― あ の 頃 の 幸 せ が 永 遠 に 続 く と 固 く 信 じ て た
眠 れ な い 夜 を い く つ も 越 え て
全 て が 思 い 出 に な る よ う に た だ 祈 る だ け
何 で も な か っ た よ う に
君 と 出 会 う 前 の 僕 に 戻 る だ け ―
Chapter.21 思い出すは、あの日の雨…④ Only you can love me...
"何度、出会っても・・・・・・僕はきっと君を好きになる・・・・・・" そう言った自分の言葉が頭の奥で響いている。 君があんまり泣くものだから・・・僕まで泣きたくなって・・・以前よりも細くなってしまった体を強く抱きしめた。 でも気が付けば僕の腕から君が消えていて、残された僕は必死に君を探す・・・ そんな夢を毎晩、見るんだ。 どうしてかな・・・・・・君はもう・・・とっくに僕の傍になんかいないのに。 ピピピピピピピ・・・ピピピピピピピ・・・・・ 「・・・・・・っ?」 突然、聞こえてきた音に僕は驚いて飛び起きた。 見れば部屋の電話が鳴り響いていて、一気に現実に戻される。 いや・・・無意識に隣を見て、そこにがいるか確認しているんだから夢と現実の区別がついていないんだ。 「また夢・・・・・・」 思い切り溜息をついて僕は髪をクシャっとかきあげた。 どうやらソファで横になってテレビを見ているうちにウトウトしてしまったらしい。 そして懲りずに、また同じ夢を見ていたようだ。 まだ彼女を抱きしめた感触が腕に残っていて、そっと自分の手を見る。 何度・・・・・・を失えばいいんだろう。 あの夢を見るたび、あの時と同じ痛みが襲ってきて・・・・・・苦しさまでが再現フィルムのように胸に残る。 そんな目覚めの悪い夢だった。 「はあ・・・・・・電話か・・・」 何故、起きたのか、その原因が分かり、僕はテーブルの上に置きっ放しの携帯を手に取った。 ディスプレイには家の番号が出ていて、それが親からの電話だと分かり、ウンザリする。 本当なら出たくはないが、放っておくとマネージャーのフレッドに何度も電話をして迷惑をかけるということは目に見えている。 僕は仕方なく、通話ボタンを押して電話に出た。 「Hello...」 『ダン? 今どこ?』 少しイライラした口調の声が受話器の向こうから聞こえてきた。 きっと出るのが遅かったからだろう。 そんな声を聞くと僕までイライラしてくる。 「ホテルだよ・・・。母さんこそ・・・何か用?」 『何か用じゃないわよっ。あなた、いつまで、そこにいるつもりなの?』 またそれか・・・ もう何度も同じことで話しているというのに。 僕は少し神経質な母の声に顔を顰めて息をついた。 「前にも言ったろ・・・? 分からないよ・・・」 『分からないって・・・もう撮影だって終ってるんでしょ? 学校だってあるのにいつまでホテル暮らしなんてしてるのっ』 「学校には行ってるよ!ちゃんと勉強だって毎日してる・・・っ。だから少し放っておいてくれない?」 『放っておけなんて!そんなこと出来るわけないでしょ? あなた、まだ15歳なのよ? それに進路の事だって――』 「それは先生や家庭教師の先生とも話してるよ!志望校に受かればいいんだろっ?」 母の甲高い声にイライラして少し大きな声を出してしまった。 今は母さんの声も聞きたくないし、顔だって見たくない。 『受かればいいって・・・今みたいな生活で受かると思ってるの? あなたはまだ学生なのよっ?』 「放っておいてって言ってるだろ? 家に帰ったって母さんにグチャグチャ言われちゃ勉強だって出来ないよっ!」 『・・・・・・っ』 思わず怒鳴ってしまい、受話器の向こうで母が息を呑むのが分かりハっとした。 