Chapter.17 クッキーの崩れる音~もしも君が寂しい時には~         Only you can love me...






♪愛情ってゆう形のないもの~伝えるのはいつも困難だね~


だからDarlin......


この"名もなき詩"を君に捧ぐ~




「ねぇ、ダン・・・これって誰の曲?日本の歌っぽいけど・・・」


僕がCDを聴いているとルパートが首を傾げて尋ねてきた。
僕はちょっと笑ってCDのジャケットをポンっと彼の方へ放った。


「この前、家に行った時、に借りたんだ。日本のアーティストだよ」
「へぇ・・・・・・ダンにしちゃ珍しいジャンル聴いてるなぁって思ったんだ。何だ、に借りたんだ」
は、どんな曲が好きなのかなって気になったから聞いたら、このアーティストが好きで、良く日本にいる時は聴いてたって言うから」
「ああ、それで・・・。聴いてみたくなったってわけか」
「まぁね。が歌詞も英語に訳してくれたんだ。結構、詞がいいんだよね」


僕はそう言いながらがワープロで打ってくれた歌詞を見ながら鼻歌で、その曲をハミングした。
僕の好みのジャンルとは違うのに、が好きな曲だと思うだけで、凄くいい曲に思えてくるから不思議なんだけど。


「この"I want to embrace"って曲が、またいいんだ。えっと・・・日本語タイトルだと・・・"ダキシメタイ"・・・?」
「ほーほー♪から日本語まで教えてもらってるんだぁ~♪」
「・・・・・・返せよ」
「およよ!ダンってば照れてんの?!」
「・・・・・・るさいなぁ・・・・・・」


僕はルパートの手からCDジャケットを奪い返すと、それを自分のバッグにしまい携帯を取り出した。
そしてへ、いつものメールを送る。


「なになにぃ~?"撮影が終わって今から帰るよ。明日、がスタジオに来るの楽しみにしてる。お休み、ダン"」
「うぁ!よ、読むなよ!」


背後からヌっと顔を出し、勝手にメールを読み上げるルパートに、僕は慌てて携帯を隠した。
だがルパートはニヤニヤしながら、


「へぇ~ほぉ~v ダンはメールでも優しいんだねぇ~」


なんて言って来て僕は顔が赤くなった。


「ぅるさいなぁ・・・・・・早く帰るぞ?」


僕はバッグを持つと控室をとっとと出て駐車場へと向った。
そこにはマネージャーがいて車で家まで送ってくれるのだ。
ルパートも僕の後から慌てて追いかけて来て、自分のスタッフが待つ車へと走って行く。


「じゃーな、ダン!また明日!」
「ああ。お疲れ!」


僕はルパートに軽く手を振ると車に乗り込み、さっきのメールを送信しておいた。
時計を見れば、夜の11時。
は、もう寝る頃だろうか。
それとも休みだからと夜更かしでもしてるかな。
そんな事を考えるだけで早く会いたくなってしまう。


の両親に交際の許可をもらった日から4日は経っていた。
あれから彼女とは会っていない。
僕としては毎日、見学に来て欲しいくらいなんだけど、は気を遣ってるのか、ロケから戻ったばかりで、すぐに行けないなんて言っていた。
それでもやっと明日、来てくれる事になり、僕は今日一日、かなり浮かれていた。
エマにもルパートにも散々からかわれて最悪でもあったけど、明日にはの顔が見れると思うと腹も立たない。








~~♪~♪~♪


メール着信の音が聞こえて僕はすぐに携帯を開いた。
それはからの返事で、僕はつい笑顔になってメールを開く。


"撮影、お疲れ様!明日の朝、またメールするね?私もスタジオ行くの楽しみに、今夜は早めに寝ます。お休みなさい。"


たった、それだけの文章でも胸が熱くなる。
僕は何度もそれを読み返し、早く明日の朝にならないかなと思った。


流れる窓の外の景色に目を向けながら、夜空を見上げれば丸い月が雲に滲んでいるのが見える。



今、この瞬間、もこの月を見上げてるといいな・・・・・・なんてガラにもない事を思いながら僕はそっと目を閉じた。
















「じゃ、さんお借りします」
「ええ、宜しくね?」


母は笑顔でダンにそう言って私の方にも、「邪魔にならないようにね」と声をかけてくる。
それには、「分かってる」と返事をして、ダンと一緒に車の方へと歩いて行った。


「行ってらっしゃい!」


母は笑顔で手を振っていて私も手を振り返すと、ダンと一緒に車の後ろに乗り込む。
運転席にはロケ先で紹介されたダンのマネージャーフレッドがいて笑顔で振り向いた。


「やあ、ちゃん。久し振り」
「お久し振りです」
「今日も可愛いね」
「・・・・・・っ」
「ちょっとフレッド!余計なこと言わなくていいよ・・・・・・」


ダンはフレッドに文句を言いながら、私の肩を抱き寄せた。
それにはフレッドも苦笑しながら、「はいはい」と言って車を出す。


このマネージャーはロバートとも、いいコンビで、かなり面白い人だった。
ロケ先では2日ほどしかいなくて、彼だけ他の仕事で、すぐにロンドンに戻っていたので、そんなに話した事はないが、
かなり年下のダンにも、よく苛められてるくらい能天気のようだった(!)


