Chaptetr.5 意味~意識~ Only you can love me...
今日で学校に来て三日目。足もスッカリ腫れが引いて普通に歩けるようになった。 でも約束通り、私とダンは学校内では必要以上の言葉しか交わさない。 "Good morning"とか"See ya !"とか、ほんと挨拶程度だ。 シェリル達も時々意地悪な事を言ったり廊下でわざとぶつかってきたりはするけど前ほど酷くはなくなった。 やはりダンと話さなければいいのだろうか。 まあ、イジメてこなくなったと言っても無視されてる事に変わりはない。 ダンが来る前の状態に戻っただけだ。 それでも私は平気だった。 ダンとは学校から出れば今まで通り、メールをしたり電話で話したりしてるし学校でも顔は見れる。 それだけでも私は嬉しかった。 それに… 「ねえ、。今度サッカーの試合があるんだけどさ。見に来ない?」 「え?試合?」 「そう。隣の区の学校とね。親善試合みたいなもんなんだけどさ。俺、キャプテンで出場するんだ」 「チャーリー、キャプテンなの?凄いわねっ」 「そんな事はないけど…。一応、サッカーは10年ほどやってるからね?」 「嘘…。凄い…ってことは5歳から?」 「うん。両親が大のサッカー好きでさ?俺にも小さい頃からサッカーボール与えて教えてくれたんだ」 「そうなんだ。やっぱりイギリスはサッカー人気あるのね」 私はそう言って教科書を鞄から出した。 そう…ダンとは話さなくなったけど、代わりにチャーリーが話し掛けてくるようになった。 チャーリーはイジメの事に気づいててダンにも教えたと言う。 もしかしたら私とダンが話さなくなった事情も知ってるのかな、と思った。 学校で話す相手が一人でもいるのは今の私には嬉しい事だ。 隣のダンにだって会話は聞こえてるだろうけど、彼は教科書を開いて読んでいるフリをしている。 「いつ試合なの?」 「今度の日曜日。まあ、大きな試合じゃないしクラスの奴も来ないと思うけどね。 …というか試合があることじたい知らないんだけどさ」 「そうなの。でも…私、サッカーのルールとか知らないよ?」 「あ~そんなの大丈夫だって。ボールがゴールに入れば点になるって事は知ってるだろ?」 「あ…バカにして…。それくらいは知ってるわよ…」 私が口を尖らせてそう言うとチャーリーは愉快そうに笑った。 「ごめん、ごめん。でも、そのくらいの知識でも大丈夫だよ?」 「そう?じゃあ…行こう…かな?」 「ほんと?絶対だよ?」 チャーリーが嬉しそうに笑顔を見せて私の方に身を乗り出してきた。 「う、うん。解かった。何時から?」 「昼の1時にキックオフ。大丈夫?」 「うん。お昼なら起きられるわ?」 私が笑いながら言うとチャーリーも笑っている。 「そっか。なら安心だ」 「どこでやるの?」 「相手の学校のグランド。こっからバスで15分くらいかな?」 「そう。じゃ、後で詳しい行き方とか教えてね」 「OK!」 チャーリーは、そう言って自分の教科書を出し始めた。 私もそろそろ先生が来ると思って顔を上げると、ふとシェリルと目があいドキっとする。 だがシェリルは、すぐに前を向いてしまった。 何だか監視されてるみたい… 私がダンと話してないか、あんな風に確認してるのかな… 私はダンの方をチラっと見てみたがダンは黙々と教科書を読んでいる…ように見える。 時々顔を上げて窓の外を眺めていて、その横顔を見るだけで私はドキドキした。 今度の日曜日…出来ればダンと一緒に行きたいけど…無理かな… もしクラスの人が来てて見られたらまずいもんね。 私は教科書に視線を戻して今日やるところ開いてみた。 すると一枚のメモが挟まっていて首を傾げる。 何だろう…。 私、こんなもの挟んだ覚えは… そう思いつつ、何となく教科書で隠しながらメモを開いてみた。 すると、それはダンが書いたものだった。 "へ。今日、学校終ったら僕の家に来ない?エマとルパートも来るから、皆で遊ぼう" 読んでるうちに胸がドキドキしてきた。 そっとメモを畳んで教科書の前の方に挟んでおく。 そしてノートの端に返事を書いて小さくちぎり、教室をザっと見渡した。 もう先生がくる時間だからか全員が前を向いている。 それを確認すると気付かれないようにサっとダンの机にメモを置いた。 ダンは窓の方を見ていたが気配に気付き、顔を少し動かした。 私はそれに気付いたがダンの方は見ないで教科書に視線を戻す。 カサ…っとメモを開く音が聞こえて、ドキドキしてくる。 メモには、ただ"OK。家に一度戻ったら電話するね"とだけ書いた。 チラっと横目で見るとダンはそのメモをノートに挟んだ様でそのまま指をトントントン…っと鳴らしている。 (何だろ…何だか呼んでる感じだ…) その音で、そう思って指の方に視線を向けると机を叩く仕草をやめてダンの指が私の方に向け、 "OK"と合図をしていて思わず笑顔になる。 ああ、こういうのって何だかいいなぁ… 話せないのは辛いけど…こうして二人だけの秘密みたいにサインを出し合えるのって凄く嬉しい。 そんな事を思いながらニヤケそうになり、慌てて顔を引き締める。 その時、ちょうど先生が入って来た。 「お母さん、ちょっとダンの家に行って来るね!」 私は学校から帰って来ると、すぐに着替えてリビングに顔を出した。 母はソファーで何やら雑誌を読んでいたが驚いたように顔をあげる。 「なぁに?帰って早々…。またハリー君たちと勉強なの?」 「う、うん。