Chapter.1 雨~出逢い~ Only you can love me...
私は窓の外を眺めながら小さく溜息をついた。 何だか曇り空の、どんよりと重い感じが雨が降るのかも…と思わせる。 私は教室の方へと視線を戻した。 ホームルームが始まるまでの時間、クラスの皆はそれぞれ仲のいい友達同士で楽しそうにおしゃべりをしている。 私はそれを、ただボーっと眺めていた。 転校してきて一週間、まだ誰ともそんなに話をした事がなかった。 いつになったら…このクラスに馴染めるんだろう… 私は日本からこのロンドンへと引っ越して来た。 父は有名な商社の海外事業部で働いていて、この転勤が決まった時は母も大喜びだった。 だけど私にしてみれば、15歳の多感な時に仲のいい友達と離れ、好きな男の子とも別れ、 こんな異国の地に来る事になったのだ。 こんな理不尽な事はないと思った。 何でも親の思い通りで…私の意見さえ聞いてくれなかった。 私は日本のおばあちゃんの家にお世話になりたかったのに… お父さんやお母さんは英語がペラペラだからいいけど…私は日常で使う英語くらしか解らない。 それも早口で話されると、もうダメだ。 だからか、クラスの子も最初は話し掛けてきてくれたけど言葉が聞き取れなくて聞き返されるのが煩わしいのか 今では挨拶くらいしか声をかけてくれなかった。 つまんない… もう家に帰りたい…そう思っていた。 そこへ教室のドアが開き、担任の先生が入ってくる。 女の先生でなかなかの美人。 そして何より凄く優しかった。 名前は確か…そうレニーだ。 「はい、皆、席について!とっくに席へついてる時間でしょう?」 レニーはそう言ってパンパンと手を叩くと、皆も自分の席へと戻って行く。 それを満足そうに見ながら、レニーは笑顔で口を開いた。 「えっと、今日はまた転校生を招介します」 レニーがそう言うとクラス中でザワザワと話し声が響き出した。 転校生… 私が来たばかりで、もう新しい生徒が入ってくるんだ。 (…その人…女の子だといいなぁ…) 私は何となく、そう思いながら入り口の方を見た。 「ほらほら!騒がないの!じゃ、紹介するわね?」 レニーは笑顔で、そう言うとドアの方へ歩いて行き、「入って?」と声をかけている。 廊下で待たせてたのだろう。 すぐにドアから男の子が入って来た。 女子からは少しだけ歓声が上がりかけたが、すぐにザワザワし始める。 私は転校生が男の子だと知り、少しガッカリしてしまった。 その男の子は少し俯き加減で立っていて顔がよく見えない。 「えっと今日から皆のクラスメートになるダニエル・ラドクリフくんです」 レニーが彼の肩を抱いて笑顔で紹介した。 その言葉でクラス中で起きてたザワザワした声が一気に高いものへ変わった。 「やっぱり!似てると思ったのよっ」 「ほんと!嘘みたいっ」 女子からは黄色い声が上がり、男子からは驚きの声が上がっている。 私は目の前で、未だ俯くようにして立っている彼の顔を、じぃっと見てしまった。 ダニエルって…あの映画の子…よね… 嘘…私でも知ってる…っ 私も皆と同じように驚いてしまった。 ただし声に出して言うか言わないかの違いだが… 誰もが唖然としてる中、レニーはニコニコしながら、また手をたたき、 「静かに!皆も知ってると思うけどダニエルは特殊な仕事をしてます。 だからと言って変に騒がないで上げて欲しいの。 ここにいる間は皆と同じ学生であり生徒なの。 だから変に意識しないで普通に接してあげてくれるかしら」 レニーが、そう言うとクラスの皆は、それぞれ手を上げて、「はーい」「解りました」という声が上がった。 それを見渡して満足そうに微笑むと、レニーはダニエルの肩を軽く押して、 「さ、じゃあ皆に挨拶して?」 と優しく声をかけた。 それには皆も一気に静かになる。 ダニエルは少しだけ顔を上げて、「ダニエルです。どうぞ宜しく」とだけ挨拶した。 素っ気無いものだったが少し緊張している様にも見える。 それでも皆は優しく拍手をしていた。 「さ、じゃあ、ダニエルは、あそこの窓際の席よ?!」 急に名前を呼ばれて私は驚いて立ち上がった。 「は、はい…」 「あなたの後ろにある机を隣に持ってきてあげて?ダニエルが座るから」 「え…後ろ…?」 私は、そう言われて後ろを振り返る。 見ると確かに一番後ろに誰も使っていない机が隅に押しやられて置いてあった。 私は一番後ろの窓際の席で転校したばかりだった為、隣の席はなく一人で座っていた。 という事は私の隣にダニエルが来るらしい。 私は言われた通り、後ろの机を運び、私の隣、それも窓際の方に寄せて置いてあげた。 (あ~あ…窓際気に入ってたのになぁ…) そんな事を思いつつ仕方ないと席についた。 「さ、じゃあ、あそこがあなたの席よ?解らない事があれば隣のに聞いてね?」 