21-触れる手-⑵


※軽めの性的描写あり。苦手な方、または18歳以下の方は観覧を控えて下さい。



「はぁーお腹いっぱい…」
「まあ、あんだけ食ったらなー」

ソファに倒れ込んだを見て、蘭は苦笑交じりでワインボトルを手にすると、その赤い液体をワイングラスに注いでいく。
結局、夕飯はの希望通り、部屋で取ることにした蘭は、ホテル内にあるレストランの料理を頼んで運んでもらった。
の好きな物ばかりをチョイスしたせいか、は「美味しい」を連呼して、よく食べてよく飲んだ。飲んだと言っても酒ではなく、ソフトドリンクなのだが、よく酒でもないものをあれだけガブガブ飲めるなと感心したくらいだ。

「おい、。ソファで寝るなって、寝るならベッドルームに運ぶからな」

ゴロゴロしているの顔を覗き込むようにソファに上がり、上から見下ろした。
そのせいで蘭の長い髪がサラリと垂れて、の頬をくすぐる。
食事前に二人で軽く風呂に入ったのだが――もちろん別々――乾かした後は結ぶこともなくそのままだった。

「蘭ちゃんの髪…綺麗」

は仰向けになると、上から見下ろしている蘭を見上げて、自分の顏に降り注ぐ髪に触れた。蘭は「そう?」と笑っているが、は蘭の艶やかでサラリとした滑らか髪が好きだった。

「オレはの髪のが好きだけど。ふわふわで手触りがいいし猫みてえじゃん」

蘭はとの距離を縮めて頭を撫でながら、額、瞼、頬と順番に口付けていく。そのたびの鼓動が小さく跳ねて、口付けられる場所からじんわりと熱を帯びていった。
前とは違うその感覚は、の中で少しずつ大きくなっていく。最後は唇を塞がれ、僅かに離れてはまた啄むように触れる、蘭の優しいキスに身体の力が抜けていく。

「…マジで寝るとか」

の手がするするとソファの下へ垂れたことに気づいた蘭は、僅かに唇を離すと苦笑いを浮かべた。最近は朝早くから起きて前の日に九井から教わった内容の復習、そしてその日の内容の予習などをしている為、疲れているのかもしれない。

「仕方ねえーなー」

起こさないようにの身体をそっと抱えると、二階のベッドルームまで運んだ。ベッドの周りは全て窓ガラスで、そこからは六本木のネオンがキラキラと輝いているのが見下ろせる。

「この夜景、見せてやりたかったけどな」

蘭は独り言ちながらも奥側のベッドのデュベを行儀悪く足でめくると、そこへの身体をゆっくりと寝かせた。

「ん……ら…んちゃ…」

僅かに寝がえりをうちながら、相変らず子供のような寝顔で名を呼ばれ、蘭はふと笑みを浮かべると艶々と光っている頬へ「ん-」と擬音付きでキスをする。寝ていても自分の夢を見てくれているのかと思うとくすぐったいような気分になり、これまで感じたこともないような、胸の奥が疼くような、苦しい感覚に戸惑いすら覚えた。
しばらく隣で横になりながらの寝顔を見ていた蘭だったが、一向に飽きないな、とふと思う。
この感覚は昔、飼っていた猫の寝顔を見ていた時と少し似ている気がした。

当時の蘭は常々不思議に思っていることがあった。
猫とは毎日一緒にいても、その存在に飽きることはない。目にするたび、触れるたび、愛しい気持ちが溢れてくる。
抱っこをしたり、小さな頭を優しく撫でたり、時にはキスをしたりと、蘭はその猫を毎日可愛がった。それは猫が病気で亡くなってしまうまで続き、蘭が看取る中で息を引き取った時はこの世の終わりかと思うくらいに悲しかった。毎日思い出すたび泣けてきて、何なら竜胆にバレないよう、こっそりと猫との思い出のものを見ては泣いていたのを、蘭は今でも秘密にしている。

なのに恋人に対して、そういう愛情が持続しないのは何故なんだろうと、ふと思ったことがあった。
好きになって付き合った恋人のはずなのに、あの頃、猫に抱いていたような愛しさが持続することもなく、こんな風に寝顔をいつまでも眺めていたことはなかったように思う。
何か嫌なことがあれば熱は冷めていくし、冷めたと同時にその存在にも飽きてくる。話すことさえ億劫になることもしょっちゅうで、ましてや恋人と別れたことで、猫が亡くなった時のような喪失感に襲われるようなことは一切なかった。
猫と人間の違いは何なんだろう、と、いつか竜胆に話したら「彼女より猫が大事なのかよ、兄貴は」と笑われたが、そういう話でもなく。
未だにその答えみたいなものは出ていないが、でもこうしての寝顔を延々見ていられる今の自分は、あの猫と同じような愛情をこの少女に感じているのではないかと思った。