そうなの。だから…何かあれば携帯に電話して?」 「解かったわ?あまり遅くならないようにね?」 「うん。解かってる。じゃ、行って来ます!」 「行ってらっしゃい」 母は笑顔でそう言ってまた雑誌に視線を戻した。 私はそのまま家を出て足早にダンの家に急ぐ。 今日は勉強じゃないんだけど…いいよね。 いつも勉強ばっかりじゃ疲れちゃうもの。 私は足取りも軽く、ダンの家に向かって歩いて行った。 そこに後ろから、「!」と呼ばれて驚き、振り返ると、ルパートが走って来る。 「ルパート!今から?」 「うん。ダンの家に行く前に、ちょっと小腹が空いたからそこのパン屋でパン買ってきたんだ。 一緒に食べようよ」 ルパートは、そう言うと手に抱えていた紙袋を持ち上げた。 「わ、あそこのパン美味しいのよね」 「だろ?僕もダンもエマも好きなんだ」 ルパートは隣を歩きながら楽しそうに笑った。 「ところで…学校ではどう?」 「え?あ、ああ。うん、もう何ともないわ?」 「そう。やっぱりダンとは話してないの?」 「うん。全く…。挨拶くらいかな?」 「あ~ダンも、かなり迷ってたけど…そうするしかないよね」 ルパートも事情を知ってから何かと心配してメールをくれるようになった。 それはエマも同じ事で、私は二人の優しさが嬉しいと感じた。 「ダンは?打ち解けてるみたい?」 「うん。ダンは誰とでも仲良く接してるよ?男の子達とよく休み時間にサッカーしたり、バスケしたりして遊んでる」 「ああ、ダンは本来、男同士で遊ぶのが好きな奴だからね」 「そうなの?」 「うん。だから…最初にダンからを招介された時は僕もエマも驚いたんだ」 「え…?そ、そう…」 「うん。珍しいなと思ってさ。ダンから女の子と仲良くなるなんて」 「私が…一人でいるから…ダンも放っておけなかったのよ、きっと」 私は照れを隠そうとなるべく軽い感じで答えた。 「まあ…そうかもしれないけどさ。それにしたって珍しいんだよ?」 ルパートは肩を竦めて笑っているが私はその話を聞いて嬉しくなる。 そうか…ダンが女の子と仲良くなるのは珍しいんだ… それって何だか特別な気がして嬉しいな…。 二人でおしゃべりをしながら歩いて行くとすぐにダンの家が見えてくる。 ルパートが門の前まで行ってチャイムを鳴らしてくれた。 「あ、ダン?僕~。あともいるよ?」 『そうなんだ。今、開ける』 ダンの声がスピーカーから聞こえてきて、すぐに門がカチリと音を立て鍵が開いた。 「さ、行こう」 「うん」 私とルパートが門の中から玄関まで歩いて行くと、ドアが開いてダンが顔を出す。 「何だよ、ルパート。の家に迎えに行ったの?」 「違うよ。そこで会ったの。パン屋に寄るって行ったろ?そしたらバッタリ」 「何だ、そっか。あ、入って」 ダンは、そう言って中へと入って行った。 私とルパートもそれに続く。 「エマは?」 「もう先に来てるよ?」 ルパートの問いにダンが答えながら階段を上がっていく。 私も二人の後からついて行った。 「エマ~二人が来たよ」 ダンがドアを開けて部屋へと入っていく。 するとエマがテラスから走ってきた。 「あ、!」 「エマ、こんにちは。夕べはメールありがとう」 「ううん。怪我が治って良かったわ?」 エマはニコニコしながら私に抱きついてくる。 これが、こっちの…というかエマのノリだと解かり、最近は慣れて来たので私もハグをしかえした。 そこでエマが奥のソファーに座り、隣にルパートが座ったため、 私とダンは手前のソファーに座る事になって少しドキドキしてくる。 ダンはポットから持ってきてあったカップに紅茶を注いでくれて、「はい」と私の前に置いてくれた。 「あ、ありがとう」 それだけで少し緊張してしまう。 「あ~パン、これに置いていい?」 ルパートが買って来たパンをクッキーが入っている籠に入れようと指を指した。 「ああ、いいよ。ってルパート、そんなに買って来たの?」 「だって、これくらい食べるだろ?」 「殆ど、ルパート一人で食べるクセに」 「うるさいな、エマは。食べないの?」 「食べるわよ」 エマは、そう言ってバターデニッシュを一つ取った。 そして顔を上げると、 「あ、そう言えば、今度の日曜にサッカーの試合に行くんだって?」 と聞いてくる。 「え…何で知ってるの…?」 私がそう聞くとエマはニッコリ微笑んで私の隣でパンに手を伸ばそうとしているダンを指さした。 「さっきダンに聞いたの。チャーリーって子がを誘ってたって」 「おい、エマ」 ダンが、"何で言うかな…"みたいな顔でエマを見る。 「あ…ダン、聞こえてたんだよね」 「うん、まあ。隣だしね?」 ダンは少し照れくさそうに笑うとベーグルを美味しそうに食べ始める。 「ねね、。私も、その試合に行きたいんだけど…一緒に行っちゃダメ?」 「え?エマ、サッカー好きなの?」 そう聞いた時、ルパートがケラケラ笑いながら手を振った。 「違うよ~。エマは、そのチャーリーとかいう奴を見たいだけだって」 「何よ、ルパート!いいじゃないの」 「別に悪いなんて言ってないだろ?」 また二人して言い合いになりダンが肩を竦める。 「また始まったよ…」 「ほんとね?」 私も笑いながら紅茶をゆっくりと飲んだ。 「ね、。ダメかな?」 ルパートを軽く言い負かし、エマは再度、聞いてきた。 「ダメじゃないわ?一緒に行きましょ?私も一人だと心細くて…。 この辺なら、まだしもバスに乗って行くなんて初めてだったから」 「ほんと?