Chapter.7 あと少し~逢いたい~                 Only you can love me...






『―Good morning!―


今日の休みは一日、何するの?僕は今から日本のメディアの記者会見に衛生中継で参加するんだ。
エマとルパートが今度、公開する3作目のプロモーションで一昨日から日本に行ってるからね。
僕がいないからって変なこと言わないよう釘刺さないと(笑)二人から、もう連絡来たかな?
は、もうすぐ学校が休みに入るだろ?早く皆で会いたいね!
エマたちものお土産日本で買ってくるって張り切ってたよ?
は日本の子なんだから、そんなのいらないんじゃない?って言ったんだけど聞かなくてさ(苦笑)
それじゃ…勉強頑張ってね。僕も家庭教師について頑張るから。またメールする。 from:ダン』


スクロールして文章を読みながらつい笑みが零れる。
そして携帯の画面を開いたまま、テーブルの上に置くと、それを眺めながら紅茶を飲んだ。
私は今、ケンジントン・ガーデンズのブロードウォーク前にあるカフェにいる。
今日は日曜日で学校も休み。
起きてすぐにメールをチェックすると、ダンからメールがきていて嬉しさのあまり目が覚めてしまった。
そのまま気分がいいから、と近所のケンジントン・ガーデンズに散歩しに来たのだった。


「はぁ~日本かぁ…。いいなぁ…こっちでは放送ないのかな…」


そんな事を呟きながら真っ青な空を見上げる。
ロンドンでは珍しく晴れた日で時々吹いてくる風が気持ちいい。


エマとルパートは今頃、日本で仕事をしてるんだろう。
向こうに発つ前に二人からはメールが来ていた。


("の母国に行って来るね!"と嬉しそうにしていたエマは日本を楽しんでるのかな…)


私はてっきりダンも行くのかと思ったけど、ダンは撮影の方が詰まってて今回は二人だけとなったようだった。


でも…衛星中継で記者会見に参加なんて…
それが日本のメディアに流れるんだ…なんて思うと、ちょっと羨ましい。
こっちでも宣伝はしてるしテレビに出る事もあるが私は日本のファンに向けてメッセージを送ってるダンが見たいと思った。
それに日本にいるエマとルパートの姿も…
…ハリーは日本でも凄い人気だから、きっと二人とも騒がれてるんだろうなぁ…


私は空に浮かぶ雲を眺めながら、軽く息をついた。
ダンが学校に来なくなってから私は休みのたびに会いに行こうかと考えたが、
どうしても行っていい?とはメールが送れなかった。
ダンは、おいでと言ってくれたけど、やっぱり映画の撮影現場なんて緊張するし、それに…
ダンが自分とは違う世界の人だという事を目の前で見たくないという気持ちにもなる。
"クラスメートのダン"から、"ACTORのダニエル・ラドクリフ"になってる彼を見るのが怖かった。


でも…会いたい…
もう何週間、会ってないんだろう…
時々、こうしてメールを送りあうのだけど、なかなか電話で話す事さえ出来ない。
ダンが時間が空く頃、私は学校だったり、寝ている時間だったりするし、
私が空いてる時間の時にはダンは撮影してたり…という感じだ。
だからメールだけで声も聞けない日が続いている。
会えなくなって、改めて私はダンの事が好きなんだと実感してしまった。


やっぱり…スタジオに行こうかな…
そしたら…ダンに会える。
でも…普通の日曜日とかよりは…来週に始まる長い夏休みに行った方がいいのかもしれない。
そしたらダンがスタジオにいる日を選んで行く事が出来る。
今はロンドン郊外でロケをする事もあると前にメールで書いてあった。
いくら何でもロケ現場まで行く事は出来ない。


(あ~あ…早く来週にならないかな…)


そんな事を思いながら公園の芝生で仲良く寛ぐ恋人たちを見て、ちょっと羨ましくなった。




















『…では…お二人に共演者のダニエルくんの話でも聞きましょうか。彼はどんな人ですか?』


目の前のモニターから僕には解からない言葉が聞こえて来て、画面には澄ました顔のエマとルパートが映っている。
僕はカメラの前の椅子に座りながらそれを見ていたが、耳に入れたイヤホンから今の日本のメディアが話した言葉の訳が聞こえて来て苦笑した。
カメラの向こうのスタッフが僕の方に紙を振っている。
それを見ると、"何かコメントして"と書いてあった。
僕はちょっと頷くと、


「二人とも…解かってるよね?」


と変な事を話すなよ…的な視線でカメラを見る。
それには日本の会場にいるエマとルパートも苦笑いした。


『ダニエルは、よくスタッフにイタズラしてるわ?彼はとてもイタズラが好きなの』


エマが営業用のスマイルたっぷりに無難に答えているのを見て僕はちょっと吹き出しそうになった。


(そりゃ自分もだろ…?)


と、つい突っ込んでしまいたくなる。
ルパートだって同じ事でエマのコメントに大きく頷いているが、自分だってイタズラに参加してるのだ。


あ~あ。同じ質問を僕にしてくれたら、すぐ二人の本当の姿を話してあげるのに。
エマはいつも宿題が出来ないといって泣きついてくる事とか、ルパートは一日に6回は食事をする事とか…


そんな事を考えていると、日本の女性インタビュアーが僕に話しかけてきた。


『ダニエルくんは今回、来日出来なかったですね?』


すぐにイヤホンから訳が聞こえて来て僕は笑顔で答えた。
と同じ国の人だと思うと、つい愛想も良くなる。


「今回は4作目の撮影で行けなくて残念だよ。また機会があれば是非、行きたいな」


僕がそう話すとエマとルパートがニヤニヤしているのが見える。
大方、営業しちゃって…とか思ってるんだろう。


僕はニコニコと次の質問に答えながらも、この後に撮るシーンの事を考えていた。











「あの二人、ほんと営業してたね」


僕が仲のいいスタッフのロバートに笑いながらそう言うと、「それはダンもだろ?」と額をつつかれた。


「僕は普段と同じだよ?」


澄ました顔で両手を広げればロバートはケラケラと笑っている。


「よく言うよ。あれで世界中の老若男女を騙してるんだろうなぁ、ダンは」
「うわ、人聞き悪いよ、ロバート。僕は騙してなんかいないってば」


そう言って苦笑しながらスタジオへと入っていくと、ロバートは大げさに頭を抱えている。


「OH!NO!自覚がないのは最悪だっ。俺が恋人の一人もいなくて、
15歳のダンには結婚の申し込みが殺到してるってのに!」
「アハハっ。そっか、ロバートは未だフリーだったね。お気の毒」
「ぬっ。そう言うダンだって別れてから、まだ一人じゃないか」
「あ~そうだけど…。僕はロバートよりは寂しい生活は送ってないからね?」
「何ぃ~?お前、まさか…彼女が出来たとか?!」