だけど、今言った事は本心だ。 取り消す気もなかった。 『ダン・・・・まだ・・・怒ってるのね・・・あの子のことで・・・』 「・・・・・・・・・・・・」 『でも仕方ないでしょ? あなたは俳優なんて大変な仕事もしてるし、 その前に未成年で学生なの。そんな女の子一人の事で――』 「もう聞きたくない!」 そう怒鳴って一方的に電話を切ると、僕は携帯を放り投げてしまった。 ガシャっと音がして携帯の電池が外れたが、それすら気にしないでソファに横になる。 カっとなった頭を落ち着かせるのに何度か深呼吸を繰り返すと、少ししたら、だいぶ落ち着いてきた。 疲れた・・・ と離れ離れになってしまってから・・・精神的にも肉体的にも・・・ それでも撮影は待ってくれなくて、そのうち学校も始まって・・・流されるままに毎日を過ごしてきた。 だけど胸の痛みは酷くなる一方で、今は息をするのでさえ苦しい。 ゆっくりと起き上がり、ベッドルームへ行くと目覚ましをセットした。 明日は仕事の前に学校がある。 行きたくないけど行かなければ母に無理やり家に戻されてしまうだろう。 それだけは・・・どうしても嫌だった。 「はぁ・・・」 眠りたくない・・・ 眠れば、またを手放す夢を見てしまうから。 だけど・・・夢の中でもいいから・・・・・・もう一度、彼女を抱きしめたいとも思った。 この部屋で・・・最後の時間を一緒に過ごしたから・・・あんな夢を見るのかな・・・ 今ではいない彼女の気配を部屋の中に探しながら、ふと彼女の泣き顔を思い出し、また胸がズキンと痛んだ・・・ 部屋の中は静かだった。 唯一聞こえるのは窓の外から聞こえる雨の音。 僕とは手を繋ぎながら同じベッドに寝ていた。 だけど、ちっとも眠くならなくて、それに眠ってしまえば明日になってしまうから・・・それが怖くて眠れない。 「ダン・・・起きてるの・・・?」 「うん。も眠くないの?」 「・・・うん」 その声に僕は体を横にしての方を見た。 彼女も同じように体を横にして僕の方を見る。 暗い中で、それでもの少し悲しげな瞳が見えて僕はそっと彼女の額にキスをした。 「明日もオフだし・・・このまま起きてる?」 「・・・・・・そうだね」 僕の言葉にもちょっと微笑んで頷いてくれる。 今の僕と同じ気持ちでいてくれてるんだろうか。 「そう言えば・・・こうして、ゆっくり話すことって今まで、そんなになかったね」 「・・・そう言われてみれば・・・そうかも」 「もっと・・・会う時間があれば・・・」 僕はそこで言葉を切った。 大事な事は失って初めて気づくと言うけど・・・今の僕たちも同じようなものだ・・・ こんな状況になってから初めて気づいた。 もっと・・・こうして二人の時間を持てば良かったって。 忙しくても、もっと会う時間を作れば良かった・・・ それでも・・・が日本に帰ってしまう事には変わりないけど、でも、ついそう思ってしまう。 「ダン・・・? どうしたの?」 僕が急に黙ったからか、は少しだけ不安げな顔を見せる。 だから安心させるように僕は微笑んで少しだけを抱き寄せた。 「もっと・・・こんな風にと一緒の時間を作っておけば良かったって・・・思っただけ」 「ダン・・・」 「今さら、こんなこと言っても仕方ないけどさ・・・」 ちょっと笑って、そう言うとは瞳に涙を溜めて首を振った。 「私は・・・十分楽しかったよ・・・?」 「・・・・・・・・・」 「ダンと出会えて・・・。初めて、こんなに人を好きになれて・・・。ダンと会ってからの時間は・・・ 私にとって凄く凄く大切な時間ばかりだった・・・」 は今にも泣いてしまうんじゃないかと思うほどの、か細い震えた声で、そう言ってくれた。 