Chapter.11 館~ライバルにご用心②~           Only you can love me...




撮影が終わった後、皆でホテルに戻り、夕食に出かけた。
その後は先ほどルシーナが話していた屋敷に行くのに僕とルパートの部屋へ集まり、必要な物を揃えてから皆でコッソリとホテルを抜け出す。
今は夜の8時なので、外は真っ暗だった。

「じゃ、行きましょうか」

言い出しっペのルシーナが懐中電灯を手に森に向かって歩き出した。
それにトム、トムが前に追い掛け回していたジュリア、エマ、ルパートと続く。

、大丈夫?」

少し顔色の悪いの隣を歩きながら、そう聞くと彼女は小さく頷いて懐中電灯を握りしめた。

「大丈夫だよ。皆もいるし……僕も…いるから」
「……ありがとう、ダン」

さりげなく言った僕の言葉にも嬉しそうに微笑んでくれてホっとしながら前を歩いて行く皆を見た。
ルシーナやジュリア、トムは凄く楽しそうに、おしゃべりしながらサッサと歩いていて、それに続くエマとルパートも普段通り言い合いをしながら歩いて行く。

「だから~そんな写真なんか撮らない方がいいわよ~っ。もし"何か"映ってたら、どうすんの?!」
「いいじゃん!何か映るかもしれないから面白いんだろ?」
「もうっ。変なのにとりつかれても知らないからねっ」

エマは口を尖らせつつスタスタ歩いて行ってしまい、それをルパートが慌てて追いかけて行く。

「待ってよ、エマ~!一人にするなよ~っ」

そんな二人を見つつ、僕が苦笑していると隣でも笑っている。

「ほんとに撮るのかな?」
「さあ?エマも気が強いように見えて結構、怖がりだから嫌なんだろうけどさ。ルパートは怖がらせて楽しんでるのかも」
「でも…どこまで行くんだろ…」

は少し怯えたように辺りを見渡し溜息をついた。
先を歩くルシーナはどんどん奥へと歩いて行って道も少し狭くなってきている。

「この先にそんな屋敷がある事態、不気味だよね。ほんと撮影で使うのかなぁ」

この辺りは夜になると昼間よりも少し寒々としていて僕は小さく息を吐き出した。

、寒くない?」
「うん。大丈夫…。着込んできたから。ダンは?」
「僕も着込んだから大丈夫」

笑顔で僕が答えていると前から声が聞こえてきた。

「ちょっとダン~?!早く来てよ!屋敷が見えて来たわよ!」
「先に行っちゃうぞ~~っ!」

ルシーナとトムは何だか楽しそうに叫んでいる。
それには、ちょっと肩を竦めてを見た。

「行こう。あまり遅くなると抜け出したのバレそうだし」
「うん」

少し不安げながらもは笑顔で頷いてくれた。
そして二人で皆の方に走って行くとルシーナが笑顔で指をさす。

「ほら、あれよ?ちょっと不気味でしょ?」
「あ、ほんとだ…」

彼女のさした方向に見えたのは大きな屋敷で赤い屋根が木々に見え隠れしている。

「さ、行きましょ?」

ルシーナはそう言ってニッコリ微笑むとまた先頭を歩き出した。
少し歩くと道が獣道へと変わり、何とも気味が悪い。

、足元気をつけてね?」
「う、うん……」

懐中電灯の明かりだけを頼りには必死に僕の後からついてくる。
声がかすかに震えているようで僕はそっと彼女の手を取った。
はドキっとしたように顔を上げたが少し安心したのか、可愛く微笑んでくれる。
僕も微笑み返し、そのまま皆の後からついていくと急に開けた場所に出た。

「あ……門だ」
「大きな屋敷……」

ポッカリと出来た空間には、あの屋敷の門が聳え立っていて真っ暗な中に見ると一層、不気味に見える。

「ここから入れるらしいの。行きましょ?」

ルシーナは門の横にある小さなドアを開けると中へと入って行った。

「うひゃ~ホラー映画に出てきそうな屋敷だねーっ」

呑気なルパートはそんな事を言いながらはしゃいでいる。
ルパートはそのまま門の中へと入って行き、トムもジュリアに腕を引っ張られながら二人の後について行った。
エマは何だか気乗りがしないのか、入り口前で立ち止まり、

「ちょっと怖くなってきちゃった…。ほんと何か出そうよね?」

なんて言って僕とを見る。
それにはも不安そうな顔で僕を見上げてきた。

「大丈夫だよ。皆とはぐれないようにすれば怖くないだろ?僕がずっと一緒にいるからさ?」
「うん…」
「ちょっとダン、私にも、そう言う台詞言ってよねっ」

エマが苦笑しながら両手を広げて振り返る。

「はいはい。エマはルパートにくっついてろよ」
「うわ、嫌な感じ。ルパートは自分が楽しんじゃって頼りにならないんだもん」

少しおどけて言った僕の言葉に、エマも笑いながら中へと入る。


もちょっと笑いながら、僕の手をギュっと握ってくれた。









「凄いわね…。ここがエントランス?」
「ちょっと不気味~~!肖像画なんてある~!」

ルシーナとジュリアは苦笑交じりで辺りを見渡し、「ちょっと二階にも行ってみましょうよ」なんて言いながら階段を上がっていく。
それにルパートとトム、エマも続いた。

「うえ~階段、壊れそう!ギシギシなってるよ~」
「おい、ルパート!くっつくなって!男にくっつかれるのだけは嫌だね」
「何だよ、トム~!だって見えにくいんだよ」
「もう、うるさい、二人ともっ」

二人の言い合いにエマも怒りつつギシギシなる階段を上がって行った。
私はダンの手を掴みながらも後ろが気になり、キョロキョロしていると、

「後ろ怖い?」

とダンが心配そうに聞いて来た。

「う、うん…。お化け屋敷とかでも一番後ろって嫌だったの…。前も嫌なんだけど…」
「あはは。分かるよ。確かにどっちも嫌だよね?ルシーナ達は、よくサッサと行けるよなぁ」

