Chapter.2 耐えられる~初恋~                  Only you can love me...








私は携帯を見つめながら小さく溜息をついた。
あれから三日。
ダニエルは、また学校を休んでいた。
仕事が忙しいのかもしれない。
…気にはなったが未だにメールも電話も出来ないでいた。


はぁ…ダンも…電話するって言ってたけど…社交辞令かなぁ…
でも、まさか、あんな帰り際に、そんなこと言わないか。


私は携帯を制服のポケットに仕舞って、また息をつく。
窓の外を見れば、まだ少し雨が降っていた。
今は昼休みの時間で皆は食事の後に、それぞれ好きな時間を過ごしている。
私は鞄の中から英語の辞書を取り出してペラペラと捲っていた。
すると突然、その辞書をサっと取り上げられ驚き顔を上げる。


「休み時間まで勉強?大変ね?」
「シェリル…返して…?」
「あら、いいじゃない。別に盗ろうなんて気はないわよ?だって私にはこんな辞書、必要無いもの」


シェリルは、そう言って私の机の上に辞書を放り投げた。
私はムっとしたが目の前にシェリルの取り巻き連中まで寄って来て思わず俯いてしまう。


って男の子に取り入るのがうまいのね?」
「え…?」
「あなた、三日前に…ダンと相合傘してたってほんと?それも肩を抱かれて」
「………っっ」


三日前と言えば…私が怪我をして途中でダニエルに会った日だ。
私は何て答えていいのか解らずに黙っていた。
するとシェリルが私の顔を覗き込んでくる。


「否定しないって事は肯定って事よね?それに…他のクラスの友達が見てたんだもの。
さっき久々に顔合わせた時に教えてくれたの」


私はドキっとして顔を上げた。
シェリルは、さっきまでの嘘くさい笑顔から一転、今は怖い顔で私を睨みつけている。
他の子達もそうだ。


「日本の子って、もっと控えめだって聞いてたけど…は違うみたいね?転校早々、有名人に取り入ろうなんて」
「ち、違うわ?ダンとは偶然…」
「ダン?もう、そんな呼び方してるわけ?」


シェリルがムっとした顔で詰め寄ってくる。
私は内心、自分だって初対面早々に、"ダン"って呼んでたじゃない…と思いながら、この時間が過ぎ去ってくれないかと祈っていた。


