ず っ と 一 緒 に い た か っ た








君 と 笑 っ て い た か っ た








思 い 出 に す る に は 切 な す ぎ て・・・ 僕 は―――








全 て を し ま い こ ん で・・・ 心 に 鍵 を か け た――

 

 

 

 

 

 

 

 



Chapter.28 君と逢うために・・・01             Only you can love me...










初めて行ったイギリスで生まれて初めて恋をした。
全てが初めての経験で毎日が新鮮だった。
彼の言葉一つ一つに一喜一憂していたあの頃・・・
人を好きになると、こんなにも幸せで、こんなにも辛い事を初めて知った。
触れられると、あんなにも暖かい気持ちになることも、その手を離す時は死ぬほど辛いことも・・・


あなたを思うと今でも泣きたくなる。


でも・・・もう忘れなくちゃね。
お互いに違う道を歩き始めたから。
お互いに違う人が傍にいるから。


あなたにもらった全ての思い出を閉じ込めて――


心に鍵をかけるよ・・・






















あの日、外したネックレスは・・・小さなテディベアと一緒に机の奥へとしまった。

















2006年――




また寒い冬がやってきた。













買い物からの帰り道、強い北風が吹き付けて私は思わず首を窄めた。


「寒い・・・」


吐き出す息も白くて気温の低さが伝わる。
今年の冬は去年に比べて一段と寒い。
私は巻いていたマフラーで口元も塞いで見えてきた家まで走って行った。


「あれ、お父さん?」
「おう、お帰り」


家に着くとガレージの前で父がしゃがみこんでいた。


「寒いのに何してるの?」


マフラーを外しながらガレージの方に歩いて行くと父は「よいしょ」と呟いて立ち上がった。


「車のタイヤをスタットレスに変えてたんだ。そろそろ雪が降るかもしれないって予報で言ってたし」
「そう。でもコートくらい着たら?風邪引いちゃうよ?」


薄いセーターだけの父を見て私は呆れたように言った。


「もうすぐ終わるよ。あー寒い。お前も早く家に入れ」
「うん。もうー耳が痛くて・・・あったかいココアでも飲もうっと」


私は大げさに息をつくと手を擦り合わせながら家の中へと入った。


「ただいまー」
「お帰りなさい」


リビングから母の声が聞こえる。
私はブーツを脱いでちゃんとそろえると、そのまま2階へ上がろうと階段を上りかけた。
その時、母が顔を出し、


「あら、お父さんはまだガレージ?」
「うん。もう終わるって」
「そう。あ、暖かい紅茶でも淹れる?」
「うーん・・・ココアがいいな」
「分かったわ。じゃあ早く下りてらっしゃい」
「はーい」


私は返事をするとすぐに自分の部屋へ行き、コートを脱ぎ捨てた。
そしてすぐにリモコンで暖房を入れる。


「はぁーあったかい・・・」


温風に当たると冷えていた体が少し暖まってホっと息をついた。
そして今買ってきたものを机に出しながら、ふと窓の外を見る。
ちょっと気になり窓を少し開けて下を覗いてみると、ちょうど父が家の中に入って行くのが見える。
そうとう寒いのか首を窄めながら慌てて走っていく姿に私は小さく噴出した。


父が退院してから半年。
暫くは仕事も休み自宅療養していた。
それでも昨年の秋くらいからは通常どおり会社に行き始めて今は前と同じように生活している。
正月も休み返上で働いていて母と私は心配したが、父は年明けに別に休みを取ってくれて、
今はちょうどその休みの真っ最中だ。
父曰く長い間休んでいたし仕事がしたい、と言う事だったが、やはり私や母にはもう心配かけたくないと、
今回の休みをとってくれたらしい。


(ほんとお父さんは働き者なんだから・・・。まあそこがいいとこなんだけどね)


そう思いながら私は冷たい風に顔を顰めて窓を急いで閉めた。
その時、かすかに携帯の着信音が聞こえて慌ててクローゼットを開ける。
コートのポケットに入れたままだ。


「はい、もしもし!」


急いで通話ボタンを押すと『あ、?』と今ではもう聞き慣れた声が聞こえてくる。


「あ、悠木くん」
『うん。今どこ?』
「家だよ?悠木くんは学校?」
『うん。今は部室。すげぇー寒いんだけど』
「ほーんと!今日はかなり寒いね?」
『その寒さの中、これから練習だよ・・・』


悠木くんは溜息交じりで苦笑していて私もちょっとだけ笑顔になる。


「明日は大事な試合だもんね。大丈夫?風邪引いちゃうよ?」
『一応、厚着はしてるけど、あまり着込めないしなぁ・・・あ、そうそう。明日はほんとに来るの?』
「うん。試合、午後12時くらいからだよね?」
『ああ。でも寒いし無理しなくていいよ?』
「大丈夫!すーごい着込んでいくから」


私が張り切ってそう言うと悠木くんは笑いながら「モコモコになるぞ?」なんて言っている。
今は全国高校サッカー選手権大会が開催されていて、彼の高校のサッカー部が準決勝にまで進出した。
そして明日はその試合が行われるのだが悠木くんは1年の中で唯一スタメンに選ばれたというので応援しに行く事になっている。


「せっかくスタメンに選ばれたんだから見に行かなくちゃね」
『そんな大げさだよ』
「どうして?だって明日いいプレーしたら決勝に行った時も選ばれるかもしれないじゃない」
『まあ、そうなんだけど・・・』
「あー何よ。私に来て欲しくないの?」


何となく渋る彼に私は少しおどけてそう言ってみた。
すると思った以上に慌てた声が返ってくる。


『ち、違うよ!そりゃ・・・来てくれるのは嬉しいけどさ・・・』
「けど・・・何?」
『最近ほんと寒いし・・・が風邪引いたら困るだろ?』
「大丈夫だってば。ほんといっぱい着てくし。行く時もお父さんに車で送って貰う事になってるから」
『そう?ならいいけど・・・』


悠木くんはホっとしたように呟くと、『正月以来会ってないしな』と笑った。
彼の言うとおり、最近はこの大会のせいで悠木くんは昨年の秋頃からサッカー漬けの毎日だった。
12月30日から開会式が行われ、大晦日には一回戦、年を越して1月2日には二回戦が行われた。
なので冬休みに入ったとはいっても悠木くんも元旦しか時間が取れず、2人で初詣に行って以来なのだ。


『あっと、いけね。監督が来たし行かなきゃ』
「うん。じゃあ練習頑張って。怪我しないように気をつけてね?」
『ああ。サンキュ。あ、夜にでもメールするよ』
「うん。分かった」
『じゃあな』


そこで電話が切れて私は携帯を閉じた。
そして先ほど買ってきたものを手にとる。
カイロにブランケットに厚手の手袋。
今の寒さだと、これくらいはないと試合も落ち着いて見ていられないだろう。
私はそれらを明日使う大きめのバッグに入れてから再び携帯を開いた。
明日一緒に行く約束のカオリにメールを入れないといけない。
カオリとアヤは中学を卒業した後も連絡を取り合っていて、今回も悠木くんが試合に出ると教えると
カオリが行きたいと言い出したのだ。
アヤは高校に入ってから彼氏が出来たので、明日は都合が悪く、結局私とカオリが行く事になった。