苦笑しながら優しく私の手を引いてくれるダンに私もちょっと微笑み返すと階段をゆっくり上がっていく。
二階へ上がると広い廊下があり、あちこちに色々な物が散らかっているのか足に何かのビンや缶が当たり、その音でもビクっとなってしまう。
そこへルシーナとジュリアが歩いて来た。

「ね、一つ一つ部屋に入ってみない?少し分かれて探索しましょうよ」
「いいね!そうしよう」
「じゃあ、どうやって分かれる?」

ルシーナの言葉にトムとルパートは楽しそうに頷いているが、私はそれを聞いてギョっとした。

こんな暗い屋敷を分かれて探索なんて…絶対に嫌…
出来ればダンと一緒がいいんだけどな…

なんて考えていたが、ルシーナはニヤリと笑って、

「じゃ女の子と男の子で分かれましょ?ずっと一緒にいても面白くないわ?」

と言って皆を見渡した。
それにはダンも驚いた顔で、

「でも…そんな女の子だけじゃ危なくない?」

と言ってくれたが、トムが笑いながら、

「危なくはないだろ?すぐ戻ってくれば大丈夫だよ」

と言ってダンの肩をポンポンっと叩いている。

「でも……」

そう呟いてダンは少し心配そうな顔で私を見たが、それに気づいたルシーナがニッコリ微笑んだ。

も、それでいいわよね?」
「え?あ……うん…」
「よし、じゃあ決まりね?」

仕方なく頷いた私の方にルシーナはニコニコしながら歩いて来た。

「ほら、じゃあダン達は右側の部屋を探索してきてよ。私達は左奥の部屋を見てくるから」
「ああ…じゃあ……気をつけてね?」
「うん。大丈夫。皆もいるし」

まだ少し心配そうなダンはそれでもルシーナが来たのを見て、そっと私の手を離した。

「何よ。過保護ね?ダンは。だって大丈夫って言ってるじゃない」
「うるさいな…。とにかく、あまり変なとこには行くなよ?」
「分かってるわよ。じゃ、20分後に下のロビーに集合ね?何か面白そうなものが見付かったら呼んでよ?」
「OK~!そっちもな?」

ルシーナの言葉に、ルパートは楽しげに言うと、「さ、じゃあ行こう?ダン」と言ってダンと肩を組んで右側通路へと歩いて行ってしまう。
それにトムも続いた。


「さ、じゃ私達も行きましょうか?」
「キャ~ワクワクするわ~」

ルシーナとジュリアは懐中電灯を照らしながら左側通路を歩いて行く。
私は小さく溜息をつくとエマと視線を合わせた。

「じゃ、行こうか?」
「うん」

(エマがいるし怖くないわよね…)

ゆっくり歩き出しながら少し埃臭い廊下を歩いて行くと、まず手前の部屋のドアを開けてルシーナ達が入って行った。

「うわ~凄い広い!ここ誰の部屋だったんだろ~」
「ねね、ルシーナ!奥はベッドルームみたいよ?」

二人は楽しそうにそんな事を言いながら奥の部屋まで見ている。
私はすでに怖くて急いで二人の後を追いかけた。

「ちょっと埃臭くて鼻が痛いわ?」

エマは顔を顰めつつ、ベッドルームには行かずに窓の方に歩いて行く。
確かに誰も住んでいない荒れ放題の部屋は空気が悪く埃やカビとかの色々な匂いがして息苦しくなった。

「ねぇ、ここにもドアがある。他の部屋に続いてるのかも~」
「ほんとだ~」

二人はどんどんドアを開けて進んで行ってしまい、私は黙ってついていくのに必死だ。
懐中電灯だけでは足元全ては見えず、時々何かに躓きながらも二人の声のする方向へと進んでいく。
その時、後ろでバタンっとドアの閉まる音がしてドキっとした。

「だ、誰……?誰かいるの……?」

後ろを振り返り、問い掛けるも自分でも驚くほどに小さな声だった。

(誰もいない……?)

「…エマ……?」

後ろから来ているかと思ったエマの姿もなく、そう声をかけてみるが返事がない。

(どうしたんだろ…。まだ最初の部屋にいるのかな…)

そんな事を考え、ふと戻ろうかとも思ったが暫く一人で暗い中歩いて行かないといけない事を考えると、とても戻る気にはなれない。

(どうしよう…エマったら来てるのかな…?懐中電灯の明かりも見えないけど…)

暫くその場に立っていたが、一向に追いかけて来る気配もなく、私は小さく息をついた。

(仕方ないからルシーナ達と合流して一緒に戻ってもらおう…)

そう思いつき、二人の歩いて行った方向を見た。
だが気づけば、先ほどまで聞こえて来ていた二人の声がしない。

(え…?どこ行っちゃったの……?)

耳を凝らして見るも、辺りはシーンとしていて、私は真っ暗な部屋の真ん中で立ち尽くしていた。
前を見ても後ろを見ても人の気配がしない。

「やだ…どこ行っちゃったの……?」

だんだん怖くなってきて、私はルシーナ達が向かった奥の部屋までゆっくりと歩いて行く。
だが次の部屋にも誰もいない。

「ルシーナ……?ジュリア…?どこ……?」

思い切って二人を呼んでみるが相変わらずシーンとしたままで少しづつ恐怖が足元から這い上がってくる。

だ、大丈夫よ…。二人は、きっと奥にいるわ?
ドアが開いてるし、ここの屋敷は部屋から部屋に行けるようになってる。
ドアを抜けていけば、きっと行き止まりの部屋があるはず……

そう思いながら何とか自分を奮い立たせて、ゆっくりと部屋の中を進んでいく。

「ルシーナ…?ジュリア…いる?」

次の部屋へと進んで声をかけてみた。
だが、そこにも人の気配はなく、シーンと静まり返っている。
見れば、またドアが開いていて二人が先に進んだんだと分かった。

「もう……どこまで行っちゃったんだろ……」

怖くて声に出してそう言っては見ても、ここまで来たら追いかけるしかない。
私は次の部屋へと進んで行った。

「え……?ドアが二つ…?」

次の部屋にはドアが二つあり、一瞬、戸惑うも一つ部屋の隅にあるドアが、かすかに開いている。

「良かった…。こっちに行ったんだ…」

二人が向かった先が分かり、少しホっとして少しだけ開いていたドアを開けてみた。
すると下へ続く階段が見える。

「何、これ……地下室じゃないわよね……」

ここは二階だし…もしかしたら一階に続く階段なのかもしれない。
だが中からは何も音は聞こえてこない。

「ルシーナ…?ジュリア?そこにいるの?」

少しだけ大きな声を出してみるが、やはり返事はなくシーンとしている。

(どうしよう…困ったな…)

