―― も う 二 度 と 会 え な い ん だ ね 会 わ な い ん だ よ ね ?
答 え は 分 か っ て る
"さ よ な ら"
瞬 き も し な い う ち に 涙 が 零 れ て い く
も う 少 し ね ぇ も う 少 し
君 の 傍 に い さ せ て よ ―――
Chapter.20 思い出すは、あの日の雨…③ Only you can love me...
チャイムが鳴り響いて先生が教室を出て行くと、皆は一斉に立ち始め教室を飛び出していく。 放課後のクラブに行く人、真っ直ぐ帰る人、友達同志で寄り道して行こうと話してる人。 それぞれが学校が終ったのを喜びつつ、教室を出て行く。 私はそれを見ながら、ゆっくりと机の中のノートや教科書を鞄に入れていった。 すると目の前に誰かが立った気配がして顔を上げると、そこには転校する前に憧れていた男の子が立っている。 「悠木くん・・・」 「まだ・・・帰らないの?」 「あ・・・今、帰る」 「そっか・・・」 悠木くんは、そう言うと少しだけ視線を反らして肩から下げている大きなスポーツバッグを抱えなおした。 彼はサッカー部に所属していて、今、思えばどことなくロンドンで同じクラスだったチャーリーを思い出させる。 ふと周りを見渡せば教室に残ってる生徒は私と悠木くんの二人だけ。 私は道具を全て鞄に入れ終わると椅子から立ち上がった。 「あの・・・悠木くんは帰らないの? あ、部活?」 「あ、いや・・・部活はテスト期間中ないし・・・」 「ああ、そうね。えっとじゃあ・・・・・・」 何故、彼が話し掛けてきたのかも分からず、首を傾げると、悠木くんは照れくさそうに頭をかいた。 「あの・・・さ。途中まで方向同じだろ? 一緒に・・・・・・帰らない?」 「え・・・?」 いきなり、そんな事を言われて驚いた。 だが確かに家の方向は同じだし断る理由もない。 「うん。じゃあ・・・帰ろうか」 私がそう言って歩き出すと、悠木くんも慌てて後を追いかけて来た。 二人で廊下を歩いて行くと、向かいから二年生の男の子二人が走ってくる。 彼らもサッカー部で悠木くんの後輩たちだ。 「ああ、悠木先輩、帰るんすかー?」 「ああ、まーな」 「可愛い人っすねー!彼女さんですか?」 「バ、バカ!そんなんじゃねーよっ」 「あはは!照れちゃって!まー頑張って下さいね~!」 「うるせー!」 悠木くんは本気で照れてるのか顔を赤くして走って逃げていく後輩たちに怒鳴っている。 前の私なら今みたいにからかわれたら、きっと真っ赤になってたかもしれない。 でも今の私は、このノリが懐かしく感じて、ちょっとだけ微笑む余裕すらあった。 「ご、ごめんな? あいつらバカでさ・・・」 「ううん。気にしてない」 赤い顔のまま、そう言ってくる悠木くんに軽く首を振って、私は下駄箱の方に歩いて行った。 靴を履き替えて外に出れば、朝から降っていた雨は上がっていたが、空は真っ黒な雲に覆われている。 「うわー何だか、また降り出しそうだな・・・」 「そうね・・・。でも雨は好きかな」 「へー変わってるな? やっぱロンドン住んでると雨とか多かった?」 「・・・・・・そう・・・だね。朝、晴れてても午後にはいきなり雨ってこともよくあったし・・・・・・」 「そっかー。俺なら絶対、一週間で日本に帰りたくなるなー」 「私も・・・最初はそうだったよ?」 「そうなんだ。でも慣れた?」 「うん。それに・・・・・・」 「それに・・・・・・?」 「・・・・・・何でもない」 「何だ、それ」 言葉を濁した私の頭を悠木くんは笑いながら小突いてきた。 私は笑って誤魔化しながら自分より身長の高い彼をそっと見上げる。 夏もサッカー漬けの生活だったのか、奇麗に日焼けしている彼の横顔を見ながら内心、不思議な気持ちだった。 悠木くんと、こうして一緒に帰るなんて・・・前の私なら絶対に緊張して、 こんな風に気軽に笑いあえたりできなかっただろうな・・・ 憧れと好きという感情が違うなんて、あの頃は思った事がなかった。 