「そう言えば・・・・・・今朝はお父さんはいなかったね。仕事?」
「あ、うん。お父さん、このところ出るの早いし帰りは遅いしで忙しいみたい」
「そうなんだ。大変だよね。商社マンだろ?」
「うん、そう。日本にいた頃は、もっと忙しくて毎晩、遅かったから、お母さんも可愛そうだったわ?」
「そっかぁ。うちも、かなり家にはいない方だけどね。両方とも」


僕はそう言ってちょっとの肩を抱き寄せると、耳元に口を近づけた。


「今度・・・・・・僕の両親も紹介するよ」
「・・・・・・ぇ?」
「二人に話したら、是非、会いたいって言ってるしさ」
「え・・・・・・ぇ?ダ、ダンの・・・・・・お父さんと、お母さん・・・・・・?」
「そ。帰って来て、すぐに話したんだ。そしたら最初、驚いてたんだけど、の事は前にも何度か話してた事があったから、
じゃあ是非、今度家に連れて来てって。前に来た時はいつもいなかっただろ?」
「あ、そう・・・・・・ね・・。仕事で・・・・・・」
「うん。だから今度、ちゃんと紹介するね?」


ダンはそう言って私の頬に素早くキスをして優しく微笑んだ。
私は一瞬で顔が赤くなり、尚且つフレッドがバックミラー越しにニヤっと笑ったのに気づき恥ずかしくて俯いてしまった。


「おいおい、ダン。朝から見せ付けてくれるじゃないか」
「うるさいなぁ・・・・・。自分も早く恋人見つけたら?だからロバートと二人、"モテないブラザーズ"なんて言われるんだろ?」
「うわ!そんな事言っちゃう?ダンは日増しに生意気になってくなぁ・・・。あ~昔は可愛かったのに・・・・・・」


ダンのキツイ一言に、フレッドはブツブツ言いながら車を運転している。
それを見ながら二人で目を合わせて、ちょっとだけ微笑み合う。
こんな些細な事でも幸せに感じてしまうから恋って凄いなぁと思った。
好きな人と会えるだけで、こんな風に傍にいるだけで心が満たされてしまう。
ちょっと手を伸ばせば、すぐに触れられる距離にいる事が何より安心する事だった。


少し車を走らせるとスタジオが見えて来た。
今日は魔法使いの大会の撮るようで、それもまた楽しみだ。


車が駐車場へ入った時、ダンが私の手をギュっと握って優しく微笑んでくれた。


















僕がを連れてスタジオ内を歩いていると前からトムが他のキャストと一緒に歩いて来る。


「あれ?とダン」
「やあ、トム」
「こんにちは」


トムは僕とを見ると笑顔で歩いて来た。


「相変わらず仲がいいね、二人は」
「・・・・・・そ、そんな・・・」


トムの言葉には恥ずかしそうに俯いてしまい、僕はちょっとだけ苦笑した。
するとトムが僕の耳元で、


「今日はルシーナが来てるぞ?もう何もしないと思うけど注意はしといてやれよ?」
「うん、分かった」


僕はそう言ってトムの肩をポンっと叩くと、


「じゃ、後で」


と声をかけてと再び歩き出した。
は、まだ何となく恥ずかしそうにしていて、少しだけ僕から離れて歩いている。
それがちょっと寂しくて僕は彼女の手を握り自分の方へ引き寄せた。


「ダ、ダン?」
「離れないでよ」
「でも・・・・・・」
「もうスタッフだって知ってるんだし気にしないでいいよ?」


僕が優しく微笑んでそう言えばの頬がかすかに赤くなる。
そんな彼女に内心、苦笑しながら、前の自分なら、こんな台詞なんてサラっと言えなかったのにな、なんて、ふと思う。
本当に好きな子になら思った事を素直に口に出来るんだから、それが凄く不思議だけど嬉しい事だなとも思った。


