05-全てを捧ぐ




――オマエに触れられることに慣れさせろ。触れられたら気持ちいいってことを体に覚えさせんだよ。

に口づけていると、蘭から言われた言葉が脳裏に過ぎる。と言って、これまでも別ににだけさせてたわけじゃない。それなりに春千夜も彼女へ触れてはいたし、濡れるくらいに体への愛撫も一通りはしてきた。本人は気づいていないが、かなり感度がいい方で、春千夜が施す愛撫に感じてくれてるのは分かる。恥ずかしそうにはするものの、特にその辺は怖がったりもしない。二人はただ、一線を越えてないだけの話だ。
結局、先に進めようとするとが不安そうな顔をするので、春千夜が気持ちを察し、途中で行為を中断することが殆どであり、そのあとはが春千夜をイカせようとしてくれる。そんな流れが出来つつあるのも良くないなとは感じていたが、どうしても彼女を怖がらせたら、と思うと手が出せなかった。
でも今夜、蘭に言われたことを実践してみようという気持ちになったのは、春千夜も限界がきていたからだ。蘭の言う通りにするのは癪なれど、これ以上我慢するのは体にも良くない(!)

「…ん、は、春千夜さ…」

彼女の首筋にもキスを落としながら、ルームウエアの上に羽織っている薄手のガウンをゆっくり開いていくと、は恥ずかしそうに瞳を揺らす。しかし嫌がってるようにも怖がってるようにも見えない。念のため「イヤか…?」と訊いてはみたが、が小さく首を振るので、春千夜は内心ホっとしつつ、彼女の肌へ優しく口付けた。

一方、の方も限界に近い感覚があった。ここ最近、春千夜に触れられると体のあちこちが疼くようになったせいだ。
これまでの行為で春千夜に何度かイカされたことはあるのだが、スッキリした感覚があったのは最初のうちだけで、最近は達したあとも変に体が火照るようになった。体の中、特に下腹の奥がじんじんと疼いてどうしようもなくなる。何故そんな風に感じるのか分からず、一人悶々とすることも増えて、遂に今日は姉の砂羽にその感覚のことを話したみた。すると砂羽は苦笑しながらも、あっさりと。

――ああ、それは…の体が欲しがってるんじゃない?三途さんを。

初心なからすれば、まさに目から鱗。そもそも女の自分にそういった欲が出るとは思ってもいなかっただけに、砂羽から女でもそういう欲求はあると教えられて心底驚いた。

――アンタも怖がってないで、そろそろ覚悟決めたら?惚れた女と暮らしてるのに、抱けない三途さんが可哀そうだし、ちゃんと自分の本心は言葉にしないと伝わらないからね。

砂羽にそう言われたものの、とてその辺のことはだいたい理解している。いい大人なのに、怖いという理由で春千夜に我慢させていることも。
そう、わたしもそろそろ覚悟を決めなきゃ――。

「…ん、ぁっ」

キャミソールの上から胸を揉みしだかれ、すでに上を向いている場所を指先で軽く撫でられただけで、びくんと肩が跳ねた。同時に春千夜の手がルームウエアの裾を捲って脚を撫でてくる。ただ、いつもよりも触れ方がソフトで、どことなく焦らされてるようなもどかしさを感じて、そんな自分にも驚いてしまった。
もっと春千夜に触れて欲しいとさえ思う。

「…怖いか?」

太腿をすり、と撫でられ、びくんと腰を揺らしたせいか、春千夜が耳元で問いかけてくる。はすぐに首を振って「へ、平気…です」とどうにか応えると、「春千夜さんに触れて欲しい…」と今、切実に感じていることを口にした。その恥ずかしさで顔が熱くなったのだが、本心を言わなければ何も伝わらないと砂羽に言われたことを思い出したのだ。
の言葉を聞いた春千夜は、少し驚いたような顔で彼女を見下ろしたが、すぐに眉間を寄せると、大きな瞳を半分まで細めたようだった。

「…んなこと言われたら…マジで触るけど…いいのかよ」
「は、はい…」
「…って、ちょっとビビってんじゃねえか。怖いなら煽るようなこと言うな――」
「だ、大丈夫です…っあの…今夜は…えっと…」

