Chapter.8 森~二人きり~ Only you can love me...
暖かい陽射しを浴びながら、私はゆっくり紅茶を飲んだ。 その間もソワソワしながら時計を確認する。 もう少しで…ダンが迎えに来る。 ガラにもなく緊張して手が汗ばむのを感じた。 ダンに会えなくなって、かなり経っているので、どこか照れくさいのもある。 それに今日から10日間、ダンと一緒にロケ現場に行くのだ。 毎日、顔が見れると思うと、それだけで胸が高まる。 早く…会いたいなぁ… 少しダンへの想いに浸っているとそこへ今日もっとも落ち着きのない父がリビングに飛び込んで来た。 ドタドタドタ… バン! 「!あったぞ!これ!これも持って行け!」 「もぉーうるさなぁ、朝から…」 顔を顰めて紅茶のカップを置くと、お父さんの差し出したものを見た。 「えぇ…これも?」 「もちろんだ!これで撮影現場を撮って来てくれ!」 父はニコニコしながらハンディカムを私の手に持たせる。 「嫌よ…重くなるじゃない…。カメラ持ったんだからいいでしょ?」 「な、何を言うんだ!写真は動かないじゃないか!やはり動いているハリーの面々を見たいんだよ!な?頼むから!」 「でも…ロケ現場で、こんなのまわしてたら怒られるかもしれないじゃない…」 口を尖らせて父を睨むと悲しそうな顔で私の隣に座った。 「それならいいから。もしOKって言われたら撮ってきてくれ。な?お小遣い弾むから!」 父の、その最後の言葉を私は聞き逃さなかった。 「え?お小遣い弾んでくれるの?」 「ああ!もちろんだ!10日間分、どどーんと!弾むから!な?いいだろう~?~~!」 必死にそう言う父に少し呆れつつも、まあ、お小遣いは沢山あっても困らないと、私は渋々承知した。 「解かったわ?でも…撮ってもいいって言われたらよ?」 「ああ!解かってるよ!ありがとう、!」 父は、そう叫ぶや否や私を抱きしめ頬にチューっとキスをしてきた。 「ちょ…やめてよ、お父さん!」 私は顔を顰めて父を押しのけると、ハンカチで頬を拭いた。 すると父は泣きそうな顔になる。 「何だよ、…。そんな嫌がらなくたって…昔はチューされるの好きだっただろう?」 「そ、そんなの小学生の時じゃない!それも低学年!私、もう15だよ?」 「何を言う!こっちの人は何歳になっても親子だろうと夫婦だろうと、チューはしてるぞ?同僚のマイケルだってな…」 「あ~はいはい!解かったから。それより仕事は?もう行く時間でしょ?」 私はうるさい父を睨みつつ、少し覚めてしまった紅茶を口へ運んだ。 そこへ、お母さんがやってきた。 「お父さんは今日、遅刻してくそうよ?」 「えっ?な、何で?」 その言葉に驚いて顔をあげると、母はクスクス笑いながら向かいのソファーに座った。 「ハリー君達が迎えに来るって解かった時点で今日の遅刻届けを出したらしいの。困った人よねぇ。ほんとに」 「嘘…。やだ…お父さんったら、もしかして…ダンやエマに会うのに、わざわざ会社を遅刻してく気?」 私が隣の父を見上げると、何だか胸を張って得意げだ。 「当たり前だ!彼らに会えるチャンスがあるのに仕事なんてしていられるわけがないだろう?!」 「呆れた…。普段は忙しいって言って帰りも遅い日が続いたりするのに、こういう時だけは、そんなズルしちゃって」 「ほんとよねぇ?そうだ。こんな簡単に遅刻とかできるなら、今度は休暇をとってもらって、どこか旅行に行きたいわねぇ?」 母もそう言いながら横目で父を見ている。 だが父は気付かぬフリをして顔を反らしながら、 「ん?もう8時か。そ、そろそろかな?うん」 なんて言ってソファーから立ち上がる。 私と母は顔を見合わせ、ちょっとだけ苦笑した。 だが、その時、ほんとにチャイムが鳴り、ドキっとする。 「あ…!…き、来たんじゃないか?!ん?」 「もう…あなた…少しは落ち着いて!」 母が笑いながらインターホンに出た。 「はい。ああ、ハリーくん!おはよう。待ってね?すぐ出て行くから」 母はそう言って振り向くと、「来たわよ?愛しの彼が!」とインターホンの受話器を戻さないまま言って私はギョっとした。 「ちょ、ちょっと、お母さん!聞こえるでしょ?!」 「あ、ああ。大丈夫よ?手で抑えてたから」 母はそう言って受話器を持ち上げて見せた。 私はちょっと息をついてソファーから立ち上がると、 「じゃあ…お父さん…行って…って、あれ?!」 振り向いて、今までそこにいたハズの父がいなくて私は驚いた。 「お母さん、お父さんは?」 「ああ、お父さんなら、とっくに玄関よ?」 母が肩を竦めて笑っている。 「嘘でしょ~…。何で私より先に出るのよ…っ。あ…もしかしてダンにハグとかしてるかも…!」 私は慌てて出て行こうとバッグと掴んだ。 その時、母が、「ああ、待って、。これ、お小遣いね?」と私に封筒を差し出す。 「あ、ありがとう」 「さっき、お父さんが弾むって言ってたでしょ?だから少し多めに入れておいたわ?」 「ほんと?ありがとう、お母さん!」 私は嬉しくて母に抱きついた。 すると母はクスクス笑いながら、「いいのよ?それ、お父さんの今月のお小遣い分だから」と言ってウインクしている。 それを聞いて私も思わず吹き出した。 そのまま急いで玄関に出て行くと、案の定、父の大きな声で聞こえてくる。 「いや~!ほんとに男前だね?前作よりも少し大人っぽくなったんじゃないかな?」 「そうですね。少し身長も伸びましたので」 ダンも笑いながら父の相手をしてくれているようだが、私は恥ずかしくて慌てて外に出た。 「ダン、お待たせ!」 「あ、!おはよう!」 私が出て行くと、ダンが笑顔で振り向いた。 「久し振りだね」 そう言うダンを見て私はドキっとした。 何だか父も言ってたように、少しダンが大人っぽくなっていたからだ。 