Chapter.13 何もしない時間~ライバルにご用心④~                Only you can love me...






ロケに来てから四日目……私の世界は一変した。

何が変わったって…全て大好きな彼―――ダンを中心に回り出したって事なんだけど……


「もう~分かったわよ、お父さん……。それより今から勉強するの。切るわよ?え………っ?ダ、ダン?ここにいるけど…
ダ、ダメよ…!出せないわ?もう、そんなスネないでよ~……っ」

私は電話口でスネスネモードの父に思い切り溜息をついた。
チラっと後ろを見れば、ダンがクスクス笑いながら、こっちを見ている。
それだけでも恥ずかしいのに、こんな父との会話を聞かれる事さえ嫌だ。

今日はロケが早めに終わり、今は二人で夏休みの宿題をしようとダンの部屋に来ている。
いつもはエマやルパートも一緒にするのに、何だか気を利かせてくれたみたいで二人は私とエマの部屋で勉強しているようだ。
未だダンと二人きりなんて照れるのに、突然かかってきた父からの電話、あげく、こんな情けない会話を聞かれるなんて、もっと恥ずかしい…。

「もう…っ。付き合ってられないから切るね?」

いい加減、私は呆れて電話を切ろうとした、その時、今までソファーに座っていたダンが立ち上がってドキっとした。

、電話貸して?」
「え……っ?!で、でも……」
「いいよ。のパパだろ?ちょっと話させてよ」

ダンは普段どおりの優しい笑顔で手を出してきた。
私は一瞬、悩んだが、父の為を思って気を遣ってくれたのだから…と
渋々携帯をダンに渡そうと耳から下ろし、ダンの方に携帯を差し出した、その時。
グイっと、その手を引き寄せられ、気付けばダンの腕の中にいた。

「ダ、ダン…っ?」

驚いて顔を上げた私に、ダンは優しく微笑むと、チュっと頬にキスをしてから私の携帯を取った。


「Hello?今晩わ、ダニエルです」

ダンは電話で話しながら、またソファーに座り、手で自分の隣をポンポンとしている。
それは私に、ここに来てと言ってるんだ…と分かった時、今のキスで赤くなった頬が更に熱を帯びてきた。



「はい…はい。いえ全然、迷惑なんてかけてませんよ?スタッフの皆ものこと可愛いって気に入ってますから」

「…………………っ」

「ええ、もちろんアルフォンソ監督も。ええ……え?ああ……はい。僕も凄く好きですよ?のこと」

「………………っっ?!」

静かに隣に座った時、そのダンの言葉に耳まで赤くなった。
ダンは父にそう言いながら私の事を優しく見つめていて、私が隣に座った時、ギュっと手を握ってくれた事も更に顔を赤くさせる。

私、こんなんじゃ逆上せて死んじゃうかも……

なんて変な事まで考えた。


「え?ほんとですか?じゃあ…是非…そうしようかな……?」
「……………???」

その時、ダンが意味深な目で私を見て、ニコっとした。
私は、その意味が分からず、首を傾げると、ダンは何だか照れくさそうに微笑みながら、

「はい、そう伝えます。じゃあ、また……」

と言って電話を切った。

「………ダン…?お父さん…何て……?」

二人で何を話したのかが気になり、そう聞いてみると、ダンに、そっと抱き寄せられた。
そして頬にキスをしてから私の顔を見つめてきて、あまりの恥ずかしさに思わず俯いてしまう。
するとダンは両手で私の頬を包み、顔を上げさせた。

「ダ、ダン…?」
「今さ…」
「え………?」
のパパに、"そんなにが好きなら、いつでも貰ってくれて構わないよ!"って言われたんだけど……どう思う?」
「…………な……っ。何それ……?!」

思ってもみなかった言葉に、私は驚き、一気に体中が熱くなる感覚に襲われた。
おそらく顔なんて最高に真っ赤っ赤だったことだろう。

「し、信じられない…っ。お父さんったら…っ」

恥ずかしくて、私はダンの腕から逃げ出すように立ち上がった。
するとダンも慌てて立ち上がり、私の腕を掴む。

「どうして怒ってるの?」
「…ど、どうしてって……」
「僕は嬉しかったんだけど……」
「………ダン…」

な…なんだろう、この展開……
それって、だって……

私が戸惑うようにダンを見ていると、彼は掴んでいた腕を少しだけ強引に引き寄せ、私を強く抱きしめた。

「パパに、そう言われたんだから、そうしてもいいよね?」
「…………え?」
「僕らが、もっと大人になったら……。ずっと二人でいれるように今からのパパに約束取り付けておかなくちゃって思ってさ?」
「ダン……」

彼の一言一言に鼓動が跳ね上がるから私は息苦しくて、でも嬉しくて何だかフワフワしてきた。
ダンの体温のせいでもあるけど、強く抱きしめられている体が、どんどん熱くなってくる。
それに気付いたのか、ダンが不意に体を離し、私の顔を覗き込んできた。