「やべぇヤツじゃん、これ」

ふと我に返り、苦笑が漏れた。これまで本気とも遊びともつかないような恋愛を繰り返し、ゲームみたいな感覚で男女の関係を楽しんでいた自分が。
ひとりの少女の寝顔を見て癒されてるなんて、竜胆にバレたらまた何を言われるか分からない。しかし、またこれも事実なのだから仕方ないか、とすら思ってしまうのだから、自分でも重症だなと思う。

「って、まだ20時じゃん…。が寝ちゃったらオレ、暇なんだけど」

ふと時計を確認して驚くと共に、の頬を人差し指で軽く押す。ぷにっとした頬の感触に、自然と蘭の口元も緩む。
そのまま指をぽってりとした唇に滑らし、輪郭をなぞるように撫でていくと、はくすぐったそうに眉間を寄せて、口元をむにゃむにゃ動かした。彼女のその可愛い姿に、たまらず吹き出した蘭は、ゆっくり身体を起こしてその唇にちゅっとキスを落とす。

「は~酒でも飲むか」

いつまで見ていても飽きないというのも案外良くない。動き出すキッカケを探さないと、本当に自分が眠くなるまで眺めてしまいそうだからだ。
蘭は静かにベッドから下りると、一度一階に戻り、ワインボトルとグラス、つまみになりそうなチーズを手に、再びベッドルームへ戻って来た。
シアタールームで映画でも、と思ったが、ひとりで見るのも寂しい。
ここの部屋はベッドルームでも映画が見れることを思い出した蘭は、の隣で何か見ていようと思った。
窓際にワインボトルやグラスなどを置き、蘭はヘッドフォンをテレビに繋ぐと自分の頭に装着した。
リモコンで映画一覧表を映し、その中からまだ見ていない映画を選び、再生を押す。

「女とスイート泊って一人で映画鑑賞してんのってオレくらいじゃねぇの…」

隣でスヤスヤ眠っているを見ながら苦笑を漏らす。も映画を観たがっていたものの寝てしまったのなら仕方ない、とばかりに、蘭は暫し映画鑑賞モードに入った。


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は目の前が少しチカチカするような感じがして不意に目を覚ました。同時に、いつもの部屋の匂いではないことに驚き、パチリと目を開ける。
薄暗い室内と天井がまず目に入り、チカチカしていたのが正面にあるテレビだということにも気づいた。自分がベッドに寝ていることにも驚いたが、蘭のことを思い出した途端、慌てて体を起こした。

「蘭ちゃん…?」

何の音もしないことで一瞬不安になったが、隣を見てすぐに笑顔になる。蘭はの隣で横になり、眠っているようだった。
しかしヘッドフォンを装着しているのを見て、はテレビに映る何かの映画を、蘭が観ている途中で寝てしまったのだと分かった。

「あ…映画みる約束…」

先ほど蘭と約束を交わしたことを思い出し、の眉がふにゃりと下がる。きっと自分が寝てしまったせいで、蘭が一人で映画を観てたんだろうと気づいたのだ。
時計を確認すると、まだ22時になるところだった。少しホっとして、隣で眠る蘭の寝顔を覗き込むと、寝息すら立てず静かに寝ている。心配になったはそっと耳を近づけた。すると小さいながらかすかに寝息が聞こえてホっとする。
そこでどうしようか、とは考えた。このまま寝かせておいた方がいいのか、それとも起こして一緒に映画を観た方がいいのか。
せっかくのデートなのだから、まだまだ二人で過ごしたい。

「…綺麗なかお…」

あれこれ考えながら蘭の寝顔を見ていたは、ふと素直に思ったことを口にした。男の人なのになんて肌が綺麗なんだろう、と思いながら、そっと頬に触れてみる。
さっきも思ったが「やっぱりスベスベ…」と同じ感想を抱いた。整った眉に、すっと伸びた鼻と形のいい薄い唇。
美形というのは蘭のような人のことを言うんだろうな、とは思う。先ほど下ろしていた長い髪は後ろでまとめられ一つに縛られているが、普段の三つ編み姿なら一見女性と勘違いされてもおかしくないほどに。