身長も伸びたのか、前は私より少し大きいくらいだったのに今は、それよりも視線が上にある。 「ダン…身長…伸びた…?」 「ん?ああ、少しね?は変わらないね?」 そう言って笑うダンに私はちょっと口を尖らせた。 「いいのよ、女の子は…」 「アハハハ、ごめん、気にしてた?」 「し、してないもの」 私がちょっと顔を反らして、そう言うと隣にいた父が何だかニヤニヤしているのが目に入った。 「う~ん、何だか、お似合いだな?」 「え?!」 「ちょ…!何言ってるの?お父さん!」 私は父の言葉に一瞬で顔が赤くなったのが解かり、思わず父をどついてしまった。 ダンも何だか頬が赤くて照れているように見える。 そこへ母が出てきた。 「あらあら。何騒いでるの?もう時間じゃない?」 「あ、そうだった…。じゃ、行って来ます」 「え~もう行っちゃうのかい?!」 私が行こうとすると父が悲しげに呟いた。 「もう…お父さん…っ」 「だって…ハリーくんには会ったけど、まだハーマイオニーに会ってないよ…?」 そんな事を言っている父に私は呆れて文句を言おうとしたが、ダンが笑いながら、 「ああ、彼女なら車で待ってますよ?連れてきましょうか?」 と言った。 「な、何?!そこにいるのかい?!」 「はい、車で待ってます。ロンもいますけど」 ダンが笑いながら門の方を指さした。 その途端、父は、 「そ、そうなのかい?じゃ、ちょっと挨拶してくるよ!」 と凄い勢いで門の方まで走って行ってしまった。 「ちょっと…お父さん!」 私は驚いて父を呼んだが、それすら聞こえなかったようだ。 「もう…!ほんとにミーハーなんだからっ!」 そう怒ったように言うと、ダンがちょっと笑いながら私を見た。 その笑顔にドキっとする。 「面白いお父さんだね?」 「そ、そう?子供みたいでしょ…?ごめんね?」 「いや、楽しい人だよ。僕、好きだな、あんなお父さん」 ダンは、そう言いながら門の方に視線を向ける。 それには母も苦笑した。 「がロケを見学に行くって決まった日から、ずっとソワソワしてて大変だったのよ?ほんと困った人だわ?」 「そんな喜んでもらえて嬉しいです。あ、そうだ…あの…今日からをお借りしますけど大人も多いし心配しないで下さい」 ダンが母に、そう挨拶をして私はちょっと照れくさくなった。 母は嬉しそうに微笑むと、「ありがとう。を宜しくね?」とダンの手を取った。 ダンも少し恥ずかしそうにしながら頷くと、「じゃ、行こうか?」と私のバッグを持ってくれた。 「あ…いいわ?自分で持つから…っ」 「いいよ。車まで運ぶだけだから」 そう言ってダンは笑いながら歩いて行ってしまう。 私は困ったのと照れくさいので母を見ると、母はニヤニヤしながら私を肘でつついてきた。 「彼、優しいわねぇ…。さすが英国紳士!日本の男の子なら、ああはいかないわよね?が好きになるのも解かるなぁ、お母さん」 「な、何言ってるのよ…」 「あら、好きなんでしょ?頑張りなさいよ。今日からずっと一緒なんだから!」 「が、頑張れって言ったって…」 私は顔が赤くなって俯くと、母が溜息をついて、 「あ~私があと15年若かったらなぁ~。ハリーくんに迫ってたかも」 なんてアホな事を言っている。 「ちょっと、お母さん…!」 私が驚いて母を見上げると、彼女はクスクス笑って、 「いいから早く行きなさい?ハリーくんが待ってるわ?それに、あんたが行かないとお父さんが、ずーっとハーマイオニーを独占しちゃうわよ?」 と言った。 「あ!そうだった!あのお父さんに捕まったら可愛そうだわ?じゃ、行って来ます、お母さん!」 私はそう言って走り出した。 「行ってらっしゃい!ちゃんと電話してね!」 後ろから母の声が聞こえて来て、私は軽く手を上げて、「解かってる!」と答えた。 夏休み、ダン達と一緒に出かける郊外。 何だかワクワクしてきて、この夏の一番のいい思い出になる。 そんな気がしてきた― 「もう…ほんと最悪なの…。これ見て?写真撮ってこいってこんな大きなカメラ持たせてフィルムも、これだけ買い込んで来たのよ?」 そう言って頬を脹らませるが可愛くて僕はちょっと笑顔になった。 今は車内で、ロンドン郊外にあるロケ先へと向かっているところ。 は僕の後ろに座り、さっきからエマに、自分の父のミーハーぶりを熱弁している。 今朝、迎えに行った時、のパパは、いきなり僕に抱きついてきて握手の嵐、そしてエマやルパートにも抱きついて大喜びだったらしい。 それをが見た時、ひどく怒って、最後はシュンとしていたパパがおかしかったんだけど。 でも…久し振りに見た彼女は前よりも少し大人っぽくなったというか、可愛くなったというか、僕には輝いて見えた。 今朝、顔をあわせた時はドキっとしたくらいだ。 長い髪を二つに分けて縛っていて小動物みたいで凄く可愛い。 くるくるとよく動く表情も今では僕の気持ちを揺さぶるのに充分なほど。 僕はさっきから窓を背にして横を向きながら本を読んでいた。 時々、エマと楽しそうに話しているを見ながら、思わず顔が緩むのを本で隠すのが大変だ。 隣のルパートはと言えば二人の会話に無理やり入っている。 「ねね、でもさーパパって、かっこいいよね?日本の男性にしちゃ身長も高いしさ!ママも奇麗なんだろ?」 「えぇ?そう?お父さんのこと、かっこいいなんて思った事ないわ?お母さんは…奇麗と言うよりは可愛らしい感じの人だけど」 「そうなの?じゃ、はママに似たんだね?」 「え?」 「だっても可愛らしいだろ?」 「………っ」 ルパートの言葉には一瞬で顔が赤くなり、それさえ可愛いなと思った。 だが、エマが身を乗り出してルパートの頭をどついた。 「ちょっとルパート!そんなこと言ったらはシャイなんだから照れちゃうでしょ?少しは控えなさいよ!」 「痛いなぁ…。何だよ、誉めて何が悪いんだよっ。な?ダン」 「え?