Chapter.14 向こうから見たこっち~ライバルにご用心⑤~ Only you can love me...
ロケに来てから五日目……僕の日常は、一人の女の子によって、すっかり変わってしまった。 初めて仕事以外で夢中になれるものがあるんだと、僕は彼女を好きになって知ったんだ。 「ほんとルパート、最悪…!」 「だから、ごめんってばぁ~!そんな怖がるなんて思ってなかったんだよぉ~!」 「ちょっと考えれば分かるだろ?あんあ、えぐいのが見れるわけないんだよっ」 僕は濡れた髪を拭きながら、まだ寝起きで寝ぼけた顔をしているルパートを睨んだ。 するとルパートは突然、ニヤニヤしながら、 「でも、そのおかげでと一晩一緒にいれたんだからいいじゃん!よ!この朝帰り男!」 なんて言って僕の背中をバンっと叩いてきて思わず顔が赤くなった。 「あ、朝帰りって変な言い方やめろよ!それに一晩一緒にいたって言うのだってが怖くて寝れないって言うから……」 「はいはい!それで優しいダニエルくんはが寝るまで手を握ってあげてたら、結局、自分も寝ちゃってたのよね~?」 「エ、エマ…!」 そう…この部屋にはエマもいる。 何故かと言うと、二人の言う通り、夕べはがルパートの貸してくれた最悪のホラー映画のせいで怖くて寝れないと言うから、 エマが戻ってくるまで彼女と一緒にいてあげる事にした。 だけど待っても待ってもエマは戻って来なくて、結局が寝付いたのはいいけど寝顔が可愛くて暫く見てたら、 僕まで、その場で眠り込んでしまい、起きたら朝だったというわけ。 それでエマはというと、夜中ルパートとゲーム(PS2)で接戦をくり返し、そのまま寝ちゃったらしい。 僕はと言うと目が覚めて目の前にの寝顔があって驚いて飛び起きた。 そして状況を把握して急いで自分の部屋に戻ってみれば、ソファーにエマ、テレビのクッションのとこにはルパートが大の字で寝ていたのだ。 「まぁまぁ、そんなプリプリしないで。今日のオフはとデートするんでしょ?楽しんで来てよ」 エマは、そんな事を言いながら両手を広げてソファーに腰をかけ笑っている。 僕は濡れたバスタオルをポンっと放ると軽く息をついて向かいのソファーに座った。 するとエマが苦笑しながら身を乗り出し、 「ダン?初デートなのに、何で、そんな顔してるの?」 と肩を竦めている。 「うん……」 「何よ…。どうしたの?とケンカしたわけじゃないんでしょ?」 「そんなんんじゃ…。ただ、ちょっと怖いな…ってさ」 僕が溜息交じりに呟くと、エマもルパートも顔を見合わせ、キョトンとしている。 「怖いって……何が…?」 「そうだよー。幸せいっぱいのダンが何言ってるんだよ」 二人は不思議そうな顔で、こっちを見ていて、僕は小さく息を吐いてソファーに凭れた。 「夕べ…と一緒にいて思ったんだけどさ…。僕って前は、こんなんじゃなかっただろ…?」 「こんなって……?」 エマが真剣な顔で聞いて来て僕は少し考えてから今の自分の気持ちを口にした。 「だから…女の子に夢中になっちゃうような感じじゃなかったって言うか……」 「ああ、それはそうねぇ。ダンって、どっちかと言うと女の子といるより男の子と騒いでる方が好きだったもんね」 「あ~そうそう~。どっちかと言うと女の子って苦手な方じゃなかった?積極的な子には特に冷たかったもん」 「うん…まあ…どっちかと言えば苦手だったよ…?男友達と一緒にいる方が気楽だったし楽しかったし、それに今の仕事に夢中だったし…」 「でも今は違うって言いたいの?」 エマはちょっと笑顔を見せて聞いてきた。 それには僕も目を伏せて頷く。 「今は…他の事なんて目に入らないくらいでさ…。と、こうなる前の時は何とか抑えていられた気持ちとかも今は抑えられないし、 一緒にいると………ダメなんだ…。前のようにしようって思うのに、こう……何て言うか…さ……」 そこで何て言っていいのか分からず、言葉を切ると、エマがニヤニヤしながら僕を見た。 「あ~。クールになりきれない&に触れたくなっちゃう…とか?」 「……………ぅ~ん…。まあ…そんな感じ……。それにのものなら何でも愛しく感じるし…僕って変なのかな……」 こんな話をするのは照れくさかったが、ほんとに、そんな感じで僕は、ちょっと最近の自分の変化に戸惑っていた。 するとエマはニッコリ微笑んで首を振ると、 「ちっとも変な事じゃないわ?人を好きになったら誰でも、そんなもんよ」 と言った。 「そう…なの?」 「うん。私だって、そうだったし…。それに私のクラスメートの女の子なんて好きな人が使ってたペンとか貰って凄く喜んでたもの。 何か好きな人が使ってたってだけで、その物まで愛しく感じちゃうのよねぇ」 「ああ……何となく分かる。ほんと、そんな感じ…」 「でしょ?ほら、よく言うじゃない。好きな人の髪の毛一本…。指の先まで愛しいって。 それよ、きっと」 エマは何だか大人の女性みたいな事を言って得意げな笑顔を見せた。 ルパートは何だか、よく分からないみたいな顔をして首を傾げているんだけど… 「だからダンは全然、変じゃないし、逆にのこと凄く好きなんだから当たり前って思うわ?だから自分をコントロール出来ないのよ。 前は片想いしてたからに嫌われたくなくて少しは抑えちゃったりしたんだろうけど」 「そっか……」 「だから怖いなんて思うことないし、前の自分であろうとする必要なんてないんじゃない?」 「うん……そうかな…?」 「そうよ。まあ、ダンにしてみたらが好きになってくれた自分でありたいって思うんだろうけど… はダンの優しいところを好きになったんだから、それは今も変わらないし、多少、スケベな事したってそれで嫌いになったりしないわよ」 「うん………」 ん………?! 「おいエマ…!今、危うく聞き逃すとこだったけど何だよ、スケベって!僕は別にいやらしい気持ちでにキスとかしてるわけじゃ…ぁ…っ」 そこで言葉を切った。 