……体熱いね?」
「う、うん…………」

私は近くでダンの声が聞こえてくるから、更に恥ずかしくなって俯いてしまいそうになる。
するとダンがクスクス笑いながら、

、顔が真っ赤だ」

と言って私の額にチュっとキスをした。
それにすら体がビクっとなってしまう。
するとダンがやっと私の体を解放して、ソファーに座った。

「宿題……やっちゃおうか…?」

見ればダンも少しだけ照れくさそうにしている。
私は、またダンの隣に腰を下ろすと、ノートと教科書をカバンから出した。
そして互いに、ちょっと目を合わせて微笑みあうと、

「じゃあ…今日は、ここまでやっちゃおう?明日はオフだから出かけたいしさ?」

とダンが言った。

その言葉が凄く嬉しい。

そう…明日は唯一ロケはお休み。
だから、ずっとダンと一緒にいられる。
そう思えば宿題をやる事だって全然、苦じゃない。


それから暫く、二人で黙々と宿題をしはじめた。












隣で真剣に教科書を見ながら宿題をしているを見て、僕は自然と笑顔になった。

あんな眉間を寄せちゃって…。
分からない問題でもあるのかな…?

そんな事を思いながら、僕はすでに終わった宿題のノートに、まだ書き込んでるフリをしながら笑いを噛み殺した。
これが終われば今夜は何に捕らわれる事もなく、と二人で好きな事が出来る。
時計を見れば午後6時になるとこ。
この後は、きっと皆で夕食に出かけるんだろうけど、それから帰って来たら二人で一緒にDVDを見ようと約束をしていた。
だからこそ、面倒な宿題だって早く終らせたくて頑張った。

でも……の方は、まだ少しだけ残ってるようだ。
ほんとなら全部、僕がやってあげたいなんて思うけど、勉強ばかりは自分でやらないと後でが困る事になるから手伝えない。
分からない事なら教えてあげられるんだけどなぁ…。

そんな事を思いながらの横顔を見ていると、彼女はますます眉間に皺を寄せて、だんだん唇まで尖ってきた。
そんな表情すら可愛くて、僕は我慢も限界で、プっと吹き出してしまった。

「……ダン?」

僕が笑ったからか、は驚いたように顔を上げた。
そしてキョトンとした顔で僕を見ている。

「何で笑ってるの……?」
「ご、ごめん…。が悩んでる顔が可愛くて…」
「…………ぇ…?」

僕がそう言うと、案の定、は薄っすらと頬を赤くした。
そんな彼女が可愛くて僕は笑いを堪えると、

「何か分からないとこあった?」

と聞いてみる。

「あ……う、うん…。それが…ここの数式問題で引っかかっちゃって……」

僕の言葉には素直に答えて自分が分からないところを指さした。

「どれどれ?」

そう言いながらノートを覗き込むのに少しだけに体を寄せると自然に顔も近くなる。
だけどは宿題の事で頭がいっぱいなのか、

「あのね、ここでこうすると…こんな答えが出ちゃって……」

と真剣に僕に説明している。
その可愛さは僕の心を揺さぶるだけの効力があるから困るんだ…

僕が黙っていたからか、が不意にこっちを見た。
至近距離で目が合い、はドキっとした顔で目を伏せる。
僕はちょっと微笑むと、そのまま顔を近づけての唇に、そっと口付けた。
その瞬間、鼓動もドキンっと跳ね上がり、一気に胸が熱くなる。
はギュっと目を瞑ったまま固まっていて、それすら可愛いからキスをしたまま優しく抱き寄せた。

「ん…ダン…。これ、やらなきゃ……」
「うん…。教えてあげるよ?」

僕は少しだけ唇を離すとの額に自分の額をつけて微笑んだ。
そして、

「もう一回だけキスしたら……」

と付け加えて、そのまま押し付けるように、もう一度にキスをした。
するとの体が、かすかに震えて僕の腕をギュっと掴んでいる。
その手を優しく握って、ゆっくり唇を解放すると、が真っ赤な顔で俯いた。

「今……教えて貰っても頭に入らないかも………」
「え?」

はそう呟いて恥ずかしそうに僕から離れた。
そのの可愛さと言ったら、ほんとに言葉では表現できないくらいだよ。

って、ほんと可愛い」
「…………ぇ?」

僕がそう言って教科書を開いているを見れば、彼女はすぐに真っ赤になって俯いてしまう。
ほんとなら、もっと抱きしめていたかったけど、これ以上を恥ずかしがらせるのも可哀相だからと少し我慢する。


「じゃ、ここの解き方、教えるね?」

僕が自分のノートを開きながら、に微笑むと、彼女はやっと顔を上げてワタワタしながら自分のノートを開いている。



そんな姿を見ると、って何だか小動物みたいで可愛い…なんて思ってしまうも、これは言わないでおこうと気を取り直し、数式の解き方を説明していった。












「ちょっとルパート!さっさと宿題しなさいよ!」
「ん~ちょっと待って……」

ルパートは、そう言いながら壁にコップを当てて、それに耳をつけている。

「あんた……さっきから何してんの?」

エマが半目になりつつ、呆れたように問い掛ければ、ルパートは得意げに、

「隣の声が聞こえないか聞いてるんだよ」

と胸を張って見せた(!)