好きな人から、二人が共有した時間は大切な時間だった、と言われるのは、もの凄く嬉しい事で幸せな事だ。 今まで感じた事もないほどの感情が胸の奥から溢れてくる。 "離 れ た く な い" その想いを伝えるように・・・そっと口付けた。 「何で別れなくちゃいけないの? ねぇ・・・っ」 「おい、エマ・・・」 エマは涙を瞳に浮かべて私の手をギュっと握ってくる。 ルパートはエマを宥めるようにソファから少し腰を浮かせて困ったような顔をした。 夕べ、寝ないでおこうと思ってたのに気づけば二人で朝方には眠ってしまったようだ。 昼近くに部屋のチャイムが鳴るまで私とダンはグッスリと眠り込んでいて、キンコーンという音で一緒に目が覚めた。 尋ねてきたのはエマとルパートで、それには驚いたけど二人はフレッドから事情を聞いて飛んで来てくれたようだ。 エマは動揺していたがルパートは泣きそうな顔のまま話を聞いてくれた。 「何とかなるでしょ? ロンドンと日本でだって二人が別れなくてもいい方法を見つけよう? ね?」 「エマ・・・・・・」 「だって、おかしいじゃない・・・っ。お互いに好きなのに住む場所が離れるからって別れるなんて―」 「エマ!」 「何よ、ルパート!あんたは、このまま二人が別れてもいいっていうの?!」 「そんなこと言ってないだろ? だけど二人だって色々考えて・・・」 「おい、ケンカするなよ・・・。が泣いちゃっただろ?」 「あ・・・」 「ご、ごめんね? ・・・」 「ぅ、ぅぅん・・・ありがとう・・・.エマ・・・ルパートも・・・」 私は自分たちの事で、こんなにも心配してくれる二人の優しさに、堪えていた涙が溢れて来て、 それに気づいたダンが隣に座って頭を撫でてくれた。 エマは私の手を静かに離し、自分の頬に落ちた涙を拭っている。 ルパートも黙り込んでしまって、私はどうしていいのか分からず、隣にいるダンを見た。 するとダンは軽く息をついて顔を上げ、私を見つめてくる。 「僕も・・・色々考えたよ・・・? 今はメールもあるし時々なら電話でだって話せる。 だから・・・別れなくてもいい方法があるって」 「ダ、ダン・・・?」 私はダンの言葉に驚いた。 同時にエマの顔にも笑顔が戻り、私の手を再び握ってくる。 「そ、そうよ・・・。少し我慢すれば自分一人でだって会いにいけるくらいになるじゃない」 「で、でも・・・」 「大丈夫よ!そんな遠距離恋愛だって、二人は絶対に大丈夫!私が保証するわ?」 「そうだよ!僕も保証する!少しくらい離れてたって二人ならきっと大丈夫だよ!」 「あら、何よ、ルパート!さっきは、もうダメだ~みたいな顔してたクセに!」 「バ・・・違うよ!僕は・・・考えてたんだよ!二人がまた会える方法を!」 「どうだか!ほんとルパートってばネガティブなんだから!」 二人は何故か、いつもの言い合いを始めて、私とダンは思わず顔を見合わせ笑顔になった。 「おい、二人とも・・・ケンカするなよ・・・」 「ご、ごめん・・・」 「悪い・・・」 ダンが苦笑交じりで二人を宥めると、エマもルパートもしゅんとして項垂れた。 「とにかく・・・もう少し時間はあるし二人で考えてみるよ。それに中学だって、すぐ卒業だしさ」 「そ、そうね。それに仕事で日本にだって行く事はあるんだし!」 「そうだよね!この前はダンは行けなかったから・・・今度のはダンが日本に行けばいいよ!」 「うん、ありがとう、二人とも」 エマとルパートの言葉に、ダンは嬉しそうに微笑んだ。 そして私の方を見ると、 「僕はと別れたくない・・・。離れてしまっても・・・二度と会えなくなるわけじゃないよ」 と優しい笑顔で、そう言ってくれた。 それだけで胸が一杯で私は頷くのが精一杯だった。 