口 に す る た び
本 当 に 伝 え た い 言 葉 は
ぽ ろ ぽ ろ と 零 れ て 逃 げ て い く・・・
Chapter.32 君と逢うために・・・05 Only you can love me...
「はぁ?ケンカしたぁ?」 エマは呆れたように大きな声を出した。 僕は耳が痛くて顔を顰めると衣装のローブを身にまとい、台本に目を通そうとソファに腰をかける。 だがエマはその隣に座り、顔を覗き込んできた。 「ちょっとダン!何でせっかく再会出来たのにケンカするのよー!しかもを泣かせるなんて!」 「・・・・僕だってケンカなんてしたくなかったよ。でもに"今更、何しに来た"みたいに言われてつい―」 「だからって熱くなっちゃ本心なんて聞けないでしょ?!全くもうー!ダンのバカ!」 エマはそう言って口を尖らせると僕をジロっと睨む。 そんな目で見るなよ・・・僕だって分かってる・・・。 自分がいかにバカで情けない奴かって事は・・・ が帰ってしまった後、部屋に戻って何度も後悔した。 どうしてもっと冷静に・・・彼女の言葉を聞いてやれなかったのかって・・・ どうしてもっと優しく・・・に訊けなかったのかって。 あんな責めるような言葉で訊いたって伝わるはずもないのに・・・ 冷静になってから、色々な後悔が押し寄せた。 そしての言ってた言葉を一つ一つ思い出してみたんだ・・・ 「ねぇ、ダン・・・。どうするの?このまま・・・ケンカ別れになっちゃって・・・いいの?」 「・・・・・・ッ」 エマの言葉は聞こえてたけど頭には入ってきてなかった。 何かに弾かれたように僕はソファから立ち上がり、頭の隅に響いたの言葉を何度も繰り返す。 「・・・ダ、ダン?どうしたの?」 「手紙・・・」 「・・・え?」 「手紙に書いたって・・・言ってた・・・」 「ちょっとダン・・・?」 エマが訝しげな顔で立ち上がり、僕の顔を覗き込む。 その彼女の肩を掴んで、「が言ってたんだ!手紙に書いたのに・・・って・・・間に合わなかったって!」と叫んだ。 当然のようにエマは目を丸くして眉を寄せると、 「な、何の話よ?」 「夕べ僕が"何で連絡くれなかったんだ"って言ったらがそう言ってたんだよ!"理由は手紙に書いた"って!」 「手紙って・・・?」 「分からない・・・。僕もその時、興奮してたから深く考えなくて問い詰めなかったし・・・でも・・・もしかしたら・・・」 そう言って言葉を切るとエマも驚いたように僕を見上げた。 「まさか・・・ダンが置いてきたメッセージをあとで読んで・・・ダンに手紙書いたんじゃない?!」 「・・・・・・・・・っ」 エマの言葉に心の奥がざわついた。 そう・・・僕も今その事を考えた。 でも・・・ 「・・・手紙なんて・・・来てないんだ・・・」 「え・・・?」 「少なくとも僕の手には届いてない・・・」 そう呟いてソファに座ると、エマは険しい顔で僕を見た。 「・・・どういう事?は・・・どこに手紙を・・・」 「事務所ならフレッドが絶対に僕に渡してくれる・・・」 「じゃあ・・・が送った先は―」 「僕の・・・家だ・・・」 そこまで言うと思い切り溜息をついた。 何故、彼女の手紙が僕に届かなかったか・・・その理由を確信したから。 エマは慌てて隣に座ると、 「家に送ったならダンに渡るはずでしょ?なのに何で今日の今まで見てないのよ!2年も前に送った手紙でしょ?」 「・・・母さんだよ」 「え・・・?」 「きっと・・・母さんが隠したんだ・・・」 僕の言葉にエマは目を見開いて言葉を失ったようにソファに凭れかかった。 「おば様が・・・?まさか―」 「間違いないよ・・・。母さんは前にもに酷い事を言ってるし僕らの事を反対してたんだから」 「じゃあ・・・おば様がから手紙がきてるのを知って・・・」 「僕に見せないように・・・捨てたか・・・隠したんだ・・・」 そこまで言うと僕は目の前のテーブルをガンっと蹴飛ばした。 何かに当たらなければ、今すぐここを飛び出して行ってしまいそうだから。 「クソ・・・!またかよ・・・!何で僕との仲を裂くことばかり・・・ッ」 「ちょ、ちょっとダン、落ち着いてよ・・・」 「落ち着けるかよ!母さんのせいで・・・僕は・・・の気持ちを疑ったんだ!」 「ダン・・・」 「は・・・ちゃんと返事をくれてたのに・・・僕は連絡なかった事だけで全てが終わった気がしてた・・・」 そう・・・だから昨日もは・・・ きっと手紙の返事がこなくて・・・も僕と同じように振られたと思ってたんだ・・・ なのに僕が突然会いに行ったから・・・・今更何しに来たんだって思ったに違いない・・・ "今更・・・何の話・・・?" あの言葉の理由が今ハッキリと分かった。 なのに僕は・・・ 「ダン・・・に・・・会ってその事を伝えなさいよ・・・。このままじゃは誤解したまま―」 「分かってる・・・。でもその前にの手紙を見つけないと・・・」 「見つけるって・・・もしおば様が捨ててたらどうするの?」 「捨てても・・・母さんは絶対に中身を読んでるはずだ。何て書いてあったのか聞き出す」 僕はそう言って立ち上がるとハリーの眼鏡をかけた。 「ダン・・・そんなんで撮影、大丈夫?」 エマが不安げに僕を見上げる。 僕は大きく深呼吸をすると振り返り、エマに微笑んだ。 「大丈夫・・・。真相が分かって・・・少しスッキリしたから」 「そう・・・。じゃあ・・・早く終わるように・・・頑張りましょ?」 「ああ。今日は絶対NGなしな?」 そう言ってエマの頭をクシャっと撫でると、彼女は心外という顔で、 「それはルパートに言ってよね!」 と僕の背中を思い切り叩いたのだった―― ガタガタ・・・ッ 家の引き出しを片っ端から開けていく。 中には色々な書類や請求書らしきものが詰まっていて、それらを全てひっくり返した。 撮影は思ってたよりも早く終わり、僕は急いで実家へとやって来た。 もちろんから届いたはずの手紙を探すために。 両親は今日も出かけてるようで家には誰もいなかった。 「クソ・・・ない・・・」 まずはリビングにある棚という棚の引出しを開けて中を捜した。 でも出てくるのは関係ない書類や、父、母に当てられた手紙とか請求書だけ。 僕はイライラしながら近くにあったミニライトを蹴飛ばした。 ガタン・・・ッ 蹴飛ばされた勢いでライトが床に転がる。 それを見ながら僕は思い切り息を吐き出した。 (やっぱり母さんは・・・手紙を捨てたのか?) 僕に見せないようにするためには、それが一番の方法だろう。 でも・・・僕はどこかで母さんはの手紙を捨てきれずに、どこかにしまってるような気がした。 母さんも口ではうるさい事を言っても、きっと自分がした事を少しは後悔してる気がしてたから。 悪いと思いつつ、でも僕の将来の事を思ってやってしまった。 それは分かってる。 でもそれは母さんの気持ちで僕の気持ちじゃない。 そこだけは分かって欲しかった。 「はぁ・・・」 溜息をついてソファに座る。 頭を抱えて、このまま母さんが帰るのを待とうか、と思った。 でも母さんに問い詰めたとこで素直に話してくれるかどうか・・・ そう思いながら顔を上げると、ふとまだ開けていない引出しがある事に気がついた。 その引出しには普段は鍵がかけられていて両親しか開けた事がない。 確か、前に通帳とかをしまってたような気がする。 