「ちょ…盗み聞きなんて…………!! ……何か聞こえる?(オイ)」
「いや~それが、さっきまで何だか明るい声というか、の怒った声だけ聞こえて来てたんだけど…急に声のトーンが落ちてさぁ~」

ルパートはコップに耳をつけたまま、そんな事を言っている。
だが、その言葉にエマは目をキランと光らせた。

「え?怒ってる声って、どんな?!」
「ん~よくは聞こえなかったけど~…"もう…そんなスネないでよ~"とか何とか……」
「キャ!嘘!もしかしてダンってばにキスさせてもらえなくてスネたのかしら?!」
「えぇ~?!キスゥ~~?!」

ルパートは二人の、そんな話は初耳で驚きのあまりベッドから落ちそうになっている。

「ちょっとルパート!大きな声出さないでよ!聞こえないじゃないっ」

エマまでコップを持って壁に当てて聞き出す始末。
だがルパートは真っ赤な顔のまま、

「ちょ…そんな事よりあの二人、キ、キスなんてしちゃったわけ?!そ、それは早くない?!上手く行ってから、まだ三日目なんだけど!」
「だから何?今時、キスなんてすぐよ、すぐ!それにダンはすっかりにメロメロなんだからキスしなくちゃ欲求不満で倒れちゃうわ?きっと!」

何とも酷い事を言いながらエマは肩を竦めて笑っている。
だがルパートは顔を真っ赤っ赤にしながら、

「うわーダンの奴~!!のファーストキスを奪ったなぁ~~っっ?!」

と変なとこで怒りだした。
それにはエマも一瞬キョトンとして、

「ちょっと。何でがファーストキスだって分かるわけ?」

と振り向いた。

「何でって見てれば分かるだろ?あんなにシャイで可愛らしいんだからさ!エマも少し見習えば?」
「何ですってぇ~~?!」

一瞬にしてエマの顔が鬼のように変わり、ルパートには彼女の頭にツノが見えた気がした。



「そんなこと言うのは、この口?!」



「うあ…!!いててっっ!!!やめろよ、エマ…!!うひゃぁぁぁぁぁぁあぁあぁあぁぁぁあ~~っっ!!」



エマに口を思い切り引っ張られ、ルパートは、これ以上ないというほどの悲鳴をあげたのだった……。

















「あれ…何か悲鳴みたいな声が聞こえなかった?」

宿題も終わり二人で片付けてると、不意にダンが顔を上げて、そう呟いた。

「え?あ、言われてみれば………。何だか断末魔のような声が……」
「でも、もう聞こえないね?空耳かな……」

ダンは、そう言いながらニコっと微笑むと、教科書をしまってソファーから立ち上がった。

「ん~。やっと終わったね?」
「うん。ダンに教えて貰ったら早く終わって助かっちゃった」

私がそう言ってテーブルの上を片付けていると、突然後ろからギュっと抱きしめられてドキンっと心臓が跳ね上がった。

「ダン……?」

ダンは私を、そのまま強く抱きしめながら頭に頬を寄せて来て、さっきの熱が再燃してくるようだ。

「あ、あの……どうしたの……?」
「ううん…。抱きしめたいだけだよ?前にも言ったろ?」
「………………っっ」


そんな風に言われたら何て答えて良いのか分からない……
ダンの体温に包まれちゃうと思考も飛びそうで、ほんとに顔が熱い……

その時、後ろから頬にチュっとされて一瞬で顔が赤くなってしまった。
ダンは、そんな私に気づいたのか、クスクス笑っている。

、す~ぐ赤くなっちゃうね?そういうとこも凄く好きだけど」
「ダ、ダン…っ。からかってるでしょ……」

耳元でダンの声と、その振動が伝わってきてドキドキしながらも何とか言い返すと、今度は肩に重みを感じた。

「からかってないよ……?ほんとに好きなんだ、が…」

ダンの少し低い声は、ほんとに耳元で聞こえて、かすかにダンの吐息までが耳をくすぐり、私はドキドキしたまま固まってしまった。

…?どうしたの?」

あまりに私が黙ったまま動かないのを見て、ダンは肩に乗せた顎を離すと、そっと私を自分の方に向けた。

「怒ったの……?」

少し心配そうな顔で聞いてくるダンに私は首を振るだけで精一杯だ。

「じゃあ……僕が好きだって言うのが恥ずかしいだけ……?」

少し首を傾けながら、そう聞いてくるダンに、私はやっとの思いで頷いた。
するとダンはホっとしたように微笑んで、

「そっか…。良かった…」

と言って私を、もう一度抱きしめてくれた。

私はもういっぱい、いっぱいで、男の子って誰でも付き合ったら、こんなに情熱的になっちゃうのかな…なんてバカな事を考えていた。

それとも……ダンが特別なの……?