じゃ、約束ね!」 エマが嬉しそうに微笑んだが、それにはルパートも身を乗り出して手を上げた。 「はいはい!僕も行きたい!」 「え?ルパートも?」 「僕、サッカー好きだしさ。そのチャーリーって奴にも会ってみたい。ダンが、よく面白い奴だって言ってるし。 な?ダンも行こうよ」 「ああ、そうだな。じゃあ皆で応援に行こうか。 ―いい?」 「え?も、もちろん。皆の方が楽しいわ?」 「なら良かった」 ダンはニッコリと微笑んでくれて私はちょっと恥ずかしくて視線を反らした。 (日曜日、ダンと一緒に出かけられるんだ…) そう思うと楽しみになってくる。 (早く日曜日にならないかな…) この時の私はチャーリーの応援という目的が、ダンとのお出かけ…という楽しみに摩り替わっていた。 僕はケンジントンガーデンズ近くのバス停でとルパート達を待っていた。 すると、すぐが笑顔で走って来る。 「ダン!」 僕は笑顔で手を振った。 「ごめんね?待った?」 ハァハァしながらは申しわけなさそうに僕を見た。 今日は可愛らしいウエスタン風のトップスにブーツ、それにデニムのスカートを合わせている。 「ううん。僕も3分前に来たんだ。バス来るまで10分近くはあるよ?」 「そう、良かったぁ~…。もう出掛けにお母さんがうるさくて…」 「何て?」 「それが…私も行きたいとか…。お父さんにまで今度の週末はプレミアリーグ見に連れて行けとか言い出して…」 が恥ずかしそうに言うから僕もちょっと笑ってしまった。 「お母さんはサッカー好きなの?」 「そう言うわけじゃないと思うんだけど…。日本ではJリーグもあったけど見た事なかったし。 きっとイギリスに来て凄く盛り上がってるから感化されてるのよ」 そう言って肩を竦めたがちょっとエマに似てきたな、と思った。 「あれ、まだ二人は来てないの?」 「うん。あの二人はいつもギリギリなんだ」 「そっか…間に合うかな…」 独り言のようにそう呟いたは何となく落ち着かず、ソワソワしている。 「大丈夫だよ?そんな心配しないでもちゃんと来ると思うから。今朝も僕が電話で起こしたしね」 「そうなの?」 「うん。モーニングコールしないと、ルパートは特に寝坊するから」 僕は苦笑しながら時計を見た。 そろそろバスが来る頃だ。 そう思った時、遠くからギャーギャーとうるさい声が聞こえてきた。 「何よ、そっちこそ同じじゃない!」 「僕はちゃんと起きたもんねっ。エマは二度寝だろ?」 「でも間に合ってるでしょ?!」 「ギリギリだよっ」 二人は言い合いしながらこっちに向かって歩いて来る。 僕とは顔を見合わせてちょとだけ笑った。 「朝からケンカしてるよ」 「ほんと…元気だなぁ…」 その時、パッパーと音がしてバスがやってくるのが見えた。 「うわ、来ちゃったよ。 ―Hey!走れよ!」 僕は二人の方に手を振りながら叫ぶと、やっと二人は走り出した。 「ごめーん!!遅れちゃった!」 エマがやっとバス停前まで来て息をついた。 「悪い、悪い!」 「ルパート…ちゃんと起こしたのに何やってんだよ」 僕が止まったバスに乗り込みながら文句を言うとルパートは頭をかいた。 「ちょ、ちょっと、ご飯お代わりしてたら遅くなったんだ。ごめんっ」 「ったく、そんな食うなよ…」 僕は苦笑しながらバスの奥に行くと後ろを振り返った。 「、大丈夫?」 バスが走り出し、少しよろけながら歩いて来るに声をかけると、 「う、うん。大丈夫…」 と言いながら何とか歩いて来たので彼女を窓際の方へ座らせた。 ルパートとエマも前の席に並んで座る。 休みの日だからか、バスは僕らの他におばあちゃんが二人ほど乗ってるだけだった。 「こうしてバスに乗るの初めて。何だか、ちょっとワクワクしちゃうなぁ」 「そう?ロンドンは比較的、どこに行くにも歩いても行けるし、 こうしてバスとか地下鉄に乗れば対外、どこでも行けるよ?」 「そうなの?じゃあ便利なのね」 「そういうこと。どこか行きたいところがあれば言ってよ。僕が案内してあげるからさ」 「…ありがとう…」 僕の言葉に、も笑顔を見せながら頷いてくれた。 すんなりと女の子に、あんな事を言ったのは初めてで自分でも驚くが本当に案内してあげたいと思った。 「ねえ、どこで下りるの?」 僕らの前に座ったエマが後ろを振り向いて聞いてきた。 「えっと…三つ目の停留所だって。そこから歩いて6分ほどって言ってたわ?」 「そう、結構近いのね。でも、そのチャーリーって子、私達も行ったら驚くんじゃない?」 エマがクスクスと笑いながら言った。 「ああ、かなりハリーポッターのファンだからな?二人もいたら驚くと思うよ?」 「ダンと初めて話した時、凄く喜んでたらしいもんね?」 「そうそう。ホグワーツに入りたいって言うからエキストラのオーディション受ければ?って言ったんだ」 僕が笑いながらの方を見ると彼女も驚いている。 「そんな…エキストラでもオーディションがあるの?」 「うん。まあ、そんな大げさなものじゃないけどね?も受けてみる?」 「そうよ!も今度の炎のゴブレットのオーディション受ければ?」 僕の言葉にエマも乗り気で誘い出した。 だがは頬を赤くしてアタフタしている。 「む、無理、無理!私、演技なんか出来ないもの…っ」 「そんな事ないって。受けてみなよ」 ルパートまでがそんな事を言い出し、は首をブンブン振っている。 「い、いい!オーディションとか人前で何かするのって苦手なの」 「そう?残念だな~。