今はこの辺も騒動でそれらの貴重品は寝室の金庫に入れられているから、 あの引出しは今、母さんの仕事関係のものを入れてたはずだ。 僕はゆっくり立ち上がると、その引出しの方に歩いて行った。 指を差込み手前に引いてみる。 だがガタッと音がしただけで開けることは出来ない。 やはり今も鍵をかけてるようだ。 「鍵・・・か」 ここの鍵は母さんが持ち歩いてたはず。 という事は・・・ 「壊すしか・・・ない、か・・・」 僕はリビングの中を見渡すと、どうやって壊そうかと考えた。 そこで工具入れのある物置まで走っていくと、そこから長いバールを取り出し再びリビングに戻る。 バールを引き出しの隙間に引っ掛けると、思い切りそれを下に押した。 ベキッっという音がして光沢のある棚に傷がつく。 だが、それを気にせずバールを置くと僕はもう一度引き出しを手前に引いてみた。 「・・・・・・開いた・・・」 木が削られたからか、今度はすんなり引出しが開き、僕は急いで中を調べてみた。 沢山ある書類や手紙を全て出し、床の上に広げての手紙を探す。 「違う・・・これも・・・違う・・・」 一つ一つ手に取って調べていく。 だが書類らしき紙の下から、エアメールのマークがついた封筒が半分だけ覗いていて手が止まった。 「・・・ッ」 慌ててそれを手に取ると、住所が書いてる横に"FromJpan"の文字。 差出人の宛名を見ると、確かにそこにはの名前が書かれてあった。 「あった・・・」 ホっと息をついたと同時に全身の力が抜けて床に座り込んだ。 案の定、手紙の封は切られていて、母さんが読んだ事が分かる。 僕は棚に寄りかかると僅かに震える手で、封筒から手紙を取り出した。 ******************************************** Dear...ダン 久しぶりです。元気ですか? この前は連絡できなくてごめんなさい。 ダンが私の家に来てくれた時、私は病院にいました。 私のお父さんがクモ膜下出血で倒れたの。 でも今は意識も回復して少しは元気になってきました。 なのでダンが置いて行ってくれた高校の資料もダンが帰国する当日に見ました。 急いでホテルまで行ったんだけど結局、間に合わなかったの。 だからこの手紙を書きました。 ダンの残していってくれたメッセージに答えたいから。 私も・・・ダンと同じ気持ちです。 自分で別れを決めたのに、今更こんな事を言うなんてずるいけど・・・ それでもダンに伝えたかった。 ダンが・・・私に会いに来てくれたから・・・ そして一人で考えて出した結論は・・・高校は無理だけど・・・大学からはロンドンの学校に行きたいということ。 父が入院した今、母に看病を任せて私一人ロンドンの高校に行く事は無理なの。 でも・・・私が大学生になる頃には父もきっと回復してると思う。 大学といったら・・・今からまだ3年あるし、その間は会えないけど・・・ ・・・それでも・・・ダンが待っていてくれるなら、私はロンドンの大学に行きたいと思ってる。 この手紙を読んだら・・・ダンの今の気持ちを書いて返事を送って欲しい。 もちろんダンの出した答えならどんな事でも受け止める。 例えそれが"NO"だったとしても・・・ ダンはこれからまた忙しくなるね。 体に気をつけて撮影頑張って下さい。 もちろん勉強も・・・ 私も日本で頑張ります。 そしてダンをいつも応援してるよ。 それでは返事待ってます。 From... ******************************************** 「・・・・・・」 それは・・・・・過去から届いた、僕へのメッセージだった。 それを読んで自然と涙が浮かんできた。 まさか・・・彼女があの日・・・あの雨の日の朝・・・ホテルまで来ててくれたなんて―― そして僕は思い出した。 空港に行くのに乗った車の中で、かすかに自分を呼ぶの声が聞こえた事を・・・ 「やっぱり・・・、だったんだ・・・」 僕は溜まらず手紙を握り締めて膝を抱えた。 堪えきれない涙が目頭を熱くする。 "それでもダンに伝えたかった" "・・・それでも・・・ダンが待っていてくれるなら" 胸が引き裂かれそうなほどに痛んだ。 が僕を想って、これを書いてくれた事実に・・・ そして何も知らず、彼女を責めた自分自身が情けなくて・・・ カチャ・・・と音がしてハっと顔を上げた。 するとそこには驚愕の表情を浮かべる母が立っていた。 「・・・ダン・・・何をしてるの・・・?」 母は開け放された引出しを見て目を見開いた。 そして僕の手に握られた手紙を見て息を呑む。 「・・・何してる・・・?それは僕の台詞だろ?」 ゆっくりと立ち上がって母さんを睨む。 母さんは驚いたように、それでも黙って僕を見つめていた。 「・・・からの手紙を・・・隠すなんて・・・」 「ダン・・・許して・・・?でもその子の事になると、あなたは冷静じゃなくなるから―」 「当たり前だよ!が好きだったんだ!凄く・・・誰よりも、どんな事よりも彼女が大切だった!」 「・・・ダン・・・」 「母さんはが仕事や勉強の妨げになるからって言ってたけど・・・僕にとったらは・・・必要な子だったんだ!」 そう怒鳴ると母さんは顔を強張らせた。 だが僕が睨んでいると、小さく息を吐き出した。 「・・・ずっと子供だと思ってた・・・」 「・・・誰かを好きになる気持ちに大人も子供も関係ないよ・・・」 僕がそう言うと母さんはハっと顔を上げ、そして久しぶりに優しい笑みを浮かべた。 「・・・そうね。ほんと・・・そうかもしれない・・・。誰かを想う気持ちは・・・同じだわ・・・」 母さんはそう言うとゆっくりとソファに腰をかけた。 「あの頃の私は・・・必死だった。俳優としてのあなたを守りたかった。将来の事もちゃんと考えてあげたかったの。 だから・・・あの子にのめりこんで行くあなたが心配だった・・・。 大事な時期にスキャンダルなんて起こしたら大変だと思ったわ?何よりダンもその子もまだ15歳だったし・・・ 当人同士は良くても世間的にはまだ子供よ?マスコミだって黙ってない・・・」 母さんはそこまで言うと溜息をついて僕を見上げた。 「私は・・・恋よりも将来に向けて、あなたに頑張って欲しかったのよ・・・」 「・・・自分の将来くらい自分で守るよ・・・。僕は大切な人を失ってまで、この世界にしがみついていたくない・・・」 「ダン・・・」 「もう行くよ・・・。今・・・がロンドンに来てるんだ・・・」 「え・・・?」 母さんは驚いたように立ち上がった。 「あの子が・・・来てるの・・・?」 「昨日会った・・・」 「会ったって・・・」 「今からにもう一度会いに行く。そして手紙を受け取ってなかった事をちゃんと話すよ」 「ダン・・・でも・・・あなたはもうケイティと付き合ってるんでしょ・・・?」 「・・・・・・・・・」 母さんの言葉に胸が痛んだが、僕はそのまま何も答えず、家を飛び出した。 分かってる・・・今更だって事は。 でも・・・誤解されたままにまた会えなくなるのは嫌なんだ・・・ 事実を知って、がどう答えるのか分からない・・・。 彼女には新しい恋人がいるし、僕にだってケイティがいる。 でも・・・それでもに会いたかった。 会って誤解だって事を伝えたかった。 僕は一気にハイドパークを駆け抜けると、彼女の泊まるホテルまで走って行った。 