レニーが、そう言うとダニエルは黙って頷き私の方へ歩いて来た。 それをクラスの皆がチラチラ見ている。 やはり気になるのだろう。 ダニエルは、そんなのは気にも止めず、真っ直ぐ歩いて来ると私の運んだ机に鞄を置いて席についた。 それを見届けるとレニーは、ちょっと微笑んで、 「じゃ、ホームルーム始めます!今日の当番は…」 と普段通り、ホームルームを進めていく。 私は隣に座っている有名なACTORの顔をチラっと横目で見てみた。 ダニエルは鞄を机に引っ掛けると、レニーの話を聞いてないのか、ずっと窓の外を眺めている。 ほんと奇麗な顔立ち… さすがは有名子役よね。 目が大きくて奇麗なブルーアイ… ちょっと見惚れてしまい、気付けばボーっと彼を見ていた。 すると、ふいにダニエルがこっちに振り向き、目が合ってしまった。 私はドキっとして思わず視線を反らし、一時間目の授業で使う資料を取り出す。 彼の視線を感じ、ドキドキしてしまったが、彼は別に話し掛けてくることはなく、また窓の方を向いたようだった。 (はぁ…焦った…) 私は気づかれないように小さく息を吐き出すと、丁度レニーがホームルームを終えて教室から出て行くところだった。 そこで、また一斉に生徒が立ち上がり、ザワザワと話し声が聞こえ始める。 皆の興味は同じだったようだが話し掛けにくいのか皆が遠巻きにダニエルを見てるといった感じだ。 その視線は隣に座っている私にまできてる気がして私は顔を上げられなくなった。 ダニエルは…気にならないのかな… まあ、人から注目されるのは慣れてるのかもしれないけど…ここは学校なんだしジロジロ見られるのは嫌だよね… 私は、そんな事を思いつつ教科書を出して今日やるところに目を通していた。 難しい英語もあり、読んでるだけでサッパリ解らない個所も多々ある。 こんなんで、こっちの授業についていけるのかなぁ… こっちに引越す前、家庭教師をつけて、みっちりと勉強したんだけど… 今は解らないとこがあっても誰にも聞けない。 聞いたところで相手の言葉が聞き取れないと、また煩わしいと思われてしまいそうだし。 一応、解らない単語は赤線を引いておいた。 家で辞書を見ながら勉強する為だ。 そこに一人の女子生徒が歩いて来た。 影がかかり私が顔を上げると、その子はクラスの中でも一番可愛いシェリルという子だった。 「Hi!ダン。私はシェリル。あなたとクラスメートになれて嬉しいわ?」 シェリルは、そう言ってダニエルに手を差し出した。 それをクラスの女の子は固唾を飲んで見守っている。 きっと代表として先に話し掛けるのは彼女に決まったのだろう。 もしくは自分で言い出したか… シェリルに話し掛けられて、ダニエルは少しだけ顔を上げた。 そして出された手を見て、ちょっと戸惑うように握手をした。 「宜しく…」 その声に女子…主にシェリルの取り巻きチームは、「キャァ…」 と歓声を上げている。 シェリルはダニエルの言葉に気を良くしたのか、ニッコリ微笑んで、 「何でも解らない事があったら私に聞いてね?」 と言った。 だがダニエルは握手していた手をすぐに離し、 「ありがとう。でも…先生が隣の子に聞けって言ってたし…彼女に聞くよ」 と言って突然、私の方に手を差し出してきた。 「宜しくね」 「え…っ?!」 私はずっと俯いていたが突然のことで驚いて顔を上げた。 すると目の前にはダニエルの顔と差し出された手… 「あ、あの…」 私は視線が泳いでしまったが、ふと怖い顔で睨んでいるシェリルと目が合い、慌てて顔を伏せた。 「よ、宜しく…」 私はダニエルとは握手をしないでそれだけ呟いた。 ダニエルは首を傾げている様子だったが、何故かシェリルがダニエルのその手を掴み、 「ダン、も転校してきたばかりで何も知らないわ? それに言葉もよく解らない事もあるし…彼女に聞いても意味ないわよ」 と言ってダニエルの気を引こうと頑張っている。 私はその言葉を聞いて恥ずかしくなったが、ちょっとムっとしていた。 何よ…それくらいの会話なら私にだって解るわよ…っ それに、"ダン…"なんて初対面なのに馴れ馴れしい… いくら彼が有名でも初めて会った相手をニックネームで呼ぶなんて…ファン丸出しじゃないの。 ここは学校なのよ…っ 私は心の中で思い切り日本語で文句を言った。 そこへ授業開始を知らせるチャイムが鳴り響く。 「あ、いけない!じゃ、またね?ダン」 シェリルは、そう言って慌てて自分の席へと戻って行った。 途中、取り巻きグループの女の子に肘でつつかれたり、背中を叩かれたりして、からかわれている。 シェリルも嬉しそうにニコニコしていて、私はそれを見て軽く息を吐き出すと教科書に視線を戻す。 すると突然、肩をポンポンと叩かれドキっとして顔を上げた。 見るとダニエルが、 「あの……でいいんだっけ」 と聞いてきた。 私は彼の奇麗な瞳から視線を外し、小さく頷く。 