そのままを自分の控室まで連れて行くと、中にはすでにルパートとエマが待ち構えていた。


「何してんだよ、人の控室で・・・・・・」
「おっと、お二人さん、おそろいで!」
!いらっしゃい」


ルパートはおどけて、エマは笑顔での元に駆け寄ってきた。


「エマ、メールありがとう。風邪、大丈夫?」
「ええ、少し良くなったわ?」


エマは一昨日から少し風邪気味で自分の撮りを終えると昨日は早々に帰っていたのだ。
にはメールで知らせていたらしい。


「今日は上手く行けば夕方には終わるって事だから頑張らないとねぇ~ダンのためにも♪」
「な、何だよ、エマ・・・・・・」


ニヤニヤしながら僕の事を肘で突付いてくるエマを軽く睨めば、更にルパートまでがニヤケ顔で、


「だって早く終われば二人でデート出来るだろ?」


と言って来る。
それには僕も笑ってしまった。


「ああ、そういう事ね。じゃあ、お言葉に甘えて二人にはNGを出さないようにしてもらわないと」
「うぁ、出たよ・・・・・・。自分がちょっとNG少ないからってさぁ」
「ほーんと。ま、でもに免じて許してあげるわ?早く終らせて二人で出かけなさいよ」
「エ、エマ・・・・っ」


は二人の言葉に恥ずかしそうにして、エマの服を引っ張っている。
そんな姿さえ可愛くて僕は顔が緩むのを抑えられなくて、そのままの手を取った。


「もし早く終われば・・・・・・帰り、どっか行こうか」
「・・・・・・え?で、でも・・・ダン疲れてるでしょ?撮影後なのに・・・」
「そんなのと一緒だったら全然平気だって。ね?そうしよう?普段、そんなに一緒に出かけられなかったんだし」


僕がそう言うとはやっと顔をあげて小さく頷いてくれた。


「よし、決まり。じゃ、どこに行きたいか考えておいてね?」


の頬に素早くキスをして、そう言えば彼女はまたしても真っ赤になってサっと離れてしまった。
それには寂しくなったが、二人が目の前にいるのだから仕方がない。
現にエマとルパートは僕らを見て呆れたように肩を竦めている。


「けーやってられないねっ!相変わらずデレデレかよ」
「ほーんと。ダンってばと一緒にいる時といない時とじゃ最近、態度も機嫌も違いすぎよねぇ?」
「・・・うるさいなぁ・・・。さっさと衣装に着替えてきたら?もうすぐ始まるぞ?」


僕が二人を睨みつつ、そう言えば、


「あ、そうだった!」
「早く着替えないとっ」


と言いながら慌てて自分たちの控室へ戻って行った。
それを見送りドアを閉めると、軽く息をついての方を見る。


「はぁ、やっと二人きりになれた」
「・・・・・・っ」


そう言って恥ずかしそうにしているを抱き寄せ、額にチュっとキスをする。


「じゃ、僕も着替えちゃうから、ソファに座って待ってて?」
「う、うん・・・・・・」


あ~あ・・・真っ赤になっちゃって。
ほんと可愛いんだから。


赤くなった頬を手で抑えながら、ソファにチョコンと座るを見ながら僕はちょっとだけ笑うとハリーの衣装を着るべく、
カーテンに仕切られた部屋へと入って行った。
そこには自分の衣装がかけてあり、小道具も一緒に置いてある。
素早く衣装に着替え、丸い眼鏡をかけると、すぐにカーテンを開けての方に歩いて行った。


「お待たせ」


そう言っての隣に座ると、彼女は見ていた雑誌から顔を上げて可愛く微笑んでくれる。
そんなに素早く口付けると、彼女は驚いたようにパっと僕から離れてしまい、それには驚いてすぐに腕を引き寄せ抱きしめる。


「何で離れちゃうの・・・?」
「だ、だって・・・・・・」
「ん?」


更に顔を覗き込むように首を傾げれば、は恥ずかしそうな顔でチラっと僕の事を見る。
そして目を伏せて、


「だって・・・ダン、今はハリーの格好だから、ちょっと変な感じで照れくさい・・・」
「え・・・?でも・・・ロケの時だって着てただろ・・・?」


彼女の言葉に驚きながら、そう尋ねればは俯いたまま、


「でも眼鏡・・・いつもは外してたでしょ?」


と呟いた。


その言葉に、ああ、そうか・・・と思い出す。
確かにロケ中、と一緒にいる時は衣装の時でも眼鏡を外していた。
それはキスするのに邪魔だからだったんだけど・・・・・・(!)
今は確かに、すぐ出番だと思っていたので眼鏡をかけたままだった。
でも、たったそれだけで違うのかな・・・