「この子、ほんとズーズーしいのねぇ…。言ったでしょ?シェリルはずっとダンの大ファンだったって。
この前言ったばかりなのに、その日にダンと相合傘なんて…。最悪!」


この前シェリルと一緒に文句を言ってきたエリーが私の机をバンっと叩いて思わずビクっとした。


「もうダンとは口も聞かないで欲しいわ?ね?シェリル」
「ほーんと!席だって変わって欲しいくらいよ」


そこまで言われて、かなりムっとした。


「あら、何よ、その顔…。何か文句あるの?」


シェリルが怖い顔で私を睨みつけてるが、私はすぐに笑顔を見せた。


『うるさいわよ。大勢でしか文句言えないクセに』
「?」
「何て言ったの?この子…?」
「さぁ…日本語じゃない?」


皆は私が日本語で文句を言うと訝しげな顔で見てくる。


何よ…日本語も知らないクセに!
少なくとも私は、あんた達の言ってる言葉が解るんだからねっ


心の中で、そう思いながらシェリルを見ると、


「ちょっと!今、何て言ったの?解るように英語で言いなさいよ!」
「文句はないわ…って事を言おうとしたんだけど、つい日本語で出ちゃったの。ごめんなさい」


私はニッコリ微笑んで、そう言えばシェリルもぐっと言葉が詰まっている。
そうこうしているうちにチャイムが鳴った。


「行こう、シェリル。こんな子、無視しとけばいいわよ」
「そうね?」


エリーがシェリルの腕を引っ張って二人は自分の席へと戻った。
他の子達も私を最後に睨むようにして歩いて行く。
それを見て私は小さく息を吐き出した。


何で、私が、あそこまで言われないといけないんだろう…。
偶然、ダニエルと会ってもいけないわけ…?
仕方ないじゃないの、家だって近所なんだから。


そう思いながら教科書を出していると反対側の席の男の子が声をかけてきた。


…」
「え?」
「大丈夫…?」


その言葉に私は驚いた。
その男の子はクラスの中でも目立っている子で明るくてスポーツ万能。
ダニエルが来るまではクラスの女子からも人気があった子だった。


「えっと…」
「ああ、僕はチャールズって言うんだ。チャーリーでいいよ?」
「あ、うん…」


クラスの男の子から話し掛けられたのは初めてで私は少し戸惑っていた。


「彼女達、僻んでるだけだから気にしない方がいいって」
「え…?僻むって…どうして?」
「あ、ああいや…。とにかく気にしないで学校においでよ?」
「うん…」


私が頷くとチャールズはニッコリと微笑んだ。
彼もまた整った顔をして爽やかさがカッコイイ感じ。


(イギリスの人って美形が多いのかな…)


私が、そんな事を考えていると最後の授業、理科学の先生が入ってきた。
そこで私は視線を前に戻す。
シェリル達の嫌がらせは凄く嫌だったが、ダニエルに言われてた言葉で何とか我慢できていた。


そう…こんな思いも学生の時までよ…。
一生、シェリル達と顔を合わせて行くわけじゃない。


そう思えば少しは心も軽くなる。


私はそっと窓の外を見て、小雨がパラつくのを眺めていた―
















「ご馳走様…」
「あら、もういいの?…」
「うん、お腹いっぱい」
「そう…?具合悪いわけじゃ…」
「そんなんじゃないわ?じゃ、私、部屋で勉強してるから」


私が、そう言って立ち上がると、お母さんは少し心配そうに私を見つめた。


「勉強してくれるのはあり難いけど…無理はしないでね?英語だって、そのうち、ちゃんと聞き取れるようになるわ?」
「うん。でも最近は大丈夫みたい。やっと授業の中身も解るようになってきたの」
「まあ、そう!じゃあ、家で、こうして英語を話してる成果かな?」
「ふふ、そうかも。感謝してるわ?お母さんっ」


そう言うと母、雪子は嬉しそうに微笑んだ。


「お父さんは今日も遅いのね?」
「え?ああ、そうみたいねぇ…。海外で仕事するのも大変よ」
「そっかぁ。あ、じゃ私、部屋にいるから」
「ええ。勉強頑張って!」
「うん」


私は笑顔で頷くとダイニングを出て階段を上っていった。
部屋に入ると鍵をかけてベッドへダイヴする。


「はぁ…」


ああ言ったものの、今日は勉強する気になれない…
最近、毎晩してたしな…
ちょっとくらいサボってもいいよね…


そんな事を思いながら体を起こすと私は制服のポケットから携帯を取り出して着信を確認する。
が、相変わらずディスプレイは変わらずだ。
それを見て、ちょっと溜息が洩れる。


何で、こんな気になるんだろう…
あんなこと言われたからって必ずしも彼がかけてくるって事はないのに…
それに…何だか私、ダニエルからの電話を待ってるみたいじゃない…


そう思って少しドキっとするも、この前のダニエルの言葉を思い出した。


"もし…何かあればメールとか電話くれていいから"


確かに…ダニエルはそう言った。
今日も…ちょっと元気ないんだけどな…
これも"何かあった"になるのかな。


私は、この前ダニエルに借りた服を見ながら、そんな事を考えた。
いつでも返せるようにサイドボードの上に畳んで置いてある。
学校に持っていけば誰に見られるか解らないから家に置いたままなのだ。


(メール…してみようかな…)


私はそう思いながら、ピっとメール機能のボタンを押してダニエルのアドレスを出した。
とりあえずメール作成にして文章を打ってみる。


『ダンへ。元気ですか?この前は本当に、ありがとう。服は洗ってあります。仕事は忙しい?
学校は相変わらずだけど実は今日、初めて…』


そこでピっと消してしまった。


ダメだ…何だか改めてメールを書くと何を書けばいいのか解らない…
いっその事、電話してみようか…?
でも…仕事中だったら…


そう思うと、どうしても躊躇してしまう。
まあ、ほんとに仕事中なら携帯は持ってないか仕舞ってあるだろうけど…


「はぁ…」


また溜息をついてベッドに寝転がった。
その瞬間、手の中にある携帯が鳴り出し、私はビクっとした。


「ビ…ビックリしたぁ…」


胸を抑えながら起き上がると携帯のディスプレイを見て、更に驚いた。
そこには、"Daniel "と点滅していたからだ。


「嘘…」


そんな実際に電話は鳴ってるんだから嘘なハズはないのだけど、つい口から出ていた。
そしてハっとして、もう一度ディスプレイを見てみる。
改めて見ると一気に緊張してきた。