"明日11時半に国立正面入り口で。暖かい格好してきてね"


簡単な文を作成して送信すると私はそのまま下へと下りた。








「お母さん、ココア出来てる?」
「そこに出来てるわよ。もう一回暖めた方がいいかも」
「分かった」


テーブルを見るとそこにココアの入ったカップが置かれている。
だが少し冷めてしまっているのでカップごとレンジで暖めなおす。


「おい、


リビングから父の呼ぶ声が聞こえて私は暖まったカップを持ってリビングに行った。


「何?」
「明日、10時半過ぎに家を出れば間に合うか?」
「うん。11時半にカオリと待ち合わせしてるから」
「そうか。じゃあ・・・余裕を見て少しだけ早く出よう」
「そうだね。きっと混むと思うし」


ソファに腰をかけココアを飲みながら私は頷いた。
明日の試合の事を話したら父が送っていってやると言い出したのだ。
だからタイヤも今日のうちに変えたのだろう。


「なあ
「ん?」


テレビのニュースを見てると本を読んでいた父がふと顔を上げた。


「お前その・・・悠木くん・・・とか言う子と・・・だな・・・」
「?・・・悠木くんが・・・何?」


何だか気まずそうな顔をしながら視線を泳がしている父に私は首を傾げた。


「その・・・だからあれだ・・・」
「・・・だから何よ」
「いやだから・・・どういう関係というか・・・」
「え?」


その言葉にドキっとして顔を上げると、父は頭を掻きながら私を見た。


「お前・・・あれか?その子と・・・付き合って・・・るのか?」
「・・・・・・っ」


改めてそんな事を聞かれて私は顔が赤くなった。


「それは・・・」
「い、いや別にいいんだけどな?凄くいい子だって聞いてるし・・・」
「う、うん・・・」
「父さんが入院してた時も・・・色々励ましてくれたんだって?」
「・・・うん・・・そうね」
「そうか・・・いや・・・まあ・・・あれだ・・・」
「・・・何?」
「だから、ほら・・・今度・・・家に連れて来なさい。父さんも一度会ってみたいし・・・」


父はそこまで言うと照れくさそうに笑って紅茶を一口飲んだ。
そこへお母さんが苦笑しながら歩いて来る。


「何であなたが赤くなってるのよ」
「い、いいじゃないか!こういう話は照れるんだよっ」
「全く・・・いい年して・・・。それに心配性なんだから」
「む、娘の心配して何が悪いっ。いくらお前がいい子だって言っても実際に会ってみないと分からないだろう?」


父はムキになって母にそんな事を言っている。
私は内心、苦笑しながらリモコンでチャンネルを変えていった。


「あら、悠木くんは凄く爽やかでいい子よ?何て言ってもジャニーズ系の美形だし」
「ほーら見ろ。どうせそんな事だろうと思ったんだ」
「何が?」
「お前はちょーっと男前な子が来ると皆いい子なんて言うんだから。アテにならないんだ」
「あら・・・そんな事ないわ?悠木くんはほんとに素敵な子よ?まだ3回しか会ってないけど」
「3回だけで分かるわけないだろう?サッカー選手なんてチャラチャラしてるんだから」
「ちょっとあなた!それは偏見よ?それに自分だってサッカー好きじゃないの」
「す、好きとこれは別だ!だいたいベッカムだって見ろ!いい男だが浮気ばっかりしてるじゃないか」
「彼と悠木くんは一緒じゃないでしょ?何言ってるの?ねぇ?
「な、いちいちに同意を求めるな!ちょーっとジャニーズ系だと甘い顔して。ミーハーだな」
「何よ!自分だってミーハーじゃない!ハリーくんの時なんてウキウキしちゃって―」
「お、おい!」


「・・・・・・・・・」


二人のくだらないケンカを無視してテレビを見ていたが、不意にダンの話をされてドキっとした。
二人も気まずいのか急に口をつぐんで咳払いなんかしている。
私は軽く息をつくと二人が気にしないように笑顔を見せた。


「もう・・・二人ともそんな気にしないで。私なら平気だから」
「あ、いや・・・その・・・」
「それと・・・悠木くんは真面目だしチャラチャラなんてしてないよ?」
「え?あ、そ、そうか・・・。な、ならお父さんも安心だなぁ~あはは!」


父は汗を吹きつつ、そんなことを言って笑っている。
横では母が呆れたように溜息をついて、「さ、夕飯の支度でもしましょ」とキッチンに戻っていった。
すると父は誤魔化すのに、「おい、ビールくれ。ビール!」なんて叫んでいる。
それを見て私は笑いながら立ち上がった。


「私が持ってきてあげる」
「そ、そうか?じゃあ・・・頼むよ」
「うん」


そのままキッチンに行くと母が野菜を切りながら苦笑いを浮かべていた。


「お父さんってば困るとすーぐ私に当たるんだから」
「はいはい。犬も食わないケンカはやめてよね。それも私のことで」
「ま、生意気。でもほんとに今度お父さんに悠木くんを会わせてあげて?内心かなり心配みたいだから」
「い、いいけど・・・悠木くん今は忙しいし大会が終わった後でね」
「分かってるわよ。ああ、ついでにこれも持って行ってあげて。お父さんの好きなおつまみ」
「OK」


私はビールとグラスをトレーに乗せると、おつまみも受け取って一緒に持っていった。


「はい、お父さん」
「お、ありがとう」


グラスを置いてビールを注いで上げると父は嬉しそうに微笑んだ。
そして、ふと私を見ると、


「・・・まあ・・・お前が好きなら・・・お父さんも何も言わないよ」
「・・・え?」
「男を見る目はあるからな、は」
「・・・お父さん・・・」


照れくさそうにそう言った父に私は少し胸が痛くなった。


ダンの事で父も母も心配しているのは分かっている。
それでも何も聞かずにいてくれる。




「・・・ありがと」




私は心の底から父にお礼を言った。



父はそれ以上、何も言わず、ただ私の頭をクシャっと撫でて優しく微笑んでくれた―
































「ただいま」


僕がそう言って家に入るとリビングから母が迎えに出てきた。


「お帰り、ダン!どうだった?撮影は」
「んー順調に終わった」
「そう!ハリーとは違うスタッフだし疲れなかった?」
「平気。新鮮で楽しかったよ」


素っ気無くそう言うと僕はすぐに自分の部屋へと向かった。
母はまだ話したそうにしていたが諦めてリビングに戻ったようだ。


「はぁ・・・」


ボストンバックを放り出し、すぐにベッドに横になる。
今朝は早起きしたせいで少し頭が重かった。


僕は昨年末からハリーではなくほかの映画の撮影でロケに行っていた。
そして今日、久しぶりに我が家へと戻って来たところだ。
ハリー以外の撮影現場は何もかもが新鮮で思ったほど緊張もせず楽しく仕事が出来た。
だが予定が詰まっていて、その映画が終わったすぐ後にはハリーの続編の撮影が待っている。


僕は寝返りを打って溜息をついた。
母とはあれ以来何となくギクシャクしている。
長い間ホテル暮らしをしていたが学校が始まるとそうも行かず結局家に戻って来た。
それでも母とは気まずいまま、普段もそれほど会話はない。
無事に高校に入ってからは母も前ほどうるさくはなくなったが
僕の中ではまだ許せない思いが"しこり"となって残っている。
母もそれを感じているのか、ケイティの事に関しては何も言ってはこなかった。