そんな事を考えていると悠木くんが不意に私を見た。 「と・・・こうして二人で、ゆっくり話すのって・・・初めてだよな・・・」 「そう・・・ね。同じクラスになったと思ったら私、転校しちゃったし」 「あの時は驚いたよ。やっと話せるようになったと思ったら転校しちゃうしさ」 「・・・・・・え?」 彼のその言葉に微妙な違和感を感じ、顔を上げれば、悠木くんは照れくさそうに視線を反らす。 「・・・ロンドンに言って・・・少し雰囲気が変わったよな・・・?」 「そ、そう・・・かな・・・」 「うん。なんつーか・・・・こう・・・大人っぽくなったって言うかさ・・・。クラスの女子とはちょっと違う雰囲気出てるかな」 「そんな事は・・・」 「いや・・・って前はもっと明るかったろ? 皆でバカやって笑ったりさ・・・」 「・・・・・・そうだったっけ・・・」 「でも今は・・・うーん・・・上手く言えないけど・・・・・・。妙に大人びて見えて・・・それに、あまり笑わなくなったしさ」 「・・・・・・そう? 自分では・・・よく分からないけど・・・」 ちょっとドキっとして俯いて、そう呟くと、悠木くんが突然、立ち止まった。 驚いて足を止め、振り返れば、彼は何か言いたそうにしている。 「ど、どうしたの?」 首を傾げ、問い掛けると、悠木くんは思い切ったように口を開いた。 「向こうで・・・・・・何かあった・・・とか?」 「え?」 「いや・・・。この前、アヤとカオリが、そんなこと言ってたから・・・」 「な、何て・・・?」 「だから・・・はロンドンで好きな奴がいたらしいって・・・・・・」 「・・・・・・・・・っ」 「やっぱ・・・・・・ほんとなのか・・・?」 「ど、どうして・・・そんなこと聞くの・・・?」 「い、いや、どうしてって・・・・・・」 悠木くんは困ったように頭をかきながら視線を反らした。 その時、ぽつっと頬に冷たい雫があたり、二人して空を見上げると、どんよりした空から雨粒が落ちてくる。 「あ~やっぱ降ってきたな・・・」 彼がそう呟いた時、ザァァァっという音と共に雨が降りだして来た。 それは、あの日と同じ激しい雨―― ダンと別れて、私は一人、雨の中を歩いていた。 空から容赦なく降ってくる雨で、どんどん体温が奪われていく。 だけど寒さなんて感じなかった。 雨水を含み、ワンピースも髪も靴さえビショビショで擦れ違う人達が驚いた顔で見て行く事さえ、どうでも良かったのだ。 ダンと時々来ていたケンジントンガーデンズの中を一人、どこに行くでもなく歩きつづける。 辺りは暗く、今何時なのか、ダンと別れてから、どれくらい経ったのかなんて分からないくらいに何も考えられない。 だが自然と足は家の方向に向いていたのか、気づけば公園を抜け、自分の家の門が見えて来た。 帰りたくない・・・・・・ 今、帰れば・・・・・・この気持ちのまま、また母さんや父さんを責めてしまいそうで・・・・・・ だからと言って、この雨の中、どこへ行けばいいんだろう・・・? 私には、もう行く所なんてない・・・ 一番、傍にいて欲しいダンのところにさえ・・・行けなくなってしまった。 そう思うとまた涙が溢れてきた。 自分の頬を濡らしているのが涙なのか、それとも雨なのか、もう分からない。 ただ胸が痛くて、喉の奥が熱くてギュっと唇を噛み締めた。 その時、唇が切れてかすかに血の味が口に広がる。 ダンに会いたい・・・・・・ どうして別れなくちゃいけないの? こんなに好きなのに・・・・・・一緒にいたいのに・・・・・・ どうして"さよなら"って言わなくちゃいけないの・・・? 「ダン・・・・・・」 喉の奥から搾り出すように彼の名前が零れ落ちた。 それすらザァァァっという激しい雨音でかき消されていく。 「・・・・・・・・っっ!!!」 ――――――っ?! 嘘だ・・・・・・。 そんなはずない。 だって"さよなら"してきたんだもの・・・・・・ 今の声が彼の・・・・・・・・・ダンのはずが・・・・・・ない――! そう思いながら、それでも確めたくて、ゆっくりと振り向いた。 