
02-カノジョの唇は甘い
※軽めの性的描写あり
人は衝撃的なことを見たり聞いたりすると本当に頭が真っ白になるんだと、この夜に春千夜は実感した。しっかり耳に入ったはずなのに、理解するまでには至らず、つい「今、なんつった?」と聞き返すというデリカシーのなさを発揮して、恥ずかしいのを我慢して真剣に申し出てくれたを真っ赤にさせてしまった。
「え、えっと…だ、だから、その…」
二度も言うのは恥ずかしいのか、がモジモジとしながら忙しなく視線を泳がせる。その顏を見てたら春千夜もふと我に返った。
「いや、わりい…うそ。ちゃんと聞こえたわ」
「え…」
「ただビックリしたっつーか…」
そう言いながら未だ肌を晒しているを見て、春千夜は自分のTシャツを彼女の頭から被せた。恥ずかしそうに胸元を隠す姿すら、今の春千夜にしてみれば目に毒というやつだ。それに今の衝撃的な言葉。どこまで本気なのかも分からず、春千夜も戸惑っていた。ガキじゃあるまいし、とは思う。彼女が言った行為も女にやらせたことはあるし、何も特別なことじゃない。ただ、アレをにしてもらうと考えただけで、すでに勃っている場所が更にぐぐっと勃ちあがるのだから、どんだけ欲求不満だよ、と自分でも飽きれた。でもそれもきっとに言われたからなのは自覚している。他の女ならともかく、好きな女の子から「お口でさせて」と言われたのだから当たり前の反応だ。
「え、えと…イヤ、ですか…?」
恐々といった様子でが訊いてくる。春千夜が戸惑っているのを見て不安になったのかもしれない。
「…イヤなわけねぇだろ。ってか、経験もねえオマエが言うから驚いただけだ」
「う、ご、ごめんなさい…」
「だから謝んな」
しゅんと項垂れる彼女を抱き寄せると、の顔を上げさせ、小さな唇にちゅっと軽めのキスを落とした。
「ってか…何でそんなこと言いだしたんだよ」
「え、だ、だって…怖いからって中断させちゃったし…」
「別にそれはいいっつったろ」
「よ、良くないです…。春千夜さんツラそうだし…」
「………それは、まあ…」
痛いところを突かれて春千夜も言葉に詰まる。あそこまでしてダメという状況は男にとって相当ツラい。本音を言えば今も抱きたくて腰が疼いてるくらいには切羽詰まっていた。が寝てから、こっそり自分で抜こうかと思うくらいには。ただ、処女の彼女にいきなり口でしてもらうのは順番が違うというか、本当にいいのかという気持ちの方が強い。そこでふと気になった。経験もないのに何でいきなり大胆なことを言いだしたんだ、と。
「つーか、まさか…」
「え…?」
「エッチはしたことねえけど、口ですんのは経験あんのかよ…」
勝手に嫌な想像をして一瞬で怒りのスイッチが入りそうになる。こんな初心な彼女にそんなことをさせた男がいるなら、今すぐ斬り殺しに行ってやろうか、と反社の男らしいことまで頭の隅に浮かんだ。しかしは慌てたように首を振った。
「し、したことはないです…もちろん。ただ…雑誌で読むような知識しかないというか…」
「……雑誌かよ」
紛らわしい、と内心ホっとしたのは、無駄なスクラップを増やさずに済むから、ではなく。可愛いが他の男にそんなエロいことをしてなくて良かった、という思いからだ。あまりに大胆なことを言うから焦ったものの、ふたを開けてみれば雑誌程度の知識でしかないという彼女が、たまらなく可愛く思う。
出来れば口だけじゃなく、彼女をめちゃくちゃに抱きたいところではある――。
「上手には出来ないと思うけど…そ、それでもいいなら…」
「………」
思わずごくりと喉が鳴ってしまった。本当はそんなことしなくていいと言いたいのに。上目遣いでそんなことを言われたら、再び春千夜の脳内がエロいことで染まっていく。
抱きしめてしまったのが仇になってるほど、彼女の体温や柔らかさを感じている体が、勝手にその気になってしまっている。
は再び春千夜を見上げて「ど、どうしたら…いいですか」と訊いてきた。春千夜の視線がつい、その濡れた小さな唇に釘付けになる。この小さな可愛い唇で自分のものをしごかれる想像をしたら、本当に、本当に下半身がヤバいことになった。
「ひゃ…な、何か当たって…」
「チッ…オマエが煽るからだろが…」
抱きしめているせいか、彼女の下腹辺りを刺激したらしい。春千夜は溜息交じりで言うと一度腕を放して、ベッドへ座り込んだ。そしての手を掴むと、自身のガチガチに勃っている場所へと誘導する。
「まずは触ってみろよ」
「え…」
「こうやって握って」
「ひゃ…」
彼女の手を自分の手で包んで誘導してから握りこませると、その硬さや大きさに驚いたのか、は「す、ごい硬い…」と呟いた。その言葉だけでイケそうなほど、興奮しているのが自分でも分かる。自分の手じゃなく、彼女に握られていると思うだけで、その場所がびくりと反応した。まだスエットの上からだというのに、勝手に上り詰めてしまいそうになる。