僕が鏡を見ながら髪型を整えているとロバートがその鏡を奪って顔を覗き込んできた。


「そ、そんなんじゃないよっ。鏡、返してよ。もうすぐ撮影なんだから」


ロバートの手から鏡を奪い返すと、彼は疑いの眼差しで僕を見てくる。


「怪しいなぁ…。そう言えば…最近よく休憩になるとメールしてるようだけど…彼女じゃないのか?」
「違うよ、友達だってば。もう、うるさいなぁ、ロバートは。ルパートといい勝負だよ。26歳のクセに」
「いいんだ。俺はいつまでも少年の心を忘れたくないのさっ」
「…はいはい…。解かったから…。それより監督が呼んでるよ?」
「え?あ、ヤベ!じゃ、撮影、頑張れよ!」


ロバートは、そう言って慌てて監督の方に走っていった。
僕はそれを見届けてからそっとポケットの中の携帯を確認する。
音がマナーモードになってる事を確めると、ついでにメールをチェックした。
すると一通、新しいメールが届いて思わず笑顔になる。


『―Re:Good morning!―

おはよう、ダン。日本との衛星中継は、もう終ったのかな?私も見たかったです。
今日は天気がいいから今、ケンジントン・ガーデンズで散歩中なの。
前に皆で行ったカフェで、このメールを書いてます。
ダンは今は撮影中かな?勉強もあるし大変だよね。体に気をつけてね!
それと来週には夏休みに入るし…
出来れば皆に会いたいな。もし撮影見学できそうな日があれば教えて下さい。それじゃ、またね!


その文章を読み終えて僕は小さく、「やった…っ」 と呟いた。
"出来れば皆に会いたいな"と書かれていた、たったそれだけの事で凄く嬉しくなってくる。


…夏休みに入ったら遊びに来てくれるんだ…
やっと会える…


そう思うと早く夏休みにならないかなと思った。
それに…もしが来てくれるなら、比較的、撮影が楽な日がいいなとも考えてみる。


せっかく来てくれて撮影がハードだったら、あまり一緒に話したり出来ないかもしれないし…
ちょっと今後のスケジュール、監督に聞いてみよう…


「ダン!スタンバイしてくれ!」
「あ、はい!」


そんな事を考えていたら監督に呼ばれて僕は携帯を慌ててポケットにしまうと、セット方まで走っていった。











!どうだった?」
「あ、チャーリー。私は思ってたより良かったわ?最近、頑張って勉強してたし…」
「そうなんだあ~。俺は前回と変わらずだよ…。ま、下がるよりはいいけどさ」


チャーリーはそう言って成績表をヒラヒラさせている。
今日は日本でいう所の終業式で、明日から長い夏休みだ。
今はホームルームも終って皆が帰る用意をしている。


、夏休みは日本に帰るの?」


チャーリーは鞄に成績表をしまうとちょっと顔をあげて聞いて来た。


「ううん。帰らないわ?前はそうしようと思ってたけどお金もかかるし。チャーリーはどこか行く予定なの?」
「あ~俺は毎回、サッカーの合宿だよ?夏休み中にトーナメントがあるしさ」
「そうなの?大変ねぇ…」
「うん。でも好きな事だし楽しいよ。目標もあるし」
「どんな?あ、プロになるとか?」
「That's right!」
「えー凄い!」


私はチャーリーの言葉に驚いた。


「俺、夏の大会が終ったらアーセナルのジュニアチームに入る為のテスト受けるんだ」
「え?そうなの?じゃあ…それに受かればプロってこと?」
「まさか!そこで腕を磨くんだよ。ってサッカーだから足か」


チャーリーはそんな事を言って笑っている。


「もちろん…そこで認められれば…将来はトップチームに上がれるしね。
まずはサテライトからでもいいんだ。でも絶対にトップに入ってみせるよ」


真剣に自分の夢を話すチャーリーに私は感動してしまって、ちょっと胸が熱くなった。


「頑張って!チャーリーなら絶対にトップに入れるわ?将来はイングランド代表になるって信じてるから」
「サンキュ!その時はも試合、見に来てね?」
「うん!絶対に行くわ?チャーリーの背番号のユニフォーム着てね?」


私がそう言うとチャーリーは楽しげに笑った。


「その時は大きくサインしてやるよ。じゃ、俺はこれから合宿の準備だし帰るよ。楽しい夏休みを!」
「うん。また二学期にね!」


そう言って手を振るとチャーリーも笑顔で手を振りながら教室を出て行った。
それを見届けて私も鞄を持つと、教室を出ようとして、ふと、まだ残っていたエリーと目が合う。
少し怖い顔をしていたが、彼女はプイっと顔を背けると友達と教室から出て行ってしまった。


あ…エリーはチャーリーが好きなんだっけ…
話してたから気を悪くしたのかな…


そんな事を思いながら、ちょっと息をつくと私は教室を出て玄関へと向かった。
エリー達は学校に来ているが、シェリルは、なかなか来なくて少し心配になる。


どうしよう…
凄く傷ついたのかな…
そりゃ、そうだよね…。
好きな人から、あんなこと言われたんだもの…
辛いに違いない。
それにシェリルはプライドも高そうだし、取り巻きの前であんなこと言われたからショックも倍だったのかも…

確かに…シェリルの事を好きにはなれないけど、そこは少し同情してしまった。
自分もダンが好きだからってのもあるのかもしれない。
もし…自分が、あんな風にダンに怒られたりしたら…きっと立ち直れないと思うから…
かといって…私には何も出来ないし、そっとしておくのが一番だろうな…


そんな事を考えながら外へ出ると、空を見上げた。
今日の空は何だかどんよりとしていて気分も沈む。
その時、携帯の着信音が鳴り響き、ドキっとした。
すぐに開くと、メールが来ていた。


「あ…エマからだ」


差出人の名前を見てちょっと微笑むと、すぐにメールを読んでみる。


『―本日のハリー(ダン)だよ♪―

こんにちは!夕べはメールとチャーリーの写真、ありがとう!すぐ保存しちゃったv
ダンの寝顔も喜んでもらえて良かったわ?
でもダンったら最近、私を警戒してなかなか写真を撮らせてくれないのよ?
"何で僕を撮るんだよっ!何か変なことに使う気?"なんて言って怪しんでるの(笑)
まさかに送ってるとは思ってないでしょうね(笑)
は今日で学校終わりでしょ?家族とで出かけないなら是非、是非"ハリーポッター"の撮影現場に見学へ♪
じゃ、またメールするね!それと最後に…今さっき、隙を見てやっと撮ったダンの写真を添付しますv
ハリーの格好したダンだよーv エマより』