あ、ああ…」 突然、振られて僕はドキっとしたがちょっと本を顔の前から避けて頷いた。 「でも…、ほんとにシャイだからさ…。ルパートも、あんまり、そういうこと言うなよ?」 「えぇ?何だよ。ダンまでさ~。自分だって、同じこと思っ…」 ルパートの言わんとすることが解かり僕は慌てて口を塞いだ。 「…ん~っっ」 「ルパート、朝からうるさいよ?少しは黙ってよう…。な?」 低い声でルパートの耳元に口を寄せそう言うと、ルパートは首をブンブンと縦に振ったのが解かり僕はそっと手を離した。 「どうしたの?ダン…」 「え?いや…何でもないよ?こいつ、放っておくとうるさいからさ?」 不思議そうに首を傾げるに僕は笑いながらそう言って何とか誤魔化した。 その時、運転していたスタッフが振り向き、「そろそろ着くから下りる用意しておいてな?」と言った。 「は~い。、もう着くって!」 エマが嬉しそうに窓の外を見ている。 「ほーんと郊外なだけあって何もないわ?」 「でも、たまには、こういう場所もいいわよね」 も楽しそうに周りの景色を見ながら、そう言った。 僕も読んでいた本をバッグに仕舞うと、軽く伸びをして窓を開ける。 夏らしい気持ちのいい風が車内に吹き込んで、僕は思い切り深呼吸をした。 ここで10日間、映画の撮影が行われる。 それが、いつもの僕の日常なのに、今回はそこにがいるというだけで違った意味で楽しくなってきた。 エマと話しながら下りる用意をしているを見ていると、ガラにもなく浮かれている自分に気付いた。 「わぁ。凄い…広いのね!」 「でしょ?これなら二人でも充分よ」 エマはそう言ってバッグをクローゼットに置くと、窓を開けてテラスへと出て行く。 「ねね、景色も奇麗よ?」 エマに呼ばれて私もテラスへと出てみた。 「わーほんと!眺めがいいわね。何だか子供のうちから、こんなホテルに泊っていいのかなって感じ」 私はちょっと笑いながら、そう言うとエマは澄ました顔で、 「あら、もう子供じゃないわ?15歳なんて」 と言って肩を竦めた。 その言葉にドキっとしたが笑顔で交わすと部屋の中に戻ってバッグをエマのと一緒にクローゼットへと入れた。 エマも部屋に戻って来て、ソファーに座る。 「ね、」 「ん?」 クローゼットを閉めて私もソファーに座ると、エマがニコニコしながら、 「は好きな人とかいないの?」 とドキっとするような事を聞いて来た。 「え…す、好きな人…?」 「ええ」 「そんな人は…いないわ?」 まさかダンの事が好きとは言えず、そう答えた。 エマは驚いたように身を乗り出して、「えぇ?!そうなの?日本にいた時は?」と私を見つめてくる。 そう言われて私は日本のことを思い返してみた。 「日本では…いた…かな?」 「え?どんな人?同じクラスの人?」 「うん。同じクラスで席が隣だったの。スポーツ万能で皆から人気があったわ?でもロンドンに引越しが決まって…」 「離ればなれになったのね…」 「まあ…。告白する気もなかったけど…ちょっと寂しかったかな?」 「そう…辛いよね、そういうのって…」 エマはちょっと悲しげな顔で私を見ると、「でも、こっちで、また恋をすればいいじゃない?」と微笑んだ。 そんな言葉にさえドキっとしてしまう。 「そ、そうね…。でも…イギリスの人って皆が美形だし…私なんて相手にされないわよ」 そう言って笑いながら肩を竦めると、エマが突然私の隣に座ってきた。 「何言ってるの?は可愛いんだから、もっと自信もたなきゃダメ!ダンだってルパートだって、のこと可愛いって言ってたのよ?」 「え…?!」 エマの言葉に私は顔が赤くなってしまった。 ダンがそんなこと言ってたのかと思うと嬉しいのと恥ずかしいのが混ざってドキドキしてしまう。 「ね?だから自信もって!」 エマは私の肩を抱きながらニコニコしている。 「あ…ありがと…」 何とか笑顔を見せると、エマが楽しそうに、「今夜は寝る前に色々と話そうねっ」なんて言っている。 私はちょっと修学旅行を思い出して笑ってしまった。 「エマ、明日から撮影でしょ?早く寝ないといけないんじゃない?」 「大丈夫よ?少しの寝不足くらい、どうって事ないわ?それに私は5時間くらい熟睡できれば元気だもの。ルパートと違って」 「ルパートは凄く寝る方なの?」 「ん~ルパートは遅くまでゲームしたり、コミック読んだりして寝坊するのよ。ダンはキッチリ起きてくるんだけど」 私はその話を聞いて、"らしい"なぁ…なんて思って噴出した。 そこへノックの音が聞こえてきてエマがドアを開けに行った。 「あ、ダン」 そのエマの声にドキっとして振り返る。 すると部屋の中にダンとルパートが入って来た。 「~?どう?部屋は気に入った?」 ルパートが元気よく、先に入ろうとしていたダンを押しのけて来て私の隣に座った。 「ええ。こんな素敵なところに泊れるなんてワクワクしちゃう」 私がそう言うと、ダンもルパートを睨みつつ、向かいのソファーに座る。 「、お腹空いてない?もうすぐ皆でランチに行くんだけど…」 「あ…そう言えば、ちょっと…」 「ほんと?僕なんて、もうペコペコだよーっ」 ルパートがお腹を抑えて大げさに溜息をついた。 そこへ怖い顔でエマがルパートの頭を小突いている。 「もう、うるさいわねっ。それに、どうしてルパートがの隣を陣取ってるのよっ」 「む。いいだろ?別にどこに座ろうと!」 ルパートは顔を横に向けて口を尖らせている。 「全く…気が利かないんだから…」 エマはブツブツ言いながらもダンの隣に座ると、 「ね、それより、何を食べに行くの?スタッフの皆で行くんでしょう?」 と聞いている。 「うん。ロバートが連れて行ってくれるって。アル達は明日の撮影現場の視察だから遅くなるってさ」 「そっかぁ。大人は大変だね」 エマはそんな事を言いながら、「じゃ、私達だけで先に食べてきちゃおうか」とソファーから立ち上がる。 