最後までして欲しい、とはさすがに口に出せずにいると、春千夜は「まずは触られることに慣れろ」と言って、ショーツのクロッチ部分へ手を滑らせた。下着の上からするん、と撫でられ、そこからぴりついた軽い刺激が広がっていく。
そこに触られるのは初めてじゃないが、何度触れられても恥ずかしさは残るので、は春千夜の胸元に顔を押し付けて、こくんと小さく頷いてみせた。その行動に春千夜の方がどきっとさせられたらしい。小さく息を吐く音が聞こえてきた。

「…オマエ、マジで煽りの天才だな…人がゆっくり進めようとしてんのに」
「え、ご、ごめんなさ…ひゃ」

春千夜の手がショーツの中へ滑り込んで、直にその場所を撫でられた。まだ何もされてないはずなのに、そこはしっかり潤いがあるようで、春千夜の指の滑りを良くしているようだった。

「…もうこんなに濡れてる」
「え…や…ンっ」

春千夜はそのまま表面をなぞり、愛液を指で掬った。指が動くたび、くちゅくちゅと卑猥な音がしてくる。それが恥ずかしいのに、体のもっと奥の方から何かを欲してるみたいでむず痒い気がした。だからといって、どうされたいかなど明確なものは分からない。
内腿を擦り寄せて、このもどかしさを解消したいのだが、春千夜の腕があるのでそれも出来なかった。

「…んんっ…ぁ…あ」
「…脱がすぞ」

が快感を拾っている間、春千夜はショーツをゆっくりと下ろしていくと、彼女の足から抜き去った。これでルームウエアは着ていても下着は一切付けてない状態。はほんの少し心細くなった。その間も春千夜の指がの濡れた媚肉を開いて形をなぞり始め、その刺激にびくびくと腰が揺れてしまう。

「あ…あ…ンっ」

次第に息が荒くなってくる。はぁ、はぁ、と短い呼吸を繰り返しながら、指の動きを感じ取るのが精一杯だ。春千夜が言うように、たっぷりと蜜が溢れてきたその場所は、春千夜の動きに合わせてぬちゅぬちゅと卑猥な音をさせている。は快感で身を震わせながらも、羞恥心からか、無意識に腰を引きかけた。でもすぐに春千夜の手で引き戻されてしまう。

「…逃げんな」
「う…ご、ごめんなさ…んっ」

春千夜に唇を塞がれ、の言葉ごと飲み込まれた。ちゅっと甘い音を立てながら、何度も触れ合う。そのうち隙間から春千夜の舌が侵入してきて、すぐにのと絡み合った。淫らなキスをされながら、その間も濡れた場所を指で弄られ、高揚して全身が火照っていく。

「…は、春千夜…さ…」
「ん?気持ちいい?」

唇が離れた瞬間、つい春千夜の名を呼んでしまったのは、体に蔓延るもどかしさをどうにかして欲しいという想いからだったのかもしれない。その内、胸元までキャミソールを捲られ、下着のつけていない乳房を春千夜の目に晒された。その中心、すっかり硬くなった場所へ吸い付かれ、は一際高く声を跳ねさせる。

「…ぁあ…っひゃ…んっ」

小さな突起を柔らかい唇で食んだあと、温かい舌で擦るように舐め上げられると、ぶわっと甘い感覚が一気に広がっていく。言葉にならない快感が押し寄せ、はたまらず甘い声を上げた。

「…んあ…ぁっ」

春千夜が刺激を与えるたび、そこはいっそうツンと立ち上がって硬くなっていく。そうなると春千夜も興奮するようで、より長くぢゅるぢゅると音を立てて舐められた。
さっきから喘がされてばかりで泣きそうになる。なのに強烈な快楽が次々に襲ってくるせいでどうすることもできない。
春千夜に初めて触れられた時よりも、今日までの多少の経験がから恐怖心を取り除いていくように、今はもっと春千夜に触れられたいとしか感じなくなっていた。

