Chapter.15 かみなり~ライバルにご用心⑥~ Only you can love me...
オフも終わり、また普段どおり、今日から撮影が開始された。 は、いつものように撮影隊から少し離れた場所で見学している。 時々写真を撮っているのは父親の為だろう。 それと時折、撮りの合い間に彼女を見れば、何だかエキストラの子とも仲良くなったのか楽しそうに話していたりして僕まで笑顔になる。 だけど、その中には当然、男もいるから、ちょっと心配なんだけど・・・ 特にエマとルパートからトムの事を聞いたから・・・ との初デートの昨日、二人で帰って来た時、には内緒で話があると言われ、部屋に呼び出された。 そこで教えて貰ったのは、トムがまた性懲りもなくに、ちょっかいを出そうとしてるということ。 そして、それにルシーナも一枚かんでそうだと言う事だった。 それを聞いて凄く嫌な気分だった。 ルシーナがどう絡んでいるのか知らないけど、少なからずトムはの事を少しでも気に入ってると言うこと。 それだけで気分が悪い。 昨日も思ったけど自分がこれほど嫉妬深いなんて思いもしなかったし、また嫉妬するのが、こんなに嫌な気分だとも思わなかった。 「暫くの間、トムは要注意よ?ルシーナも」 エマが怖い顔で、そう言っていた。 だけど僕はトムだけに関らず、他の男とが話すのさえ嫌みたいだ。 「ダン!じゃ、次のシーン行くぞ?」 「あ、はい」 少しの間、そんな事を考えていると監督とスタッフの話し合いも終わったようで、すぐにスタンバイの声がかかる。 僕はチラっとの方を見て、心配ながらも自分の立ち位置へと向かった。 自分の動きと台詞を思い出し、監督の"スタート"という声を待つ。 この瞬間、僕はダニエルから"ハリー"へと変わる。 それは数年前から続けてきた事で今では前よりもスムーズに役に入り込める。 前なら10テイクはかかっていたこともあったけど、今は2~3テイクでOKが出るようになった。 その後、いくつかのシーンを撮り終え休憩に入ったので、僕は急いでの元へと走って行く。 すると今まで彼女に群がるようにいたエキストラの子達が潮が引くようにいなくなってしまった。 「ダン、お疲れさま!」 僕はいなくなった彼らに首を傾げつつも、の笑顔と、その言葉で、すぐ笑顔になった。 「退屈じゃなかった?」 僕用の椅子に座っているの隣に他のスタッフ用の椅子を引っ張って行って座る。 「ううん。退屈じゃなかったわ?エキストラの人達とも仲良くなったから」 「そっか・・・。でも・・・何で今、皆いなくなっちゃったわけ?」 辺りを見渡しながら少し疑問に思った事を口にしてチラっとを見れば、彼女はクスクス笑い出した。 「あ、あのね。皆、ダンと話した事がないから緊張するみたい」 「え?緊張って・・・・・・」 「やっぱりメインのACTORには話し掛けづらいんだって。私に"普段のダニエルってどんな感じ?"って聞いてきたわ?」 「ふ~ん・・・。で、は何て答えたの・・・・・・?」 「それは、もちろん・・・"凄く優しい人よ"って・・・・・・」 はそう言って少し恥ずかしそうに俯いてしまう。 そんな彼女を見て、ここが撮影現場じゃなければ今すぐにでも抱きしめたいなんて思った僕は相当、にイカレてるのかもしれない。 だが、その時、僕らの前に誰かが立って足元に影が落ちた。 「ダンの優しさって"限定"でしょ?」 「「エマ・・・!」」 僕とが顔を上げれば、そこにはエマが腕組みをしてニヤニヤしながら立っている。 エマの言葉には赤くなってしまい、僕はと言うと大きく溜息をついた。 「・・・何だよ・・・。いいだろ?別に・・・」 「あらダンってば照れてるの~?」 「うるさいよ・・・!」 全く・・・二人きりでラッキーと思ってたのに、エマってば絶対に確信犯だ。 あ~あ~ニヤニヤしちゃってさ・・・ に笑顔で話し掛けつつもチラチラ僕の方を見てくるエマに軽く舌を出してやった。 それを見たエマもには気づかれないように、ベェーっとやり返してくる。 だが別に長々と邪魔をする気はなかったようで、 「じゃ、私は自分のトレーラーで次のシーンの台詞でも復習してくるわ。次はダンとルパート3人のシーンだしね」 と言って歩いて行ってしまった。 それにはホっとした。 「、僕らもトレーラー行って紅茶でも飲まない?少し寒いだろ?」 「あ、うん・・・。でも・・・いいの・・・?」 「何、気にしてんの!いいに決まってるだろ?」 その言葉に僕は驚いての手を繋ぐと彼女を引っ張って椅子から立たせた。 だがは周りをキョロキョロしながら、すぐに手を離してしまう。 「・・・?」 「バ、バレちゃうから・・・・・・」 はそう言って微笑むと、ゆっくり歩き出した。 僕も、その後からついて行きながら少しだけ寂しく感じる。 は僕の事を考えてバレないように、と気を遣ってくれてるんだってのは分かるんだけど・・・ その前に、ロケが終わるまで二人の事は秘密にしようと言い出したのは僕だし、それはを守る為でもあるから・・・。 そう・・・分かってるんだけど・・・・・・ そのまま二人で僕のトレーラーに向かうと、鍵を開けて中へと入る。 その時ですらは近くをエキストラの子やスタッフが通る度にドキっとしたように僕から少し離れて行ってしまう。 それが妙に悲しくなるなんて、僕ってガキなんだろうな・・・。 「ダン・・・?」 中へ入っても僕が黙っているとが首を傾げて見上げてきたが、構わず彼女を強引に抱き寄せる。 「ダ、ダン・・・?どうしたの・・・・・・・・・・・・・・・?」 強く抱きしめるとは驚いたように体を硬くした。 「外じゃ・・・こんな事は出来ないだろ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・っ」 今、の顔は赤くなってるんだろうな・・・なんて思いながら更にギュっと抱きしめる。 この温もりで僕は安心するんだ。 そのまま、ゆっくり体を離して彼女の顔を覗き込めば、案の定、頬を赤く染めて恥ずかしそうに俯いているが見えた。 