私だって・・・ダンと別れたくはない。 今までみたいに傍にはいれなくなるけど・・・・・・それでもダンと繋がっていたかった。 何か・・・方法はあるはず。 今すぐには無理でも・・・私がロンドンにまた住める方法が・・・・・・ そう思いながら私はダンの手を少しだけ強く握り返した。 エマとルパートが帰ってから、僕とは二人きりの時間を過ごした。 が日本から、またロンドンに来れる方法を考えながら・・・ 来年すぐには中学も卒業する。 その後にがこっちの高校を受ければ・・・とも考えたが、それも若すぎるし一人でロンドンに住むわけにも行かない。 となればホームスティがあるんじゃないかとか、本当に色々な事を話した。 だけど、それをの両親が認めてくれなければいけない。 確かにのお父さんは僕との事を認めてくれてはいる。 でも大事な一人娘がロンドンに一人で住む事を許可してくれるかどうか・・・ 「何とか説得はしてみるけど・・・。でもこの前、話し合った時、私もその話をしてみたの。でも高校じゃダメだって・・・」 「そっか・・・。やっぱり大学からならいいって?」 「うん・・・・でも・・・もう一回話してみるわ?」 はそう言って笑顔を見せた。 僕は色々不安だったが、まずは話してみなくちゃ分からないと思い、そっと彼女を抱き寄せた。 「許してくれるといいね・・・」 「うん・・・」 残り二週間と少し・・・ 僕らに残された時間はたったそれだけ。 その間にも僕には仕事があり、思うように時間が取れないから今日一日が、こうして二人でゆっくり過ごせる時間だった。 「撮影が早く終ったら・・・必ず会いに行くから」 「うん・・・。でも無理しないでね・・・?」 「無理なんかじゃないよ。僕が会いたいんだ・・・」 そう言っての額にキスをすると、彼女は恥ずかしそうに微笑んだ。 その時、少しだけ開けていた窓から雨音が聞こえてきた。 「あ・・・また降って来た・・・」 「さっきまで太陽が出てたのにね・・・」 二人で窓際まで歩いて行くと、最初は小降りだった雨がだんだん強くなってきた。 そのうち昨日のようにザァァ・・・っと本降りになり、暫く二人で手を繋ぎながら雨を眺めていた。 雨の音、雨の匂い、全てがと出会った、あの日の事を思い出させる。 と会えなくなった後も・・・こんな風に雨の日には彼女の事を思い出すんだろうな、と思った。 「僕とが会ってから・・・色々な事があったね」 「・・・うん、ほんと・・・」 「最初に会った日も、こんな雨で・・・。そう言えば二度目に会った時も雨だったっけ」 「あ・・・私が怪我してるのを見てダンが助けてくれた時・・・」 「そうそう!道の真ん中で蹲ってるから驚いたよ?」 僕はそう言いながら、あの日の事を思い出す。 もちょっと笑顔になり、僕の腕を掴んできた。 「そうだ。エマたちと一緒にチャーリーの試合にも行ったよね?」 「うん、行った!あの試合は凄かったよなあ・・・。あ、帰りに一緒に買い物にも行ったしね」 「うん・・・ダンに、これ・・・買ってもらった」 「ああ、僕も、これ」 そう言って二人で携帯につけた小さなテディベアを見せ合った。 あの時から・・・僕はきっとの事が好きだったんだ。 一緒にいる時間が凄く楽しくて、些細な事でも嬉しかった。 「ダンには・・・いっぱい助けてもらったな・・・」 「え・・・?」 不意にがそう呟いて、僕は顔を上げた。 は少し顔を上げながら降り続く雨を見ている。 「初めての海外生活に戸惑ってクラスにも馴染めてない私を励ましてくれた」 「そ、そうだっけ・・・?」 