微 笑 み あ っ た 日 々 が 今 で も









忘 れ ら れ ず い る ん だ   痛 む 心









見 え な い 背 中    い つ ま で で も










追 い か け て  ま た    ふ と 我 に か え っ て し ま う



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



Chapter.27 雨に消えた涙...05                 Only you can love me...









Dear...ダン


久しぶりです。元気ですか?
この前は連絡できなくてごめんなさい。
ダンが私の家に来てくれた時、私は病院にいました。
私のお父さんがクモ膜下出血で倒れたの。
でも今は意識も回復して少しは元気になってきました。
なのでダンが置いて行ってくれた高校の資料もダンが帰国する当日に見ました。
急いでホテルまで行ったんだけど結局、間に合わなかったの。
だからこの手紙を書きました。
ダンの残していってくれたメッセージに答えたいから。
私も・・・ダンと同じ気持ちです。
自分で別れを決めたのに、今更こんな事を言うなんてずるいけど・・・
それでもダンに伝えたかった。
ダンが・・・私に会いに来てくれたから・・・


そして一人で考えて出した結論は・・・高校は無理だけど・・・大学からはロンドンの学校に行きたいということ。
父が入院した今、母に看病を任せて私一人ロンドンの高校に行く事は無理なの。
でも・・・私が大学生になる頃には父もきっと回復してると思う。
大学といったら・・・今からまだ3年あるし、その間は会えないけど・・・
・・・それでも・・・ダンが待っていてくれるなら、私はロンドンの大学に行きたいと思ってる。
この手紙を読んだら・・・ダンの今の気持ちを書いて返事を送って欲しい。
もちろんダンの出した答えならどんな事でも受け止める。
例えそれが"NO"だったとしても・・・


ダンはこれからまた忙しくなるね。
体に気をつけて撮影頑張って下さい。
もちろん勉強も・・・
私も日本で頑張ります。
そしてダンをいつも応援してるよ。


それでは返事待ってます。


From...














ダンに手紙を書いた。
あの雨の日・・・ダンに会う事が出来なかったから、今思っている自分の気持ちを素直に書いたつもりだった。


あれから半年・・・


ダンからの返事は未だ来ていない――



















「お母さん!」


病院の廊下を歩いて行くと目の前を母が歩いているのが見えて私は声をかけた。


「あら、。学校終わったの?」
「うん。お父さんは?」


母と並んで歩きながら二人で病室へ向かう。
擦れ違う看護婦さんも笑顔で頭を下げていき、すっかり顔なじみだ。


「お父さんならリハビリルームよ?」
「そう。あ、これ買って来たから二人で食べて。今夜も遅いんでしょ?」


そう言って買ってきたケーキを見せる。
それは父と母が好きなお店のケーキだった。


「あら嬉しい。ありがとう。お父さんも喜ぶわ」


母は病室に入るとケーキの箱を棚に置いた。


あれから半年。
父はあの後に手術をした。
手術後、意識がなかなか戻らなくて心配したが一週間後、父の意識が回復。
それからは順調に体力も戻って今では少し体重も増えたくらいだ。
なので今は毎日リハビリルームで軽い運動をするのが父の日課だった。
それにあと半月もすれば退院できると、この前担当のお医者さんも言ってくれた。


「そう言えば・・・この前のテストはどうだったの?」


母が紅茶を淹れてくれながら私を見た。
私は鞄をソファに置くと軽く息をついてそこへ座った。


「英語以外は・・・まぁまぁ・・・ってとこかな?」
「そう、でも凄いじゃない。英語が出来れば。何て言ってもの夢は通訳さんだもんね」
「うん。そこだけは他のより頑張っちゃった」


そう言って紅茶を受け取るとゆっくり口に運ぶ。
私は当初の予定通り、家の近くの高校へ入学した。
将来何になりたいか固まってからはそれに向けて毎日頑張っている。


「ねぇ
「ん?」


母が私の隣に座って軽く目を伏せたのを見て私は首を傾げた。
すると母は言いにくそうに顔を上げた。


「・・・ハリーくんから・・・連絡来た・・・?」
「・・・・・・・・・」


久しぶりにダンの事を訊かれてドキっとしたが軽く首を振った。


「もう・・・私のことなんて忘れちゃってるよ・・・」
「そんな事・・・」
「だって手紙出してから半年だよ?やっぱり大学までは待てないって・・・そう思ったのよ」


カップを両手で包むと私は小さく息をついた。
だが心配そうな母を見てすぐに笑顔を見せる。


「もう・・・そんな顔しないでよ。私なら大丈夫!思い残す事もないし、もう吹っ切れてるから・・・」
「・・・・・・」


私が明るく振舞うと母は困ったような笑顔を見せたが、それ以上何も言わなかった。







それから父も病室に戻り、一緒にケーキを食べながら3人で他愛もない話をした後、私は病院を出た。
週末は母も病院に泊り込んで父の世話をするので私はその間、留守を守らないといけない。
私は家につくと、まずは制服から部屋着に着替え、リビングやキッチン、お風呂場の掃除をした。
そしてお風呂を沸かしている間に夕飯の準備をしておく。