「やべ・・・電話しないと・・・」


ふと家に着いたら電話してと言われていた事を思い出し体を起こす。
携帯を出してケイティの番号を表示すると通話ボタンを押した。


『もしもし?ダン?』
「うん。今さっき家についたよ」
『お疲れ様!疲れたでしょ』
「あーもうグッタリ・・・。そっちは仕事どう?」
『順調よ?でもまだ緊張はするけど』
「そのうち慣れるよ」
『そうね。でも・・・何だか皆にダンとのこと聞かれて困っちゃう』


ケイティはそう言って苦笑した。


「そんなの適当に流せばいいよ」


僕はそう言って再びベッドに寝転がる。


彼女と付き合いだしてから半年が過ぎた。
今では周りからも公認で僕も特に隠してはいない。
相変わらずパパラッチが張り付いてるけど僕らが未成年だからか、それほど過剰に書き立てることもなかった。
"爽やかカップル"だとか"ハリーの初恋は順調"とか書かれるくらいだ。


『・・・ねぇ、ダン』


ケイティが伺うように僕の名を呼んだ。


「ん?」
『今から・・・少し会えない・・・?』
「え?」
『今スタジオから家に戻る途中なの。ダンの家から近いし・・・』


ケイティは少し遠慮がちにそう言ってきた。
正直、今日は疲れていたが確かにロケに行っていたから暫く会っていない。
僕は体を起こして時計を見た。


「いいよ。まだ7時だし」
『ほんと?じゃあ・・・あと10分くらいでダンの家につくから・・・ついたらまた電話する』
「分かった。じゃあワンコールして。出てくし」
『分かったわ?じゃあ後で』


ケイティは嬉しそうな声でそう言うと電話を切った。
僕は携帯を閉じるとベッドから下りてバスルームに向かった。
冷たい水で顔を洗い眠気を飛ばすとコートを羽織ってポケットに携帯と財布を押し込む。
そのまま部屋を出てリビングに下りていった。


「あら、ダン・・・どこ行くの?」


僕が顔を出すと母が驚いたようにソファから立ち上がった。


「ちょっと出てくる。すぐ戻るよ」
「で、出てくるって戻ったばかりじゃない・・・」
「友達と会ってくる。ちょっとお茶飲んでくるだけだから」


そう言ってソファに座ると母は少し怖い顔で隣に座った。


「友達って?あのケイティとかいう子?」
「いいだろ、誰だって」


素っ気なく言い返すと母は顔を思い切り顰めた。


「ダン・・・前から言おうと思ってたけど・・・」
「何だよ。また別れろって言いたいの?」
「ダン・・・」
「ちゃんと母さんの言うとおり勉強だってしてるし仕事だってしてるだろ」
「そうだけど・・・。その子どういう子なの?一度母さんにも紹介してちょうだい」
「何で?」
「何でって・・・心配だからよ。あなたを利用しようとする子かもしれないでしょ?」
「はあ?どういう意味だよ」


母さんの言葉にカチンときて僕はソファから立ち上がった。
だが母さんは僕を見上げると溜息をついている。


「あの子は新人でしょ?ならダンに近づいて有名になろうとするかもしれないじゃない」
「何だよ、それ。彼女はそんな子じゃないよ」
「分からないでしょ?それにダン・・・あの子の事本気で好きなの?」
「・・・・・・どういう・・・意味?」


顔を逸らして呟くと母もソファから立ち上がった。


「あなた・・・あの日本に帰った子が好きだったんでしょ?」
「―――ッ」
「お母さんに必死に言ってたじゃない・・・。なのにもう他の子が好きなの?」
「・・・勝手なこと言うなよ!」
「――ダン・・・」


カっときて、つい大きな声を出していた。
母も驚いたのか目を丸くしている。


に酷い事言ったのは母さんだろ?!僕とに別れて欲しかったんだろ?!」
「ダン・・・それは―」
「なのに今度はケイティと別れさせるためにのこと持ち出すのかよ!勝手なんだよ!」
「ダン!何も母さんは―」




プルルルルル・・・




「・・・・・・っ?」
「・・・友達来たからもう行くよ・・・」
「ダン・・・待って!ダン?!」



母さんの声を振り切るように僕は家を飛び出した。
怒りのせいで顔が熱く、外の冷たい空気が気持ちよく感じた。
一気に走って門を出ればケイティが笑顔でこっちに手を振っているのが見えて僕も彼女の方へ軽く手を上げた。


「ダン!」


僕が歩いて行くとケイティは笑顔で抱きついてきた。
その体を軽く抱きしめると、「元気だった?」と尋ねる。


「うん。ダンは?何だか・・・少し身長も伸びたみたい・・・」
「そう?」
「うん・・・髪も短くなったし・・・大人っぽくなったね?」


ケイティは顔を上げると僕に微笑んだ。


「ケイティも・・・髪伸びたんじゃない?」
「うん。ダンが長い髪が好きだって言うから切らずに伸ばしてるの」
「・・・・・・」


彼女の言葉に何も言わず、ただ微笑んだ。
そのまま二人でゆっくりと歩き出す。


「どうする?どこかカフェでも行く?」


僕が尋ねるとケイティは軽く首を振って僕の腕に自分の腕を絡めてきた。


「ううん・・・人がいない方がいい・・・」
「でも・・・寒くない?」
「寒くないよ?ダンがいるから」


ケイティはそう言ってチラっと僕を見上げると照れたように微笑んだ。
そして風に吹かれる髪を指でそっとかきあげる。
その黒い瞳と長い髪を見て一瞬、ケイティが彼女の面影と重なって見えた。


「ダン?どうしたの?ジっと見て・・・」
「・・・あ・・・いや・・・何でもないよ」



不意に彼女が顔を上げて不思議そうな顔をしたから僕は慌てて視線を逸らした。
胸の奥にチリチリ焦げ付くような痛みが走る。
閉じ込めたはずの想いが時々こうして溢れてきそうになり僕は軽く頭を振った。
すると突然ケイティが足を止めた。


「・・・どうしたの?」


僕も足を止め彼女を見る。
ケイティは少し俯いたまま黙っていた。
だがふと顔を上げるといきなり僕の手を引っ張って再び歩き出す。


「ちょ・・・ケイティ?」


驚いて声をかけるがケイティは何も答えず、そのまま目の前に見えてきたケンジントン・ガーデンズへと入って行った。
そこは前にが住んでいた家の近くのパレスゲイト。
僕がと一番最初に待ち合わせをした場所だった。


「お、おいケイティ、どうした―」


様子のおかしい彼女に再び声をかけようとしたその時、ケイティが立ち止まり僕の方に振り向いた。
そしてそのまま僕に抱きつくと、顔を上げてチュっとキスをしてきた。


「な・・・」
「・・・ダンにキスしたかったの」


驚いたままの僕にケイティはそう言って目を伏せた。
その顔は薄っすらと赤く染まっている。
そんな彼女に僕は小さく息をつくとそっと抱き寄せた。


「・・・呆れた?」
「いや・・・驚いたけどね」
「だって・・・」


彼女を抱きしめなら苦笑するとケイティは恥ずかしいのか僕の胸に顔を埋めた。


「久しぶりに会えたし・・・二人きりになりたかったんだもん」
「・・・ここは公園だよ?」
「でも誰もいないよ?この時間じゃ・・・」


ケイティはそう言ってちょっとだけ笑った。
確かに夜になると、この辺は人通りも少ない。
奥に行けばデートをしている恋人同士もいるが今時期は寒いのか普段よりもシーンとしていた。
でも僕はケイティを抱きしめながらも思い出すのはあの日々の出来事。
ここをと二人で歩いた事や、雨の日、この木の下でフレッドが迎えに来るのを待ってた事・・・
あの日以来ここへは来ていなかった。
こんな風に・・・思い出したくない思い出が蘇って来るから―