もしがエキストラで出れば撮影中でも一緒に遊べたのにさ~」 ルパートは、しょんぼりしながら前を向いた。 「でも撮影、そろそろ始まるし、見学には来てね?現場も結構ワクワクすると思うわよ?」 エマがニコニコしながら言った。 「え…撮影…現場…?」 「うん。映画の裏側が見れるし。ね?ダン」 「そうだね。今の監督とか凄く面白いしさ。見学しにおいでよ」 僕も笑顔でそう言うとも嬉しそうに微笑んだ。 「それなら…行ってみたいわ?」 「ほんと?来週末には始まると思うんだ。また近くなったら教えるね?」 「うん。ありがとう」 はちょっと微笑んでまた窓の外を眺めている。 僕は撮影が始まったら学校も休まなくちゃいけないな…と少し寂しく思っていた。 4人で、おしゃべりをしてると15分ほどで目的地の停留所が見えてきて僕らは下りる用意をした。 バスはゆっくりと停車し、ドアが開く。 「う~ん。何だかノンビリとバスに乗るのもいいなぁ~」 バスから降りた途端にルパートが大きく伸びをする。 「ほんと。暫く、こんな風に出かけてきたことなんかなかったもんね?」 「さ、行こうか?こっちでいいんだっけ」 僕がを見ると彼女はチャーリーから書いてもらった地図を見て頷いている。 「そうね。ここを右に行って真っ直ぐみたい」 そう言ってその地図を見せてくれる。 「しっかしチャーリーも絵が下手だなぁ…。これじゃ解かりにくいよ」 僕はそのただの線と◎がついてる地図を見ながら苦笑した。 そして暫く歩くと、その相手の学校とサッカーグランドが見えてくる。 制服を来た、そこの学生と思われる団体も、ぞろぞろとグランドに向かってるようだ。 「わぁ、結構、人が来てるのね?」 は驚いたように呟いた。 「ここの学生は応援に来るだろうね?でも、うちの生徒も来てくれてもいいのにな?」 僕はキョロキョロしながら持って来たキャップを少し深めに被った。 エマも大きな白い帽子を少し目深にかぶりだしが不安そうに見る。 「大丈夫?見付からないかな…?」 「大丈夫だよ?案外、解からないものだって」 僕が笑いながら、そう言うも、何もしてないルパートに、 「ルパート、そのままで、あの人込みに行く気?」 と聞いた。 するとルパートは得意げにポケットからサングラスを出してかけはじめた。 「僕は、これがあるから大丈夫!顔、分からないだろ?」 「何だよ、それ?余計目立つぞ?」 僕は呆れたようにルパートを見た。 確かに、そのサングラスは大きくて顔が隠れるが、その分かえって目立つのだ。 「ちょっとルパート…。何よ、そのサングラス。サイズ合ってないんじゃない?」 エマまでが呆れ顔だ。 「む。これは父さんのだ。玄関にあったから、そのまま持ってきたんだ」 「おじさんの?じゃあ、でかいはずね。ちょっと離れて歩いてくれない?目立つというより恥ずかしいから」 エマはそう言ってスタスタ歩いて行った。 「何だよ、その言い方は!バレるよりいいだろ?」 ルパートはスネたように口を尖らせ、エマを追いかけて行く。 僕は、ちょっと肩を竦めるとと並んで、ルパートの後ろからついて行った。 グランドの周りは凄い人だった。 近所の人も見にきてたり、ここの学校の生徒も応援団のような団体で前の方を陣取っている。 僕らは仕方なく後ろの方に席を取って座った。 「、見える?」 「うん。大丈夫。ダンは?」 「僕はバッチリ。チャーリーってキャプテンだよね。背番号は11番だっけ」 「うん。前を見ててくれれば解かるって言ってたわ?前って…どの辺りなのかな…」 「そっか。確かチャーリーはフォワードだって言ってたよなぁ。 トップって事だから相手側のゴールに近い場所にいるよ」 「そうなの?じゃあ…ゴールとかする人ってこと?」 「ま、早い話、そういうこと」 僕が笑いながらを見ると、彼女は可愛いポーチの中から、"サッカー入門"なる本を取り出し 真剣な顔で読みだしたのを見てビックリした。 「…それ…買って来たの?」 「え?あ、そう。昨日…ちょうど本屋に行った時に見つけて…。 一応、ルールとか知っておこうかと思ったの。でも難しくて…」 そう言って笑う彼女が凄く可愛いなと思った。 「あ、。私にも見せて、見せて」 「うん」 エマもの方に体を寄せて本を覗き込んでいる。 僕とルパートは顔を見合わせて苦笑した。 そうこうしてると歓声が起こり、選手が出てきたのが見える。 「あ、出てきた。チャーリーはキャプテンだから…いたいた。一番前だ」 僕が指を指すと皆が選手の方に視線を向ける。 「あ、ほんとだ。チャーリーだわ?」 「え、嘘!どの子?」 エマも興味津々で身を乗り出す。 「ああ、あの11番?わ、ほんとにかっこいいじゃない」 「うわーもうミーハー発揮してるよ」 「何か言った?ルパート…」 「べ、別に…」 エマに睨まれ、ルパートは慌てて僕の後ろに隠れた。 「ほら、もう試合始まるぞ?」 僕は呆れてルパートの頭をこづき、ピッチの方へと目を向けた。 私は必死で試合を見ながらチャーリーの背番号を目で追っていた。 ダンに教えてもらい、相手側のゴールの方を見るのだが、ずっと同じ場所にいるわけではないので (当たり前だが) 一度見失うと、どこにいるのかサッパリ解からなくなる。 チャーリーは積極的に自分が動いてチームメイトからパスを受けようとしているようだ。 「キャ~!チャーリー!行け行け~!」 隣ではエマが大騒ぎしながらチャーリーを応援している。 それにはルパートもダンも呆れた顔で笑っていた。 