「そんなに・・・違う?眼鏡かけると」


素朴な疑問を、そのまま口にすると、はやっと顔を上げてくれた。


「違うって言うか・・・雰囲気は結構変わるよ・・・?」
「そうかな?」


僕はそう言って苦笑すると、も照れくさそうに微笑んでくれる。
だから、そのまま顔を近づけ、そっと唇を塞いだ。
そして、ゆっくり唇を離せば、いつも以上に真っ赤になったと目が合う。


「今日は普段よりも赤いね?」
「・・・だ・・・だって・・・」
「だって・・・何?」
「・・・・・・」


僕が尋ねると、は恥ずかしそうに俯いて、小さな声で


"だってハリーにキスされてるみたいだから・・・・・・"


と呟いた。
それには僕もちょっとだけ顔が赤くなってしまう。
その時、突然ドアをノックされ、ドキっとして顔を上げた。
するとドアの向こうで、


「そろそろ始まるんでスタジオに来て下さい」


とスタッフの声がする。


「あ~行かなくちゃ・・・・・・」
「うん・・・。が、頑張って・・・」


が赤い顔を上げて微笑んだ。
僕も笑顔で頷くと、もう一度だけチュっと唇にキスをしてソファから立ち上がり、制服のネクタイを絞めなおす。
そしての手を引っ張って立たせた。


もスタジオに来て見学してて?」
「うん」
「あ、でも・・・ルシーナもいるんだ。もし彼女が何か言ってきたら、すぐに教えてね?」
「大丈夫よ?もう気にしないし・・・」
「でも心配だからさ。ね?何かされたら、すぐ僕に言って?」
「・・・・・・わ、分かった」


は少し不安げに頷くと、僕の手をギュっと握ってくれる。
それだけで僕は嬉しくなった。


「じゃ、行こう」
「うん」



そう言って僕はと一緒にスタジオへと向った。










(はぁ・・・顔が熱い・・・)


私は撮影を見ながら、そっと頬に手を添えた。
先ほどのキスの余韻が唇に残っていて更に顔を熱くしていく。
そろそろ慣れてもいいはずなのに、ダンにキスをされるたび、やっぱり心臓が跳ね上がったようになって息苦しくなってしまう。
しかも普段でも恥ずかしいのに、ハリーの格好で抱きしめられたりしたら、妙に恥ずかしいのは何でなんだろう。


そんな事を思いながら出してもらった紅茶を口に運び、監督と打ち合わせをしながらリハーサルをしているダンを見ていた。
セットはホグワーツそのもので、それだけ見ていてもドキドキしてくる。
制服の衣装を着たエキストラも何人もいて、皆で動きを確認していた。
そこに人の気配がして、ふと顔を上げると、トムが笑顔で歩いて来た。


「やあ、そこで見学?」
「あ・・・うん」



トムは私の隣の椅子に軽く腰をかけると、


「どう?ダンとは順調?」


と笑顔で聞いてきた。
それには照れくさくて少し俯きながらも小さく頷けばトムは楽しげに笑った。


「だよな?今朝の様子を見ても。ほんと仲がいいよ」
「そ、そう・・・かな?」
「そうだよ。ダンは特に女の子には、あまり興味なかった感じだったしさ。
をロケ先に連れて来たのも意外だったし付き合いだしたって聞いた時も意外だったよ?」


トムは肩を竦めながら、そんな事を言って苦笑している。
だが私はそれを聞いて何となく嬉しくなった。


「ほんとにだけは優しいもんなぁ、ダンの奴」
「そ、そんな事は・・・・・」
「あるって。ルパートとかの扱い見てれば分かるだろ?」
「あれはジャレてるだけだと思うけど・・・・・・」
「まあ、それもあるけどさ。あ、でも他の女の子への態度とか見てれば分かるよ。ダンって結構、女の子にクールって言うか冷たいから」
「嘘・・・そんな風には・・・」
「ほんとだって。ルシーナへの態度も凄い冷たいだろ?あとさ、あのエキストラの子達?」


トムはそう言ってリハをくり返している皆の方を指さした。


「あの中にもダン目当ての子って、結構いるんだ。でもダンは話しかけられても軽くあしらうだけで誰とも仲良くなったりとかないしさ」
「そ、そう・・・なの・・・・・・?」
「うん。中には凄く可愛い子とかいるのにさあ。もったいないなぁって、よく思ってたんだよね?」


トムは笑いながら、そう言うと、私の事を見た。


「ま、今のダンにとったら、この世の中でだけが女の子だとでも思ってんじゃない?」
「え?」
「それだけベタ惚れってこと。他の子なんて見る余裕もないくらいにさ」
「そんな事は・・・・・・」
「ほら」
「?」
「現に今だって、こっち気にしながら怖い顔してる」
「・・・・・・っ」