懐中電灯で下を照らしてみながら私は溜息をついた。
だが、いつまでもこんなとこにいるのも怖い。

(仕方ない…下りてみよう)

そう決心して私は足元を照らしながら、一つ一つ階段を下りて行った。
先ほどと同じようにギシギシ…っと軋む音でドキっとする。

「ゴホ…っ臭い…」

下に下りるにつれて悪臭が漂ってくる。
何十年と誰も住んでないからか、かなり埃っぽく喉の奥が痛くなるほどだ。

「ルシーナ……ジュリア…?」

二人を呼びながら緩く曲っている階段を下りて行った。
だが一階につくどころか、かなり下りても先ほどのロビーに辿り付く気配さえない。

(おかしいな…ほんとに二人は、ここを下りて行ったんだろうか…)

ふと、疑問を感じた時、階段が終わっていて狭い廊下に出た。

「何…これ……?」

その狭い廊下の奥にはドアが一つあるだけで壁には2枚ほど絵が飾られている。

(あのドアがロビーに続いているのかも…)

そう思ってゆっくりと歩いて行くと埃だらけのドアノブをそっとまわした。


「……う……ゴホ…っ」


ドアを開けて中へ入れば、そこはロビーではなく誰かの部屋のようだった。
こもった匂いが充満し、少し息を吸っただけで喉が痛くなり咳が出る。

「寝室……?」

少し広めに作られたその部屋には窓がなく奥に大きなベッドと真ん中にはテーブル、
椅子は床に倒れていて真っ暗だからか何とも不気味に感じた。

ここで行き止まりなんだ……
じゃあ……ルシーナ達は、どこに行ったんだろ?
さっき、もう一つドアがあったけど…ほんとは、あっちに行ったのかな…
それなら戻らないと……

こんな暗い部屋にいるのが怖くなり、私は戻ろうとその部屋を出て階段の方に歩いて行った。
知らず恐怖からか足が速くなり、何かにつまづきガタンっと音を立ててビクっとなる。
それでも早く戻りたかった。
だがその時、上の方からバタン…っとドアが閉まる音が聞こえて私は足を止めた。

「ルシーナ…?」

一瞬、彼女たちが来たのかと思い、名前を呼んでみる。
が相変わらずシーンとしていて返事はない。

(戻ろう…もう、こんなとこ一秒もいたくない…)

怖くて泣きたくなったが、まずは上に戻るのが先だと思い階段を昇っていく。
長い階段を壁を支えに足早に登っていけば、やっとドアが見えてきて私はホっと息をついた。
だが開けていったはずのドアが閉まっていて少しドキっとした。

何で閉まってるの…?
やっぱりルシーナが来たのかな…。
それで誰もいないと思って閉めてしまったとか…

そんな事を考えつつも私は急いでドアの前に行くとドアノブをまわしてみた。

「嘘……何で開かないの…?」

ドアを押してみるのだが、何かに当たり開かなくなっている。

「やだ……何で?」

すでに怖くて仕方がない上に、こんな暗い場所に閉じ込められた私は体が震えてくるのを感じで必死にドアを押してみた。
だがガタンと音を立てるだけで一向に開かない。

「やだ……っ。開いてよ…っ。 ―誰か…っ!」


鼓動が早くなり私は涙が浮かんできた。
必死に叫んでいるのに怖くて声がかすれてしまう。


「……ダン…!助けて…っ」



熱い涙が頬を伝っていくのと同時に、私は一番来て欲しい人の名を震える声で叫んだ―――









「ねぇ、今頃、泣いてるんじゃない?」
「いいのよ。どうせ後で見に行くフリして戻るんだし、少しは怖がらせておけば」

ジュリアの言葉に、ルシーナは忌々しげに呟いた。

「でもさぁ。まさかアッサリと引っかかるとは思わなかったね?ただドアを開けておいただけなのに」

ジュリアはそう言いながらクスクス笑っている。
先ほどが入って行ったドアは二人が、わざと開けておいたのだった。

(ふん、いい気味。せいぜい怖がって泣けばいいのよ)

ルシーナはチラっと隣の部屋の方に視線を向けた。
が入って行ったドアではなく、もう一つのドアの方から続いている部屋に二人はいたのだ。
そしてコッソリとの様子を伺っていた。
先ほどの下へ続く部屋は二人が先に覗いていた部屋で、ルシーナは、そこを見てをおびき寄せる事を思いついたのだ。
トムに気があるジュリアに、

「あの子、ダンばかりじゃなくトムにも、いい顔してるのよ?」

と言うと、彼女も腹を立てルシーナの計画に乗ったのだった。
が中に入ったのを確認すると、近くにあった棚を移動させドアを閉めてから前をその棚で塞いだのだ。


「あの子、叫んでるわよ?泣いてるみたい」
「放っておきましょ?どうせ少しの間だし」
「そうね?あの子のせいでトムったら素っ気無くなったんだもの。せいぜい怖い思いすればいいんだわ?」

ジュリアも怒ったように腕を組んだ。
彼女は前のロケでトムが気に入り何度かデートに誘っていた子だ。
ジュリアもまんざらではないようで、それでもトムをじらすようにして楽しんでる風だった。
だが今回、トムはの方にも"ちょっかい"を出し始めた事でジュリアも気分が悪いようだ。