「・・・顔真っ赤・・・」 「だ、だって・・・・・・」 小さな声で呟くは、ますます俯いてしまう。 だから僕は少しだけ屈んで、の頬にチュっとキスをした。 そのまま顔をズラして唇の真横にも口付ける。 「ダ・・・ん・・・っ」 恥ずかしかったのか少しだけ顔を上げたの唇をすぐに塞げば驚いたように彼女の手に力が入るのが分かる。 すぐに離して最後にチュっとキスをすると、は耳まで赤くなってしまった。 それでも僕に体を預けてくれる。 「ずっと・・・こうしていたいな・・・」 「・・・・・・ぅん・・・」 小さく頷くが可愛くて額をコツンと当てて微笑んだ。 「ねぇ、・・・」 「・・・・・・え?」 「もし・・・・・・他の男から何か言われたら・・・」 「他の・・・人・・・・・・?」 「そう。もし言い寄られたりとかしたら・・・・・・その時は僕とのこと言ってくれる・・・?」 「で、でも・・・」 さっきから考えていた事をに言えば、彼女は驚いたように見上げてきた。 「いいの・・・?ロケが終わるまで・・・内緒なんじゃ・・・・・・」 そう言いながら不安げに僕を見ているに、笑顔を見せて軽く首を振った。 「ほんとはさ・・・。今すぐにでも皆に言いたいとこなんだけど・・・が嫌な思いをするのは嫌なんだ。 でも・・・言わない事で、他の男がに近づくのも同じくらい嫌なんだ・・・・・・」 「ダン・・・・・・」 「だから・・・これはマズイなぁってが感じたら・・・僕と付き合ってるって言って欲しい・・・」 僕が真剣に、そう言うとは瞳を揺らして視線を伏せたが、すぐに顔をあげる。 「でも・・・そんな事ないわ・・・・・・?」 「え?」 「私に・・・言い寄る人なんていないもん・・・・・・」 そう言って微笑むに、僕は思わず苦笑が洩れて軽く息をついた。 「全く・・・って呑気なんだから・・・」 「の、呑気って・・・」 は少しスネたように頬を膨らまし、それが可愛くて僕は笑いながら、その膨れた頬に軽くキスをした。 「だって、そうだろ?昨日だってトムからデートの誘いを受けたって聞いたけど?」 「あ・・・あれは・・・っ。そ、その・・・・・・」 僕の言葉に酷く慌てたように首を振って、困ったように口をつぐむ。 そんな彼女に僕も少しスネたように、「どうして黙ってたの?」と聞いてみた。 「だ、黙ってたって言うか・・・。トムの気まぐれだと思うから・・・・・・」 「気まぐれって・・・・・・どうして、そう思うの?」 「え?だって彼が私のこと本気で誘うわけないし・・・・・・」 「どうして?」 「どうしてって・・・・・」 僕の問いには戸惑ったように視線を彷徨わせた。 そんな彼女を見て僕は苦笑しながら、そっと頬に手をかける。 「はもっと自分に自信持った方がいいよ?」 「・・・・・・・・・え?」 「ここにの事が好きで好きで堪らない奴が一人いるんだからさ」 「ダ・・・・・・ダン・・・・・・っ」 僕がそう言って笑うと、は真っ赤になって俯いてしまった。 そのまま彼女の額に口付けて、そっと腕を離した。 「紅茶淹れるね?」 「あ・・・・私がやる・・・・・・」 「そう?じゃあ・・・・・・お願いしようかな」 そう言って横に避けると、が、まだ顔を赤くしたままポットを出した。 お湯が沸くと紅茶葉を入れて熱湯を注ぎ、2~3分待ってから茶漉しでこしている。 「、ジャム入れる?」 「あ、うん」 「今日は何にする?」 「えっと・・・じゃあ・・・ブルーベリー」 「OK」 僕は設置された小さな冷蔵庫からブルーベリージャムを出して耐熱のグラスに適量のジャムを落とす。 そこにが作ったストレートティーを入れるのだ。 前にに紅茶を淹れてあげた時、ロシアンティーにしたところ、は凄く気に入ってくれたようで一緒に紅茶を飲む時は大体これを飲む。 中に入れるジャムは気分によって木イチゴだったり、普通のイチゴだったりする。 僕はイチゴジャムにして紅茶を入れてもらった。 そのまま二人で紅茶を飲みながら他愛もない話をして過ごした。 僕にとっては、この時間が凄く大切な時間だ。 「はぁ・・・残り4日でロンドンに帰るんだ・・・。早いなぁ・・・」 「ほんと・・・。でもダンは帰ってからも撮影はあるでしょ?」 「うん、スタジオでね。時々またロケもあると思うけど・・・」 「そっかぁ。大変だね・・・」 は少し寂しげな顔で微笑んで僕を見た。 そんな顔をして欲しくなくて、僕は静かにの隣へと座り、彼女を優しく抱きしめる。 「ロンドンに戻ったら・・・こんな風に毎日会えなくなるけど・・・。でも前にも言ったようにとの時間は作るから・・・」 「うん・・・・・・。でも・・・無理だけはしないでね・・・?」 はそう言って、ちょっと笑ったようだった。 僕も軽く苦笑しながら彼女の顔を覗き込む。 「無理するよ。に会いたいんだからさ・・・」 「・・・・・・ダン・・・」 は少し頬を赤らめて、でも嬉しそうに僕を見上げた。 そこで互いの唇が触れ合う。 彼女を抱きしめ、何度もキスをしながら、僕は早く大人になりたいと思っていた。 そうすれば何も気にせず、何にも捕らわれず、と一緒にいられる。 学校や親の目なんて気にせずに、と二人だけの時間を、いくらでも作れるんだ。 こうしてロケがあれば連れて来れるし、さえ良ければプロモーションにだって連れて行けるんだから・・・・・・。 なんて・・・僕だけ先走ってるのかな・・・ こんな事を思うなんて・・・自分でもおかしいと思うけど・・・ の事が、こんなに大切で・・・こんなに好きだから・・・・・・おかしくても何でもいい・・・。 今はこうして・・・僕の腕の中にいて欲しい・・・ そう思いながら、彼女をきつく抱きしめた。 休憩も終わり、二人でトレーラーを出て先ほど私が見学してた場所まで戻って来た。 「じゃ・・・この辺で待っててね?今からちょっと危険なシーンだし、見づらいと思うけど、ここを動いちゃダメだよ?」 「うん。分かった・・・。頑張ってね?」 「うん」 ダンはそこで周りを見渡し、素早く私の唇にキスをすると笑顔で、 「これで、もっと頑張れる」 と耳元で小さく呟き、監督の方に走って行く。 