Temptation lip honey...03



※性的描写あり



「あれー?千冬くんだ~」

タクシーを降りて、フラつく足でどうにか彼女の部屋に辿り着くと、出てきたのは目をとろんとさせたさんだった。オレを見た瞬間、ふにゃりとした笑顔を浮かべるから、それはそれで少し呆気にとられつつ、嬉々とした表情で「どうしたの~?」と聞かれてもすぐには応えられなかった。
てっきり一人で泣いてるのかと思ったらやけ酒をしてたようだ。オレが聞く前にその理由を話しだした。

「聞いてよ、千冬くん…!アイツ、ここに今カノ連れて来たんだよっ。信じられるっ?」
「は…?マジで?」

更に唖然とするオレを部屋へ引きずり込んださんは、事の顛末を呂律の回らない口で説明し始めた。
例のクソ男は荷物を取りに来た際、今付き合ってる彼女を連れて来て、堂々と「オレの今の彼女」と紹介したらしい。それだけでもぶっ飛んでるのに、その彼女とやらも「初めましてー元カノさん。今カノの奈優奈でーす」と自己紹介をかましたそうだ。あげくクソ男は「オマエと違って奈優奈は素直に甘えてくれるから可愛いんだよなー」と惚気てきたようで、それにはさすがのさんも頭にきたらしい。当然だ。聞いてるオレも最高にムカついてる。
いくらさんが優しくても、そこはキレていいとこだと思う。

「でね、何か一気にこれまでの感傷が消し飛んで、思わず荷物を詰めたボストンバッグをアイツに投げつけちゃった。私、普段はそこまで怒ったことないからアイツも鳩が豆鉄砲みたいな顔してたなー。笑うでしょ」

さんは思い出したように笑っている。その姿を見る限りは元気そうだ。だけど、やっぱり無理をしてるんだと感じた。本当に平気ならこんなに酔うまで酒を飲んだりしない。

「ごめんね…また千冬くんに甘えちゃってるね、私…」

ふぅと小さく息を吐きながら、彼女はポツリと言ってソファに座り込んだ。そんなの気にすんなって言ってるのに。

「いいよ、そんなの。それより大丈夫か?水、持ってこようか」
「いいの…まだ飲むし」
「え、でも…」

テーブルの上にズラリと並んだ空き缶を眺めながら、つい苦笑いが零れた。オレと同じでそこまで酒に強くない彼女が、これだけの量を飲んでるのは珍しい。すでにかなり酔ってるはずだ。

「結構飲んでんじゃん。そろそろ寝た方がいいって」
「いいのー。明日も有給とっちゃってるから休みだもん…」
「え、休みなの?」
「うん…アイツに会った次の日に笑顔で接客出来る自信ないし有給も余ってたから…」

さんはそう言いながら、近くの棚から変わった形の酒瓶を取り出した。

「これ飲んでやろーっと。アイツが好んで飲んでたやつ」
「それは?」
「ラム酒。何か高級品を貰ったとかで、大事に飲んでたけど忘れてったんだしいいよ、もう。一緒に飲も」
「いや、飲むのはいいけど…マジで大丈夫か?」
「大丈夫だってば。これコーラで割ると凄く美味しいんだよー。アイツはもったいないって怒ってたけど、もう関係ないから好きな物で割ってやろ」

さんは楽しげに言いながら、氷とグラスをフラつく足で運んでくる。危なっかしいからオレがそれらを受けとって、言われるがままラムコークなるものを作った。

「じゃあカンパーイ」
「か、乾杯…」

カチンとグラスを当ててくるさんは、オレが作ったラムコークを美味しそうに飲みだした。飲みすぎるんじゃ、と心配にはなったけど、明日は休みだというし、彼氏と完全に終わった日くらい、好きにさせてやりたいという気持ちの方が強かった。