「はぁ・・・」 ホテル近くまで走ってくると一旦、足を止めて息を吐き出した。 夕べ降り出した雪は今も降っていて、かなり気温が低いせいか少し息苦しい。 (・・・部屋にいるだろうか) 僕はホテルを見上げると、ゆっくりとエントランスに向かって歩いて行った。 だがすぐにその足は止まり、ハっと息を呑む。 「あいつ・・・」 ホテルの前に立っている一人の男を見て僕はそれがとキスをしてた奴だと気づいた。 誰かを待ってるのか、腕時計を見ながら周りをキョロキョロしている。 (もしかして・・・を待ってるのか・・・?) ズキンと胸が痛んで僕はそこから動けなくなってしまった。 と、そこへ数人の日本人らしい子達が反対側から歩いて来るのが見えて、その中にを見つけた。 男は嬉しそうな顔で彼女に手を振ったがは驚いたように慌てて彼のところへ駆けていく。 同行してる人たちにからかわれてるのか、は後ろで騒いでる様子の友達達に顔を赤くして何かを言っている。 でも少しするとは友人たちと別れ、男に肩を組まれながら歩いて行ってしまった。 「・・・」 二人の姿が少しづつ遠くなって行くのを見ながら、僕は取り残されたような気持ちになった。 今のは彼らの中で生きている。 僕はそれをここで傍観しているような感覚だ。 そう・・・過去の・・・15歳の僕が。 僕だけが時を刻んでなくて未来のの姿を見ているような・・・そんな孤独感に襲われた。 あの頃の想いがここに・・・この手の中にあるのに。 握り締めた手紙を僕はポケットにそっとしまいこんだ。 今更・・・なのかもしれない・・・ 事実が分かったからって今更何が出来る? ・・・過去に戻れるわけじゃない。 も僕も今は別々の道を歩き出している。 なのに過去のの気持ちを確かめられたからって・・・それを今のに言ったって・・・ もう意味の無い事なのかもしれないじゃないか。 "ダンの事・・・いい思い出のまま別れたいの・・・" 夕べ言われた言葉が胸に突き刺さる。 そうだ・・・の中ではもう・・・僕との事は過去の事として・・・思い出になっているんだ・・・ 今更、この手紙を見せて届かなかった、なんて言い訳してもも困るだけだろう。 はもう・・・他の男と恋をしている。 僕だって・・・同じだ。 ――帰ろう。 冷たい風と雪で身も心も冷え切っていた。 僕はそのまま踵を翻すとフラットの方に歩き出した。 「どうぞ」 悠木くんはそう言って微笑むと部屋のドアを開けてくれた。 「お邪魔します・・・」 そう呟き、中へ入ると悠木くんも中へ入りドアを閉める。 「あーごめん、散らかったままだった」 悠木くんは慌ててソファの上に置かれた練習着やソックスらを抱えてクローゼットの中へと放り込んでいる。 そしてドアの前に立ったままの私に、「座ってて。今、ルームサービスであったかい紅茶頼むから」と言った。 言われた通り私はコートを脱ぎながらソファに座ると、ゆっくり部屋の中を見渡した。 リビングとべッドルームに分かれてないとは言え、アンティーク調の家具で飾られた客室は私が泊まっているホテルよりも少し広い。 奥に大きな窓とテラスがあり手前にはドレッサーが置かれている。 そしてその前にキングサイズのベッドがあり、ソファはその前、テレビはすぐ横に設置されていた。 ソファの隣にある丸いテーブルも、どこかイギリスっぽさが溢れていて、とても可愛い。 「、ケーキも食べるか?」 悠木くんが電話をしながら訊いてきた。 私は少し考えたが、「うん」と頷くと彼は笑顔でOKと指で合図をした。 そしてそのまま英語で何やら注文してる。 「はぁー早口で話されるから何度も聞き返しちゃったよ」 電話を終え、悠木くんは私の隣に座った。 それほど大きくないソファなので体が触れ合うくらいの距離に彼が来て少しドキっとする。 考えてみれば悠木くんと、こうして部屋の中で二人きりになるのは初めてなのだ。 「まーだスネてんの?」 「・・・え?」 黙ったまま俯いていると不意に悠木くんが私の顔を覗き込んできた。 「さっきホテルの前で待ってたからさ」 「あ、あれは・・・ちょっと驚いたけど・・・」 「ごめん。ちょっと一人で出かけてて、ちょうどが戻る時間にホテルの前通りかかったからさ」 悠木くんはそう言って私の頭を撫でてくれた。 そう、先ほど私が皆と研修から戻ってきたらホテルの前に悠木くんがいて驚いたのだ。 ホテルについたら電話する事になっていたから、私も慌ててしまった。 案の定、皆にからかわれ、後輩からは「先輩、彼氏同伴ですかー?」なんて言われてしまった。 思わず真っ赤になり、慌てて悠木くんとその場を立ち去ったのだ。 今日は寒いから出かけずに悠木くんの部屋でビデオを見ようと約束していたので、そのままここへやって来た。 「あの分じゃ明日からからかわれるかな?」 「うん・・・。でも大丈夫よ?皆だって、それなりに彼氏とかいるみたいだし・・・」 「そっか。先生とかには何か言われない?」 「うん。だって悠木くんがロンドンに来る事になったのも偶然なんだし平気」 そう言って微笑むと悠木くんは、「なら良かった」と言って私の肩に腕を回し額にキスをした。 ドキっとして少しだけ彼を見上げると、今度は頬にキスをされる。 そのまま肩を抱き寄せられ、唇にもキスをされると鼓動が速くなってギュっと目を瞑った。 何度も触れては離れ、啄ばむようにキスをしながら悠木くんはもう片方の手で私を抱きしめる。 軽く唇を甘噛みされドキっとして悠木くんの服を掴むと、ゆっくりと解放された。 「・・・やっと落ち着いてキスできた・・・」 「・・・ぇ?」 額を合わせて呟かれた言葉にドキっとすると悠木くんは小さく笑い、 「ロンドン来てから会うのはいつも外だったからさ」 と呟いて、もう一度屈んでキスをしようとした。 その時― キンコーン 「「・・・・・・ッ」」 ドキっとして離れると悠木くんは苦笑しながら立ち上がった。 「気の利かないルームサービスだなぁ」 そう言いながらドアの方に歩いて行く。 ドアを開けるとボーイがワゴンにポットやケーキを乗せて部屋の中へ運んでくれた。 「どうも」 戻っていくボーイにお礼を言うと悠木くんは再びソファに座り、カップに紅茶を注いでくれた。 「はい」 「あ・・・ありがと」 そっとカップを受け取ると私はゆっくりと口に運んだ。 その時、ふと夕べ、ダンが淹れてくれた紅茶を思い出す。 昔、二人でよく飲んだ紅茶。 私はダンの淹れてくれる紅茶が大好きだった・・・・・・ 不意に喉の奥が痛くなり、慌てて紅茶を飲む。 「あつ・・・ッ」 「?」 急に熱い紅茶に唇をつけたせいでビクっとなった。 悠木くんは驚いて私の手からカップを取ると、それをテーブルに置き、顔を覗き込んできた。 「大丈夫?火傷した?」 「だ、大丈夫・・・」 「あーいいから見せて、ほら」 唇を手で隠そうとした私に悠木くんはそう言うと、そっと顎を持ち上げて指で唇に触れた。 「痛くない?」 「うん・・・もう平気よ・・・?すぐ離したし・・・」 至近距離で見られて恥ずかしくなり、私はそう言いながら目を伏せる。 だけど悠木くんは私の唇を指でなぞると、「少し・・・赤くなってる・・・」と言った。 「大丈夫よ?痛くないし・・・後で冷やすから・・・んっ」 不意に唇を塞がれたかと思うと唇をかすかに舐められドクンと鼓動が跳ね上がった。 「・・・消毒だよ」 「・・・ぇ?」 