「・・・なかなか友達の出来ない私にエマとルパートを紹介してくれた・・・」 「・・・そうだったね・・・」 「いじめられてる私をかばって・・・私のために・・・皆を怒ってくれた・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 「映画のロケ先にも・・・連れて行って・・・くれたし・・・。危ない時は・・・いつも・・・助けに来てくれ・・・た・・・」 の声が少しづつ涙声になっていく。 彼女の頬に、ポロっと涙が落ちて、僕はそっと、その涙を指で拭った。 はゆっくりと僕の方を見ると、ギュっと繋いでいる手を握り返す。 「私・・・いつも・・・ダンに助けてもらってばかりで・・・。なのに私はダンに何もしてあげてなぃ・・・・・・」 「そんなことないよ・・・っ」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 真剣な顔でそう言うとは涙で濡れた顔のまま、僕を見つめている。 僕は指で頬に落ちる涙を拭うと、そこへ軽くキスをした。 「は・・・僕にたくさんのものをくれたよ・・・?」 「ダン・・・」 人を本気で好きになること。 本気で誰かを好きになると・・・凄く幸せなんだって事、そして、こんなにも苦しいという事・・・ 僕はを好きになって凄く大切な事を教えてもらった気がする。 自分以外の人を、こんなにも愛しく思うなんてこと・・・初めてだったから。 その大きな瞳も、小さな手も、奇麗な長い髪・・・その一本一本でさえ愛しくて―― 僕はそっとを抱きしめた・・・ たいした面白くもないテレビ番組を見ながら私は時間を確認した。 夜の6時を過ぎている。 今日は家に帰らないといけない・・・ そう思いながらダンが戻ってくるのを待っていた。 ダンは今、ロビーに台本を受け取りに行っている。 先ほどフレッドから電話が来て、明日の撮影で台本が少し手直しになったらしい。 それで新しい台本を持って行くからロビーに降りて来いということだった。 あと、ちょっとした仕事の話もあるとか言っていた。 戻って来たら・・・帰るって言わなくちゃ・・・ ほんとは・・・今日もまだ一緒にいたいけどダンも明日は撮影だし、二日も外泊出来ない。 ダンは今日も一緒に夕飯を食べようと言ってくれたけど・・・そうすると帰る時間も遅くなってしまう。 父だって、ここへ泊まるのをOKしてはくれたけど・・・本当は心配してるに違いない これ以上、私の我がままで両親を悲しませたくはないもの・・・ 今回のことは・・・父のせいじゃない。 それは痛いほど分かってる。 だけど・・・こっちの高校に入る事だけは・・・どうしても分かってもらわないと・・・ このままダンと大学生になるまでの長い時間、離れていたくないし、そうなれば、いつかは別れが来てしまうから・・・ その事を帰って話さなくちゃ・・・ 私はそう決心をするとテレビを消してソファから立ち上がった。 その時、部屋の電話が鳴り、ドキっとする。 電話・・・誰からだろう・・・ あ、もしかして・・・ダンがロビーからかけてきてるのかな・・・ このホテルにいるのは限られた人しか知らないって言ってたし。 フレッドとの話がまだ少しかかるのかもしれない。 そう思いながら私は電話の方に歩いて行くと、そっと受話器を取った―― 「明日の午後に取材、3本ね・・・。OK、もういい?」 僕は早く部屋に戻りたくてフレッドとの話を終えると、すぐにそう聞いた。 するとフレッドはニヤっと笑って僕の肩に腕を回してくる。 「早くちゃんのとこに戻りたいようだな~?」 「う、うるさいな!いいだろ、別にっ」 「いやぁ、でもまさかダンがなぁ・・・。ホテルの部屋に女の子を泊めるなんて―」 「ちょ・・・声が大きいよ!それにフレッドが考えてるようなことはしてないからなっ?」 僕は顔が赤くなりつつも、ニヤニヤしているフレッドを睨んだ。 