「じゃ、行こうか。ロバートが車をホテル前に持ってきてくれるって言うし」 ダンがそう言いながら立ち上がり、私の方に微笑んだ。 私は頷いて立ち上がると、未だ寝転がっているルパートの腕を引っ張る。 「早く行こう?」 「うん。が、そう言うなら」 ルパートは、そんな事を言いながら何とか体を起こすと、またしてもエマに頭を小突かれている。 「ちょっとルパート!何デレ~っとしてるのよ?!」 「いったいなぁ!別にデレ~なんてしてないってばっ」 「嘘言わないで。顔がニヤケてるわよ?ちょ…ちょっと来なさいよ!あ、、私達先に行くから、ダンとゆっくり来て?」 「え?!エマ?!」 エマは何故だかルパートの腕を掴んで先に部屋を出て行ってしまって私は驚いた。 「ちょ、痛いってばっ。離せよっ」 ルパートは騒ぎつつもエマに引きずられるように連れて行かれた。 部屋に残されたダンと私は互いに顔を見合わせる。 「あ…ど、どうしたんだろうね?」 「あ、ああ。ま、エマの説教タイムだろ?」 ダンは笑いながらそう言うと部屋を出て、「さ、行こうか?」と言った。 突然、二人きりにされて少し緊張した私は何とか頷き、ダンの後を追いかけて行く。 廊下に出て部屋の鍵を閉めると静かな廊下を歩いてエレベーター前まで来た。 今、エマ達が下りて行ったのか、一つは一階ロビーに向かっているようで、仕方なくもう一つのボタンを押してみる。 何だかお互いに久し振りだからか、何を話せばいいのか解からない空気が流れていて、ますます私は緊張してきた。 ダン…ほんとに身長も伸びたし少し髪も伸びて大人っぽくなったなぁ… 白いTシャツにジーンズという格好は変わらないのに、少し年上に見える。 隣に立つダンをそっと見上げつつ、私はドキドキしながら早くエレベーターが来ないかな…と思っていた。 するとダンが不意に私の方を見た。 「ん?」 「え?あ、あの…何でもない…」 思い切りダンの優しい瞳と目が合い、ドキっとして俯くと、頭にポンっと手を置かれて更に鼓動が早まる。 「学校の方は…ほんとに大丈夫だった?」 「え?」 「あ、いや…。メールでは大丈夫って送ってくれてたけど…やっぱり少し心配で…何も…されなかった?」 ダンは私の顔を覗き込むようにして心配そうな顔を見せる。 その顔さえ、まともに見れなくて私はすぐに視線を反らして頷いた。 「大丈夫よ?シェリル…ずっと休んでたし…とうとう最後の日も出てこなかったわ?」 「そう…。ちょっと言い過ぎちゃったかな…」 ダンは、そう呟いて手に持ってたキャップを少し深くかぶった。 そのせいでダンの表情は見えなくなったが、私にはシェリルに言った事を気にしてるんだ…と思った。 「ダ、ダンは…私を庇ってくれただけだから…悪くないわ…?」 「え?」 私はダンに、シェリルに言った事を気にして欲しくなくて、思い切って顔を上げた。 ダンは少し驚いた顔で私を見ている。 私はちょっと微笑んでダンを見上げると、 「だから…そんな顔しないで…?」 「…」 何とか笑顔を見せて、そう言うとダンもちょっと微笑んでくれた。 「…ありがとう」 「う、ううん…」 やはり少し照れくさくて再び下を向くと、ちょうどエレベーターが到着してチーンと音が鳴る。 「はい、どうぞ」 ダンは紳士らしく私を先に乗せると自分も乗り込み、一階のボタンを押している。 その背中を見ながら、私はダンの優しさを再確認していた。 「遅い!」 外に出るとロバートが車の前で腕を組んで立っている。 僕はちょっと苦笑しながら、 「ごめん!エレベーター、なかなか来なくてさ」 と駆け寄ると突然首に腕をまわされ、耳元で、「二人きりで何してたんだぁ?」と言われて顔が赤くなった。 「な、何もしてないよ…っ!変なこと言うなってばっ。に聞こえたら、どうするんだよっ」 僕も小声でそう応戦するとロバートはニヤニヤしながら腕を離した。 「あの子なんだろう?今、付き合ってる子って」 「ち、違うって!彼女は友達だよっ」 僕は焦りながらもに聞こえやしないかとヒヤヒヤしながら後ろを振り返る。 は少し離れたところでこっちを不思議そうに見ていて、僕はちょっと笑顔を見せた。 「あ、あの。彼、編集とかやってくれてるスタッフのロバート」 「初めまして。ダンのクラスメートでと言います」 はロバートを紹介すると可愛らしい笑顔で挨拶をしている。 ロバートには、もったいないくらいの笑顔だなと内心思っていた。 「あ、どうも!話は聞いてるよ?宜しくね」 ロバートも心なしかデレデレしながらと握手をしている。 僕は、その手をサっと引っ張ると、「ロバート早く行こう。お腹空いたよ」と言って彼を運転席へと追いやる。 それにはロバートも苦笑しつつ、両手を上げた。 「はいはい。解かったよ。彼女には触れないからそう警戒するな」 「うるさいよ…っ。いいから早くっ」 「OK、OK!ダンも案外、焼きもち妬きだな?」 「ロバート…っ」 僕は顔が赤くなるのが解かり、ロバートを睨むと、 「そういう事、彼女がいる時に言うなよ?」 と言って、すぐにワゴン車の後ろに乗り込んだ。 「遅いわよ~ダン!」 中に入ると先に乗っていたエマが口を尖らせている。 ルパートなんかは空腹すぎてエマの横でひっくり返っていた。 「ごめん。ちょっと…」 僕はそう言っての隣に乗り込むと運転席へと座ったロバートが振り向いた。 「じゃ、行くぞ?ここから10分くらいのところにレストランがあるらしいから、そこでいいよな?」 「もうぅ、何でもいいから早く行こう~~っ」 ルパートが情けない声を出して、ロバートはちょっと噴出した。 ゆっくりと車が動き出し、ホテル前の道を真っ直ぐに走らせると10分もしないうちに、本当にすぐレストランが見えてくる。 そこは多国籍料理のレストランだった。 ロバートが店の駐車場へと車を入れて、僕らは先に下ろして貰う。 