私は一気に顔が熱くなり慌てて辺りを見渡すも、スタッフも、これから撮影再開するのに忙しく駆け回っていて誰もこっちを見ていなかった。 それにはホっとして、また椅子へと座る。 ダンの走って行った方に目をやれば、さっきよりも少し離れた場所で大きなセットが準備されている。 あまり近づいたら危険だというので、ここで見てるようにと言われていた。 はぁ・・・まだドキドキしてる・・・ 私は胸を抑えて小さく息を吐き出すと、まだ温もりが残っている唇を指で触れてみた。 ダンにキスされると心臓が壊れちゃうんじゃないかってくらい鼓動が早く打って息苦しくなる。 顔中、熱くてクラクラするし、時々本当に倒れちゃうかも・・・って思うほど。 でも、それは嫌なんかじゃなくて、ダンの腕に抱きしめられるたび、キスをされるたび、凄く幸せを感じてフワフワした感覚になるから・・・ あの腕の中だと私は思い切り安心出来て、子供のように、ただジっとしているだけだ。 こんな気持ち初めて知った。 人を好きになるって・・・凄い事なんだ・・・・・・ そんな事を考えていると遠くで監督の、"スタート!"という声が聞こえてきた。 少しでもダンが見えないかと椅子から立ち上がり、見てみるが少し離れすぎていて誰が誰なのか分からない。 衣装の制服を着て、エキストラに交じってしまえば遠くからだと容易には見分けられないのだ。 暫く立って見ていたが、ダンがどこなのか分からないので仕方なく椅子へと座る。 そして、そのまま何度か"カット"と"スタート"の声が遠くから聞こえるのを聞いていたが、今いる場所が不意に日が翳り冷え込んできた。 空を見上げれば今にも雨が振り出してきそうなほどに、どんよりと曇っている。 どうしよう・・・ダンのトレーラーから傘持ってこようかな・・・ さっき雨が降ってきたら、ここの傘使ってって言ってたし・・・・・・・。 そんな事を考えてる間にも空はどす黒い雲に覆われ、辺りが暗くなっていく。 私は、この雰囲気が嫌いで椅子から立ち上がった。 大雨になる前によく見られる現象で、空が一瞬にして黒い雲に覆われていくのを見るのが怖いのだ。 「やだ・・・どうしよう・・・。トレーラーに戻ってようかな・・・」 そんな事を呟きながらも雨が降ってくれば撮影も中止になるんじゃ・・・と思った。 そうすればダンが戻ってくる。 「もう少し待ってみよう・・・」 そう呟いた瞬間、遠くの空がピカっと青白く光った。 そして少しするとドドーン・・・!というお腹に響くような音が聞こえてきてビクっとなる。 「か・・・雷・・・。しかも、かなり大きかった・・・」 私は怖くなってトレーラーの方に戻ろうと思った、その時・・・突然、大粒の雨がドシャーっという感じで降ってきて驚いた。 「キャ・・・冷た・・・」 日本でいう所の天気雨にも似た、こっちで言うと"シャワー"だが、この勢いは、やはりスコールとも言えるほどの雨。 バケツをひっくり返した・・・という表現がまさにピッタリだった。 私は慌てて近くに大きな木を探すのに森の茂みに入っていく。 今までいた辺りには小さな木々が多い茂ってるばかりで少し奥へと向かう。 すると大きな木が立っているのが見えて、そこまで急いで走って行った。 だが、その間にも大粒の激しい雨のせいで私はグッショリと濡れてしまった。 「はぁ・・・凄い雨・・・」 私はポケットからミニタオルを出すと濡れた顔や髪を軽く拭いた。 そして空を見上げるも今は大雨のせいで黒い雲さえ見えず、視界は白っぽく見えるくらいだ。 非難にきた、この木も完全に雨を抑える事は出来ず、葉の間からポツポツと雨粒が落ちてくる。 どうしよう・・・ 止みそうにないなあ・・・ それに・・・ダンは大丈夫だったのかな・・・ ちゃんと非難出来たのかな・・・? まあスタッフが大勢いるんだから大丈夫だと思うけど・・・ もしかして心配してるかも・・・ そう思った時、携帯が鳴り出しドキっとした。 まだ遠くで雷の音は聞こえるが、心細かった私はすぐに電話へと出る。 「Hello...?」 『?!大丈夫?』 「ダン・・・・・・」 その電話はダンからで、彼は酷く慌てた様子だ。 「あ、あの・・・大丈夫よ?ちょっと濡れただけ・・・」 『そっか・・・。今どこ・・・?!雨の音がするって事は今も外?』 「あ・・・うん。急な雨で驚いてトレーラーじゃなくて近くの大きな木の下に・・・・・・」 『えぇ?!ダ、ダメだよ、!木の下なんて・・・!もし雷が落ちたら・・・それに、こうして携帯で話してるのだって危ないよっ』 「あ・・・・・・」 ダンに、そう言われて私は、その事を思いだした。 子供の頃から言われていた。 "雷が鳴ってる時には大き木や建物の近くに行かない事" "雨の日は外でウォークマンを聞いたり、携帯を極力、使わない事" そのうちの二つを今している事に気づき怖くなった。 すると受話器の向こうからダンの慌てた声が聞こえる。 『!今すぐ電話切ってトレーラーに向かって!あそこに僕の着替えとか置いてるし服が濡れても着替えられるからっ』 「う、うん・・・分かった・・・」 『僕、スタッフに止められて今、ここから動けないけど小降りになったら、すぐトレーラーに行くし待ってて?』 「うん・・・待ってる」 『じゃ危ないから電話切るね?あ、それと行く途中、木から、なるべく離れて行くんだよ?雷聞こえたら体勢を低くして・・・』 「うん、分かってる・・・。ありがと・・・」 『じゃ、気をつけて・・・。後ですぐ行くから』 「うん。じゃ・・・」 そこで電話を切り、携帯の電源も一応切っておいた。 こうしてる間にも雷はだんだん近づいて来ている。 それは普通の雷と違い、ゴロゴロ・・・というようなものじゃなく、ほんとに何か爆発したかのような、 ドゴーンという地鳴りのような雷音で怖くなってきた。 「急がなくちゃ・・・・・・」 私は上に羽織っていたジャケットを脱ぐと頭から被り、雨の中を一気に駆け出した。 ダンに言われた通り、なるべく木から離れて移動する。 あまりの大雨に視界が曇り、前がよく見えない。 