「あ~美味しい。やっぱりラムはコーラで割るのが一番だな~」
「…確かに。スイスイ飲めそう」

さすが高級ラム酒というだけあって美味かった。しかもコーラで割るなんて美味いに決まってるし禁断の酒だと思う。
さり気なく度数を確認すると、普段飲んでる酎ハイなんかよりも数倍は高めだから、気をつけて飲まないとオレまで酔い潰れそうだ。

「は~アイツの物がなくなったら何かスッキリしちゃった」

室内を見渡しながらさんが笑う。言われてみれば、前に来た時に置いてあったメンズ物のアクセサリーの類や、小物が綺麗さっぱりなくなっている。
最初にここへ来た時に香っていたメンズのフレグランスも今はしない。代わりに女の子らしいアロマの匂いが鼻腔を刺激してくるから、少しだけドキドキしてきた。
オレがこうしてさんの部屋へ来ることは滅多にない。いつもさんの方から食事や酒を持ってオレの部屋を訪ねてくるからだ。
改めて室内を見渡せば、美容師らしいマネキンの首――ちょっと怖いけど――なども置いてあって、さんの部屋って感じがした。いつもあれでカットの練習をしてる姿が容易く想像出来て、ふと笑みが零れる。
そのうちオレも彼女の店でカットしてもらおうか、なんて思った。

「そう言えば、千冬くん、彼女はいないって前に話してたけど、どうして?作らない主義なの?」
「え?」
「ほら、いつも話してくれるのは昔の仲間のことや、動物の話題が多いし、そっち系の話はしないからどうなのかなって」
「あ~…いや…そう、だっけ…」

二杯目の酒を作っていると、予想外の質問をされてドキリとした。
ついでにソファに座っているさんと、床のラグの上に座ってるオレ。
そんなに距離もなく、視界の端にはさんの白い足がぱたぱたと悪戯に動いてる。昼間の恰好のままだから、ちょっと心臓と下半身には良くないシチュエーションだ。

「千冬くん優しいし女の子にモテるだろうから彼女いないの不思議なんだー」

ぐっと身を屈めて顔を覗き込んでくるさんと目が合い、また心臓が変な音を立てる。これまでだって何度かこんな感じで飲んだことあるのに、今日は彼女の部屋ってだけで変に意識をしてしまう。
きっとこの甘い匂いが良くない。これがさんの匂いだと記憶に刷り込まれてしまいそうだ。

「別に…モテないっすよ」
「えー嘘だー。彼女いたことはあるんでしょ?」
「それは…まあ…学生時代はいたこともあったけど…その頃は仲間優先にしてたからフラれてばっかだったし」
「え、そうなの?千冬くんって彼女には冷たいんだ」
「え?いや、そういうんじゃなくて――」

マズい。変な誤解をされても困る。
からかうように目を細めて睨んでくるさんに、慌てて首を振った。

「あの頃はオレもガキで…仲間とかバイクとか大事なもんが他に沢山ありすぎて余裕がなかったっつーか…だから当時の彼女には悪かったなとは思う…」

何かこうして改めて口にすると、オレってつくづくガキだったんだな、と苦笑した。あの頃は見た目がちょっとタイプな子ならすぐ好きになっちゃうような恋愛ばかりしてたっけ。そのくせ大事にしないんだからフラれて当たり前だ。
彼女一筋のタケミっちを横で見てたくせに、あの二人みたいな信頼関係を、歴代の彼女とは築けなかった。
今だって似たような理由でさんに惹かれたわけだし、あんま成長してねえのかなって情けなく思うけど、でも昔と違うのは、この気持ちがフラれたら次に行けばいいなんて、前のように思えないくらい大きくなってるってことだ。
もし今、さんにフラれたとしても、オレは簡単に諦めることなんて出来ないだろうし、それが分かるくらい彼女に惹かれてる。

「そっかぁ。でも昔のこと後悔してる今の千冬くんなら、今度こそ彼女を大事に出来るね、きっと」

そう言って笑いかけてくれる彼女の穏やかな笑顔が好きだ。汚い言葉を使わないとこも、それこそ髪を耳にかけるちょっとした仕草も。
今日初めて見た、動物に触れる時の優しい指先さえ。