するとダニエルは、また肩を叩いてくる。 私がチラっと彼の方を見ると、ダニエルは、 「ちょっと教科書、違うみたいなんだ。まだ新しいの揃えてなくて…だから見せて欲しいんだけど…」 と申しわけなさそうに言ってきた。 私は少し緊張したが、黙って頷くと自分の机を動かしダニエルの机にくっつけた。 そして教科書を開くと今日やる予定のページを指さし、「今日は、ここから…」と言って彼を見た。 するとダニエルは嬉しそうに微笑んだ。 「ありがとう。助かるよ」 「う、ううん…」 その笑顔にちょっとドキっとした。 同じ歳の外国人の男の子とこうして話すのは初めてだったのもある。 クラスの男の子とは誰とも口を聞いた事がないし、(というか話し掛けてくれない) 女の子とだって、まともに話した事もないのだ。 そこへ一時間目の数学の先生が入って来た。 少しざわついていた教室も、そこでシーンとなる。 数学の先生は男の先生で50代くらい。 いつもムスっとした顔で授業をしている。 雑談なんてしようものなら、すぐに怒鳴る怖い先生だ。 「おはよう。じゃ、今日は56ページからだったな?」 先生は、そう言って教科書を開いた。 そして黒板に数式問題を、どんどん書いていく。 私はそれを見ながら教科書にも目を通し、ノートに書いていった。 ダニエルも同じようにしている為、教科書を覗く度に互いの顔が近づき、ドキっとする。 何だか外国人って異世界の人みたいだ。 自分とは住む世界が違う感覚だし変な感じ… 私は問題を解きながら、そんな事を考えていた。 今日の授業を終えて、私は帰り支度をしていた。 ダニエルも初日だったからか、今日は最後まで授業を受けていて隣で帰る用意をしている。 私は教科書やノートを全て鞄に詰め込み、席を立った。 「」 「え?」 ふいにダニエルに呼ばれて私は振り向いた。 するとダニエルも鞄を肩からかけると、 「今日、ありがとう。教科書、殆ど見せて貰っちゃって」 と言ってニコっと微笑んでくれた。 私は恥ずかしくて視線を反らしてしまう。 「あ…ううん。私も…一週間前に転校してきたばかりで困るの解るから…」 「あ、そうだよね。じゃ、仲間だ。あ、外まで一緒に行こうよ」 ダニエルは、そう言って、先に教室を出て行ってしまった。 「え?ちょ…」 私は驚くがダニエルは、すでに廊下に出て行ってしまう。 それを慌てて追いかけて行く。 ダニエルは普通に廊下を歩いて行くが、他のクラスの生徒も彼を見て驚いた顔で振り返っている。 女子生徒も、キャーキャー言いながらダニエルを見て喜んでいる様子だ。 私はそのダニエルの後ろをついて歩いていると、追っかけと間違われないかとヒヤヒヤしていた。 二人で玄関に行って互いの靴箱前で靴を履き替えてると、ダニエルがシェリルに捕まってるのが見える。 私は別に関わりたくもないので、二人の横を通り過ぎる時に、 「さよなら…」 と声をかけて歩いて行こうとした。 その時、腕をぐいっと捕まれて驚いて振り向く。 「あ、あのさ。僕、に道、教えてもらう約束なんだ。だからごめんね?」 「え?」 ダニエルのその言葉に私は目を見開いた。 (約束?何の?) 頭が混乱したがその時のシェリルの引きつった顔だけは解った。 「そ、そうなの?でもだって道、解らないんじゃないかな?」 「いや、さっき家の方向聞いたら僕が行きたい方向と同じだったからさ。大丈夫だよ?じゃあ…行こうか、」 「え?あ、あの…ちょ…」 ダニエルはそう言って私の腕をぐいぐいと引っ張って行く。 私は仕方なくそのまま彼について行った。 そして学校前の道を曲った時、ダニエルがやっと立ち止まり腕を離してくれた。 「ごめん。巻き込んじゃって」 「あ、あの…私、家の方向なんて教えてないよ…?」 私は息を整えてからそう言うとダニエルは、ちょっと苦笑した。 「ごめん。さっき…一緒に帰ろうって言われてさ? これから仕事なんだって言ったら一緒に行って道、教えてあげるって言われて困ってたんだ。 だから君が帰るのが見えて咄嗟に嘘ついちゃってさ」 私は唖然としてダニエルの言葉を聞いていたが、シェリルの怖い顔の理由も解りちょっと噴出してしまった。 「そ、そう…。別にいいよ?そういう事なら…」 「ほんとにごめん。あ、はどっち?」 「え?」 「家」 「あ…家はケンジントン消防署の裏なの」 「え?嘘。僕はチェルシータウンホールの近くなんだ」 「え?」 「ほんとに方向同じみたいだね?」 ダニエルはそう言ってちょっと笑っている。 「じゃ、近くまで一緒に帰ろうか。は引っ越して来たばかりなんだろ?」 「う、うん。日本から…」 「へぇ、日本か。この前、仕事でだけど行って来たよ」 そう言ってダニエルは歩き出した。 私も自然に彼について行く。 「ああ…知ってるかも…。何だかテレビで騒いでた気がする。まだ、その時は日本にいたから」 「え?