「ふぅ・・・終わったぁ・・・」


全てやり終えると私はいったんソファに寝転がって溜息をつく。
普段、母がやっている事を今は殆ど私がやっていた。


「主婦も大変だなぁ・・・」


そんな事を呟きながらリモコンでテレビをつける。
金曜日の夜は毎週見ているバラエティ番組があるのだ。
冷蔵庫からコーラを出して、それを飲みながら番組を見ているとお風呂が沸いたのかタイマーがピピっと鳴った。
すぐお風呂場に行き、お湯をかきまわして柔らかくすると気に入っているバスエッセンスを入れておく。


「はぁ・・・お腹空いたなぁ」


そう呟きながらキッチンに戻るとちょうどご飯が炊き上がった。
冷蔵庫を見ながら今夜の献立を決めると材料を出して調理をする。
その時、携帯の鳴る音が聞こえて私はガスコンロの火を消すとリビングに戻った。
テーブルの上に置いたままの携帯を開き、ディスプレイを確認するとそこには"悠木煉"と名前が出ていて思わず笑顔になる。


「もしもし?」
『あ、もしもし俺。悠木だけど』
「うん、今どこ?」


私はテレビの音量を下げるとソファに腰をかけた。


『今は家に帰る途中。今日は練習きつくてさ』
「そう、お疲れ様」


悠木くんのバテた声に苦笑しながら私はソファに凭れた。
彼とは約束通り今でも連絡を取り合っている。
悠木くんはサッカーの強い高校に入学したので練習もきついらしい。


は?もう家?』
「うん。さっき病院から戻って来たとこ」
『そっか。おじさん元気か?』
「もうすっかりね。今日だって一人でケーキ二つも食べてたわ?」
『あはは、そっか。なら良かった』


悠木くんはそう言ってクスクス笑っている。
彼は中学を卒業してから、こうして毎日のように電話をくれるのだ。
私のこともいつの間にか苗字ではなく名前で呼ぶようになっていた。


『あ、あのさ、俺、日曜日に映画行こうと思ってるんだけど・・・も行かない?』
「え、映画?」
『ああ。何か・・・用事あるか?』


悠木くんは伺うように訊いて来て私はちょっと考えたがテストも終わった後で特に何もない。


「ううん、ないよ?」
『じゃあ・・・』
「うん、行くわ?どんな映画?」


私がそう尋ねると悠木くんはホっとしたように息をついた。


『いや・・・の見たいのでいいよ?』
「え、でも・・・」
『いや正直言うと・・・俺も考えてないんだ』
「え・・・?」


困ったように呟く彼に私はちょっとだけ噴出してしまった。


「じゃあ・・・考えておく」
『そうしてくれると助かるよ。あ、これから夕飯?』
「そうよ。今ちょうど作ろうとしてたとこ」
『そっか、俺も腹ペコペコ!あっと・・・じゃあ家に着いたから・・・また電話するな?』
「うん。明日も練習でしょ?頑張ってね」
『サンキュ。じゃあ・・・また』
「うん、またね」


そこで電話を切って私はキッチンへと戻った。
悠木くんは月曜から土曜までサッカーの練習があるが日曜日は休みなので時々二人で出かけたりしているのだ。


「映画か・・・久しぶりだな」


夕飯を作りながら私はそう呟くと"何を見ようかな"とあれこれ考える。
ここ数週間はテストもあったため、暫く遊びに行っていなかったのだ。


(お父さんとこには明日ちょっと顔を出すとして・・・日曜日は少しゆっくり出来るかな・・・)