文章を読んでからリンクの部分をすぐにクリックしてみた。
するとダンがハリーの衣装を着たまま台本を読んでる写真が見れてちょっとドキドキする。


「わぁ…本物のハリーだ…。しかもドアップ…」


私はこれをエマが撮ってる姿を想像して笑ってしまった。


こんなに近いとこから撮ったならダンにバレバレなんじゃないかな…。
でもダン、凄い真剣な顔で台本読んでるし、もしかしたら気付いてないかもしれないなあ…


私はそのダンの写真を見ながら家までの道のりを歩いて行った。
エマは、ここ最近こうしてダンの写真を送ってくれるようになった。
昨日はダンが待ち時間に控室のソファーで居眠りしてる写真を送ってくれたし、
その前はスタッフの人と楽しそうにジャレている写真だった。
ダンに会えなくて、今何をしてるのかななんて思ってる私としてはそのエマの好意が嬉しいのだけど、
もしかしてエマは私の気持ちに気付いてるんじゃないかとドキドキしてしまう。
時々ルパートの写真や自分のも送ってくれるが、ダンの写真が圧倒的に多い。
最初は喜んで見ていたのだが、今は、どうして私にダンの写真を送ってくるんだろう…?と気になってきた。


この文章を見る分だとエマは私に写真を送ってるってダンに言ってないみたいだし…
やっぱりバレてるのかな…


そう思うと何だか恥かしくて顔を合わせづらい気もするが、やはりダンには会いたい。


どうしよう…
いつ行こうかなぁ…
ダンは、来週からロケに出るってこの前のメールで教えてくれたし…
それ終わって帰って来るまでは行けないのよね…
お母さんとお父さんは夏休み中に家族でどっか出かけようなんて言ってたしなぁ…
かぶらない事を祈るだけだわ…


一人あれこれ考えながらも、エマが送ってくれたダンの写真を見て自然と笑顔になった。















「おい、エマ!また撮る気?」


読んでた台本をテーブルの上に置くと目の前で携帯を構えていたエマが、
「今だ!ハリーをパパラッチ!」と言ってシャッターボタンを押した。


「おい!何なんだよ、全く…っ。この前から何を、そんなに写真撮ってるんだよ?」


僕はフラッシュの眩しさで目を細めながら文句を言った。
だがエマは一向に気にする事なく、今撮った写真を確認している。


「よし。よく撮れてる!私って写真、写すの上手いかも」
「おい、エマ、聞いてる?」
「聞いてるわよ~。まあ、いいじゃない。写真くらい」


エマはそう言いながら写真を保存にした。
するとソファーで寝転んで台本を読んでたルパートが体を起こして、


「さてはエマ…。その写真をダンのファンに売ってるな?」


と言ってケラケラと笑っている。


「ちょっとルパート!何アホなこと言ってるの?そんな事する訳ないでしょ?!」
「え~?だって最近、ダンの写真ばっか撮ってるじゃん。もしかして…エマ、ダンの事が好きなの?」


ルパートは目を細めつつニヤリと笑った。
それにはエマも呆れ顔で溜息をつく。


「あのねぇ…。私がダンを好きだったらとっくに告白してるわ!私、好きな人には好きって言わないと気がすまないもの」
「おい…エマ…」


ダンが困ったような顔で溜息をついた。


「何よ。違うわよ?私がダンを好きなはずないじゃない!」
「わ、解かってるよ、そんなこと!」


僕は何だか恥ずかしくなってきて顔を背けるとルパートが呑気に笑っている。


「じゃあ、何でダンの写真ばっか撮ってるのさ?今まで、そんな事した事なかっただろぉ?」
「そ、それは…」
「何だか怪しいなぁ…。ほんと売ってたりして」
「ぐ…っ。ルパート!」


ルパートにそう言われてエマは言葉に詰まった。
僕はそんなエマを見て首を傾げると、「エマ…ほんとに写真、売ってるの?」と一応聞いてみた。
だがエマは真っ赤になって怒り出した。


「売ってるわけないでしょ?!私が何で、そんなことしなくちゃならないのよ!
仲間を売るなんてすると思うの?!私はに―っ」
「「えっ?!」」
「あ…」


エマは慌てて口をおさえて僕からサっと目を反らした。


「ちょっとエマ…今…何て言ったの…?に…って…に僕の写真を送ってたってこと?!」


僕は驚いて椅子から立ち上がってエマの肩を掴んだ。
エマは、あちゃ~みたいな顔で顔を顰めると、すぐに笑顔を見せる。


「あ、あのね!実はそうなの。ダンの写真、に送ってたのよ」
「な、何で、そんなこと?!」


それを聞いて僕は顔が赤くなった。
まさか最近、毎日のように撮ってた写真をに送ってたなんて事は…っ


「おい、エマ~。何でダンの写真、に送ってたの?ま、まさか…!
に頼まれたとか?!がダンのこと好きだとか?!」


ルパートが驚いたように問い詰めているが、そのルパートの言葉にすら、ドキっとする。


「エマ…何でか教えてよ。何で僕の写真…」
「あ~もう!これは頼まれたとかじゃなくて私が勝手に送ってたのよっ」
「え?」


エマは仕方ないといった顔で肩を竦めた。


「どういう…こと?」


そう聞くとエマはちょっと息をついて椅子に座った。


「だから…こんなこと言ったら、ダンに余計なことするなって言われそうだから…。
私の独断でダンに協力しようと思ったって言うか…」
「な、何が?僕に協力って?」
「そうだよ、エマ~。にダンの写真を送るのが何の協力になるんだよ?」


ルパートは僕の気持ちを知らないのでそんな事を言っている。
エマはチラっと僕を見て、言ってもいい?みたいな顔をした。
僕は慌てて首を振ったが、そのやり取りを見てルパートが顔を顰めた。


「ん?何だか怪しいな、おまえら…。も、もしかして!!ダン、お前、のこと?!」
「え?な、何言って…!」
「いや!今の話の流れから行くとそんな感じだったぞ?!二人して目配せなんてしてたし!!正直に言えよっ」