「ど、どうしよ…っ」


どうしよう、も何も出ればいいのに…と思いながら私は慌ててベッドから立ち上がってしまった。


「ああ…早く出ないと切れちゃう…っ」


私は、もう、どうにでもなれと言わんばかりに、会話ボタンを押していた。


「He....Hello...?」


何だか声が上ずった気がしたが、この際どうでもいい。


『Hello??』
「う、うん…」
『僕…ダニエルだけど…』
「う、うん…」
『今、話してても大丈夫?』
「うん…」
『足の怪我…どう?』
「…うん…」


私が頷くと急にダニエルが笑い出した。


、さっきから、"うん"しか言ってないよ?』
「うん…え?」
『アハハっ。って面白いね』
「え…?お、おもしろ…?」


緊張のあまり、もう自分が何を言っているのかすら解らない。


『Hello??』
「え?」
『ああ、良かった。切れちゃったかと思った』
「き、聞こえてるよ…?」
『うん。今…部屋?』
「え?そ、そう…。夕飯終って、さっき戻って来て…」


何だかどうでもいい事を言ってる気がしたが何か話さなきゃ…と気が焦るばかりだ。


『そうなんだ。学校は?』
「え?」
『その後、慣れた?』
「あ、あの…うん…。まあ…今日、初めて隣の男の子と話したわ?」
『え?隣?ああ反対側の?』
「うん、そう…。チャールズって言う…」
『ああ、あのカッコイイ奴ね』
「え?」
『何でもない。良かったね?少しづつクラスの人にも慣れてくよ』
「う、うん…、だといいんだけど…」


私はちょっと落ち着いてきて、ベッドへ腰をかけた。


「あ、あの…ダニエル…」
『ダン』
「え?」
『ダンでいいって言ったろ?忘れちゃった?』
「あ…ううん。ごめん」
『謝らなくてもいいよ?』


ダニエルはそう言って笑っているようで私はちょっと顔が赤くなった。


『で、何?』
「え?」
『今、何か言いかけてたろ?…もう大丈夫?眠い?』


ダニエルがクスクス笑いながら言った。


「だ、大丈夫…」


私は何だか言おうとしてた事まで忘れてしまったが、一応そう言っておいた。
少しの間、沈黙になってしまったがダニエルの後ろに誰かいるような気配がした。
ダニエルが受話器を抑えて何か言ってる感じなのだ。


(誰だろう…?)


そう思いながらダニエルは何の用事で電話くれたのかな…と、ふと思った。
その時、ふいにダニエルの声が聞こえてきた。



「え?」
『今さ、出てこれる?』
「えっ?!」


ダニエルの言葉に私は驚いて大きな声を出してしまって慌てて口を抑えた。


「出てこれるって…。どこに…?」
『ケンジントン・ガーデンズ。の家からすぐだろ?』
「え…?ケンジントン…?…ダン、そこにいるの?」
『うん、今向かってるとこ』


何でだろう?と思いつつ、時計を見た。
今は夜の8時過ぎだ。
こんな時間に出たら母に何か言われるだろうか…。
でも…借りてた服を返すと言えば…友達が、今近くに来てるからと言えば何とかなるかもと思った。


「あ、あの…行けると…思う…」
『ほんと?じゃあ待ってる。えっとパレスゲイトの近くにいるよ』
「うん。その入り口、家から近いから解るわ?」
『良かった。じゃ、後で…』
「う、うん。後で…」


そこで電話が切れて私は一気に体の力が抜けた気がした。
それでも用意をするべく慌てて立ち上がると、部屋着から外出用の服に着替えた。
外は今は雨が上がっているが気温が低いので軽く上に何か着ていこうとクローゼットを探す。


(これでも寒いかなぁ…でも、すぐ戻ってくるわよね)


そう思いつつ、いわゆるセレブジャージなる服の上から同じブランドのものを羽織った。
そしてダニエルに借りた服を袋に丁寧に入れると、一応、髪型もチェックしてみる。


だ、大丈夫よね…
二つに縛ってたら子供っぽいかなぁ…
でも解いたらきっと縛った後が残ってるし…
ええい、このままでいいや!