「・・・ダン?」
「・・・え?」


不意にケイティが僕から離れてハっとした。


「また・・・ボーっとしてる・・・」
「あ・・・ごめん・・・」


少しスネたように唇を尖らせる彼女に僕は慌てて笑顔を作った。
だがケイティは少し目を伏せると、小さく息を吐き出した。


「ダンは・・・時々そんな風に遠くを見てるから・・・怖くなる」
「・・・ケイティ・・・」
「もしかして・・・まだ忘れられない?」
「え・・・?」


ドキっとして彼女を見るとケイティの瞳が悲しげに揺れていた。


って子の事・・・まだ・・・好きなの・・・?」
「ケイティ・・・」


の話をされて鼓動が一瞬で早くなる。
ケイティは本気で心配しているのか、キュっと唇を噛んで僕を見つめていた。


忘れられない・・・?いや・・・忘れなくちゃいけないんだ・・・
からの連絡はなかった。
それはがロンドンに戻ってくる気はないと言う事・・・
僕とやり直す気は・・・ないという事だから。


なのに・・・あれから1年近くにもなるのに、どうしてこんなに胸が痛むんだろう?
こうして他の子とも付き合って少しづつ生活も変わってきてるというのに。


「・・・ダン・・・?」


僕が黙っているとケイティの瞳から涙が一粒零れ落ちた。
きっと答えなかった事で自分の不安が当たったと思ったのかもしれない。
僕はちょっと微笑むと彼女の涙を指で拭ってあげた。


「そんな事ないよ・・・心配しないで」
「でも・・・ん・・・」


何かを言いかけた彼女の唇を塞ぐとケイティはギュっと腕を掴んできた。
軽く抱き寄せ、もう一度ゆっくり口付ける。


「・・・好きよ、ダン・・・」



小さな声が僕の耳に届き、それに答えるかのように彼女を強く抱きしめる。



今の僕にはそうする事しか出来なかった―

















カチャ・・・




ドアの開く音がしてマーシャはハっと顔を上げた。


「・・・ダンなの?」


そう声をかけるも返事はなく、ただ静かな足音だけが階段を上がっていき、やがてドアの閉まる音が聞こえた。


「ダン・・・」


マーシャは軽く溜息をつくと再びソファに腰をかける。
とにかく息子が戻ってホっとしていた。
いくら高校に入学し16歳になったと言ってもマーシャは未だ息子の事が心配だった。
特殊な仕事をしているせいで色々な人間も近づいてくる。
特に女の子にはマーシャも気をつけていた。
前に年上の女の子と付き合ってたのも知っている。
だが思春期には誰でも興味のある事で、そんなものはすぐ冷めるだろうと安心していたのだ。
そしてその勘は辺り、ダンはその彼女と別れて新しい学校へと転校した。
だが・・・そこで知り合ったという日本人の女の子。
ダンはに出逢って、それまでの彼とは別人のように変わってしまった。


あの頃・・・マーシャは何度もダンに「と会って欲しい」と言われていた。
そのたびに最初はまた日本の子だし興味本位で付き合ってるのだろうと適当に流していたのだ。
だが今回マーシャの予想は大きく外れた。
15歳という若さであれほど本気になるとは思わなかったのだ。
そこで心配になったのはこれからの事。
受験もあったし仕事の事もある。
ダンは普通の中学生ではないのだ。
いつでも誰かが見ているし、何かをすればすぐ記事になってしまう世界にいる。
それが母親としては一番の心配だった。
だからこそ、悪いとは思ったがに酷い事を言ってしまった。
いや・・・あの時はダンが女の子をホテルにかくまっていると知ってカっとなったのもある。
この子のせいで息子がダメになると本気で思ったのだ。
マーシャは母として息子を守るつもりでに敢えて、ああ言ったのだった。
しかし・・・その事が原因でダンと気まずくなった事は後悔している。
でも、それでもあの時はああするしかなかった。
息子はまだ16歳だ。
まだまだ勉強する事もたくさんある。
恋なんてもっと大人になってからすればいいとマーシャは思っていた。
今も出来ればケイティと別れて欲しいと思っている。
女の子の事で色々と記事に書かれるのもだが仕事や勉強にも影響が出そうで嫌なのだ。
だがの事で今は険悪なムードになっている。
なのでマーシャもケイティの事で強くはいえないでいた。


「はぁ・・・」


再び溜息をつくとマーシャは夕飯の用意をしようと立ち上がった。
だがふと大きな棚の前に立つと一番下の引出しを開けて奥から一枚の封筒を取り出す。
そこには"From.japan..."と印が押してあった。


「ごめんね、ダン・・・」



マーシャはそう呟くと再び封筒を奥へとしまい引出しを閉めると最後に小さな鍵をかけたのだった―

























!こっち!」



会場につき、門の辺りを見渡していると遠くからカオリが手を振っているのが見えた。


~!久しぶり!」


私が大きな荷物を抱えて走っていくとカオリがガバっと抱きついてきた。


「元気だった?」
「うん。何とかね!カオリはどう?新しい学校。もう慣れた?」
「うーん、まあまあってとこかな?前とあまり変わってないけどね」


カオリはそう言って肩を竦めた。
卒業して二ヶ月ほど経った頃、カオリからメールが来た。
その時は知らない子ばかりで、かつノリが合わないからなかなか馴染めないと言っていたのだ。


「それにしても・・・凄い荷物ね、。何持ってきたの?」
「あ、これ?寒いから・・・ブランケットと・・・カイロでしょ?で、これはお母さんが飲みなさいって・・・」
「うわ、ポットなんて持ってきたの?紅茶か何か?」
「うん。会場で買えるって言ったんだけど・・・どうせ並ぶの面倒でしょって」


私が苦笑するとカオリも笑いながら、「まあその通りね。助かる」なんて言っている。


「じゃあ席に行く?もう自由席の人たちはサッサと入ってるし」
「そうね。じゃあ行こっか」


そう言って歩き出しながら、ふと後ろを振り返った。
すると父がまだ車を止めていてこっちに手を振っている。


「あれ?おじさん?」
「うん。送ってくれたの」


そう言いながら私も父に手を振り返す。
すると父は安心したのか、パッパっとクラクションを鳴らしてから帰っていった。


「おじさん、元気そうね!」
「うん、もうすっかり。今じゃ前以上に働いてるし私とお母さんはヒヤヒヤものだけど」
「そっかぁ。でも良かった!私、パパのファンなんだよねー面白いし」