ルパートは店の中へ、さっさと入って行った。 「はぁ~ルパートったら!ほんと食い意地張ってるんだから」 エマが、またしてもブツブツ文句を言っている。 僕はちょっと笑うと、 「仕方ないよ。ルパートにしたら、まだ朝食しか食べて無いんだからさ。あと4食は食べないと元気にならないって」 と言って肩を竦めた。 するとエマはちょっと僕を見て、 「そうそう。さっきルパートに説教しておいたわ?少しは気を利かせろって」 と言って後ろを歩くをチラっと見た。 「え?あ、ああ…。さっきの?」 僕は苦笑しながら小声で答えると、エマは、ますます口を尖らせる。 「そう!ほんっとデリカシーないんだからっ。ダンの気持ち知ってるのに、が一緒なのを自分も楽しんでるんだもの」 「仕方ないよ。ルパートはのこと気に入ってるんだからさ」 「もうっ。ダンも呑気ねぇ…」 エマは少しお姉さん口調で僕を横目で見てくる。 僕がちょっと肩を竦めて見せると小さく溜息をついて後ろでキョロキョロとしているを呼んだ。 「、行きましょ?」 「あ、うん」 は知らない街が珍しいのか、まだ周りを見渡しながらも、笑顔で、こっちに走って来た。 「何だか田舎町って感じ。建物とかもレトロで素敵ね?」 「そうねぇ。私達も、よくロケとかで、こんな感じの街に行くけど、時々住みたくなっちゃうわ?」 エマはそんな事を言いながらレストランに入って行く。 中へ入ると、ルパートが奥の方で手を振っているのが見えた。 「こっち!席取っておいたよ?」 僕も手を上げてそっちへ歩いて行くと後ろからロバートもやってきた。 「何だ?あいつ、もう座ってメニュー広げてるよ」 「そういうのだけは早いのよね」 エマも笑いながら、と席の方へ歩いて行く。 「もぉ~遅いよ。何してたの?」 「ルパートが早すぎなんだよっ」 僕は軽くルパートの額を小突くと、向かい側の席へと座った。 そこへエマが、 「あ、、そっち座れば?私とロバートは、こっち座るし」 と言ってロバートの腕を引っ張ったまま、ルパートの方へと座る。 エマが気を利かせてくれたのは解かったが、あまりにあからさまなので少し顔が赤くなり、コホン…っと咳払いをした。 は気付かないのか、じゃあ…と言って僕の隣に座ったが、その時ロバートがニヤニヤしながらこっちを見ているのに気付いて少しだけ睨んでおく。 「さ、何食べようかなぁ~~っ」 ルパートの、その声で僕もメニューを取ると、先にの方へと見せてあげた。 「は?何がいい?」 「え…っと…」 がメニューを覗き込むように僕の方に体を寄せて来て、それだけでドキっとするがそんな顔を見せるとロバートにからかわれるだけなので何とか普通にしていた。 「私…この中華セットのランチにしようかな?」 「あ、これ?じゃ、僕もそうしようかな」 「え?いいの?ダンは他のも見ればいいのに」 はメニューから顔を上げて僕を見た。 「いいよ。中華好きだし」 「そう?じゃ、こっちは決まりね。エマは?決まった?」 「え~っと。私は、これ。イタリアンのセットのランチにする」 「じゃあ僕は、この特大ハンバーグランチ!」 エマに合わせて、ルパートも決めたようで満足げに答える。 ロバートはメキシカンライスセットにしたようだ。 店員に注文を済ませ、皆で雑談をしながら時間を潰していると10分くらいで次々に料理が運ばれて来て、いい匂いが立ち込める。 ルパートなんか鼻をヒクヒクさせながら、すでにナイフとフォークを持っていた(!) 「わ~美味しそうっ。結構、量が多いのね」 はそう言って箸を掴んだ。 「ほんと…ルパート用だな、これ」 僕も笑いながら、その皿に盛り付けられた料理を見る。 「ダン、お箸使いづらいなら、フォークもあるよ?」 が気遣ってくれて僕にフォークを取ってくれた。 「あ、ありがとう。お箸って僕、使ったことなくて…。は当たり前だけど上手いよね」 「ああ…子供の頃にしこまれたから」 はそう言いながら箸を上手く使いながら海老チリソースを食べ始めた。 その姿を見て、ちょっと笑顔になる。 何だか子供が食べているようで可愛いのだ。 そう言えば…こんな風にレストランでと一緒にご飯を食べるなんて初めてかも… いつも遊んでても食事とかはした事がなかったもんなぁ。 そんな事を思いつつ、僕も海老チリを食べはじめた。 ルパートなんかは凄い勢いでハンバーグを食べている。 それをエマとロバートが呆れ顔で眺めていて、こっちは、いつもの光景だった。 「はぁ~~苦しいぃぃぃい…っ」 ルパートが後部座席でひっくり返りながら唸っている。 それを見つつ、僕はちょっと溜息をついた。 「食べすぎだよ…。デザート3つはさ…」 「だって、どれも美味しそうで決められなかったんだよ~…」 「ほーんと食い意地張ってるでしょ?」 エマがにそう言いながら肩を竦めた。 「うるさいなぁあ…。僕は今、成長期なんだから、お腹が空くんだよ…っ」 ルパートは起き上がれないからか、寝転がったまま足をジタバタさせて叫んでいる。 がそれを見ながらクスクス笑っていた。 そうこうしてると車が止まり、ホテル前に到着した。 「おい、ルパート、下りろよ?」 ロバートが呆れ顔で後ろを振り返る。 「えぇぇぇ…動けない…」 「何言ってる。少しは動いた方が消化するんだぞ?」 「じゃあ運んでよ、ロバート~~…」 情けないその言葉にロバートも苦笑しながら車を降りて後ろへ回った。 「仕方ない奴だな…。ほら、捕まれ」 「うぅ~ありがと~」 ルパートは少しだけ体を起こすと、ロバートの首に捕まり抱きつく形で何とか車を降りた。 それを見ながら、僕たちも車から降りると、そこに自家用車がやってきてワゴンの後ろへと止まった。 「あ、トムよ?」 エマがそっちの方を見ながら僕の腕を引っ張った。 見れば、マルフォイ役のトムが父親の車から下りてくるのが見える。 