ダンの腕の中に包まれてると、何だかフワフワしちゃって何も考えられなくなる。
すると、その温もりが少しだけ離れてしまって、ふと顔を上げると、ダンの顔がゆっくりと近付いて来た。
それすらドキっとしたけどフワフワな気分で、顔を反らせない。
いつの間にか頬にダンの手が添えられ、もう私の顔が熱いのか、ダンの手が熱いのかさえ分からなかった。

「好きだよ……」

少し小さな声でダンが呟いたのだけは分かって自然と目を閉じた。




そして、もう少しで二人の唇が重なりかけた、その時………













キンコーーーーン、キンコーーン!








「「……………っっっ」」






その音に私がパチっと目を開けるとダンも驚いたように私から離れた。







「おぉ~~~いダーーーーン!~~~~?!夕食に行くから出て来いよ~~~~~っっ!!」




そこへ、大きな叫び声が聞こえて来て二人で顔を見合わせる。

「はぁぁぁ………。ルパートだ………」


ダンは大きく溜息をつきながらガックリと項垂れた。
私は、まだ、さっきの熱が残ったままで熱い頬を手で隠しながら、慌てて自分の荷物を持つ。

「い、行かないと……」

そう言ってドアを開けに行こうとした私の手を、ダンが掴んで軽く引き寄せられた。

「キャ…」

驚いて振り向けば、いきなりチュっとキスをされ、一瞬何が起こったのかと目が丸くなった。

「ダ…ダン……?」

目の前にはダンの、ちょっと照れくさそうな笑顔が見える。
ダンは、そのまま私の頭を優しく撫でると、今度は頬に軽くキスをして、

「じゃ、行こうか?」

と普段と変わらない笑顔を見せた。
私は真っ赤なまま、小さく頷くと、ダンがそっと私の手を繋いで、そのままドアの方まで歩いて行く。

その間も部屋のチャイムは、うるさく鳴り続けている。





キンコーン、キンコーン!






「ダ~~ン~~~~~っっ!!」


「うるさいよ!!!」



バン!ゴン!





「ぶっっ!!」





あまりのチャイムのしつこさにダンは怒ったようにドアを開け放ち、目の前に立っていたルパートの顔面を直撃した(!)
ルパートは、あまりの痛さに、その場にしゃがみ込んでいて、隣ではエマがお腹を抱えて笑っている。

「あははは!だから言ったじゃない。二人の邪魔すると何されるか分からないわよ~って」
「いででで…っ。じゃ、邪魔って僕は、ただチャイム鳴らしただけだろぉぉう?!

ルパートが赤くなった鼻を抑えつつガバっと立ち上がると、ダンは冷ややかな視線で、

「何度も押すな。一回でいいだろ?」

と言い放ち、私の手を引いてズンズンとエレベーターホールの方に歩いて行く。
それをエマとルパートも追いかけてきた。
そして丁度、到着したエレベーターに皆で乗り込むと、ルパートは鼻を擦りながら、

「鼻血出てない?」

とエマに聞いている。
エマはといえば思い切り顔を顰めて、

「ちょっと、鼻の穴を私に見せないで…っ」

とルパートの顔を手でグイっと横に向けてしまった(!)