トムにそう言われて、ダンに視線を戻せば、確かにチラチラとこっちを見てブスっとした顔をしている。
だが台詞を言わなくてはいけないので、すぐにハリーの顔に戻して、きちんと演じていた。


「きっと内心じゃ俺がと話してるの見て気が気じゃないと思うよ?俺、前科あるしさ」
「ぜ、前科って・・・・・・」
「ま、ダンも分かってるとは思うけど、他の男と話して欲しくないとは思ってるだろうね」


トムはちょっと肩を竦めながら、そう言うと、


「焼きもち焼きの彼氏は大変だろうけど仲良くね?ダンもモテるんだから心配も増えると思うけどさ」


と言って私の頭を優しく撫でてくれた。
それには顔も赤くなるが、確かにダンは凄くモテるんだろうなぁと不安を感じる。
そんな私に気づいたのか、トムは慌てて、


「あ、でもダンは一筋だからさ。大丈夫だよ、全然!」


と言ってくれる。
それはトムの優しさなんだと気づき、ちょっと笑顔になった。


「うん・・・・・・ありがとう」
「い、いや・・・・・・別にお礼なんていいよ」


トムは照れくさそうに頭をかくと、視線を外している。
そこへ、


「随分と楽しそうね?トム」


と声がして二人で慌てて振り返った。



「何だよ、ルシーナ」


そこには、あのルシーナが怖い顔で立っている。
私は少しドキっとして視線を外した。


「あなたもダンと付き合ってるクセに、トムにまで愛想振っちゃっていいわけ?」
「え?あ、あの・・・・・・」
「おい、ルシーナ・・・・。そんなんじゃないって。俺が勝手に話しかけてるんだよ」


トムは顔を顰めて椅子から立ち上がると、ルシーナの腕を掴んだ。
だがルシーナは、その腕を振り払うと、


「あ、そう。じゃあトムが本気になっちゃったわけ?この子のどこが、そんなにいいのよ」


と怖い顔で私の事を睨んできた。
その目は本当に敵意が剥き出しで、一瞬、学校でイジメられていた時の事を思い出し怖くなる。
人から、こんなにハッキリと悪意をぶつけられるのは、やっぱり辛い事だった。


「おい、ルシーナ・・・・・・いい加減にしろよ・・・」
「何よ。この子のせいで私はダンに嫌われたのよ?」
「違うだろ?自分が悪いんじゃないか」
「何よ・・・。トムまで、この子の味方なわけ?」
「味方って・・・ちょ・・・こっち来いよ・・・。 ――あ、、じゃあ、またね?」


トムは私に声をかけ、ルシーナの腕を引っ張ってスタジオから出て行ってしまった。
それを見送りながら少し気分も暗くなり軽く息をついていると、カット!という声が響き、見れば本番が終わったようだ。
ダンがエマやルパートに声をかけてから、こっちに走ってくるのが見えて、私はすぐに顔を笑顔に戻す。


・・・お待たせ」
「お疲れ様。すぐOK出てたね?」
「うん、まあ・・・。あれ?トムとルシーナは?」


ダンはそう言ってキョロキョロしている。
やはり見ていたのか、心配そうな顔で、


「何か言われた?」


と聞いてきた。
その言葉に私は笑顔で首を振った。


「ううん。別に何も。二人はスタジオ出て行ったよ?」
「そっか・・・。いや・・・3人で話してるの見えたから心配でさ・・・」


ダンはそう言うと私の手をギュっと握ってくれた。
彼の顔は本当に心配そうで、その顔を見て胸が痛くなる。


「大丈夫よ?ちょっと話してただけ」
「そう?なら・・・いいけど・・・・・・」



ダンはそう言って、やっと笑顔を見せてくれると、素早く頬にキスをしてきた。


「ダ、ダン・・・っ」


誰かに見られたんじゃないかと周りをキョロキョロ見渡せば、ニヤニヤ顔のスタッフ達が私とダンの前を足早に通り過ぎていく。
それを見ながらダンは苦笑した。


「今度は唇にしようと思ったんだけど・・・そんな真っ赤になられると出来ないよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・っ」


(こっこんな皆がいる場所で唇にはしないで・・・・・・・・・・・・・・・っ)



ダンの言葉に更に顔が熱くなり、私は俯いたまま思い切り首を振る。
それを見てダンはちょっと笑うと、私の腕を引き寄せ、


「じゃあ・・・・・抱きしめるだけ。それならいい?」


と聞いてきた。
それにもぶんぶんと首を振ると、ダンが溜息をつくのが分かり、そっと顔を上げた。
すると少し口を尖らせスネたような顔をしているダンと目が合う。


「そんなに首振られると、ちょっとショックだな・・・」
「だ、だって・・・・・・っ」
「もうすぐ撮影再開なんだけど・・・その前にパワー補給したいんだよなぁ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・っ」