それはエマとルパートが何だかニヤニヤしながら僕を見ているからだ。 「へぇ~ダンってばにキスなんてしちゃったんだぁ~」(知ってるクセに) 「……………っっ」 「そうらしいわよぉ~?ダンって案外、情熱的でキス魔なのねぇ~?あ~私もキスされたいなぁ~。素適な男の子に!」(凄い嫌味) 「………………っっ!」 僕は二人の言葉に顔を赤くして口をパクパクさせていると、エマがう~んと伸びをして立ち上がった。 「さ、一度部屋に戻るかなぁ?ダンも、そろろ出かける用意したら?も、もう起きてると思うわよ?」 「わ、分かってるよ……!」 僕はヤケクソ気味に、そう言うとエマは笑いながら、ドアまで歩いて行き、 「あ、ルパート、後でホテルのプールに泳ぎに行かない?」 と振り返る。 「ああ、いいよ!じゃあ今度は泳ぎで競争だな!」 「望むところよ!じゃ、後で。ダンはとの初デート頑張ってね~! あ、でもはシャイなんだから、あまり人前でキスはしちゃダメよ?そこは無理して我慢してね?」 「う、うるさいよ…っ!!」 僕は顔が真っ赤になりながらも、エマに向かってクッションを放り投げた。 だが、それより早くエマが廊下に出てドアを閉めたのでクッションはドアにボフっと当たり、床へ落ちる。 「あはははっ。さすがのダンもの事になると、エマには敵わないみたいだねぇ~」 「何か言ったか………?」 「……ッ!い、いえ……何でも御座いませんです……っ(!)」 僕が目を細め、低い声で、そう言えば、ルパートは慌てて首を振った。 プルルルル……プルルルルル…… 「ん…ぅるさい……」 すぐ耳元でけたたましく鳴り響く音に、私は寝返りを打って顔を顰めた。 だが、そこで意識が戻って来て、目がパチっと開く。 「あれ……?ダン……?」 ガバっと起き上がり部屋を見渡してみた。 だが、部屋には誰の気配もなく、隣のベッドにはエマもいない。 あれ…夕べどうしたっけ…… 私は夕べの事を考えて、そして自分が寝てしまった事に気付いた。 そうだ…私、怖い映画見てダンの前で泣いちゃって……は、恥ずかしい…っ しかも、ずっとダンは抱きしめてくれてた… それで何だか眠くなっちゃったんだけど、でも寝るのが怖くて、それをダンに言ったらエマが戻るまで一緒にいるって言ってくれたんだっけ… ということは…ダンは私が寝たから部屋に戻っちゃったのかな…? でも何でエマがいないんだろ… そんな事を寝起きの頭で考えていたが、電話が鳴り続けているのに気付き、ダンかもしれないと慌てて受話器を取った。 「Hello?」 『あ、?おはよう!』 「え……?あの……」 それはダンの声じゃなかった。 誰だろう?と思った時、受話器の向こうから、 『俺、トムだよ』 と声が聞こえて来て驚いた。 「あ……トム?おはよう。あの…エマならいないんだけど…」 てっきりエマに用事かと思い、そう言うと彼は、ちょっとだけ笑ったようだった。 『エマにかけたんじゃないんだ。に用事があってかけたんだよ?』 「……私…に?」 トムの言葉に少し驚き、言葉に詰まると、彼は楽しそうに笑った。 『あはは、いいね、その反応!凄い新鮮。驚いた?』 「え…?あ、はい……」 『そんな敬語なんて使わないでよ。それより今日、暇?』 「……え?」 『撮影オフだし、一緒に出かけない?』 いきなりトムに、そんな事を言われて私は驚いた。 い、一緒にって…皆で、どこかに行くと言う事だろうか…… 「あ、あの……出かけるって……?」 『ん?ああ、だから俺とデートしない?ってこと』 「デ………っ」 デート?!トムと私が?! 彼の、その言葉に、さっき以上に驚いて私は返事も出来ずに固まってしまった。 すると受話器の向こうで困惑したようなトムの声が聞こえてくる。 『Hello?…聞こえてる…?』 「え?あ……は、はい。聞こえてます…」 『ああ、何だ。切れたかと思ったよ。もしかして、また驚いてた?』 「え?あ、はい…。あの………デートって………二人でってことですよね…?」 何だか変な質問だと思ったが聞かずにはいられなかった。 すると、またトムの笑い声が聞こえてくる。 『あはははっ。当たり前だろ?は、いつもデートする時、大勢でしてるわけ?』 「え?い、いえ…あのデートした事ないから……」 『は……?デートした事ないって……。今までに一度も…?!』 そ、そんな驚かなくても…と思いつつ、「…ないです」と答えた。 『へぇ~そうなんだ。じゃあさ、の初デートの相手に俺なんてどうかな?』 「え……?あ、あの……」 『あ、俺じゃ不満?』 「い、いえ、そんなんじゃ……」 『じゃあ行こうよ』 トムに、そう言われて困ってしまった。 今日はダンと初デートをする約束なのだ。 きっと、そろそろ用意してると思う。 それに、その約束が例えなかったとしても、私はもうダンと付き合ってる。 という事は…私はダンの"彼女"になるわけで……当然、他の男の子となんてデート出来るはずがない。 ダンの……"彼女"…… そんな事を考えて、ちょっと顔がニヤケてしまいそうになった。 だが私が黙っていたからか、 『?どうしたの?』 とトムが聞いてくる。 「あ…ご、ごめんなさい…。あの…今日はエマと約束があって……」 ダンとの事は秘密なので、仕方なく、そこは嘘をついた。 するとトムが苦笑しながら、『エマなんて断ればいいよ』なんて言ってくる。 これには私も困ってしまった。 そこへドアの開く音が聞こえ、顔を向けると、ちょうどエマが戻って来たところだった。 エマは私が電話で話してるのに気付くと、ニヤっと笑って声には出さず、 "ダ ン?" と口だけ動かし訊いてくる。 それに私は必死で首を振って困った顔を見せた。 するとエマも首を傾げて私の方に歩いて来る。 『Hello??』 「あ…ちょ、ちょっと待っててね?トム…」 『え…?ちょ、…?』 