そう思いながら出来上がった料理をお皿に盛り付け、私は軽く息をついた。


























窓の外を見ながらボーっとしているとポンと肩を叩かれハっと顔を上げた。


「Hi!ダン」
「あ、ケイティ・・・」


そこには"炎のゴブレット"で共演したケイティが笑顔で立っていた。


「どうしたの?ボーっとしちゃって」
「いや・・・何でもないよ」


僕はすぐに首を振ると隣に座ったケイティに笑顔を見せた。
今日は二人そろって雑誌の取材がある。


「そう言えば・・・タブロイド誌見た?」
「ああ・・・うん。ちょっとビックリしたよ」
「ほんとよねー?凄い早いんだもん・・・。きっとずっと見張ってたのね」


ケイティはそう言いながら口を尖らせ、肩を竦めた。
その表情が可愛くて僕はちょっと笑うと、


「でも・・・大丈夫だった?お父さんに何か・・・」
「ううん、平気よ?うちのパパはダンが相手ならOKだーなんて言ってるから」
「え・・・?」


ケイティの言葉に僕はドキっとして彼女を見た。
だけど彼女はあっけらかんとしたまま、クスクス笑っている。


「一度二人で出かけたってだけなのにね」
「あ、ああ・・・」


曖昧に答えながら僕はちょっと笑うと軽く息をついて窓の外を見る。
今日は朝から晴れていて今も太陽が僕らを照らしていた。
こんな日は気分も明るくなるし何となく気持ちがいい。
隣にいるケイティに視線を戻せば彼女は携帯メールをチェックしているのか髪をかきあげながらピッピとボタンを押している。
光にキラキラしながら揺れている彼女の黒髪を見ていると忘れたはずの彼女の笑顔が脳裏を掠めた。
日本に行ってから、すでに半年は経つと言うのに・・・


あれから各国をプロモーションで飛び回り、僕は更に忙しくなった。
いや、それで良かったのだ。
仕事をしている間はの事を考えなくて済むから・・・
そんな時、ある国でプロモーションが一緒になった、このケイティと再会した。
撮影の時はそれほど話もした事がなかったが暫く行動を共にしているとだんだん仲良くなった。
それに彼女といるとと一緒にいるような錯覚を起こす事がある。
全然似てないのに、と笑ってしまうが、それでも僕は何となく意識をするようになった。
そして前に一度二人で時間が空いた時、一緒に映画を見に行った。
その写真をパパラッチに撮られ、それが先週雑誌に掲載されてしまったのだ。
ケイティは映画の中で"ハリーの初恋の相手"を演じている。
その彼女と僕が二人で映画に行ったことでマスコミは必要以上に騒ぎ立てた。


"映画から生まれた恋"


とか


"ハリーとダニエルの初恋の相手は同じ子"


だとか、好き勝手な事を雑誌や新聞に掲載され、そのことで周りは一段と騒がしくなった。
エマやルパートなんかは、「まーた記者が先走ってる」なんて苦笑していたが、フレッドやロバートなんかは、


「お前もとうとう新しい恋を見つけたか!良かったな!」


なんて何故か応援してくれている。
正直、もう恋なんてしたくない、とさえ思っていたが、周りが何かを企んでるかのように、
こうして彼女との仕事も多くなったのは事実だ。
まあきっとあの記事に乗せられて僕ら二人で取材をしたいという雑誌が増えたのもあるんだけど。
でも確かにケイティは明るくていい子だし一緒にいて楽しいのは本当だった。


「あ、ねぇ、ダン」


僕が外の景色を眺めているとケイティが顔を上げた。


「ん?」
「この後・・・暇かなぁ?」
「え?」
「実は私、今週末テストなんだけど・・・ちょっと分からないとこがあって教えて欲しいの。ダメ?」
「ああ、そんなこと?別にいいよ?今日はもう何もないし」
「ほんと?良かったあ~助かる!」


ケイティは大げさに手を叩いて喜ぶと嬉しそうに微笑んで携帯をバッグにしまった。
その無邪気な様子に僕もつられて笑顔になる。


そこへスタッフが呼びにきて僕とケイティは二人で取材を受けるべく隣の部屋へと歩いて行った。
















「どうぞ?」
「お邪魔します」


彼女に促されるまま部屋へと案内され、僕は中をぐるりと見渡した。


「適当に座って?今紅茶淹れてくるから」
「あ、ありがとう」


ケイティが部屋を出て行くと僕はソファにゆっくり座りながら、何となく落ち着かない気分になった。
あの取材後、勉強をどこで教えようと思っていると彼女が、


「うち、ここから近いの」


と言って僕を連れてきたのだ。
ちょっと驚いたが、まあ勉強を教えるだけで意識するのも変なのでそのまま彼女の家にやってきた。
てっきり母親がいるのかと思えば留守で挨拶も出来ないまま部屋へ通されたのだ。
何だか女の子の部屋へ来るのは久しぶりで変な緊張感がある。
僕は軽く息をつくとメールチェックをしながら彼女を待った。
すると数分後に紅茶のカップを持ってケイティが戻って来た。