ダンはちょっと目を細めて意地悪な事を言ってくる。
それには私も困ってしまった。
すると、いきなりダンが、ぷっと噴出し笑い出した。


「うそうそ!ごめんね?ちょっと意地悪したくなっちゃってさ」
「ダン・・・・?」


私が驚いて彼を見つめれば、それでもダンは少しだけスネた顔をする。


「でもだって意地悪だろ?」
「そ、そんな事は・・・・・・・・・・」
「じゃあ抱きしめていい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ダメ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」


(そ、そんなこと聞かないで・・・・・・・・・・・・・・・っ)


ついに耳まで赤くなってしまい、再び俯けば、ダンが立ち上がる気配がして慌てて顔を上げた。


「もういいよ・・・。このまま行くから・・・」
「あ、あのダン・・・んっ」


少し悲しげに呟くダンに、私も慌てて立ち上がれば、いきなり抱きしめられて唇を塞がれた。
一瞬の出来事で体が固まり、ダンの熱い唇の感触に胸がドクンと音を立てる。
ゆっくり唇が離れたと同時にコツンと触れるダンの額。
至近距離で、大きな青い瞳に見つめられると目が離せなくなる。


「あ、あの・・・・・・」
「不意打ちしちゃったよ・・・。があんまり拒否するから」
「だ、だって・・・」
「大丈夫だよ?スタッフは次のセットの準備でいないから」
「え・・・?」


ダンの言葉に慌てて周りを見渡せば、確かに先ほどまで忙しく動いてたスタッフが一人もいなくなっている。
いや、セットの中には数人のスタッフはいるが、スタジオの端にいる私達の方を見てる余裕もないほどに忙しそうだ。
それに気づいた私にダンがニコっと微笑み、


「安心した・・・?」


と聞いてきた。
それには私の頬も自然と膨らんでしまう。


「もう・・・・・・ダンの意地悪・・・・・・」
「・・・あはは・・・っ」


私が口を尖らせ、そう呟けばダンは楽しそうに笑って、もう一度頬にチュっとキスをした。


「ほんとは可愛い・・・」

「・・・・・・っっ」




優しい笑顔で、そう呟くダンの言葉に、私はまたしても顔を赤くさせられてしまった。







一方、そんな二人をセットの隅から、こっそり見物(!)している影二つ・・・・・・









「なぁ・・・・・・ダンって何気にをいじめて楽しんでない?」


ルパートが二人から目を離さないまま、そう言えばエマもエマで苦笑しつつ頷いた。


「ほーんとねぇ。でも、あれって意地悪って言うより、ダンが単にスネてるだけじゃない?」
「あ~そうかもね。に拒まれてスネてるだけかも」
「全く・・・・・・ほんと男って子供よねぇ?キスしたいんなら控室に戻って思う存分しちゃえばいいのに・・・(!)」
「だな~?、可愛そう~っ。見てよ、あれ。真っ赤になっちゃって茹蛸みたいになっちゃったよ」


ルパートはダンに抱きしめられ、どんどん赤くなっていくを見て、そう言うと、


「でも・・・ほんとって女の子~って感じで可愛いよなぁ・・・・。あんな照れちゃったらダンじゃなくてもいじめたくなっちゃうかも・・・・」


なんて事を呟いている。
それにはエマも苦笑した。


「あのねぇ・・・・・・。ルパートは関係ないでしょ?間違っても、そんなことダンの前で言わない方がいいわよ?」
「わ、分かってるよ・・・・・・。僕だってまだ死にたくはないからねっ(!)」


ルパートはそう言って怯えたような顔で肩を竦める。



それでも羨ましそうにを抱きしめているダンを指を咥えて(!)見ていた。












「はぁ~疲れた・・・・・・」
「お疲れ様」


僕が軽い溜息をつけばが笑顔でそう言ってくれる。
それだけで、こんな疲れも一気に吹き飛んでしまう。
隣に座ったを抱き寄せ、頭に頬を寄せると、今度は彼女も素直に体を預けてくれる。
それは今、控室で二人きりだからだろう。