「そう、すね。もし今、彼女が出来たらうんと大事にすると思う」

酔ってるせいか、そんな照れ臭い台詞も大真面目で言えてしまった。その"彼女"がさんなら、それこそ絶対に泣かせたりしないし、大切に出来る自信しかない。
さんはオレの言ったことに対して「千冬くんの彼女になる人が羨ましいなー」と笑った。
そこで「じゃあ…さんがなる?」と言えたら良かったのに、あいにくオレにはそこまで勇気がなかったようだ。喉まで出かかった言葉は断腸の思いで飲み込んでしまった。

「…さん…は?」
「え?私?」
「アイツの…どこが良くて好きだったのかと思って」

自分の気持ちを押し殺しつつ、ついそんな質問が口から零れ落ちた。いくら顔は良くても、そもそも偉そうな男だったし、何でさんみたいないい子があんなチャラそうな男に惹かれたのかが不思議だった。さんならもっといい奴がいたんじゃねえのと思ってしまう。
オレの不躾な質問に対し、さんは怒るでもなく「あー…そうだなぁ…」と苦笑いを浮かべている。

「私の地元は凄く田舎でね。大人になったら絶対に東京で仕事するんだーなんて思って、高校卒業してすぐ上京したの。それで前から憧れてた店で働き始めて、その頃は全ての夢が叶ったようなそんな気持ちだった。でも現実は全然違って、先輩からは叱られっぱなしの毎日だし、お客さんのシャンプー任されたあとも小さな失敗ばかりで…色々と自信を失いかけてた時に彼と会ったんだ。彼はシャンプーごときで緊張してる私に気づいて、何だかんだと話しかけて笑わせてくれたの。おかげで緊張も解れて、久しぶりにミスをしないで仕事が出来た。それからも何度か彼のシャンプー担当するようになって――」

私は田舎者だから都会慣れしてる彼が凄く大人に見えてたんだよね、とさんはどこか寂しげに微笑んだ。
そうか、あんな男でもいいところはあったんだな、と何となく複雑な気持ちになったけど、純粋なさんをそういった手口で落としただけのような気もするし、素直にいい奴だったんだな、とは言えなかった。
結局、最後は最低なことをしたんだから、やっぱりアイツはクソ野郎だとオレは思う。

「ごめん…何か思い出しちゃって」

不意にさんの瞳から涙が零れ落ちたのを見て焦った。あんなヤツのことなんて話題にする方が間違ってたかもしれない。

「いや、大丈夫?オレもごめん。変なこと訊いて」
「ううん、いいの。それより飲も。あ…千冬くん、明日は仕事だっけ」
「いや明日は店が休みだし大丈夫」
「え、そうなんだ」
「まあ、日曜とか意外と混むから比較的暇になる水曜休みにしてんだよ」
「そうなんだね。私と一日違いか~。惜しい」
「…惜しい?」
「だって同じ休みなら毎週一緒にお酒飲めるかなーなんて」
「毎週…」
「あ、ごめん。私にばっかり付き合わせちゃ迷惑だよね」
「……(ぜんっぜん迷惑じゃないっす!)」

心の底からそう叫びたかったけど、引かれそうで言えない。オレも好きな子相手だとこんなにヘタレるんか、と溜息が漏れた。これがイカツイ男相手なら余裕でグイグイいけんのに。
結局その後は二人でラム酒を一本空けるまで飲んでしまった。
あげく、下地が出来てたところへ強い酒を飲んだせいか、オレは途中で寝てしまったらしい。ふと目を覚ましたら深夜も過ぎた午前2時になるところだった。