「お待たせ。はい」
「ありがとう」


カップを受け取るとそれを口に運びつつ、「どこが分からないの?」と尋ねた。
するとケイティが机から教科書とノートを持ってきて、僕の前に開いてみせる。


「えっとね、ここなの。友達に聞いても皆分からないんだもん」


ケイティは苦笑しながら僕の隣に座った。
僕は教科書を見ながら、「この辺テストに出ると思うよ」と軽く印をつけていく。


「うわーやっぱり?私もそうだと思ったんだけど・・・苦手なのよねぇ、この数式」
「僕も得意ではないけどね。テストは終わってるし少しなら出そうな問題も分かるよ」


そう言ってノートに書き込みながら彼女が分からないと言っていたところを丁寧に教える。
ケイティも真面目に僕の説明を聞きながら自分でも何個か問題を解いていった。


「へぇ、合ってるよ。この調子なら大丈夫じゃない?エマとえらい違いだよ」
「ほんと?って、ダンはエマにも勉強教えてるの?」
「うん、時々ね。ルパートもテスト前は必ず泣きついてくるよ?」
「あはは、そうなんだ!皆、ダンを頼りにしてるのね」
「そんな事はないけど・・・でもケイティが一番物覚えがいいかな」


そう言って笑うとケイティも嬉しそうに微笑んでソファに凭れかかった。


「じゃあテスト頑張っていい点取らなくちゃ。せっかくダンに教えてもらったんだから」
「この分じゃ大丈夫だよ」


僕もそう言ってソファに凭れつつ紅茶を飲む。
するとかすかに肩が触れ合いドキっとした。
こんな風に女の子と密着するのも久しぶりだ。


「あ、あのさ・・・後、分からないとことか―」
「ねぇ、ダン・・・」
「・・・え?」


体を前に乗り出すとケイティが目を伏せた。


「何?」


振り向いて笑顔を見せるとケイティは言いづらそうにしながらも僕の顔を見た。


「ちょっと・・・気になってたんだけど・・・」
「え・・・?」
「ほら・・・私とのこと雑誌に載っちゃって・・・彼女気にしてない?」
「・・・・・・ッ」


急にそんな事を言われて僕の顔から笑顔が消えた。


「何・・・が・・・?」
「何がって・・・ほらダンが撮影現場に連れてきてた子・・・ちゃんって言ったっけ・・・?」
「・・・・・・彼女が・・・何?」


ケイティの口からの名前が出て一瞬鼓動が早くなった。
だがなるべく顔に出さないようにして彼女を見るとケイティは少しだけ俯いた。


「だから・・・誤解してないかなって思って・・・」


ケイティはそれだけ言うと紅茶を一口飲んで溜息をついた。
彼女は前に撮影現場でに会っているから知っていて当然だ。
僕は何とか笑顔を作るとソファに凭れかかって肩を竦めた。


「誤解なんてしないよ。もう・・・とっくに別れてる・・・」
「え・・・別れたって・・・。あんなに仲が良かったのに・・・?」


ケイティは少し驚いたように僕の顔を覗き込んでくる。
そんな彼女の言葉が胸を痛くさせた。


「・・・仲が良くても・・・彼女が日本に帰っちゃったんだし仕方ないよ」
「日本に・・・帰ったって・・・本当だったのね・・・」
「うん・・・。他のスタッフも言ってただろ?本当だよ・・・」


そう言ってちょっと笑うとケイティは困った顔で目を伏せてしまった。


「ごめん・・・。まさかって思ってたの・・・。二人・・・凄く仲が良かったから・・・」
「もう・・・終わった事だよ・・・」
「ダン・・・」
「あーそれよりさ。ほら他に分からないとこは?」


話を変えようと僕はわざと明るい声で尋ねた。
だが返事がなく、ふと彼女の方を振り向いた時、目の前に影が落ちて唇に柔らかいものが押し付けられた。




「――――ッ」




一瞬のことだった。
キスされたと気づいた時には、彼女はすでに僕から離れ恥ずかしそうに目を伏せている。
僕は唖然としながらもカっと顔が熱くなった。


「な・・・何・・・」
「好き・・・」
「・・・え・・・?」
「私・・・ダンのこと好きよ・・・?」
「・・・・・・ッ」


ケイティはソファに置いた僕の手にそっと自分の手を重ねると、そう呟いた。


「最初は・・・ただ憧れてた・・・。凄く遠い存在に思えたし・・・ダンには彼女もいた・・・
でもこの頃ずっと寂しそうなダンを見てたら・・・心配になって・・・心配になったら・・・ダンの笑顔が見たくなって・・・
そんな事を考えてたら・・・いつの間にかあなたの事・・・好きになってた・・・」


彼女の吐息が首筋にかかるのを感じながら、その言葉を聞いていた。
見れば彼女の手はかすかに震えていて、頬も心なしか赤く染まっている。


「ダンが・・・好きよ・・・?」


ケイティはそう呟くとふと視線を上げて僕を見た。
恥ずかしそうな彼女の黒い瞳を見ていると何故か胸がズキズキと痛み出す。
ケイティはゆっくりと体を寄せてきて僕の首に腕を回し、ギュっと抱きついてきた。