自分がどっちに向かっているのかも、分かりにくいほどだ。 だが勘を頼りに、さっき歩いて来た方向へと走って行った。 だが、その時、ふと気付いた。 今日、胸元に下げていたネックレスが揺れていない事に。 そこで一旦、足を止めると手で胸元を触ってみた。 だが首筋に手をやってもネックレスがない。 「ない・・・っ。嘘・・・・・・落としちゃったの・・・?!」 私は、それだけで慌てて辺りを見渡した。 さっきまでは確かにあった。 ダンと電話をしていた時、無意識に触れてた記憶がある。 じゃあ・・・ジャケットを脱いだ際に、引っ掛けて落ちたんじゃ・・・・・・ そこまで気付くと、私は一瞬迷った。 このまま一度、戻るべきか、引き返して探しに行くべきか。 前を見れば、少し広まった場所があり、そこに先ほどまで座っていた椅子が見える。 正しい方向に戻っていた事は間違いないようだ。 「大丈夫・・・戻ってこれる・・・」 私は方向を認識した事で少し落ち着いて深呼吸をした。 雨は一向に弱まる気配はなく、雷もかなり近くで鳴り出した。 だが、あの木まで走って戻れば、そんなに時間はかからない。 そこまで考えた時、私は踵を翻して元来た道を戻って行った。 あのネックレスだけは見つけないと・・・ せっかく昨日、ダンに買ってもらったばかりなんだから・・・っ それも初めてのプレゼントで、お揃いでつけているネックレス・・・ それを、もうなくしたなんて言えるはずがない。 私は雷の音でビクッとなりながらも必死に、さっきの場所まで走って行った。 雨が降り出す、ほんの数分前、ルシーナは自分の分を撮り終え、ロケ車の方に戻って来ていた。 そこで一人で椅子に座っているを見つけ、慌てて自分と同じに 今さっきスリザリン生のシーンを撮り終えたばかりのトムへ電話をした。 「今、が一人でいるわよ?ダンは今、グリフィンドール生のシーンを撮ってるから暫く戻って来ないんじゃない?」 『OK!すぐ行くよ』 トムはそう言って電話を切った。 そこで彼が来るのを車の陰で待ちながらを見張っていると、突然の大雨が降ってきて驚く。 「キャ・・・何よ、この雨!」 ルシーナは慌てて車の中へ非難すると窓からを見てみた。 すると彼女は慌てたのか、車の方じゃなく森の方へと入って行くのが見える。 「バカね、何やってるのかしら・・・。こんな雷の中、森に入る方が危ないのに」 ルシーナはそう呟いて呆れたように笑った。 そこへトムが走ってくるのが見えて、ルシーナはドアを開けて大声で彼を呼んだ。 「トム!こっち!」 するとトムは手をあげて、そのまま車の中へ駆け込んできた。 「ひゃ~すっごい雨!最悪だよ~・・・」 「はい、タオル」 「あ、サンキュ」 トムはタオルで濡れた髪やら衣装を簡単に拭いていった。 そして車の中を見渡し、 「あれ・・・彼女は?」 と聞いてみる。 「ああ、あの子なら何故か、あっちに走って行ったわ?急な大雨で驚いたんじゃない?」 「えぇ?危ないじゃん」 「まぁね。だからトムが迎えに行ってあげれば?」 「ああ、そりゃいいけどさ。傘ある?」 「ああ、そこに何本かスタッフ用のがあるわ?」 車の機材の中に数本の傘があり、それを指さすと、トムがそれを一本持った。 「あと・・・このタオルも持ってくか・・・」 「そうすれば?あの子、喜ぶんじゃない?トムが迎えに来てくれたら。お礼にキスくらいしてくれるかも」 ルシーナがニヤっと笑って、そう言うと、トムもちょっと含み笑いを浮かべたが、 「あの子が、そんなタイプかよ?その辺の子と違うから興味持ったんだよ」 と肩を竦める。 それにはルシーナもカチンとした顔。 「何言ってるの?そんなの猫かぶってるだけよ。そんな見た目どおり純粋な子なんているわけないじゃない」 「そうか?でも昨日、デート誘うのに電話したら、今までデートした事ないって言ってたけど」 「バカね、そんなの信じたの?!15にもなってデートした事ない子なんているわけないじゃないの!」 「そりゃルシーナは、そうかもしれないけど彼女、日本の子だし、あっちの子って奥手そうじゃん」 トムは笑いながら、そう言ったが、それにはルシーナもムっとした。 「あのねぇ・・・。日本人だろうがイギリス人だろうが、そんなもの、どこの国だって一緒よ! 私だって小学生からデートしてたんだし、あの子だって、こっちではなくても日本ではデートくらいしてたに決まってるわ?」 「そういうもんか?ま、俺はどっちでもいいけど・・・。俺、デート誘って断られたの初めてなんだよね。 まあ、エマが邪魔に入ったんだけど。だから、そう言う子を完全に落とすのって楽しそうだろ?」 トムは、そう言いながら窓の方に視線を向けた。 「あれ・・・?今の・・・・・・?」 「え?どこ?戻って来たの?」 トムの言葉にルシーナも窓の外を見てみる。 だが大雨のせいで、よく見えない。 「どこよ?」 「いや・・・今、一瞬、あの小さい木々の向こうにらしい人影が見えたんだけど・・・また奥の方に戻って行った」 「えぇ?何で、この雨の中、戻るのよ・・・?バカじゃないの?あの子」 「・・・・・・とりあえず・・・迎えに行って来るよ。このままだと本当に危ない。雷も近くなってきてるし」 「ええ、そうね。それに小降りになったらダン達も戻ってきちゃうわよ?」 「ああ、分かってる。じゃ、行って来るよ」 「ええ。頑張って」 ルシーナは意味深な顔で、そう言うとトムは苦笑しながら車から出て行った。 「ハァ・・・ハァ・・・た、確か・・・この辺よね・・・・・・」 私は息を切らしながら走ってきて雨の中、さっき雨宿りをしていた木の足元辺りにしゃがみこみ、 草を掻き分けネックレスが落ちてないか探し始めた。 だがボタボタと落ちてくる大雨のせいで、何とも探しにくい。 ジャケットを頭から被っているものの大雨は容赦なく顔にも降り注いでくるので 雨粒が目に入り、手で拭っても視界がすぐに曇ってしまう。 (やだ・・・お願い、見付かって・・・・・・っ) そう願いながら必死に探していく。 その時、さっき以上に近い場所で雷がドゴーン・・・と鳴った音にビクっとなる。 