「ったく。会った事もない奴の事、真剣に応援してるよ…」 「エマは、どんな場所でも、すぐ馴染める子だしね?」 ダンが苦笑しながら、それでも楽しそうにサッカーの試合を楽しんでるようだ。 「あ!チャーリーがボール受け取った!」 「え?!」 ダンの声に私は慌ててチャーリーを探した。 するとピッチ上でボールをドリブルしながら相手ディフェンス陣を上手く交わしているのが見える。 「凄ーーい!チャーリーって足速いのね!」 エマが大興奮しながら叫んでいる。 「ほんと!あんなサラリと交わすなんて、ほんと上手なんだ」 「凄くかっこいいわ~っ」 私はエマの言葉にちょっと笑いながらチャーリーを見失わないよう、 ボールを持っているチャーリーを見ていた。 するとチャーリーは最後のディフェンスまでもを交わし相手ゴールに向かってシュートを打った。 「「あっっ!」」 私と同時に叫んで、尚且つ、同時に立ち上がったのはダンだった。 二人でチャーリーのシュートしたボールが相手キーパーの手を擦りぬけ、 ゴールネットに突き刺さるのを信じられない思いで見ていた。 「入った…っ」 私がそう呟いた途端、エマも立ち上がり、「キャ~~!!素敵!!チャーリー!」と大騒ぎしながら私に抱きついて来た。 「すっごい…!ね?ダンっ」 私も生でゴールを見たのは初めてで少し興奮気味にダンの腕を掴んでしまった。 チャーリーは片手をあげ人差し指を立てて、大喜びでチームメイトの方へ走って行く。 「ほんと凄いな、チャーリー…っ。一発で決めちゃったよ!」 私達は自分たちのクラスメートがゴールを決めて大喜びだったが、当然、ここは相手チームの学校… いわゆる"ホーム"だ。 あくまでチャーリーのチームは"アウェイ"なわけで、喜んでる人達は私達しかいなかった。 なので周りから凄い目で睨まれる。 「いけね…。ここ、周りは殆ど敵だらけだった」 そう言って舌を出すダンに思わず私も笑顔になった。 「あまり喜んでちゃ怒られるわね?」 「ほんと。気をつけよう?」 ダンはニコっと微笑んで私の頭にポンと手を乗せてくれて少しだけドキっとする。 だがダンは気付かなかったようで隣で騒いでいるルパートの口を慌てて塞いでいた。 何だか嬉しいな、こういうの…。 一緒のものを見て喜べるなんて… 私は、そう思いながら、もう一度、試合の方に視線を戻した。 結局、試合は太陽も西に傾きかけた頃に終った。 結果はチャーリーのハットトリックで、3-1という結果でうちの学校の勝利。 今度は静かに喜び、そのままチャーリーが試合後に来て、と言っていた駐車場までやってきた。 「もぉー凄かったね!チャーリーかっこいいわ~!タイプ!」 「さっきから、そればっかりだな、エマ…」 「何よ。ルパート、文句ある?」 「別にぃ~。そんなタイプならダンに紹介してもらえよ」 「キャ、そうねっ。ダン、紹介してね?」 エマがダンの腕を掴んでそう言うと、ダンも苦笑いしながら頷いた。 「はいはい。解かったよ。でも…チャーリーはなぁ…」 と呟いて何故か後ろを歩いている私の方を見た。 私はダンと目が合いドキっとしたが、人込みが凄いのではぐれないようにと必死で小走りして行く。 「、大丈夫?はぐれないでね?」 「う、うん…。大丈夫よ?」 そう言いながらもドンっとぶつかってくる人によろけてしまう。 あ~もう、ぶつかっといて何も言わないわけ? こんな事してたらダン達とはぐれちゃう…っ 私は体制を整え、再び歩き出そうと顔を上げた。 すると目の前に手を差し出され、驚いて顔を上げる。 「え?」 「、はぐれそうだし手繋いで行こう?」 「で、でも…」 ダンにそう言われて少し頬が赤くなった。 別に今日は足を怪我してるわけでもない。 なので手をつなぐ事に少し抵抗を感じていた。 だがダンは、そのまま、ちょっと微笑むと私の手をギュっと掴んだ。 「いいから。ほんと、はぐれちゃうよ?こんなに人がいるんだし」 「う、うん…。そうね?」 なるべく普通に笑顔を見せて頷いたが頬が熱くなるのが解かり、少し俯いた。 (顔が赤くなったのバレたくないもんね…) そんな事を思いながら全神経がダンに繋がれてる左手に集中している。 エマとルパートは私達より前を歩いていてすでに見えなくなっていた。 ほんと、あのままだったら私、完全にはぐれてたかも… まあ、携帯があるんだし連絡は取れるけど… 待ち合わすにも、こんな知らない場所で、その待ち合わせ場所を探すのだって困難だ。 バス停の行き方も忘れちゃったし… ダンがいてくれて…良かった。 私はダンの手の温もりを感じながら、まだ駐車場に着かなければいいのに…なんて思ってしまった。 「ちょっと…!シェリル、あれ見て!」 「え?」 「あれ…と…隣にいるのダンじゃない?」 「嘘!どこよ?」 エリーが指差す方向をシェリルは必死に目を凝らして探してみた。 そして二人が歩いているのを見つける。 「な、何よ、あれ…っ。何で一緒にいるの?!」 シェリルは真っ赤な顔をして怒り出した。 最近は話してないようだったし安心してたのに…! しかも、あれ…手を繋いでる?! 二人は仲良さそうに手を繋いで何か話しながら駐車場の方へ歩いて行く。 シェリルは心の奥から湧き上がってくるどす黒い嫉妬の痛みに顔を顰めた。 「ちょっと、まさか、あの二人…付き合ってるとか…?」 「バカ言わないで!」 エリーの言葉にシェリルは思わず大声を出してしまった。 