「あ、あの…ルパート…大丈夫?私、ハンカチ持ってるから……はい」

私はルパートが可哀相になり、急いでバッグからハンカチを出すと、彼に差し出した。

~~~~っっ!!君は何て優しいんだ~~!ほんと、お花の妖精(?)みたいだよ~~ありがと~~!!」
「キャ…っ」

ルパートは何だか意味不明な事を言いながら私の手をギュっと握ってきて驚いた…瞬間、

「ルパート!!の手を握るなっ」

ダンが怒ったようにルパートの頬を手でグイーーっと押しのけ、彼は思い切り顔が歪んでしまった……
それを見てエマは、また大笑いしている。

「あはは~ほーら言ったじゃない。それに何?そのお花の妖精って!さしずめ今のルパートは"お鼻の妖怪"みたいに鼻がでかくなってるわよ?」

そう言ってルパートの腫れた鼻を指さした。

「うあっ。腫れてる…!どうりで痛いはず……!」
「明日はオフで良かったな?その顔じゃ撮影できないし」
「ダ、ダン!誰のせいだと……っ」
「ごめん、悪気はないんだ」
「って、おい!誤るのかよっ」

そこは素直に謝るダンにルパートも肩がガクっとなってしまった。
そんな皆のやり取りを見て、私がクスクス笑っていると、ダンが優しい笑顔を見せて、

のハンカチ汚れちゃって、もう使えないから明日、僕が新しいの買ってあげるね?」

と言って繋いでいる手を持ち上げ、私の手の甲にチュっとキスをした。
皆の前で、そんな事をされた私はもちろん、それを目の前で見ていたルパート、それにエマまでが顔を赤くして口を開けている。

「ちょ、ちょっとダン!見てるこっちが照れるでしょ?!」
「何だよ、エマ…。じゃあ見なきゃいいだろ?」
「見えちゃったのよ、見えちゃったの!全く!ダンってば少しはのこと考えなさいよね?見てよ、真っ赤じゃないのっ」
「え?あ、ああ…。ごめんね?……」
「う、ううん……」

ダンは少し困ったように微笑むと、私の頭を優しく撫でてくれる。
それをエマは苦笑交じりに見ているし、ルパートはルパートで何だか口を開けたままヨダレでも垂らしそう(!)勢いだ。


こういう事されると恥ずかしいけど、でも……ダンが嬉しいなら私も嬉しい……


ふと見上げたダンの横顔は、本当に嬉しそうで私と目が合うと、照れくさそうに微笑んだ。












「おい、エマ…そんなモリモリ食べたら太るぞ?」

僕は目の前で次々にお皿を空にしていくエマを見ながら呆れたように呟いた。
だがエマはチラっと僕を見ると、

「食べなきゃやってらんないでしょ~?」

と苦笑している。

「何で?」
「だって親友のダンにはとラブラブなとこ見せ付けられるし、私は未だ彼氏が出来ないし~」
「バ…そんな話、ここでするなよっ」

僕は慌てて、そう言うと後ろのテーブルのトム達の方を見た。
だが幸い、トムは隣の共演者の友達と楽しそうにギャーギャーと騒ぎながら話している。
僕はホっとしつつも、エマの方に視線を戻した。

「エマだって作ろうと思えば作れるだろ?」
「ま~ね~。でも前にも言ったように、私の理想は凄く高いのっ」
「へぇ~じゃ僕は?僕!あぶれたもの同士で愛を育まない?」

そこにルパートが顔を出し、エマが思い切り顔を顰めた。

「私、人間が好みなの。"お鼻の妖怪"には興味ないわ?それ以上、近づいたら退治して貰うわよ?」

そう言ってステーキを切り分けていたナイフをルパートの顔の前に出した。

「うあ、やめろよっ。ほんと怖いなぁ、エマは!そんなんじゃ、最後まであぶれっ子だぞ?」
「うるさいわねっ」

二人は、また、いつもの口論を始めて僕は溜息をついた。
そしては、まだかな?とトイレの方に視線を向ける。

(ちょっといないだけで、すぐ心配になるなんて、ほんと重症だよな……)

そんな事を思いつつ、自分で自分に、ちょっと呆れた。

「ねね、ダン、ダン」
「何だよ、ルパート…」

つんつんと服を引っ張るルパートに僕は顔を顰めながら振り返る。

「何だよ、その豹変は…。の前じゃニコニコ~なんて回りに天使飛ばしてるクセに僕には悪魔でも飛ばそうっての?」
「うるさいなぁ……。だいたいルパートに笑顔振り撒いてどうすんだよ。で…何?」

僕はサラダを食べつつ、そう聞くと、ルパートが思い出したように、

「そうそう。これから帰ったらと一緒に映画見るんだろ?」

と聞いてくる。

僕は顔を顰めて、「邪魔すんなよ?」と呟いた。

「うあ、何だよ~。ほんと冷たくなっちゃってさぁ~」
「そんな事はないけど……。今はと二人でいたいんだよ」
「うげ!ヌケヌケと!やだねぇ~。このラブボケダニエルくんは!」
「何か言った?」

僕は横目でルパートを睨むとサラダ用のフォークを彼の口元にチラつかせた。

「な、何でもありません…ミスターラドクリフ……」
「宜しい。それで用は何?一緒に映画見ようってのだったら答えはNOだよ?」
「そ、そうじゃないよ…。そこまで無神経じゃないからねっ。じゃなくて!何か見るなら僕のDVDでも貸そうかなぁって思ってさ?」
「え?ほんと?」

僕はそこで初めて食べるのを止めてルパートの方を見た。

「あらら。そこは素直に聞くのねぇ」
「うるさいな、エマはいちいち…」
「はいはい」

エマは苦笑しながら、そう言うと美味しそうにスープを飲んでいる。

「で、何のDVD?」

僕は改めてルパートを見ると、彼はニヤリと笑って顔を僕の耳に近づけてきた。