「私じゃ・・・ダメかな・・・」


耳元でそう囁かれた言葉。
その時、僕は震えている彼女の体を強く抱きしめ返していた。


「・・・ダ、ダン・・・?」


ケイティは驚いたように少しだけ体を離し、僕の顔を見た。
彼女と至近距離で目が合い鼓動が早くなっていく。
するとケイティはそっと瞳を閉じて僕に体を預けてきた。


そこで頭の中が真っ白になった。
ゆっくりと顔を近づけ、ケイティの唇に軽く口付ける。
彼女は一瞬ビクっとしたが、すぐに体の力を抜いてキスを返してきた。
何度か触れては離し、互いに求めるように触れ合う。


まるで失った心の隙間を埋めるかのように、僕は彼女に何度もキスをした―






















「はぁー結構面白かったな?」


映画館を出た後、悠木くんは大きく伸びをしながら振り向いた。


「うん、凄い展開だったね」
「ヤベー俺、結末とか言いたくなっちゃいそう」
「ダメよ。それを言ったら、これから見る人がつまらなくなるもの」


そう言って笑うと悠木くんも、「そうだよな」と言って苦笑した。


今日は映画を見る約束の日。
お昼過ぎから渋谷に来ていて、今映画を見終わったところだ。


「まだ午後4時か・・・。これからどうする?少しブラブラしてく?」
「そうね・・・って言っても、この人ごみじゃ歩いてるだけで疲れちゃいそうだけど」


そう言って次々に四方八方から歩いて来る人を避けながら歩いて行く。
日曜の渋谷はいつも大勢の若者で賑わっていて歩くのだけでも大変だ。


「ほら・・・」
「え・・・?」


人にぶつからないように何とか悠木くんの後ろからついていくと不意に手を差し出された。
顔を上げると悠木くんが照れくさそうに視線を逸らしている。


・・・歩くの遅いからはぐれそうだしさ」
「だ、大丈夫よ・・・?ちゃんと―」
「俺が心配なの。いいからほら」
「あ・・・」


悠木くんは強引に私の手を繋ぐと、そのままスタスタと歩いて行ってしまう。
私は驚きながらも必死に彼についていく。
少し早めに歩いて行く悠木くんの背中を見てると、"もしかして今、凄く照れてるのかな・・・"と思った。
強く握られた手が妙に熱くて少しドキドキしてくるのを感じた。


そのまま二人で歩いて行くと悠木くんはある店の前でふと足を止めた。


「これ・・・可愛いな」
「え・・・?」


そう呟くのが聞こえて私が後ろから覗き込むと、そこにはハートとクロスが重なった綺麗なネックレスが飾られていた。


「ほんと綺麗・・・」
「・・・これ・・・似合うんじゃない・・・・?」
「え?」
にさ・・・」
「そ、そんな事ないよ・・・」


ちょっと恥ずかしくて首を振ると、そこに派手な格好をした店員がニコニコしながら歩いてきた。


「これ可愛いでしょう」
「あ・・・はい」
「このネックレス今凄く人気で限定品なのよ?」
「そう・・・なんですか?」
「うん。どう?彼氏、彼女に買ってあげたら?」
「「―――ッ」」


いきなり彼氏と彼女なんて言われて二人して顔が赤くなってしまった。
そして互いに顔を見合わせ、ちょっと視線を逸らしてしまう。
だが店員の女性はそんな私たちの空気には気づかず、ネックレスと手にとると私の胸元に当ててきた。


「ほら、凄く似合うわ?」
「え、あの―」
「じゃあ、これ下さい」
「な・・・悠木くん?!」
「ありがとう御座います!」
「あ、あのちょっと―」


私が驚いている間に店員の女性はニコニコしながらネックレスを店内へと持っていってしまった。
それを見て私は慌てて悠木くんの腕を引っ張る。


「い、いいよ、そんな・・・」
「いいんだ。見た時から買おうかなって思ってたし」
「え・・・?」
「やっぱに似合ってただろ?」
「悠木くん・・・」


悠木くんはそう言って笑うとネックレスをラッピングして戻って来た店員にお金を払ってしまった。
そしてそれを呆然と見ている私の手には可愛いラッピングをされた箱が渡された。


「後で・・・つけて見せてよ」
「う、あ、あの・・・ありがとぅ・・・・」
「いいって。じゃあ次どこ行こうか」


私がお礼を言うと悠木くんは照れくさそうに視線を逸らしながら再び私の手を握った。
だが私はこの時、ふとダンにもネックレスを買ってもらった事を思い出しツキンと胸が痛んだ。


そう・・・あれは・・・ロケ地に遊びに行った時だ・・・
こんな風に二人で出かけて・・・買い物をしたりした。
そこでダンは私にネックレスを買ってくれた。
それもお揃いの・・・