ほんと?」 「うん。でも…ごめんなさい、私、あなたの映画まだ見てなくて…」 そう言って俯くとダニエルが振り向いて楽しそうに笑った。 「別に謝る事じゃないだろ?」 「え…?そ、そうだけど…」 「あ、道、こっちで良かった?」 「あ、うん。こっちからでも帰れるわ?」 「そ。僕も早く道、覚えよう…」 ダニエルはそう言いながら私の前を歩いて行く。 私はその後姿を見ながら少し変な気分だった。 あの有名なハリーポッターと今、一緒に歩いてるんだなぁ… そう言えば日本でもクラスの女子が騒いでた気がする。 ふと、そんな事を思い出した。 「」 「な、何?」 ダニエルは私の歩調に合わせてくれながら隣を歩いてくれた。 そして私の方を見ると、 「クラス…まだ慣れてないみたいだけど…どうして?」 と聞いてきた。 それには私も言葉に詰まってしまう。 「それは…言葉の事とか…」 「言葉…?でも、こうして話せてるのに?」 「そ、それはダニエルが…聞き取りやすい英語だから…。 でも早口で言われると、きっと無理…クラスの子も疲れちゃったみたい。私と話すの…」 私はそう言って俯いた。 するとダニエルが私の肩をポンポンと叩いた。 「そうやって俯かないっ。そんなんじゃ、ずっと皆と打ち解けられないだろ?」 「そ、そうだけど…」 「そのうち英語も慣れてくると思うしさ。覚えるには、いっぱい会話するのが一番いいんだって」 「でも…家だと日本語だし…話す相手が…」 「両親に頼むんだよ。親は英語は?」 「二人ともペラペラ…」 「じゃあ、大丈夫だ。二人に家の中でも英語で話してって頼んでみたら? そしたら自然に耳が慣れて早口で話しても解るようになると思うよ?」 ね?と言ってダニエルは微笑んだ。 その笑顔に私も何となく微笑んでしまう。 「ありがとう…。ダニエルって優しいのね」 「そ、そう?」 私がお礼を言うとダニエルは照れくさそうに笑っていた。 私は何だか彼と話していたら心が軽くなった気がする。 突然の海外への引越しで戸惑っていたけど、これからはここで暮らしていかないといけない。 これからを楽しく過ごすには努力をしなければ… 私は今日、帰ったらダニエルが言ってくれた事をお母さんにお願いしてみようと思っていた― あれから一週間、私は家で一切、日本語は話さず、父と母にも英語で話してもらっている。 あの次の日、ダニエルは仕事のためそのまま3日間、学校には来なかった。 私はダニエルに"ちょっかい"を出してるとシェリルに睨まれ、 相変わらずクラスメートとの会話はなかったけど前ほど気にならなくなっていた。 (また今日も休みかな…) 隣の空席を眺めながら私は窓の外を見た。 ここずっと曇り空だったが、つい先ほどとうとう雨が降り出し今も雨粒が窓を濡らしている。 サーっという音が何とも心地いい。 あ~とうとう降り出しちゃった。 今日も曇りで降らないと思ったから傘、置いてきちゃったなぁ、どうしよう。 にしても…雨の音って眠くなっちゃう… 私は3時間目の自習時間に退屈して思い切り欠伸をしてしまった。 その瞬間にシェリルと目が合う。 彼女は隣の列の真ん中辺りの席だが思い切り後ろを向いて友達と話しているのだ。 シェリルは私と目が合うと何やらヒソヒソと話し始めて嫌な感じだ。 私は気にすることなく自習の課題に出されたプリントに目を通し、全て埋めたかチェックをし始める。 それでも睡魔が襲って来て目を擦った。 夕べ、遅くまでDVD見ちゃったからなぁ… ちょっと眠いかも…。 私は昨日、ダニエルの映画を借りて初めてハリーポッターという映画を見た。 なかなか面白くて長いのに、つい最後まで見入ってしまい、寝不足のまま学校に来た。 あのダニエルって少し幼くて可愛い印象だったし、もっと前に撮影したんだなぁ。 あれじゃあ世界中で騒がれるのも無理はないなと思う。 今は、もっとこう…大人っぽくなってるけど。 そんな事を考えながら、ついウトウトしてしまったらしい。 突然、バンっ!という大きな音で目が覚めて驚いて顔を上げた。 すると、そこには怖い顔をした先生が何か早口でまくしたてている。 な、何だろう… 寝てたこと怒ってるのかな…? そうは思ったが、こんなにギャーギャー怒鳴られたんじゃ何を言われてるか聞き取れない。 私は何て答えていいのかも解らずに泣きそうになってしまう。 見ればシェリルとか、その仲間がクスクスと笑っている。 私は恥ずかしさと怒鳴り声が怖いのとで本当に涙が浮かんできた。 その時― 「…先生。そんなに怒鳴り散らしちゃ彼女、言葉が聞き取れませんよ?もっと、ゆっくり話してあげて下さい」 「ダニエル…?」 私が目を擦りながら声のした方を見れば、ダニエルが肩から鞄を下げて立っていた。 すると目の前で怒鳴っていた先生も、ちょっと咳払いなんかして、 「今後、居眠りはしないようにっ」 と今度は私にも解るくらいのスピードで話してくれる。 