トムは僕たちに気付いて笑顔で駆け寄ってきた。 「よ!早いな?」 「ああ、昼前には到着したんだ」 僕はトムとハイタッチをしながら、答えるとトムの視線が僕の後ろへと向いた。 「あれ…誰?この子…」 「ああ、僕が転校した先でクラスメートになっただよ?ロケを見学に来たんだ」 「へぇ、何だ、もう転校先で友達できたの?しかも、こんな可愛い子」 トムはそう言って笑うと、の方に歩いて行った。 はエマに教えられてトムに気付いてはいたが突然、近くに来られて驚いた顔をしている。 「やあ、初めまして、。僕はトム・フェルトン。宜しく」 「あ、あの…宜しく…。です」 彼女は目を丸くして驚きつつも手を差し出し、トムと握手をしている。 その表情は最初に会った頃のを思い出させる。 白梟のヘドウィグに似てる、あの表情だ。 僕は、きっとは本物のマルフォイだ~くらい思ってるんだろうな…とか思って、ちょっと笑いそうになった。 「あ~トム~。今来たの~?」 「ああ、ってルパート、どうした?ロバートに、おんぶされちゃって」 トムはルパートの情けない姿に噴出している。 「いや食べ過ぎなだけ…。あ、ダン、僕はこのまま部屋に戻ってるからさ~」 「ああ、少しは動けよ?」 「…無理ぃ~~」 その声にちょっと笑うとロバートは苦笑しながら、 「じゃ、俺はこいつ部屋に放り込んでくるよ。あ、トム、チェックインしてやるから、ロビーで待ってろ」 と言ってホテルの方へ歩いて行った。 そこへトムの父親がバッグを持って歩いて来た。 「トム、私はこれで帰るからな?」 「ああ、サンキュ。父さん」 「じゃぁ、ダニエルくん、息子を宜しく」 トムの父親はそう言って車の方へ戻って行った。 「相変わらずトムのお父さんって熱心よねぇ…。こうしてロケ先まで送ってくれるなんて」 エマが走り去っていく車を見つつそう呟いた。 「まあ…父さん、今日は休みだったからさ。それより…皆は部屋に入ったの?」 トムはバッグを持って僕らを見た。 「ああ、僕達はチェックインしちゃったよ?トムもロバートが戻って来たら、すぐチェックイン出来るよ」 「そっか。ああ、は部屋はどうしたの?まさかダンと一緒ってわけじゃないんだろ?」 「バ…っおい、トム…っ」 彼の言葉に僕は慌てて腕を掴む。 見ればも真っ赤になって俯いてしまった。 「ジョークだよ!どうせエマと同じ部屋なんだろ?」 「そうよ?は私と一緒!ね?」 「え、ええ…」 「エマたちの部屋は何号室?遊びに行くよ」 「私達は2023号室よ?ダンが2024でルパートが2025号室。トムもきっとその並びだと思うわ?」 エマはそう言いながら楽しそうに笑っている。 だが僕はトムの方を見ながら、出来れば遊びに行くなと思っていた。 それは、もちろんに、ちょっかい出されたくないからだ。 そんな僕の雰囲気に気付いたのか、エマがこっちを見ると思い出したように、 「あ、じゃ、じゃあトム、ロビーでロバート待ってたら?ね?ほら、バッグ半分持ってあげる」 と言って小さい方のバッグを勝手に持つと、ホテルの方へ歩いて行く。 それにはトムも慌ててバッグを持って追い掛けた。 「ちょ…待てよ、エマ!」 「早く~ロバート、そろそろ降りてくるわよ?」 エマはそう言いながらも僕の方を振り返ると何か合図をしている。 目をパチパチさせながらホテルの裏手の方へ視線を向けているようだ。 何だ…?エマは何してるんだろ… 僕は彼女の意図する所が解からなくて首を傾げたが、とにかく今は気を利かせてくれたんだという事は解かりちょっと感謝した。 は驚いたようにエマを見ていたが、ハっとしたような顔で僕の方を見た。 「あ…皆、行っちゃったね」 「う、うん…そう…だね…」 少し笑顔を見せて、そう答えつつ、まだホテルには戻りたくないなぁと思って先ほどエマが視線を送っていたホテルの裏手を見てみた。 そこには沢山の木々が多い茂っていて、ちょっとした森になっている。 もしかして…エマの奴、あそこに散歩でも行けって言ってたのかな… その事に気づき、の方を見て森の方を指差した。 「ねぇ、。あそこに行ってみない?ちょっと食後の散歩でもしようよ」 「え?あ…そうね…。って食後の散歩って何だか変ね?」 はそう言ってクスクス笑っている。 「いいから、いいから。少し体動かした方が消化も早くて夕飯はさっきの倍は食べられるよ?」 「あ、酷い…。私、そんな大食いじゃないわよ」 僕の言葉には少し頬を脹らませ、こっちを見上げてくる。 その顔が、ほんと可愛くて思わず笑顔になった。 「ごめん、ごめん。それはルパートだったっけ。でも、さっき全部残さず食べてただろ?量が多かったのにさ」 僕はと並んで森の方に歩きながら笑っていると、 「だって…ロバートにご馳走になるって知らなかったから…。それなら残しちゃ悪いと思って…」 と、が恥ずかしそうに呟いた。 僕はそれを聞いて、ちょっと感心した。 そうか…。だから必死に最後、食べてたんだ… お腹苦しそうな顔はしてたのに食べてるから、おかしいとは思ってたんだけど… ロバートに悪いなんて彼女らしいや… 僕らなんてスタッフと食事に行っても経費だって解かってるからそんな風に思った事なんてないし、食べられなかったら残してしまっていた。 さっきだってロバートが払ったけど、あれは映画製作での経費のうちに入っているからロバートが自腹を切ったわけじゃない。 でもは、そんな事は知らないから、せっかく、ご馳走になるのに残しちゃ悪いと思って無理に食べてたんだろう。 そんな彼女を本気で愛しいなんて思ってしまった。 「は偉いね…?」 「え?どうして?」 は僕の言葉の意味が解からずに首を傾げている。 だけどそこは笑顔を見せて首を振った。 「何でもない。それより…森に入ると、途端に涼しくなるね?」 僕は森の入り口で立ち止まって鬱蒼と多い茂る木々を見上げた。 