私はそっと胸元に下がっているネックレスを手で触れてみた。
あの日から外した事のないダンからのプレゼント・・・
ダンは・・・どうしたんだろうか。
撮影があるから、いつもはつけてられなかったけど会うときには必ずつけて来てくれた。
今でも持っていてくれてるんだろうか・・・


そんな事をボーっと考えていると悠木くんが突然足を止めた。
見ればそこは本屋の前だった。


「あー俺、買いたい雑誌あったんだ。ちょっと寄っていい?」
「あ・・・うん。いいよ」
「サッカーダイジェスト毎週買ってるんだけど今週買い忘れててさー。思い出した時に買わないと」


悠木くんはそんな事を言いながらスポーツ雑誌のコーナーへ歩いて行く。
私もそれについて行きながら"ほんとにサッカー好きなんだなぁ"と思っていた。


「あーあったー。最後の一冊」


お目当ての雑誌を見つけたのか悠木くんはホっとしたように微笑んだ。


「あ、じゃあ買ってくるしちょっと待っててくれる?」
「うん、この辺にいるわ」
「OK。じゃすぐ行ってくる」


悠木くんはそう言うと人ごみをすり抜けてレジの方に歩いて行った。
残された私はその辺の棚の雑誌を手にとりながらパラパラと見ていたが、ふと顔を横に向けた時、ドキっとして手が止まった。
"ダニエル・ラドクリフ"という名前が目に飛び込んできたのだ。
私は持っていた雑誌を元に戻すとゆっくりと映画コーナーの方に歩いて行った。
すると手前の棚にその雑誌が何冊かつまれている。
そしてそれを目の前で見た時、更に鼓動がドクンと跳ね上がり、どんどん早くなっていく。


「・・・ダン・・・」


私は震える手でその雑誌を手に取り、表紙に書かれている見出しを信じられない思いで見ていた。


"ダニエル・ラドクリフ(16)映画で見つけた恋人はアジア系の新人女優!(16)"


そう大きく書かれてた雑誌をゆっくりとめくっていく。
すると最初の一ページ目に大きなモノクロ写真が載っていて、私は一瞬息を呑んだ。


そこには前にスタジオで紹介してもらった事のあるケイティとダンが楽しそうに笑いあいながら映画館から出てくる写真が載っていた。
その写真を見て私は喉の奥が痛くなるのを感じギュっと唇を噛み締める。
記事には"二人はプロモーションであちこちの国を一緒に旅する事で徐々に仲良くなっていった"と書かれている。
その記事を読み、私は涙が出そうになって慌てて雑誌を元に戻し、本屋から出ようと人ごみをすり抜けていった。
すると突然グイっと腕を掴まれハっと振り返る。


?どうした?慌てて・・・」
「・・・悠木くん・・・」
「顔色悪いし・・・あ、人ごみで酔っちゃったか?もう買い物すんだし出ようか」


私の様子を心配して悠木くんは手を引くとすぐに外へと歩いて行った。
その間も気を緩めれば泣いてしまいそうで私はギュっと唇を噛んで必死に堪える。



「はぁ・・・凄い人だなぁ、ほんと・・・」


外に出ると悠木くんが苦笑交じりで振り向いた。
だが私は笑顔を作る事が出来ず、少しだけ俯いてしまった。


・・・?どうした?具合でも悪い・・・?」
「う、ううん・・・大丈夫・・・」
「でもほんと顔色悪いぞ・・・?もう帰るか?」


悠木くんはオロオロしたように私の顔を覗きんでいる。
その彼の優しさで堪えていた涙が零れそうになった。
が、その時―


「あれぇ?悠木じゃん」
「あ、本宮・・・」


通りすがりに話し掛けてきた茶髪の男の子が派手な女の子とこっちへ歩いてきた。
そのすきに私は慌てて目を擦り、涙を拭う。


「何だよ、悠木もデートか?」
「え?あ、いや・・・デートっつーか・・・。あ、、こいつ同じ高校のサッカー部で本宮。彼女は同じクラスの橘だよ」
「どうもー本宮です」
「あ、あの・・・です・・・。宜しく・・・」


何だか軽いノリで挨拶され、動揺していた気持ちも少しだけ落ち着き、何とか笑顔を見せる事が出来た。
すると本宮という人は驚いた顔で私を眺めだした。


「あれ・・・もしかして君さー。悠木と同じ中学だったって子?」
「え?あ、はい・・・そうです」
「やっぱり!だよなぁ?こいつ彼女いないって言ってたのに何で女連れなのかとビビったよー」
「え?」
「お、おい本宮!」