カオリはそんな事を言って笑っている。
それには私も溜息をついた。


「面白くないわよ・・・。今日だって送るだけじゃつまんないし試合一緒に見ていこうかなって言うのよ?」
「えーいいじゃん」
「嫌よ。どうせお父さんは悠木くんが見たいだけなんだから。もうチケット完売よって言ったら軽くへこんでたわ?」
「あはは!おじさんらっすぃー!まあでもねー心配なんでしょ。娘に彼氏が出来れば」
「それは・・・分かるけど・・・」


そう言いつつ会場に入ると自分達の席を探す。
ちょうど悠木くんの高校の生徒らしい人たちがいる辺りに席があって私とカオリはそこに座った。
この席は悠木くんが用意してくれたものだ。


「へぇー。ここならかなり見やすいんじゃない?」
「そうね。けっこう前の方だし見分けがつきそう」


その席はベンチ側の後ろにあたる席で、ちょうど悠木くんの高校のベンチが前に見えた。


「へぇ・・・結構生徒が来てるんじゃない?後ろの子達とかそうでしょ、きっと」


カオリの言葉に後ろを見れば確かに高校生らしき塊が何十人と座っていて皆、同じ紋章の旗を振っている。
その紋章は悠木くんの高校のものだ。


「それで・・・どう?」
「え?」


私がブランケットを出してカオリの膝と自分の膝にかけていると不意にそんな事を訊かれた。


「どうって・・・何が?」
「だから悠木と付き合ってみて!もう半年くらいでしょ?」
「あ・・・うん、まあ・・・」
「ほんとビックリしたんだから、それ聞いた時は!あんなに渋ってたのにって」


カオリはそう言いながらポットから紅茶を注いで飲んでいる。
私も自分の分を飲みながら笑って誤魔化した。


「やっぱ悠木の熱意に負けたの?」
「そ、そんなんじゃ・・・。い、いいじゃない、そんなこと」
「よくないわよー。うちの中学の奴とか結構ビックリしてる奴多いってよ?」
「え・・・?」
「アヤの高校に隣のクラスだった子がいるみたいなんだけど、その子も悠木のこと好きだったみたい」
「そ、そう・・・なの?」
「うん。何だかアヤにあれこれ訊いてくるみたいで。まあ、あいつモテてたしねー」



カオリはそんなことを言いながら呑気に笑っている。
だが私は何となく複雑な気分だった。


確かに・・・私が憧れてた頃から悠木くんモテてたっけ・・・
他のクラスの子や後輩の子に告白されたって話よく訊いたし・・・
そのたびに、いちいち気になったりしてたな。
そう考えると今、自分がその悠木くんと付き合ってるなんて・・・変な感じがする。


そんな事を考えているとカオリはバッグの中から持参のお菓子を出して食べ始めた。


も食べる?」
「あ、ありがと。さすがカオリ、用意がいいね」
「だってサッカーの試合ってこんな大きな大会初めてだしワクワクしちゃって!ピクニック気分よ」
「私も。国立ってテレビでしか見た事なかったし」
「私も!こんな風になってるのねー。ほら代表戦もここでよく試合してるじゃない」
「そうみたいね」


二人で他愛もない話をしながら試合開始の時間を待っていた。
するといきなり後ろから肩を叩かれドキっとして振り返ると―


「あ、やっぱり!悠木の彼女だ」
「あ・・・こんにちわ・・・」


私は驚いて椅子から立ち上がった。
そこには前に渋谷で会った悠木くんの友達の彼女―確か橘という名前だった―が笑顔で立っている。


「橘さん・・・?」
「そうそう!ちゃんだよね!今日来るって訊いてたから探してたの」


橘という子はそう言って笑いながら茶色い髪をかきあげた。
この前と同様、お化粧をしているからか少し年上に見える。
派手な色のフリースにミニスカートにブーツといった格好はどう見ても寒そうだ。


「友達?」
「あ、中学の時の・・・」


彼女は座っているカオリの方を見て訊いてきた。


「そっか。私も友達と来たんだ。ほら後ろにいる子達」


そう言って彼女は後ろを見た。
私も顔を上げると確かに似た感じの格好をした女の子が数人固まって手を振って騒いでいる。


「あいつら、悠木の彼女が見たいってうるさくてさ」
「え・・・?」
「あいつ人気あんだよねー。私の友達も一人ファンがいて。ほらあの一番背が大きい奴。弥生ってんだけど」


そう言われて見ると一人身長の大きな子がいて私の事をチラチラ見ている。
その子はかなりの美人でその中でも一番目立っていた。


「あ、あの・・・」
「あーごめんね?気にしないで。あいつ、私が悠木の好きな子に会ったって言ったら自分も見たいって言いだしてさ」
「・・・・・・」


そう言われて何と答えていいものやら困りながら私は少し俯いた。
すると彼女は笑いながら、


「ま、私の友達だけじゃなくて・・・ほら、そこにいる3人組もだよ?」
「え?」
「隣のクラスの女なんだけど、あの子らのうち2人は悠木のファン。あの眼鏡ちゃんは私の彼のファン」


橘という子はそう言ってケラケラ笑っている。
彼女の友達の更に後ろにいる子達を見ると女の子が3人座っていて彼女達も何故かこっちを見ていた。


「うちらの会話聞こえちゃったみたいでさ。ちゃんのこと気にしてるみたい」
「・・・あの・・・」
「ま、うちのサッカー部って強いし人気あるんだよね。だからちゃんもあんま悠木を放っておかない方がいいよ?」
「・・・はあ」
「んじゃ寒いけど頑張って応援しようね!」


彼女はそう言って私の肩をポンポンと叩くと自分の席へと戻っていった。
私は軽く息をついて椅子に座るとカオリが顔を顰めて後ろを見ている。


「何なの、あの子」
「あ・・・前に悠木くんと渋谷に行ったら会って・・・友達の彼女みたい」
「ふーん。何だか派手だね。それにを不安にさせるような事ばっか言っちゃって」


カオリはそう言いながら口を尖らせている。


「私なら・・・大丈夫だよ・・・?」
「なーに言ってんの!少しは危機感もたないと!」
「き、危機感って・・・大げさなんだから・・・」


カオリの言葉に苦笑すると彼女は更に呆れ顔で首を振った。


「もうーは呑気ね!悠木が浮気でもしたらどうすんの?」
「う、浮気って・・・」
「まぁ・・・悠木はにべた惚れだしそんな心配ないかもしれないけどさー」
「・・・・・・」
「でもそっかー。やっぱあいつモテるんだぁ・・・。へーあんなにファンがねぇ・・・」


カオリはチラチラ後ろを見ながら何やら感心している。
私はちょっと恥ずかしくなってポットから紅茶を注いで一口飲んだ。
するとカオリがニヤっとしながら体を寄せてくる。


「ねね」
「な、何よ・・・」
ってさ、悠木とどこまでいってんの?」
「・・・は?」
「は?じゃなくて!どこまでいってんのよ」
「な、何がよ・・・っ」


その質問に私は一気に顔が赤くなってしまった。
だがカオリはニヤニヤしながら肘で突付いてくる。


「また~分かってるくせに!何、もうキスとかしちゃった?あ、それとも・・・最後までしちゃったとか?」
「バ・・・!バカなこと言わないで・・・っ」


カオリのとんでもない発言に私は耳まで赤くなってしまった。
風は冷たいのに顔だけ一気に熱くなる。


「え~?バカな事じゃないでしょ?普通16歳って言えばもう皆済んでるわよー」
「な・・・う、嘘言わないでよ!そ、それに私と悠木くんは何もしてな―」


そこまで言って慌てて口を塞いだ。
だがカオリは驚いたように口を開けて「えぇーまだキスもしてないの?!」と大きな声を出してギョっとする。


「ちょ、ちょっと声が大きい!」
「あ、ご、ごめん・・・って嘘でしょー?!あんた達、半年も付き合っててキスもないって・・・っ」
「い、いいでしょ?!そんなの!放っておいてよ!」


