Chapter.6 視線~恋~ Only you can love me...
指でつつくと、その小さなテディベアが軽く揺れた。 それを見てると、つい顔が綻んでしまう。 ダンからの初めてのプレゼント… 大切にしなくちゃ。 なくすといけないと思いつつ、やはりいつも身に付けていたいので携帯のストラップに一緒につけることにした。 落ちない様にキーホルダー用の小さなチェーンに替えてみたのだ。 そのテディベアを見ながら私はベッドに寝転がった。 自然に顔も緩んできてしまう。 今日は…家に帰って来るまで、ずっと手を繋いでくれていたのが凄く嬉しい。 何だか本当にデートをしている気分になってしまった。 ただ…何度か後ろが気になり、ついつい彼女がついてきていないか確めてしまう自分がいた。 彼女―そう、駐車場で見かけた気がしたシェリルの友達のエリーだ。 駐車場で皆で話してた時、ふと視界に入った女の子が見た事がある気がして視線をむけた。 が、その子は急に学校の方へと戻って行ってしまって私が見たのはその子の後姿だけだった。 その後姿を見た時、ドキっとした。 もしかして…ダンと一緒にいるところを見られたんじゃないかと思って… だからか後をつけられてないかと何度も後ろを振り返ってしまった。 幸いつけられてはいないようだったが私は心配だった。 もし、あの子がエリーだったら…きっと一緒にシェリルもいたはずだ。 学校で話してないのに休みの日に一緒に出かけてきてたとバレたら今度はどんなイジメにあうか解かったものじゃない。 なるべく…イジメの事でダンに心配かけたくなかった。 「はぁ…。もう、やめやめ!せっかくダンと楽しい一日を過ごせたのに…っ」 私は自分に言い聞かせるように、そう言うとベッドの上に起き上がった。 そしてテディベアのついた携帯を、そっと携帯専用のミニチェアーに置く。 小物売り場で見つけて、あまりに可愛いから買ってきたものだった。 本当に椅子の形で携帯を立てかけられるようになっている。 私はまだ、かすかに揺れているテディベアを見て、ちょっと笑顔になった。 ダンは私のあげたテディベアを部屋に飾ってくれてるかな… そんな事を考えながら、私は明日の授業で使う教科書を調べて鞄に入れ始めた。 「おはよ!」 教室に向かうのに廊下を歩いていると急に後ろから声をかけられた。 振り向くと昨日の試合のヒーロー、チャーリーが笑顔で走って来る。 「おはよう。チャーリー」 「昨日は来てくれてありがとな!」 チャーリーは私の隣に並んで歩きながらそう言った。 「ううん。こっちこそ凄く楽しませて貰った」 「そう?楽しかった?」 チャーリーは嬉しそうに微笑んだ。 「うん。チャーリーほんとサッカー上手いのね?3ゴールもするなんて。生でゴールするの見たのは初めてだから感激した」 そう言うとチャーリーは少し照れたように頭をかいた。 「いや、いつもは、あんなディフェンス抜ける事は出来ないんだけど…。たまたまだよ」 「またまた、そんなご謙遜!」 私は笑いながら教室のドアを開けた。 するとクラス中の視線が私に向けられ、ドキっとして立ちすくんでしまう。 「どうした?」 続いて入ってきたチャーリーが足を止めた私の肩にポンと手を置いた。 「う、ううん。何でもない」 何とかそう答えて視線を気にしつつも自分の席へと歩いて行った。 何だろう… 今、クラスの女子…というかシェリルのグループの子から冷たい目で見られた気がしたけど… ちょっと不安に思いながらも私は椅子に座り一時間目の教科書を鞄からだし、ノートを開いた。 皆の視線が怖くて顔を上げられないまま教科書を見てるフリをして俯いてると、そこへダンが教室に入って来た。 「おはよう、」 「あ…おはよう…」 ダンの声にハっとして私は顔を上げると、そこには昨日と同じダンの優しい笑顔がある。 だがシェリル達が見てると思うと私は笑顔になれなかった。 妙にぎこちない表情になってた事だろう。 ダンは一瞬、心配そうな顔をしたが、すぐに自分の席へとつく。 