「…んぁ…ひゃぁ…」

無力のまま喘がされてる間に春千夜は体を移動させたらしい。の体を組み敷いて腿を大きく開かせた。

「…や…ぁ、は、恥ずかし…」
「恥ずかしがってるが見てえんだよ」

春千夜は意地悪く笑うと、濡れてとろとろになっている場所へ顔を埋めていく。それは前にもされたことはあれど、は未だに慣れず死ぬほど恥ずかしいものだった。なのにちゅぷっと泥濘に口付けられた瞬間、大きな快感がそこから生まれて広がっていく。

「…ぁあ…んんっあ…や…ぁ、は、はる…ちよ、さ…んっああっ」

ぢゅるっと音を立てて蜜を啜られるのは恥ずかしいはずなのに、次々に襲ってくる快感に力を奪われ、拒むことも出来ない。腰が痙攣したみたいにびくびくと何度も跳ねてしまう。前にされた時よりも没頭してるのか、春千夜の愛撫はを本気で感じさせようとじっくり優しく攻め立ててくる。そのせいか、溺れてしまいそうなほどの快楽の波が押し寄せてきた。

「…んあ…ぁだ、だめ…ぇ…ぁん…ん、」

息が切れて、涙が溢れて、嬌声がとめどなく漏れてしまう。だめだと言っても止めてもらえず、はただ喘いで体を跳ねさせることしか出来ない。すでにセックスへの恐怖は熱で溶けてしまったかのように、今はひたすら春千夜から齎される快感に身を震わせていた。
このままじゃ変になりそう――。
上手く回らない頭でふと思う。これ以上、体が熱くなってしまったらおかしくなるんじゃないかと心配になる。頭の中が沸騰したみたいに熱くて、ぼうっとするせいだ。
このまま…抱かれたい。
初めてそう思いながら与えらえる快楽に溺れていると、そっと唇が離された。

「…可愛い、

少しの休憩の合間に言われたその言葉に腰が砕ける。どんなに恥ずかしいくらい乱れても、全部ひっくるめて可愛いと言ってもらえる安心感で、羞恥心も和らいでいく。

「いっぱい解してやるよ」
「…ひゃぅ…」

ぐずぐずの場所を舐められているうち、ぷっくりとした敏感な場所を口へ含まれ、舌で転がされる。そのたび強い快感が脳天まで突き抜けていった。

「ん、あ…やぁ、そ、そこ…だめ…っ」

そこばかり舌先で弄られ、そのたび蜜が奥から溢れてきた。遂には膣口にゆっくり指を挿入されていく。

「んん、」
「…、力抜け」
「…は…はぃ…」

前はここで怖くなって断念した。でも今は疼いてる場所を刺激され、じりじりと焼け付くような気持ち良さを感じる。たっぷり濡らされたせいか痛みなど殆ど感じない。
ずくずくに濡れているその場所は触れられると厭らしい音がする。唾液と愛液で混ざりあったぬかるんだ場所へ指を前回以上に奥へ入れられても全く痛みは感じなかった。体内に埋められていく異物感が怖かったはずなのに、今は春千夜の指が自分のナカにあるという恥ずかしい状況に、むしろ快感が増していく。そんな自分に驚いてしまった。
自分はこんなにエッチな女だったの?と信じられない思いがこみ上げる。

「痛くねえ?」
「…ん…だ、大丈夫…です…」

が何とか応えると、春千夜は安堵の息を漏らしたようだった。今日まで自分を気遣って無理強いをしてこなかったことは、も気づいている。そんな春千夜をもっと好きになって、今はその想いがさらに強くなっていた。

「すげえ濡れてっから…ゆっくりいけば…ほら…全部入った」
「…え…」

春千夜の骨ばった指が根元まで埋まった気がした。さすがに奥までくると、前回のような異物感はあれど、今はもう怖くはない。むしろのそこはこれを待ち望んでたかのようにひくついて、春千夜の指をぎゅうっと締め付けていた。

「…えろ。オレの指喰いちぎる気かよ」
「えっ、や…ご、ごめんなさ…」

体を起こした春千夜にちゅっと口づけられ、皮肉めいた笑みを向けられると、は恥ずかしさで耳まで真っ赤に染まる。

「んなことで謝んなよ。可愛いって意味」
「……っ」
「あ…また締め付ける…オマエ、可愛すぎ」

可愛い、と言われたことでナカまで反応したせいか、春千夜が高揚した顔を僅かに緩ませた。その表情さえ扇情的で、の心臓が大きな音を立てる。もう春千夜が好きでどうしようもない。