だがフレッドは呑気に笑いながら僕の頭をクシャっと撫でる。 「はいはい、分かってるよ!お前が紳士だって事はな? でも今日も泊めるのか?」 その問いに僕はちょっと首を振ると溜息をついた。 「ほんとは・・・一緒にいたいけどさ・・・。二日も外泊させるわけにはいかないし・・・ 夕飯食べたら送ろうかなって思ってる・・・」 「そっか・・・。まあ・・・まだ時間はあるんだし・・・ゆっくり考えろ」 「うん、サンキュ・・・。じゃあ明日ね」 「ああ、朝、迎えに来るよ」 フレッドはそう言ってホテルを出ると、自分の車に乗りこんだ。 僕は車が出るまで見送ると、すぐにエレベーターへと向かった。 ちょっと話し込んじゃったし、待ってるだろうな・・・ そう思いながらエレベーターに乗り込むとすぐに階番号を押した。 少しイライラしながら上がっていくのを待って上についた途端、廊下に飛び出す。 少しでもと一緒にいる時間を無駄にしたくなかった。 そのまま急いで部屋まで歩いて行くと、すぐにキーを出してドアを開ける。 「? 遅くなってごめん―」 そう言いながらリビングに向うが、そこにはいなかった。 見ればテレビも消してある。 トイレに行ったんだろうか・・・? 僕は少し不安に思いながらトイレの方まで歩いてって声をかけてみた。 「・・・? いる?」 だが中からは何も応答がなく、僕は嫌な予感がして部屋中を捜してみた。 「? どこ? !」 一応、全ての部屋を見てまわったが、どこにもの姿がない。 もしかして・・・親から電話が入り、帰って来いとでも言われたのかもしれないと、ふと考え、 もう一度、リビングに戻り、何かが残したメモがないかと探してみる。 すると窓を開けているから風で落ちたのか、ソファの足元に一枚のメモが落ちているのを見つけてすぐに拾った。 "遅くなったので一人で帰ります。心配しないで下さい。" それだけ書いたメモに僕は何ともいえない不安を感じ、すぐに携帯でに電話をかけてみる。 だがすぐに空しいメッセージが聞こえて来て、僕は電話を切った。 「・・・どうしたんだよ・・・」 何かあったのかと少し心配になるも、メモには"心配しないで"と書かれている。 僕はどうしたものかと、ソファに座り、思い切り溜息をついた。 「おっす、ダン」 「ああ、おはよう、チャーリー」 僕が一番かと思って教室に入っていくと、そこにはすでにチャーリーが来ていた。 僕も挨拶をすると自分の席に座り、鞄から最初の授業で使う教科書を出す。 するとチャーリーが僕の隣の席に座った。 そこは前までが使っていた机だ。 「何だよ、久し振りなのに暗いなぁ」 「そう? ちょっと・・・疲れててさ」 何とか笑顔を作り、そう答える。 だがチャーリーだけは事情を知っているので途端に心配そうな顔をした。 「まだ・・・寝れないのか?」 「・・・・・・そんなことないよ? ただ・・・熟睡してないってだけ」 「同じ事だろ? 大丈夫かよ?」 「うん。まあ・・・・最近は仕事も少なかったし・・・来週のテストが終れば 次の映画のプロモーションに行かなくちゃいけないけどね」 「そっかぁ・・・大変だな・・・。仕事と勉強の両立もさ」 「チャーリーだってサッカーと勉強、両立してるだろ?」 「まあ・・・そうだけどさ。俺の場合は趣味っていうか、まだ仕事にはなってないから多少はね。 でもダンは仕事だし時間とかも不規則だろ?」 「そうだね。サッカーよりは不摂生かも」 「あはは、だろ?」 チャーリーは笑いながら僕の肩をポンっと叩くと、ふと窓の外を見る。 「なあ・・・と・・・全然、連絡取ってないのか?」 「・・・・・・・・・」 不意にの名を出されてちょっとドキっとした。 