本当はもっと話したいと思ったが約束なので何とか話しかけたい衝動を堪えた。 ダメだ… 今、声をかけたら、またシェリル達に睨まれて、ダンにも心配かけてしまう。 我慢しなくちゃ… 私はそう思いながら、ジっと先生が来るのを待っていた。 シェリル達は、とダニエルが挨拶だけ交わすのを悪意の篭った目で見ていた。 「見た?わざとらしい真似しちゃって」 誰かが、口を開くと次々に、 「ほんと。ムカつく。あんな素っ気無いフリして実は学校の外で仲良く会ってたなんて」 「ほーんとよねぇ?あの子、大人しそうな顔して案外、ズルイんじゃない?」 と文句を言い出した。 シェリルは、それを聞きながらジっとを睨んでいたがダンがいるので何とか怒りを堪える。 「エリーも気をつけないと…。チャーリーに手を出されるかもよ?」 仲間の一人が、そんな事を言ってエリーを肘でつついている。 エリーは不安げにチャーリーの方をチラチラ見ながら俯いてしまった。 「昨日だってチャーリーと仲良さそうに話してたし…。今だって一緒に教室来ちゃってムカつくわね?」 シェリルに、そう言われてエリーは小さく頷く。 「私…駐車場に行った時、ちょっとショックで声もかけずに戻ってきちゃったの…」 「そうなの?エリー、かわいそう~!」 仲間の子が、う言ってエリーの事をギュっと抱きしめる。 「あの子、ほんとムカつくわね。絶対許さないんだから…」 シェリルは、そう呟くと自分の席へと戻って座った。 授業を始めるチャイムが鳴り響いたからだ。 その音で固まってた皆もそれぞれ自分の席へと戻って行く。 シェリルは教科書を出しながら、に、どんな事をしてやろうかと考えていた。 絶対にダンを渡さないんだから… 今までだって、私が狙った男の子は皆、振り向いてくれたわ。 あんな子にとられてたまるもんですか。 シェリルは元々、お嬢様で我侭に育てられた。 父も母も遅くにできたシェリルを可愛がり、とことん娘に甘い親だ。 欲しいと思うものは何でも買い与え、シェリルもそれを当たり前だと思っている。 だから自分が望んだものを他人に奪われるのは許せないと思うタイプの子だった。 今まで思い通りにならなかった事はない。 絶対に、ダンを振り向かせてみせるわ… そう思いながら嫉妬の怒りでシェリルはノートの紙を一枚グシャっと手で握りつぶした。 僕は先生の話を聞くフリをしながら隣にいるの方をチラっと見た。 さっき声をかけた時のの様子が気になった。 どうしたんだろう… 元気がないように見えるけど。 昨日の帰りは元気だったのにな… 今は顔色も良くないし、どこか緊張してる風に見える。 何かあったのかな…? 僕は全然、授業の内容が頭に入らず、そんな事ばかり考えていた。 今さらながら自分は本当にの事を気にかけてるんだと思う。 昨日だって一緒に買い物したりして凄く楽しかった。 テディベアを見ていたが可愛くて、つい買ってあげたくなったのだ。 まあ、結局はプレゼント交換みたいな形になってしまったけど… それでも僕は嬉しかった。 まるでデートを楽しんでいる気分だった。 僕は…やっぱりの事が好きなんだろうか。 チャーリーの言うように気付けば目で追ってるし、こうして今もの事を考えている。 気になって仕方がない。 昨日だって家に帰ってからにもらったテディベアをベッドのボードに飾りつつ、 彼女も今頃、自分があげたテディベアを、どこかに飾ってくれてるのかなと考えたりもした。 そうして寝るまでの間、僕はずっとの事を考えていた事になる。 初めは…どこか寂しげでクラスに馴染んでいない彼女が気になり、声をかけた。 だけど話せば話すほど今までには会った事のないタイプで新鮮な気持ちになった。 イジメを受けても黙って耐えていた彼女を守ってあげたいとも思った。 何だか…といると無理をしなくていい自分がいて凄く落ち着くのもある。 そういうのって全部ひっくるめて"好き"だと言うことなのかもしれない。 チャーリーが言ってた気持ちをこの時、僕はハッキリと理解していた。 昼休み、ランチをとった後、私は教室で本を読んでいた。 