「はい…すみませんでした」 そこは私も素直に謝っておく。 「じゃあ、プリント集めて!」 そう言って先生は黒板の方に歩いて行った。 私はちょっとホっとして息をつくとダニエルがクスクス笑いながら隣の席に座った。 「大丈夫?」 「あ、あの…ありがとう…」 「いいんだ。僕も教室に入って来たら怒鳴り声聞こえて驚いちゃってさ。 見れば何だか先生が"自習時間は居眠りする為にあるんじゃない"とか、どうでもいいような事ばっか言ってるし。 見ればもオロオロしてる風だったから、きっと言葉が解らないんだろうなって思ってさ」 「う、うん…。目が覚めて、すぐ怒鳴られたから何が何だかサッパリ…」 「アハハっ。やっぱりね!、目がクリクリしてたもんな。梟みたいで可愛かったよ?」 「え…っ?!ふ、梟って…」 私は可愛いと言われて顔が熱くなってしまった。 しかも梟って何で?! するとダニエルが笑いながら私を見た。 「ああ、ごめん。梟さ、僕の撮ってる映画で使ってるんだけどモデルの梟が凄く可愛いんだよ。 目がほんとクリクリしてて見てると癒されるんだ」 「あ、ああ…あの梟…」 「え?」 「あ…」 つい言葉に出してしまい慌てて口を抑えるも遅かったようで、ダニエルは嬉しそうな顔で微笑んだ。 「もしかして…僕の映画、見てくれたの?」 「え?あ…あの…う、うん…夕べ…。だから寝不足で…」 私はちょっと俯いて苦笑すると、ダニエルも楽しそうに笑っている。 「何だ、そっか!だから居眠りしちゃったの?じゃあ半分は僕の責任かな?」 「え?そ、そんな事は…」 私が慌てて顔を上げると、ダニエルはニコニコしながら私を見ていてドキっとする。 「どうだった?映画」 「え?あ、あの…凄く面白かった。ダニエル、幼い頃に撮ったのね」 「ああ、そうだね」 「凄いのね。そんな頃からACTORなんて…」 「そんな事もないけど…」 ダニエルはちょっと苦笑して、次の授業の教科書を出している。 どうやら新しい教科書を買ったようだ。 私も鞄から教科書を出して、ふと顔を上げるとシェリルと目があった。 何だか怖い顔で睨んでいる。 ああ…今、ダニエルと話してたのが気に入らないのかな… でも…仕方ないじゃない、隣なんだから… 私はパっと視線を反らし、今日やるはずのページを開いて目を通していった。 (うわぁ、本降り…。困っちゃったな…) 私は玄関の入り口に佇み、目の雨の大降りな雨を見て溜息をついた。 お母さん、今日出かけるって言ってたから家にいないだろうし… 濡れて帰るしかないか… 私は覚悟を決めて、雨の中を走り出そうとした、その時。 ドンっと背中に誰かが勢いよくぶつかってきて、その予期せぬ出来事に私の体は前のめりに倒れてしまった。 バシャン…っ 大雨の中、体を投げ出すように倒れて、私は気づけばびしょ濡れで制服は泥で汚れてしまっている。 震える体を、ゆっくり起こして振り返れば、そこにはシェリルとその友達のエリーがニヤニヤしながら私を見下ろしていた。 「あ~ら、ごめんなさいね?そんなとこに突っ立ってるから気付かなかったわ?」 シェリルはクスクスと笑いながら私を見ている。 私は突然の事で頭がついていかず、でも体がどんどん濡れていくのが解り、そっと立ち上がった。 「…つ…っ」 膝に痛みが走り顔を顰める。 見れば転んだ時に打ったのか膝が擦りむけて血が滲んでいた。 「あら、怪我しちゃった?ハンカチでも貸そうかしら?」 「い、いいです…」 私は悔しくて唇を噛み締めた。 シェリルは笑いながら私の方に傘を差して歩いて来ると、 「ちょっとダンと隣だからって仲良くしゃべってんじゃないわよ?」 と耳元で囁いた。 驚いて顔を上げるとエリーも私の方に歩いて来る。 「シェリルは、ずっとダンの大ファンだったのよ? せっかく同じ学校に転校してきてくれたんだから邪魔しないであげてよ。言ってること解るでしょ?」 エリーもわざと、ゆっくりした英語でバカにしたように言ってくる。 「英語もまともに話せない子に、ダンと仲良くして貰いたくないわ? あなた、いつも一人でつまらなさそうにしてたのにダンが来たら、 急に元気になっちゃって。さっきだって庇ってもらったからって勘違いしてるんじゃない? ダンは誰にも優しいの。あなたが惨めで可愛そうだから 助けてくれただけなのよ、きっと。その辺、理解しておいてくれないと」 シェリルはそう言いながら私の顔を覗き込んでくる。 私は悔しさで涙が溢れそうになるのをグっと堪えていた。 「何よ?何か言いたい事でもある?」 顔を上げてシェリルを見ると彼女はムっとした顔をした。 「何よ。その顔…。ほんとムカつく子!日本に帰っちゃって欲しいわ? ちょっとクラスの男の子から騒がれてるからって、いい気にならないでよ!」 「ほんと!