「嘘・・・凄い近かった・・・」 顔を上げて黒い雲と雨のせいで灰色になった空を見上げ呟く。 早くしないと・・・ほんとに、この辺に雷が落ちるかもしれない。 私は焦りながら、すでに膝をつけて這いつくばるように草の根を分けて探していく。 その時、後ろで声が聞こえたような気がして顔を上げる。 大雨のザァァァっという音で聞こえにくいが、何だか名前を呼ばれているような気がして、 不意にダンが迎えに来てくれたのかと思い立ち上がった。 「~~?どこ~~?!」 「ダン・・・・・・?」 そう思うと怖くて不安だった気持ちが一気に消え去り、泣きそうになる。 「ダン・・・?こっち!ここよ!」 「・・・?!」 大きな声で、そう言うと木々の合い間から誰かが走ってくるのが見えて、私も、そっちへ走り出した。 「ダ・・・・・っ」 「あ、・・・!見つけた・・・っ」 「・・・・・・・・・・・・・・・っっ?!」 抱きつく勢いで人影の方に走り寄れば、その人物はダンではなく、トムだった。 「ト・・・トム・・・・・・?」 「良かったぁ、見付かって!心配したよ?」 「え?あ、あの・・・キャ・・・っ」 トムはホっとしたように笑顔を見せたかと思えば、いきなり私の腕を引っ張り、自分の方へ抱き寄せた。 「こんな濡れて・・・寒かったろ?」 「ちょ・・・は、離して・・・」 ギュっと抱きしめられ、私は慌ててトムから離れた。 ダン以外の男の人に抱きしめられた事がないので怖かったのと、驚いたので、少し混乱してしまう。 「、どうしたの?」 「な・・・何でトムがここに・・・?」 「え?ああ、さっきが、こっちに来るのが見えてさ。心配だから迎えに来たんだ」 トムはそう言って一旦、私を木の下に連れて行くと、傘を畳み、持っていたタオルで濡れた顔や髪を拭いてくれる。 「あ~あ・・・びしょ濡れだ・・・。これじゃ風邪引いちゃうよ?何してたの?」 「ちょ、ちょっと・・・探し物・・・。あ、も、もういいわ?自分で拭く・・・。ありがとう・・・」 私はトムに顔やら髪、そして体を拭かれて恥ずかしくてタオルを手に取り、自分で拭き始めた。 それにはトムも苦笑しながら、「探し物って・・・何?」と聞いてくる。 「え?あ、あの・・・・・・ネックレス・・・」 「え?ネックレス・・・?そんな大事なもの?」 「うん・・・。だから探すまで戻れない・・・・・・」 「そっか・・・。でも・・・危ないよ?こんなとこにいたら・・・。今日の雷異常に大きいし風も強くなってきたしさ」 「で、でも・・・今、探さないと・・・明日になれば水と土に流されて埋まっちゃうかも・・・」 「ああ・・・そうだけど・・・・・・」 トムは困ったように頭をかくと着ていた衣装のマントのような服を脱いで私の肩にかけてくれた。 「い、いいよ・・・。トムが風邪引いちゃう・・・」 「大丈夫だよ。それに女の子が寒い思いしてるの見てて放っておけないしさ」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 トムの言葉にドキっとしつつ、視線を反らすと、彼の手がポンと頭に乗せられた。 「俺も探すよ、そのネックレス」 「・・・・・・え?」 「それ見つけないと戻れないんだろ?じゃあ探そう?一人より二人の方がいい」 「で、でも・・・・・・」 「いいから。この辺に落としたんだろ?なら、すぐ見付かるよ」 トムはそう言って木の下にしゃがみこむと草を分けながら探し始めた。 私が驚いてみていると、彼が顔を上げてクスクス笑っている。 「ほら、も探さないと。二人で風邪引いちゃう事になるよ?」 「あ・・・・・・ご、ごめんなさい」 私はそう言うと、さっきと同じようにしゃがみこんでネックレスを探し始めた。 そしてチラっと反対側を探してくれているトムを見てみる。 彼とは、そんなに話したこともないし映画の役の印象とは違うと分かっていたけど、こんなに優しいなんて驚き・・・・・・ 普通、こんな、よく知りもしない子の探し物を、大雨の中手伝うなんてしないよね。 何て言っても彼だってダンくらい有名なACTORなんだから・・・・・・ そんな事を思いつつ少しづつ進んで足元を探していく。 するとトムも木の周りを回って来て前の方から私の方へ向かって進んできた。 互いに下を見ていたので前を見ていなかったのもあり、 だからか、お互いに近づいてる事も知らないで、そのまま進んで行き、同時に額がゴツンっとぶつかってしまった。 「「ぃたっ」」 二人で額を手で抑え、顔を上げる。 私は至近距離でトムと目が合い、ドキっとした。 「あ、あの・・・・・・ご、ごめんなさい・・・。気付かなくて、その・・・・・・」 そう言いかけた時、頬に彼の手が添えられ、更に鼓動が大きく跳ね上がる。 そのままジっと見つめてくるトムのブルーグレーの瞳から視線を外す事が出来ず固まってしまった。 するとトムが、ゆっくり顔を近づけてきて一気に顔が熱くなり、慌てて後ろへ避けた。 その弾みでバランスを崩し、尻餅をついた私をトムが驚いたように口を開けて見つめている。 「だ、大丈夫?」 「えっ?あ、だ、大丈夫・・・・・・です・・・っ」 トムが苦笑気味に手を引っ張ってくれて何とか立ち上がる。 すでに体全体が濡れてビショビショだし、尻餅をついたせいで、お尻まで冷たく、何だか悲しくなってきてしまう。 その時、トムが困ったように微笑んで、私の頭を撫でてきた。 「ごめん・・・。驚かせちゃったね」 「え?あ・・・・・・」 ごめん・・・って事は今、本気でキスしようとしてたの?! 何かの冗談か、まさか、そんなはずはないって事だけ頭の中でグルグル回っていたが、そうと知って顔が真っ赤になってしまった。 そんな私を見て、トムは何だか嬉しそうに笑い出し、 「って、ほんとシャイなんだ。顔が真っ赤で可愛いよ」 なんて言ってきて更に顔の熱が上がる。 と言うか、これで何て答えれば・・・ ううん・・・。その前にキスされそうになったんだから怒らないといけないの? でも怒るタイミングを逃してしまったような雰囲気だし・・・ そんな事を考えながら目を伏せると、不意に何かがキラっと光った。 