クラスの人は殆どが、グランドや体育館に行って、それぞれ好きな時間を過ごしている。 ダンもチャーリーと先ほど一緒にサッカーをやろうとグランドに行った様だった。 チャーリーに、"見に来ない?"と誘われたのだけど… あ~あ…私もダンがサッカーしてるとこ見たかったな… でもダン達の後を追うようにシェリル達もグランドに行ったから、ついていけなかった。 こっちをジロリと睨んでいたし、つい"読みたい本があるから…"と断ってしまったのだ。 ダンは最後まで私の方を気にするようにチラチラと見てくれてたのが嬉しかったんだけど…。 そんな事を考えていると、ふと教室に人の入って来た気配がして顔を上げた。 「あら、お一人で読書?」 「………っ」 そこにはシェリルとエリー、そしていつものグループの顔が揃っていた。 「何?それってダンの気を引く作戦なわけ?」 「…え?」 シェリルに、そう言われて私は驚いた。 彼女の私を見る目には今まで以上に悪意があるのが解かる。 「一人寂しそうにしてればダンが気にかけてくれるって、そう思ってるんじゃないの?それに… あなたって結構、したたかなのね? 学校ではダンと仲良くないフリをして、外では一緒にサッカーの試合を見に行く仲なんだ」 その言葉に私は心臓がギュっと痛くなった。 やはり昨日、見かけたのはエリーだったんだ…と思った。 「あれは…偶然、会ったの…。私もチャーリーに誘われて行って偶然…」 咄嗟に嘘をついたが、シェリルとエリーは、ますます怖い顔になる。 「へぇ~。チャーリーに誘われた…。それで最後はダンと一緒に帰って行ったの?」 「それは…家が同じ方向で…」 「だからって一緒に帰るんだ。それと…言っておくけどエリーはチャーリーが好きなの。近づかないでくれる?」 「え…っ」 その事を聞いて驚いた。 エリーがチャーリーを好きだなんて… じゃあ、私は二重で彼女達を怒らせていたんだ… 「あ、あの…私、近づいてはいないわ?ただのクラスメートだって思ってるし…」 何とか、そう言ったがシェリルの取り巻き連中はクスクス笑い出した。 「ただのクラスメートにしちゃ、今朝も仲良く一緒に来てたわよねぇ?」 「ほーんと。チャーリーって人気あるから、きっと他のクラスの子からも、この子嫌われてるんじゃない?」 「アハハっ。言えてる~っ」 そう言いながら私の頭を小突いて、またケラケラと笑い出す。 私はこの場から逃げ出したかった。 「前にも言ったでしょ?ダンには近づくなって。今度からはチャーリーとも話さないで。解かった? それと!学校の外でもダンと会ったら許さないわよ?」 シェリルのキツイ一言に私は腹がたった。 本当ならこんな事を言われる筋合いはない。 シェリルもダンが好きなら私の事なんて構ってないで自分が頑張ればいいだけの話だ。 「ちょっと!何、黙ってるの?」 私が返事もせず黙っていたのが気に入らなかったのかシェリルは私の頭を軽く叩いた。 突然、頭に衝撃が来て軽いショックを受ける。 こんな風に他人に頭を叩かれた事なんて初めてだ。 (何で私が、こんな人に頭を叩かれないといけないの?) そう思って悔しくて唇を噛み締める。 それさえ気に入らなかったのかシェリルがまた私の頭を軽く小突いてきた。 「何よ、その顔。文句あるの?とにかくダンには近づかないで―」 シェリルがそう言って私の顔を覗き込んだ、その時― 「何言ってんだよ」 と声が聞こえて、私はハっとして顔を上げた。 シェリル達も慌てて私から離れる。 教室に入って来たのはダンだった。 私は零れた涙を慌てて頬の涙を手で拭う。 ダンは怖い顔で、こっちに歩いて来た。 シェリル達は"まずい"という顔をして互いに顔を見合わせている。 「そんな風に今までもずっとのことイジメてたのか?大勢で一人の子をイジメて最悪だね。恥ずかしくないわけ?」 「ち、ちが…私は…」 「何が違うの?今の頭を小突いてただろ?見たんだからな?」 言い訳をしようとしたシェリルにダンは怖い顔でそう言った。 エリーもシェリル達の取り巻き連中もアタフタして困っている様子だ。 「僕に近づくなって?