「動かすけど…痛くねえ?」
「…は…はぃ…ン、ぁ」

再び体を下げ、ゆっくりと中を解すように抜き差し始めた春千夜が、の太腿にも口付けた。その優しい愛撫にの官能が一気に引きずり出されてしまう。ゆっくりと動かされるたび気持ち良く、その上、今ではぱんぱんに膨れたクリトリスを舐められれば、更に蜜が垂れていく気がした。

「…あぁっ…んぁ…もお、だ、だめ…」

春千夜の指や舌で愛撫されるたび、耳を塞ぎたくなるような音が鳴り響く。シーツを汚してしまいそうなほど足の付け根が濡れている感覚があった。
春千夜は指の腹で内壁を優しく撫でてくる。優しい動きではあれど、丁寧に、執拗に、じっくりと。そのおかげか、だいぶ隘路が指に馴染んできた感じだ。
その時、春千夜の指がナカで曲げられ、腹の裏辺りに当たった瞬間、体がびくんと跳ねてしまった。

「ここ、気持ちいいかよ?」
「…あぁあっ…んん」

ザラザラした内壁を春千夜が指の腹で何度もぬぷぬぷと擦り上げると、これまで以上に強い刺激がを襲う。びりびりとした甘い電流が擦られている場所から一気に噴き出す感覚だった。

「んん…だ、だめ、そこ…変に…なっちゃ…」
「ん。もう少しだから」

もう少しって?何が?と思ったのもつかの間、再びナカで指を曲げた春千夜は内側のいいところを刺激してくる。そのたびは背中を弓なりに反らして身悶えた。そして一気に高みまで押し上げられる。声すら出なくなり、ひたすら荒い呼吸を繰り返すことしか出来ない。
何だったの、今のは。意識が遠くなりそうな中では初めての感覚に驚いていた。しかし未だに指は埋められたままで、痙攣してひくつく場所を楽しんでるように見えた。

「…ちゃんと中イキ出来たな」
「…へ…?」

重たくなる瞼を押し上げて視線を上げれば、春千夜の大きな瞳と目が合う。熱に揺れた瞳には男の欲が孕んでいて、の鼓動が僅かに跳ねた。

「…痛くなかった?」
「…だ、大丈夫…」

こくん、と頷くを見た春千夜はホっとすると同時に、自分の欲望をつい口にしていた。惚れた女の官能的な姿を見せつけられ、我慢もとうに限界を超えている。

「なら…今夜は最後まで抱きたい」

いつになく真剣にを見つめれば、彼女の瞳が切なげに揺れる。そこには今までのような不安感は見られなかった。

「…だ、抱いて欲しい…です」

未だ、はふはふと苦しげな呼吸を繰り返しながらも応えるを見て、春千夜の喉がごくりと鳴る。初めて惚れた女の子を前に、かつてないほど焦らされていた体は、今すぐと繋がりたいというようにガチガチに昂っていた。
しかし、ここでがっついては元の木阿弥。を怖がらせないよう「ほんとに…オレでいいのかよ」と最終確認をする。その問いには頷くと「春千夜さんがいい」と小さくはにかみながら応えた。春千夜の顏が一瞬で破顔した瞬間だ。

「…なるべく優しくすっから」

彼女の唇にちゅっと口づけ、甘い視線を向けられたは、すでに幸せすぎて心が満たされていた。
こんなにも眉目秀麗な春千夜に抱きたいと懇願され、承諾すれば破顏して喜ばれる。こんなにときめくシチュエーションなんて、の人生にあっただろうか。うん、なかった!と声を大にして言えてしまうくらい、恋愛に対して後ろ向きだった。自分の過去を思えば前なら空しくなっただろうが、今は違う。現実の幸せが目の前にある。
の気が変わらないうちに、と思ったのか、春千夜がいつになく早めに下準備を進めたようで、気が付いた時には体勢を整え、の膣口に硬いモノが宛がわれていた。