「だからぁ~二人で見るなら凄く怖~~~いのってドゥ?」
「え?怖いのって、だって…は怖いの苦手なんだ」
「チッチッチ」

僕が顔を顰めると、ルパートは偉そうに指を立てて、

「分かってるよ、そんな事は~。だからさ!」

とニヤニヤしている。

「だからって…どういうこと?」
「か~っ!鈍いな、ダンは!だから怖いのを一緒に見れば、と密着できるだろ?これぞ、"ホラーDEラブラブ大作戦"だ!」
「へぇー…あ、そう」
「って、オイ!反応薄いなぁ!」
「だって、そんな事しなくたって僕とは二人の時は密着してるし」
「うげげ!またもヌケヌケと!でも、それはダンからだろ?から抱きつかれたりしたことあんの?」
「……………」
「あ、その顔はないんだぁ~ははは…ぃだ…っ!!」

僕はアホみたいに舌を出してヘラヘラ笑っているルパートの腫れた鼻を指でピン!っと弾いてやった。

「い、いだいなぁ!」
「アホなこと言ってるからだろ?」
「何だよ~。協力してやろうって言うのに!」
「そりゃ、どうも」
「ね、だからさ。怖いの貸してやるよ!」
「どんなの?」
「"テキサス・チェーンソー"だ!」
「え?でも、それって今、公開中のやつじゃ…」

僕は驚いて顔を上げるとルパートが小声で、

「実は知り合いのスタッフから流れてきたやつなんだ。いいだろ~」

とウインクしている。

「はぁ~。そういう事か…。でも…あれって結構えぐいんじゃない?、大丈夫かなぁ…」
「大丈夫だって!隣にダンがいれば」
「……………」

そう言われると、僕も少し照れてしまう。
そこへ当のが戻って来た。

「お帰り」
「凄い混んでて困っちゃった」

は、そう言って可愛く微笑むと、また僕の隣に座って身を乗り出しているルパートの方を見た。

「二人で何を話してたの?」
「え?あ、いや……」

そう聞かれてドキっとしたが、ルパートがしゃしゃりでて、

「あのさ、これからダンと一緒に映画見るんだろ?僕が面白いの貸してあげるよ」

に言っている。
それにはも嬉しそうに笑顔になった。

「ほんと?どんなの?」
「まあ、それは見てからの、お楽しみ!」
「うわ、何だろ…。ね?ダン」
「え?あ、ああ…そう…だね?」

何とか笑顔を見せて答えると、はワクワクしたようにサラダをとって食べ始めた。


そんなを見ながら、僕は大丈夫かなぁ…と少しだけ罪悪感を感じた。














「ねぇ、トム。隣いいかしら?」
「ああ、ルシーナ。どうぞ?」

レストランからホテルへ戻ったトムがラウンジで寛いでる所へルシーナが声をかけた。
周りにはスタッフもいたが、二人より少し離れている。

「どこで食事?」
「え?ああ、いつものとこ。ルシーナは?」
「私はホテルのレストランで食べたわ?大勢で行くの好きじゃないの」
「へぇ。楽しいのに」

トムは、そう言ってアイスコーヒーを口に運んだ。
それを見ながらルシーナは辺りを見渡すと、トムに少しだけ近づく。

「そうだ、トム」
「え?」
「あのダンの連れてきたっているでしょ?」
「うん。彼女が何?」
「あのね、この前、話してる時、トムのこと凄くいいなあって言ってたのよ」
「え?が?ほんと?」

ルシーナの言葉に、トムは少し疑うような目を向けた。
だがルシーナは笑顔のまま、

「もちろんよ。ずっとトムのこと、かっこいいなあ~って言ってたわよ?」

と言ってのける。
それにはトムも、まんざらでもない顔。

「で、でもさ…はダンの事が好きなんだと思ってたけど…」
「違うって言ってたわ?ただのクラスメートだって!、実は映画を見てトムのファンだったんだって。
それで今回ダンに頼んで撮影に連れて来てもらったんじゃない?」
「そうなの?でも…そんな感じには見えなかったけど…」
「そりゃ、そうよ。はシャイだもの。そんな素振りは見せないわ?でも確かよ?いいわね?トムはモテモテで」

ルシーナは、そこまで言うと、

「あ、いっけない。私、友達に電話しなくちゃいけないんだった。部屋に戻るわ?」

と言って立ち上がる。

「じゃ、トム。また撮影で」
「ああ、お休み」

トムはルシーナに笑顔で手を振ると、軽く息をついてニヤっと笑った。

何だ…も僕のこと気に入ってたんだ。
てっきりダンだと思ってやめようと思ってたのに。
でも…まあ、そういう事なら日本の女の子のガールフレンドがいてもいいかな。


トムは、そんな事を考えながら、明日はオフだし、を誘って、どこかに行こうか…と一人ニヤニヤしていた。














「ほら、これだから。楽しんで」

食事の後にホテルへ戻ると、ルパートがDVDを持って来た。

「あ、ああ。でも……これ大丈夫?ルパートは観たんだろ?」
「まぁね!かなりハラハラしたよ~」
、見れるかな…。怖がらせちゃ可哀相じゃない?」

僕は少し心配になって、そう言うと、ルパートは、またしてもアホみたいにニヤニヤ顔の筋肉を緩めている。

「優しいねぇ~ダンは!好きな子を怖がらせたくない気持ちは、よ~く伝わったよっ。
でもな、男にはやらなきゃいけない事もあるんだ、うん!」

ルパートは、そう言うと腕を組んで胸を張っている。
それを見て僕は思わず半目になってしまった。

「アホくさ…。まあ、借りてみるけど…。あまり怖いようならやめるから他の貸してよ?」