何で、そんなこと言うんだよ…!」 ダンは怒りが収まらない様子でシェリルを睨む。 それには俯いてたシェリルも顔をあげた。 「だ、だって…ダンは私がいくら誘っても断るじゃないっ。 なのに何でとは一緒にサッカー見たり、帰ったりするの?ずるいわよっ」 逆切れしたのか、シェリルは涙を浮かべながらもダンに、そう言った。 それにはダンもムっとしたのか、眉間を寄せ、 「何だよ、それ。そんなの僕の勝手だろう?君にずるいとか言われる筋合いはないよ。 それと…これ以上に何かしたら本気で怒るぞ?」 「…そんな…酷い…」 ダンの言葉にシェリルが泣きながら教室を出て行ってしまった。 それを慌ててエリー達が追いかけて教室には私とダンだけになり、シーンと静かになった。 「…大丈夫?」 不意にダンが私の頭を撫でながら顔を覗き込んできた。 ドキっとして顔を上げると心配そうな顔のダンと目が合う。 「う、うん…。あの…ありがとう…」 「いいんだ。それより…また、こういう事があったらちゃんと僕に言ってね?」 「え…?」 「もう、大丈夫だとは思うけどさ…。今のでシェリルを怒らせたと思うし一応…ね」 ダンは、そう言って優しく微笑むと私の隣に座った。 そして私の方を向くと、「もう…学校でも普通に話そう?」と言った。 私はダンの奇麗な瞳を見つめながら少し迷ったが小さく頷いた。 そして、ふと気になった事を聞いてみる。 「ダン…チャーリー達とサッカーしてたんじゃないの…?」 「え?あ、ああ…。ちょっとが気になったからトイレって言って抜けてきたんだ」 「え?」 ダンは、そう言って恥ずかしそうに笑った。 私は、その笑顔に嬉しくなって、ちょっと微笑むと、もう一度、「ありがとう…ダン」と言った。 その時、昼休みを終えるチャイムが鳴り響いた。 「それで?」とエマは身を乗り出してきた。 「それでって?」 僕は紅茶を飲みながらソファーに凭れた。 「もう!そこで何で"好きだよ"とか言わないのよっ」 「ぶは…っ」 エマの言葉に思い切り紅茶を吹いてしまった。 「何してんの?ダン…」 「何ってエマが変なこと言うからだろう?!もう…いいからそこのタオルとってよ」 僕はエマを睨みながらタオルを受け取り口を拭いた。 「変な事じゃないでしょ?ダン、の事が好きなんじゃない」 「そ、そんなこと言ってないだろっ?」 エマの言葉に僕は顔が赤くなりプイっと横を向いた。 「あれれ~?照れてんの?そんなの見てたら解るわよ~」 エマは得意げな顔で僕の顔をわざと見ようと、ますます身を乗り出してくる。 「ちょ…来るなよ…。勉強、教えないぞ?」 「はいはい。解かったわ」 エマはそこで素直に頷き、肩をすくめた。 ―今日は、いつもの如くエマが宿題で解からないとことがあるからと家に来ていた。 僕はちょっと咳払いをすると、 「で?どこが解からないの?」 「そんな事より…っ。じゃあ、もう学校ではと話したり出来るのね?」 エマはどうしても、その話が聞きたいらしく教科書を出そうともしない。 僕はちょっと息を吐き出し仕方なく頷いた。 「まぁ…もう、シェリル達に、ああ言ったんだから気にすることないだろ?」 「そうよねぇ。ダン、かっこいいじゃない!好きな子をイジメから守るなんてっ」 「あのね、エマ…」 「何よ。素直に認めたら?が好きですって。ダンったらに会ってからちょっと変だもの。すぐ解かったわ?」 「変って何がだよ…」 僕は少しドキっとしつつ、エマの方をチラっと見て聞いてみた。 するとエマはペンを顎にあてて考えている様子。 「ん~、そうねぇ。まず、すぐ仲良くなった事もだけど… マメにメールとかしちゃってたし?昨日は二人でデートまがいなことしちゃうし?」 「デ、デートなんかじゃ…」 僕は照れくさくて顔を反らしながら紅茶を飲んだ。 が、エマはニヤニヤしながら僕の隣に座ってくる。 「あら、デートじゃない。これ」 「…あっ」 エマの手にはからプレゼントされたテディベアがあった。 「か、返せよ…」 エマの手から急いで取り返すと、彼女はますますニヤニヤしだした。 