…軽く息はいて」
「…は、はい」

緊張しながらも春千夜の体にしがみつく。細身なわりに筋肉質な体に包まれると、いっそうドキドキが加速していった。

「…挿れるぞ」

耳元で囁かれる。春千夜の低音で紡がれる言葉の破壊力が凄すぎた。その声だけでじゅん、と体が熱くなり、また蜜が溢れてくるのが分かった。そのおかげか、春千夜が腰を押し進めても苦しさはあれど、痛みは本当に全く感じなかった。

「…んんっ」
「…く…せま…もう少し力抜けるか?」

苦しげな吐息を漏らす春千夜に、こくこくと頷き、出来る限り体の力を抜いて行く。そうすることで春千夜の陰茎がゆっくりゆっくりと入ってきた。じわじわと質量が増していき、最後は一気に押し込まれてしまった。

「ひ…ぅっ」
「…わりい。痛くねえ?」
「…へ、平気…お腹…く、苦しいけど…」
「…っバカ、煽んな」

他意のないの素直な言葉に、春千夜の頬がかすかに赤くなる。煽ったつもりのないはきょとん、とした顔で瞬きを繰り返しながら春千夜を見上げた。その顏が可愛くて、春千夜も切なげに息を吐く。油断したら速攻でイってしまいそうだった。それくらい好きな女を抱いている、というこの状況が幸せすぎた。

「は…やべぇ…マジでイキそう」
「…え?」
「オマエが可愛すぎんだよ、バーカ…」
「…っ!」
「くっ…これ以上締め付けんなっ」

可愛いと言われて真っ赤になった瞬間、と繋がってる場所がぎゅうぅと締り、春千夜は本気でイきそうになったらしい。真っ赤になっている。ただにはよく分かってないので、怒るだけ無駄なのは春千夜も分かっている。

「ご…ごめんなさい…春千夜さん…」
「ったく…こんな時にまで謝んのかよ…」

苦笑気味に言いながらの体を抱きしめると「でも良かった、痛くなくて…」と呟く。再びの肌がぶわっと粟立った。好きすぎてツラい。
そのまま強引に唇を塞がれ、春千夜からのキスが止まらない。息をする間も惜しむくらいに口付けられ、酸欠でクラクラしてきた頃、春千夜がゆっくりと腰を動かし始めた。

「は…やば…気持ち良すぎ…」
「ん、ぁあっ」
「動いてても…痛くねえ?」
「…い、痛くな…んんっあ」
「………(かわい)」

腰をゆるゆる動かすだけで頬を染め、悩ましげに喘ぐは想像以上に可愛い、と春千夜は一瞬だけ動きを止めた。本気を出して動けば速攻でイける自信しかない。やっと繋がれたというのにあっという間に終わるのだけは嫌だった。

「は…春千夜…さ…ん?」
「…クソ可愛い」
「……っ!」

春千夜がの頭を撫でて、じっと見つめながら、再び腰を動かし始める。その色っぽい眼差しに見つめられると、の方も繋がってる部分から強い快感が全身に広がっていった。じんじんとする場所を優しく突かれるたび、びりっとした電流が流れだしていく。内側に春千夜のものが擦れて、快感が大きくなった。

「んぁ…あっは、はる…ちよさ…ぁっ」
「…ん?気持ちいいって?」

春千夜が腰を動かすたび、繋がった場所からはぬちゅ、くちゅ、と淫靡な音を奏でる。それを耳が拾うたび、更に欲が昂って腰が止まらない。

「あー…やば…気持ち良すぎて…バカんなる…何だ、これ…」
「…ぁ…ま、待っ…んんっあ」
「これ以上待てるか、バカ…どんだけ我慢したと思ってんだよ…」

ぐっとの太腿を持ち上げ、より深く繋がる為に腰を押し付けると、子宮口を刺激したのか、彼女が喉を反らせて嬌声を上げる。一瞬痛かったか?と心配したものの、どうやら逆らしい。がとろんとした瞳で見上げてくる。その表情すら可愛くて、春千夜の胸の奥深くがぎゅうっと苦しげな音を立てた。心と身体が比例して、より快感が強くなっていく。
これまでしてきたセックスなんか、ただの作業的なもので、ここまでの快感など得られたことはなく。春千夜は本能のままに腰の動きを速めていく。