恥ずかしさのあまり腹が立ってきて私は思い切り顔を逸らした。
だがカオリはまだ驚いていて、「うっそ~!あんた達、おかしいわー」なんて言っている。


「アヤだって、この前、彼氏とエッチしちゃったって言ってたのにキスもまだなんて子もいるんだー」
「えっ!!ア、アヤがって・・・嘘でしょ?」


私はそっちの方が驚いてしまった。
それでもカオリは笑いながら肩を竦めている。


「だから普通してるわよ、そのくらい。の方が貴重よ、貴重!ね、何でキスもしないわけ?」
「い、いいじゃない!私達はゆっくり付き合ってるの!」
「バカねー。何、大正生まれみたいな事言ってんの?だいたい悠木せまってきたりしないわけ?」
「・・・し、しないわよ・・・」
「嘘ー。あいつ何考えてんだろ・・・。ってかが拒んでるんじゃないの?」


そう言いながら目を細めるカオリに私はムっとした。


「こ、拒んでなんか・・・。ほんとに悠木くんは何もしてこないもの!」
「ひゃー嘘みたい!今時何もしてこない男なんているんだー。悠木ってほんと変だわ・・・」
「ちょ、ちょっと!失礼でしょ?変なんて!」
「ごめん、ごめん。だってあまりに驚いちゃって・・・いやーあの悠木がねぇ~」
「も、もういいでしょ!この話はやめ!」


話題を変えたくて私はそう言うと早く始まらないかと腕時計を見た。
だがカオリは呆れたように溜息をつくと私の顔を覗き込んでくる。


「あんた達、ほんと付き合ってんの?」
「・・・何が?」
「まだ友達づきあいから抜け出せてないんじゃない?」
「そ、そんなこと―」
「きっと悠木は遠慮してるだけだと思うけどなー」


カオリはしみじみ言うと大きく溜息をついている。


「もう・・・放っておいてよ・・・」
「そんな呑気に・・・。それじゃあ後ろにいるライバル達にとられるよ?」
「な・・・何言って―」


言い返そうとした時、音楽が流れ出し、アナウンスが会場に響き渡った。


『第84回、全国高校サッカー選手権、準決勝を―』


「あ、始まるよ?」
「わ、選手入場かな!」


そこでやっとカオリも前を向き、覗き込むように体を前に出した。


『・・・選手の入場です!』



そのアナウンスが流れた時、あの高校サッカーのテーマソングが流れ出し、ユニフォームを来た選手が入場してきた。
その瞬間、会場に歓声が響き渡る。


「うわ、出てきた!ね、悠木は?どこ?」


カオリは半分腰を浮かせながら次々に歩いて来る選手を見ている。
私も目を凝らして見てみると選手がこっちを向いて立った時、彼を見つけた。


「あ、あそこ!右から三番目」
「嘘、あ!悠木だ!キャ~!悠木ーー!」
「ちょ、ちょっとカオリ!」



いきなり立ち上がって手を振り出したカオリの腕を私は慌てて引っ張った。
それにはカオリも渋々座るも、何だか一人で興奮している。


「ちょっとー!悠木カッコよくない?あのユニフォーム似合うじゃん!」
「カオリ・・・!」
「何よ、いいじゃない!私達は中学からの友達なんだし!」



カオリはそう言いながらワクワクしたようにはしゃいでいる。
私はちょっと苦笑しながらも選手たちが並んでいるところを見た。


「ねー相手の高校強いのかな」
「さあ。その辺の知識ないから分からないけど・・・悠木くんは強いって言ってたかな」
「へーえ。ま、でも勝つでしょ!早く始まらないかなー」


カオリはそう言ってお菓子を食べつつ入り口でもらったプログラムを見ている。



その時、キックオフの笛が鳴らされた―

























「はーー凄いね!悠木の奴、4本もシュート打ったし!」
「うん。でも相手もさすがにガード厳しいね」



ハーフタイム、私とカオリは今のうちに、とトイレに来ていた。
女子トイレの前はかなりの列が出来ていて、なかなか前に進まない。
私とカオリは前半の試合の話をしながら自分の順番が来るのを待っていた。


「でもさー結構こっちが攻めてるし後半に点が入りそうじゃない?」
「うん。でも何だかこっちが緊張しちゃう」
「そりゃ彼女だし当然でしょ。でもさー悠木もこれでまたファンが増えちゃうんじゃないの?」


カオリはからかうように私を肘で突付いた。
その言葉に苦笑しながら、私も内心そうだろうなと思った。
前半、ミットフィルダーの悠木くんはかなりいいパスを出しながらも
チャンスがあると自らシュートを打って相手を攻めていた。
キーパーに邪魔されゴールにはならなかったものの、かなり自分たちのペースで試合を運んでいる。
そのプレーで悠木くんはメンバーの中でも目立っているし他の選手も頼りにしているように見えた。
今日はJリーグのスカウト達も見に来るからいいプレーをしないと、と今朝電話が来た時も言っていたのを思い出す。


「これでスカウトされればいいねー。あ、開いた。先入るね」


トイレが開き、カオリが先に中へと入った。
私はその次に並んで他が開くのを待っていると、すぐ後ろで「悠木くんが・・・」という声が聞こえてきた。
何となく視線を向けると先ほど橘という子が教えてくれた悠木くんのファンだという3人組が後ろに並んでいる。


「もうーカッコいいよねー!絶対ゴール決めて欲しくない?」
「ねー?でも後半絶対ゴールすると思うなぁ~」


そんな会話が聞こえてきて私は皆、同じ事を考えるんだなぁなんて思っていた。
だが次にその子達が話し出したのは―


「ねーでもさー。さっき見た彼女?何だか想像と違ったんだけど」
「あーそうそう。私もっと大人っぽい人かと思ってた!」
「だよねー?でもあの彼女何だか小さくて全然大人っぽくなかったー」
「悠木くんってあんな感じの子がタイプなのかな」
「あーだって中学の時からずっと片思いしてたんでしょー?ショックー」
「どこがいいんだろうねー。あんな普通の子ー」


「・・・・・・・・・」


胸の奥がズキズキした。


きっと彼女たちはそれだけ悠木くんの事が好きなんだろうなと思って私は顔が上げられなかった。


私は・・・そこまで彼の事好きなんだろうか。
さっきから聞かされる悠木くんの話を私はどこかで冷静に聞いてた気がする。


(普通なら・・・もっと心配したりするものなんじゃないかな・・・)