私は一方的に、そう言うと受話器を手で抑えてエマを見た。 エマは今の私の言葉で少し驚いた顔をしている。 「ちょ…トムって…電話の相手はトムなの…?」 エマは小声で、そう聞いてきて私も眉を下げつつ頷いた。 「今日、デートしようって言われて…。でもダンのこと言えないから、ついエマと約束があるって言っちゃったの。でもそんなの断ればいいって…」 「何ですって?全く…!トムってば油断も隙もあったもんじゃないわ…っ」 エマは手を腰に当てて小声ながらも怒っているようだ。 「ど、どうしよう……。何て断れば……」 私はトムに聞こえないように受話器を、シッカリ握りながら一人オロオロしていると、エマがニッコリ微笑んで私の手から受話器を取った。 「Hello?トム?ええ、エマよ。おはよう。あのね、今日は前から約束してたの。 だから悪いけど他の子でも誘って?ジュリアとかなら喜ぶんじゃない?え?ああ、も是非そうしてって言ってるわ?」 エマは、そんな事を言いながら私にウインクをしている。 彼女の言葉に、ちょっとヒヤヒヤしたが、トムは納得したのか、エマが電話を切った。 「はぁ~全く疑り深いったら…。あ、、もう大丈夫よ?」 「あ、ありがとう……。驚いちゃって…」 「いいのよ。それにしてもトムってば、まだのこと狙ってたのねぇ…。最近は諦めたと思ってたのに」 「え?あ、諦めたって……?」 「ああ、トムの奴、のこと可愛いな~って言ってて狙ってたから」 「えぇ?!ま、まさか……っ」 エマの言葉に私は本気で驚いてしまった。 だって、そんなトムみたいなデートの相手に困らなさそうな人が私を本気で誘って来たわけないと思っていたからだ。 「まさか…って何で?」 「え?あ…だ、だってトムなら他にガールフレンドとかいそうだし、私なんかより奇麗な人がいるじゃない。ジュリアとかルシーナとか…」 私が、そう言うとエマは困ったような笑顔を見せた。 「もう…?"私なんか"って事ないでしょ?前にも言ったけどは凄く可愛いわよ。現に、あの女嫌いなダンまでがメロメロじゃないの」 「な…何言って……って…え?ダンって女嫌い…だったの…?」 それに驚いてエマを見れば、彼女は肩を竦めて笑っている。 「それは大げさな言い方かもしれないけど…。そうね、前のダンは女の子が苦手だったと思う。特にルシーナとか自信満々な子は」 「……ど、どうして?あんなに奇麗なのに……」 「そんなの関係ないわ?外見だけ奇麗でも性格があれじゃねぇ…。ダンって女の子から積極的に迫られると凄く嫌みたいなの。 しつこい子とかも……。そういう年頃なんじゃない?あ、でもの事は特別みたいよ?」 「え……?」 エマの言葉にドキっとして顔をあげると、彼女はニヤニヤしながら、 「何だか、を好きになって凄く自分が変わった~なんて、さっきも言ってたし、自分を抑えられないから怖いって困ってたわ?」 「え………っっ?!」 それを聞いて私は一瞬で顔が赤くなってしまった。 そんな私を見てエマも更に顔がニヤケている。 「ダンって、そんなに情熱的なの?二人きりでいると、どう?」 「な、な、何が……?」 「だから~皆で一緒にいる時と、そんなに変わるのかなぁってね! 私は昔からダンを見て来てるけど、に接する時みたいな彼って見た事がなかったし、 あんなに女の子にデレデレなダンも初めてみたのよねぇ~。だから二人きりだと、もっと凄いのかなって」 エマはサラリと凄い事を訊いてくる。 私の顔の熱は増していくばかりだ。 「さ、さあ…。そんな…凄いとか分からないけど……。でも凄く優しい……よ?」 何とか、そう言うとエマはニヤニヤしたまま、 「へぇ~ふ~ん、そう~なんだぁ~。すーごい優しいんだ、ダンって~」 と、からかうように言ってくる。 そして私の顔から火が出そうなくらい恥ずかしい事を聞いて来た。 「ね、ってダンがファーストキスだったの?」 「…………………っっっ?!」 ボンっと音がしたんじゃないかと思うくらい一瞬で眩暈がするほど顔の熱が上がってしまった。 「あらら……大丈夫?顔、凄い真っ赤だよ…?」 「だ、だ、だ、だってエマが、へ、変なこと聞くから……っ」 「え~?変な事じゃないわよ~。あ、因みにダンから聞いたわけじゃないわよ?私、前に二人のキスシーン見ちゃったの」 「な……っっ」 これには、もう軽い眩暈すら感じて、へなへなとソファーに凭れかかった。 「あれ…、大丈夫?あ~ほんとシャイなんだから…。こりゃ天然記念物なみね…。どうやら本当にファーストキスのようだわ…」 「エ、エマ……っ!」 エマの、その言葉に、私は、ますます顔が赤くなり、その場から逃げるようにバスルームへ飛び込んだのだった。 奇麗な石畳の道を歩きながら、僕はチラっと隣のを見た。 は少し照れくさそうに僕に手を引かれて歩いている。 そんな彼女を見ながら、さっき出がけにエマに言われた事を思い出した。 "さっきトムがに電話してきてデートに誘ってたのよ" そう耳打ちされた時、心臓がドクンって大きくなって何だか重苦しい感情が足元から這い上がってくるのを感じた。 他の男がをデートに誘う… 考えただけで腹が立ってくる。 この時、僕は自分が、かなり嫉妬深い男だって事に気付いた。 仕事の事で色々な嫉妬とか、今までなかったわけじゃない。 でも女の子の事で嫉妬なんて感じたのは初めてだった。 どんどん自分が自分じゃないみたいに、新しい感情が生まれてくる… 人を好きになると凄く幸せだったりもするけど、同時に色々な不安が押し寄せてくるんだな…なんて思った。 前の、女の子なんて苦手だ…って思ってた時の方が、気楽だったし、こんな不安を感じる事もなかった。 でも、もう、少し前の自分が、どうだったかなんて忘れてしまうくらい、今の僕はを中心に毎日が動いている。 それが、さっきエマ達にも言ったけど、怖いとすら思ってしまう。 