こんな子のどこがエキゾチックで可愛いになるんだろ。 うちのクラスの男どもは見る目ないわっ。行きましょ?シェリル」 二人はそれだけ言うと最後に私の肩にドンとぶつかるようにして帰って行った。 私は雨の中で立ちすくんでいたが悔しくて涙が零れると慌てて走り出した。 他のクラスの子達が私の格好を見て驚いているのが解る。 その視線を感じたくなくて一気に家に向かって走って行った。 悔しい…何で、あんなことを言われないといけないの…? どうして私は何も言い返せなかったの? もうやだ、こんなとこ!日本に帰りたい…っ 私は泣きながら走って走って気付けば家の近くのチェルシーホールタウンの前だった。 「はぁはぁはぁ…」 一気に走ったからか足がガクガクする。 それに怪我をした膝からは血が流れて来ていて私は痛みに顔をしかめた。 髪の毛もビッショリでシャワーにでも入ったようだった。 日本にいた頃は…あんなイジメなんかなくてクラスの皆が仲が良かったのに…。 他のクラスとかではイジメ問題とかもあったらしいが、私のクラスは珍しいと言われるほどに平和だった。 だから他人から、あんな風にあからさまに酷い言葉を言われた事もない。 大勢で一人の子を攻撃するのは卑怯な事だと、皆が解っていた。 「もう、嫌だ…。皆のところに帰りたい…」 そう呟いてその場にしゃがみ込む。 体の力が抜けてしまって足が痛くて涙が止まらない。 この空と同じように…私の心の中も、どしゃ降りの気分だった。 (私だけでも…日本に帰してって頼んでみようか…) そう思った時、ふいに今まで私の顔中に降ってきていた大雨が当たらなくなり驚いて顔を上げた。 「やっぱりだ.…。何してるの?!びしょ濡れじゃないか」 そこには傘を差してくれているダニエルの姿があった。 「ダニエル…?」 私は涙で濡れてるのか雨で濡れてるのか解らない顔を見られたくなくて慌てて俯いた。 「ちょ…どうしたの?怪我してるよ?」 ダニエルは私の膝から血が出てるのを見て驚いた顔でしゃがみ込んだ。 「…?何があったの?何で泣いてるの?」 ダニエルの言葉に私は首を振るのが精一杯だ。 するとダニエルが私の肩を抱くようにして立ち上がった。 「とにかく…こんな濡れちゃ風邪引いちゃうよ。おいで?」 「え…」 「僕の家、この裏だって言ったろ?足、消毒しなくちゃ…」 「い、いい…っ。自分の家に帰る…」 私は何とかそう言うもダニエルは首を振った。 「いいから。僕の家の方が近い。体もこんな冷えてるのに…」 と言って私の腕を掴んで引っ張って行く。 私はすでに力が入らなくて、そのままダニエルに手を引かれて歩いて行った。 「さ、ここだよ?」 ダニエルが大きな家の門を開けて中へと入っていく。 私は目の前の家を見上げながら、そこで正気に戻った。 「あ、あのダニエル…私、やっぱり帰る…」 「え?どうして?」 「だ、だって…親とかいるんでしょ?こんな格好で、お邪魔するわけには…」 「ああ、そんな気にしないで?母さん出かけてると思うし。ま、いても気にしない人だけどね?」 「え?」 「女の子には優しくしてあげなさいって人だから」 ダニエルはクスクス笑いながら玄関のドアを開けた。 「はい、早く入って?ほんとに風邪引いちゃうよ」 「お、お邪魔します…」 私はダニエルに手を引かれたまま、家の中へと入って行った。 他人の家の匂いが私を緊張させる。 (凄い広い家…) 私はキョロキョロとしながらもダニエルについて行くと、そこはバスルームだった。 「シャワー入って体、温めた方がいいから。着替えは持ってきておくし」 「え?で、でも、あの…」 「気にしないで入って。あ、それと入る前に…ちょ、ちょっと待ってて」 ダニエルはそう言うと走って行ってしまった。 人の家のバスには入った事がなく、それだけでも緊張してしまう。 ど、どうしよう。 何だかダニエルのペースで家まで来ちゃったけど… 何だか落ち着かなくてその場で途方にくれていた。 そこへダニエルが救急箱を片手に戻って来た。 「、足見せて」 「え?あ、あの…」 「シャワー入る前に、とりあえず消毒してカットバン貼った方がいいから。出た後にまた新しいのと替えてあげるよ」 ダニエルはそう言うとサッサと私の足を消毒して起用に傷を大きなカットバンで塞いでくれた。 「これで、よしと。なるべく濡れないようにしてね?着替えは置いておくから。じゃ」 「え?あ…」 ダニエルはそう言ってすぐにドアを閉めてしまった。 (も、もう…ダニエルって、ちょっと強引なとこあるのかな…) そんな事を思いながらも体が冷え切っていた為、ぶるっと寒気が来た。 仕方ない… ここはダニエルの好意に甘えよう… あまりに寒かったため、ビッショリと濡れた制服を脱いだ。 下着まで濡れてなくてホっとしながら制服の下にそれを隠す。 奥のバスルームのドアを開けて中を覗き込むと広くて驚いた。 