「…出来そうかよ」
「え…」
「無理そうなら別に――」
初めての行為で彼女の手が強張っていることに気づいた春千夜は、彼女の手を放そうとした。なのにはぎゅっと春千夜の屹立した場所を握り、その刺激で春千夜の腰がぴくりと反応する。
「い、いえ…出来ます…」
最後に止めるチャンスをやったというのに、意外と彼女の意志は強かった。
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「ん…ふ…ん、」
さっきよりも激しく春千夜の舌に口内を愛撫されながら、は握っているものを放さないよう、上下に必死で動かした。最初は服の上から触らされたものの、そのうち物足りなくなった春千夜に「直接して」と言われ、今は直にガチガチに硬くなった陰茎を握らされている。と言っても彼女の手の上から春千夜の手が重なり、誘導するように上下に動かすので、彼女がしているというよりは、彼女の手を使って春千夜が自分で扱いているといった状態だ。気持ちがいいのか、さっきから先走りの液が彼女の手の滑りを良くするように垂れてくる。はこの時、男の人も感じると濡れるのだと言うのを知った。上下に動かすたびぬちぬちと卑猥な音が響く。
「はぁ…やべぇ…気持ちよすぎ」
キスの合間に春千夜が切なげな溜息を吐く。色白の顏が上気してるその姿がやたらと色っぽく見えて、もまたドキドキして顔が赤くなった。普段のオレ様ではなく、春千夜が快楽を貪っている姿は年相応に見えてちょっと可愛いとさえ思う。そんなことを思う自分にも恥ずかしくなった。つい先日までは恋人もなく、またこうした行為からは最も遠いところで生きていただけに、初めての経験はにとっても全てが刺激的に感じるのだ。
「い、痛くないですか…?」
「…ん、気持ちいー」
薄っすら笑みを浮かべた春千夜は、空いてる方の手での頭を抱き寄せ、再び唇を塞ぐ。すぐに侵入してきた熱い舌が彼女の口内をねっとりと味わうように動いた。舌を絡みとられるたび、くちゅりと水音が立ち、恥ずかしさと気持ち良さでの全身が熱くなる。最初のキスよりも激しいのは春千夜も余裕がないくらい興奮しているせいだと分かる。春千夜が感じてくれてると思うだけで幸せな気持ちにもなり、そんな風に思う自分にも驚いた。もっと気持ち良くしてあげたいと思ったのは、人に喜んでもらいたい、という考えで仕事をしてきた彼女の本来の性分からきているのかもしれない。
長い長いキスを交わしながら春千夜は動かしていた手を止めると、最後に彼女の唇を軽く食みながらちゅっと音を立てて離れた。
「なあ…」
春千夜の少し切なそうな甘い声が耳元で聞こえて、どくんと鼓動が跳ねた。
「……クチでして」
「え…あ…は、はい…」
「…かわい」
頬にもちゅうっと口付けながら耳元で甘えるような低音が響き、くすぐったさで首を窄めた。同時に恥ずかしさで顏がカァァっと熱くなったものの、春千夜から求められてると思うと、不思議と気分が高揚としてくるせいだ。だから春千夜に促されるまま、足の間へ身を屈めた。
握っていた時も何となく分かっていたものの、最初に春千夜の屹立したものを見た時は、その大きさや形にかなり驚いた。初めて見た男性器は想像以上にエッチな形だと思う。勝手に頬が熱くなり、本当にここを口でしてあげられるのか、ちゃんと咥えられるのか、そんなことが心配になった。自分から言ったものの、頭の中で想像するのと実際に見てするのとでは大きな差があることを知ったからだ。
なのに、やめようと思わなかったのは、やっぱりさっき感じたことが原因だ。
春千夜を気持ちよくさせてあげたい。これに尽きる。よって、は恥ずかしさを我慢して、春千夜のそれに口を近づけた。彼女の小さく仔猫のような舌が、ガチガチに勃起してとろとろと先走りを零している陰茎の先端をちろっと舐めると、春千夜の腰がびくりと反応する。
「ん…っ」
はそのまま先端をちゅぷっと口に含み、さっきの要領で幹の部分を手で包む。ちゅうっと濡れた先っぽを吸い、手も同時にゆっくりと動かすと、春千夜の吐く切なげな吐息が彼女の鼓膜を刺激した。春千夜のそこはかすかにエッチな匂いがする。それが余計にの気持ちを昂らせた。性的な経験はなくても、好きな男が自分に興奮し、ここを硬くさせ、そのうえ、こんなに感じてくれている事実が嬉しかった。もっとしてあげたいという思いがこみ上げ、自分がこんな大胆でエッチになれることにやっぱり驚いた。