ルパートの言葉に僕は溜息をついた。
するとエマが苦笑して肩を竦めながら、「もういいじゃない。言っちゃえば」なんて呑気な事を言っている。


「そうよ?ダンはのことが好きなの。だから私が上手く行くように協力をしようと…」
「えぇぇ~~っっ?!そ、そうなの?ほんとに?!」
「ちょっとルパート…うるさい」


僕はガックリきて後ろのソファーに腰をかけた。
するとルパートが僕の隣にきて肩を掴んでくる。


「お、お前、ほんとにが好きなの?!ほんと?だって友達だって…っ」
「少し、落ち着けよ…。そりゃ最初は友達として…いい子だなって思ったりしてたけどさ…」
「で、でも好きになっちゃったのか?うわーーそうなんだーーっ」
「そんな驚くなよ…。ルパートだってのこと好きなんだろ?」
「い、いや、そうだけどさ…。ダンがライバルなら僕は勝ち目ないじゃん!もう諦めるよ…っ」


ルパートはそう言って口を尖らせた。


「おい…そんな、そんなこと言うなって…」
「だってエマだってダンを応援してるじゃないか。いいよ、僕なんて…どうせ振られる思うし…」


ルパートは、そう言ってスネてしまった。
僕とエマは顔を見合わせて溜息をつく。


「もうルパートったら、すぐスネるんだから!諦めるなら好きにしたら?でもダンは諦めないでしょ?」
「え?!あ、いや僕はさ…」
「いいよ、ダン…。僕のことは気にするなよ…。どうせはダンの方がお似合いだしさ…」


ルパートはソファーの上で足を抱えるように体育座りをしてソファーの綻びに指を入れてホジホジしている。

「もう!男のくせにイジイジしないでよ!ダン、放っておきなさいよ」
「う、うん…でもさ…。あ…ってか、エマ。何で写真をに送ってたのか聞いてないよ?」


ルパートに気をとられていたが、その事を思い出し再び聞いてみた。
するとルパートもやっと顔をあげる。


「そ、そうだよ!何で送ってたの?何か作戦?」
「ああ、そのこと?まあ、そうね。作戦よ、作戦!」


エマが得意げに胸を張ってそう言った。


「さ、作戦って…どんな?」


僕は不安に思いつつ、エマを見た。
するとエマはニヤリと笑う。


「あのね。私、最近ずっとダンの写真を撮ってにメールする時にそれを添付してたの。
何でかって言うと、学校だけじゃなくて俳優としてのダンの姿も見せてあげたいし、
ほら、しょっちゅうダンの写真とか見てたら、だって意識しはじめるかもしれないでしょ?
結構、携帯で写真とか見てると、だんだん、いいなぁ~なんて思うと思うのよっ」


エマは張り切って、そう言いながらニコニコとしている。
だが僕はそれを聞いて顔が赤くなった。


「そ、そんなの解からないだろ?もし迷惑に思ってたらどうするんだよ?
だいたい何で僕の写真送るんだろうくらい思われてるよ!勝手なことするなよな?!」
「もぅ~。そうやって怒ると思ったから内緒で送ってたのよ…。
それ言うなら迷惑に思ってるかどうかだって解からないじゃない。
それに、結構喜んでたわよ?昨日もダンの寝顔の写真送ったら可愛い写真ありがとうって返事来たし」
「な…っっ。何で寝顔…いつの間に撮ったんだよ!!」


僕は今度は耳まで赤くなり、ソファーから立ち上がった。
だがエマは澄ました顔で、「この前、ダンが居眠りしてたから、その時撮ったのよ?」と言って笑っている。
僕はに寝顔を見られたのかと思うと恥かしくなった。
しかも、可愛い…て…何だか男として見られてないようで少し落ち込んだ。


「も、もう送るなよ?!ってか僕の写真を撮るなっ」


僕はそう言って台本を取ると控室を出て行こうとした。
するとエマが慌てて僕の腕を掴む。


「ちょっと待ってよ!急に送らなくなったら変に思うでしょ?それにだってダンのこと意識してるかも…っ」
「いいよ、もう。にとったら僕は友達でしかないと思うし…」
「ダン…」


エマが少し申しわけなさそうな顔をして僕の腕を離した。
その時、携帯の着信音が聞こえてエマがハっとした。


「あ…私だ…」


エマは持ってた携帯を見て呟いた。
僕はちょっと息をついて、そのままスタジオに向かおうと歩き出そうとした時、


「あ…待って、ダン!メール…からっ」


と言って、また僕の腕を掴んだ。


「ちょっと待ってね。さっきもメール送ったの。写真付きで」


エマはそう言ってメールを読んでいる。
そして笑顔で僕を見た。


「ダン、、また写真送ってって!ほら」
「え…?」


エマはそう言って携帯の画面を僕に見せた。
僕は携帯を受け取ってからのメールを読んでみた。


『―Re:本日のハリー(ダン)だよ♪―

こんにちは!メールと写真、ありがとう!ハリー姿のダンを見れて、ちょっとワクワクしちゃいました^^
でもダンに怪しまれてるなんて大丈夫?私に送ってるって言えばいいのに(笑)
もし何だったら私が仕事してるダンの姿を見たいって言ってるからって言っても構わないし…。
それに本当に見たいし、また写真、楽しみに待ってるねv
今日でやっと学校も終って休みに入るしロケが終った頃にでも遊びに行きたいなって思ってます。
早く生でハリー、ハーマイオニー、ロンになった3人を見てみたいな!ではでは、またメール下さい。
最後に…ダンの写真、ほんとにありがとう!


僕はそのメールを見てまたしても顔が赤くなってしまった。
それを見てエマもニヤニヤしている。


「ね?喜んでるでしょ?私の作戦も案外うまくいってるかもしれないわ~。
それに自分のせいにしていいなんて、やっぱりって優しいわっ」


エマは僕の手から携帯を取ると、そんな事を言いながらウキウキしている。


「良かったね?ダン」
「よ、良かったって別に…」
「あら、素直じゃないわね~。、ダンのハリー姿を見て惚れちゃったかもしれないじゃない」
「バ、バカなこと言ってないで用意しろよ?そろそろ撮影始まるからっ」


僕はそう言って控室を出てスタジオに向かった。
何だかドキドキしてきて変な汗が出て来る。
我ながら素直じゃないなと思ったけど、まさかエマの前で嬉しい顔なんて出来ない。
(この先ずっと、からかわれそうだ)


「はぁ…」


僕はスタジオに入るとセットの中の椅子に座って息をついた。


確かに…あのメールの文章を見る限り、僕の写真を送ってる事に迷惑と思ってないように思う。
逆に喜んでくれてるって感じだった。
それが凄く嬉しい。


「ロケが終ったら…か…」


(そんな先になちゃうのか、会えるのは…)