「ごめんね・・・。予定より遅くなっちゃって出かけられなくなったね・・・・・・」
「いいの・・・。仕方ないよ」


僕の腕の中で小さく首を振るをギュっと抱きしめた。


今日は午後の撮りで手間取ってしまった。
と言うのも僕ではなくエキストラの子や他のキャストのNGが何故か多かったからだ。
一人が台詞を噛めば他にも伝染するかのように次々とNGを出し、結局、夕方の6時には終わる予定だったのが、8時までかかってしまった。
これではと出かけるというわけには行かない。
ちゃんとを家まで送り届けるので精一杯だ。
はぁ・・・ほんとならと二人で行きたい場所があったんだけどな・・・・・・


そんな事を思いつつの頭にそっと口付ける。


「ね、
「え?」
「今週末さ。二日ほどオフになったんだ。だから・・・二人で出かけない・・・・・・?」
「ダン・・・・・・」


少しだけ体を離し、の顔を覗き込めば驚いたような瞳と目が合う。


「・・・・・・ほんと?」
「うん。さっきフレッドから聞いたんだ。最近、撮影ビッチリで休んでなかったし学校の宿題もやらないといけないだろって」
「え?でもダン、宿題はもう済ませたんじゃ・・・・・・」
「そうなんだけど・・・・・・それフレッドには言ってないんだよね?」
「え、言ってないって・・・・・・」
「だって撮影がオフになるのは学校の宿題でしかないからさ?そこは、ちょっと嘘をついておいたんだ」


そう言ってペロっと舌を出せば、もキョトンとした顔をしたが、すぐにぷっと噴出した。


「ダンってば・・・・・・」
「だって、このまま撮影だけで夏休み終わったら悲しいし・・・・・・。やっぱりと二人でデートとかしたいし・・・さ・・・」
「・・・ダン・・・」
「僕の仕事のせいでに寂しい思いばかりさせたくないんだ」
「・・・・・・そんな・・・そんな事ないよ・・・?」


僕の言葉にはへニャっと眉を下げて、ふるふると首を振った。
それだけで彼女が我慢してくれてるんだと分かる。
いつだって会えない時にくるメールは普段よりも元気そうな文章だし、僕に心配かけないようにしてくれてるって事も気づいていた。
その度に夜中だろうと、今すぐ会いに行って抱きしめたいと何度思った事か・・・。
だから僕なりに忙しくてもとの時間をちゃんと大切にしたいと思っていた。



・・・僕とデートしてくれる?」


悲しそうな顔をしているに、おどけてそう聞けば、やっと少し笑顔を見せてくれる。
そして恥ずかしそうに頷いた。
僕はもう一度ギュっとを抱きしめて額に軽く口付けながら、


「じゃあ・・・約束ね」


と言って頬にもチュっとキスをした。
は少し顔を赤くしながらも笑顔で頷き、


「約束・・・」


と呟く。


その返事を聞いてから、少し屈むとの唇へとキスを落とした。



















私は家が近くなってくると少し寂しくなって繋いでいたダンの手をギュっと握ってしまった。
それにはダンも優しく微笑んでくれる。


今はスタジオからの帰り。
車で送ってもらったのだが、近くの公園で下ろしてもらい、少しダンと散歩をしながら帰って来たところだ。
いつもの様に手を繋ぎながら歩いていたが、家も近くなると足取りも重くなる。
互いに、まだ、もう少し一緒にいたいとでも言うように・・・


それでも家の門の前についてしまい、私はそっとダンの方を見上げた。
するとダンも寂しそうに、それでも笑顔を見せてくれる。


「ご両親に挨拶しようか?」
「ううん。今日は遅くなっちゃったし、また引きとめられたら困るでしょ?」
「そう?じゃあ・・・宜しく言っておいて?」
「うん」


ダンの言葉に笑顔で頷けば、彼も優しい笑顔をくれる。
そして少しだけ目を伏せると、


「明日も・・・・・・来ない?」


と聞いてきた。
その言葉に私はドキっとしながら俯いた。


「でも・・・毎日、行ったら迷惑だよ・・・」
「そんな事ないよ?フレッドだって、さっき明日もおいでって言ってただろ?」
「だけど・・・・・・」


私が困って上目遣いでダンを見れば少しスネたような瞳と目があった。


「もう・・・・・・は僕の傍にいたくないの?」
「・・・・・・ぇ?」
「僕は毎日でもと会いたいし、傍にいたいのに・・・・・・」
「・・・・・・」


そんなストレートに言われると凄く恥ずかしい・・・・・・


その気持ちが、そのまま顔に表れたのか、ダンが私の頬に手を添えて、


「また赤くなっちゃったよ」


とクスっと笑った。
それにさえ顔が熱くなってしまう。


「だ、だってダンが・・・・・・」
「僕は素直な気持ちを言っただけだよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」