(そう言えば最初に蘭ちゃんと会った時…女の人かと勘違いしたんだった…)

出逢った夜のことを思い出したは、ふと笑みを零した。あの出逢いがなければ、今の自分はいないし、未だに地獄のような生活の中で京介のオモチャにされていただろう。
どう言っていいのかが分からずに、上手く言葉で伝えることは出来ていないが、は蘭に心から感謝をしていた。何者でもないただの人形だった自分が、今では蘭と結婚して女の子が憧れる"奥さん"になれたのは、贅沢過ぎる幸せなのだと思う。薬指を飾るキラキラとした指輪をかざして見ているだけで、これは夢なんじゃないかとさえ。
今日だってこんな素敵なホテルに連れて来てくれて、経験したことのない世界を見せてくれた。が憧れた、童話の中のお姫様みたいな気分を味わわせてくれた蘭に、はまたひとつ、感謝をした。

「蘭ちゃん…ありがとう…」

綺麗な寝顔を見ながら、はそのスベスベの蘭の頬にそっと唇をつけた。

「…口にはしてくんねーの?」
「……っ?」

不意に声が聞こえてドキっとした。すると急に視界が反転して、驚いたが視線を上げれば、視界に笑みを浮かべた蘭の顏が映る。

「…ら、蘭ちゃん…」

蘭はヘッドフォンを煩わしげに外して放ると、の額にちゅっと口付けてから微笑んだ。

「何かホッペがムズムズすんなあと思って目が覚めた」
「あ…ご、ごめんなさい…起こしちゃって…」

先ほど寝ていた蘭の頬を撫でたことを思い出し、の顏が赤くなる。蘭は「が起きたなら、すぐ起こしてくれて良かったのに」と苦笑して、今度はの頬にも口付けた。そのままの腕を引っ張り起こすと、互いに向かい合う形になる。

「で、くちびるにちゅーは?」
「え…」

蘭が澄ました顔で自分の唇を指さした。

が寝ちゃうから暇だったし、そのお詫びしてもらわねぇとなー」
「…お、おわび…」

ちょっとだけスネたような口調で意地悪を言えば、はわたわたしながら蘭を見上げる。その様子が可愛くて、蘭はニヤケそうになるのを我慢しつつからのキスを待つように目を閉じた。以前はの方が積極的で驚かされたことも多々あったが、今はこうして強請らないとの方からあまりキスをしてくれなくなったのが、蘭としては寂しかった。蘭を異性として意識し始めたことで、最近はやたらと照れることも多くなったのだ。
心の成長が上手くいってることを思えば喜ばしいが、まだそれは蘭にだけなので、その辺が心配でもある。
キスを待つ仕草をする蘭を見て、はおずおずと身体を前に乗り出し、頬へ手を伸ばした。しかし身長差があるので、ほんの少し届かない。
仕方なくは伸ばしていた足を折りたたむと、体勢を変えてベッドの上に膝たちをした。そうすることで先ほどより蘭の顏が近くなる。
は両手を頬へ添えると、ゆっくりと唇を近づけ、蘭の唇へとむにゅっと押し付けた。

「こ、これでいい…?」
「んー。まだ足りねえかも」
「た…たりない…?」

片方だけ薄目を開けて蘭が笑うと、は目に見えて照れている。そんな反応をすれば、蘭を煽るだけだとも知らずに、は頬を染めて再び唇を寄せた。
ちゅっと軽く音がするくらいに可愛らしいキスをするに、蘭の顏も自然と綻ぶ。

「…たりた?」

おずおずとそんなことを訊いて来るに、蘭は軽く吹き出しそうになった。同時にやたらと胸が疼くのを感じて、深い深い息を吐く。

「はあ……」
「蘭ちゃん…?」
「…何でオマエ、そんな可愛いーのー?」
「え?…んっ」

顔を覗き込んでくるの後頭部に手を添えて自分の方へ引き寄せると、蘭は少し強引に彼女の唇を塞いだ。驚いたが僅かに身体を引こうとしたが、その腰へも腕を回す。そのままを膝の上に乗せて、角度を変えながら唇をちゅっちゅと啄んでは、時折食むように二人の唇が深く交わっていく。