そう思うと、無償に会いたくなってくる。
同じロンドンにいるのに遠距離のように感じて寂しくなった。
そこへアルフォンソ監督が歩いて来た。


「お、ダン。準備出来てるか?」
「あ、アル…。うん、いつでもOKだよ?」
「そっか、そろそろ始まるからな?」


アルフォンソはそう言ってスタッフの方に歩いて行こうとした。
その時、僕は、ちょっとロケについて聞こうと彼を呼び止めた。


「アルっ」
「ん?何だ?」


アルフォンソは足を止めて振り返った。


「今度のロケ…どのくらいかかる?」
「ああ…えっと…来週の頭から…10日間くらいの予定だけど…。どうしてだ?」
「いや…10日間も…か…」
「何だ?何か…都合が悪いのか?」
「あ、そんなんじゃないよ」


僕はそう言いながら、そんな先までに会えないんだ…と少し落ち込んだ。
そんな僕を見てアルフォンソは首を傾げている。


「どうした?何か心配ごとでも?」
「え?いや…」
「ダンは好きな子を撮影現場に呼びたかったけど、それが伸びそうだから落ち込んでるんですよ?」
「…………?!」


その声にギョっとして振り返ると、エマがハーマイオニーの姿でニコニコと立っている。


「な、何言って…」


僕は監督…アルフォンソの前でそんな事をバラされて顔が赤くなった。
当然、アルフォンソは驚いた顔をしていたが、突然ニヤニヤしながら僕を見ると、


「へえ~ダン、お前いつの間に彼女なんて作ったんだ?学校の子か?」


と肩を組んでくる。


「ち、違うよっ。彼女じゃ…」
「そうよ?まだ彼女じゃないの。でもダンは好きなのよね?」
「エ、エマ!いい加減に…っ」


僕は顔が真っ赤になりつつエマの腕を掴んだ。


だがアルフォンソは楽しげに笑うと、「何だ、そうかっ。じゃあ俺にも紹介しろよ」と呑気な事を言っている。


「しょ、招介って言ったって…」
「ああ、ロケが終ってからじゃ遅いんだろ?だったら今週中にその子にロケのスケジュールとか行き先を教えて何とか来てくれるように頼めばいいさ」
「え?」


言ってる意味が解からず、彼を見上げるとアルフォンソは軽くウインクをした。


「その子は同じ学校の子か?」
「う、うん…」
「だったら親の許可がいるな。ま、どうせ夏休みなんだろ?旅行気分でロケ現場においでと言ってやれ」
「え…っ?!ロ、ロケ現場って…」
「キャ~アル!ロケ現場に呼んでもいいの?」


エマも喜んでアルフォンソの腕にしがみ付いた。


「何だ。エマも、その子を知ってるのか?」
「ええ!友達よ?」
「そっか。ま、ロケ現場は少し遠いが別に呼んでも構わないよ?その子が外泊の許可が取れるなら」


アルフォンソはそう言って僕の頭にポンと手を置いた。
その言葉に僕は唖然として、「え…外泊って…彼女も泊りがけで…ってこと?」と聞いた。
それにはアルフォンソも笑っている。


「そりゃ、そうだろう?10日間、そこに行きっ放しなんだ。日帰りするには遠すぎるだろう?
なに、ホテルとかは自分でとってもらうか…
それかエマが友達なんだからエマの部屋でもいいだろ?どうせ全てツインを取ってあるんだし」
「ほんと?ならいいわ?私の部屋に泊めるから!ね?ダン、良かったね!」


エマはすっかり興奮して大喜びしている。


「よ、良かったねって…。まだに話してもいないし彼女の両親がOKするかどうか…」
「大丈夫よ。夏休みなんだし!それに別に悪い事するわけじゃないんだから。
クルーは皆、大人ばかりだし心配ないでしょ?」
「それを決めるのはの両親だろ?そんな映画のロケについてくって言えば、きっと心配するよ」


僕はちょっと冷静に考えて、そう言った。
するとアルフォンソが顎に手をあてながら、


「そうだなぁ…。じゃあ…もし反対でもされそうなら誰か大人に間に入ってもらうとか…。ま、最悪、俺が彼女の両親に話してもいいぞ?」
「ええ?!アルが?!」


これには僕も心底、驚いた。


「ああ。お前の恋を応援してやるよ。上手く行かなくて撮影に支障が出ても困るしな?」
「…………っっ!」


その言葉に僕の顔はすでに真っ赤を通り越して変な汗が出てきた。


「キャ~アル、素敵!じゃあ、今夜にでもにメールしなさいよ!」


エマがそう言って僕の背中をバンっと叩いてきた。(だから痛いって)


「ぼ、僕からなんて誘えないよ…っ。そんな…外泊許可とれなんて…っ」
「ああ…そうだな。まだ彼氏じゃないしな?」
「ア、アルは黙っててよ!」
「おぉ、怖い、怖い!ま、じゃあ女の子のエマからでも誘って貰え。その"ちゃん"って子を」


アルフォンソは、いつの間にかの名前まで覚えたのか、そこだけ強調してニヤニヤしながら、


「じゃ、その話は撮影後にしろ。今は撮影に集中!じゃぁな」


と言って歩いて行ってしまった。
僕はそれを見ながら思い切り息を吐き出し汗を拭った。


「はぁ…ったく!エマも余計なこと言って!アルになんてバレたら、今後ずっとからかわれるだろ?」
「あら、でもロケに連れて来ていいって言ってくれたんだから良かったじゃないの」
「そ、それは…そうだけど…。の両親が…」
「それは私に任せて!とにかく今夜、に電話してみるわ?もう休みなんだし夜でも起きてると思うから。
それでが行きたいって言ったら、今度は両親を説得する方法を考えましょ?」


エマは張り切って、そう言うと、「さ、撮影が始まるわよ?」とセットの中に歩いて行った。
それには僕も仕方なく、ついて行く。


何だか…凄いことになってきた。
まさか…ロケにを一緒に連れて行く事になるかもしれないなんて。…
そりゃ…そうなれば僕は凄く嬉しい。
10日間はずっと一緒に(撮影中は無理だけど)いられるし、撮影がオフになれば一緒に出かけられる。
だけど…10日間の外泊を両親はいいと言うんだろうか…
そこだけが心配だった。
それにだってロケに来るのは躊躇うかもしれないし…