大切な人が出来ると人って強くもなるけど、弱くもなるんだ… その人を失いたくないからこそ、小さな事も不安に感じてしまう… もっと僕が大人だったら…とまで思ってしまう。 も…こんな不安を感じてくれてるんだろうか…… 「ねぇ、ダン。バスに乗るって言ってたけど…どこに行くの?」 不意にが僕を見上げて聞いて来た。 その表情は、まるで親に手を引かれてる子供みたいで僕も自然に笑顔になる。 「ここからバスで30分くらい行くと、カンタベリーって街に行けるんだ。今日はオフだし少しだけ、ここを離れてみようかなって」 「カンタベリー…?聞いた事あるわ?そこに行くの?」 「そうだよ?もっと時間があれば、その先のドーバーまで行って海も見れたんだけど遅くなると怒られそうだしね」 僕がそう言って笑うと、も笑顔で頷いてくれる。 それだけで僕の心は満たされて、さっきまで感じてた不安とか奇麗さっぱり消えてくれるんだ。 僕とは近くのバス停からカンタベリー行きのバスに乗った。 ドライブ感覚で周りの景色を楽しんでいると、30分なんて、アっという間。 少し賑やかな街並みが見えてきて、バスはカンタベリーのバスターミナルに停車した。 「わぁ…今いるとこより人口が多いのね」 はバスを降りて目の前に広がるメインのハイ・ストリートを見ると嬉しそうに振り向いた。 僕はの手を繋いで、そのハイ・ストリートを歩きだすと、もキョロキョロしながらついてくる。 「何か軽く食べない?お腹空いただろ?朝食べないで来ちゃったし」 「うん、そう言えば…」 は片方の手でお腹を抑える仕草をして僕を見上げた。 そんな彼女が可愛いなぁ…なんて思いつつ、 「この先にカフェがあれば、そこに入ろう」 と言って歩くと、ほんとすぐの場所に、"アロマ"と書かれた可愛らしいカフェが見えた。 「あ、あそこ入る?」 「うん」 笑顔で頷くに、僕も笑顔を返し、そのカフェに入った。 そこは地元の若者や観光客で賑わっている、この辺では人気のカフェのようだ。 スタッフも愛想がよく気持ちのいい笑顔を向けてくれる。 この店では焼きたてのパンが美味しいと言う事で僕とは7種類はあるというサンドウィッチのうち二種類と、 ミニマフィン、スコーン&クロテッドクリーム、そして紅茶を注文した。 そこで運ばれて来たのが何やら三段トレイに乗ったパン達で、それを見てが驚いた顔をしている。 「凄い、可愛い…これ」 一番下のトレイにはサンドウィッチ、ニ段目にスコーン、そして一番上にはミニサイズのチョコレートマフィンが乗っている。 「何だか、こういうの見るとイギリスって感じがする」 「そう?でも…こんなに食べれる?」 僕がクスクス笑いながらを見ると、彼女は恥ずかしそうに目を伏せた。 「だって…どれも美味しそうだったから…」 「まぁね、でもサンドウィッチ、結構大きいよ?」 「が、頑張る…」 は、そう言って紅茶にジャムを入れてグリグリとかき回している。 その彼女の一挙一動が可愛くて、つい笑顔になってしまう。 「こうやって二人で、こんな風に出かけたのって初めてだね」 ランチも少し進んだところで、僕がそう言うとはスコーンにクリームをつけながら顔を上げた。 「そう…だね?前は、よく3人で出かけてたから…」 「また……ロンドンに帰っても、こうして色々二人で出かけようね?」 「……うん。でも……」 「でも?」 「ダンは忙しいから…」 は、そう言って少し微笑むと軽く目を伏せた。 それが僕には凄く寂しそうに見えて思わず、の指に自分の指を繋いだ。 「…ダン……?」 はドキっとしたように僕を見ると、周りが気になるのか少しだけ視線を泳がしている。 そんな彼女が可愛くて本当なら今すぐ抱きしめたいなんて思った。 でも、そんな事は出来ないから我慢して少しだけ手を伸ばし指を強く絡めると、今、思ってる事を伝えたくて彼女の手を自分の方に少しだけ引き寄せる。 「確かに……帰っても忙しかったりするけどさ…。と会う時間は作るから…。なるべく寂しい思いはさせない。 電話も毎日するし、かけられなくてもメールするよ…」 僕が真剣に、そう言うと、の瞳がかすかに揺れて見えた。 すると繋がれた指に少し力が入ったのが分かり、ドキっとする。 見ればが少し頬を赤くして、僕の指をギュっと握ってくれていた。 「ありがとう……ダン…。凄く嬉しい…」 は真っ直ぐ僕を見て、そう言うも、やっぱり、どこか恥ずかしそうで、すぐに視線を反らしてしまう。 だけど彼女の言葉が今の僕には凄く嬉しかった。 「あ、あの…ダン……?」 「…何?」 「ゆ…指…離して?…何かファンみたいな子も見てるし……」 は僕が繋いでいる手が恥ずかしいのか、少し俯きながら、そう呟いた。 確かに反対側の席に若い女の子が二人いて、こっちを何度も見ているのが分かる。 は、それに気付いたらしい。 「気にしないでいいよ。別に悪いことしてる訳じゃないし」 「で、でも…ファンの子だし、まずいでしょ…?」 「まずいことないよ?それに今はプライベートだしね」 僕がそう言って笑うと、は困ったような何とも言えない表情で顔を上げた。 その顔が僕には子犬のように見えて思わず笑顔になる。 そして、あまりに可愛いから、ちょっと意地悪したくなり、繋いだ指をグイっと自分の方に引っ張ると彼女の人差し指にチュっと口付けた。 「ダ……ダン…っ」 案の定、の頬は一瞬で赤く染まり、それが凄く可愛い。 だけど本人にしてみると、かなり恥ずかしかったのか瞳をウルウルさせながらも、少しだけ口を尖らせ、無言の抗議してるような顔だ。 「ごめん。怒った…?」 僕がそう聞けばは視線を反らして首を横に振ってくれた。 「で、でも…見られちゃったよ…?」 「え?ああ、あの子達?別にいいよ」 僕は、そう言ってに微笑むと、チラっとさっきの子達の方を見てみた。 すると何だか驚いたような顔で二人でヒソヒソ話している。 僕は気にしないで食事を続ける事にした。 