「あの子ってばさっきダンと手を繋いでるんだもの、驚いちゃった。まさかダン、あの子のこと好きなわけじゃないでしょ?」
「まさか!あんな子、ダンには似合わないわよ。日本から来たばかりで友達も出来ないから可愛そうだと思ってるんじゃない?」
「ああ、ダンは優しいもんねぇ」
「それに…私、ダンが転校した学校に友達がいるから、あの子のこと聞いてみたんだけど…クラスでも浮いてるみたいよ?
ダンと仲良くしてるからって事でイジメられてたって言ってたわ?」
「へぇ、やっぱ、そうなんだ。何だかイジメたくなる雰囲気なんじゃない?ほら、男の子ウケしそうな感じじゃない?ちょっと弱々しく見えて。
ああいうのって同姓からするとムカつくのよね?」

ジュリアはそう言いながら肩を竦めた。
それにはルシーナも頷きながら、ドアの方に歩いて行くと隣の様子を伺っている。

「ねえ……声が聞こえなくなったわ?諦めたのかな?」
「ほんとだ。あ、じゃあ、そろそろ棚を避けて助けてやろうか?」

クスクス笑いながらジュリアは隣の部屋に向かう。
二人は足音を忍ばせ、そっとドアを塞いでいた棚を避けて中の様子を伺ってみる。

「何も聞こえないわね?」
「ほーんと…。開けてみる?」

二人はちょっと顔を見合わせて頷きあうとゆっくりドアノブをまわしてみた。

「え…?いないわよ?」
「ほんとだ…。また下に行ったのかな…」

ドアを開けてみるとそこにの姿はなく、二人は再び顔を見合わせた。

「きっと他の出口でも探しに行ったんでしょ?放っておきましょ?」
「そうね?ドアも開けたんだし、戻って来たら自分で出るわよね?」


二人はそう言うと笑いながら隣の部屋に戻り、そこから廊下へと出て下のロビーへと向かったのだった。








「何だか変な作りの家だよねー!今度明るい時に、また来ようよ」

ルパートは楽しげに言いながらロビーの中を見て回っている。
トムもリビングの方から戻ってくると、「ここキッチン凄い広いよ~」なんて呑気に歩いて来た。
だけど僕は一向に戻って来ないが心配で、そろそろ様子を見に行こうかと思った、その時、
階段の方から誰かが下りてきた。

「あ、エマ?」

見ればエマが慌てたように下りて来るのが見えてホっとしたと同時にの姿が見えないので不安になる。

「あれぇ?エマ、一人?皆は?」
「あ、ルパート!ダンも。戻ってたのね?良かった!」

エマはそう言いながら階段を下りてくると僕の方まで走って来た。

「エマ…は?彼女はどうしたの?」
「それがはぐれちゃったのよ。ここにも来てないのね?」
「えぇ?はぐれたって…。ルシーナ達はどうしたんだ?」

エマの言葉に驚いてそう詰め寄ると彼女は困ったように俯いた。

「それが…。私、ちょっと埃くさいのに耐えられなくて最初の部屋の窓を開けて休んでたんだけど、
ルシーナ達はどんどん奥の部屋に行っちゃって…もそれについて行っちゃったの。
で、私も後で追いかけたんだけど部屋が続いてるだけで姿が見えないから一度廊下に出て探したの。
でもいなくて…ルシーナ達もどこに行ったのか分からないから戻って来ちゃったんだけど…」
「じゃあ…。は彼女たちと一緒ってこと?」
「多分……」

エマの言葉に少しホっとしたものの、やはりルシーナ達と一緒というのは心配だ。

「僕、ちょっと見てくるよ」

皆にそう言って階段を上がろうとした、その時、上から笑い声が聞こえて懐中電灯の明かりがチラチラ光るのが見えた。

「あ、戻って来たんじゃない?」

エマもホっとしたように僕の服を引っ張って来る。
それには僕もホっとして軽く息をついた。

「あれ?皆、もう戻ってたんだ」

ルシーナは僕らのほうに懐中電灯を向けて、そう言うと階段を下りて歩いて来た。
だが近くに来て戻って来たのがルシーナとジュリアだけなのを見て驚いた。

「おい…何で二人だけなんだ?は?はどうしたんだよ…っ」
「え~?知らないわ?私達、途中ではぐれちゃったし。戻って来てないの?」
「何だって?!」

ルシーナとジュリアは互いに顔を見合わせ肩を竦めている。

「どういう事だよ?どこではぐれたんだ?」
「な、何よ、ダン…。そんな怖い顔して…。大丈夫よ、この家にいるのは確かなんだから」

澄ました顔でそう答えるルシーナにカっときたが相手をするのもバカらしく、僕は直ぐに階段を駆け上がった。

「ちょ、ちょっとダン?!放っておきなさいよ、子供じゃないんだから!すぐ戻ってくるわよ!」

ルシーナの叫ぶ声が聞こえたが、僕は無視すると先ほど達が向かった左奥の廊下まで走って行った。
開いてるドアから部屋に入ると確かに窓が開いていてここに来たんだと分かる。

?!どこ?」

彼女の名前を呼びながら、さらに次の部屋へと進んでいく。
だが返事もなくシーンとした部屋を進んでいくと、さすがに心配で息苦しくなってきた。

?!どこにいるの?!」

ありとあらゆるドアを開けていきながら必死に呼んでみるも全く返事がない。

……やっぱり一緒にいてあげれば良かった…!