「はぁ…何だか…緊張してきた…」


僕は色々と考えすぎて、すっかり覚えた台詞が飛んでしまった事を、
「スタート!」 という声と共に気付いて早速NGを出してしまった…

 











「へぇ、たいしたもんだな?成績いいじゃないか。今回は仕方ないと思って覚悟してたのに」


父がそう言いながら私の頭を撫でてくれた。


「凄いぞ?よく新しい環境で、ここまで頑張ったな?」
「お父さんと、お母さんの、おかげよ?家でも、こうして英語で話してくれたから思ったより授業についていくのも早かったの」
「でも、それでも凄いわよ。私だって、ここまで話せるようになるには、かなり時間がかかったもの。
やっぱり若いと、すぐ吸収されるのねぇ…」


母が紅茶を飲みながら苦笑した。


「おいおい…。お前も充分若いだろ?」
「あら、ありがと。あなた」
「やだ。娘の前でイチャイチャしないでよ。もう、すっかりこっちの人だね?」


私は両親の仲の良さを見ながら、ちょっと顔を赤くした。


「そうねぇ。日本だと照れも出たけど…、こっちに住んでみると、こういうのが普通に出来ちゃうし不思議」


母はそう言いながら父の腕に自分の腕を絡めて寄り添っている。
父も少し照れくさそうにしつつも、


「ま、そうだな?本来なら、こっちの方が子供の為にもいいだろうしな?」


なんて言って嬉しそうだ。
まあ、確かに両親が仲が悪かったり、よそよそしかったりするよりは、こんな風に仲がいい方が娘としても嬉しいけど…
でも…何も、そこまでイチャイチャしなくたっていいのに。


そんな事を思いつつ、私は紅茶を飲もうとカップを持った、その時―
私の携帯が鳴って慌ててポケットから取り出した。


「あ…エマからだ…」


それはメールではなく、直接、電話がかかっている。
私はちょっと笑顔になって、すぐに通話ボタンを押した。


「Hello?エマ?」
『あ、?!今、話してても大丈夫?』


エマは何だか興奮したようにそう言った。


「え、ええ。大丈夫だけど…。どうしたの?」
『うん、あのね!、撮影見学、もういつでも来れるのよね?』
「え?あ、う、うん…。そっちが大丈夫なら…私はいつでも大丈夫よ?」


さっき父にハリーの撮影現場に行くかも知れないから家族旅行は、それが終ってから…と話しておいた。
二人とも、私より興奮して、一緒に撮影現場に行きたいなんて言い出し困ったのだけど…


「でも…どうして?どっちにしろロケが終ってからになるんじゃないの?」


私はその事を思い出しそう聞いてみた。
だがエマは更に興奮したように、


『それがね!アルが…あ、アルって監督なんだけど!のこと話したらロケ現場に連れて来てもいいって言うの!』
「え…えぇ?!ロ、ロケ現場って…?!」


私はエマの言葉に驚いて大きな声を出してしまい、父と母がギョっとして私を見ている。


「ちょ…どういうこと…?」


私は少し声のトーンを落として、そう聞いた。
だがエマは笑いながら、もう一度、


『だからも一緒にロケに行きましょうよ!10日間、ロンドン郊外で撮影予定なの。泊りがけよ?』
「そ、そんな無理よ…っ。だって…泊るとことか…親だって許してくれないわ?」
『ああ、泊るとこなら大丈夫!私の部屋に泊って?いつもツインだし!
それに、もしご両親が心配で反対しても、その時はアルが心配しないように現場の雰囲気とか話して説得してくれるって言うの。だから頼むだけ頼んでみてよ。ね?ダンもそうして欲しいって言ってるし!』
「え…?!」


突然、ダンの事を言われてドキっとした。
その時、エマの後ろから何か声が聞こえてくる。



『―勝手に、そんなこと言うなってっ! ―  …いた…っ。何よ…ほんとのことでしょ…?ちょっと黙っててよ…っ』
「エマ…?どうしたの?」
『あ、何でもないの!外野がうるさくって!それより…ね?両親に頼んでみて?私もと一緒にロケに行きたいわ?』
「で、でも…」


そう言って私は両親の方をチラっと見てみた。
二人は電話の相手が、エマと知ってるので、何だかワクワクしたような顔で私を見ている。
出来れば電話を代わって欲しいとでも言いたげだ。(父はエマのファンなのだ(!))


「ちょ、ちょっと待って…?今、二人とも、ここにいるの。一応…聞いてみるから…」
『ほんと?じゃ、このまま待ってるね?もしダメって言われたら私に代わって?私も上手く説得してみるから』
「う、うん…。じゃ…ちょっと待っててね?」


私はそう声をかけると両親の方を見てみた。


「な、何だ?ハーマイオニーは何だって?」


父がワクワクしたような顔で聞いてくる。


「あ、あの…ね…。ほら、撮影見学の話があったでしょ…?」
「うん。あ、もしかして…私達も行っていいとか?!」
「……………」


父の突拍子のない言葉に私は思わず半目になってしまった。


「違うわよ…。あのね…その話…ほんとはスタジオでの見学だったんだけど…。来週からロンドン郊外でロケをするらしくって…」
「うん、それで?」
「それで…監督が私を連れて来てもいいって言ったから…私もロケに同行しないかって…。
期間は10日間らしいんだけど…ダメ…かな?」
「な、何だって?ロケに行ってもいいって、あのアルフォンソ監督が言ったって?!を連れて来てもいいって?!」



父は映画通なので、その監督を知ってるらしい。
何だか父の方が興奮して頬を紅潮させている。


「う、うん。そうみたいで…もし心配なら…その監督が、お父さんとお母さんに撮影現場のこととか説明してくれるらしいの…」
「な、な、何?彼が私に会ってくれるのか?!」


父は興奮したようにソファーから立ち上がった。
私は驚いて父を見上げると、「そ、そう言ってるって…」と思わず小声になる。
すると父は嬉しそうな顔で、「よし!反対するから、彼に会わせてくれ!」と張り切って言った。


「は…?何言って…」


私は父の言葉に呆気にとられて口が開いてしまった。
だが父はニコニコしながら、


「私が反対したらアルフォンソが会ってくれるんだろう?なら反対しといた方がいいじゃないか!
な?だから、そう伝えろ」
「ちょっとお父さん。監督に会いたいから…本当は行ってもいいって思ってるけど反対するってことなの?」