「やべ…ごめん、さん…オレ、寝ちゃってた――」

と言いかけて言葉が途切れた。振り返るとソファでスヤスヤ眠っている彼女がいる。どうやらさんも酔っ払って寝てしまったようだ。

「ハァ…やべ…クラクラする…」

少し動いただけでグワンと頭が回ったけど、このままさんの部屋で二度寝するわけにもいかず、オレは水を一杯飲みながらどうしようかと考えた。

「ってか…無防備すぎだろ…」

テーブルに突っ伏しながら視線だけを動かすと、ソファで気持ち良さそうに眠る彼女の姿。薄く開いた艶やかな唇と、ミニスカートから覗く足に自然と目が向いてしまうのは愚かな男の性なのかもしれない。
…ってか悪い男なら絶対に襲ってるっての。
それだけ信頼されてるのかもしんねーけど、逆に男と意識されてない証拠のような気もして複雑なんだが。
一人悶々としながら、しばらくさんの寝顔を見ていた。でも置き時計の数字が2:30になり、ふと我に返る。

(そろそろ帰らねえとな…)

酔った頭でふと思う。ただ酒瓶やグラスなど散らかしたままで帰るのも気が引ける。

「仕方ねえ…片付けるか…」

フラつく足をどうにか立たせると、不意にこみ上げた煩悩を払拭するかの如く、黙々とグラスや皿をキッチンへ運んでは洗っていく。相変わらず視界はふわふわしてたけど、幸いなことに気持ち悪くはない。何とか全ての食器を洗い終え、空いた缶やら瓶はコンビニの袋にそれぞれまとめておいた。

「これでよし…。あとは…」

と再びソファへ視線を向けると、さんは未だに眠ったまま。彼女をこの状態にして帰るのも心配だった。
初夏とはいえ、朝方はまだ少し冷えるからだ。

さん…起きて。こんなとこで寝てたら風邪引くって」

どうにかソファまで歩いて行くと、彼女の肩を軽く揺さぶった。幸いにもそこまで爆睡してはいなかったらしく、さんは「うーん…分かった…」と応えてくれた。ただ反応は見せるものの、起き上がる様子はない。
寝室はリビングのすぐ隣にあるからオレがベッドまで運んでもいいけど、果たして勝手に抱き上げてもいいのかどうか、悩むところだ。
こういう場合、彼氏でもないオレはどうすれば正解なんだ?
やっぱ何もせず帰るのが無難か?と首を捻る。

(つってもソファに放って帰るのは嫌だし…)

あれこれ考えること数秒。やっぱり心配だと思ったオレは「ベッドに運ぶから」と一応声をかけてから、さんの体を抱き上げた。

「…軽…くはねぇな…」

酔って寝ている彼女は全身が脱力している。腕にかかる負荷は起きている時よりも大きいはずだ。でも運べない重さじゃない。元々彼女は小柄だし、酔っ払ったオレでもどうにかベッドまで運ぶことが出来た。

「…ふう…これで良し」

さんをベッドに寝かせて軽めの夏布団を肩までかけてやると、ホっと息を吐き出した。これなら体も冷えないはずだ。

「…オレも帰って寝るとするか」

そう独り言ちながらベッド脇にしゃがみ、最後にさんの寝顔を見つめる。彼女の寝顔を見るのは初めてで、寝てる顔も可愛いな、なんて自然に笑みが零れた。
元々可愛らしい顔立ちをしてるけど、寝てる姿は小さな女の子のようだ。やっぱ好きだなぁとシミジミ思う。顔だけじゃなく、もうさんの全てが可愛く見えるんだから重症かもしれない。

「あんなヤツ、早く忘れろよ…」

本人には言えなかったことを呟きつつ、彼女の額にかかった髪を指で避ける。
その瞬間――不意にさんの目が開き、至近距離で目が合ってしまった。

「……っ」

こんな近くで寝顔を見ていたことがバレて、オレは内心パニくった。思わず身を引いて「ごめん!オレ、帰るから――」と言いかける。でも、白い手がオレの頬へ伸びたと思った時、その言葉は発する前にさんの口内へと消えていった。唇に何か柔らかいものが押しつけられて、それがさんの唇だと認識するまで数秒かかったかもしれない。ただ気づいた時には彼女の項に手を回して、キスを返してしまっていた。脳が沸騰してんのかと思うくらい一気に体温が上がっていく。軽い眩暈もする。グラグラとした視界の中で、さんの切なそうな瞳と目が合った。