ふと、そんな事を考えて軽く息をついた。





















「ほんと凄かったね、あのゴール!!」



試合が終わってもカオリは興奮冷め遣らずといった様子ではしゃいでいる。
0―0のまま折り返した後半、残り15分を切ったところでやっと試合が動いた。
再三いい動きをしていた悠木くんがチャンスをつくり最高のパスを出した。
それをFWが見事にゴール。
その後のロスタイムで今度は悠木くんが相手DFを2人も抜いて突破し見事ゴールを決めたのだ。
結果、2―0で悠木くんの高校が決勝に進出した。


「もーにくいねー!悠木の奴!あそこでパス出すと見せかけて突破しちゃうんだから!」
「そうね。私も驚いちゃった」


帰りにファミレスで軽くお茶を飲んで来た私達は家までの道のりを歩きながらも、まだ試合の話で盛り上がっている。
だがもうすぐで家というところで私の携帯が鳴った。


「お♪噂をすれば、じゃない?」
「え、でもまだ帰ってないんじゃ―」


そう言いながら急いで携帯をポケットから取り出しディスプレイを確認する。
すると横から覗いたカオリがニヤっと笑った。


「ほーら。やっぱ悠木からだ」
「な、何よ、その顔・・・」


更にニヤニヤするカオリを睨みつつ、私は軽く咳払いをしてから通話ボタンを押した。


「も、もしもし・・・?」
『あ、?俺!』


悠木くんはまだ興奮してるのか、少しテンションが高いようだ。


「あ・・・お疲れ様。決勝進出おめでとう」


隣で聞き耳を立てているカオリに背中を向けながらも私は勝利のお祝いを伝えた。
すると悠木くんは嬉しそうに『サンキュ!勝ってホっとしたよ』と苦笑を洩らした。


『あ、それでさ・・・今帰ってる途中なんだけど・・・後で会えるかな』
「・・・あ・・・うん」
『ほんと?じゃあ・・・一度帰って着替えたら・・・速攻で行くよ』
「うん・・・分かった」
『じゃあ、ついたらワンコールする』
「うん。じゃ気をつけてね?」
『ああ。後でな』


そこで電話が切れて私は携帯を閉じて振り返った。
するとニヤリとしたカオリと目が合い顔がかすかに赤くなる。


「な・・・何よ」
「ははーん。悠木、会いたいって?」
「え?」
「その顔は当たりだ!」


カオリは私の鼻先を指差しニヤニヤしている。
私はその手を払って「その顔やめてよ」と口を尖らせた。


「やっぱ試合の後には好きな子に会いたいんだね~」
「ちょ・・・カオリ!そんなんじゃ・・・ただ最近会ってないから今日は夜ちょっとだけ会う約束してたの!」
「あーなるほど♪約束してたんだー」
「・・・もう・・・からかってばっかりなんだから・・・」


一人楽しそうなカオリに私は溜息をついた。
だがカオリはちょっと笑うと私の肩に腕を回して歩き出す。


「まあまあ!私は嬉しいのよ!」
「・・・え?」
がやっと自然に笑うようになって」
「・・・カオリ・・・?」


その言葉に驚いて顔を上げるとカオリは照れくさそうに笑った。


「ほら・・・ってばロンドンから帰ってきてずっと元気なかったし・・・」
「・・・カオリ」
「笑ってても、どこか無理してるって感じだったから心配してたの。アヤもそうだよ?」
「・・・ごめん」
「いいよ。何となく聞いて分かってるし・・・。うちら色々言ったけどさ。やっぱ好きな人と離れるのって凄く辛かったと思うし」


カオリはそう言うと腕を放してバッグをかけなおした。


「悠木は本当にの事好きだと思うよ。だからも心開いて素直に甘えたら?」
「・・・え?」
「あいつ、照れ屋だしクールぶってるとこあるけど内心じゃ凄くの事好きなんだと思うよ?」
「・・・カオリ・・・」
「だからキスの一つも出来ないって男心も分かってやんなさい!」
「ちょ!何言って―」


私が赤くなるとカオリは楽しそうに笑って、


「ま、今夜あたりキスのご褒美あげたら?あんなに活躍したんだし!」
「・・・ご、ご褒美って・・・!」
「まあまあ!じゃ私は帰って一人寂しく今日の試合のビデオでも見るわ!」
「あ、ちょ、ちょっとカオリ―!」
「またメールするねー!今夜のこと報告してよ?」


カオリはそう言いながら手を振りつつ走って行ってしまった。
取り残された私は何だか顔が熱くて両手で頬を抑えると力が抜けたように溜息をついた。


「全くもう・・・好き勝手言ってサッサと帰るんだから・・・」


ブツブツ言いながら私も寒くなってきて急いで家へと戻った。






それから40分後、約束のワンコールが鳴り、私はお母さんにだけ「ちょっと出てくる」と伝え外に出た。
門に歩いて行くと、そこに悠木くんが寄りかかっているのが見える。


「あ、抜け出して大丈夫だった?」


私が歩いて行くと悠木くんは家の方をチラっと見た。
彼はこうして、いつも両親の事を気にしてくれる。


「うん。お母さんには言ってきたから。お父さんはテレビ見ながら寝ちゃってる」
「そっか・・・」


悠木くんはホっとしたように笑顔を見せると、そっと私の手を繋いだ。


「寒くない?」
「うん。いっぱい着込んできたから」
「どおりでモコモコしてると思った」
「あ・・・太ってるって言いたいわけ?」
「ち、違うよ・・・それには痩せすぎだろ?」


私の一言に悠木くんは焦ったように、そう言いながらゆっくりと手を引いて歩いて行く。
最近、こうして会う時は必ず家の裏側にある小さな公園に行くのだ。


「今日、試合凄かったね?」


公園についてブランコに座ると私は笑顔で悠木くんを見上げた。
目の前に立った悠木くんはちょっと照れたように笑って、「たまたまだよ」なんて呟く。


「嘘ー。あれ絶対狙ってたねってカオリと言ってたのよ?」
「あはは!狙ってないといえば嘘になるけど・・・まさかあんなアッサリ抜けると思わなかったしさ」


悠木くんがそう言いながら顔を上げると白い息が夜空にふわりと舞い上がっていく。


「あのパスも凄かった。カオリなんて立ち上がって叫んでたよ?」
「あー知ってる」
「え?見えたの?」


驚いて私が立ち上がると悠木くんは苦笑しながら私のマフラーを巻きなおしてくれた。


「試合中は分からないけど・・・試合前にあいつ俺の名前叫んで立ち上がったろ」
「あ・・・そう言えば・・・」
「一瞬、歓声が止んだときにあれだけ大きな声で叫べば聞こえるし。しかも立って手振ってるしさ」
「それもそうだね。かなり目立ってた」


私もクスクス笑いながら彼を見上げると、


「俺もつい手を振り返しそうになったよ」


なんて言って笑っている。
それにはまた噴出してしまった。


「皆、神妙な顔で立ってるのに」
「だろ?だから笑い堪えるのに必死でさ」
「嘘ー。そんな風に見えなかったよ?緊張もしてなかったみたいだし余裕って顔してた」
「まさか!凄い緊張してたよ?でもカオリの声援でそれもすぐ消えたけどな」
「あはは・・・じゃあ少しは役に立ったんだ」
「そういう事になるな・・・」


私の言葉に悠木くんもちょっと笑って私の手をそっと握った。


「・・・寒くなかった?」
「・・・うん。ちゃんと完全防備して見てたから」


冷えた手が彼の体温で温められていくのが照れくさくて私は少し目を伏せた。
彼は、「そっか。じゃあ良かった」とホっとしたように呟いてかすかに笑顔を見せている。
そして軽く息をつくと、


「さっき試合後にさ」
「え?」
「スカウトの人が俺のとこ来たんだ・・・」
「・・・嘘・・・ほんとに?」
「ああ」


私が驚いて顔を上げると悠木くんは照れたように微笑んだ。


「決勝も・・・見に来るって言ってくれてさ」
「凄い・・・。だってまだ1年なのに・・・」
「その人、中学から見ててくれたらしいんだ」
「え、ほんとに?」
「うん」


悠木くんは嬉しそうに頷くと、「明後日の決勝も・・・頑張らないと」と言って私の頭にポンと手を置いた。
少し顔を上げると悠木くんと至近距離で目が合いドキっとする。


"ま、今夜あたりキスのご褒美あげたら?"