私は、そのまま部屋を飛び出した。










外は湿った空気で少し肌寒い。
私は、その中を走るようにして、ダニエルが言っていたパレスゲイトへと向かった。
母に雨の日に服を貸してくれた子があのハリーポッターのハリー役の子だと言うと喜んで送り出してくれて
正直、私の方が戸惑ってしまう。
まあ、お父さんが帰って来るまでには戻って来なさいとは言われたけど…
それでも"サインでも貰ってきて?"なんて冗談めかして言ってた。


(お母さんも案外ミーハーなのかな…)


そんな事を思いながらパレスゲイトが見えてくると少しだけ足を緩める。
何だか胸がドキドキしてきて、かなり緊張してきた。


どんな用事なんだろ…
どんな顔で会えばいいのかな…


あれこれ考えながら待ち合わせ場所に近づくに連れて少し足がゆっくりになる。
真っ暗なのでケンジントンガーデンズも、中はよく見えない。
もう少し…もう少しで入り口だ。
そう思った時、前方に人影が現れ手を振ってるのが見える。


!ここっ」


(ダニエルだ…!)


彼の姿が近づいてきて私は息苦しいくらい緊張してきた。


「やあ、早かったね?」
「あ、あの…今晩わ…」


とりあえず挨拶をしてしまった。
するとダニエルは愉快そうに唇の端を上げて笑っている。


「今晩わ!ごめんね?こんな遅くに…。家の人に何か言われなかった?」
「ううん。あの借りた服を返してくるからって言ったら、すぐOKしてくれたの…」
「え?借りたって…。ああ、この前のか」
「うん。そう」
「そんなのいいのに」


ダニエルはそう言うと歩き出して公園の中へ入っていく。
今日のダニエルはジーンズにジャケットを羽織ってるという格好で制服よりも歳相応に見える。
私は黙ってダニエルの後について歩きながら、彼は何の用で呼び出したんだろう?と、ずっと考えていた。
少し歩いて行くと、ふいにダニエルが振り向いて私を見る。


、寒くない?」
「え?あ…さ、寒くないよ?」
「そ?なら良かった。足は?もう痛くない?」
「あ…だいぶ…。お風呂に入った時に少し染みるくらいかな?」
「そっか…。派手に転んだみたいだったもんね?」


ダニエルはそう言って笑った。


ほんとは…転んだんじゃなくて…転ばされたんだけど…
でも、そんな事を言ったらダニエルは自分のせいだと思うかもしれない。
だからシェリル達の事は言うつもりもなかった。


少し歩くとラウンドポンドが見えて来た。
公園内にある池で、その周りには夜だと言うのに恋人たちが仲良く歩いている。


何だか…私達も、ちょっとデートしてるみたいに見えるかな…
でも補導とか…されないよね…?


そんな事を心配しつつ、前を歩くダニエルの背中を見ていた。
彼は道をそれて野外ステージの方に歩き出しながら、


「ねえ、は日本では、どんな子だったの?」


と聞いてきた。


「え?どんなって…」
「ほら。こっちだと言葉も違うし雰囲気も違うだろうから本当の自分ってなかなか出しにくいだろ?
日本だと休み時間に何してたとか、授業中はどうだったとか…」
「ああ…。えっと…休み時間は…友達とお喋りしてる事が多かったかな?」
「教室とかで?」
「う~ん…。その時によって違うけど時々学校から歩いて数秒の所に家がある友達の家に行ってテレビゲームしたり…」
「え?学校抜け出してってこと?」
「うん、そう」
「へぇー見付からない?」
「結構、平気だったわ?」


そんな事を思い出しながら答えた。


野外ステージが見えてくるとダニエルはステージの上に上がって腰を下ろした。
私は彼の前に立ってふらふらと動くダニエルの足を見ていたが、
ダニエルは今、歩いて来た方に顔を向けて何かを探すような顔をしている。