悠木くんは何だか慌てたように本宮くんの事を肘で突付いている。
だが隣にいた橘という彼女も、「あ!前に話してた子だ!」と指を鳴らして私を見た。


「え?あの・・・」
「前に聞いたんだよねー?悠木は中学からずっと好きな子がいて、だから彼女作らないって!」
「おい、橘!余計なこと言うなよ!」


悠木くんは目に見えて慌てだしたが橘という子はケラケラ笑いながら私を見た。


「こいつさー凄いいい奴だよ?付き合ってあげたら?」
「え・・・あの・・・」
「う、うるさいよ、橘!本宮も何とか言えよ・・・っ」
「まあまあ熱くなるなって。言ってた通り可愛い子じゃん」
「ほーんと。あ、でも彼女、悠木もモテるんだから余裕こいてたら、うちの学校の女にとられちゃうよ?」
「・・・・・・」
「橘!うるさいって。早く行けよ、お前らはっ」


悠木くんは二人の背中を押しやると、「じゃな!明日な!」と言って手でシッシとやっている。
だが本宮くんと橘という子は笑いながら、こっちを見ると、


「じゃー頑張れよ、悠木!」
「じゃねー彼女!悠木を宜しくね~」


と言って手を振りながら歩いて行ってしまった。
それを見送っていた悠木くんは顔を真っ赤にして思い切り溜息をついている。


「ご、ごめん・・・!あの二人ほんとバカでさ!無神経っつーか・・・」
「う、ううん・・・いいの・・・気にしてないよ・・・?」
「そ、そう・・・?なら・・・良かった・・・」


私が微笑むと悠木くんはホっとしたように息を吐き出し照れくさそうに笑った。
そしてゆっくりと駅に向かって歩いて行く。


「そういや・・・大丈夫か?」
「え・・・?」
「ほら・・・さっき具合悪そうだったしさ」


悠木くんはふと思い出したように私の顔を覗き込んだ。
だが今の出来事で少し気がまぎれた私は軽く首を振った。


「あ、あの・・・大丈夫よ?ちょっと人ごみに酔っただけで・・・」
「そうか?でも今は家のこと一人でやってるし疲れてるだろ?そろそろ送ってくよ」


悠木くんはそう言うと私の手をそっと繋いで優しく微笑んだ。
私もそれに微笑み返し黙って彼についていく。


さっきのダンの記事の事は考えないようにした。






それから二人で電車に乗り継ぎ家へと向かう。
ついた時には夕方の6時になろうとしていた。


「あ、あの・・・今日はありがとう・・・色々ご馳走になっちゃって・・・これももらっちゃったし」
「いいよ、そんなの」


家の前につき私がお礼を言うと悠木くんは照れくさいのか、頭をかきながら苦笑を零した。
そしてふと私が持っている箱を手にとると、


「あのさ・・・これ・・・つけてもらっていい・・・かな」
「え・・・?」
「いや・・・がつけてるとこ・・・見てみたいっつーか・・・」


悠木くんはそう言って私を見た。
その言葉に小さく頷くと彼はホっとしたように包みを開けて中からさっきのネックレスを取り出す。


「えっと・・・じゃあ・・・俺が着けようか?」
「うん。お願い」


そう言って後ろを向くとつけやすいように髪を少しだけ持ち上げる。
悠木くんは照れてるのか軽く咳払いをしていて私はちょっとだけ苦笑いを零した。
だが悠木くんはふと手を止めると、


「あ・・・、ネックレスしてたんだ・・・」
「え?あ・・・」


そこで私は思い出しドキっとして胸元のネックレスを手で触れた。
それはダンからもらったものだ。
悠木くんは困ったように息をついていて私はギュっと唇を噛んだ。


もう・・・これをつけてちゃいけないのかもしれない。
ダンはすでに私とは違う方向へと歩き出している。
返事が来ない理由も分かった今、これを身に付けてちゃいけないんだ。


私はそう思いながら軽く深呼吸をするとゆっくりと悠木くんの方に振り向いた。


「これ・・・外してくれる?」
「え・・・?」
「お願い、外して」


真剣な顔で彼を見上げると悠木くんは戸惑ったように瞳を揺らした。


「いいのか・・・?」
「うん・・・いいの・・・」


私はそう言って微笑むと再び後ろを向いて髪を持ち上げた。
すると悠木くんはネックレスを軽く引っ張ってパチっと外してくれた。


「ありがとう・・・」


外したネックレスを受け取るとそれをバッグの奥に押し込んだ。


「じゃあ・・・そのネックレスつけてもらおうかな・・・」
「あ・・・うん」


私が笑顔で振り向くと悠木くんはハっとしたように笑顔を見せた。
そして一瞬私を優しい目で見つめると、彼はそのまま私の首に腕を回した。
向かい合ってつけてもらうのが何となく照れくさくて目を伏せていると後ろでカチっという音がして悠木くんがホっと息をつく。