後悔が頭を過ぎるが今さらそんな事を言っても遅い。

(クソ…!エマが一緒だと思って安心していた…)

少しづつ足を速め、さらに奥に進んで行くと開けっ放しのドアが二つある部屋についた。

?いる?」

隣の部屋を見ても人の気配はなくシーンとしている。
僕はそのまま、もう一つのドアの中を覗いてみた。
すると階段が見えて下へと続いている。

「ここかな……」

懐中電灯で照らしながら2~3段下りてみると、まだ下へと続いている様だった。
シーンとはしているが一応、確認しようと、足元を照らしながらゆっくりと下へ下りていく。

……?」

もう一度、名前を呼んでみる。
すると下の方で何かが動く気配がした。

?そこにいるの?」

ちょっと立ち止まって、声をかけてみると、かすかに何かが聞こえた気がした。
そこで一気に階段を下りて行くと明かりがチラっと見える。

……?!」


「……ダン……?」



か細い声が聞こえてドキっとした。
チラっと見えた明かりは懐中電灯でそこにがいると分かる。

…!大丈夫?!」


は階段の下のところで蹲るように座っていた。

「ダ…ダン……」

彼女は一人で泣いていたのか頬が濡れているようで、僕は急いで下まで下りるとの前にしゃがみ込んだ。


「どうしたの?大丈夫?」
「…ダン……私…」

よほど怖かったのだろう。
の頬に手を添えて顔を覗き込むと、彼女は首を振って泣き出してしまった。
小さく震える細い肩を見て僕は胸が苦しくなり、そのままを強く抱きしめた。

「凄い心配した……っ。良かったよ、見付かって…」
「…ダン……怖かっ……」

は安心したのか、声を詰まらせながら子供のように泣き出してしまって僕の腕の中で震えている。

「泣かないで……?もう大丈夫だから……」

の背中を擦ってあげると彼女が腕の中で小さく頷いているのが分かった。
僕はさらにギュっとを抱きしめると少しづつ彼女の震えも納まっていく。

「大丈夫……?」

少しだけ体を離し、の顔を覗き込むと涙で濡れた瞳と目があった。

「ご…ごめんね……。皆とはぐれちゃって……」
「うん…。いいよ?こうして無事でいたんだし……」

そう言って微笑むと、またの瞳に涙が浮かんでくる。
そのの瞳は奇麗で真っ直ぐに僕を見るもんだからちょっとドキっとした。


(まずい…こんな暗い中で、しかも至近距離で見つめ合ってたら、このまま離したくなくなっちゃうよ…)


はやっと少し落ち着いてきたのか、僕の腕の中で恥ずかしそうに体を動かした。

「あ、あの……ご…ごめんなさい…。もう…大丈夫だから……」

そう言いながら離れようとするに、僕は少し悲しくなって抱きしめる腕に力を入れた。

「…ダ……ダン……?」

「もう少し……このままでいていい……?」

「え……?」

「離したくないんだ……」

「……………っ」


僕の言葉にが息を呑むのが分かった。
驚いたように開かれた大きな黒い瞳が僕を見つめていて鼓動がさっきよりも早くなる。
だんだん顔が熱くなって、の体温を感じながらもう彼女以外の事は考えられなくなった。
ずっとずっと、こうして抱きしめていたくて、と一緒にいたくて、まだ告白は早いとか撮影中だからとか、そんなものはどうでも良くなってしまう。


「……ダ…ン……?」


は僕の言葉の意味がよく理解出来ないのか戸惑うように瞳を揺らした。
そんな彼女を見てると心の奥に隠していた想いが溢れて来て僕は小さく深呼吸をしてから、の頬にそっと手を添える。







「好きなんだ……が……」





「…………っ」





言ってしまった後に初めての告白がこんな場所だなんて全然ロマンティックじゃないよ…
なんて、どうでもいい事が頭を過ぎった。
それほど今の僕は気持ちが高ぶってたのかもしれない。
そんな事を考える余裕があったわけじゃないのに目の前で驚いたように僕を見つめているを見てると
自分の言葉が、どこか遠くで聞こえてきた気がして…




「す…き……?」



は僕の告白を理解してないような、そんな表情で口を開いた。
まるで、"好き"って、どういう意味の…?とでも問うように…。
その顔はやっぱりヘドウィグそっくりで可愛いな…なんて思ってしまう。
僕はもう一度、今度は自分の気持ちを落ち着かせる為に息を吸い込む。
の頬に添えた手をそっと彼女の首の後ろにまわしてを抱き寄せた。
そして素直な気持ちを告げる。





のことが……好きって言ったんだよ?」


「………ダンが……?」


「うん…」


「私のこと……を……?」


「うん……そう」


の声は小さくて少し震えているようだった。
でも僕は優しく相づちを打ちながら彼女の小さな体を抱きしめる。
出来れば、も僕と同じ気持ちでいて欲しいと願いながら……



………?」



少しの間、黙っていると腕の中での肩が震えているのに気づき、僕はそっと体を離した。


「泣いてるの……?」


見ればは俯いたまま肩を揺らして泣いていてドキっとする。


「ご、ごめん…。急にこんなこと言って…。でも僕は…」
「ぅぅん……」
「………?」

僕が慌てての頬に両手を添えて顔を覗き込むと、が目をギュっと瞑ったまま首を振った。


「ち…違う…の……」

「……え?違うって……」

「……れしくて……」

「……え?」

「ダン…と……同じ気持ちだったから…嬉し…くて……」

「―――っ」




今度は僕が息を呑む番だった。

(今…はなんて…?僕と同じ気持ちだったって……そう言った…?)




……それって……」

僕もさっきのと同じように、"どういう意味"で?と問うように彼女の瞳を見つめる。
だがの顔はすでに真っ赤で恥ずかしそうに俯いてしまった。
そんなを見ていたら僕も自惚れてもいいのかなって思えてくる。


も……僕のこと…好きって……言ってくれたの…?」


何とかハッキリ聞きたくて思い切ってそう聞いてみた。
するとはますます俯いてしまうが小さく、ほんとに小さく頷いてくれて僕の鼓動がだんだん早くなってくる。
何だか胸がいっぱいで言葉が出てこなくて、僕は両手に添えた手を少しだけ持ち上げての顔を上げさせた。
でもは涙で濡れた瞳をギュっと瞑ったままで僕の事を見ようとはしてくれない。


…?目、開けて欲しいんだけどな?」


ちょっと微笑んでそう言うもは恥ずかしいのか首を振るばかりで目は瞑ったまま。

(ほんと…可愛いんだから困っちゃうよ……)

真っ赤なを見て、愛しさが溢れてくるのを感じ、僕はそっとの頬を自分の方に引き寄せた。

「ダ…ダン…?」

それには驚いたようにパチっと目を開けた彼女に僕もゆっくりと顔を近づけると、ほんとに軽く唇を重ねた。


「―――っっ」


すぐに離すと、は放心したように固まっていて思わず笑顔になる。


「好きだよ…?」


彼女の額に自分の額をコツンとくっつけて、小さくそう呟けばの瞳からまた大粒の涙がポロポロと零れてきた。
それを指で優しく拭ってあげると、もう一度、今度は少し押し付けるように彼女にキスをした。
頬に置いた手を背中にまわしてそっと抱き寄せるとは体に力を入れて固くする。