「それ、この前来た時はなかったわよねぇ?からもらったんでしょ」 (す、するどい…) 僕はエマの言葉に更に顔が赤くなってきた。 「大事そうに飾っちゃって!それで好きじゃないなんて言うつもり?だいたい女の感は当たるのよねぇ」 「何だよ。女の感って」 「だからダンはきっとの事が好きなんじゃないかな~?って思ってたのっ。当たってたわ?」 「う、うるさいなぁ、エマはっ。僕だって解からないよ、そんな…」 と言いかけ少し考えた。 いや…解かってるんだ、ほんとは… 今日だって教室に戻って、がシェリルに叩かれてるとこを見てカっとなった。 だから普段なら言わないようなキツイ事も言ってしまって少し後悔したけど… でもイジメをしていた彼女達が悪いというのは変わらない。 「…ン?ダン?」 「え…?」 いつの間にかボーっとしていた僕をエマが変な顔で見ている。 「全く。ダンって自分の気持ちも解からないの?」 「ほんと、うるさいな…。解かってるよ、それくら…あ…」 ついエマの言葉にムキになって口を滑らせてしまった。 おかげでエマはさっきの倍はニヤニヤ度がアップしている。 「ほーらね!やっぱり!ダンはが好きなんだ」 改めてそうハッキリ言われて僕は顔が真っ赤になってしまった。 「もう…エマには敵わないよ…」 諦めてそう言えばエマは、ますます胸を張る。 「当たり前でしょ?ダンのこと何年見てきたと思ってるの?」 「…そうだね…」 僕は苦笑しながら軽く息を吐き出した。 するとエマはワクワクしたように顔を覗き込んでくる。 「で?いつ告白するの?」 「えぇ?!こ、告白って…」 「しないの?早くしないと、、他の人に取られちゃうよ?ルパートだって気に入ってるんだから」 「ああ、そうだね。あとチャーリーもね」 僕が肩を竦めてそう言えばエマは驚いた顔で、「えーチャーリーも~?」と口を尖らせた。 「ああ、そう言ってたよ?僕も、その時は自分の気持ちが曖昧で、ただ聞いてたんだけどさ…」 「でも、じゃあライバルが沢山いるじゃない。ダン、頑張らないと!」 「何でエマが張り切るんだよ…」 僕は苦笑しながらエマの額をこづいた。 「いた…。何よ、もう…。応援してあげてるのにっ」 「はいはい。ありがと」 「何よ。その心の篭ってない言葉は。それより…早く告白しちゃいなさいよ」 エマはそう言って僕の肩をドンっと押した。 相変わらずバカ力だ。 「そんな簡単に言うなよ…。友達の関係で難しいだろ…?」 「何が?ああ、もし断られたらってこと?」 「まあ…気まずくなるの嫌だしさ…」 「そんなこと気にしてたらダメでしょ?だってきっとダンのこと好きよ」 エマの言葉にドキっとした。 が僕の事を好きなんて考えた事がなかったからだ。 「そんなの解からないだろ?の方は友達と思ってるかも…」 「もう~弱気ね~!大丈夫よ!もダンのこと好きだと思うわ?じゃないと、そんな可愛いプレゼントくれないわよ」 「これ…は…」 別にから…ってものじゃない。 僕が勝手に交換しようと言っただけだ。 手のひらの中のテディベアを見ながら小さく溜息をついた。 「とにかく!そろそろ撮影が始まるんだからに会えなくなるのよ?どうするの?」 エマは少し心配そうに聞いてきた。 そうだ…撮影が始まれば僕は学校も、そんなに行けなくなる。 なかなか会えなくなるのも寂しいけど今日シェリル達にあんな事を言ってしまったし、 僕がいない間にが何かされないかと心配なのもあった。 「はぁ~何だかそれを考えると憂鬱なんだよね…」 僕はソファーから立ち上がってベッドへと寝転がった。 するとエマがクスクスと笑っている。 「何、笑ってんの…?」 「ううん。やっと素直になったわね?」 「は?」 「が心配なんでしょ?」 「………っ」 「アハハっ。ダンってば解かりやすい!」 「うるさいなぁ…」 エマは僕をからかって楽しんでるようだ。 (全く…僕って、そんなに解かりやすいのかな…) そう考えて、僕はちょっと落ち込んだ…。 私は夕飯を食べ終え、パジャマに着替える前にシャワーに入ると温度を調節してからゆっくり浴びた。 