「ちゃんとついたよ」
「うん。ありがとう・・・似合うかな・・・」


そう言ってネックレスを指で持ち上げると悠木くんは嬉しそうに微笑んだ。


「うん、凄く似合う」
「・・・あ、ありがと」


ストレートな言葉に私は照れくさくて目を伏せた。
すると悠木くんは私の髪がネックレスの中に入ってるのを指で直してくれる。
その時、首筋に彼の指が触れてドキっとした。
彼も同じようにドキっとした顔で私を見つめる。
辺りはすっかり暗く、外灯の明かりが彼の顔を照らしていて悠木くんの瞳が僅かに揺れたように見えた。
その時、彼の大きな手がそっと頬に添えられてビクっと顔を上げた。


「俺・・・お前のこと今でも好きだよ・・・」
「・・・悠木くん・・・?」
「こうして・・・友達のままでも一緒にいられるだけでいいって・・・そう思ってたんだけどな・・・」


彼はそう呟くと悲しげな笑みを浮かべた。


「・・・やっぱ・・・欲が出てきた・・・」
「・・・え?」


悠木くんはそう呟くと頬に添えた手を不意に外した。
そして少し目を伏せると小さく息を吐き出す。


「・・・こうやって会ってたら・・・俺、お前に触れたくなる・・・」
「・・・・・・ッ?」
「・・・友達のままじゃ・・・いられなくなる・・・」
「悠木くん・・・」



真剣にそう言われて私は胸の奥がギュっとなる。
気づけばドキドキしていて顔が熱くなった。
悠木くんは優しい目で私を見つめていて、その瞳から目が離せない。
私は何て答えていいのか分からず、ギュっと唇を噛み締めた。
すると悠木くんはもう一度、静かに口を開いた。





「好きだ・・・」


「―――ッ」


にも・・・俺のことを見て欲しい・・・ってそう思ってる」





彼の言葉がストレートに胸に響いた。





「俺は・・・ずっとお前の傍にいるよ・・・。それじゃダメか・・・?」





ぽっかりと開いた場所に悠木くんの想いが流れ込むように暖かくなるのを感じる。




私は・・・もう自分の道を進まなきゃいけない。


もう・・・ダンを想ってちゃ前に進めないんだ・・・


彼を・・・永遠に失ったのだから―





そう思った瞬間、涙が浮かんだ。





「わ・・・な、泣くなよ・・・」




悠木くんは零れ落ちた私の涙を見て慌てたように顔を覗き込んだ。
そして前と同じように服の袖で涙を拭いてくれる。
その優しさが嬉しくて私はそっと悠木くんの胸に頭を置いた。
彼は驚いたのか、「お、おい、どうした??」と今以上に慌てて私の顔を覗き込もうとする。
そして後ろに回った手をどうしていいのか分からないといった感じで、最後には私の肩にそっと置いた。


「お、おい、・・・」
「・・・ごめん・・・また泣いちゃった・・・」


何とか涙を堪えようとする私に彼は困ったように息を吐き出した。


「い、いいけど・・・さ・・・。その・・・あまりくっつかれると・・・俺も・・・困ると言うか・・・」


そんな事を言って私の肩を掴んだ手が触れたり離れたりしている。
その様子にだんだんおかしくなってきて私は小さく噴出した。


「な・・・何笑ってんの・・・?」
「・・・ご、ごめ・・・」


少しスネた感じの口調で悠木くんの声が聞こえて私は慌てて顔を上げた。
すると至近距離で目が合い、お互いにドキっとした。
だが不意に悠木くんの顔が真剣な表情になり、私は顔が赤くなって目を伏せた。
するとゆっくり顔が近づいてくる。
私はビクっとしたが思わずギュっと目を瞑ってしまった。


キスされる・・・


そう思った。
だが―





チュっという音と共に唇が触れたのは私の額だった。


「・・・・・・?」


驚いて目を開けると悠木くんはパっと私を離して照れたように顔を逸らした。


「今日は・・・これで我慢するよ」
「――ッ」


その言葉に更に顔が赤くなった。
すると悠木くんは軽く息をついて再び私を見た。


「今から・・・真剣な話するけど・・・」
「・・・・・・」


彼の言葉に小さく頷くと悠木くんは私を黙って見つめた。




「俺と・・・付き合って欲しい・・・。友達としてじゃなく・・・俺の傍にいて欲しい」




その言葉の真剣さと温かさに涙が溢れた。


そして・・・私は彼の言葉に頷くために顔をゆっくりと上げる。






この瞬間から・・・私はダンへの想いを心の奥に全て封印した――

















最後に心から愛した あなたへと 





この想い  届かぬままで・・・








































 

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Postscript


あぁぁぁ・・・二人は別々の道へと進みだしました(T-T)ノ
そして第三部これで終わりです。
次回からは最終章ですかね!少し成長したダンが登場です( ̄m ̄)


本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...


【C-MOON...管理人:HANAZO】