お互い忙しい合間を縫ってのイヴの夜、久しぶりに三ツ谷くんとデートをした。この日の為に彼が予約をしてくれたレストランで食事をして、お酒を少しだけ飲んだ後、二人きりになりたくて、早々に三ツ谷くんのマンションへ向かう。きっと彼も同じ気持ちだったんだろう。玄関の鍵をかけた瞬間、中へもつれあうように入ってから始まった、深く絡み合うようなキスがそれを物語っていた。そのまま互いの服を脱がしながら寝室まで行くと、待ちきれないとばかりにベッドに押し倒される。背中に柔らかいスプリングの感触を受けたのと同時に、三ツ谷くんのくちびるが離れて、その熱はわたしの首筋、鎖骨、胸元へと移っていった。
久しぶりに触れられて、わたしもどうしようもなく昂ってしまう。愛撫もそこそこに三ツ谷くんの劣情がすんなりとナカへ押し込まれたのは、すでに期待で体の準備が整っていた証拠のような気がして、自分でも凄く恥ずかしくなった。
「のナカ、すげー熱い…もしかしてとっくに濡れてた?」
「…ん…だ…って…」
わたしを貫きながら囁く三ツ谷くんは、昔と変わらない意地悪な笑みを浮かべている。髪型も色も変わったはずなのに、わたしの脳内に鮮明に映るのは、未だに出会った頃の三ツ谷くんだ。
不良で暴走族なのに手芸部の部長で。第一印象は"ちょっと変わった人"だった。
手触りのいい滑らかな頬へ触れてみると15歳の頃とさほど変わっていないようにも思えるけれど、あの頃は触れたこともなかったから変わったかどうかはよくわからない。
あの頃の三ツ谷くんは綺麗な銀の短髪に端正な顔立ちで目立つ存在だった。どちらかと言えば真面目な部類のわたしは、彼からすればただのクラスメートという認識しかないと思っていた。何度か話したこともあったと思う。でも他愛もない会話を三ツ谷くんがいちいち覚えているはずがないと思ってたし、部活も違うから接点はあまりなかった方だ。だから大学卒業間近の春、街中でカジュアルなスーツに身を包んだ彼に声をかけられた時は酷く驚いた。
――やっと会えたな。
三ツ谷くんは数年ぶりとは思えないほど、以前と変わらない口調でそんな言葉を口にした。それから食事に誘われて、わたしも浮かれ気分でOKしたのを覚えてる。その時に「ずっと好きだった」と告白された時は更に驚いた。そんな素振りをされたこともなく、全く気づかなかったと真っ赤になるわたしに、三ツ谷くんは「あの頃は言いにくかったんだよ」と苦笑した。真面目なわたしが、暴走族をやってる自分を好きになってくれるなんて思えなくて、とうとう言えないまま卒業になったんだと。だけどそのチームも解散して、今はデザイナーを目指してると教えてくれた。
あれから二年。わたしと三ツ谷くんは元クラスメートから恋人という関係に形を変えて、時間を見つけてはデートを重ねている。
「あ、そーだ…」
慌ただしく抱き合った後、互いの熱が冷めないうちに三ツ谷くんが体を起こした。どうしたんだろうと思っていると、彼は下だけ穿いてキッチンに向かったようだ。少しするとポンっという小気味いい音が聞こえてきた。どうやらシャンパンを抜いたようだ。少しすると琥珀色のしゅわしゅわした液体が入ったグラスを手に、ベッドの方へ戻ってきた。
「これ、が好きなやつ買っておいたんだ」
「え、嘘」
「さっき飲み足りなさそうだったろ」
三ツ谷くんは苦笑しながらグラスをわたしへ差し出した。確かにもう少し飲みたい気分ではあったけど、それ以上に三ツ谷くんと二人きりになりたくて「あとは家で飲もうよ」と言い出したのはわたしの方だ。
「わ、ありがとう…」
「メリークリスマス」
三ツ谷くんもベッドへ戻って、互いに裸のままグラスを合わせる。抱き合った後にシャンパンなんて、ちょっと大人空間で照れ臭い。
「ん…何か…入ってるよ」
美味しい、と思ったのもつかの間、くちびるに何かが当たってグラスを目の前へ翳す。寝室には月明りしかないから、あまり良く見えなかった。でもその月明かりがグラスを照らした時、キラリと光るものが視界に飛び込んで、思わず言葉を失う。
「え…これ…」
「ベタすぎ?」
わたしの反応に、三ツ谷くんが照れ臭そうに笑った。グラスの中で輝いてるのはクリスマスプレゼントにしては高価すぎる代物だ。
「ホントは店で渡すはずだったんだけど、が家で飲もうって言うから、じゃあ驚かせようかなと…」
「お、驚いた…」
ポカンとした顔で三ツ谷くんを見上げると、彼は「じゃあ大成功?」とわたしの手からグラスを奪っていく。それをベッドボードへ置くと、代わりに私の手を引き寄せた。
「オレはまだデザイナーって言っても駆け出しだから、忙しい時はあまりかまってやれないけど、でもが傍にいてくれたらオレは幸せだし、オマエのことも同じくらい幸せにできる自信はある」
「三ツ谷くん…」
「だから…オレと結婚して」
出会った頃は、こんなことになるなんて思っていなかった。元不良の三ツ谷くんと元優等生のわたし。あまりに嬉しくて言葉に出来なかった。だから代わりにわたしの方から短めのキスを送る。
「…?」
ちょっと驚いたように瞬きをする三ツ谷くんを見て、そろそろネタばらしをしてもいいかなと思った。
「わたしの初恋を実らせてくれてありがとう…」
その一言に、三ツ谷くんは「は?」と更に驚愕したような声を上げる。二年前、三ツ谷くんに告白された時は言うタイミングを逃して言えなかったわたしの本音だ。三ツ谷くんは一瞬ポカンとした顔をしてたけど、しばらくして「マジか」と苦笑いを浮かべた。でもその笑顔はどうしようもなく――。
「三ツ谷くん、幸せーって顔してる」
「そりゃ初恋が実ったんだから当たり前だろ」
そう言いながら、今度は彼の方からわたしのくちびるにキスを落とす。そして「オレの方こそありがとうだな」と笑った。
あの頃、わたしがこの想いを伝えられていたなら、三ツ谷くんはどんな反応をくれたんだろう。やっぱりこんな風に嬉しそうに笑ってくれたんだろうな。
そんな想像をしながら、もう一度、わたし達は甘いキスを交わした。