悠木くんはちょっとだけ笑うと、今度は私の額、そして頬と優しく口付けていく。 彼の唇が触れるたびにドキドキして顔が熱くなった。 そっと抱き寄せられ、ギュっと抱きしめられると悠木くんの首筋に顔が埋まり、彼の香りに包まれる。 今日は襟の大きく開いた薄いセーターを着てるから悠木くの肌を直に感じ更に顔が赤くなった。 「あ、あの・・・悠木くん・・・?」 「・・・ほんと・・・細いな・・・」 「・・・・・・っ?」 更にきつく抱きしめられ、悠木くんの体温を感じた。 こんな風に抱きしめられるのは初めてじゃないが、密封された部屋の中だと思うと妙に緊張する。 彼の腕の強さに少し息苦しくなり、僅かに体を動かした、その時。 「・・・」 「・・・え?」 「前から・・・訊こうと思ってたんだ・・・」 「な、何?」 いつもより少し低めのトーンで話す悠木くんにドキリとした。 彼が話すたび、肩に振動が伝わり、首筋に吐息がかかるから少しだけ体に力が入る。 するとゆっくり体が離れ、視線を上げると真剣な眼差しがそこにあった。 「悠木・・・くん?」 「・・・俺のこと好きか?」 「・・・・・・っ?」 不意に彼の口からそんな言葉が出てハっと顔を上げる。 「いつも・・・好きだって言うのは俺の方だよな?でも・・・の口から聞いた事はない」 「悠木くん・・・」 「だから、聞きたいんだ。答えてよ、・・・。俺のこと・・・好きか?」 「・・・・・・」 いつもの明るい彼じゃない。 今まで見せたことのないくらい、真剣で熱い、目―― 「俺は・・・がこのロンドンで出会った忘れられない奴がいるって知ってて・・・付き合って欲しいって言った」 静かに紡がれる言葉・・・ 何だかドキドキした。 「はOKしてくれたけど・・・俺はいつも不安だったんだ。まだ・・・心のどこかでそいつの事を、って思うと・・・」 「・・・・・・・・・」 「でも待つって言ったのは俺だから・・・がいつか本当に忘れてくれるまで信じて待とうって思ってた」 悠木くんはそこまで言うと小さく息を吐き出した。 そして再び私を真剣な眼差しで見つめると、 「あれから2年・・・。もう十分だろ?そろそろ・・・の気持ちを教えて欲しい」 「悠木くん・・・」 「答えて、。俺のこと・・・好きか?それとも・・・まだ―」 ――まだ・・・忘れられない? そこで私は夕べのダンを思い出した。 冷たい目、冷たい声・・・もうあの頃のようには戻れないと言われてるような寂しさ・・・ もう・・・私とダンは本当に終わったんだ・・・ 「答えて、」 静かに耳に入ってくる悠木くんの優しい声。 私を見つめる少し不安げな瞳。 きっと私は知らないうちに・・・悠木くんのことを凄く傷つけてたのかもしれない・・・ 「私・・・は・・・」 彼の想いに答えるようにゆっくりと顔を上げる。 「悠木くんが・・・好き・・・」 「・・・・・・ほんと?」 悠木くんの瞳がかすかに揺れた。 その瞳を見ながら小さく頷けば、また強く抱きしめられた。 「・・・良かった・・・。ほんとは・・・凄く不安だった・・・」 掠れた声が耳元で聞こえる。 私は悠木くんの肩越しに顔を埋めてそっと腕を背中に回した。 細いのにガッシリした広い背中が、何だか妙に男らしくてゆっくりと目を瞑る。 ドクンドクン・・・と悠木くんの鼓動が速く打ってるのが分かる。 すると僅かに体が離され額に口付けられる。 顔を上げた瞬間、すぐに唇も塞がれ、ギュっと彼の腕を掴んだ。 ソファの背もたれに寄りかかるほど、いつもより少し強引なキスでドキドキと鼓動が速くなっていく。 「・・・んっ」 押し付けるようにしながら何度も塞がれる唇。 彼の吐息と交わるように私の呼吸も少しづつ上がっていく。 普段の触れるだけのキスより、もっと深く熱いキスに私は息苦しさと同時に少しだけ怖くなった。 「ん・・・悠・・・木くん・・・」 彼のセーターを握り締めていた手で胸元を僅かに押すと、ゆっくりと唇が離された。 至近距離で見る悠木くんの瞳は今まで見た事もないくらいに熱い。 「あ・・・」 不意に彼が立ち上がり、私の手を引っ張った。 「悠木くん・・・?」 戸惑う私の手を引き、ソファからベッドの方に歩いて行くのを見てドクンと心臓が跳ね上がる。 「・・・俺はの事がずっと好きだった。それは今でも・・・いや・・・前よりもっと好きになってるよ」 「・・・悠木くん・・・」 彼がゆっくり私の方に振り向き、繋いだ手を引っ張った。 抱き寄せられた、と思った瞬間、柔らかいものが背中にあたり、気づけばベッドに押し倒されていた。 「あ、あの・・・」 「俺は・・・を自分だけのものにしたい・・・」 「―――っ?」 真剣な顔でそう言われ、それがどんな意味のものかが分かり顔が熱くなる。 その時、彼の手が頬にかかった私の髪をよけ、そのままスルリと撫でられた。 「さっきの言葉・・・嘘じゃないんだろ?」 「・・・・・・ぇ?」 「俺の事・・・好きなんだよな・・・?」 確かめるような、その言葉に私は思わず言葉に詰まった。 「もし・・・が俺のことを本気で好きでいてくれてるなら・・・俺はもうの過去に怯えたくない」 真剣な瞳でそう言った悠木くんを見つめながら、私は今までの事を思い出していた。 私が辛い時、寂しい時・・・いつも傍にいてくれたのは彼だった。 だからこそ、二度目に告白された時・・・私はOKしたんだった。 その時の気持ちに嘘はない。 「・・・好きよ?」 呟くようにそう言うと悠木くんは優しい笑みを浮かべた。 そしてゆっくり屈むと、さっきよりも優しく触れるだけのキスをする。 離れては触れて、少しづつ啄ばむようなキスをしながら次第に深くなっていった。 頭の隅で彼がどうしたいのかが分かり、徐々に鼓動が速くなっていく。 「・・・ん」 呼吸が出来ず苦しくなり、少しだけ身をよじれば両手を拘束されて、また唇を塞がれる。 こんな熱いキスをされるのは初めてで彼が本気なんだという事が分かった。 私だって子供じゃない。 もう17歳でそれなりに知識はある。 それに同じ高校でもとっくに経験済みの子は何人もいた。 17歳では遅い方なんて言ってる子もいるし、現にアヤに次いでカオリからも今年の夏、 "祝♪ロストヴァージン!" なんてメールが来て驚いたくらいだ。 だからというわけじゃないけど、私もいつか経験するんだろうなとは思ってた。 でも急に今ここで、となると心の準備もなく、ただ怖いという気持ちだけが溢れてきた。 「・・・好きだ・・・」 キスの合間に囁かれる言葉・・・ 「・・・好きだよ、・・・」 凄く優しくて彼の気持ちが伝わってくる。 私と同じくらいドキドキしているのが分かって、頭の奥が痺れてきた。 瞬間、彼の舌が唇の隙間から入ってきてビクっとなり体に力が入った。 手を動かそうとしたが拘束されていて動けない。 初めての深いキスに私は恥ずかしさと怖さで涙が浮かんできた。 すると片方の手首が離され、彼の手がそっと私のわき腹をなぞっていった。 「・・・んっ・・・」 再び体がビクっとなった。 その時、唇を解放されて、私がゆっくり目を開けると悠木くんが優しい、でも熱い瞳で私を見つめていた。 「・・・怖い・・・?」 私を気遣うような優しい響き。 濡れた私の唇をそっと指で拭いながら悠木くんは、「怖いなら・・・やめるよ」と言った。 「・・・・・・」 怖かった。 ほんとは怖くて怖くて堪らない。 