「ここにいて…千冬くん…」
「……さん…?」

至近距離で呟く彼女の甘えるような声が鼓膜を刺激するから、小さく喉が鳴ってしまった。彼女は「でいいよ…」と言いながら、もう一度オレの唇へ自分のそれを押し付けた。想像以上に柔らかい彼女の唇は、オレの残り少ない理性を簡単に破壊していく。
彼女の手に引かれるままベッドへ上がると、布団の中へと誘い込まれた。並んで横になり、向き合うこの状況に頭がついていかない。ただ一つハッキリしてるのは、混乱している頭とは裏腹に、男の欲が勝手に増幅していくことだけ。

「…ちょ…ダメっす…」

僅かな理性が働いたものの、キスをしながら悪戯に触れてくるさんにどうしようもなく欲情した。火照った彼女のおぼつかない手がパンツのジッパーを下ろし、中へ侵入してくる。そのまますっかり準備の整った場所へ触れられ、情けないくらいに体が反応した。口ではダメなんて言っておきながら、そこは何かを期待してしっかりと硬くなってるんだから、男ってやつはホントにしょーもない生き物だと思う。

「…ダメ…?」
「…っ」

その顏はズルい。そんな切なげに言われたら、これ以上触れられたら、我慢できる自信はない。
興奮と快楽の合間で必死に呼吸を整えようとしてる間も、さんの柔らかく小さな手にオレのモノが弄ばれて、どんどん硬さを増していく。
浅ましい、と頭の隅では思うのに、体は勝手に快楽へと溺れていくし、どうにも止められそうにない。
とろんとした目で見つめてくるさんは反則ってくらい、すげえ可愛いから。

(いや…さんは酔ってるだけだ…勘違いすんな、オレ!)

本能に押し潰されそうになりながら、頭の隅で自分を叱咤したものの、好きな子からこんな風に迫られたらオレの理性なんて簡単に消滅してしまったらしい。
何度目かのキスを交わしていると、ついにオレは彼女の体へ手を伸ばしてしまった。服の上からでも分かるさんの胸の柔らかさが、手から脳へと伝わって自分が興奮していくのを自覚した。少し乱暴にノースリーブシャツのボタンを外すと、可愛らしいデザインのブラジャーが視界に飛び込んでくる。外すのも煩わしいというように指で引っ掛けてから上へ引きあげれば、形のいい双丘が現れた。女の子の体を直に見るのは数年ぶりで、かつさんのだと思うと余計に興奮する。
そこへ吸い込まれるように口付けると、控えめながら甘い声がさんの口から洩れて、更に欲情したオレは、遠慮もなく主張し始めた小さな突起へ舌先を伸ばした。味わうように舌で転がすと、それはすぐにツンと上を向き始める。それが余計にオレの男の部分を刺激した。

「ん…千冬…くん…待っ…て」

彼女は体をくねらせながらオレの肩を押して、吐息交じりで呟いた。

「私がしてあげたいの…」
「え…」

何を?と問う間もない。彼女の姿が視界から消えて、オレの劣情を弄んでいた手の代わりに、そこは生暖かいものに包まれた。そのままさんの口内でぬるぬるとしごかれ、オレの卑しい部分が更に大きく、肉欲を募らせていく。情けないくらい切ない吐息ばかりが口から漏れ落ちた。
アルコールの匂いと、彼女の纏う甘い香りが記憶に刻まれていく。
さんの愛撫は丁寧でちょっとエッチだ。先っぽに吸い付いたり、裏側を舐めたり、頑張ってオレを気持ち良くしてくれようとしてる。そんな風に感じるような愛撫だった。さんがオレのを咥えてるってだけでも興奮するのに、プラス粘膜の擦れる厭らしい音が鼓膜を刺激して、これ以上されたらイってしまう、と焦るくらい気持ちがいい。酔いも重なって、ふわふわと夢心地のような気分だった。
ただ不意に奥まで咥えられた時、腰の辺りが一気に疼いてきた。