「ほんと…冷んやりしてて気持ちいいわ?」 はそう言いながらも森の中へ入って行く。 その後を僕もゆっくり歩き出した。 森の中は凄く静かで時々、鳥の声が聞こえる程度。 その中を二人でノンビリと歩いて行く。 何か話したいと思いながらも、なかなか、それが出来ない。 はぁ…僕って、こういうの苦手なんだな… 今、気づいたよ… そんな事を思いつつ隣を歩くを見れば、突然、彼女が顔を上げた。 「そう言えば…さっきマルフォイが来たから驚いたわ?」 「え?あ、ああ…トムね…」 「トムって言うの?私、三人の他には役名しか知らなくて…」 が恥ずかしそうに笑った。 僕もちょっと笑うと「覚えなくてもいいよ、そんな」なんて言ってしまう。 に他の男なんて見て欲しくない…なんて、僕ってロバートの言うように焼きもち妬きなのかな… 「彼って映画の印象とは全然、違うのね?もっと冷たい感じかと思ったけど気さくで明るい感じだし…。あ、でも、あの役で本人と重ねちゃ悪いわね?」 そんな僕の気持ちは知らず、はトムの事を楽しそうに話している。 それには僕も笑顔を見せて返すしかない。 「そうだね。でも、最初は見た人も、そんなイメージで見ちゃうみたいだよね?今はトムもテレビとか雑誌に出るようになったから、人気も出て来てるよ?」 僕はそう説明しながら話を、どう変えようかと考えていた。 だがは、まだ楽しそうにトムの話をしている。 「彼、髪も短くなってたから印象もガラっと変わったわ?少し爽やかな感じになったんじゃない?」 「そうだね…」 何となく返事も素っ気無くなってしまうのも仕方がない事だった。 「あ…そう言えば髪を切ったら少しチャーリーに似てたような…」 「」 「え?」 僕はちょっと我慢できずにの話を切ると立ち止まって彼女を見た。 「な、何?」 はちょっと驚いたように僕を見ている。 だけど何て言っていいのか解からず、僕は、そっと彼女の手を繋いだ。 「ダン…?」 「あっちで水の音がするんだ。川があるかもしれないし行ってみない?」 僕はなるべく普通に笑顔を見せてそう言うともコクンと頷いてくれた。 少し照れくさそうに見えるの顔が可愛いなと思い、僕はそのまま手を離さずに歩き出す。 も黙って僕に手を引かれてついてきた。 少し歩くと水の音が大きくなり、木々の間に川が見える。 「あ、やっぱり川だ…」 「ほんと…水面がキラキラしてて奇麗…」 も笑顔で僕の方を見あげてくる。 「行ってみよう?」 「うん」 僕は足元を気をつけながらの手をギュっと握ると木々を抜けて川の方へ歩いて行った。 すると少し斜めになった場所があり、そこから川になっている。 「わぁ…魚がいるね」 「ほんとだ…。水も透明だし。あ、あっちの方に岩場があるから、あっちに行こうか」 「うん。ここだと落ちそうだしね」 は少し怖いのか僕の手をシッカリ握ったまま、ついてくる。 僕もが木の根に躓かないように気をつけながら彼女を少しだけ自分の方に引き寄せた。 少し歩くと開けた場所に出て岩場が目立つところに出る。 僕はその中でも大きな岩の上に上って上からを引っ張ってあげた。 「滑るから気をつけてね?」 「う、うん…」 はちょっと不安そうな顔を見せたが僕が両手を握って引っ張ると、そのままの勢いで僕の腕の中に飛び込んで来た。 「あ…ごめんね…っ」 は慌てたように僕からパっと離れた。 ちょっと頬が赤くなっていて、僕まで照れくさくなる。 そんな顔を見られないように僕はその場に座ると川の水の中で泳ぐ小さな魚に目をやった。 何だか、こんな場所で二人きりなんて初めてだし、ちょっと緊張しちゃうよ… でも…デートしてるみたいで嬉しいんだけどさ。 僕はかぶっていたキャップを脱ぐと髪をかきあげた。 気持ちいい風が吹いてスッキリする。 するとも僕の隣に座って、「水が気持ち良さそうだね?」と呟く。 チラっと彼女の横顔を見れば、水面の光りが反射してキラキラと奇麗に輝いて見えた。 そんなを見てると、穏やかな気持ちになってくる。 傍にいると何だか居心地がいいと言うのか… こんな風に思ったのは初めてだ。 前の彼女の時でも、こんな気持ちにはならなかった。 そんな事を考えていると、不意にが僕の方を見た。 「何?何か顔について…」 「あ…いや…その…の顔にさ…水面の光が反射して奇麗だなぁ…なんて…」 「え…っ」 僕の言葉には恥ずかしそうに俯いた。 だがすぐに顔を上げると、「ダンも…同じだよ?」と言った。 「え?同じって…?」 僕が少し首をかしげて、そう聞くと、はちょっと微笑んで顔を上げた。 「水面の光りで…ダンの瞳がキラキラ光ってるの。奇麗なブルーの瞳だからかな?」 はそう言うと少し目を伏せて川の方に視線を戻す。 「あ…ありがとう…」 の言葉に照れくさくなったが何とか笑顔で、そう言った。 彼女はちょっと首を振っただけで、川の方にそっと手を伸ばしている。 その姿が何かの映画のワンシーンのようで、ちょっと見惚れてしまった。 それは誰にも見せたくないほどに奇麗で、今ここに二人きりで良かったと思ったほどだ。 僕って、ほんと独占欲まで強いらしい… ガラにもないけど…に僕だけを見て欲しいって思ってる。 今ここで…そう言ったら、君は何て答えてくれるんだろう… ふと、そんな事を思って胸が苦しくなった。 その時、後ろの方で声が聞こえて来てドキっとする。 「ここの奥に今夜中にはセットを組めるか?」 「はい。ここなら民家もないし多少、遅くまで作業してても大丈夫だと思います」 「そうか。じゃあ、急いで手配してくれ。ん?何だ、ここ川が流れてるのか…」 そんな声が近付いて来たかと思えば、不意に木々の間から監督のアルフォンソが顔を見せた。 「あれ?ダンじゃないか。何してるんだ?こんなところで…」 アルが僕に気付き、こっちへ歩いて来る。 