「ご、ごめん…」 怒鳴られたエリーも口を尖らせつつ、謝っている。 「あ、もしかして…チャーリーとダン、仲がいいし、それで誘われたのかも…」 エリーは、そう言ってシェリルの顔を覗き込むが、その怖い表情にビクっとする。 「だからって、それで何でまで一緒なの?手まで繋いじゃって…っ」 「そ、そうね…」 エリーも何て言っていいのか解からず相づちだけ打った。 そもそも何故、今日、エリーとシェリルが、この場所にいるかと言うと、 エリーが片思いしてる相手、チャーリーの応援をするためだ。 試合の事はチャーリーがクラスの友達に話してるのを聞いて時間とかは自分たちで調べた。 エリーもだがシェリルもダンが来るまでは少しの間、チャーリーに憧れていたという事で一緒に応援にきた。 「シェリル…?チャーリーのとこに挨拶には…」 「行かないわ。そんな気分じゃないし、あの二人が仲良くしてるの見たくないもの。 エリーが一人で行ってきたら?チャーリーも喜ぶんじゃない?」 素っ気無く言うシェリルにエリーは少し迷ったが、やはりチャーリーには来た事だけは知らせたい。 ただシェリルは一人で行って来いなどと言っているが実際にエリーが一人で行けば ムっとするのは目に見えている。 自分を置いてくなどと信じられないのだ。 エリーはシェリルの性格をよく解かっていた。 でもまあ、こんな状態のシェリルを置いてチャーリーの元へ行くのは怖かったが、 この分だときっと、明日からをイジメるのに拍車がかかって自分の方にはこないだろう…と思い、 「じゃ、じゃあ…ちょっと顔だけだして来たいんだけど…いいかな?」 と聞いてみた。 すると一瞬、シェリルの顔が険しくはなったものの、 「どうぞ?だったら、ついでにあの二人の様子も見てきて。私、ここにいるから」 と言って携帯を取り出し、学校の門の方へ歩いて行った。 おそらく、学校の自分の取り巻き連中に電話して今見た事を報告するのだろう。 そして"明日から、またをターゲットにする"と言うに違いない。 でも誰もシェリルの言う事を拒めない。 皆、シェリルと一緒にいれば自分が得する事や、イジメにあわない事を知っているからだ。 シェリルの家はお金持ちで皆はいつもシェリルのお金で色々な場所へ遊びに連れて行ってもらっていた。 学校帰りにおごって貰ったり、時には彼女の家に行った際に服をもらったりして、 それなりに、いい思いをしている。 エリーも、その中の一人だった。 いや、エリーは小学校からの付き合いで取り巻き連中よりはシェリルからの信用も厚く、 一番良くして貰っている。 だからエリーもシェリルの言う事は聞くし、彼女が怒れば一緒になって怒ったりする。 それが友達というものだと思っていた。 でも…最近、をイジメだしてからチャーリーが前より冷たくなった気がする…。 もしかしてチャーリーにイジメをしてる事がバレってるんじゃないかな… もし、そうだったら凄く困る。 やはり好きな男の子にはそんな酷い事をしてるとはバレたくない。 あんな事をしておいて勝手だけど… エリーは、そんな事を思いながらも駐車場へ急いだのだった。 「チャーリー!」 僕がそう呼ぶとチャーリーは驚いた顔でバスから降りてきた。 「あれ?ダン?あ、」 「チャーリー、おめでとう!凄かったね?ゴール!」 がそう声をかけるとチャーリーも嬉しそうに微笑んだ。 「サンキュ!でも今日は相手のチームも主力選手が怪我で出てなかったし勝てたようなもんだよ? それより…一緒に来たの?」 「うん。あとチャーリーに会いたいっていう人が二人いるから連れてきたの」 「え?俺に…?誰?」 チャーリーが驚いたようにと僕を交互に見ている。 「おい、ルパート、エマ」 僕は後ろにいる二人に声をかけて振り返った。 「え…?」 「初めまして。チャーリー。私、エマよ?」 「初めまして~。僕、ルパート!宜しくね!」 「……う、うわ…っ」 二人が挨拶するとチャーリーは後ろに飛びのいて固まっている。 「チャーリー…?おい…」 「ダ、ダン…!な、何だよ。驚くだろ?!」 「ああ、ごめん。急に一緒に来るってなってさ」 「だ、だからって…ハーマイオニーとロンが…」 チャーリーは顔を赤くして二人を交互に見ている。 学校のバスに乗ってるチャーリーのチームメイトも僕らに気付き、中で騒ぎ出した。 「あ…ヤベ!あいつらもハリーのファンでさ?ダンとクラス一緒だって知ったらあれこれ聞いて来るんだよ…。 また打ち上げで聞かれそうだ」 チャーリーは、そう言いながらバスの方に振り向き、 チームメイトに手でカーテンを閉めろと合図をしているが全く言う事を聞かない。 僕はちょっと笑いながらチャーリーの肩を抱いた。 「キャプテン!威厳がないみたいだな?」 「う、うるさいよ、ダンは!ったくと一緒に来るなんてさ」 チャーリーは、そこで少し小声で僕の事を肘でつついてくる。 まあ、チャーリーにしたら好きな子が他の男と一緒に来たら嫌なんだろうと思って軽く、 「ごめん。エマが先に一緒に…って言い出したんだ」 と謝っておく。 「え?ハーマイオニーが?な、なら仕方ないか…。いや~可愛いよなあ?」 チャーリーがチラチラとエマを見ながら呟いている。 僕は思わず苦笑してしまった。 「何だよ。が好きなんだろ?」 「そ、そうだけどさ…。ハーマイオニーに会えるなんて感激するだろ?俺、彼女のファンなんだからさ?」 「ああ、そう言ってたね。じゃあ、少し話せば?」 僕はそう言ってエマを呼んだ。 