皆、本当にこんな事を経験してるの?と疑問すら湧く。 でも・・・いつか経験する事なら・・・こんなにも私を想ってくれてる悠木くんとそうなるべきだと思った。 だって・・・もう私とダンに未来なんてないから・・・ 全てを忘れるために身も心も悠木くんに捧げよう、と思った。 「・・・大丈夫・・・」 「・・・え?」 「怖いけど・・・大丈夫・・・だと思う」 そう言って彼を見上げると悠木くんが驚いたように私を見つめた。 でもすぐに嬉しそうな笑顔を見せる。 優しい彼が好きだった。 いつも私を優先に考えて気遣ってくれる悠木くんの事をゆっくりと好きになった。 何も・・・迷う事は、ない―― 悠木くんは私の頬を手で包むと優しく口付けた。 気分が高揚しているせいか、最初から深いキスをされて何度も鼓動が跳ね上がる。 それでも彼の腕をギュっと掴んでキスを受け止めていた。 すると悠木くんの手が私の胸元にいき、ワンピースのボタンを一つづつ、ゆっくりと外していく。 その瞬間、また怖くなったがギュっと目を瞑り、堪えていると不意に首筋へと彼の唇が触れた。 「・・・んっぁ」 感じた事のない刺激が体を襲い、ビクっと反応した。 胸元までボタンを外され、外気を感じて更に顔が熱くなる。 「・・・悠・・・木く・・・ン・・・っ」 首筋から鎖骨へと唇が下りていくのと同時に彼の手が胸に触れたのを感じて全身に力が入った。 下着の上からとはいえ、初めて他人に触れられて恥ずかしさで一杯になる。 「ゆ、悠木くん・・・ちょ・・・待って・・・」 「・・・・・・」 彼は私の首筋にキスをしながら胸にあった手を背中へと回した。 頭では分かっているが本能が恐怖を感じている。 「・・・ゃ・・・っ」 彼の手の感触にドキっとして体をよじったその時・・・フラッシュバックのように頭の中でダンの顔が浮かんだ。 「・・・・・・ッ」 昨日、会った時の寂しげな顔・・・ ただ黙って私を見ていたダンの冷めた、でもどこか悲しげで・・・怒りを帯びた瞳―― あれは・・・・・・そう。 ―――嫉妬の目、だ。 私と同じだった。 私が・・・ケイティに感じていた嫉妬・・・ その時の自分の顔は今まで見たことのないくらい酷く冷めていた。 ダンも・・・その時の私と同じ瞳をしていた・・・ 何で気づかなかったんだろう・・・? 素っ気ない態度も・・・冷たい横顔も・・・みんな・・・ダンの・・・想いの深さだって事に―― 不意に涙が溢れ、頬を伝っていった。 どうして、こんな状況の時に気づいてしまうのか、と自分を責める。 その時、私の様子がおかしい事に気づいた悠木くんが驚いたように顔を上げた。 「・・・・・・?」 「・・・めんなさ・・・ぃ」 「・・・え?」 涙が次から次に溢れ、顔を両手で塞ぐ。 もう止められなかった。 「・・・?ごめん・・・やっぱり怖かった・・・?」 私が泣いているのを見て悠木くんは慌てて行為を止め、私の頭を撫でた。 その彼の優しささえ、今は胸を痛くさせる。 「・・・がうの・・・私・・・」 「・・・・・・?どうした?もう何もしないから・・・」 悠木くんがそう言って私の両手を顔からそっと外す。 そして溢れてくる涙を優しく指で拭ってくれた。 それが痛くて・・・つらくて、私は思い切り首を振った。 「・・・何?そんな怖かった?」 私の体を起こし、悠木くんがそっと抱きしめてくれる。 でも私はゆっくりと彼から離れて、顔を上げた。 「ご・・・めん・・・」 「・・・え?」 「私・・・やっぱり・・・」 「・・・・・・?」 「・・・忘れ・・・られなぃ・・・」 「―――っ」 彼の瞳に絶望の色が滲む。 私はベッドから下りるとコートを羽織って部屋をそのまま飛び出した。 「ハーイ、ダン」 「・・・ケイティ・・・」 フラットに戻ると部屋の前にケイティがいて僕は驚いた。 「ど、どうしたの・・・?」 「もちろんダンを待ってたの」 「ま、待ってたって・・・いつ帰ってくるかも分からないのに・・・」 「近くまで来たから・・・ちょっと寄ってみただけよ?あと10分待って帰って来なかったら帰ろうと思ってたとこ」 ケイティは明るくそう言うと手を合わせて息を吹きかけた。 「それより寒いから暖かい紅茶でも飲ませて欲しいな?」 「え?あ、ああ・・・」 おどけたように、そう言うケイティに僕は急いでドアを開けた。 「お邪魔します」 通いなれた彼女は嬉しそうに中へと入っていく。 僕は軽く息をつくと、その後から続いた。 「今、紅茶淹れるし座って待ってて」 「うん」 僕がキッチンから声をかけるとケイティは笑顔で頷き、ソファに座った。 それを横目で見ながらポットでお湯を沸かし、いつものように紅茶を淹れていく。 その時、ふとの言葉を思い出した。 "ダンが淹れてくれた紅茶・・・久しぶりに飲んだな・・・" そうだ・・・昔、が家に遊びに来た時は僕がこうして彼女の好きな紅茶を淹れてあげてた。 そのたびには"ダンが淹れてくれた紅茶が一番美味しい"と言ってくれて・・・ ツキン・・・ 思い出したかのように、また胸が痛み出す。 カップを持ってリビングを見るとケイティは傍にあった雑誌をパラパラとめくりながら見ているようだ。 (今日は一人でいたかったな・・・) そんな事を思いながらリビングに戻り、カップをテーブルに置くとケイティの隣に座った。 「ありがと。あー寒かった」 ケイティは雑誌を閉じると、そう言いながらカップを持って手を温めている。 僕は自分の紅茶を飲みながらソファに凭れた。 「で、どうしたの?急に・・・何か用事だったんじゃない?」 「ん?どうして?近くに来たからって言ったじゃない」 「そうだけど・・・さ。急に来る事なんて今までなかったろ?いつも約束してから―」 「急に来られちゃ困る事でもあるの?」 「・・・え?」 ドキっとした。 だがそんな顔は見せず、肩を竦めて見せる。 「別に・・・ないけどさ」 「ならいいじゃない。それに・・・昨日、電話が途中で切れちゃったしちょっと心配だったの」 「え?あ・・・」 思い出した。 そう・・・僕は昨日、ケイティと電話で話してる最中に切ってを追いかけてしまった。 あんな切り方じゃ彼女が心配して家に来るのも不思議じゃない。 「ごめん。ちょっと・・・知り合いを見つけてさ。もしかして・・・それで来たの?」 そう言って彼女を見るとケイティは俯いていたがハっと顔を上げて笑顔を見せた。 「う、うん。そうなの・・・何かあったのかと心配になっちゃって・・・」 「ごめん、ほんと何でもないんだ」 僕はそう言ってカップをテーブルに置くとケイティの方を見た。 が、いきなり抱きつかれてギョっとする。 「ちょ・・・ケイティ?」 「・・・抱きしめて・・・?」 「・・・え?」 「強く抱きしめて・・・」 ケイティはそう言うと僕の首に腕を回してしがみついてくる。 それには驚いたが、元々彼女は甘えん坊な方だし、抱きしめてあげると落ち着くのも知っている。 僕は黙って彼女をギュっと抱きしめた。 「・・・あったかい・・・」 「そう・・・?」 「うん・・・。それにダンの匂い・・・安心する」 ケイティはそう呟くと僕の肩越しに顔を埋めた。 そして、そのまま首筋にキスをしてきてドキっとした。 「ちょ・・・ケイティ?」 「・・・キスして、ダン・・・」 「・・・・・・・・・」 ケイティはそっと顔を上げると潤んだ瞳で呟く。 