朝も軽くシャワーを浴びるが寝る前にも、こうしてスッキリしないとベッドに入る気になれない。 「はぁ…スッキリした」 独り言を呟き、濡れた髪をバスタオルで拭きながら部屋へ戻る。 すると携帯が鳴っていて慌ててベッドに置きっ放しの携帯を取った。 その瞬間に音が鳴り止む。 「あ…メールだ…」 ディスプレイのメール着信の文字に笑顔になった。 急いでメールを開くとダンからで、その名を見て胸がドキンと鳴るのが解かる。 "へ。もう寝ちゃったかな?僕は今までエマの宿題を手伝わされてクタクタだよ(笑) それと明日は何時頃、学校に行くの?良かったら一緒に行こうよ。ダン" 「明日…」 そのメールを見て胸がドキドキしてきた。 明日、一緒に学校に行く… って何だか、些細な事なのにこんなに嬉しい。 私はすぐにメールの返事を書いた。 "ダンへ。まだ寝てなかったよ。ちょっとDVD見てたら遅くなっちゃって今から寝るとこです。 明日の朝は8時少し前には家を出ます。ホールの前で待ち合わせしましょう。 では、また明日!お休みなさい。" ちゃんと文を読み返してから少しドキドキしつつ送信をした。 そして髪を乾かすのに鏡台の前に座った途端、メール着信音が響いて私はすぐに携帯を見に戻った。 "明日の朝8時にホール前で!お休み。ダン" それを見て私はちょっと微笑んだ。 すぐに返事をくれるのも嬉しかったが、寝る前に"お休み"と言い合うのも凄く嬉しいと感じる。 「…お休み、ダン」 私は、そう呟いて携帯にチュっとキスをした。 それからは二人は毎日、一緒に学校に言って帰りも一緒に帰って来ていた。 学校でも気にせず仲良く話しているが、シェリル達は何もしてはこない。 と言うのもシェリルはダンに怒られたのが相当ショックだったのか、あの日以来学校を休んでいる。 そのせいでエリーもシェリルの取り巻き連中もの事を無視はしているが文句などは言ってこなかった。 「今日で最後だね。ダンが学校に来るの」 いつもの学校からの帰り道、が、そう呟いた。 「そんな…最後なんて二度と来ないわけじゃないんだから」 僕がそう言って笑うと、も、「それも、そうね」と言って微笑んだ。 だが、お互いに何となくそこで黙ってしまう。 僕は明日から次のシリーズの撮影に参加するため暫く学校には休学届けを出していた。 少しすれば学校も長い夏休みに入るのもあり、学校側もすんなりOKしてくれた。 まあ、OKしてもらわないと困るんだけど。 問題は…撮影中は不規則な生活になるのでと会える時間があまりないと言う事だ。 僕は15歳だから遅い時間までは撮影はないし夜には時間も出来る。 だけど、まさか夜に呼び出すことも出来ない。 何だか僕らって曖昧な関係だよなぁ… こうして毎日、一緒に学校に行ったり帰ってきたりしてるけど付き合ってるわけじゃない。 の事が好きなんだと自覚をしてしまってからは意識しちゃって何となく前のように誘えない… と言うか誘いにくくなってしまった。 一緒にどこかに行ったりしたいのに勉強する時や遊びに行くのにも、 ついエマとかルパートも誘っちゃって二人きりで…って事が出来なくなった。 エマには、"二人で、どっか行こう"って誘えばいいじゃない"と言われるんだけど… そんな事を考えつつ歩いていると、いつも分かれる場所まで来てしまった。 「じゃ…撮影、頑張ってね?」 が笑顔で僕の顔を見上げた。 僕も笑顔を作り、「うん。頑張るよ」と答えたがやはり明日からの顔が見れなくなるんだと思うと別れ難くなる。 「あ、あのさ…」 「ん?」 「学校…休みの日とか…撮影見学においでよ」 さりげなく、そう言ってみるとも嬉しそうに微笑んだが、「いいの…?」と聞いてくる。 「もちろん。エマもルパートも来てって言ってたろ?」 「うん…。でも邪魔にならないの?監督さんとかは…」 「ああ、そんなの気にすることないよ?監督もスタッフの人も何も言わないし、むしろ歓迎されると思うな?」 なるべく軽く、そう言ってみた。 するともホっとした顔で頷く。 