でも竜ちゃんは「大丈夫だって。今は皆丸くなってっから」と笑うだけだった。

「ああ、でも緊張すんならも誰か呼びたい人いれば連れてくればいんじゃね?」
「え…いいの?」
「当たり前だろ。仲いい人がいればも多少、リラックスできるだろうし」

そう言われると確かに、と思いつつ、すぐにケーコ先輩の顏が浮かんだ。
昨日、ちょうど「落ち着いたら引っ越し祝いしてあげるね」と言われたばかりだった。

「あ、じゃあケーコ先輩呼んでいい?」
「ケーコ…って、ああ兄貴推しっつーあの彼女か」

ケーコ先輩は今も竜ちゃんのクラブに蘭ちゃん目当てで通ってるから、当然竜ちゃんも知っている。

「うん。先輩も引っ越し祝いしてくれるって言ってたから」
「そっか。いいよ。じゃあ日曜日は引っ越し祝い決まりな?」
「うん」
「そうと決まれば皆に連絡しとくわ。OKだって」

竜ちゃんは嬉しそうに言いながら、ベッドボードにあるケータイへと手を伸ばしている。それを眺めながらわたしも少しワクワクしてくるのを感じた。竜ちゃんや蘭ちゃんの昔からの仲間という人達に紹介してもらえるのは、彼女としてやっぱり嬉しい。
ついでにケーコ先輩も蘭ちゃんとプライベートで会えるんだし、絶対に喜ぶはずだ。

(そうと決まれば…明日の仕事帰りに美容室に行って…あ、そろそろネイルも行かなくちゃ)

編集者という仕事柄、普段はあまり派手なお洒落はしないものの、竜ちゃんの大事な仲間に会う時くらいは女子力を上げないと!と思ってしまった。
竜ちゃんの彼女として恥ずかしくないよう、そこはきちんとしたい。

「あ、兄貴?オレだけど。例の日曜の件さー。OKっつーからイザナくん達にも伝えといて。おー。マジで。うん。ああ、あとさ――」

愉しげな顔で蘭ちゃんに報告してる竜ちゃんを見ていると、さっき感じた不安なんて単純なほどに吹き飛んでしまう。
竜ちゃんの過去の女遍歴がどうであれ、今の彼女はわたしだし、「初めて本気で人を好きになった」と言ってくれた竜ちゃんの言葉を信じよう。
竜ちゃんに寄り添うように体をくっつけて見上げると、優しい眼差しが降りてくる。
視線を合わせたまま軽くくちびる触れ合わせると、ケータイの通話口から『おい、竜胆!今、にキスしたろ。イチャつきながら電話すんじゃねえ――』なんて蘭ちゃんの拗ねる声が聞こえて、思わず二人で笑ってしまった。

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