僕は苦笑交じりで彼女の額に口付け、そのまま唇にもチュっとキスをした。 「・・・もっと」 「どうした?今日はいつもより甘えん坊だね・・・?」 そう言ってちょっと笑いながら彼女の顔を覗き込む。 するとケイティが首に回した手でグイっと僕を自分の方に引き寄せ、キスをしてきた。 「ん・・・ケイティ?」 驚いて唇を離すと、彼女は着ていたコートを脱ぎ、次に中に着ていたトップスを一気に脱いでしまった。 「な・・・おい、ケイティっ何して―」 薄いキャミソール一枚になった彼女に僕は驚いた。 だがケイティはそのまま僕に抱きつくと震える声で、「ダンが好き・・・凄く好きなの」と呟く。 僕はいつもの彼女と少し様子が違う事に気づいて、そっと体を離した。 そのせいで目の前の彼女の胸元に目が行き、ドキっとする。 キャミソールに透けて中に着ている下着まで見えているのだ。 「あ、あのさ・・・風邪引くから―」 「どうして?何でいつもみたいに抱きしめてくれないの?キスもしてくれないの?」 「・・・ケイティ・・・?」 急に涙声でそう言い出した彼女に僕はハっとした。 「どうしたんだよ・・・。今日はおかしいぞ?とにかく服着て―」 「いや!おかしいのはダンじゃない!どうして私に触れてくれないの?」 「・・・ケイティ・・・」 どう宥めようかと僕は溜息をついた。 だが次の瞬間、ケイティは涙が溢れる目で僕を睨むと、 「あの子と会ったから?」 「え・・・?」 その言葉に驚き、顔を上げるとケイティの頬には涙が零れていた。 「あ、あの子って・・・?」 「とぼけないで!私、昨日見たんだから・・・あの子が・・・って子がここから出てきたとこ・・・!」 「―――っ」 その言葉に僕は目を見開いた。 ケイティは唇を噛み締めて必死に涙を堪えている。 「・・・急に電話が切れたから・・・不安になって・・・あの後にここに来たの・・・そしたら・・・あの子が泣きながら飛び出してきて・・・」 ケイティの震える声が僕の胸を痛くさせた。 「その後に・・・ダンが追いかけて出てきた・・・。私、咄嗟に隠れたの・・・。ダンに声をかける勇気がなくて・・・」 まさか・・・見られてたなんて―― 「全然忘れてなんかないじゃない!どうして今更あの子がここに来るの?」 「ケイティ・・・少し落ち着いて・・・」 泣き叫ぶ彼女の腕をそっと掴んだ。 だが彼女は僕に抱きついて、肩を震わせている。 「もう・・・過去のことなんじゃないの・・・?」 「・・・そうだよ?」 「じゃあ・・・何であの子がここに来たの・・・?」 「・・・それは・・・」 言葉につまるとケイティは泣き顔で僕を見つめた。 そして真剣な顔で僕の頬にそっと手を添える。 「抱いてよ・・・」 「・・・え?」 「私を・・・好きなら・・・キスして、そして抱いて欲しいの」 「ケイティ・・・」 彼女の真剣な眼差しにドキっとして僕は何も言えなくなった。 ケイティの事は好きだ。 いい子だし、優しいし何より僕の事をこんなにも想ってくれてる・・・ なのに・・・どうして前のように彼女に触れる事が出来ないんだろう・・・ さっきから僕は彼女に触れる事を拒んでいるように思える。 自分ではよく分からないけど・・・もう前のように優しくキスをする事すら出来なくて―― 「ダン・・・?」 「・・・ごめん」 「・・・・・・ッ?」 一言、僕の口から出た言葉。 それは彼女への謝罪だった。 ケイティの表情が歪んで涙がポロポロ零れ落ちるのを僕はただ見つめる事しか出来ない。 「何・・・がごめんなの・・・?」 僕の腕を彼女が掴んだ。 それを優しく外すと、彼女の涙を指で拭う。 「もう・・・ケイティに触れる事は出来ない・・・。ごめん・・・」 「―――ッ」 絶望の色が彼女の瞳に刻まれた。 酷い事を言ってるのは分かってる。 なのに言葉を止める事は出来なかった。 「僕は・・・まだ・・・どこかでの事を―」 パン・・・ッ 静かな部屋に高い音が響いた。 叩かれたんだ、と理解した時にはケイティはすでに部屋を飛び出した後だった。 「・・・ごめん・・・ケイティ・・・」 追いかけてやる事も出来ず、僕はソファに凭れて頭を抱えた。 殴られた頬だけが熱くズキズキと痛み、それはすぐ胸の痛みとリンクする。 最低だな・・・ 自分の気持ちを誤魔化して周りに嘘をついてきた罰が下ったんだ・・・ 自分が辛いからって・・・ケイティの想いに縋った・・・ 彼女の僕への想いを利用してたんだ・・・ 最低意外の何者でもない・・・ 今までで一番、自分の事が嫌になった。 忘れたはずの想いが、あの頃の想いが・・・閉じ込めた心の奥からどんどん溢れてくる。 もうは僕の元へは来ないのに・・・ 彼女の隣には別の男がいるのに・・・ ケイティへの罪悪感と、への想いが入り混じり、頭が変になりそうだった。 どうしてこんな事になったんだろう・・・ あの頃はあんなに幸せだったのに・・・ どこかで歯車が狂って・・・そこから一気に崩れ去っていった。 どのくらいの時間、そうしていたのか分からない。 気づけば窓の外は薄暗くなっていて、夕日が部屋をオレンジ色に染めている。 僕は肌寒く感じて、ゆっくりと顔を上げた。 キンコーン・・・ 「―――ッ」 突然、部屋にチャイムの音が響き渡り、ギクリとする。 (もしかして・・・ケイティが戻ってきたんだろうか・・・) 急に現実に引き戻された気がして再び胸の痛みが襲ってくる。 だけど・・・出ないわけにはいかない。 ちゃんと・・・話さなくては。 もう・・・彼女とは付き合えないと・・・ どんなに詰られても・・・どんなに泣かれても・・・もう僕には自分の心を偽る事は出来なかった。 例えこの思いがに届かなくても、もう会えなかったとしても・・・ 僕はもう自分の心に嘘はつきたくない。 ゆっくりと立ち上がり、重い足取りでドアの方に歩いて行く。 そして軽く深呼吸をすると、そっとドアを開いた。 「・・・・・・ッ?」 「・・・ダン・・・」 僕はまた・・・幻でも見てるんだろうか? 目の前に立っていたのは、ケイティも誰でもなく・・・僕が今、一番会いたいと願っていた――― 「・・・?」 「・・・ダン・・・っ」 は瞳に涙を浮かべると困惑している僕に抱きついてきた。 驚いて肩に手を乗せると、かすかに震えているのが分かる。 「ちょ・・・泣いてるの?どうしたんだよ・・・?」 彼女の体温を感じて、これが幻じゃないと理解した。 だがいきなり泣き出したに僕も動揺して恐る恐る背中をさすってあげる。 「と、とにかく入って・・・」 体が震えている彼女に僕はそう言うと優しく肩を抱いた。 は小さく頷くと素直に部屋の中へと入る。 そのままソファに座らせると、僕は混乱しつつもテーブルの上にあるカップを慌てて片付けた。 そして俯いたままの彼女に、「あ、あのさ・・・紅茶飲む?」と尋ねる。 は少しだけ顔を上げて小さく頷いてくれた。 ホっとしてすぐに新しいカップを出すと、いつものように紅茶を淹れた。 その作業をしてると少しは落ち着いてきて軽く息を吐き出す。 チラっとの方を見てみれば彼女はまだ俯いたまま。 よく見ればコートも羽織っただけでボタンすら留めてないしマフラーもしていない。 この寒空の中、この格好はおかしいと感じた。 「はい、紅茶・・・」 「・・・ぁりがと・・・」 僕がそっと彼女の手にカップを持たせてあげるとは小さな声で呟いた。 