「あ、あの……ダン……恥ずかしい……」

少しだけ唇を離してもう一度キスをしようとした時、が真っ赤な顔でそう呟いて僕は思わず笑顔になった。
そのままをギュっと抱きしめると彼女の体はかすかに震えていて、怖がらせちゃったかな……と心配になる。

「ごめん……怖い…?」

そう聞けばは慌てて首を振っている。
そしてギュっと僕にしがみついてきてそれだけで彼女の気持ちが伝わってきた。

(そう…怖いんじゃなくて本当に恥ずかしいだけなんだって……)

僕はあまりに幸せすぎて、このままを抱きしめていたかった。
だけど現実に引き戻すかのような声が上から聞こえてくる。







「おーい!ダ~ン!~?そこにいるの~~?!」


「「…………っっ」」





ルパートの呑気な声が聞こえてきた瞬間、は僕からバっと離れてしまって少し切なくなる。

「今、戻るよ!」
「あ、ダンだ!下にいるぞ?」

皆が下りてこないように急いで返事をすればそんな声が聞こえて来て僕は苦笑した。
そして目の前で未だ真っ赤な顔で俯いているの頭を優しく撫でると、

「戻らないと……立てる…?」

と聞いた。
するとが困ったように少しだけ顔を上げて、「それが…足を挫いちゃって…」と呟く。

「え?足…?どうしたの?」
「さっき…ここから出ようと思って上に行ったのにドアが開かなくて…。
全然開かないから怖くなって他にも出口がないか、もう一度下に下りて来た時にパニックになってたから足を踏み外しちゃったの…。
それで動けなくて…」
「そうだったんだ…。でも…ドアが開かなかったって…?」
「うん……そう言えば…ダンは、どうやってドアを開けたの…?」

首をかしげてそう聞いてくるに僕は驚いた。

(ドアが開かなかったって?だって、さっき上のドアは普通に開けられたのに…)

そう思いながらも、とにかくを連れて戻らないと…と思い、ゆっくり立ち上がるとの体を支えて引っ張った。

「大丈夫…?立てる?」
「う、うん……。何とか…さっきよりは痛みが引いたわ……?」

そう言って申し訳なさそうに見上げてくるが可愛くて、僕は素早く彼女にキスをした。

「…ダ……ダン……?」
「上に戻っちゃったら出来ないから…」

そう言ってちょっと舌を出して笑うと、はさっき以上に真っ赤になってしまった。

(もしかして……はファーストキスだったのかもしれない…)

彼女の態度を見てると、そこに気づいてますます胸が熱くなった。



……」
「え…?」
「さっき言ったこと……僕は本気だから……」
「……………」


僕の言葉に、はドキっとしたように顔を上げると小さく頷いてくれてホっとした。



「じゃ……戻ろう?僕に掴まって?」

「あ…ありがとう……」


手を差し出すと、は恥ずかしそうに僕の手をギュっと握って寄りかかってくれた。
そんな彼女を支えると一段一段、慎重に階段を上がっていく。


一生懸命に階段を上がっているを見て、僕はこれが夢なら覚めないで欲しい…と祈っていた。














「もう、何してたのよ、二人で!」


私とダンが上に戻ると、ルシーナが凄く怖い顔で睨んできた。
だけど今の私にはそんな言葉すら頭に入らない。
さっきからドキドキしたままの心臓が壊れないか心配だった。
チラっとダンを見れば、ニコっと微笑んでくれて繋いだ手をギュっと握ってくれる。
他の皆には気づかれないように私も微笑み返した。

「ごめん、彼女、ちょっと階段から足踏み外して挫いちゃったみたいなんだ」
「え?大丈夫?!」

エマもルパートも驚いて私の方に走ってきてくれた。

「うん…大丈夫…。ごめんね?心配かけて…ちょっと皆とはぐれて迷っちゃって…」
「そんなのいいよ。じゃあホテルに戻って湿布しないと…」

ルパートはそう言って頭を撫でてくれた。

「じゃ戻ろう。そろそろ帰らないと抜け出したのがバレそうだし」

トムも時計を見ながら外に歩いて行く。
それにジュリアも続いた。
ルシーナはダンが私の事を支えているのを怖い顔で睨んでいたが、プイっと顔を反らして二人の後ろから走って行く。

「じゃ、帰ろう?、歩ける?」
「うん。大丈夫よ?エマ」
「そう?じゃ、ダン、お願いね?」
「うん。分かってる」

ダンはそう言うと私の肩を抱きながらゆっくりと歩いてくれた。

「あ、ありがと…。ごめんね…?」
「いいよ。気にしないで」

ダンはそう言って優しく微笑むと皆に気づかれないように私の頭を抱き寄せ軽くキスをしてきて、また心臓が跳ね上がる。



信じられない……
ダンも……私の事を好きだって言ってくれたんだ……
まだ夢を見ている気分…
そ、それに……ダンとファーストキスしちゃったんだ………っ


その事を思い出すとまた顔が火照ってくる。
さっきキスされた時、一瞬、何か分からなかった。
素早く離れたダンの奇麗な瞳を見つめながら唇に残った温もりに一気に顔が熱くなって…
その熱も冷めないうちに、またキスをされて倒れそうになった。

ほんとに……信じられない……
ダンと……同じ想いだった事も……


ど、どうしよう…
こうなったら…どうしたらいいの?
何もかも初めての経験で、どうしていいのか分からない…っ
私……ダンの…彼女…になっちゃうって事なのかな……?