「エマ、チャーリーがエマのファンなんだってさ?こっち来いよ」 エマはソワソワしながら呼ばれるのを待ってたらしく、僕がそう言えばすぐにこっちに歩いて来た。 チャーリーは顔が赤くなって固まっている。 「チャーリー、凄くサッカー上手いのね?感動しちゃったわ?」 「え?あ、いや…。ありがとう…」 チャーリーは、しどろもどろになりながらも笑顔を見せている。 僕は苦笑しながらの方に歩いて行くと彼女もクスクス笑っていた。 「チャーリー緊張してるみたいね?」 「うん。ほんと」 「そろそろ帰る?まだ3時半だけど」 「そうだなぁ~。ちょっと寄り道して行かない?」 僕は時計を見ながら、そう言ってを見た。 すると彼女は何となく視線を反らしている。 「?どうしたの?疲れちゃった?」 「え?あ、そ、そんなんじゃないの」 「そう?疲れたなら真っ直ぐ帰る?」 「う、ううん。いい。どっか寄って行こう?」 「そう?じゃ、どこに行きたい?僕、どこでも案内するけど」 「えっと…」 は必死に考えてるようで、その真剣な顔が可愛い。 僕は何となくを見ながら、ふと気付いた。 そう言えば…僕って気付けばのこと見てるよな… さっきも、何気なくを見てたら人の波に飲まれそうになってるし、 人にぶつかってるし放っておけなくて手を繋いでしまった。 知らないうちに彼女を目で追っているようだ。 そんな事を考えて、この前チャーリーと話した事を思い出していた。 "気付けばのこと、目で追ってるんだ…" (え…?それって…僕も…チャーリーと同じってことか…?) 僕はちょっと驚いて隣でルパートと楽しげに話しているを見た。 はルパートのくだらないギャグで大笑いしている。 そんな彼女を見ているともっと笑顔を見たいな、なんて思った。 こんな風に思うのって…好きってことなのかな… って、これじゃあ僕もチャーリーと変わらないじゃないか。 そんな事を思いつつ、チャーリーの方を見た。 チャーリーはエマと二人で話すのは緊張するのか、の方に歩いて行って今度はルパートとも話し出した。 その時、バスから監督兼サッカー部顧問の先生が顔を出した。 「おい、チャーリー!そろそろ行くぞ?」 「え?あ、はい!―あ…じゃあ、行かなくちゃ…。今日は本当に来てくれてありがとう。また明日、学校で!」 「あ、うん。またな?」 「バイバイ!」 僕ともチャーリーに手を振ると、彼はすぐにバスに乗り込んだ。 そのままバスが走り出し、僕らは手を振りつつ、自分たちも帰るのにバス停へと向かう。 僕の前をスキップしながら歩いているエマを呆れ顔で見つめるルパートが肩を竦めているのを見ながら、 と並んで、ゆっくりと歩いた。 ふと彼女を見ると何だか後ろを振り向いている。 「どうしたの?」 「え?あ…ううん。何でも…」 「?」 僕が首を傾げたが、が首を振るのでそれ以上聞かなかった。 「じゃ、どこ行こうか」 「ダンは…いつも、どこに行ったりしてるの?」 「う~ん、そうだなぁ…。いつもは…友達とソーホーとかブラブラしたりしてるかな?」 「ソーホー?そこ名前だけ聞いたことある。そこに行ってみたいな」 「え?そこでいいの?もっと見たいとことかない?テムズ河とかタワーブリッジとか」 「だって、そんなのダンは見慣れてるでしょ?それに観光じゃないし…ダンが普段、行ってるとこに行ってみたいの」 そう言ってはニッコリ微笑んでくれた。 その笑顔にドキっとしつつ、僕は嬉しくなって微笑み返した。 すると先にバス停に行っていたエマとルパートが大きな声で呼んでくる。 「ダン~!~!バス来たよー!!」 その声に僕は慌てての手を自然と繋いだ。 「行こう!」 「え?あ…」 そのままの手を引きながらバス停まで走って行く。 何だか、この前、手を繋いだときよりもドキドキしているのが自分でも解かった。 「わぁ~可愛い、これ」 私はショーウインドウの中のテディ・ベアを見て思わず窓にへばりついた。 すると後ろでダンがクスクスと笑っている。 「な、何?」 「いや…。も女の子だなぁと思って」 「………っ」 ダンにそんな風に言われて私は少し赤くなり、顔をテディ・ベアに戻した。 (どうしよう…何だか二人きりで、こんな風に歩いてたらデートみたいじゃない…。) 先ほど二人も遊びに行こうと誘ったのだが、、エマは家庭教師が来るとかで家に帰ってしまい、 ルパートは家で手伝いをするという約束があるから…と残念そうに帰って行った。 だからダンと二人でソーホーまで出かけてきた。 こうして二人で、こういう場所に来るのは初めてなので普段よりも緊張してしまう。 そんな事を考えていると肩をポンポンと叩かれ、ハっとして振り向いた。 「中に入ろうか」 「え?」 ダンが笑顔で私の手を繋ぐのをドキっとしつつ顔を上げた。 「中に入ろう?ここのテディ・ベアは色々な種類があるし着せ替えが出来る服も売ってるんだ」 「え?そうなの?テディ・ベアって着せ替えが出来るの?」 「出来るよ?さ、行こう」 ダンはそう言うと私の手を引いて店の中へと入っていく。 ここは"イングリッシュ・テディ・ベアーカンパニーと言ってオリジナルから限定版まで多種多様なテディ・ベアーが売っているんだと、ダンが説明してくれた。 確かに店の中には沢山のテディ・ベアが所狭しと並べられている。 「うわぁ…。こんなに色々な種類があるんだ…。凄い、どれも可愛いっ」 私は笑顔になってつい繋いでいる手を引っ張りつつ、一番可愛いテディ・ベアの並ぶ棚の前に走って行った。 