名残惜しい気もしたけど、が可愛そうなので繋いだ指を離すと、彼女は少しホっとしたような顔でスコーンを食べ始めた。 そんな彼女を見て笑いたいのを堪えると、僕もサンドウィッチに手を伸ばした。 「プハーっ」 エマはプールから顔を出すと、そのままルパートが寝そべっている方に泳いで行った。 「ちょっとルパート!さっきから寝てばっかりじゃないの。泳がないの?」 「んあ~夕べのゲームやりすぎで眠いんだよ~」 ルパートは、そう呟くと大きなチェアーの上で寝返りを打った。 それを見て呆れ顔のエマは水から上がると、冷たい手でルパートのお腹をバチンっと叩く。 「ぁいったぁ!」 「全く、もう!ゴロゴロしないでよ!うちのパパみたい!」 「何だよぉ~!いちいち叩くなよ、痛いなぁ…っ」 痛みで少し目が覚めたのか、ルパートはチェアーの上に体を起こすと、お腹を見て、 「ほら、赤くなっただろぉう?!何だよ、この手の跡は~!」 と文句を言っている。 「あら、素適じゃない?私の手形なんて」 「何が素適だよ…。ったく~……。何でダンはとラブラブでデートなのに、僕は、こんな凶暴なエマといるんだ……冗談じゃないよ…」 「何か言ったかしら?」 「いいえ!別に何も言ってませんことよっ!オホホホホ!」 ルパートはヤケクソで、そう言うと赤くなったお腹を擦っている。 そんな彼を横目で見ながらエマも隣のチェアーに寝転がった。 「は~今頃、ダンはと楽しいランチタイムかなぁ?」 「そうじゃないの~?あ~こんな事なら二人について行けば良かったよ……」 「あら、そんな事したらダンが怒っちゃって、そんな手形だけじゃ済まないわよ?」 エマが苦笑交じりで、そう言えばルパートも一瞬、考えこんで、 「…だな…。きっとダンの事だから僕のお尻を蹴ってくるかもしれない…」 「その通り。良かったわね~?お腹の手形だけで済んで。もう少しでキュートなヒップにダンの足型がついてたかも」 「いいよ…。そしたら、それをネットオークションで高く売ってやる…」 とんでもない事を言いながらルパートは悲しげな顔でお腹を擦った。 そこへトムとルシーナ、ジュリアが入って来たのが見えて、エマはマズイ…と体を起こした。 「あれぇ?エマじゃないか…。と出かけるんじゃなかったの?」 トムは驚いたように二人の方に歩いて来た。 だがエマも伊達に場数は踏んでいない(!) 軽く笑顔を見せると、 「さっき済んだの。今は別行動よ?」 と言った。 心なしかルシーナが睨んでいるが、エマはそれも軽く無視をする。 「別行動って…あれ?そう言えば……ダンがいないじゃん。もしかして…ダンとは一緒なのか?」 「え?あ、ああ…。ちょっと二人で買い物に行ったみたい。すぐ戻ってくるわ?」 「ふ~ん。ま、どうせダンがを無理に誘ったんだろ?」 「え?どういう意味?」 その言葉にエマは驚いて首を傾げると、トムは苦笑しながら、 「別に。そのままの意味だよ。じゃ、俺達は、あっちで泳ぐから。また夕飯の時な?」 と言って反対側の方に歩いて行った。 その後からジュリアは、いそいそとついていく。 だがルシーナだけは怖い顔のまま、エマを見ていた。 「何よ、ルシーナ。何か用?」 「エマ、嘘ついたでしょ」 「はぁ?どういう意味よ?」 ルシーナの言葉に、エマもムっとしたように立ち上がり、ジロっと彼女を睨んだ。 だがルシーナは、そのままエマを睨み返し、 「今日、ほんとはって子と約束なんてしてなかった。あの子はダンと出かけてるんでしょ?」 と言った。 「別に、あの二人は元々友達なんだから一緒に出かけたりだってするわよ」 「それなら、どうしてトムに、そう言わないの?別にダンと約束があるからって言えばいいじゃない」 「そんなのルシーナには関係ないわ?それより…どうして、あなたがトムの事を気にするワケ?最近、よく一緒にいるようだけど」 「それこそ、あなたに関係ないわ?トムとは友達なんだから」 ルシーナは、そう言って視線を反らした。 それを見てエマは眉を寄せると、 「あなた、もしかして…トムに何か言ったりしてない?」 と言ってルシーナの顔を見据える。 「何かって何よ…」 「さっきのトムの言葉…。ダンがを無理に誘ったって言ってたけど…どうしてトムは、そんな風に思ったのかな」 「さあ?そんなの私に分かるわけないでしょ?」 「そう?あなたがトムに、そんなような事を吹き込んでるんじゃないの?」 「どうして私が?」 「ダンとに焼きもち妬いてるんでしょ?」 「…………っ」 エマの言葉にルシーナが反応してキっと睨みつけてくる。 「バカなこと言わないで。あんな普通の子に、どうして私が妬かないといけないの?」 「ダンがに優しいからでしょ?あなたはダンのこと好きなんだから。それくらい分かるわよ」 「う、うるさいわね!エマに、そんなこと言われる筋合いないわよっ!ちょっとダンと仲がいいからって偉そうに!」 ルシーナは、そう怒鳴るとプイっと顔を反らし、トム達の方に歩いて行ってしまった。 すると女の戦いを目の前で見ていたルパートは怯えたようにチェアーの後ろに隠れていたが(!) ルシーナが行ってしまうとホっとしたように立ち上がった。 そしてエマの傍まで歩いて来ると軽く首を振りつつ肩を竦めている。 「はぁ~…。怖ぇ~~。女って殴りあわないだけ、余計に怖いものがあるね、うん」 「うるさい、ルパートっ!!」 「…ひゃ…っ」 エマに怒鳴られ、ルパートは、その場に飛び上がり、その際に足が水でツルっと滑ってしまった。 そのままルパートの体が大きく後ろにのけぞる。 そして、ここはプール。 当然バランスを崩したルパートは、そのまま後ろ向きのまま水の中へと消えて行った。 ザプァーーーーーーーンっ と派手な音と共に、 「ぅひゃぁぁ…っぷ……っ!!」 という、ルパートの雄たけびがプール内に響き渡る。 そして急に水の中へ落ちたので、すっかりパニック状態のルパートは泳げるクセにバシャバシャと両手をもがいて暴れていた。 