「・・・・・・っ!!」 「・・・・・・ダ・・・・・・ダ・・・ン・・・!」 さっきよりも激しく雨が降る中に彼の姿を見つけた。 ダンは傘もささず、雨の中を必死に走ってくる。 私の頭は真っ白で、もう何も考えられなかった。 ダンのこと以外は――― 「ダン・・・!!」 「・・・!」 自分が駆け寄ったのか、分からない。 気づけば私の体はダンの体温に包まれて苦しいくらいに抱きしめられていた。 「ダン・・・・・・どうして・・・・・・」 「勝手に・・・・・・"さよなら"なんて言うなよ・・・」 「・・・・・・・・・っ?」 「僕の気持ちは・・・・・・どうしたらいいんだよ・・・・・・。こんなにも・・・が好きなのに・・・っ」 「ダン・・・・・・」 彼の言葉が胸にすんなりと入り込んで、さっきまでズキズキと痛んでいた傷を埋めていってくれる気がした。 きっと・・・さっき別れた後、必死に私を追いかけて、ここへ来てくれたんだ・・・・・・ ダンの胸に顔を埋めながら、彼の鼓動が響く音を聞いて涙が零れる。 「ごめ・・・・・・ごめん・・・ね・・・・・・」 「・・・謝るなよ・・・・・・」 「・・・・・・ダン・・・」 ダンの胸元をギュっと掴んで小さな声で謝れば、ダンは少しだけ体を離し、両手で私の頬を優しく撫でてくれる。 雨に濡れた髪を手でそっと払いながら額に口付け、私を見つめる彼の瞳は今まで見た事がないくらいに悲しげだった。 「こんなに体が冷えてる・・・・・・家に帰らないと・・・・・・」 ダンはそう言って私の手を引いた。 だが私はその手を慌てて振り払ってしまった。 「・・・・・・?」 「いや・・・帰りたくない・・・っ」 「・・・」 ダンは泣きながら、そう叫んだ私を見て、もう一度優しく抱き寄せてくれた。 「風邪・・・引いちゃうよ・・・」 「いい・・・・・・帰りたく・・・ない・・・・・・」 あんなに決心したはずなのに・・・・・・なんて私は弱いんだろう・・・・・・ こうしてダンの腕の中にいると・・・・・・あんな別れの言葉も夢のように思えてくる。 そう思った時、ダンが私の手を繋ぎ、雨の中を歩いて行こうとする。 「ダ・・・・ダン・・・・どこ行くの・・・・・・?」 「・・・・・・・・・・・・」 家に連れてかれるのかと少しだけ体に力を入れると、ダンは何も言わず振り向いて優しく微笑んだ。 「帰りたく・・・・・・ないんだろ・・・? なら・・・このまま僕と一緒に行こう・・・?」 「ど、どこへ・・・・・・?」 「ん~そうだな・・・。とりあえず、このままじゃ二人して風邪引いちゃうから・・・雨宿りできる場所」 「え・・・? あ・・・」 ダンはそう言うと私の手を引いて駆け出した。 そして先ほど私が歩いて来た公園に入ると屋根つきのベンチを見つけ、そこまで私を引っ張って行く。 「うわービッショリだな・・・」 「う、うん・・・」 ダンが私の額についた髪を手で避けながら微笑んだ。 その笑顔に泣きそうになりながらも私は小さく頷く。 するとダンがジーンズのポケットから携帯を取り出し、私に背を向け誰かに電話をかけだした。 「Hello? あ、僕。うん・・・あのさ・・・ちょっとお願いがあるんだけど・・・・・・」 誰にかけてるんだろう・・・。ルパートかな・・・ 傘を持って来てって頼んでるとか・・・ ダンの背中を見ながら、そんな事を考えていると、不意に彼が私の方を見た。 「・・・うん・・・。頼むよ・・・。じゃあ・・・ケンジントンのパレスゲート近くにいるから。うん、じゃあ・・・」 そこで電話を切って軽く息をつくと、ダンは私の体をそっと抱き寄せた。 「今・・・迎えが来るから・・・」 「え・・・? だ、誰が・・・?」 「マネージャー」 「マ、マネージャーって・・・・・・フレッド・・・?」 「うん、そう。ちょっとフレッドにしか出来ない事、頼んだんだ」 「・・・・・・?」 私が首を傾げると、ダンはニコっと微笑み、チュっと額にキスをした。 「を風邪引かせるわけにはいかないし・・・」 「・・・・・・ダン・・・?」 