「…んぁ…あぅ」

何度も抽送され、執拗に奥のいいところを突かれると、子宮が悦楽に支配されていく。速度が増すにつれ、春千夜の陰茎も更に硬さを増していく気がした。
ガチガチになった屹立でナカを擦り上げられると、次第にも朦朧としてくる。

「あー…もう無理…出る…っ」

春千夜の動きがいっそう激しくなっていく。最後の快楽を貪るような、本能剥き出しの執拗な動きは甘い拷問のようだった。
もうおかしくなりそう、と思った時、春千夜が「……っ」と彼女の名前を呼んだ。その切なげな声を聞いたら何も考えられなくなる。喘ぎ声さえ、すでに出ない。
体が一気に押し上げられて、頭が真っ白になった。
春千夜は最後の最後までの体を強く抱きしめ、密着しながら果てたようだった。


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「…ああ、分かった。もうスクラップにしていい。組織ごと奴らも解体しとけ」

かすかに意識が戻ってきた時、の耳に春千夜の話し声が聞こえてきて、ゆっくりと重たい瞼を押し上げる。視線を彷徨わせれば、そこは春千夜の寝室。一瞬、今が朝なのか夜なのかも分からず、はぼやぼやした目を擦りながら、春千夜の姿を探した。するとぼやけた視界に春千夜の背中を捉える。
春千夜はに背を向けたままベッドへ座り、誰かと電話で話してるようだった。
仕事の電話なら邪魔しちゃいけない。はゆっくりと上体を起こしながらも、未だしょぼつく目を擦った。酷く体がだるい。なのに心地いい感覚があった。

「え…」

何となく肌寒いと思った時、そこで自分は何も身に着けてないことに気づく。見れば春千夜も上半身は裸のまま。それを見た時、先ほどの行為を思い出し、頬が一気に熱くなった。
そうだ、わたし遂に春千夜さんと…と思うだけで、心臓に負担がかかるほどばくばくと早鐘を打ち出す。あんなに怖いと思っていた行為が、いつの間にか自分の方から求めてしまいたくなるほどの快感を齎してくれたことまでハッキリ思い出した。

「…起きたのか」
「あ…」

そこで電話を終えた春千夜が振り向く。はっと我に返ったは慌てて端っこに寄っていた毛布を引っ張ると急いで体を包んだ。その素早さに呆気にとられた春千夜は、きょとん、としたあとで小さく吹き出した。さっきまでは散々見せてくれたくせに、と言いたげだ。

「…んな必死に隠さなくてもいいだろが」
「え、だ、だって…」
「まあ…かわいーからいいけど」

春千夜は毛布ごとを抱きしめると、真っ赤になっている頬にちゅっと口付けた。たったそれだけで彼女の体がびくん、と跳ねる。理性が戻った途端、普段の照れ屋まで復活したらしい。

「体、大丈夫かよ」
「は…はい…」
「どこも痛くねえの?」
「え…っと…」

ぎゅうっと抱きしめられながら、至近距離で顔を覗き込まれ、は恥ずかしそうに俯く。春千夜の眼差しがやたらと甘いせいで直視できなかった。
今までも優しかったのだが、今は体の関係を持ったあとの独特の空気が流れてる気がするので余計に恥ずかしいのだ。

「ちょ、ちょっと腰とか…あ、あの…あそこに…鈍痛が…あるくらい…です」
「マジ…?大丈夫かよ…?」

春千夜が慌てたように毛布の上からの腹の辺りを擦る。

「悪い…最後オレ、理性ぶっ飛んでがっついちまったろ」
「…そっ…んなことは…な、ない…です…」
「……??…っつーか何でこっち見ねえの…?」

春千夜が顔を覗き込もうとすればするほど、は顔を反らしていく。このままいけばエクソシストも真っ青なほど首が回ってしまいそうな勢いだ。

「え、えっと…ご、ごめんなさい…」
「別に謝って欲しいわけじゃねぇよ。オレはの顏が見てーんだけど…」
「………っ」
「…耳まで真っ赤になるほど恥ずかしいのかよ」

笑いを噛み殺しつつ、春千夜はの顎を掴んでぐいっと強制的に自分の方へ向ける。そうしないといつまで経っても顔を見せてくれなさそうだからだ。
案の定、は春千夜と目が合うと、ぶわっと顔を赤くして何故か体を放そうとした。だが毛布ごと抱きかかえられ、逃げるに逃げられない。