「あ・・・っそこ・・・!」 「え?」 見ればトムの足元にチェーンらしきものが見える。 私は急いでしゃがむと、トムに足を避けてもらった。 「あ・・・・・・あった・・・っ」 「え?嘘。やったじゃんっ」 私は、その場に膝をついて、ネックレスを握りしめると本気でホっとして息をつく。 少し土で汚れていたが、それをタオルで奇麗に拭けば、元通りに奇麗になった。 「良かった・・・・・・」 「そんなに大事なの?それ」 私の喜びように、トムも不思議そうな顔で首を傾げる。 その言葉に私は頷くと、軽く深呼吸をして立ち上がった。 「これ・・・ダンにもらったの・・・・・・」 「え?」 思い切って、そう言ってみた。 そう・・・ダンは、もしも・・・の時は、僕との事を言って欲しい・・・とまで言ってくれた。 今がこの時なんじゃないかと思ったのだ。 先ほど・・・トムにキスをされていたかもしれないのだから・・・・・・ 私の言葉に、トムは暫し呆然とした顔。 「ダン・・・からもらった・・・物なの?」 「うん・・・。お揃いで・・・・・・つけてるの・・・」 「・・・・・・へっ?」 恥ずかしかったが、何とかそこまで言った。 それにはトムもますます驚いたように目を丸くしている。 その時、ザァァァっという雨の音に混じって大きな雷の音がすぐ近くで聞こえてきた。 僕は大雨の中、必死にトレーラーに向かって走っていた。 全然、小降りにならない雨に痺れを切らし、ロバートに頼んで戻ってもいいと許可を貰ったのだ。 どっちみち、この雨で午後の撮影は中止になったので、いつまでもセットの隅にいる事はない。 僕は一人で待ってるが心配で急いで自分のトレーラーへと飛び込んだ。 「、遅くなって、ゴメン・・・・・・ってあれ?」 さほど広くもないトレーラーの中に入れば、がいない事は一目瞭然だ。 な・・・何でいないんだ? さっきの電話から、かなり経ってるし、椅子の辺りにもの姿はなかった。 僕はてっきりトレーラーにいるもんだと思っていたのに・・・・・・ まさか・・・先にホテルへ戻ったとか・・・? いや、でも、ここからホテルまで歩いても30分は軽くかかる。 この大雨と雷の中、一人で戻るはずはないんだけど・・・・・・ 僕はが心配で心臓が痛くなってきた。 そこへドアをノックする音が聞こえて慌てて開けてみる。 「・・・っ?」 「あ・・・・・・っ」 「あ・・・あれ・・・君・・・」 ドアを開けてみれば、そこにはではなく、スリザリン生の衣装を着たエキストラの男の子が傘を差して立っている。 さっきとも話していたうちの一人だ。 大人しそうな子で僕より年下に見える。 今も緊張しているのか視線が左右に動いて落ち着きがない様子だ。 「す、すみません。突然、来ちゃって・・・・・・」 「あ・・・いや・・・。えっと・・・君、エキストラの・・・」 「は、はい。スリザリン生のエキストラやってるボビーといいます!僕、ハリーの大ファンでエキストラに応募したんです・・・っ」 「あ、ああ・・・あの分かったから・・・そこまで言わないでいいよ?」 「あ・・・す、すみません!ぼ、僕、あなたのファンで、ほんとはグリフィンドールのエキストラが良かったんですけど間に合ってるって言われて・・・」 「う、うん。だから・・・聞いてないんだけど・・・」 一向に話が進まない、そのボビーという男の子に、僕はつい、そう言ってしまった。 だいたいエキストラの子が、こんな風にメインキャストのトレーラーに直接来る事は珍しいのだ。 僕はサインか何かもらいに来たんだろうか?と首を傾げた。 だが今の僕の言葉に、ボビーは酷く慌てたように、 「ご、ごめんなさいっ。ちょっと緊張しちゃって余計な事まで話しちゃいました・・・っ」 と謝っている。 その姿が何だか憎めなくて、僕は思わず吹き出した。 「いや・・・いいけど・・・。僕に何か用事だった?」 「は、はい。あの・・・!お友達のさんのことで・・・・・・」 「え?!のこと?」 その言葉に僕はドキっとして彼を中に引っ張り込んだ。 だがボビーは僕のトレーラーに入れたのが嬉しかったらしく、 「うわぁ・・・ダニエルのトレーラーに入っちゃったよ・・・後で皆に自慢しよう・・・」 などとブツブツ言っている。 それは無視して僕はの事を聞いた。 「あ、あのさ。の事って何?彼女見当たらないんだ。ここにいてって言っておいたのに」 「あ、は、はい。それが・・・さっき僕が戻って来た時、彼女を見たんです。一瞬だったけど・・・」 「ど、どこで?どこで見た?」 「えっと・・・さっきまで座ってた椅子の近くで・・・森の奥から走って来たようなんですけど、またすぐ奥に戻って行ってしまったんです」 「えぇ?何で?」 「いや・・・そこまでは・・・・・・。あ、でも、そのすぐ後から・・・」 ボビーは、そこで言い辛そうに一旦、言葉を切って僕から視線を外した。 その態度に嫌な予感がして、僕は思わず彼の腕を掴む。 「何?すぐ後から・・・どうしたって?」 「は、はい。あの・・・トムが彼女の後を追って行くのが見えて・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・っ」 その話を聞いて僕の心臓がドクンと鳴った。 の後をトムが追いかけて行った。 そして、そのまま彼女は戻って来ていない。 その事実だけが頭をグルグル回っている。 目の前のボビーは何だか気まずそうに頭をかいていて、 「さん・・・可愛いから、もしかして彼に狙われてるのかと心配で、それで言いに来たんです・・・。あなたが戻って来るのが見えたから」 と説明してくれた。 だが僕は彼女が心配で、それどころじゃなかった。 急いで傘を持つと、ボビーを連れて、また外へ出る。 「えっと、あの椅子の辺りを奥に行ったって言ったよね?」 「はい。そうです」 「ありがとう!」 僕はボビーにお礼を言うと、元来た道を走って、さっきまでがいた場所までやってきた。 椅子は強風に煽られ、ひっくり返ったまま。 