そんな事を考えていたら、また鼓動が早くなってしまった。

ちょっと息苦しい……
皆、こんな思いをしてるって事なの…?
だとしたら私の心臓がもたないよ……


直ぐ隣にいるダンの体温を感じながら、私は今夜は眠れそうにないわ…と思って小さく息を吐き出した。












「ちょっとエマ」


皆でホテルに戻り解散となった後、僕はを部屋まで運んでベッドに寝かせてからエマを廊下に呼び出した。

「何?ダン、どうしたの?」

エマは首を傾げながら歩いて来て、部屋に戻りかけたルパートも、「何?何?」と歩いて来る。

「ルパートはいいよ、先に部屋に戻って」
「ぬ…何だよ~!冷たいなぁ、二人で内緒話?」

ルパートは口を尖らせながら僕の肩を抱いてくる。
それには仕方なく溜息をついた。

「分かったよ…。どうせ後から話そうと思ってたんだ」
「何よ。何の話?」
「そうだよ~。何、真面目な顔しちゃって」

エマもルパートもワケが分からないといった顔で僕を見てくる。
それには、さすがに僕も少し照れくさくてコホンっと咳払いをした。

「あの…さ…」
「うん」
「さっき……」
「さっき?」
に……告白しちゃったんだ……」

「「はぁ?!」」



僕の言葉に二人とも口を開けて変な声を出した。

「バ…しぃ!聞こえちゃうだろ?特にトムとかには聞かれたくないんだからさっ」
「だ、だ、だって……え?嘘だろ?」
「そ、そうよ、ダン…っ。何で急に……っ」

二人は口をパクパクさせながら何だか慌てふためいている。
そんな二人が滑稽で僕はちょっと噴出し笑っていると、エマにバンっと背中を叩かれた。

「何笑ってるのよっ」
「…ったいなあ…。叩くなよ……」
「いいから説明しろよっ。で、どうしたって?」

ルパートなんかは顔を真っ赤にして僕の体を揺さぶってきて、ちょっとクラクラした。

「だ、だから、さっき…。一人で泣いてるを見つけた時にさ…。凄く好きだって実感しちゃったって言うか…。
気持ちがどんどん溢れてきちゃって…。で…つい好きだって…言っちゃったんだ……」

ルパートの腕を離して何とかさっきの状況を説明すると、口を開けたままの二人が互いに顔を見合わせている。
そしてまた僕を見ると思い切り笑顔になった。

「嘘~~~っ凄いわ?ダン!!それで?!は何て答えたの?さっきの雰囲気ならもしかして…っ」
「ああ…うん……。も……僕と同じ気持ちだって…言ってくれて…さ……」

少し照れくさくて頭をかきつつそう言えば、エマが飛びかかってきた(!)

「キャ~~っダン、おめでとう!!」
「バ、バカ、しぃ~~っ!静かにしろよ…っ」
「だって~~!嬉しいんだもん!!そっか~はやっぱりダンのこと…っ。良かったね?ダン!」
「あ、ありがとう…」

ギュウギュウ抱きしめてくるエマに何とかそう言うと、何故かウルウルした瞳で僕を見ているルパートと目があった。

「ル、ルパート…?あ、あのさ……何て言っていいのか…」

ルパートも少なからずの事を気に入っていたので、そこは何となく申し訳なくてそう言うと今度はルパートまで飛び掛ってきた(!)
(勘弁してくれ)

「いいんだよぉ~う!ダン!!おめでとう~っ!勝ったな?トムに!そっかぁ~羨ましいぞ、このやろう!」
「サ、サンキュ…ってかルパート声でかいって…」
「あ、ああ…ごめんごめん!あまりに嬉しくて…っ!」

ルパートはそう言うと涙を拭きつつ、ニカーと笑った。

「そ、それで…この事は…」
「分かってるわ?皆には内緒でしょ?」
「う、うん…。ちょっと気になる事があってさ…」
「何だよ?気になる事って…」

僕が少し俯くと、二人は首をかしげて聞いて来た。
なので、さっき感じた疑問を説明した。
がいた部屋のドアは開いていたのに、が出ようとした時には閉まっていた事だ。
それを聞いてエマもルパートも眉を寄せている。


「そんなの絶対、ルシーナに決まってるわ?!あの子、わざとがあの部屋に入る様に細工したのよ、きっと!」
「僕もそう思うな?だって、おかしいよ。は怖がりなのに一人であんな場所に行かないだろ?きっと騙して引き寄せたに違いないって」
「そうかな…?やっぱり、そう思う?」
「そうよ!もう許さない!ルシーナに問い詰めてやるわっ」

エマはそう言うや否やエレベーターホールの方に歩いて行こうとして、僕は慌ててそれを引き止めた。

「ま、待てって!何の証拠もないのにそんな事言えばルシーナだって大騒ぎするに決まってるだろ?またケンカになるぞ?」
「でも、ダン…!が怖い思いしたのよ?黙ってられないわ?そ、そりゃ私もすぐに後を追いかけなかったのが悪いんだけど…」
「エマのせいじゃないよ。それに…僕だってルシーナ達がわざとした事だとしたら許せないけど…今後まだ一緒に撮影するんだ。
今、モメたら他のスタッフにだって迷惑かけるだろ?だから……」

僕がそう言うとエマは仕方ないといった感じで肩を竦めた。

「分かったわ…。今回だけは放っておく。でも彼女たちにはとの事内緒にしてた方がいいのね?何するか分からないからでしょ?」
「うん……。もしかして…原因が僕ならさ…。また学校の時みたいな思いをにさせたくないし…」
「そうだなぁ…。どうもは、あの手の性格悪い女からいじめられるからな…。きっとが可愛いから僻んでるんだよ」

ルパートはそんな事を言いながら、うんうんと一人で頷いていて僕はちょっとだけ苦笑した。

「とにかく……頼むね?僕もなるべくの傍にいるようにはするけど…」
「OK!私もダンがいない時とかはと一緒にいるようにするわ?この撮影が終われば、もう隠す必要もないんだし、
その時、ルシーナをガツンと振ってやればいいわよ」
「そうだそうだ。そうしろ、ダン」
「うん…」