「…んんっ…」

苦しさで空気を求めて薄く開いた唇の隙間から、突然ぬるりとした柔らかいものが咥内へ侵入してきたことで、の声が小さく跳ねた。これまでしてきたような触れるだけのキスではなく、この前チョコを返すという名目で一瞬だけされた時のような大人のキスに驚いてぎゅっと蘭にしがみつく。口蓋を優しく舐められ、粘膜が触れ合う感覚に顏の熱が一気に上昇した。
やんわりと舌を絡めていけば、無意識のうちに蘭の手がの後頭部を強く抱き寄せていて、更に深く唇が交わる。絡めた舌先をじゅっと吸いあげたり、合間に離しては啄むキスを繰り返され、の身体がかすかに震えた。の可愛い反応は、蘭の理性を簡単に崩していく。
これ以上はマズいと思いながらも、身体は勝手にを求めてしまう。

「…ん、」

ゆっくりと離れた蘭の唇がの顎から喉元へ下りて行き、そこにもちゅ、ちゅと音を立てて口付ける。首筋を軽く舌先で舐められ、の身体にゾクリとしたものが走り抜けた。

「ら…蘭ちゃ…」
「…ん?怖い…?」

首筋に口付けながら蘭が尋ねると、は真っ赤な顔で小さく首を振った。

「は…恥ずかしぃ…」
「…はあ…それ逆効果…」

蘭は溜息交じりの熱い吐息を吐き出すと更に唇を下降させ、鎖骨にも口付ける。バスローブが次第に乱れていき、の細い肩が露わになると、蘭はそこにもちゅっとキスをして、空いている方の手で腰ひもをいとも簡単に解いてった。はだけた場所から手を滑り込ませると、滑らかな肌を堪能するよう腰から背中までのラインを優しく撫で上げる。
くすぐったさで、身を捩ろうとするの顔を固定して、蘭は再び唇を塞ぐと更に舌を絡ませ、彼女の咥内を余すことなく味わうように口付けた。舌の動きに合わせてくちゅくちゅとした水音が、の鼓膜を刺激して、更に羞恥心を煽っていく。

「…ん」

一度唇を解放すると首筋に唇を滑らせ、白く細い首のラインから華奢な肩へ手を滑らせれば、バスローブがするりと落ちて行く。
そうすることで蘭の目の前にツンと主張した小さな尖りと、控えめな膨らみが露わになる。初めて会った夜にも見ているものの、今とあの時とでは思い入れも感情も違いすぎる。蘭は引き寄せられるようにそこへ唇を寄せた。

「…んっぁ」

硬くなった乳首へちゅっと口付け、すぐにちゅうっと吸い上げれば、の口から可愛い嬌声が漏れてくる。それが恥ずかしいのか、は唇を噛み締めながら声が漏れないように耐えているようだった。

…声、我慢すんな」
「……で、でも…」
「可愛いから聴かせて」

そう言いながらの頬にちゅっとキスをした蘭は、背中を撫でていた手を前に滑らし、ちょうど片手で収まるほどの膨らみを、やんわりと揉みしだいた。
合間に指の腹で乳首を擦るように撫でると、の口からくぐもった声が上がり始める。もう片方の膨らみに舌先を滑らせ、硬く主張している部分を口に含むと、の背中がしなるように沿っていく。舌先で転がし、合間に優しくちゅうっと吸い上げれば、の可愛い嬌声が蘭の鼓膜をも刺激してきた。

「ら…蘭ちゃ…ぁっ」

胸の形を変えながら優しく揉みしだき、指で乳首をくにくにと捏ねてやれば、が涙目で見つめてくる。その表情がか弱くも扇情的で、蘭は腰がずんと疼くのを感じた。

「…んな目で見て煽んなって」

蘭は苦笑しながらの身体を抱えて膝から下ろすと、ベッドの上に押し倒し、再び唇を塞ぐ。しかし、すぐに離すと涙のたまった目尻に口付け、鼻先にもちゅっとキスを落とした。

「…怖い…?」

今では毎日一緒に寝ていても、蘭がこうしての肌に触れるのは初めてだった。彼女が怖がっていないかと心配になり、ついそんなことを聞いてしまう。
こうした行為が、京介にされたことを思い出させてしまうのが、蘭は一番怖かった。
の瞳はたっぷりと潤んでいて、長いまつ毛がかすかに震えている。その顔を見ていたら、たまらなくなった。