だけど、そんな顔を見せないように出したノートをペラペラと開いていく。 「取ってないよ・・・。向こうからも来ないし・・・」 「・・・・・・それで・・・いいのか?」 「いいも何も・・・が決めた事だしね・・・。僕からは何も出来ないよ」 そう言ってちょっと苦笑すると、チャーリーは急に真剣な顔になった。 「は・・・ダンのこと好きなんだよ」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・だから今は別れるって決めたんだ。それくらい分かってるくせに―」 「そうだよ? 今の僕じゃ何も出来ない・・・っ。仕事を辞めることだって・・・っ」 「だったら卒業してすぐに迎えに行くって言えよ!まだ好きなんだろ?!」 「・・・・・・っ」 そうだよ・・・まだ・・・こんなにもの事を・・・ でも・・・僕のこれからを考えてが別れるって決めたんなら・・・僕は彼女の気持ちに答えるしかない。 その分、頑張っていい俳優になるしかないんだ。 彼女が・・・世界のどこにいても僕を見てくれてると信じて・・・ 「おい、ダン・・・!何、小難しいこと考えてんだよ? 母親に何を言われたか知らないけど、そんなの間違ってるよっ ただ彼女を好きになっただけで・・・恋愛するだけでダメになるような仕事なら辞めちまえっ」 「――っ?!」 突然、チャーリーに腕を掴まれ、そう言われた時、殴られたかのような衝撃を受けた。 チャーリーは本気で怒ってるのか、今まで見た事もないような真剣な顔で僕を見ている。 「お前は・・・・仕事も・・・恋愛も、大人になったらするのか? そんなの、おかしいだろ?」 「チャーリー・・・・・・」 「面倒な事、考えてないで今すぐに連絡して、こっちの高校受けろって言えよ。そのつもりで考えてたんだろ?」 チャーリーはそう言うと僕に一冊の本を渡した。 それは外国人向けのロンドンの高校の案内BOOKだった。 「それ・・・寮のある高校とか載ってるからさ・・・。に送ってやれば?」 「チャーリー・・・」 「寮がある高校なら両親だって安心するだろ? がどんな高校行きたいのかって前にチラっと聞いたことあるんだ。 それにが望んでたような内容の学校もあったからさ・・・」 チャーリーはそう言うと少し頭をかきつつ僕を見た。 「後は・・・ダンが決めるだけだ。だって本心で別れようって言ったわけじゃない。絶対、説得できるって」 「でも・・・」 「ダンの母親だって、いつか認めてくれるって!その分、ダンが仕事も勉強もすればいいだけだよ」 「・・・・・・・・・」 あっけらかんと言うチャーリーに、僕は思わず吹き出してしまった。 「な、何だよ・・・?」 「いや・・・簡単に言うなぁと思ってさ・・・」 「何だよ、簡単な事だろ? 一番大事なのは二人の気持ちだと思うしさ」 「そう・・・そうだよな・・・・・・」 「ああ、そうだよ。だから・・・大人に負けんなよ・・・。何とかなるって!」 チャーリーはそう言ってバンっと僕の背中を叩いた。 その力の強さに顔を顰める。 だけど・・・モヤモヤしていたものが僕の中から剥がれ落ちていく気がした。 チャーリーに、そう言い切られると、本当に何とかなる気がしてくるから不思議だ。 「チャーリーB型だろ・・・」 「え? 何で分かんの?」 「いや・・・前向きって言うか・・・単純って言うか・・・」 「何だよ、バカにしてんの?」 「誉めてるんだよ」 「そうかぁ?」 チャーリーは目を細めてブーたれながら僕を睨んでいる。 僕は何とか笑いを堪えつつ、チャーリーのくれた本を手に取った。 「サンキュ・・・」 「いいって別に。友達だからな? ダンももさ」 チャーリーは照れくさいのか顔を反らしながら自分の席に戻ると授業の用意をし始めた。 