僕は鼓動が早くなるのに息苦しさを感じながら、森の中へと入って行った。 雨は未だ、どしゃ降り、あげく空は真っ黒な雲に覆われ辺りは暗く、何とも視界が悪い。 でもが心配で、そのまま奥へと進んでいく。 「~!どこ?!いたら返事して!」 彼女の名を呼ぶも、うるさい雨音で僕の声はすぐにかき消されていく。 ・・・どうして戻ったんだ・・・? きっと一度戻って来たってのは僕との電話の後に違いない・・・ あの電話の後、はトレーラーへ戻ろうとしてたはずだ。 なのに・・・そこまで来て、また森に戻ったって・・・どうして・・・・・・ それに何でトムが・・・? を見かけて追いかけたってとこだろうか。 どっちにしろ、トムはを狙ってたはず・・・ そんな事を考えると、足元から這い上がってくる嫉妬という、嫌な感情で押しつぶされそうになる。 やっぱり僕が戻れば良かったんだ・・・ さっき雨が降り出した時に・・・ スタッフ皆から止められ、仕方なく電話をしたけど、あの時点で戻っていれば・・・ そう思うと自分にも腹が立ってくる。 そのまま何かに急かされるように奥へと走って行くと、一段と大きな木が正面に見えてドキっとして足を止める。 あれは・・・さっきが言ってた大きな木じゃないんだろうか・・・ そう思って、また歩き出そうとした時、何やら人の話し声が聞こえてきて再び足を止める。 うるさい雨音で、よくは聞こえないが耳を澄ましてみれば、どうやら目の前の木の後ろから聞こえてくる。 そこに気付いて、そっちへ走って行った。 「・・・・・・」 そう呼んで驚いて足を止める。 トムがの首の後ろに腕を回し、今にもキスするかのように屈んでいたからだ。 それを見て僕はカっとなって傘を放り投げ、走って行った。 「トム!に何してるんだよ・・・っ!!」 「え?あ・・・ダン・・・?!」 振り向いたトムは僕を見て驚いた顔をした。 だけど僕はそのままの勢いで彼の胸倉を掴んだ。 「に何しようとしてたんだ!!彼女は僕の・・・っ」 「わわ、タンマ!ちょ・・・誤解だって、ダン!!」 「・・・・・・・・・・・・・・・っ?!」 僕が殴りかかろうとした時、トムは両手を上げてホールドアップしながら、そう叫んだ。 その時、驚いた顔をしていたも慌てて僕の腕を掴んでくる。 「ダン、違うの・・・!何もされてないわ?!」 「・・・・・・え?」 二人にそう言われて僕が手を離すと、トムはホっとしたように息を吐き出した。 「焦ったぁ・・・・・・。ダン、本気で怖いよ・・・っ」 「な・・・だ、だって今・・・」 僕は何が何だか分からず、二人を交互に見ると、が真っ赤な顔で胸元に下がっているネックレスを見せた。 「これ・・・つけてもらっただけなの・・・」 「へ・・・・・・?」 「そうだよ、ダン・・・。ったく・・・彼女、それを落としたって言って一人で探してたから手伝ってたんだ・・・。 で、やっと見つけたはいいけど寒くて手が悴んで上手くつけられなかったから代わりに俺がつけてやったんだよ・・・・・・」 「な・・・・・・そ、そうなの?」 その話に唖然としながらを見ると彼女は恥ずかしそうに頷いた。 そこで僕の体から一気に力が抜け、その場にしゃがみ込んだ。 「何だよ~・・・紛らわしいよ、トム・・・・・・」 「そ、そんなこと言ったって・・・。だいたいダンが隠すからだろ?二人の関係!」 「え?」 トムの言葉にドキっとして立ち上がると、が申し訳なさそうに目を伏せた。 「もしかして・・・話した?」 「ご、ごめんなさい・・・」 は泣きそうな顔で、そう呟くも、トムは苦笑しながら、 「しっかり聞かせてもらいましたよ。それがお揃いのネックレスだって事もね?ダニエルくん」 「な・・・う、うるさいな・・・!」 「彼女、必死に探してたんだぞ?そんなに大事なもんなんだ~って聞いたら、ダンに買ってもらったってさ。 そういうとこ、ほんと可愛いよなぁ?やっぱりダンやめて俺にしない?」 「ちょ、バカ、やめろよっ」 トムがの頭を撫でてるのを見て、僕は慌てての腕を引っ張り、自分の後ろに隠した。 それを見てトムは楽しそうに笑っている。 「ジョークだよ!俺、人の彼女には興味ないんだ」 「あっそ!じゃあ、もうに、ちょっかい出すなよ?」 「分かってるよ」 「って言うか・・・、トムに僕らのこと話したって事は、そういう状況だったってこと?」 「え・・・?!」 そこを思い出し、僕はドキっとしてを見た。 すると彼女は真っ赤になって俯いてしまい、僕の言った事が事実だと裏付ける。 「何?何の話?」 トムだけが意味が分からないからか、キョトンとしている。 だが僕はトムを睨みつけた。 「おい、トム・・・に何かした・・・?」 「え?別に何も・・・・・・何で?」 「ほんとは・・・ロケが終わるまで僕らの事は内緒にしてるはずだったんだ。でも他の男がちょっかいかけてきて、ここは危ないと思った時は、 僕と付き合ってるって言って欲しいってに頼んだんだよ・・・。 という事は・・・危ない状況だったからはトムに話したって事になるよな?」 そこまで説明してトムを見ると、彼の顔からサーっと血の気が引いた。 「あ~い、いや俺は別に何も・・・・・・」 「嘘つけ!言えよ、何した?!」 僕が怖い顔で詰め寄ると、トムは困ったように両手を上げながら、 「な、殴らない?」 と聞いてくる。 「内容による」 「ちょ・・・そんな・・・。ほんと何もしてないんだって!ただ・・・ちょっとキスしようとしただけで・・・・・・」 「はぁ?!にキスしようとしたって?!」 それには本気で頭に血が上りかけたがトムは慌てて逃げ出し、木の影に隠れる。 「だ、だから未遂だって!逃げられたからしてないよ!」 「に、逃げられなかったらしてたって事だろ?!」 僕がまた詰めよると、トムは更に木を回って僕から逃げる。 「だ、だからダンとの事知らなかったんだって!は俺に気があるって聞いてたからさ・・・!ほんと悪かったよ・・・!」 トムは必死にそう言って、いつでも僕から逃げれる体勢を作っている。 だけど僕は、彼の言葉が気になり、足を止めた。 