二人の気持ちが嬉しくて笑顔になると、エマが思いついたようにポンっと手を打った。

「そうだ。ダン、、怪我してるし怖い思いしたんだからついててあげてよ」
「え?!」
「あ~そうだね。そうしなよ、ダン」
「で、でも…まだ告白したばかりで…」
「だから、いいんじゃないの!別に一晩一緒にいろとは言わないわ?そうじゃなくて私はルパートと一緒にゲームでもしてるし、
その間、ダンは部屋でについててあげてよ。ね?」
「そうそう!ダンだってまだと一緒にいたいんだろ?」
「そ、それは……」

二人から攻撃され、さすがに僕も顔が赤くなった。
するとエマが僕の背中をぐいぐいと押して、「ほらほら!早く!が変に思うでしょ?」と言ってくる。

「ちょ…エマ、おい……」
「はいはい!そこで照れない、照れないっ。二人きりにしてやるって言ってんだからさ!」
「おい、ルパート…っ」

終いにはルパートまで背中を押してきて部屋の前まで押しやられた。

「はい!じゃ、ごゆっくり~!あ、これ部屋の鍵ね?」
「え?あ……」
「おい、ダン、二人きりだからって襲うなよ?」
「バ…バカ言ってんなよ?!」

ルパートの言葉に顔を赤くして怒れば二人とも笑いながら部屋へと入ってしまった。
廊下に一人取り残された僕は仕方なく、今エマに渡された鍵でドアを開けて中を覗いてみる。



「あ…ダン……?」

はベッドから上半身だけ起こしていて僕を見て驚いたように顔を上げた。
僕はちょっと微笑んでの方に歩いて行くと椅子を引いてきてベッドの横に座った。

「あの…エマ…は…?」
「う、うん。あの…ルパートとゲームするから…僕にについてろって……」
「え?そ、そう……」

その説明には小さく頷くと恥ずかしそうに俯いている。
僕も多少、照れたけど、それでもとやっと二人きりになれて嬉しかった。

「足……大丈夫?」
「え?あ…うん…もう、そんな痛くは……」
「そっか…。良かった」

そう言って微笑むとはチラっと僕を見て笑顔を見せてくれる。
少しはにかんだようなの笑顔に僕はまたドキっとさせられて小さく咳払いをした。


「あ、あの…さ……」
「…えっ?」
「さっき……言えなかったんだけど…」
「ぅ。ぅん……」
「僕は…ほんとにが好きなんだ…だから…」
「………」

そう言って顔を上げるとは真っ赤になって目を伏せた。
そんな彼女を見て思い切って手をギュっと握るとは驚いたように僕を見た。


「あ、あの…」

「だから……僕と……。ちゃんと付き合って欲しい…んだけど……」



さすがにこう言うのは照れて少し言葉に詰まってしまったが、は真っ赤になったまま僕を見つめて小さく頷いてくれた。



「ほんと?いいの?」
「そ、それは…私の台詞よ?」
「え?」
「私で…いいのかなって……」

は少し悲しげに上目遣いで聞いてきて、それが凄く可愛いものだから思わず笑顔になった。
そのまま握った手をちょっと引き寄せ、を自分の腕の中に納めると彼女が緊張して体を固くしたのが伝わる。
それさえ愛しいな…って思った。


がいいんだよ…?だから…そんな風に思わないで…」
「……ほんとに……」
「うん、ほんとに」

すでに涙声になっているの顔を覗き込んでそう言えばポロっと涙が頬を伝っていった。

「あ~…泣かないでよ…。が泣いたら僕まで悲しいからさ…」
「う、うん…ごめん……ごめんね…?」


は泣きながらも必死に堪えているようで、その姿が意地らしくてもう一度ギュっと抱きしめた。


「僕は…忙しくて、傍にいられない時も多いけど…それでものこと、ちゃんと考えるから…」
「ダン………」
「ロケ終わって帰ったらさ……。の両親にも話していいかな…?」
「え……?」
「ちゃんと付き合いたいから…の両親にも、友達としてじゃなく…今度はちゃんと恋人として挨拶したいんだけど…ダメ?」

少し体を離してそう聞けば、は驚いたように涙で濡れた瞳で僕を見つめてくる。

「ダ、ダメなんかじゃ……」
「反対されるかな……?まだ中学生なのにって」

ちょっと不安を感じてそう呟くとが思い切り首を振った。

「お、お父さん、きっと大喜びして、大騒ぎするわ…?それでも大丈夫…?」
「え?」

その言葉にちょっと驚いての顔を見れば彼女はイタズラッ子のように微笑んだ。
それには僕も笑顔になる。

「あはは…そんなの大歓迎だよ?反対されるより、ずっといいから」
「ほんと……?きっと…"ハリーくん、ハリーくん"って凄いと思うよ…?」
「いいよ?と一緒にいれるなら……」


僕が真剣な顔でそう言うとの顔がまた赤く染まった。


「大好きだよ……?…」


真っ赤になったにそう言ってそっと抱き寄せると、そのまま唇を重ねた。
その瞬間、または体を固くしたけど、離したくなくて更に強く抱きしめる。
彼女の体温を確めるように、何度もキスをしながら口にはまだ出せない想いを心の中で呟く。



早く…大人になりたいって思ったのは、を好きになってから。



こんな事を考えるなんて、まだ早いかな…?
こんな感情、まだ僕らには早いのかな……?
でも、本当に大好きだから、ずっと一緒にいたいから……
と一緒に年齢を重ねて一緒に大人になったら…その時はちゃんと言葉に出して言おう…


君を………愛してる……って……




キスをするたびに震える彼女がほんとに大好きだから…その時までこの言葉はしまっておこう―――




この時の僕は…本気で信じていたんだ…


と……ずっと一緒にいれるって……


初めてキスした、この日も…二人にとっての始まりで…


これからもっと沢山、二人の記念日を作っていきたかった。






―知るには早すぎたのかもしれない。



幸福の後にくる反動―――


 






 


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Postscript


うひゃーやっと動きました(笑)
と言うか、これ、もっと短い筈だったんですけど…
そろそろ次の段階がありますのでね^^;
あ~ダンみたいな子がいれば本気で惚れちゃうね(笑)
ってか何て、おませさん!(笑)


本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...


【C-MOON...管理人:HANAZO】