「ちょ…もうダメっす…これ以上されたらイっちゃうから…」
「…イっていいよ」
「…ぅっ」

咥えながら喋らないで欲しい。エロすぎる上に今はかすかな刺激でさえ、射精欲が高まってしまう。何せ、セックスをするのが数年ぶりなんだから当然だ。

「ん…千冬…くん?」
「…千冬でいい」

さっき彼女に言われたのと同じことを返しながら、さんの口から自身を引き抜いた。どうせイクなら彼女を抱きながらイキたい。小指の爪先くらい残っていた理性も、アルコールに溶けてしまったようで、この時のオレはさんを抱きたいという頭しかなかった。その後のことは野となれ山となれ。そんな心情だったかもしれない。

「抱きたい…つったらダメ…?」

腕を引っ張り、体勢を入れ替えてさんをベッドへ押し倒す。彼女は少し驚いた顔でオレを見上げてきた。
さんがどういうつもりで仕掛けてきたのかを考える余裕すらなくて、後で童貞かよと笑ってしまったほど、この時は彼女とセックスをすることしか考えられなかった。

「…千冬…したいの…?」
「うん…めちゃくちゃしたい…ダメ?」

哀願するように尋ねると、彼女は少し逡巡するように視線を彷徨わせた。酔っているせいか、とろんと気怠そうなその瞳さえ色っぽく見えてしまう。
さんの唇は薄暗い室内でも艶々としていて凄く美味しそうだ。その唇が薄っすら開き、「いいよ…」と小さく呟く。その言葉を合図にオレは完全に理性を手放した。
さっきから誘うように濡れている唇に口付け、中途半端に乱れていた服を脱がした後は、夢中で彼女の体を貪った。気づけばさんの手から小さな袋を手渡され、それがコンドームだと気づいた時、一瞬だけ元カレの顏が脳裏を過ぎったけど、そんなことはどうでも良くなるくらい、彼女とのセックスに溺れていった。

「気持ちいい…?」
「…ん…ぁっ」

さっきのお返しとばかりに体を下へずらし、彼女のショーツの上からそこへ舌を這わせた。さんは少し恥ずかしそうに体を捻ったけど、太腿を手で抑えつけて足を開かせる。

「は、恥ずかしいよ…」

そんな抗議の声も、ただオレを煽るだけだった。
クロッチ部分を脇へ寄せて、今度は直に舌を這わせると、そこはすでに濡れている。感じてくれてるんだと思うと余計に興奮した。

「…んんっ」

ねっとりと舐めながら、主張している芯を口へ含んで軽く吸うと、彼女の腰が分かりやすいくらいに跳ねた。
オレの愛撫に彼女は想像以上の反応をして、男の欲を十分に満たしてくれる。感じて喘ぐ姿があまりに可愛すぎて、オレの方がすぐ限界にきた。

「…ヤバい…もう挿れたいかも…」

早くさんのナカに入りたい。そんな思いが強すぎて、腰が疼いて仕方がなかった。
彼女が小さく頷いたのを見た時、オレのモノもいっそう硬さを増した気がした。

「んん…ぅ」

たっぷりと濡らした場所へ自身を押し込んでいくと、あまりの快感に身震いする。まだろくに動いてもないのに汗が噴き出してくるのが分かった。

「ハァ…やべ…」

さんのナカは蕩けるくらいに熱くて、吸い付いてくるのが気持ち良すぎる。夢中で腰を振りながら視線を下げると、さんもどこか切なげに眉間を寄せていた。それがどうしようもなく色っぽくてエロくて可愛い。
さんとセックスをしてるという事実に軽い眩暈さえ感じてしまう。

(マジで好き…)

そう心の中で何度思ったかしれない。それを口に出して言えれば良かったのに。
後で冷静になって考えた時、これじゃ体目当てと思われたって文句は言えねえなと、自分の浅はかさを嘆く羽目になった。


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