それをゆっくり口に運び、美味しそうに飲んでいるのを見て僕もホっとした。 そのまま彼女の隣に腰をかけると、少しだけ前屈みになり、の顔を覗き込む。 「どうした?何か・・・あった?」 「・・・・・・・・・」 僕の問いには何も答えず、黙っている。 でも昨日の今日で僕のところに来るなんて、よっぽどの事だと思った。 だが、ふと彼女の服装に目がいった。 「ちょ・・・どうしたんだよ、これ・・・」 「・・・・・・ッ」 僕の言葉にはハっとした顔でコートの前を手で引っ張った。 だがその前にボタンも留めていないコートの隙間から見えたのは中に着てた服が胸元までボタンを外され、 露になった白い肌―― それにはさすがにドキっとしたが、すぐに足元から不安がこみ上げてくる。 まさか――― 「ねぇ、・・・何があった?ちゃんと話して」 「・・・ダン・・・」 顔を赤くしているの肩を掴み、問い詰める。 だが彼女は首を振ると、「何も・・・ない」とだけ言った。 「そんなわけないだろ?こんな格好で僕のとこへ来たんだから・・・っ」 真剣にそう言うとの瞳に涙が浮かんだ。 僕はその様子に心の奥がざわついて激しい怒りが込み上げてくるのを感じた。 「まさか・・・あいつか?あいつに何か乱暴されて―」 「ち、違うの・・・!彼は悪くない・・・ッ」 「・・・な・・・じゃあどうして泣いてるんだよ・・・?しかもこんな格好で―」 「私が!・・・悪いの・・・っ」 「え・・・?」 「私が・・・・・・・」 はそう呟くと涙をポロポロ零しながら僕の胸にそっと顔を埋めてきた。 それには鼓動が跳ね上がり、どうしていいのか分からず、体が固まってしまう。 まるで15歳の頃の自分に戻ったかのように、そのまま動けなくなった。 「・・・・ダンが・・・」 「・・・え?」 胸元でが何かを呟いた。 ドキっとして僕が少しだけ屈むと、は顔を埋めたまま胸元をギュっと掴んできた。 「・・・好き・・・ダンの事が・・・今でも・・・好きなの・・・」 「――――ッ?」 今度は僕の耳にしっかりと届いた。 震える声での言ってくれた言葉が― 「・・・」 信じられなくて、頭が整理しきれない。 それでもは僕の胸にしがみついて肩を震わせ泣いている。 その細い肩を見て僕は胸が熱くなった。 ゆっくりと腕を彼女の背中に回す。 そして壊れ物に触れるかのように、そっと彼女の体を抱きしめた。 「・・・ダン・・・」 そこでがビクっとした。 それでもゆっくり顔を上げると僕を涙いっぱいの瞳で見つめてくる。 「・・・に・・・話したいことがあるんだ・・・」 「・・・ぇ?」 僕の言葉には不安げな顔をした。 そんな彼女に優しく微笑むと軽く息をついた。 「昨日は・・・酷いこと言ってごめんな・・・?」 「・・・そんな・・・私こそ・・・」 僕の言葉には慌てて首を振る。 「いいんだ・・・。が・・・怒った理由が・・・やっと今日分かった・・・」 「・・・・・・?」 の顔に困惑の表情が浮かぶ。 そんな彼女に微笑み、僕はゆっくりと腕を放すとソファから立ち上がった。 そして向かいのソファにかけたコートのポケットから、あの手紙を取り出しに見せる。 「それ・・・」 「が・・・二年前に僕に送ってくれた手紙・・・だろ?」 「・・・うん・・・」 は悲しげな顔で目を伏せた。 僕は軽く深呼吸をすると再び隣に座り、彼女の顔を覗き込む。 「違うんだ、・・・。僕は返事を出さなかったわけじゃない・・・出せなかったんだ・・・」 「・・・な・・・ど、どういう意味・・・?」 そこで顔を上げると訝しげな顔をする。 そんな彼女に僕はありのままを告げた。 「じゃ・・・じゃあ・・・ダンのお母さんが・・・?」 「・・・うん、ごめん・・・。僕も・・・今日この手紙のこと知ったんだ・・・」 「そんな・・・」 僕の説明には動揺したように視線を彷徨わせた。 それも無理はないだろう。 そのせいで僕も彼女もお互いに誤解をして相手に振られたと思っていたんだから・・・ 「そんな・・・じゃあ・・・本当は・・・」 「・・・僕は・・・ずっとからの連絡を・・・待ってたよ?」 そう言って彼女を見つめるとの瞳にまた涙が浮かんだ。 「わ、私も・・・ダンからの・・・返事・・・待ってたの・・・・・で、でも待っても待っても来なく・・・て・・・」 「あ~・・泣かないで・・・」 子供のように涙をポロポロ零し、言葉を詰まらせるを僕はそっと抱きしめた。 ずっと夢にまで見た彼女の温もり・・・ その懐かしい体温に胸が熱くなり、僕も喉の奥が痛くなる。 「ごめん・・・随分と待たせちゃって・・・」 彼女の頭に頬を寄せ、そう呟くとは小さく首を振った。 だが少しだけ視線を上げると、 「で、でも・・・もしこの手紙を・・・2年前に見てたら・・・ダン、どうしてた・・・?」 不安げにそう聞いてくるが可愛くて僕は思わず笑顔になった。 「もちろん・・・大学生になるまで・・・ずっと待ってるって・・・返事を書いたよ」 そう言ってを見つめると、彼女は顔を歪ませて再び泣き出してしまった。 僕はちょっと笑うとの頭を抱き寄せ、自分の胸元にギュっと押し付ける。 こうして全てを分かったことでホっとしたのか、は声を出して泣いていた。 僕は黙って彼女の背中をさすりながら気の済むまで泣かせてあげた。 でも・・・とホっとしたところで少しの不安も残る。 はさっき、あの恋人と出かけたはずだ。 それなのに、どうして急に僕のところへ来たんだろう? 昨日の感じでは、もう過去の事は忘れて今を大事にしたいと言ってるように思えた。 なのに―― この格好の事も気になり、僕は少しだけ体を離し、の顔を上げさせた。 だが思い切り泣いたせいで鼻が少し赤く、子供みたいな顔になっている彼女に僕は思わず顔が綻ぶ。 「ダ、ダン・・・?何笑って・・・」 「だって・・・の鼻、真っ赤で子供みたいだ」 「・・・・・・こ、子供って・・・」 僕の言葉がお気に召さなかったのか、はちょっと口を尖らせて僕を見上げてくる。 その表情を見た時、昔の彼女とダブって見えて思わずキスをしてしまいそうになった。 危ない、危ない・・・。ダメだろ、キスしちゃ・・・好き、とは言われたけど、まだから何も話を聞いてない。 何とか理性を奮い立たせ、僕は軽く咳払いをした。 「あ、あのさ・・・・・・」 「・・・え?」 「今日・・・あの恋人と・・・会ってた・・・だろ?」 「・・・・・・ッ」 僕の言葉にはハっとして目を伏せた。 その様子に僕は慌てて顔を覗き込むと、 「じ、実はさ・・・この手紙の事を言いに・・・さっきホテルに行ったんだ。そこで見かけて・・・」 「・・・・・・・・・」 そこまで言うとは少しだけ顔を上げてくれた。 それにはホっとして僕はなるべく優しい声で、気になっていた事を聞いてみる。 「なのに・・・どうしてここへ来たの・・・?それにその格好・・・」 そこまで言うと今度は真っ赤な顔で僕を見た。 そして軽く目を伏せると、 「・・・彼の・・・部屋に行ったの・・・」 「・・・っ?・・・そ、そう・・・」 それを聞いて内心、カっとなったが、ここはグっと我慢した。(大人だ、僕) 「それ・・・で・・・彼と・・・その・・・」 は言いにくそうに視線を彷徨わせた。 それに見る見るうちに顔が真っ赤になっていく。 そんな彼女を見ていると心の奥がざわざわして体中に何か熱いものが駆け巡る感じがした。 