ダンはそう言うとギュっと私を抱きしめた。 それだけで冷えた体がダンの体温に温められていく。 こんな雨の日だからか、もう公園は誰一人歩いていない。 ザァァァっという雨の音と、ダンの鼓動の音だけが私の耳に響いてくるだけ。 ダンも黙ったまま私を強く抱きしめ、何度も頭に頬を摺り寄せているのが分かり、 このまま時が止まればいいのに、と思った。 それから、どれくらいの時間、そうしていたのか。 暫くすると車のエンジン音が聞こえて来て、近くで停車した。 その音を聞いて、ダンはそっと私を離すと、顔を上げてチュっと頬にキスをしてくれた。 「来たかな・・・」 そう呟いたと同時に、「おい、ダン、そこにいるのかっ?」とフレッドの大きな声が聞こえてきた。 「うん。こっち!!」 「ああ、そこか!大丈夫か?」 声のする方を見れば、フレッドが傘を差しながら走って来た。 そしてダンに持ってきた傘を手渡す。 「ほらよ。あ~二人してびしょ濡れじゃないか・・・。ったく・・・早く車に乗れ」 「うん、サンキュ・・・。 じゃ、行こう、」 「え・・・で、でも・・・」 「いいから。風邪引くよ? 今は僕の言う通りにして」 ダンはそう言って私の手を繋ぐと、フレッドの後から歩き出した。 私も仕方なく言われるがまま彼についていく。 「ほら、タオル。それで少し拭いてから後ろに乗れ」 「でもシート濡れちゃわない?」 「大丈夫!ちゃんとビニールシート敷いておいたから」 「さすがフレッド。準備がいいね」 「当たり前だ。事務所の車に濡れ鼠を乗せるわけには行かないからな」 フレッドはそう言って笑うとエンジンをかけた。 私とダンはタオルで服や顔、髪を素早く拭くと後部座席へと乗り込む。 彼の言った通り、後ろのシートにはビニールシートが敷かれていて、これならビショビショの服でも遠慮なく乗れる。 「乗ったか~? じゃあ出すぞ?」 「うん。あ、急いでくれる? の体、凄く冷たいんだ」 「おう、分かってる。ああ、そこにあるジャケットかけてやれ」 フレッドはそう言うとすぐにアクセルを踏んで大きな通りへと車を走らせる。 私は、どこに行くんだろう? と気になった。 だけどダンが肩からジャケットをかけてくれて、その上からギュっと抱きしめてくれたから何も考えられなくなった。 今は・・・ダンと一緒にいたい・・・・・・ 別れを決めたのに・・・と自分で情けなくなるけど・・・ 追いかけて来てくれたダンの気持ちが嬉しくて・・・・・・別れの時を少しでも先に延ばしたくなった。 本当なら・・・このままダンと二人で、どこかに行ってしまいたいと・・・・・・ 決して叶う事のない願いを胸に私はダンにギュっとしがみついた。 「さ、入って」 僕はそう言って部屋のドアを開けた。 は不安げな顔のまま僕を見て、それから、ゆっくり中へと歩いて行く。 「じゃあ俺はこれで行くけど・・・何かあれば携帯に電話しろ。分かったな?」 「うん。ほんとサンキュ」 「ああ、そんなのは別にいい。まあ・・・別れたくない気持ちは分かるが・・・あまり先走って彼女に変なことだけは――」 「バ・・・バカ言うなよ・・・っ!別に、そんな意味でホテルとってもらったわけじゃ・・・っ」 「はいはい、分かってるよ!とにかく明日まではオフだけど、ちゃんと明後日は撮影に来いよ?」 「分かってるよ」 「それとちゃんのご両親にも連絡入れておけ。もう8時だしな」 「うん・・・分かってる・・・」 「よし。じゃあ、またな?」 「うん。サンキュ。帰り気をつけて」 「おう」 フレッドは軽く頷くと、僕の頭をクシャっと撫でて廊下を歩いて行った。 僕は小さく溜息をつくと部屋の中に入り、ドアを閉める。 ここは撮影スタジオの近くにあるホテルだ。 撮影が長引いたりすると、フレッドとかスタッフの人は、いつも、このホテルを利用する。 さっきフレッドに電話をして、ここに部屋を取ってもらったのだ。 家に帰りたくないというを、あのまま雨の中、連れまわすわけにも行かないからだ。 