「怖いならやめる…」

蘭が真剣な顔で呟くと、は悲しげな顔で首を左右に振った。

「蘭ちゃんに……触れられるのは…怖くないもん…」

切ない吐息を吐かれ、蘭はかすかに笑みを浮かべて、の小さな唇にもう一度深く口付けた。緩く舌を絡ませながら、胸に触れていた手を脇腹、下腹部へと滑らせていく。
手に吸い付くようなの肌を堪能しながら、太ももを撫で上げると、が僅かに力を入れた。それに気づいた蘭は、脚の間に自分の身体を入れて、の足を開かせる。

「……ぁっ」
のここ、触っていい?」
「……っ」

ベッドに両手をつき、蘭が上から見下ろせば、は真っ赤な顔をしながらも小さく頷いた。蘭は口元を緩めるとに覆いかぶさり唇を塞ぐ。そのまま手を内腿へ這わせていくと、バスローブの下は何も身に付けていない。おかげで容易くのそこに蘭の指が辿り着く。
すると反射的に足を閉じようとの身体に力が加わった。

「…、力ぬいて…」
「…ん…ぅん…」

は怖いと言うよりも恥ずかしいようだ。顔を真っ赤にしながらぎゅっと目を瞑っている。こういう反応をされるのは蘭も初めてで、やけに胸の音がうるさく感じた。
の緊張をほぐすように、再び首筋に吸い付き、舌で舐め上げると「ひゃ…」という可愛い声が上がる。そのまま唇を下降させ、弄られて更に硬さを増した乳首を舌先で転がしながら、すでに潤み始めている場所へ指を這わせた。

「…っ…んんぁっ…」

割れ目に沿って指を滑らせると、すでに主張しはじめていたクリトリスに指先が触れる。優しく撫でるように指で何度も撫でれば、の艶のある声が静かな室内に響いた。
その合間も唇、頬、耳、首筋、胸と蘭の唇が余すところなく触れていく。気づけば指で可愛がられている場所からくちゅくちゅという卑猥な音が聞こえ始めた。
それが恥ずかしいのか、腰をくねらせその快楽から逃れようとするを、蘭は容赦なく腕で拘束する。

「…ら、蘭…ちゃ…ぁっ」
「ん?ここ、気持ちいい?」
「ん…っ」

入口を指で解しながら、今ではたっぷりと濡れている泥濘へ指を埋めていくと、頬を紅潮させたの顏が僅かに歪む。

「…痛い?」

に触れることへの不安が僅かに残る蘭が問うと、は慌てたように首を振る。心配そうな蘭の表情に気づいているは、心配かけまいとするように「だいじょうぶ…」と小さな声で応えた。
健気に応えるを見て、蘭はホっとしたのと同時に、心の奥から自然と湧いて来た己の黒い感情に気づいた。に触れることで、それを直に感じてしまった蘭は、妙な苛立ちを覚える。蘭は当然、がこういった行為をするのが初めてではないことを知っている。そしてにそれを覚えさせた相手の男の顏も。
蘭が触れるたび、その愛撫に応えるかのようにの身体が反応する。それは彼女の義兄が教え込んだものだとハッキリ感じてしまった。
最初から分かっていたこととはいえ、実際にへ触れて直接それを見せつけられたことで、蘭の胸が焼けるように痛む。
皮肉なことに、の素直な反応は、嫉妬という厄介な感情を蘭に植え付けた。

「ら…んちゃん?」

一度は挿入した指をずるりと引き抜き、蘭は身体を更に下へ移動させると、の足を軽く押し開き、内腿へと唇を這わせた。
すでに濡れそぼっている場所を蘭の目に晒していると気づいたは、恥ずかしそうに足を閉じようとした。だが、蘭の腕がその細腰を絡めとり脚を押さえつける。

「…ら…蘭ちゃ…ん、恥ずかし…い…」
「ダーメ。の身体にオレを刻みたいんだよ」
「…え…?」

何のこと、と訊こうとした瞬間、敏感な場所に生温かい舌を這わされ、の腰がびくりと跳ねた。

「…え、ゃ…ら、蘭ちゃ…んっそ、こだめ…ぁあっ」

あまりに強い刺激に脚に力が入ったが、蘭の手で押さえつけられ閉じることもかなわない。その間も、柔らかい舌がの恥ずかしい場所を優しく動き回り、溢れてくる愛液をじゅるじゅると吸い上げて、丁寧に解していく。