それを反対側で泳いでいたトムが指さして大笑いしている。 その姿は、まるで彼の役、マルフォイそのものだ。 「ぅわ…っぷ……エ……エマ……た、たすけ………ぷっ……」 ルパートはプールサイドに立って呆れたように見下ろしているエマに何とか助けを求めるように手を伸ばす。 だがエマは大きな溜息と共に、一言…… 「ちょっとルパート………一人で何、遊んでんのよ……。そこ……足、つくわよ…?」 「…………………………ほんとだ……」(!) エマの言葉にルパートは暴れるのをやめ足を伸ばしてみた。 すると足はついて、水は彼の首までで止まっている。 そこに気付いた瞬間、ルパートは顔を赤くしながら頭をかいてエマを上目遣いで見上げた。 「エヘ…落ちました……」 「見りゃ分かるよ。それより……」 ルパートの、いつものドジに呆れながらも、エマは難しい顔をして顎に手を置いた。 「…どうしたの?エマ」 「さっきのトムといい、ルシーナの態度も…少し気になるのよねぇ……」 「え?何?あの二人、実はデキてるとか?!」 「バカ!そんなんじゃないわよ!」 つかさずエマに怒られ、ルパートはシュンとなるも、 「じゃあ何が気になるのさ…」 と口を尖らせている。 「だから…ルシーナが何か、またに何かしようとしてる気がして……」 「えぇ?何かって、何?!」 「だから、それを今、考えてるんでしょ?!ったく!ルパートも考えてよっ」 「そ、そんなこと言ったってルシーナみたいに狡賢い子の考えなんて読めないよ……」 ルパートが情けない声を出して、エマを見る。 それにはエマも大きな溜息をついた。 「どっちにしろ…トムは要注意だわ。ダンとにも忠告しておかないと…」 「で、でも、あの二人は、あんなに仲がいいんだから大丈夫だろ?」 ルパートもやっと水から上がってチェアーにドサっと腰を下ろすと呑気に笑っている。 だがエマは怖い顔でルパートを見て、彼の隣に腰をかけた。 「バカね…。もしトムがに、ちょっかいかけたら大変よ?」 「え?だから、それは……」 「そりゃはダンの事が好きなんだから誘いに乗るわけもないけど…。でも、それを見たダンはどうかしらねぇ…」 「え?どういう意味?とトムのこと疑うってこと?」 「違うわ?そうじゃなくて…。ダンだって、それはトムの方から誘ってるって分かるわよ。 でも男なんて焼きもち妬きなんだから、分かってても、あまりいい気はしないでしょ?」 「まあ…そりゃぁ…ね。自分の彼女が他の男から…ってなれば…少しは妬くと思うよ?でも彼女には気がないんだから…」 「ほんとに、そう?」 エマは意味深な顔でルパートを見た。 「え?どういうこと?」 「ダンはのこと本気で好きになってるわ?ルパートだって分かるでしょ?」 「あ、ああ。そりゃね。あんなダン見た事ないし…」 「だから…その本気で好きになった子が他の男に誘いを受けてたら、絶対に焼きもち妬くじゃない」 「うん。絶対だね。特にダンは凄い焼きもち妬きだと思うな~。僕がちょっとに触っただけで凄い怖い顔で怒るしさぁ~」 「でしょ?親友のルパートにだって怒るのよ?トムなら尚更よ。それに…は悪くないと思ってても小さな疑念が生まれたりもすると思うの」 「え~?何で?信じてあげられないってこと?」 「う~ん…信じてても…ってとこかなあ…。ジェラシーって、ほんと冷静さを無くしちゃうものだし」 エマはそう言って、ちょっと肩を竦めた。 そんな彼女にルパートは眉を寄せると、 「何だよ…。まるで経験した事あるような言い方だな…」 と横目でエマを見た。 それにはエマも澄ました顔で、ニッコリ微笑む。 「もちろんよ。当たり前でしょ?私はルパートより恋の経験は多いんだから」 「へーへー…すみませんねぇ。いつも振られ男で……」 ルパートは変なとこでイジケだし、フテくされたようにチェアーに横になった。 エマは苦笑しながら、自分もチェアーに寝転がると、 「私が付き合ってた人も凄くモテた人だったの。別に彼が誘ってないって分かってるのに、私以外の子が彼に近寄ってくるのが凄く嫌だった。 それで最初は寄って来る女の子に腹が立ってたんだけど…そのうち彼のことも疑ったりしちゃうようになって…」 「え?それは何で…?浮気でもしてるんじゃないかって?」 「それもあるし…。ほら、人って好きだって言われて悪い気はしないじゃない。だから彼も少しは喜んでるんじゃないかなとか、 もしかしたら少しは、その子のこと好きだと思ってるんじゃないかとか…。変に疑い出しちゃったの。それでケンカ別れ。最悪でしょ?」 エマはそう言って笑うとルパートが呆れたような視線を彼女に向けた。 「どうでもいいけど、14歳で、そんな恋をするなよ……。相手は年上?」 「そうよ?凄く背伸びしてて疲れたなぁ~。でも子供だとか思われたくなかったの。だから余計にね…」 「でも…とダンは大丈夫だろ?ダンも焼きもち妬きでも、が、まさか他の、それもトムに走らないだろうしさ~」 「あら、絶対って言える?」 「え?」 「万が一って事もあるじゃない。そんなの分からないわ?実際そうじゃなくても小さな疑念が大きく膨らんで心が擦れ違うって事あるんだから」 「ああ~まぁ~ねぇ……」 「でしょ?だったら、最初からトムに手出しさせない方がいいわよ。小さなトラブルも危ないわ?特に今は付き合い出したばかりだし」 「ああ、そっか。そうだね。じゃあ…トムに忠告でもする?はダンと付き合ってるからって」 「ん~…。それロケが終わるまで隠しておきたいってダンも言ってたしなぁ、の為に…」 エマは一人考えこみながら溜息をついて目を瞑った。 そんなエマにルパートは、ちょっと笑顔を見せる。 「エマも優しいね。二人のこと、真剣に考えちゃってさ」 「な、何言ってるのよ…。そんなの当たり前でしょ?