「うわぁ、大きなお風呂…」 恐る恐るといった感じで中へ入ってみるが広くて落ち着かない。 そこにシャワーを見つけて、まずは温めのお湯を出してみる。 ここまで体が冷えてしまっては急に熱いのはかけられないからだ。 「はぁ…あったかい….」 私は体にお湯を当ててちょっと息をついた。 傷口を避けるようにしながらシャワーを浴びているとドアの向こうから声がしてドキッとする。 「?ここに着替えとバスタオル置いておくから」 「あ、ありがとう!」 何とか返事をするが自分は裸なので妙に恥ずかしい。 こんな日本でもクラスの男の子の家になんて行った事なかったのに… 私は少しだけ戸惑いながらも涙と雨で濡れた顔に一気にシャワーを当てて、 さっきの全ての悔しさを洗い流すように何度も顔を洗った。 「ダニエル…?」 私はシャワーから出ると濡れた制服を抱えてそっと廊下を歩いて行った。 するとリビングらしき部屋のドアが開いていてテレビの音が聞こえる。 (あそこにいるのかな…) 私は用意されてたスリッパをパタパタさせつつ、そぉっと中を覗いた。 だが中には誰も居なくてテレビだけがついている。 「ダニエル…?あの…」 「あ、出たの?」 「ひゃっ」 もう一度声をかけてみた時、すぐ後ろで声がして私は驚いた。 「アハハ、ごめんごめん。驚かせちゃった?」 振り返るとダニエルが私服に着替えてニコニコしながら立っていた。 「あ、あの…シャワーと…着替え、ありがとう…」 「ああ、それ僕のなんだけど…ちょっと大きい?」 「う、うん。でも大丈夫」 「二年前くらいのだから君のサイズに合いそうなの探したんだ」 「あ、ありがとう…」 「別にいいってば。あ、、じゃ、こっち来て」 ダニエルは笑顔でそう言うと、また私の手を引いてリビングの中へ入っていく。 そして私をソファーに座らせるとズボンの裾を捲って膝に貼ってあった予備のカットバンをそっと剥がしてくれた。 「傷…染みなかった?」 「う、うん。大丈夫。ダニエルがしっかり貼ってくれたから」 「そう。なら良かった。じゃ、新しいのに替えるね?」 ダニエルはまた救急箱から消毒液を出し、傷口に塗ると上手にガーゼを当てて包帯を巻いてくれる。 「包帯の方が空気の通りがいいから傷口も化膿しないでいいんだ」 「そうなの?何だか大げさね?転んだだけなのに…」 クスクス笑いながらダニエルを見ると、彼はちょっと顔を上げて、「やっと笑ったね?」と言って微笑んだ。 「え…?」 「だって…さっきの、ほんと泣きそうな顔してたし…。驚いたよ。 買い物するのに寄り道してから帰って来たら、に似た子が蹲ってたしさ。 それにずぶ濡れで…どうしたの?僕が帰った後に何かあった?」 ダニエルはホームルーム終了後、先に帰っていたのだ。 「……」 その質問に何て答えていいのかも解らず、ただ首を振った。 きっと理由を言えば、彼が気にするだろうと思ったから… 「何でもないの。ただ傘忘れて走って帰って来たら転んじゃって…痛くて動けなかっただけ」 「ほんとに?」 「うん」 ダニエルは心配そうに私を見たが、私は笑顔を見せて頷いた。 「そう…。なら…いいけど。さ、出来た」 「ありがとう…。ほんとに」 「いいってば。あ、ちょっと待っててね?」 ダニエルはそう言ってリビングから出て行ったが少しするとカップを両手に持って戻って来た。 「はい。ホットチョコレート」 「え?あ、ありがとう…」 暖かいカップを受け取り、お礼を言うとダニエルはニッコリ微笑んで私の隣に座った。 「ダニエルでもこういう事するのね?」 「え?こういう事って?」 「こうやって…ホットチョコレート作ったり…?」 「ああ、そうかな?料理も覚えたいんだけど時間なくてさ。今は前作の撮りが終ったばかりだから少し余裕もあるけど…すぐ忙しくなりそう…」 ダニエルはそう言って、ちょっと肩を竦めた。 「じゃあ、あまり学校にも来れないね。勉強はどうしてるの?」 「一応は家庭教師がついてるよ?撮影現場にも来てもらって、そこで勉強してる」 「そうなの。大変ね?今日は?仕事が早めに終ったから遅刻してきたの?」 「うん。ちょっとしたインタビューとかで…。ほんとは朝から行きたかったんだけどね?転校したばかりで休むのも嫌だしさ」 「そう…。でも、お仕事だものねぇ…。凄いな…」 そう呟いて少し冷ましたホットチョコレートを口に運んだ。 するとダニエルが私の顔を覗き込んでくる。 「な、何…?」 彼の奇麗な青い瞳と目が合い、ドキっとした。 「さ…。何だか元気ないけど…。ほんとに何でもないの?」 「え?」 「まだ慣れない?」 ダニエルにそう聞かれて私は俯いてしまった。 すると、ふいに頭に手が置かれ驚いて顔を上げるとダニエルは優しく微笑んでくれている。 「辛いと思うのは今だけだからさ。もっと大きくなれば、今の悩みなんて小さな事だって思えるよ?」 