「彼と・・・何?何か・・・あった・・・とか?」 引きつった笑顔で何とかそう尋ねた。 するとは恥ずかしそうに俯いてしまい、僕の不安は当たってしまったかのように思えてカっとなった。 「な、何された?!無理やり押し倒された?!」 「い、痛い、ダン・・・」 「あ・・・・・・・ご、ごめん・・・」 つい、ムキになっての腕を掴んでしまった。 慌てて手を離すとは困ったように微笑んで、 「で、でも・・・何もなかったの・・・。あ、あの・・・と、途中まで・・・で・・・」 「えぇ?!」 「ダ、ダン?」 「あ・・・ご、ごめん」 思わずがあの男にナニをされそうになってるところを想像して僕はつい変な雄たけびを上げてしまった。 そんな僕を見ても目を丸くしている。 「あ、あのね・・・そこで・・・やっぱりダンのことが・・・好きだって・・・気づいて・・・それに・・・」 「・・・え?」 「ダンの・・・気持ちも・・・」 「・・・僕の・・・気持ち・・・?」 首を傾げるとはちょっと微笑んで頷いた。 「どういう・・・こと?」 「・・・それは・・・上手く言えない・・・」 「え、何で?」 僕の問いかけには困ったように視線を逸らす。 何が言いたいのか分からず首を傾げたが、とにかく何もされてないという事が分かって心の底からホっとした。 そのまま俯いているをそっと抱き寄せると彼女も素直に僕に体を預けてくれる。 それが幸せで、まるで昔に戻ったような、そんな錯覚に陥った。 ギュっと強く抱きしめ、本物のだと確信する。 何度でもこうして彼女を抱きしめたいと思った。 これが夢じゃない、と・・・実感したいから― 「ダ、ダン・・・?」 彼女の体温を感じていると、僕の理性もそろそろ限界のようで、思わず額に口付けた。 はビクっとして驚いたように顔を上げる。 まだかすかに鼻が赤くて子供のようなに更に理性が崩されていく。 僕は理性を捨てて本能に従い、そっと顔を近づけていった。 だがもう少しで互いの唇が触れそうになった時、が慌てて僕の胸を押した。 「ダ、ダメ・・・」 「・・・え?」 僕はに拒否をされて内心、かなりのショックを受けた。 「どうして・・・?」 スネたように顔を覗き込むとは赤い顔のまま視線を逸らした。 「だ、だって・・・ダンにはケイティが・・・いるのに・・・」 「・・・あ・・・」 の悲しげな顔を見て僕は思わず、声を上げた。 でもそれは、さっき別れに近い言葉をケイティに言ったという事をに伝えるのを忘れていたからだ。 だが彼女はそれを勘違いしたのか、怖い顔で僕を見ると、 「か、彼女がいるのに・・・私にキスしようとするなんて・・・」 「や、違うって、あのさ―」 「そ、そりゃ私は・・・ダンの事を好きだって言ったけど―」 「ちょ、ちょっと待てよ。だったらは?あの男と別れて来たわけじゃないんだろ?」 そう言って目を細めるとは困ったように目を伏せた。 その様子を見て、やっぱり別れてはいないんだ・・・と胸が痛む。 「は別れてないじゃん・・・」 「な、ダンだって―」 「僕はさっきケイティにの事を忘れられないって言ったし・・・」 (まあ言い終わる前にひっぱたかれたんだけど・・・その事は黙っていよう・・・) 内心そう思っているとは驚いたような顔で僕を見ていた。 「ほんと・・・に・・・?」 「え?」 「ほんとに彼女に・・・そう言ったの・・・?」 「うん、まあ・・・。でもは彼に何も言ってない―」 「言ったわ・・・?」 「え?」 ドキっとして彼女を見るとは真剣な顔で僕を見ていた。 「彼に・・・言ったの・・・。忘れられないって・・・」 「・・・・・・」 その言葉を聞いて一気に胸が熱くなった。 の腕を強引に引き寄せ強く強く抱きしめる。 今までの苦しさとか、辛さが浄化されて、彼女への想いだけが残る。 もう心の中にしまっておく事が出来ず、僕はかけたままの心の鍵を開け放った。 「・・・好きだ・・・ずっと・・・心の奥にがいた・・・」 「・・・私も・・・ずっとダンが・・・いたの・・・」 お互いに気持ちを伝え合う。 たったこれだけの事なのに、僕らはどれだけ遠回りをしたんだろう? 彼女の細い体をゆっくり解放すると、僕はの顔を見つめた。 「・・・僕らは・・・これから今まで傍にいてくれた人を傷つける事になる・・・それでも・・・いい・・・?」 辛いことだ。 そんなの分かってる。 僕らが想いを遂げたら・・・傷つく人が現れるんだから。 それでも・・・誰を傷つけても・・・僕の傍にいる事を望むか、という決心を聞きたかった。 僕が黙って見つめているとはキュっと唇を噛んで視線を上げた。 「それでも・・・ダンといたい・・・。もう・・・ダンを失いたくないの・・・」 目に涙を溜めて、でもはしっかりとした言葉を僕にくれた。 「・・・ありがとう・・・」 胸が熱くなって僕は彼女を思い切り抱きしめた。 ずっと・・・ずっと恋しくて堪らなかったの温もりを体全部で感じる。 もう、限界だった。 今、にキスをしたくてたまらない。 僕は体を離すと彼女の額にそっと口付け、そのまま唇を頬に移動させた。 はキュっと目を瞑って恥ずかしいのか、薄っすらと赤くなっている。 そんなとこまで変わってなくて僕はちょっと微笑むと、ゆっくりと屈んで彼女の唇に口付けた。 懐かしいの唇の感触に体中に電気が走ったみたいに熱くなる。 最初は触れる程度に、そっと離し、また触れて、そんなキスを繰り返す。 の手が僕の胸元をギュっと掴んでくるのが愛しくて、軽く唇を甘噛みした。 ビクっとなったの体をきつく抱きしめ、どこにも逃がさないようにソファにそのまま押し倒す。 「・・・ん・・・ダ・・・ン・・・?」 「好きだよ・・・」 そう囁いて、またキスをする。 「この唇も・・・僕のものだから」 そう言って指で唇をなぞるとの頬が真っ赤に染まった。 それを見て微笑むと、もう一度口付ける。 「もう・・・誰にも触れさせないで・・・」 やっと僕の腕の中に戻って来た愛しい人・・・ もう、どこにも・・・誰のもとにも飛んで行かないで・・・ そう願いながら彼女の首筋に顔を埋めた――― 強がることに疲れたの 幼すぎたの 今なら言える・・・ 「I miss you......」 |
Postscript
のぉーん(何)またまたまーたダン夢アップ( ̄ё ̄)
やっと・・・やっと思いを告げあいましたよ・・・焦れ焦れストーリですみません;
でもさぁー傷つく人がいるのは辛いよね…(誰のせいだ)(お前だ)
私としては序の口なんですが今回、ちょっと長いですかね?(苦笑)
これ、本当はこれの前の話とくっつけて考えてたんですよ(オーイ)
でも長くなるなーと漠然と思ったのと時間が遅かったことで前回のはあそこで切ったという・・・;;
話が浮かんでる時だけは指が・・・止まらない~♪ha~ha~♪(E.YAZAWA?(笑)
と、アホな管理人は置いといて・・・(ぇ)
やっと無事に二人が気持ちを確かめ合う事が出来ました(T-T)ノ
焦れて待って下さってた皆さん、スッキリ解消しましたでしょうか?
またその辺の感想を頂けると、単純な管理人は馬車馬のように働きま―すぅぇん(どっちだよ!)
明日は別の連載を・・・書けるといいな・・・( ̄_ ̄)(遠い目)
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】