ダンが、あんなに幸せそうなの初めて見たし出来れば、ずっと続いて欲しいじゃない」 エマがそう言うとルパートもニコっと微笑んで、 「そうだね…。僕も、そう思うよ。大人になっても、ずーっとね」 と言って、静かに目を瞑った。 一方、二人から心配されている当の本人達は… 少し薄暗くなった道を仲良く手を繋いで歩いていた。 ダンの左手には先ほど行ったショップで買ったと思われる可愛らしい袋がぶら下がっている。 「あ、あの…ありがとう、ダン…色々と……」 「そんな、お礼なんていいよ。僕がプレゼントしたかったんだ」 私は、そう言って優しく微笑むダンに笑顔を返すと胸元に揺れているネックレスを、そっと指で触れてみた。 先ほど昨日ダンが言ってた通り、ルパートに汚されたハンカチの代わりに新しいハンカチを買ってあげると行って近くのショップに二人で入った。 そこでハンカチを買ったのだが、他にも可愛い、その店のオーナー兼デザイナーがデザインしたアクセサリー類が豊富にあった。 それを見ていたら、ダンが、 「これに凄く似合いそう」 と言って、一つのネックレスを手に取ると、その場で首に腕を回してネックレスをつけてくれた。 それはシンプルだが凄く奇麗なブルーの石で、こんペいとうのような形のネックレス。 ハンドメイドなので普通よりも高価だから、いいと言ったのに、ダンが絶対に似合うからと言って買ってくれたのだ。 すると店のオーナーがダンに気付き、(帽子だけしか被っていないからバレたんだけど)大のハリーファンだという。 それでダンにも、その同じ石(少し色が異なるけど)のネックレスをプレゼントしてくれたのだ。 「彼女とお揃いでつけなさい。あ、この事は内緒にしておくから」 そう言って、そのオーナー(30歳後半くらいの女性だった)が一つの値段で二つのネックレスを、それぞれの手に渡してくれた。 そしてチェーンまでつけてくれたのだった。 私は女の子だから少し短めの細いチェーン。 ダンは男の子だから少し長めで太いチェーン。 何だか二人で同じ物をつけるのは照れくさいけど凄く嬉しかった。 ダンも嬉しそうで、その女性オーナーに何度もお礼を言ってた。 今は、そのお店を出てホテルに戻るため、バスターミナルまで歩いているところだ。 ダンと二人だと、こうして歩くだけでも凄く楽しい。 だけど私は少し気になってる事があった。 それは今も後ろについてきてる、あの子達のことなんだけど…。 「ね…ダン…」 「ん?」 「まだ……ついてきてるよ…?このままホテルまで来ちゃったら大変じゃない……?」 「そんなに気にしなくていいよ?」 「でも……」 ダンは笑って繋いでいる手をギュっと握ってくれたけど、やっぱり私は気になってしまう。 ランチを食べに入った店で、バレて、それから行くとこ行くとこ、ずっとついてくる。 ファンって、ある意味、体力と忍耐力も凄いんだ…なんて変な事を考えていた。 だって……それだけダンの事が好きって事よね……? だったら一緒にいるのが女の子って嫌なんだろうなぁ… しかもダンってば全くファンの子の目を気にしないで……… チュッ 「………ちょ……」 いつの間にか、ボーっとダンの横顔を見つめてた私に気付いた彼が、突然、頬にキスをしてきてドキっとした。 慌てて手で頬を隠せば、ダンはクスクス笑って見ている。 「が、そんな顔で見上げてくるからいけないんだよ?」 「な…何言って……。そ、それに、そんな顔って……?」 ダンの言葉に視線だけ向ければ、彼は、ちょっと意地悪な顔で、 「"ダンの事が好きだなぁ~"って顔」 と言って、また頬に軽くキスをしてきた。 そのダブル攻撃に私は耳まで赤くなって何も言えなくなってしまった。 「あれ……もしかして怒っちゃった……?」 ダンは、そう言って少し困ったように眉を下げて私の顔を覗き込んでくる。 至近距離で見えるダンの奇麗な瞳に、私はドキっとしながら慌てて首を振った。 「お、怒ってないけど……」 「けど……何?」 「う…後ろにファンの子がいるのに………」 私が小さな声で、そう呟くとダンは、すぐ笑顔を見せて、 「そんなの気にしないって言わなかったっけ?」 と澄ました口調で言ってくる。 それには私も困り果て何も言い返せなくなった。 すると繋いだ手をギュっと握られ、私が顔を上げると、ダンは優しい笑顔のまま私を見つめた。 「誰がいても、僕はと、こうしていたいんだ。それってには迷惑?」 「え…?め、迷惑なんかじゃ……。私はダンの事が心配なだけよ………?」 「それなら心配いらないよ?」 「ダン……」 彼の優しい言葉に胸がドキドキして私は少しだけ視線を反らした。 すると目の前にバスターミナルが見えてくる。 「そろそろバスが来る時間だね。良かった、夕飯までには間に合いそう。 ほんとはと二人きりで食事したかったけどロバートに怒られるからね」 ダンは、そう言うと私の手を引いてターミナルの方に歩いて行く。 通りを見れば、ここに来るのであろうバスのライトが見えて、丁度良かった…と思った、その時。 後ろからバタバタと走ってくる足音が聞こえて、私とダンは振り返った。 「あ、あの……ダニエル…ですよね?」 「そうだけど…」 その話し掛けてきた子達は、さっきから後をつけて来ていた女の子達だった。 バスに乗って帰ってしまうと分かったからだろうか、彼女達は凄く真っ赤な顔で、ダンに握手を求めている。 それを目の前で見ていた私は何となく気まずくて、ダンの手を離そうとした。 だが不意に繋いでいた手に力が入れられ顔を上げると、ダンが私を見ていた。 「?ここにいて?」 「で、でも……」 少し真剣な顔で、そう言ってきたダンにドキっとして目を伏せる。 ダンは、そう言ったまま、その子達と軽く握手をして、その場を離れようと私の手を引いてバスの方に歩き出した。 すると、そのファンの子達が追いかけてきた。 「ダニエル…っ」 「待って…!」 