そろそろ生徒も来始めて教室がザワザワしてくる。 その時、僕の携帯が鳴り、慌ててポケットから出した。 「いけね・・・電源切るの忘れて・・・って何だよ、ルパート・・・?」 ディスプレイを見れば、そこにはルパートの名前。 僕はまだ先生が来ないのを確めると、すぐに電話に出た。 『Hello? ダンかっ?』 「Hello? ルパート、何だよ?」 『何だよじゃないよ!大変だって!』 出た途端、何だか慌てた様子のルパートに僕は思い切り溜息をついた。 「大変って何だよ? もうすぐ先生くるし早く用件を言えって」 『あ、ああ、悪い!僕も学校からなんだけどさ・・・』 「はいはい。で? どうした?」 『そ、それがさ!ほら明日、僕だけインタビューが入ってるだろ? で、その事でさっきフレッドに電話したんだっ』 「うん、それで?」 僕は何とか返事をしながら先生がいつ来るかとヒヤヒヤしていた。 チャーリーも僕を見て、口パクで "は や く 切 れ" なんて言っている。 だけど次のルパートの言葉に、僕は一瞬で頭が真っ白になった。 『でさ!フレッドも聞いたばかりらしいんだけど、実は次の映画のプロモーションで――』 ピっと携帯を切ったと同時に教室に先生が入って来た。 だけど僕はそんな事すら気づかず、静かに携帯の電源を切った。 「おい、ダン・・・どうした・・・?」 僕の様子がおかしいのに気づき、チャーリーが小声で声をかけてきた。 その声に、僕はハっとして顔を上げると、彼の方を見る。 「チャーリー・・・」 「ん?」 「今、ルパートから電話でさ・・・」 「うん・・・?」 「今度の映画のプロモーション・・・・・・日本にも行くって・・・」 「え・・・っ?!」 チャーリーも驚いたのか、大きな声を出してしまい、慌てて手で口を抑える。 その声に皆が振り返り、先生も、「そこ!静かに!」なんて怒っている。 だけどチャーリーは口を抑えながら僕の方に思い切り親指を立ててきた。 そしてホームルームが終って先生が出て行くと、すぐに僕に抱きついて来る。 「やったなーーー!ダン!!これはきっと運命だって!!」 「運・・・命・・・?」 「そうだよ!に会いに行けっていう事だって思わない?!」 チャーリーは僕以上に盛り上がって、そんな事を言って喜んでいる。 僕は嬉しいのと信じられないという気持ちがぐちゃぐちゃで実感が湧かない感じだったけど、少しだけ不安は過ぎった。 日本に行ったとしても・・・が会ってくれるかどうか・・・ ロンドンに・・・もう一度来てくれるかどうか・・・ でも・・・僕への想いは変わってないって・・・それだけは信じたい・・・ 僕の名を呼ぶ・・・君の心の奥だけは――今でも同じだって・・・ かばうように短く甘い 少し不器用なキスをしたね ふざけあいながら目と目が合えば わざとそらしたあの日 優しく揺れる朝の光に照らされて 悲しみも罪も 偽善も 過ちも 君となら超えられる そう信じつづけた 君を呼ぶ この声を どうか忘れないでね 二人だけの秘密を誰にも言わないで 痩せすぎた、その肩がやけに愛しかったよ 結ばれなくても最初で最後の恋だから・・・ |
Postscript
およよーー少しづつクライマックスへと・・・!って感じです^^;
まあ・・・どんな事情があったか分かると思いますが・・・
年齢が年齢だけに色々な障害があったりして・・・・・・
でも、だからこそ大切な事に気づくって事もありますよね!
大人になると、そういう純粋な気持ちとか薄れて濁りますから・・・( ̄_ ̄; >オイオイ・・・
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】