「まあまあ、分かったから!とりあえず、それを見てみろって。ダンなら好きだと思うしさ?
じゃ、"ホラーDEラブラブ大作戦"頑張れよ?思う存分イチャイチャしてくれっ」
「う、うるさいな!ルパートには言われたくないよ!それより、そっちこそ今夜ははエマに一度でも勝ってみろ」
「わ、分かってるよっ。じゃね!」

ルパートは、そう言って口を尖らせるとエマとゲームをするべく部屋へと入って行った。

「ったく……何が、"ホラーDEラブラブ大作戦"だよ……。どんなけベタなんだ…。絶対、楽しんでるな…」

僕はブツブツ言いながら自分の部屋へ戻ると、がソファーでハリーの台本を読んでいた。

「あ、ダン」
「ごめんね?遅くなって。借りてきたよ?」
「ほんと?それ何の映画?」

は隣に座った僕に無邪気に聞いてくる。
それには言葉につまってしまった。

「あ、いや…聞くの忘れちゃった…」
「そうなの?でも、それ…。パッケージの写真とか何もないのね?」
「え!?あ、ほ、ほんとだ…」

僕がわざとらしく驚いたフリをしても、は全く気付かず、

「きっとルパートのオススメだから面白い映画よね?」

なんて言ってニコニコしている。
その笑顔を見てると、今さら、実はホラーなんだ…とは言えなくなってしまった。

「じゃ、じゃあ…見ようか?」
「うん」

はソファーに座りなおし、台本をテーブルに戻している。
僕はDVDをデッキにセットすると、部屋の電気を消しての隣に座っった。
そしてリモコンで再生を押す。

「こうして二人で映画を見るのって初めてね?」

不意にがそう言ってドキっとする。

「え?あ……そうだね?」

その言葉に僕も思わず笑顔になった。
そして、そっとの肩を抱き寄せると、彼女もドキっとしたように顔をあげる。
そのまま軽く唇を重ねた。

「……ダン…?」

ゆっくり唇を離すと恥ずかしそうな顔のと目が合う。
僕はちょっと微笑んで、

「もっと、こっち来て」

と、の体を更に抱き寄せソファーの上にあげると、僕の前に座らせ後ろから抱きしめるように座る。

「あ、あの……」

は恥ずかしいのか、腕の中でモゾモゾと動くもガッチリと抱きしめると諦めたように僕を見上げてきた。
そんなの困ったような顔が可愛くて、もう一度唇にチュっとキスをすれば、すぐに俯いてしまう。
その時、画面では映画が始まろうとしていた。

「ほら、、始まるから顔上げて?」
「う、うん…」

僕がの顔を後ろから覗き込むように見れば、彼女は恥ずかしそうに顔を上げた。
その隙を狙って頬にチュっとキスをすると、がドキっとしたように体を動かした。
そんな彼女に僕はクスクス笑うと、

、もっと力抜いてよ。そんな体固くしてたら疲れちゃうよ?」

と言ってみる。

「で、でも…」

は、どうも僕が後ろから抱きしめ、彼女を足の間に入れてるのが凄く照れるらしい。
だけど、こうしておかないと、この映画がどのくらい怖いのか分からないし、
もしが怖がったら…と少し心配だった。
だから安心させるように、こうして腕の中にスッポリ入れていた方がいいと思ったんだけど…

そんな事を考えてると、映画が少し進んでいき、は何だかソワソワしてきた。
どうやら映画の雰囲気で怖い映画だと気付いたようだ。

、大丈夫?」
「え?あ…う、うん……。あの…これって、もしかしてホラー…かな……?」
「あ……何だか、それっぽいね…?」
「……………」

それにはも黙ってしまって、僕はやっぱり普通のを借りれば良かった…と後悔した。
だが、その時、画面では銃で自分の頭を打ち抜く女の子のシーンが映り、その瞬間、

「キャァ…っっ!」

が驚いて僕の胸に顔を埋めて震え出してしまった。

「だ、大丈夫?」

僕はの頭を優しく撫でながら、そう聞くと腕の中で、かすかにが頷いたのが分かり、ホっとした。

「ご、ごめんね…。ちょっと驚いちゃって……」
「いいよ。今の結構きつかったから…。でも…見れる?」

が不安そうに顔を上げたのを見て、そう聞くと、はちょっと笑顔を見せて頷いた。

「大丈夫……。ダンもいるから……」
「…………」

その言葉にドキっとして同時に凄く嬉しくなり、まだ少し震えているの体をギュっと抱きしめた。
それにはも恥ずかしそうに微笑んで、また画面に目を戻している。

そのまま暫く黙って映画を見ていた。
さすがにハラハラドキドキさせるような展開になっていき、その度にの体が緊張するのが分かる。
僕としては、こういうのは結構、平気な方だから普通に見ていられるんだけど、ホラーが苦手なにとったら、心臓がいくつあっても足りないと思うだろう。

でも…こうして腕の中で怯えるを見ていると、ほんとに守ってあげたくなる。
時折、ビクっとして僕の腕をギュっと掴むとこなんて、ほんとに可愛い。
は小さいから僕の腕にもスッポリ納まってしまうし小動物みたいだ。
よく子猫とか子犬を見ると可愛さのあまり、顔を柔らかい毛に埋めたり、意味なくキスとかしたくなるけど、その気持ちが分かるというか…
を見てると、あの時の感情と似たような、ほんと意味なくキスしたりしたくなるし、大げさに言えば食べちゃいたいってとこだ。
(いや変な意味じゃなく)

そんな事を漠然と考えていると、映画では、とうとうチェーンソーを持った大男が出てきた。
その瞬間、今まで以上にの体が強ばり、僕の腕をギュっと掴んでくる。