とりあえず、ここでシャワーを浴びて体を温めてから、彼女が落ち着いた頃、家に送るつもりだった。 「、シャワー入って来て。寒いだろ?」 「え・・・? で、でも・・・ダンだってびしょ濡れ・・・」 「こういう場合は女の子が先。早く入って来て? 風邪引いちゃうから・・・」 「う、うん・・・」 部屋の中で戸惑うを抱き寄せ、頬にキスをすると、僕は彼女をバスルームへと連れて行った。 は恥ずかしそうにしながらも、やはり寒いのか、 「じゃあ・・・すぐ出るから・・・」 と言って中へ入ってくれた。 その間に僕はルームサービスを頼み、とりあえずバスタオルで髪を拭き、雨で濡れた服を脱いだ。 「はぁ・・・フレッドに着替えも頼んでおけば良かった・・・」 それを思い出し、僕はガックリ頭を項垂れつつ、仕方なくバスローブを羽織る。 そして濡れた服はホテルのクリーニングに出す事にした。 「はぁ・・・」 何だか凄く疲れた気がしてソファに座ると、すぐに横になった。 突然のからの別れと、その理由に、未だ頭が混乱している。 まさか・・・こんな事になるなんて・・・・・・ が日本に帰るなんて考えた事もない。 言われてみれば・・・の父親の仕事柄、そんな事は不思議な事でもないのかもしれない。 急に日本からロンドンに来たように、またロンドンから日本へ帰る事だって考えられた。 だけど・・・そんなの想像だってしたことがない。 「Shit...!」 つい、そんな言葉が口から洩れる。 両手で顔を覆い、少しでも落ち着こうと息を吸い込んだ。 なのに胸は苦しくなるばかりで鼓動も異常なほど早く打っている。 こんなに・・・自分が無力だと思った事はない。 いくら僕がの事を大切に思っていても・・・今の自分では何もしてやれないなんて。 これが大人なら・・・きっとを守ってやれる。 どんなことがあったとしても手放したりなんかしない・・・ でも今の僕らは・・・・・・何も出来ず、ただ大人の都合に振り回されるだけの、ちっぽけな存在でしかないんだ・・・。 いくら・・・互いに想い合っていても・・・日本とロンドンでは遠すぎる気がした。 出来れば・・・僕はと別れたくない。 だけど・・・僕はともかくは一人でロンドンまで旅行に来れるはずもない。 何年も会わないままで・・・付き合っていけるんだろうか・・・ いつか・・・・・・距離に負けて・・・・・・別れを切り出してしまうんじゃないか・・・ 彼女が・・・例えば傷ついて泣いていても、抱きしめてやる事すら出来ない。 傍にいて励ましてあげる事も・・・ そのうちも僕のいない生活に慣れて・・・・・・いつか傍にいる男を好きになってしまうかもしれない。 「何で・・・・・・こうなるんだよ・・・・・・」 無力な言葉が口から零れる。 目の奥が熱くなり、涙が溢れてくるのを必死に堪えた。 別れる事が決まってるなら・・・・・・何で僕とを出会わせたんだよ・・・・・・ こんなに好きになってしまった後に・・・別れなくちゃならないなんて―――! 「・・・・・・ダン・・・?」 「――っ」 その声にハっとして慌てて体を起こせば、がバスローブを羽織り、恥ずかしそうに立っている。 洗った髪をアップにして、湯上りだからか、頬が赤みを帯びていてドキっとした。 「あ・・・ちゃんと温まった・・・?」 「うん・・・あの・・・ダンもすぐ入って・・・?」 「うん。あ、濡れた服はクリーニング頼むから、その籠に入れておいて」 「あ・・・分かった・・・」 「じゃあ・・・入ってくるね。ルームサービス頼んで置いたから来たら受け取っておいてくれる?」 「・・・・・・うん」 僕はソファから立ち上がるとの頬に軽くキスをして、そのままバスルームに入った。 鏡を見れば目が赤くて自分が情けなくなる。 (男のクセに泣いてる場合じゃない、か・・・・・・) |
Postscript
ああ・・・悲恋です・・・
残り・・・数話で終りそうな予感・・・^^;
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】