春千夜からすれば、彼女のそれは不慣れすぎる動きで、快楽というよりはくすぐったさの方が強い。なのに信じられないほど彼女からの奉仕は気持ちが良かった。扱かれるたび、ちゅぷちゅぷと厭らしい音をさせるたび、腰の奥にどろどろしたものが溜まっていく感覚。自然に息が荒くなり、やたらと腰を動かしたくなる。
「ハァ…やば…気持ち良すぎ…」
吐息交じりで呟いた春千代は、足の間に屈んでいる彼女の髪を優しく撫でた。初めて好きになった子が自分のものを必死に咥えてる姿は何物にも代えがたい。と思うくらいにエロいし、またとんでもなく可愛い。こんな行為は慣れてたはずなのに、これまでされたものより何百倍も幸せを感じる快楽は、それをしてくれてるのが好きな子だからだ。しかも彼女はこういった行為が初めてなのだから、それを自分にしてくれているという事実にくるものがあるし、ヤバい、マズい、という言葉が沸騰した脳内の片隅で繰り返される。
彼女の苦しそうに寄せる眉根や、たどたどしい動きを繰り返す舌と唇。ビジュアル的に全てがエロくて、また可愛いと思う。気を緩めると今すぐ達してしまいそうなるのを耐えながらの口内を堪能し、享楽にふける。その時、が一度口を離して息を吸ってから春千夜の陰茎をぱくりと深く咥え直した。要領が分かってきたのか、唇に力を入れてにちゅにちゅと扱きだす。それが想像以上に気持ち良く、春千夜の射精欲を一気に爆上げしてきた。根元を扱かれ、強く扱かれた瞬間、咥えられている場所がどくんを波打ち、春千夜は「…っ」と慌てて彼女を自分から引きはがした。そのあとで近くにあったタオルを掴み、勢いよく吐精する。男にとっては全身がぶるりと震えるくらい気持ちがいい瞬間だ。だが春千夜は自身の快感より、ギリギリ間に合ったことの方が大事だった。
「っぶねえ…」
もう少しで彼女の口へ出してしまうところだった、と春千夜は安堵の息を漏らした。急に離されたはきょとん、とした表情で見上げてきたが、その顏は全く分かってない様子だ。春千夜は内心苦笑すると事後の後始末をしてから、恥ずかしそうにしている彼女を抱き寄せた。
「…大丈夫かよ?」
行為の後、こんな風に相手を気遣うのは初めてで春千夜もどこか照れ臭い。そもそものような何も知らない子にあんな行為をさせてしまったという変な罪悪感まで覚えたのは、出したことで少し頭が冷静になってきたからだ。
なのにはまだ何も分かっていない様子で春千夜の情緒を揺さぶってきた。
「は…はい…あの…上手くできなくて…ご、ごめんなさい…」
「バカか…すげえ気持ち良かったっつーの」
「え…でも…途中で止めたから気持ち良くなかったのかなって…」
小さな声で呟くはしゅんとしたように目を伏せている。気持ち良くなかったらイクはずもないのに、その辺は分かっていないらしい。大胆なくせに、まだまだ初心な一面もあり、そのギャップが春千夜の目には可愛く映る。
「あれはオマエの口に出さねえように…ってか、変なこと言わせんじゃねえ」
「えっあ…そんなの気にしなくていいのに…」
「……は?」
あまりに普通に言われて、春千夜の方がドキッとした。そりゃ男としては飲み込んでくれた方が興奮するし、処理も楽ではあるが、さすがに惚れた女にそれはさせられない。
「ってか嫌だろ、そんなのはオマエも」
「え、だってそれは飲み込むのがマナーだって雑誌に――」
「って、いったいどんなエロい雑誌読んでんだ、テメェは!」
当然のような顔で言われ、春千夜の方が赤くなってしまう。そんな男目線で書いたような記事を真に受けている彼女のことが、とてつもなく心配になってきた。仕事をしてる時はしっかりしてる方なのに――春千夜のことを叱るくらいには――男女間のこういうことには疎いせいか、誰が書いたのかも分からないような記事をバイブルなみに信用してしまうのだから困ってしまう。
「え…と、お姉ちゃんが愛読してる女性誌に…」
「はぁ…あの姉貴か。つーか、もう読むな、それ」
「えっ。でも下手のままじゃ春千夜さんが気持ち良くないんじゃ――」
「別にそういうの読んだからって上手くはなんねえだろ。ってか別に下手っつーほど下手でもなかったし」
「ほ、ほんと?」
春千夜の言葉にパっと顔を上げたは、その顏に喜色を浮かべている。下手じゃないと言ってもらえたことが嬉しいらしい。変な女だな、と苦笑しつつも、その素直すぎるところも可愛くて仕方がない。
「ああ…ってか、、才能あんじゃねえの。覚えんのはえぇし」
汗ばんだ額にちゅっと口付け、からかうつもりで言ったのだが、やはりはどこか嬉しそうな顔を見せた。
「じゃあ、もっと練習して上手になるよう頑張ります」
「……って、オマエ、それどこで練習する気だよっ」
にこにこしながら、とんでもない発言をした彼女に、春千夜がぎょっとしたのは言うまでもなく。そういうテクよりも、早くエッチへの恐怖心を克服して欲しいとシミジミ思わされた夜だった。