「これ、凄く小さくて可愛い。携帯につけちゃおうかなぁ…」 私は、その小さく真っ白なテディ・ベアを手にとり目の前にぶらさげてみた。 そのテディ・ベアーは薄いピンクのパジャマを着ていて、 ちゃんとパジャマとお揃いのナイトキャップまで被っていてとても可愛い。 私は、それを買おうと思って、それを持ったまま振り向いた。 するとダンが突然、私の手からヒョイっとテディ・べアを取ってニッコリと微笑む。 「…ダン…?」 「これ、僕がにプレゼントするよ」 「…えっ?!い、いいよ、そんな…悪いわ?」 「いいよ。凄く気に入ったんだろ?」 「で、でも…買ってもらうなんて…っ」 私は焦ってレジに歩いて行くダンを追いかけた。 そしてギュっと服を引っ張ってしまう。 それにはダンもクルっと振り向き苦笑している。 「そんな気にしないでよ。僕がプレゼントしたいだけなんだからさ」 「で、でも…」 私が困った顔で俯くとダンが小さく息を吐き出した。 呆れられちゃったかな…と思って少し顔をあげるとダンはそのままそのテディ・ベアが置いてあった棚まで戻って行った。 そして持ってたテディ・ベアを戻すのかと思って見ていると、ダンはその隣の棚に飾ってある手乗りくらいの小さなテディ・ベアを持ち上げ私を見る。 「じゃあさ、こっちはが僕にプレゼントしてくれる?」 「え?」 「そしたらも、そんな気を使わないだろ?」 そう言って、ちょっとイタズラっ子のように微笑むダンにドキっとした。 それでも彼の気の使い方が嬉しくて、私もつい笑顔で頷く。 「じゃ、決まり!」 ダンがそう言ってレジの方に歩いて行った。 私もダンから手乗りテディ・ベアを受け取り、隣のレジに向かった。 チラっとダンを見ると彼は何だか楽しそうに、「プレゼントなので包んでくれますか?」と店員に言っている。 なので私も同じようにラッピングしてもらった。 やっぱり…英国紳士なんだなぁ… こんな風にプレゼントしあったり、わざわざ本人が目の前にいるのにラッピングしてもらったり… 私達の歳で、こんな事をするなんて驚いちゃう… でも…嬉しい…。 ダンからプレゼントしてもらった物を身につけられるなんて… でも…携帯につけようと思ってたけど…なくしたら嫌だし家に置いておこうかな… なんて考えてるとダンが支払いを済ませて歩いて来た。 「はい、」 「あ…ありがとう…。じゃあ、私からも…。はい」 「ありがとう」 私が包んでもらったばかりのテディ・ベアを差し出すとダンが嬉しそうに微笑んだ。 「さ、じゃあ、次行こう」 ダンは、そう言うと、また私の手を繋いで店から出ていく。 私もドキドキしながら、後をついていった。 そのままプラプラと歩いて行くと、ヴィンテージ・マガジン・ストアと書かれた店があり、 そのウインドウに大きなダンのポスター(ハリーポッターだけど)が飾ってありドキっとした。 「あ…ダンだよ?」 「ん?あ…」 ダンも自分のポスターが飾られてるのが照れくさいのか頭をかいている。 私は、その店に興味が湧いて中へ入ろうとダンの手を引っ張った。 ここは映画、音楽関係の専門店らしく、店の中には懐かしの名画から最新の話題作のポスターや雑誌、 ブロマイドが置いてある。 ダンは店が店だけに被っていたキャップを今まで以上に深く被りなおして、キョロキョロとしていた。 「あ…ね、ダン」 「ん?」 「これ…ダンのブロマイド」 「う…」 私がダンのブロマイドを発見してそれをダンの前に差し出すと彼は少し顔を顰めた。 「こんなの売ってるんだ…。何だか恥ずかしいかも…」 「でも、これダンのファンが買ってくのよね、きっと。あ、ほら、"一番人気"って書いてるよ?」 「い、いいよ、もう…。出ようよ」 ダンは恥ずかしそうに顔を背けると私の手を引っ張って店を出てしまった。 「あ~あ。あれ買おうと思ったのに」 私はしきりに照れてるダンをからかいたくなって、ついそう言ってしまった。 すると、ダンの顔が、ますます赤くなってしまう。 「な、何言ってんの?」 「だって…よく映ってたじゃない」 私がダンの顔を覗き込むと、ダンは少し口を尖らせて、私の額をツンとつついてきた。 そんな事をされたのは初めてで私は驚いて額を押えてダンを見ると、彼は少し不機嫌そうに呟いた。 「いらないだろ…?あんな写真…」 「え?」 私は額を押えつつ、驚いたままダンを見上げると彼は少し顔を背けて、 「本人が目の前にいるんだからさ…」 とボソっと呟いた。 私はダンのその言い方が照れてるんだと解かっていたが、こっちまで何だか顔が赤くなってしまった。 「ジョ、ジョークよ?ダン…。ごめんね?」 私は、つい、そう言ってダンの腕を引っ張ると、彼は顔を反らしたまま、 「謝る事ないけどさ…」 と言って、そのまま私の手を引いて歩き出した。 私は、ちょっと怒らせちゃったかなぁ…と心配になって声をかけようとしたが、 不意に繋がれてた手がギュっと強く握られ心臓がドクンっと鳴った。 そのままダンの横顔を見上げると、まだ少し頬が赤いのが解かる。 それを見て私は何も言えなくなり、黙ってダンに手を引かれて歩いて行った。 ダンも何も言わず、黙ったまま歩いて行く。 それだけでも今の私には凄く幸せな時間だった。 |
Postscript
ダンVer、第五弾です。
少しづつ距離が近づいてきましたね~キャ~v
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】