「じゃあ…行けそうな時は前もってメールするね?」 「うん。待ってるよ。僕も時々メールするから」 「うん。待ってる」 は、そう言って少し恥ずかしそうに目を伏せた。 その顔を見た時、もしかしても僕と同じ気持ちでいてくれてるのかな…?と思ったほど照れくさそうに微笑む彼女に 僕は、つい気持ちを言ってしまおうかと考えたくらいだ。 ダメダメ…もし今、告白してダメだったり、返事を待たされでもしたら撮影に支障をきたしそうだ。 もっと…心に余裕のある時に言わなくちゃ… 「じゃあ…またね?」 名残惜しいと思いつつもそう言うとも軽く手をあげた。 「うん。また…」 そのまま家の方向に歩いて行く。 その彼女の後姿を見送りながら少しこの状況が歯痒いな…と思っていた。 「はぁ…」 私は何度目かの溜息をつきつつ、テラスに出て夜空を見上げた。 何となく気分も沈み、元気が出ない。 (明日から…ダンは学校に来ないんだなぁ…) そう思うと寂しいのと心細いのとで、どうしても気力が出ないのだ。 最近はずっと一緒にいた気がしてその分、来週から一人で学校に行ったりするのが憂鬱になってしまう。 「仕方ないよね…。ダンは…そういうお仕事してる人なんだもの」 そう呟いて部屋に戻った。 その時―携帯の着信音が響き、ドキっとしながらも慌てて携帯に出た。 「Hello?」 『あ、?』 「ダン…?」 『うん。今、大丈夫?』 「大丈夫よ?部屋だから…。どうしたの?」 ちょうど寂しいなと思ってた時にダンの声が聞けて私は嬉しくなった。 『あの…さ…。今、出て来れるかな…?』 「え?」 『ちょっと渡したいものがあって…ダメ?』 そう言われて私は急いで時計を見た。 まだ8時過ぎ… お父さんは帰って来ていない。 「うん。いいよ?どこに行けばいい?」 考えたのは一瞬で、すぐそう返事をしていた。 『ほんと?じゃあ…ホール前で』 「解かった。じゃ、すぐ行くね?」 『うん、待ってるね』 ダンはホっとした感じでそう言うと電話を切った。 私は携帯を放るとすぐに部屋を出てリビングにいる母に事情を話してOKをもらった。 母は、「ハリーくんと上手くいってるの?」なんて呑気な事を言ってきて私は顔が赤くなった。 どうやら母は私がダンの事を好きなのを知ってるようだ。 私は母の追求を何とか誤魔化してすぐに家を出た。 (渡したいものって何だろう…) そんな事を思いながら少しづつ歩くのが早くなる。 そして早歩きからそのまま走るようにホールの前に来るとダンが手を振っていた。 「!こっち」 その笑顔に思わず、私は駆け寄った。 「ごめん。待った?」 「ううん。ちょうど僕も来たとこ」 「そう、良かった」 そう言ってダンを見上げた。 するとダンはちょっと微笑んで、「これ…撮影スタジオの地図なんだけど…」と私の前に紙の封筒を差し出した。 「え…?地図…」 私は驚いてそれを受け取った。 「うん。もし来れるってなった時に撮影とかで抜け出せなくて、これ渡せないと困るなと思ってさ」 「あ…ありがとう…」 ダンの気持ちが嬉しくて私は笑顔になった。 「さっき家に帰ってから思い出して…急いでコピーしたんだ」 ダンは、そう言って照れくさそうに笑った。 ダンがそこまで考えててくれたことが嬉しくて手に持っていた封筒を胸に押し当てる。 「ほんとに、ありがと。休みの日で行けそうな時は連絡するから…」 「うん。待ってるよ。エマやルパートも、さっき電話で話したらが来るの楽しみにしてたよ?」 「ほんと?嬉しいな…」 こんな友達が出来て…ほんとに私は幸せだと思った。 するとダンが私の方をチラっと見た。 「あのさ…」 「え?」 「もし…僕が学校いない間に…また何かされたら…すぐに連絡してね?」 「ダン…」 「いや…もう大丈夫だと思うんだけど何となく心配だし…さ」 ダンはそう言って私の顔を見つめてきてドキっとした。 「あ、あの…大丈夫よ。もう…私は何を言われても怖くないし…」 ダンを安心させたくて、そう言ってから笑顔を見せる。 だがダンは少し困った顔をして私の頭にポンと手を乗せ息をついた。 