「…え?」 「僕もさ、前は忙しくて、なかなか前の学校でも馴染めなかったりしたけど… 一年後に思い返してみると何でもなかったりするんだよね。 だからさ…。もし今、嫌な事があったとしても…そんな思い悩まないでよ」 「ダニエル…」 私は彼の言葉が胸にすんなりと入って来て心が軽くなるのを感じた。 彼は私がシェリルに意地悪をされたとかは知らないはずなのに… ダニエルが言ってくれた言葉は今の私の心情に凄くハマっていて…だから少しだけ気が楽になった。 さっきまであんなに日本に帰りたいと思っていたのに…今は、もう少しだけ頑張ってみようかなと思えてくる。 私はダニエルを見て、ちょっと微笑むと、「ありがとう…」と言った。 するとダニエルは、ふと私の方を見る。 「あのさ」 「え?」 「僕の名前…ダンでいいよ?」 「え?」 「友達も仕事場でも、そう呼ぶ人が多いから。ダンって呼んでよ」 「友達も…?」 「うん、そう。僕ら、もう友達だろ?」 ダニエルはそう言って優しく微笑んだ。 照れくさいのもあり、その笑顔を見ていられなくてちょっと視線を反らすと小さく頷いた。 「わ、解った…」 私が小さく頷くとダニエルは嬉しそうに微笑んだ。 「じゃあ、あれだ」 「え?」 「のロンドンでの友達第一号は僕って事だね?」 「…う、うん」 「改めて、宜しく」 ダニエルはそう言うと私の前に手を差し出してきた。 ちょっと緊張したが、そっと手を出すと彼の手を掴む。 するとダニエルは私の手をギュっと掴んでぶんぶんと振った。 「僕、日本の子と友達になったのって初めてだなぁ」 「私も…イギリスの人と友達になったのは初めて…」 そう言って二人で顔を見合わせてちょっと笑った。 それからダニエルに撮影現場での話とか、共演者の人の事とか沢山教えてもらった。 私が気になってた映画の中の話とかも詳しく教えてくれたりして… 楽しい時間はアっという間に過ぎ、気付けば夜の7時になっていた。 その時間に驚いたダニエルは「もう暗いから」と家の前まで送ってくれた。 外はまだ本降りだったので私はダニエルに服ばかりじゃなく傘まで借りてしまった。 「じゃ、また学校で」 「うん。今日は…本当にありがとう…。服も洗って返すから…」 「もういいって。傷、明日もちゃんと消毒してね?」 「うん」 「明日は僕、学校行けるか解らないけど…。もしさ、何かあれば…電話とかメールくれていいから」 「あ、うん…」 さっきダニエルが、また何か嫌な事とかあれば…と携帯の番号とメールアドレスを教えてくれたのだ。 そこで私も自分のを教えた。 「じゃ…おやすみなさい…」 「うん、おやすみ!って、まだ7時過ぎだけどね?」 「あ、そっか。じゃ、また今度…」 私がクスクス笑いながらそう言うとダニエルは笑顔で手を振ってくれた。 それを確認して私も手を振ってから家の門の中へと入っていく。 すると… 「…!」 「え?」 私はダニエルの声に驚いて振り向いた。 「今度…電話するよ」 「え…?」 「じゃ、またね!」 私が呆気に取られているとダニエルは大きく手を振って走って行ってしまった。 "今度…電話する…" その言葉だけが私の頭の中でくり返されて、胸がドキドキしてくる。 別に番号を教えあったんだからそう言うのも当たり前なのかもしれないけど… でも、こんな帰り際に言われるとドキっとする。 日本にいた頃は…クラスの男の子とかでも仲がいい子とは時々電話で話したりしてたけど… こんなにドキドキはしなかった。 確かに好きな人だっていたけど…告白する間もなくロンドンに来ちゃって憧れだけで終ってしまったから。 それに…ダニエルはACTORで、優しくて、凄くカッコ良くて…確かにシェリルが夢中なのも解る気がする。 そんな彼に、電話するって言われたら…誰だって胸がときめくんじゃないかな… 暫くの間、玄関前に立ちすくんでいてハっと我に帰り、慌てて家の中へと入った。 母からは遅く帰った事で怒られ、あげく何で制服じゃないのか聞かれ、散々だったけど… でも私の心はさっきまでの雨模様ではなく…すっきりと快晴になっていたから小言も苦じゃなかった。 雨に濡れてた私に傘を差してくれたみたいに…ダニエルは心の中にも傘を差してくれた気がして… この日…私の心は彼に救われた。 |
Postscript
ワォ。初ダン夢。
お友達からのリクで書いてみました。何故かダンと同じ歳設定という事で。
こんなんでいいのか?友よ…(笑)
何だか自分の中学生の頃を思い出しながら書いてみたんだけど(笑)
その時のネタもちょこちょこ使おうかなぁ…なんて思ったり(笑)
とりあえず、これもシリーズぽくスタートです。
これは、そんな長くないかな?多分…
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】