不意にさっきカオリから言われた言葉を思い出して慌てて目を伏せた。


「あ・・・そ、そう言えば・・・会場であの人に会ったよ・・・?」
「え?」


この雰囲気を誤魔化すのに私はふと思い出した事を口にした。


「ほら・・・橘さんって人・・・」
「ああ、橘か。え、会ったって・・・話したのか?」
「うん。座ってたら話し掛けられて・・・友達と来てたみたい」
「ああ・・・あいつらね・・・。いっつもつるんでるからさ」


悠木くんはそう言って苦笑するもすぐに不安げな顔で私の顔を覗き込んだ。


「で・・・あいつ何で声かけてきたの?」
「え?あ・・・っと・・・それは・・・」
「もしかして・・・何か余計な事でも―」
「あ、そんな・・・気にすることじゃ・・・」


慌てて首を振ると悠木くんは訝しげな顔で私を見た。


「ほんとに?」
「う、うん・・・えっと・・・悠木くんの・・・ファンが・・・私を見たがってるって・・・」
「な・・・何、あいつそんな事言ったのっ?」
「う、うん・・・悠木は人気あるから放っておかない方がいいよって・・・」
「・・・げ・・・」


悠木くんは思いきり顔を顰めて頭を項垂れた。


「ったく!余計なことに言いやがって―」
「あ、でも別に気にしてないし・・・」



私は彼が気にしないようにと言ったつもりだった。
だが悠木くんは何だか複雑そうな顔をしている。


「それも・・・ちょっと寂しいかも・・・」
「え・・・?」


その言葉に顔を上げると少しスネたような顔をしている悠木くんと目が合った。
私はその顔を見てつい噴出してしまった。


「何だよ・・・笑うなよ・・・」
「だ、だって・・・悠木くんのそんな顔、初めて見た・・・」


そう言ってクスクス笑うと彼はますますスネたように目を細めた。


「そりゃ・・・少しは焼きもち妬いて欲しいだろ・・・?気にしてないってアッサリ言われたらさ」
「え・・・」


ドキっとして顔を上げると悠木くんはスネた顔から、ふと笑顔を見せる。


「ほんと・・・って素直だよな・・・」


そのまま腕を引っ張られた。
気づけば彼の腕にギュっと抱きしめられていて更に鼓動が跳ね上がる。
初めて・・・こんな風に彼に抱きしめられた。


「ゆ・・・悠木くん・・・?」
「明後日の決勝が終われば・・・少し部活も休めるからさ・・・。そしたら・・・どっか行こうか」


彼の擦れた声がすぐ耳元で聞こえて私はドキドキしながらも小さく頷いた。
すると背中に回っている腕にかすかに力が入るのが分かり、私は胸元に顔を埋めた。
悠木くんのコートからはかすかに彼の香りがする。
前に後輩からもらったという香水の香り。
学校ではつけないけど普段、私服の時、悠木くんは必ずこの匂いがする。
知ってるけど知らない・・・"ダン以外"の男の人の香り・・・


その時、不意に体が離れた。


「あ・・・とごめん・・・急に・・・」


視線を逸らしながら慌てたように腕を放す悠木くんに私も照れくさくて小さく首を振った。


「えっと・・・じゃあ・・・そろそろ帰るよ」
「・・・あ・・・うん・・・」


照れているのか私の方を見ようとしない彼はそのまま空を見上げた。


「今日は一段と寒いし・・・あったかくして寝ろよ?」
「・・・ぷ・・・」
「何だよ?」


彼の言葉に小さく吹き出すと悠木くんは訝しげな顔をしながらもやっと私を見た。


「だ、だって・・・お父さんみたいな事言うんだもん・・・」
「そ、そうか?だって・・・マジで寒いし・・・」


彼も苦笑しながら、そう言った時だった。
私の頬に冷たいものがふわりと降って来た。


「あ・・・」
「・・・雪だ・・・」


チラチラと小さな雪が舞い降りてきて2人で夜空を見上げる。
2人の白い息が空中で交じり合って天へと上がっていった。


「どおりで寒いはずだな・・・」
「うん・・・」


そう言って互いに顔を見合わせた。
その時また私の、今度は鼻先に雪がふわりと落ちた。
次から次へと雪はどんどん深く舞い降りてくる。
すると悠木くんがまた私のマフラーを軽く巻きなおしてくれた。


「風邪引くぞ?」
「あ・・・ありがと・・・」


そう言って顔を上げた時、不意に目が合った。
お互いにドキっとした顔で、それでも何故か視線が離せない。
するとマフラーにあった彼の手がゆっくり私の頬に動いた。
ドキっとして目を伏せると一瞬、顔に影が落ちて目の前が暗くなる。
その時、鼻先に暖かいものが触れた。
落ちてきた雪のところへ口付けられたと分かった瞬間、顔が赤くなる。


「・・・・・・」
・・・鼻赤いよ?」


唇を少し離して悠木くんが呟いた。
でも目の前に彼の顔があり、私は答える事が出来ずに僅かに目を伏せた、その時。
悠木くんが少しだけ屈んでゆっくりと唇を重ねた。
ドクンと鼓動が跳ね上がって速さを増していくようにドキドキと鳴り出す。
でもそれは一瞬で気づけば私は悠木くんに抱きしめられていた。


「俺、ダメかも・・・」
「・・・ぇ?」


不意に耳元で声がした。
すると悠木くんはギュっと腕に力を入れながら小さな声で呟いた。





「・・・嬉しくて倒れそう・・・」





吐息と共に洩れた言葉に私は顔が赤くなった。
その言葉から想いが伝わって心の中を暖かくしてくれる。
ダンと別れて以来、空っぽだった私の心を少しづつ埋めていってくれる・・・
悠木くんは冷えた体と心に・・・体温をくれた。





こんな風に・・・少しづつダンの事を忘れていくんだろうか。
鍵をかけた心の奥が溢れてしまう前に・・・ゆっくりと苦い記憶を消し去ってくれるんだろうか。








ダン以外の人を・・・本気で好きに・・・なれるなら・・・






もう振り返らない 昨日を捨てて そして旅立つ―














































 

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Postscript


その後の2人の日常をヒロインよりで書いてみました。
今回で最終章となります。
もうちょっと切ないかなぁ?と思いますが・・・今後、現在より少し未来の話になるかと。
最後までお付き合い下さると嬉しいです!


本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...


【C-MOON...管理人:HANAZO】