「ん…ゃあ…ら、ん…ちゃん」

の口からは喘ぎともつかぬ抵抗の言葉が力なく紡がれるだけで、身体は燃えるように熱くなり勝手に蘭の愛撫に反応してしまう。蘭はの中からあの男の陰を追い払うように、可愛く濡れそぼる場所を舌先でなぞり、主張しているクリトリスを口へ含むと咥内で優しく転がし、ちゅうっと軽く吸い付いた。
舌先で愛撫を施しながらも、とろとろの場所へ指を埋めていくと、今度はゆっくりと抽送を始める。たっぷり濡れているせいか、そこは指の動きに合わせてじゅぷじゅぷと卑猥な音を立てた。同時に二か所も責め立てられ、の身体がいっそう快楽へと飲み込まれて、ぞくぞくしたものが襲ってくる。

「…んんっぁん…ゃ…あぁっ」

ナカを解すように動いていた指の動きが次第に速くなり、舌で蕩けるような甘い刺激を与え続けられている場所から脚の指先までビリビリと何かが走りぬける。目の前がチカチカして、その激しい波に背中をしならせ、はがくがくと脚を震わせていた。少し刺激が強かったのかもしれない。はは、は、と短い呼吸を繰り返している。
快感に身を震わせた姿を見た蘭は、身体を起こして再びに覆いかぶさった。

「上手にイケたなー?」

額の汗で張り付いた髪を指でよけながら、蘭はの涙が溢れる目尻へ口付けた。

「…ら…んちゃん」
「ん?怖かった?」

潤んだ目で見上げて来るが可愛くて、蘭は優しく微笑みながら小さな唇にちゅっとキスをした。は頬を真っ赤にしていたが、またしても首を左右に振る。

「こ…わくない…でも今の…蘭ちゃんにされるとすごーく恥ずかしぃ…」
「恥ずかしがってるが可愛いからしたくなんだよ」

恥じらうに思わず顔が綻び、蘭は真っ赤に染まっている頬へも口付ける。
するとが「あ…」と声をあげて、身体を起こそうとした。

「ん?」
「わたしも…する」
「え?」
「蘭ちゃんに」
「は?」

の言葉の意味を蘭が理解する前に、それは身体が感じた。

「ちょ、何してんだよ」

いきなり硬く主張している場所に触れられ、今度は蘭が焦る番だった。慌ててそこへ触れているの手を掴むと、再びベッドへ押し倒す。

「ダメだって、触ったら。我慢できなくなんだろーが」
「え…で、も」
「オマエ、あんなに恥ずかしがってたクセに、何で自分が触んのは平気なんだよ…」

の大胆行動に蘭はがっくりと項垂れ、高まりそうだった気分を沈めようと息を吐き出した。

「ら…蘭ちゃん…怒ったの…?」
「いや…怒ってねえけど…」

不安そうに見つめて来るに、蘭の胸が色んな意味でざわめく。ハッキリ言って今のとの行為で蘭も当然、心身ともに昂ってはいる。
だが今はまだを抱くつもりはなかった。それはの身体に刻みこまれた男の影がちらつくせいだ。
愛撫ひとつにしろ、相手のクセが女の身体に刻まれる。恐らくの初めての相手であり、長い間、を蹂躙しつくした京介の影がの身体から伝わってくるのだ。
鬱陶しいあの男の影を完全に消し去るため、に自分を刻みこみ、身体に覚えさせるまで、蘭はを抱かないと決めた。
それなのにが無防備に昂っている場所へ触れて来たのだから、蘭が焦るのも当然だった。

「ほんとに…怒ってない…?」
「怒ってねえよ。がエッチで可愛いから困ってるくらいだわ」
「…え…えっち…」

ポっと音が出たんじゃないかというほど、の頬が赤くなり、蘭は思わず吹き出した。こういう素直な反応を見せるが、蘭は可愛くて仕方ない。

「せっかく我慢してんだから、そーいう顔すんなよ」
「え、我慢…してるの?蘭ちゃん…」
「そー。蘭ちゃん、今めちゃくちゃ我慢してんのー」

笑いながらおどけて言う蘭に、は不思議そうな顔をしている。どうせあの男は我慢なんてしないで好き勝手にしてたんだろう、と思うと、また無性に腹が立ってきた。

(京介のヤロー、もっとボコボコにしときゃ良かったな…)

このぶつけようのない怒りを持て余しながら、蘭は目の前で潤んだ瞳を向けて来るに優しく微笑んだ。

「もう一回、さっきのしてあげよーか」
「え…っ?」

抱くつもりはなくとも、の可愛い反応はもっと見たい。
蘭は今日一、艶のある妖しい笑みを浮かべて、の唇を優しく塞いだ。




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