「わ、わたし、シャ、シャワーに…」
「んなのオレと一緒に入ればいいじゃん」
「…えっ!い、いえ、そこは一人で入りたいというか…」
「あ?何でだよ。今更だろ」
「ち、違いますよ…そんなの…エッチしたからって、そんないきなり一緒にお風呂とか…」
「何ごにょごにょ言ってんだよ…ミノムシの分際で」
「う…」

毛布ごと春千夜の腕に絡みとられてるため、確かにミノムシみたいな状態で、は別の意味で恥ずかしくなった。ただ、こうしないとは今素っ裸の状態であり、出来れば春千夜に見られたくないと思う。エッチの時に見られているのと、素の状態で裸を見られるのとでは、やはり感覚が違うせいだ。
そもそもエッチをする前もこうしたスキンシップが照れくさかったりしたのだが、した後は春千夜と顔を見て話すのが尋常じゃないほど恥ずかしい。
そして春千夜は抱いた女にこんな態度をとられたことがないので、ちょっとばかり驚いていた。

「ハア…これじゃこの先一緒に暮らしてくのも大変だな」

と、呆れたように独り言ちながら抱きしめてた腕を外す。すると明後日の方を見ていたが「え」と驚いた様子で振り返った。

「聞こえなかったかよ」

そこでやっとの顔を見れた春千夜が、苦笑いを零す。

「…え、えっと…今一緒に暮らすって…言いました?」

は恥ずかしさも忘れたように、今聞いた言葉の真意を考える。今は愛田興業に狙われている可能性があるから、一時的に春千夜のマンションへ居候させてもらってるだけだ。でも今のニュアンスだとそんな感じには聞こえなかった。どういう意味だと問うように春千夜を見つめる。

「言ったけど、オレと暮らすのは嫌なのかよ、は」
「そ、そんなこと…」

慌てて首を振ると、春千夜はもう一度の体を抱きしめて、そして――。

「愛田は潰した。だからもうは閉じこもってなくていいし、何なら姉貴んとこに帰れる」
「え…ほんと、ですか…?」
「ああ。さっき最後の幹部をとっ捕まえたって部下から報告が来た。だから…愛田興業はもう終わり。脅威は消えた。けどオレは…このままと一緒に暮らしたいと思ってんだけど…オマエは?」
「…春千代さん…」

思いがけない話をされて、は言葉を失った。愛田の件が片付いたことも嬉しいが、春千夜から一緒に暮らしたいと言われるなど思ってもいなかったからだ。

「まあ…急な話だし…姉貴とよく相談してもかまわねえけど――」
「…暮らしたい」
「あ?」

が何も応えないことで、一緒に暮らすことを躊躇ってるのかと思った春千夜は、の言葉を聞いて驚いた。

「わたし…春千夜さんと一緒に暮らしたい…です」

悩むまでもなく、の気持ちも同じだった。愛田の件が片付けば、また前のような生活に戻ることになる。そうなれば春千夜と今みたいに会える時間が少しでも減ってしまうのが嫌だった。

「……いいのか?姉貴に相談しなくて」
「お姉ちゃんなら…きっと分かってくれると思うから」

今度こそ春千夜の顔を見て応えると、今度は春千夜が視線を反らして「そーかよ」と照れ臭そうに呟いた。一瞬断られるのかと焦ったのは彼女にも内緒だ。

「じゃあ…明日はオマエんちに荷物でも取りに行くか」
「…はい」

嬉しそうに微笑むを見て、春千夜も自然に笑みが零れる。初めて本気で惚れた女を、心身共に手に入れることが出来た余韻に浸るよう、の体を抱き寄せた。
しばし見つめ合った二人の唇が、自然に重なるのはこの数秒後のこと。


――完――