「は、すぐそうやって強がるんだからさ…。少しは頼ってよ」 「………っ」 真顔でそんな事を言われて私は顔が赤くなってしまった。 男の子からこんな風に言われた事なんてないし、しかも好きな相手からなんて一度もない。 ストレートに言われる事にだって慣れてないんだから… 「あ、あの…ほんとに大丈夫だから…。そんな心配しないで?」 私は恥ずかしくて早口になってしまった。 「そろそろ、お父さん帰って来るから帰らなくちゃ…」 「あ…そっか。もう遅いもんね。じゃ家の前まで送る」 「えっ。そんな…悪いわ?近いし…」 「いいよ。僕が呼び出したんだし…」 「え、ちょ…」 ダンが私の手をグイっと掴んで家の方に歩き出したのでちょっと驚いた。 (きょ、今日のダンって何だかいつもより強引…だけど…でもかっこいい…) 何て思いつつ、ダンの隣を歩いた。 チラっとダンの顔を見上げると少しだけ頬が赤い。 (もしかして…ダンも照れてる…とか…?) ふと、そんな事を思ってドキっとしたが不意にダンが私の方に顔を向け、「ん?」と首を傾げた。 私はパっと視線を反らし、「ううん…何でもない」と呟き、誤魔化した。 (きっと私の顔も赤くなってると思うから…) その後は二人で黙ったまま歩いてすぐに私の家まで来てしまった。 「あの…ありがとう…」 「いいよ、そんなの」 ダンはちょっと微笑むと、ゆっくり私の手を離した。 「明日からの撮影、頑張ってね?」 「うん。また…連絡するね」 「私も…」 「じゃ…お休み」 「お休みなさい…」 そう言って門の中に入ろうとした。 だが、ちょっと振り向くとダンが笑顔で手を振っている。 そのまま後ろへ下がりながら、「早く入りなよ」と小声で言って笑っている。 その笑顔がたまらなく好きだなと思った。 ちょっと手を上げると門を開けて中に入り、「気をつけてね」と小声で言って、そのまま玄関の方に向かった。 そしてもう一度振り向くと、そこにはもうダンはいなくて、ちょっと寂しいと思いながら家の中に入ると… 「お帰り、」 「キャ…っ」 母が目の前に立っていて驚いた。 「な、何よ、お母さん…驚くじゃないっ」 「いいわねぇ~青春してて!」 「は?」 「今、ちょっと気になってドア開けて覗いたら、ハリーくんが、"早く入れよ"なんて言ってるのが聞こえたのよ。 は~、いいわね~。お母さんも、みたいな恋してたのよ~」 浮かれながらそんな事を言っている母に、私は少し呆れながら、「何十年前の話?」と言ってやった。 「ま、可愛くない!何よ。だってすぐ歳とって結婚してこんな可愛くない子供を産むんだから。 今のうち、せいぜい楽しみなさい」 母はそう言うと私の鼻を指でツンとつついてリビングに戻って行ってしまった。 「もう…ほんと大人気ないんだから…」 私は苦笑しつつ自分の部屋に戻ってベッドに腰掛けながらダンからもらった封筒を開けてみる。 中にはA5くらいの紙が一枚入っていて、それ一面に地図やスタジオまでの電車の路線までが載っていた。 「わ…これなら初めてでも、ちゃんと行けそう…」 私は嬉しくなって紙を全部出してみた。 すると一番下のところに、 "来れそうな時は必ず連絡してね。エマやルパート達と待ってるから。ダン" と走り書きがしてあった。 「ダンらしい…」 その文字を指でなぞってちょっと微笑んだ。 そのままベッドに寝転がって枕に顔を押し付ける。 胸がドキドキする… こんなの初めてだ。 これが…恋なんだなぁ… 小学生とかの、ちょっといいなっていう初恋じゃなくて… 本気で人を愛しいと思う初恋… 私は…今、恋をしてるんだ… そう思うと、ますますドキドキしてきて、今夜は眠れそうになかった。 |
Postscript
ダンVer、第6弾ですv
何だか、これ書くのに3日もかかりました(汗)
なのに、たいした話じゃなく申しわけない~
どぅも手が止まっちゃって…まとまりないですね(苦笑)
次は連載の方を書かなくちゃですね^^;
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】