「ダン…?あの…」
「え?あ、ごめん。何?」


ダニエルはニコっと微笑んで私の方に視線を戻した。


「これ…。ほんとに、ありがとう…。助かった」


私はそう言って着替えを入れた袋をダニエルの方に差し出した。


「ああ、これ。こちらこそ、わざわざ、ありがとう」
「ううん。そんな…。あの…今日は…何か用事だった?」
「え?」
「急に電話くれたから…」
「ああ…この前、電話するって言ったろ?」
「う、うん…そうだけど…」


ダニエルはそれしか答えず、また私の後ろの方を気にしている。


「ダン?どうしたの?」
「え?あ…あのさ。ここで友達と待ち合わせしてるんだ」
「え?そうなの?じゃぁ…私は、もう帰るわ?」
「え?何で?」
「な、何でって…」
「まだいてよ」


ダニエルは笑顔で、そう言ってポンとステージの上から飛び下り、私の方に歩いて来た。
私はドキっとして少し視線を反らすと、「実はに紹介したい人がいてさ」と微笑んだ。


「え?紹介したい人って…」


私が顔を上げて聞き返そうとした、その時、


「ダン~!!ごめーーん!!遅くなった!」
「お待たせ!」


と後ろで声が聞こえて私は驚いた。


「遅いよ~!ルパート、エマ!」
「だって、なかなか終らないんだもの!」
「僕が迎えに行ったら、エマってば呑気にメイクさんと話込んじゃってるんだからさっ」
「もぉ、ごめんてば!」


私はその会話を聞きながら、目の前にあの映画の3人が揃っているのを唖然とした顔で見ていた。
するとハーマイオニー(私の中では)が私の方に歩いて来る。


「初めまして!私、エマ。宜しくね?」
「え?あ、あの…です。宜しく…」
「俺、ルパート!宜しくぅ!」
「あ、よ、宜しく…」


私は二人と握手をしながら、まだ信じられないような顔でマジマジと見てしまった。
するとダニエルがクスクス笑いながら私の方を見て、


「ほら、この前さ。、ハリーの映画の話をしてて僕が現場の様子教えたら、凄く楽しそうでいいなって。
二人に会いたいなぁ…って呟いてただろ?
だから今日はバラバラだったけど、一緒にこの近くで取材受けてたからさ。二人誘ってみたんだ」
「そ、そうなの…?」


私はダニエルの言葉に更に驚いていた。
あの何気ない一言を聞いてこうして二人を連れて来てくれるなんて…


「でも、ほーんとダンが言うように日本人形みたいで奇麗ね?
「え…っっ?!」
「おい、エマ.…っ」


私はエマの言葉に顔が赤くなったが見れば、隣にいるダニエルも少し頬が赤くなり、エマの口を慌てて塞いでいる。

「ア八ハハ。何、照れてんだよ、ダン。らしくないぞ?」
「うるさいよ、ルパート!」
「プハ…っ。もう何よ、ダンっ。口抑えなくたって…」


エマはダニエルの手を離すと、私の方にニコっと微笑んでくれた。


「ダンったら久々に取材の仕事で会ってすぐに"日本の女の子の友達が出来たんだ"って嬉しそうに教えてくれたのよ?」
「え…?」
「おい、エマ!おしゃべりすぎるぞ?」
「は~い。解ったわよっ」


ダニエルが少し口を尖らせてエマを睨むと、彼女は可愛く舌を出して謝った。


、ガッカリした?こんなんで」
「え?」


急にダニエルにそう言われて私が驚いていると二人から抗議の声が上がった。


「ちょっと!こんなんって何よ!失礼ね!」
「ほんとだよっ。せっかくと友達にされそうなのに余計なこと言うなってっ」


二人が文句を言うとダニエルはクスクス笑っている。


「友達って…?」


私はルパートの言った言葉に驚き、ダニエルの方を見た。


「ああ、僕がのこと話したら二人とも友達になりたいって。二人も日本の子と接するのってないからさ」
「そう…なの…?」


私は目を丸くしてダニエルを見ると、彼は急に噴き出した。
それにエマとルパートも続くように笑い出す。


「ほんとだ。ヘドウィグに似てる!」
「今度、会わせたいね?」
「だろ?」


3人はそう言いながら私を見るから少し顔が赤くなった。


「あ、あの…ヘドウィグって…」
「ああ、ごめん。ほら、この前話した梟だよ?真っ白の」
「あ…」
「ほんとが目を丸くすると似てるわ?可愛いっ」


エマに可愛いと言われて私は更に恥ずかしくなり俯いてしまいそうになる。


。私と友達になってくれる?日本の事とか色々教えてよ」
「え?あ…うん」


エマに、そう言われて私も少し笑顔になる。
そこにルパートも歩いて来た。


「僕とも友達になってね?英語で解らない事があれば僕が教えてあげるからさ?」
「あ、ありがとう」
「あら、ルパートより成績優秀なダンが教えた方がいいわよ。ルパートに教わったら間違った英語覚えそうだもの」
「何ぉ~?」
「何よ、やるの?」