「トム・・・」 「だから、もうしないって・・・」 「いや、そうじゃなくて・・・」 「え?」 「今・・・は自分に気があるって聞いてたって・・・言ったよな・・・?」 「え?あ、ああ・・・そうだよ?だからデートにだって誘ったし・・・。まあ断られたわけだから、そこで気付けば良かったんだろうけどさ・・・」 「・・・・・・それより・・・それ誰に聞いた・・・?」 僕が真剣な顔で聞くと、トムは言いづらそうにしながらも、溜息をついて顔を上げた。 「ルシーナだよ・・・。が俺のこと気に入ってるから誘ってやれって何度か言われてさ・・・.。さっきだって、そう言われたから迎えに来たんだ」 「・・・・・・・・・・・・・・・っ」 ルシーナ・・・・・・・・!! 彼女の名前を聞いてカっとなった。 は少し驚いた顔をして悲しげに俯いている。 トムはトムで自分の傘を拾うと、 「じゃ、そういう事で恨みっこなしだぞ?ダン!」 なんて呑気に笑っている。 僕は彼に軽く手を上げて、自分の傘を拾いに行った。 トムが行ってしまうと、僕はの方を見た。 彼女は俯いたまま、木の下に立っている。 そのままの方に歩いて行くと彼女を思い切り抱きしめた。 「ダ、ダン・・・・・・?」 「ごめん・・・・・・・・怖い思いさせて・・・・・・・・」 「そ、そんなこと・・・・・・・。私が勝手に戻ったりしたから・・・」 「ううん・・・僕がさっきすぐに迎えに来てれば怖い思いさせなかったんだ・・・。こんな濡れちゃって・・・」 僕はびしょ濡れのを強く抱きしめ腕の中に包んだ。 今、が羽織っているのがトムのスリザリン生の衣装っていうのが気に入らなかったんだけど、そこは一歩譲って許してあげる。 だって僕が来れなかったのが悪いから・・・ そっと体を離し、の頬を両手で包むと、少し冷んやりとしていてドキっとする。 「・・・体冷えただろ?ホテルに戻ろう?風邪引いちゃうよ・・・」 「う、うん・・・かなり濡れちゃったから・・・」 そう言った時、すぐ近くで雷の音が鳴り響き、はビクっとして僕に抱きついて来た。 彼女の方から抱きついてくれた事なんて殆どないので思わず顔がニヤケそうになるも、 ここにいれば危険なので、を連れてクルーの方に走り出した。 の頭から僕の着ていた衣装もかけて、これ以上濡れないようにする。 風に煽れられ傘なんてあってもないようなものだからだ。 ロケ車の方に戻れば、スタッフも続々と戻って来ていて、皆ホテルに帰る準備を始めている。 だが、後20分くらいかかると言われ、それまでをトレーラーに連れて行く。 「はい。着替え」 「で、でも・・・」 「ダメ。これに着替えて?、びしょ濡れだし服だって殆ど濡れちゃってるよ?そんなの着てたら寒いだろ?」 僕がそう言った瞬間、がクシュン・・・っとクシャミをして思わず笑ってしまった。 「ほら言った傍から」 「わ、笑わないでよ・・・」 は恥ずかしそうにしながら口を尖らし抗議をしてきた。 その表情も可愛くて、僕はを抱き寄せると、 「だってのクシャミ可愛いからさ」 と言って額に口付ける。 そのままの頬をそっと持って唇を重ねた。 雨に濡れたせいで、の唇も凄く冷たくて、僕は暖めるように何度も唇を擦るようにキスをして冷えた体も抱き寄せた。 は恥ずかしいのか少しだけ体を捩るも、更に首に腕を回して僕の方に引き寄せキスをする。 そして最後に軽く唇を噛んでから、ゆっくり離すと、彼女の驚いたような大きな瞳と目が合った。 「あ、あの・・・・・・ダン・・・・・・」 「何?恥ずかしい・・・?」 「う、うん・・・・・・」 僕の意地悪な質問に素直に頷くが可愛くて、僕はもう一度唇にチュっとキスをした。 「ダ、ダン・・・っ?」 「ダーメ。は僕に心配ばっかりかけるからね。離してあげない」 「・・・だ、だって、それは・・・・・ん・・・・」 言いかけた言葉を切るように、もう一度口付ければ、は僕の胸元をギュっと掴んできた。 そのまま唇を頬に移動して鼻先にもチュっとキスをすると、は相当、恥ずかしいのか涙目で僕を見上げてきた。 その顔が子供みたいで、僕は自然に顔が綻んでしまう。 「僕は・・・・・・が大好きだよ・・・・・・。分かってる?」 「・・・・・・ダン・・・」 僕の言葉に、は小さく頷いてくれた。 ふと見れば胸元に僕とお揃いのネックレスが揺れていて、僕は少し体を離すと、そのネックレスが揺れているあたり、 の鎖骨のとこにも軽く口付ける。 「キャ・・・ダン、あの・・・」 「心配かけた罰として、今日はいっぱいキスさせてもらうからね」 「え・・・そんな・・・」 僕がちょっと笑いながら言った言葉で耳まで赤くなったは慌てたように僕の腕から逃げ出そうとする。 その時、ドアがけたたましくノックをされ、二人でビクっとなった。 「ダ~~~~ン~~~~!!が行方不明ってほんとぉ~~?!」 返事も待たず、いきなりドアを開けて大きな声で叫んだのは、僕の親友・・・・・・・・・・.いや悪友でおバカなルパートだった。 「うわ!お、お取り込み中のとこ失礼しましたぁ!!」 「は?」 「・・・・・・っっ」 ルパートは入って来た瞬間、僕とが抱きあってるのを見て顔を真っ赤にすると、そう叫んでトレーラーから飛び出していく。 それには僕も何だか嫌な予感がして慌ててを離すと、外へと飛び出した。 「お、おいルパー・・・・・・」 「お~い、ダンが自分のトレーラーでいけない事してるよぉ~~?!」 「げ・・・!!!バ・・・バカ!おい、ルパート・・・!!!」 「ぐぇ・・・・・・っっ!」 大雨の中、片づけをしているスタッフ達に、そう叫びながら逃げていくルパートを追いかけ、 僕が彼の尻に飛び蹴りしたのは言うまでもない・・・・・・ |
Postscript
やっと続きを書けました(苦笑)
いや~やっとトムへ宣言したので彼の心配はなくなりましたねぇ~
そろそろ、このロケ編も終わるかな?その後はクライマックスへ突入編(謎)
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】