私が呆れ顔で、そう言うと父はむぅっとした顔で、


「当たり前じゃないか!彼に会える機会なんだぞ?それに上手くいけばハーマイオニーにも会えるかも…っ」
「ちょっと、お父さん!そんな不純な動機で反対しないでよ!
それにエマなら、今、反対されたら電話に代わってくれるって言ってたけど?」


私は父に呆れつつも、そう言って携帯を差し出した。
途端に父はアタフタしながら、


「な、何?今、彼女と話せるのか?ど、どうしよう。何を話せばいい?」
「ちょっと、あなた!少し落ち着いてよっ」


母も苦笑しながら父の服を引っ張っている。


「あ、ああ。解かった。よし…ゴホン!」


父は咳払いをしてから私の携帯を受け取ると、「He....Hello?」と少し噛んで電話口に出た。


「あ、こ、今晩わ!どうも…の父です…っ。い、いつも娘が大変、お、お世話に…」


父は娘と同じ歳の女の子に変な敬語まで使って話している。
そんな父を見て私は母と目を合わせ、プっと噴出してしまった。


「え?い、いえ反対など!ええ、もう、どうぞ、どうぞ!どこにでも連れていってやって下さい!
ええ!そして是非、私も…!え?あ、いえ何でも…アハハッ」


「やだ…お父さんったら自分も行く気だったのかしら…」
「ほんとねぇ…。仕事があるくせに」


母もそんな事を言ってクスクス笑っている。


「え、ああ、で、ではを宜しく…。あ、アルフォンソにも!今度公開される映画も見ますと、伝えて下さい!あ、じゃあに代わるんで…。おい、…」


父は汗を拭きつつ私に携帯を渡すと思い切り息を吐き出してソファーにドサっと座った。
よほど緊張していたのだろう。
私はそんな父を横目にちょっと笑うと、「Hello?エマ?」と電話に出た。


『あ、。やったわ!のパパ、ロケ行きOKしてくれたわよ?!』
「あ、そ、そうみたいね…アハハ…」
のパパって凄く面白い人ね~。今度会わせてよ』
「え?あ、ああ…それは…もちろん。本人も凄く喜ぶと思うわ?」
『ええ、是非!あ~でも本当に良かった!じゃあ来週のロケ、も参加って事でいいわよね?』
「う、うん…。でも…じゃあ…どこに行けば…」
『ああ、そんなの私達と一緒に行きましょ?当日、家まで迎えに行くわ?
その前にもスケジュールもメールするから』
「うん…。あ、あの…何から何まで…ありがとう…」
『何言ってるのよ!友達でしょ?それに私もに来て貰った方が楽しいもの!』
「…ありがとう…」


私はエマの言葉が嬉しくてちょっと笑顔になった。


『―お~い~待ってるよ~! c―  ちょっとルパート、うるさいわよっ。 あ、ごめんね?外野がうるさいの』
「ううん。楽しそう」


私がクスクス笑うと、エマが思い出したように、


『あ、そうだ。ちょっと待ってね?』


と言って受話器を手で塞いで何かを話してるようだ。
そして暫くすると…。


『Hello....?…?』
「ダ…ダン…?」
『うん。久し振りだね?』
「う、うん…」


私は久し振りのダンの声に心臓がドキンと跳ね上がった。


『最近はずっとメールだけだったもんなぁ…』


ダンが苦笑しながらそんな事を言っている、


『あ、そうだ。ロケに来れるんだって?』
「え?あ…うん。お父さんも…何だか浮かれちゃってる」


私がクスクス笑いながらそう言うと、ダンも笑っている。


『でも良かった。じゃあ、久々に会えるね』
「え…?あ、そ、そう…だね」
『会えるの…楽しみにしてるよ』
「あ…私も…」


ダンの言葉が嬉しくて思わず、顔が赤くなる。


『ちゃんと10日分の着替え持ってきてね?』
「あ…そうね…。何だか旅行みたいで…ワクワクする」


そう言ってちょっと笑うとダンも楽しそうに笑った。


『ほんとだね。僕は、いつもの事だけど…。にしたら旅行みたいなもんだよな』
「うん。しかも親が一緒じゃないから…ちょっとドキドキしちゃう」
『僕も…かな?』
「え?」
『あ、いや何でもない。じゃ、また連絡するね?ロケは来週の頭からだし…今週中には用意しておくようにっ』


ダンはちょっとおどけた口調で、そう言うと、「じゃ、お休み…」と優しい声で言ってくれた。


「うん…お休みなさい」


そこで電話は切れたが、私は少しの間、ダンの声の余韻に浸っていた。
だが、そんな幸せな時間も父の声で一瞬にしてかき消された。


「お、おい、!い、今話してたのはもしかしてハリーくんか?!お、お前達まさか付き合ってるとか…!」
「ちょ…お父さん!そんなわけないでしょ!」



私は父のアホな発言に顔が真っ赤になってしまった。


「な、何だ…。違うのか?もし、そうなら父さん会社の同僚に自慢できたのになぁ…」
「あなた…。もし付き合ったとしてもそれは言っちゃいけないわよ。
ハリーくんは有名人で人気者なんだし…」
「あ、そ、そうだな…。同僚の娘にも確か何人かハリーくんの熱狂的なファンがいると言ってたしな…。
そんなこと言ったらスキャンダルだな」
「そうよ?もしがハリーくんと付き合っても、誰にも言っちゃダメよ?」
「わ、解かった…。凄く言いたいが我慢するよ…」
「ちょっと…二人とも…」


私は二人の会話を聞いていて軽い眩暈に襲われた(!)


「そんなバカなこと言わないでよ!それに普通、親なら娘に彼氏が出来たら心配するもんでしょ?!」


私がそう怒鳴ると、父も母も顔を見合わせて肩を竦めた。


「そりゃ、お前…他の男なら心配もするけど相手がハリーくんなら何を心配する必要があるんだ?
彼なら顔もいいし性格もいいだろうし、お金持ちだし(!)何も心配なんてしないさ!
それに私はハリーポッター出演者と付き合ってる娘の父親として、もしかしたらプレミア試写会にだって招待されるかもしれないんだぞぉ~?」
「キャ、そうね!素敵!」
「…………おやすみ…」
「え?あ、お、おい!!ロケ行く時は父さんのカメラとハンディカム持っていけよ!撮影現場、撮って来てくれ!おい、~?!」


私は父のアホなお願いを軽く聞き流し、リビングを出ると自室へと戻った。





「はぁ~!全く!我がお父さんながら呆れるわ…。
お母さんと同じでミーハーなんだから!あの二人、それでくっついたのかしら…っ」


ベッドに倒れこんで、私は溜息をついた。
そしてゴロンと仰向けになると、ちょっと携帯を眺める。

ロケか…何だか凄い事になっちゃった…
ロケを見れるなんて凄く嬉しい。
それに10日間もダンと一緒に寝起きできるんだ…
そう思うとドキドキしてくる。


(私の知らないダンの姿が見られるかもしれない…)


来週のロケの事を考えるとワクワクしてきて、まだ早いのに早速ボストンバッグを引っ張り出して荷造りを始めた。














僕はそろそろ背中の痛みから解放されたかった。
との電話を切ったあと、エマはずっと興奮状態で僕の背中をバンバン叩いてくるからだ。


「やったわねー!ダン!」


バシ!