僕はの二人きりの時間が崩れて、ちょっと苦笑しながらも立ち上がり、の手を引いて岩から飛び下りた。 「ちょっと食後の散歩しに。アルは撮影場所の下見?」 「ああ、そうだ。ん?彼女は…?」 アルフォンソは隣のに気付き、笑顔を見せる。 「あ、彼女はで…前に話した学校の…」 「ああ…!お前の…」 僕はアルフォンソが何を言う気かとドキっとしたが、 「クラスメートな?そうだろう?」 と言ってニヤリとしている。 僕はホっと息をつくと、 「…そう…。クラスメートのだよ?」 と言った。 「あの…監督さんですよね?私、と言います。今回は撮影を見学させてもらいに…」 「ああ、いいよ。そんな硬い挨拶は。君みたいな可愛いらしい子の見学は大歓迎だ。私はアルフォンソ。アルって呼んでくれ」 アルフォンソはそんな事を言いながらに握手をしている。 僕はそれを横目で見つつ、軽く息を吐き出した。 絶対、この人、楽しんでる…っ ったく、ほんと子供みたいな人だよ… そんな事を思いながらも、アルには笑顔を見せた。 「さっきトムも到着してたよ?」 「ああ、そうか。皆、チェックインは済ませたのかな。ロバートに任せっきりだよ」 「いいんじゃない?ロバートは撮影が始まるまでは手が空いてるんだし、コキ使わないと」 「おいおい。そんなこと言ってたらロバートに、また奇襲かけられるぞ?」 「うあ、そうだ。アル、今のは内緒ね?」 僕は顔を顰めて、そう言えばが首を傾げた。 「奇襲って?何かされたの?」 「え?あ、あのさ…。前作のロケの時、ロバートをからかったらそれを根に持って夜中、僕が寝てる時に勝手に部屋に入って来て起こされたんだよ… フロントに言って勝手に理由作って鍵をもらったらしくてさ~。最悪だったね、あれは…」 僕が苦笑しながら説明すると、は楽しそうに笑い出した。 「それは凄いサプライズね?楽しそうっ」 「えぇ?全然、楽しくないよ~。おかげで次の日は寝不足でメイクさんに怒られたんだから…」 僕が顔を顰めてそう言うとアルまでが笑い出した。 「でもロバートだって私に怒られたんだ。フィフティーフィフティーだろう?」 「まあ、そうだけどね…。もう、あの奇襲は勘弁して欲しい…。ルパートになら、どんどんやってって感じだけどさ」 「また、そんなこと言ってると、今度はルパートにやられるぞ?あいつもイタズラ好きだからなぁ!困った奴だ!アハハハっ」 そう言いながら笑っているアルに僕はつい目を細めた。 (自分だって大のイタズラ好きのクセに…) そこへスタッフの一人が走って来た。 「あ、監督!次の場所を見に行かないと」 「おお、そうだったな?じゃあ、ダン、こんなとこでデートしてないで早くホテルに戻れよ?」 「デ、デートじゃないってばっ」 「はいはい!じゃあちゃん、また!」 「あ、はい。お仕事頑張って下さい」 「アハハっ。ありがとう!」 の言葉に気を良くして、アルは満面の笑みを見せて手を振りながらホテルの方に戻って行った。 ったく!変なことばっか言うんだから… 僕はちょっと汗を拭って息をついた。 はちょっと笑うと、僕の方を見て、 「あの人が監督さんなのね?凄く気さくで楽しい人だわ?」 と言って微笑んだ。 「そ、そう?普段はイタズラ好きな子供みたいだけどね?」 「そうなの?でも、お父さんが、ここにいたら飛び上がって喜んでただろうなぁ…。何て言っても監督に会いたいから行くの反対するって言い出してたし…」 「えぇ?ほんとに?面白いお父さんだね?」 僕はちょっと笑いながら、今朝会ったのパパを思い出していた。 だがは少しだけ口を尖らせて、 「ちっとも面白くないわ?ミーハーで困っちゃう…」 と肩を竦めている。 「そう?僕は好きだけどね?のパパ。また会いたいよ」 「え?で、でも…お父さんに付き合ってたら、きっとダン疲れちゃうわ?やめたほうがいいわよ」 は慌てた様子で首を振りつつ、僕の腕を掴んで困った顔を見せる。 その顔すら可愛くて僕は笑顔になった。 「いいよ。のパパに好かれてた方が嬉しいしさ?」 「そう?きっと何時間も話に付き合わされてクタクタになるよ?」 はそんな事を言って呑気に笑っている。 僕は思い切り遠まわしに自分の気持ちを少しだけ言ってみたつもりだったんだけど全く気付かないみたいだ。 「そろそろホテルに戻ろうか?日も翳ってきたし…」 僕はそう言って自然にの手を取った。 一瞬、彼女の手が緊張したのが解かってドキっとしたが、も笑顔で頷いてくれる。 「じゃ…足元、気をつけてね?」 そう言いながらゆっくりと歩いて、さっきの道へと出た。 そこの方が大きな木で太陽の光を遮っていて暗く感じる。 僕はの手を引きながら、もう少し二人きりでいたいと思った。 だからホテルまでの道のりを、なるべく、ゆっくりと歩いて行く。 繋いでる手が妙に熱い。 離したくないな…と素直に思った。 このままずっと道が続いていればいいのに…と思いながら、少しだけ強く彼女の手を握った。 |
Postscript
お題ダンシリーズ第8弾でございますv
いや~青春ですね~(笑)
あの頃って手を繋ぐだけで妙にドキドキしちゃったりして、
よく一緒に帰ったりしてましたよ~(笑)
あの頃は彼氏がクラスに迎えに来て一緒に帰るっていうのが
デートみたいなもんだったのかも…(笑)
なんて純情だったのかしら…今とは大違いだわ…(滝汗)
って今でも好きな人とか付き合い始めの時って手を
繋ぐのが妙にドキドキして幸せに思ったりしますけどねv
でも中学の頃みたいに普通に繋ぐと言うよりは指を絡めての
ラブラブ繋ぎですけど(笑)いやん、いいなぁvv(アホ)
でも私は中学生に戻りたいです。小学生でもいいけど。
今の記憶のまま、お願いしたいです(笑)
どんな大人びた小学生やねん…^^;
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】