そこで黙れば、ダンもクスクス笑っている。
そして、そっと私を抱き寄せてくれた。


「ごめん・・・・・・。そんな困った顔しないでよ」
「こ、困ってるわけじゃなくて・・・・・・」
「ああ・・・・・・恥ずかしい?」
「・・・・・・・・・・ぅ、ぅん・・・」


そこは素直に頷くとダンは眉を下げて顔を綻ばせた。


「そういうとこも好きなんだ・・・・・・って、こういうこと言うから真っ赤になっちゃうんだよね」
「・・・・・・」


その言葉に俯けば、ダンはそっと私の顎を持って顔を上にあげさせた。


「好きだよ、・・・・・・」



ダンは優しい瞳で、そう言うとゆっくりと唇を重ねた。
それから耳元に口を近づける。



が寂しい時には・・・・・・僕が傍に行くから・・・・・・」



そう言って、もう一度唇を重ねた。



私はそれだけで胸が一杯になって目の奥が熱くなる。



涙が出そうになるのを堪えながら、ダンのシャツをギュっと掴んだ。






















「ただいま・・・・・っ」



ダンと別れて家に帰って来た私は寂しいのを堪えて、いつも通り元気よくリビングへと入った。
すると父と母の二人がハっとした様子で顔を上げる。


「あ、ああ、お帰り、
「お帰り。スタジオ見学は楽しかったか?」
「う、うん、まあ・・・・・・。でも、お父さん今日早いね?」


私は最近、夜中まで帰って来ない父が家にいるのに驚いた。
だが父と母は顔を見合わせ、何となく気まずい空気が流れる。


「まあ、今日はちょっとな。それより、お腹空いただろう?夕飯にするから着替えておいで」
「?・・・・・・ぅん」


ぎこちない父の笑顔に私は首を傾げつつ、そのままリビングを出て自分の部屋へと戻った。


何だろ・・・・・・
仕事で何かあったのかなぁ・・・・・・


私はちょっと元気のない父が心配になりつつ、着ていたキャミソールを脱いで部屋着に着替えた。
その時、携帯メールの着信音が鳴り、すぐに手に取れば、それはダンからで自然に顔も笑顔になる。


"今日は会えて凄く嬉しかった。さっきも言ったけど出来れば明日も来て欲しいな。もし来るようなら朝にでもメールして。
じゃあ、お休み。大好きだよ。ダン"


「ダン・・・・・・」


嬉しくて思わず携帯をギュっと胸に押し付けた。
ふわふわした感じのままベッドにダイヴして、もう一度メールを読み返す。


「私も大好き・・・・・・」


面と向って言えない言葉を呟き、すぐに"お休み"と返信用のメッセージを送る。
そして明日の事を考えた。


どうしよう・・・・・・
明日も・・・・・・行っちゃおうかなぁ・・・・・・
ダンも仕事してるんだから・・・・・・と思って毎日行くのに躊躇っていたけど・・・
やっぱり一緒にいれる時間があるのに会わないっていうのも寂しい・・・。


「はぁ・・・どうしよう・・・・・・」


そう思いながらも自然と顔が綻んできてしまう。
そしてハっと体を起こした。


「いけない・・・ご飯食べないと・・・っ」


そう思いながら、急いで下に行ってダイニングへと顔を出す。
すると、すでにテーブルには父もいて食事の用意がされていた。


「ほら早く椅子に座りなさい」
「うん」


やっぱり元気ないなぁ、お父さん・・・
どうしたんだろう。
いつもだったら、ハリーの撮影のこと聞きたがるクセに今日は何も聞いてこない。


そんな事を思いつつ自分の椅子に座ると、母が最後の料理を運んできて椅子に座った。
3人揃ったところで、食べようと、まずスープを飲むのに私はスプーンを持ち、


「いただきます」


と言った、その時。



、食べる前に・・・話があるんだ・・・」


と父が言い出し、私は手を止めた。


「・・・何?」


いつもと違う父の真剣な顔に私も、ただならぬ気配を感じ、顔を向ける。
父は何となく私から視線を反らしている気がした。
だが、その表情は前にも一度見た事がある気がする。
そう・・・イギリスに来る前、まだ日本にいた頃に―――



ぼんやりと、その時の事を思い出していると、父が私の顔を見つめ、静かに口を開いた。










父の話は短かった。






一言、二言・・・・・・それくらいだったか。







だが聞き終わったと同時に私の手からスプーンが落ちる。









それはカシャン・・・っと高い音を立てたが、その時の私には、そんな音さえ凄く遠くから聞こえてきたような気がした―――



















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Postscript


だんだん怪しい影が・・・^^;
さてヒロインに一体、何がぁ~・・・


本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...


【C-MOON...管理人:HANAZO】