画面では男と女が逃げ回り、男が、その大男を引きつける役をかって出たところ。
その間に女は逃げたが、男が追い詰められていく。
は怖いのか少しだけ僕の方に寄り添ってきた、と、その時、逃げ回ってた男の足が走ってる途中にチェーンソーでスパっと切られて男は倒れてしまった。
その瞬間、は「キャァァ…っ」と叫んで顔を背け僕に抱きついてきたからドキっとした。

「ちょ…、大丈夫?」

さっき以上にガタガタを震えているが心配で僕は抱きしめたまま、そう声をかけたがは首を振るばかりで顔を上げてくれない。

(あ~ルパートのやつ…こんな、えぐいの貸さなくたって……)

そんな事を思いながらも僕は必死にの頭を撫でてあげた。
そして、ふと気付き、リモコンでDVDを止める。

……?もう止めたよ?だから顔上げて?」
「………………」

からの返事がなく、変わりに泣き声が聞こえて来て、僕は焦ってしまった。

…泣いてるの?もう大丈夫だよ?」
「………ぅ…ぅん……」

やっと小さな声が聞こえてきてホっとしたけど、は僕の胸に顔を埋めたまま震えている。
そんな彼女の体を抱きしめていると、この映画を借りて、かなり後悔した。

「ごめんね?……怖かった……?」
「……ん……大丈夫……」

は何とか少し顔を上げてくれて、、僕はホっとした。
濡れてる頬を手で拭ってあげながら、頬を両手で包むと顔を上げさせる。
するとは必死に手で目を擦っている。

「ご、ごめんね…ちょっと驚いちゃって……もう大丈夫……」
「ほんと?でも…これ見るのやめよう?ちょっとにはキツイと思うし…ね?」

僕がそう言っての額にコツンと自分の額をつけると、も小さく頷いてくれた。

「僕が後でルパートに怒っておくから」
「う、ううん…。いいよ…。ルパートは、これが面白いと思って貸してくれたんでしょ?」
「え?あ……そ、そう…なのかな……?」

それは違うんだけど…と思いつつ、まさか本当の事は言えない。
とにかく今は腕の中で震えているを何とか落ち着かせなくちゃ…と思いながら、まずは電気をつけて部屋を明るくしようと立ち上がろうとした。
だがに腕を掴まれたままで動けない。

…?電気つけるから、ちょっといい?」

僕がの顔を覗き込んで、そう聞くと、は不安そうな顔で僕を見た。

「ま…まだ、こうしてていい……?」
「え…?」
「怖いから…もう少しだけ…」

恥ずかしそうに、そう訴えるに僕は胸の奥がギュっとして、ちょっとだけ微笑んだ。

「いいよ……」

そう言ってを自分の方に向けると強く抱きしめてあげる。
そうするとも安心したように大人しく僕の胸に顔を埋めてジっとしていた。
DVDを止めてしまったから部屋の中はシーンとしていて、しかも暗い。
その中で二人で、こうして寄り添っていると次第にドキドキしてくるのが分かる。



……落ち着いた?」

震えも納まった時、少しだけ体を離しての顔を覗き込むと彼女が小さく頷いた。
だが瞳には、まだかすかに涙が光っている。

「大丈夫……?」
「………ん…。もう平気…ごめんね?」

が恥ずかしそうに、そう呟くから僕も笑顔になった。

「いいよ…。僕こそ、ごめん。こんな怖いなら見ない方が良かったね?」
「ううん…。いいの。ちょっと驚いたけど…」

そう言って微笑むが本当に愛しいと感じて、そのまま、もう一度抱きしめ、軽く頬にキスをした。

「ダン……?」
「ずっと、こうしてを独り占めしていたいよ…」
「………ぇ?」

今、思った気持ちを素直に口にすると、がドキっとしたように顔を上げた。
そんなに優しく微笑んで、

「ほんとなら…誰にも会わせたくないし、誰の傍にも行って欲しくない…」


「ダン………」

「好きだよ、…」


彼女の大きな瞳を見つめながら、そう言うと、はすぐに俯いてしまう。
だから僕は、その前に頬を両手で包んで掬うように彼女の唇にキスをした。
一瞬、ビクっとしたように体に力を入れたけど、僕が何度もキスをくり返すと、少しづつ力も抜けてきたようで、
今はただ黙ってギュっと目を瞑っている。

何だか不思議な気持ちだった。

好きな子と二人、静かな部屋で、こんな風にキスをしているなんて少し前の僕なら考えられなかった。


こんなに愛しい気持ちがあるなんて知らなかったから。

の事を考えると、他の事なんて二の次になってしまうくらいで…こうして一緒にいると離れたくなくなってしまう。

いつもの僕に戻らないと…って思うのに、どうも上手く切り替えが出来ない。

たった一人の女の子のことで、自分が、こんな風になるなんて…

と一緒にいるだけでいい。

何もしなくていい。

何も難しく考える必要もない。


ただ、こうして抱きしめられれば……



腕の中の温もりは…二度と離したくない大切な僕の宝物になった。








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Postscript


はい、前回に続き、まだ平和でラブラブです(笑)
何だか青春だね~(そうか?)
ダンに後ろからギュゥされるなら、どんなえぐい映画も我慢します(この犯罪者めっ笑


本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...


【C-MOON...管理人:HANAZO】