「…それ7回目…」
「え~?そうだっけ?でも凄く楽しみ~!早く来週にならないかなぁ~っ。ね?ルパート!」


エマは僕の言葉を軽く無視してソファーに寝転がっているルパートに声をかけた。
今は撮影も終り、ルパートの家で明日のシーンの台詞合わせをしているところだ。


「ん~でもさ~。がダンとくっつくの見ることになるかもしれないと思うとさ~」
「お、おい!何で、がロケに来たら、僕とくっつくって事になるんだよ?」


僕はルパートの言葉にギョっとした。
するとルパートはチラっと僕の方を見る。


「だって…10日間も一つ屋根の下で過ごすんだよ?
そんな一緒にいたら、そう言うことがあるかもしれないだろ?状況によったらさ~」
「そ、そんな余裕あるかよ。今度のロケ、結構ハードなんだぞ?」
「あ~ら、そんなの解からないじゃない?ずっと撮影なわけじゃないんだし。夜だって私、ダンと部屋を替わってあげてもいいわよ?」
「は…はぁ?!何、考えてんだよ…っ。いいよ、そんな事しなくても!」


エマの言葉に僕は一瞬で真っ赤になってしまった。
するとエマが楽しそうに笑い出す。


「やだ!ダンったら何考えてんの?違うわよ。そうじゃなくて!
二人きりで話したければ、少しの間、部屋を替わってあげるって言ってるの!」
「………っ」
「あれ~?そんな真っ赤っ赤になっちゃって~!ダンは、どんな意味でとったのかな~?」
「う、うるさいよ!別に、どんな意味も何もないだろ?!そ、それより、さっきの続きのシーン合わせるぞ?」


僕は真っ赤な顔を隠すように顔を反らすとエマとルパートが大笑いしている。


ったく…!何で、この二人に自分の気持ちなんて話しちゃったんだろう…っ
ずっと隠しておけば良かったよ…!


僕は頭に来て一向に頭に入らない台詞が書いてある台本を未だゲラゲラ笑っているルパートに投げつけた。


「あらら。ダン、本気で怒っちゃったよ。お~い、ダン~そんな怒るなって!もう俺も協力するからさ~」
「いいよ!余計な事はするな!」
「あら、余計な事って何よ。失礼ね~」


エマは口を尖らせながら、僕の投げつけた台本を拾って、今度は僕の方に投げてくる。


「二人が何かしたら変な方向に行きそうだから何もしてくれなくていいよっ。自分でちゃんと考えるから!」


僕はその台本を拾ってテーブルの上にポンっと投げると、そう言って二人を睨んだ。


「ふ~ん。でもダンってば呑気なんだもの。そんなモタモタしてたら、を他の人に取られちゃうんだからねっ」
「そうだよ~?、可愛いしさ?ほら、僕とかに横からさらわれちゃうかもね~。ロケ先には他にも色々とACTORが集まるしさ~?」


二人の言葉に僕はぐっと言葉に詰まった。


「そ、そんな心配してくれなくてもいいよ。
それにルパートは諦めたんだろ?そんな本気じゃないって事じゃないか」
「うわ~そういうこと言っちゃう?俺はダンが相手なら敵わないって思っただけだってば。今までだって僕が気に入った子は皆、ダンのこと好きになったからね」


ルパートはそう言いながら口を尖らせた。
それにはエマも笑いながら、


「そうそう!そんなことあったわね~。今までのエキストラの女の子とか!
ルパートったら、いつも可愛い子を見つけては頑張ってアタックしてたけど、
皆、ダンのこと好きになっちゃったもの。
ダンってば優しいし、エキストラの子にも気を使うから、そりゃ惚れられちゃうわよね?」
「うるさいな…っ。別に僕はそんなつもりで…」
「解かってるけど!相手の子が、好きになっちゃうんだもの。仕方ないわよね~?
ま、ダンは気付いても知らないフリして結局は何もなかったけど」
「僕は…思わせぶりな事はしたくないだけだよ」
「あら、でもなら話は別でしょ?ルパートの言う通り、だってダンのこと好きになっちゃうかも…あ、もう好きなのかもしれないし」
「そ、そんな事ないよ…っ。もういいから台詞!明日は長い台詞言わないといけないんだぞ?」


僕は照れくさいのを隠すように台本を手にして二人を見た。
するとエマが目を細めて、「今日のNG、誰が一番、多かったと思ってるの…?」と言ってきた。
僕はちょっと息を吐き出すと、


「はいはい…。僕だよ…。悪かったね。だから明日は出さないように、こうして台詞合わせしてるんだろ?」


と肩を竦めた。


「そうね~。じゃ、付き合ってやるか!」
「そうだね。仕方ないからさ~」


二人はそんな事を言って、やっと台本を手にした。
だが僕はルパートの一言だけは許せなかった。


「…おい、ルパート…普段、NG多いのは…お前だろ…?」
「うへ。やぶへびでした~」


ルパートはそう言って頭を抱えると、エマが苦笑している。
僕も、ちょっと苦笑しながら、


「さ、早くやっちゃおう。明日も早いんだから」


と言ってハリーという役に入るのに軽く目を瞑った。



だが心のどこかで…さっきエマに言われた言葉が響いていて、なかなか役の中に入りきれなかったんだけど…


"だってダンのこと好きになっちゃうかも…あ、もう好きなのかもしれないし…"




もし、そうなら…どれだけ嬉しいんだろう。




この先、他の子に全くモテなくてもいいから…にだけ…好きになって欲しい…と、この時、ふと思った。









 

 


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Postscript


お題ダンシリーズ第7弾でございますv
このお話、喜んでもらえてるようで凄く嬉しいです!
やっとヒロインのパパが登場ですが、かなり天然&ミーハーな事が発覚(笑)
こんな両親だと楽しいでしょうね(笑)
次回はロケ先でのお話になりそうですv


本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...


【C-MOON...管理人:HANAZO】