二人は映画の中の二人みたいにテンポよく言い合いをしていて私はおかしくなってしまった。
そこへ呆れ顔のダニエルが止めに入る。


「おい、二人とも。こんなとこでもケンカするなよ。が見てるだろ?」
「だってダン、エマが僕のことをバカにするから」
「あら、ほんとにバカじゃない」
「何だと~?」
「何よっ」
「はぁ~…」


二人はまた言い合いが始まって、ダニエルは溜息をついた。
私は笑いながら、「いつも、こうなの?」と聞くとダニエルが苦笑して肩を竦める。


「うん。いつも現場は、こんな感じかな?」
「そう。楽しそう…」
「楽しいっていうより、うるさいよ?皆、イタズラ好きな人ばかりだし…。
スタッフや監督も大人のクセに僕等より子供っぽいとこあるからさ。
ま、二人は、あんな感じで仲がいいんだけどね?って、あれ仲がいいって言うのか謎だけど」


ダニエルは、そう言って言い合いをしてる二人を見て肩を竦めた。


「アハハ。仲がいいからケンカもできるのかな?いいなぁ。ほんと楽しそう」


私は、そう言って、まだケンカを続けている二人を見た。



「え?」
「もうすぐ次の撮影が始まるんだ。その時、時間あれば見学においでよ」
「え?いいの…?」
「うん。前の学校でもクラスの友達か見にきてたしね?」
「そう…なんだ」
「うん。だから、もおいでよ」
「う、うん…」


私はダニエルの言葉が嬉しくてドキドキしてきた。


映画の撮影現場に行けるなんて夢みたい…
しかも、あのハリーポッターの…
日本の友達に話したら凄く驚くだろうなぁ…
クラスの女の子が面白いって騒いでて、よくも見た方がいいよとすすめられたっけ。
私は、あまり興味がないジャンルだったから、結局見ないままだったけど。
その子達は確か、ハリーが可愛いと騒いでたはずだ。


そんな事を思い出していると急に携帯の音が鳴り響いた。


「わ…。私だ…」


私のポケットに入っている携帯が震えながら鳴っている。
慌てて出してディスプレイを確認すると家からだった。
少し皆と離れて電話に出てみる。


「Hello?」
?今、どこ?』
「あ、お母さん。あのね、今はケンジントンガ-デンズよ?」
『あ、そうなの?近いわね。って、こんな遅くに危なくないの?』
「大丈夫。友達といるし…ちょっと話し込んじゃってて」
『そう。あ、あのね。今お父さんから電話でそろそろ帰ってくるって言うしあなたも戻ってきなさい?』
「あ…解った。じゃ…すぐ帰るね?」
『ええ。気をつけて。あ、帰りはハリーくんに送ってもらったら?』
「お、お母さん、何言って…。そ、それにハリーは役の名前よ?彼はダニエルって…」
『はいはい。解ったからその彼に送ってもらうのよ?もう9時になるんだから。じゃね?早く帰って来て』
「わ、解った…」