その声に、ダンはハッキリと分かるくらい嫌な顔をして私は驚いた。 そんな彼を見た事がないから…… 「何……?急いでるんだ」 「あ、あの……その人……ダニエルの彼女ですか……?」 「今日、デートしてたんですか?」 二人して突然、そんな質問をしてきて私はギョっとした。 だが彼女達は至って真剣な顔で私の方をチラチラと見ている。 二人とも奇麗なブロンドで、どこかの高校の制服を着ていた。 凄く可愛い子達で、何だか私がダンと一緒にいるのが気が引けるほど。 何となく、その場にいづらい気がして離れたかったが、ダンがしっかりと手を握っているので離れられない。 「そんなこと、君たちに関係ないだろ?この子は普通の子なんだ。あまり詮索しないで欲しいんだけど……」 「…………っ」 彼女達に、いきなり、そう言ったダンに私は驚いて彼を見上げた。 そのダンの横顔は私が今まで見た事がないくらい、ちょっと怖い顔をしている。 「あ…ごめんなさい…」 「すみません…。ちょっと仲がいいから気になっちゃって……」 ダンの言葉に、その子達も慌てたように謝ると、そのまま私達から離れて歩いて行った。 そこへバスのクラクションの音が聞こえ、私はハっと顔を上げた。 「バス来たよ?」 「え?あ…うん…」 見れば、そこには普段とおり優しい笑顔のダンがいて、私はホっとした。 目の前にバスが止まると、ダンは私の手を繋いだまま乗り込み、一番後ろの空いてる席へと向かう。 そして私を窓際に座らせてくれた。 私達以外にお客さんは乗ってこなかったからか、バスは、すぐに走り出した。 「ちょっと歩きすぎて疲れたね。、大丈夫?」 「え?あ……大丈夫よ…?」 「そう?なら、いいけど。はぁ~もうオフも終わりかぁ…」 ダンは、そう言って苦笑しながらシートに凭れて溜息をついている。 それは、いつもと変わらないダンだった。 「…どうしたの…?あ……さっきのファンのこと気にしてる……?」 「え?」 ダンは何だか心配そうな顔で私の顔を覗き込んでいる。 そんな瞳で見られると、私まで少し悲しい気分になった。 「ち、違うの…。ただ…さっきのダン、見た事なかったから…」 「え?」 「ほら…普段は凄く優しいのに、さっきは、ちょっと怖かったって言うか……」 「あ……」 私の言葉にダンも、"しまった"って顔で頭をかいている。 「ごめん…。嫌な思いさせちゃったね?」 「え?そ、そんなこと…」 「僕、ダメなんだ…」 「……え?」 「ファンの子とかでも、さっきみたいに余計なこと聞かれたり、追いかけまわされたりすると…作り笑いとか出来なくてさ」 「そう…なの…?」 「うん…。だって失礼だろ?こっちはプライベートで来てるのに後をつけるなんてさ…」 「ダン……もしかして……つけられてたの怒ってた…とか……?」 「え?ああ、そりゃ…ちょっとね…」 ダンはそう言ってバスから見える景色に一瞬、視線を向けた。 そんな彼を見て、私は思わず、 「そんな風に見えなかった…」 と呟いた。 するとダンは照れくさそうな笑顔を見せる。 「それはと一緒にいたから……」 「…どうして?」 「だって好きな子の前で怒りたくないし…。それに一緒にいると楽しいから少し開き直ってたんだけど」 「……ダン…」 「だから、さっきも握手だってしたくないって思ったけど我慢してした。でも、それなのに、あんなこと聞かれたから…ちょっと態度に出ちゃってさ」 ダンは、そう言って苦笑交じりで肩を竦めている。 「そっか…。ダンも大変なんだ…」 「そうだよ?」 私の言葉に、ダンがおどけたように答えて、ちょっと噴出してしまった。 「私、怖いダンなんて見た事ないから、どうしようって思っちゃった…」 「ああ、だって、それはさ……。は僕にとって特別な子だから…ね」 「え……?」 ダンの言葉にドキっとして顔をあげると優しい瞳と目が合った。 「きっと僕が、こんなに優しいのはだけだと思うけど…」 「…………………で、でも……さっきは、ちょっと……怖かったよ?」 ダンの言葉に頬が赤くなり、そう呟けば、ダンが少し驚いた顔をしている。 「あ……さっきって……が僕の手を離そうとした時?」 「う、うん……怒ったのかと思った……」 「あ~…怒ってないけど……」 「……けど?」 私がダンの顔を伺うように見上げると、彼は少し眉を下げて、 「だって…が離れようとしたからさ…」 と言って目を伏せた。 「だ、だって、あの時は……」 「僕は気にしないで傍にいて欲しかった」 「………ダン…」 「出来れば、僕の大好きな人って紹介したかったくらいだよ」 「…………っ?!」 少しおどけて、そう言ったダンは真っ赤になった私の頬にチュっとキスをした。 「でも…あの子達から見ても僕がに夢中なのは分かったと思うけどね?」 「…………………」 「といると…上手く切り換え出来なくて…普段の僕に戻れなくなるから……」 ダンはそう言って、すでに茹蛸みたいに赤い私の頬に、もう一度キスをした。 そして恥ずかしくて俯こうとした私を、ダンはそっと抱き寄せて額に唇を落とす。 そのまま少し屈むと、俯いたままの私の唇を優しく塞いで、ギュっと強く抱きしめてくれた。 私とダンの二人きり。 貸切になったバスで、ホテルへ戻るまでの30分、ダンは何度も私を抱きしめ、キスをしながら、 「の前じゃ、僕って、かなりデレデレだよね…」 と恥ずかしそうに笑っていたダンが凄く印象的で、心に、いつまでも、その笑顔が残っていた。 |
Postscript
初デートですねーv いいなぁー(笑)
MOVIE★2月号で母マーシャさんと映ってるダンの横顔、最高です(ヨダレ)(オイ)
手にエヴィアン持ってますねー(笑)
いやーNYのファンが羨ますぃ!(笑)
このダン、最高にかっこいいです。ツボりました(トキメキ)(犯罪者)
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】