そこで電話が切れてちょっと息を吐き出した。


「家から?」


私が携帯を仕舞っているとダニエルが歩いて来た。


「え?あ、うん。お母さんから…。もうすぐ、お父さんが帰って来るから戻ってきなさいって」
「そうか。じゃ、送るよ」
「え…あの…」


私が驚いているとダニエルはエマとルパートに、


「ちょっと、送ってくるから、僕の家に行ってて」


と声をかけている。
私の携帯音で二人のケンカも一時中止になっていたのか二人はこっちを見て笑顔で手を振ってきた。


、また会いましょ?今度は、ゆっくり女同士で」
「え?あ、あの…うん」
「あ、待って!今、私の携帯の番号とアドレス教えるから」
「え?」


その言葉に驚いているとエマは自分の携帯を出して、私の方に差し出してきた。


「これでの電話にかけて?」
「あ、うん」


私は思わず、携帯を受け取り自分の番号を押した。
すると、すぐに私の携帯の音が聞こえてくる。


「ありがと。今、出た私の番号、登録しておいてね?それとこれが私のメールアドレス。後で送ってくれる?」
「あ、うん。ありがとう」


手渡されたカードにはメールアドレスが書いてあった。
エマの笑顔に私も笑顔になるとそこへルパートも携帯を出してきた。


「僕にも教えて!」
「おい、お前はいいよ」
「うるさいなぁ、ダンは。いいだろ?友達になったんだから携帯番号くらい。はい、


私は差し出された携帯を笑顔で受け取ると、また同じように自分の番号を押した。
するとルパートも何やらカードを出して、


「これが僕のメールアドレス。後でから送ってね?」


と言ってニコっと微笑んだ。


「うん。解った。ありがとう」
「もう終った?じゃ、行こっか」


ダニエルは呆れたように笑いながら私の手を持ってきてドキっとした。


「あ~ダンったら手なんか繋いじゃって!」
「え?あ…ごめんっ」


エマに言われてダニエルは慌てて私の手を離した。
私はすでに顔が熱くて首を振るだけで精一杯だ。


「じゃ…行こう…?」
「…うん」
「二人とも、先に僕んち行ってて!」
「ラジャ!」
「OK!」


ダニエルが少しバツの悪そうな顔で二人を見るとエマもルパートも何だかニヤニヤしながら手を振っている。


!またね!」
「まったねー!」
「さよなら!」


私は二人に手を振り返して先を歩くダニエルの後を走って追い掛けた。






「ごめんね?何だか強制的に友達になったみたいでさ」


ダニエルは公園を出ると足を緩めて私の隣を歩きながらそう言った。


「え?そ、そんなこと…。二人に会わせてくれて…凄く嬉しかった。ありがとう…」
「ほんと?なら良かったけど…。ほら、も女の子の友達とか欲しいかなと思ってさ」
「え…?」
「僕もなるべく相談とか…乗れればいいんだけど…男だし?
その点、エマなら僕より大人っぽいから、の色々な相談とか乗れると思うよ?」
「ダン…」


私は彼の言葉が嬉しくて胸が熱くなった。


「ほんとに…ありがとう.…。こんな、よくしてもらっちゃって…」
「いいってば。異国の地で不安だろうしさ…。僕も知らない土地に行ったり知らない人の中で初めて仕事する時は凄く不安だった事あるし…」


ダニエルは、そう言って恥ずかしそうに笑った。
その笑顔に私の胸がドキンと鳴るのが解る。
その後でキューっと締め付けられるような苦しさも伴い、私は感じた事のない感情に驚いた。


(私…ダンの事…今、好きだって思った…?)


自分で、そう考えて更に胸がドキドキしてくる。
確かに日本でも好きな人はいた。
でも、それは淡い憧れみたいなものでカッコイイとか言いながら騒ぐくらいのもので、
こんなに胸が苦しくなるくらいドキドキした事なんてなかった…。


(これって…憧れじゃなく…私は、本当にダンが好きって…事なの…?)


隣を歩くダニエルの横顔を、そっと見上げると、また鼓動が早くなる。
それに慌てて顔を伏せた。


?どうしたの?」
「な、何でもない…」
「そう?寒い?」
「ううん.…大丈夫」
「なら、いいけど…」


ダニエルは、まだ心配そうな顔で私を見ているのが解り、私は顔が上げられなくなった。
すぐに家が見えてきて私は何だか寂しいという気持ちと、少しホっとした気持ちも混ざって変な感じだ。


「じゃ…今夜は来てくれて、ありがとう」
「ううん。私こそ…」
「あ、僕、明日は学校行けると思うし、また、その時に」
「うん」


何とか頷くとダニエルは少し笑いながら私の頭にポンと手を乗せてきて、一瞬ドキっとして顔を上げた。


「やっと顔上げた。、俯いちゃダメだって言ったろ?」
「あ、うん…、ごめん」
「また、すぐ謝る」
「あ…ごめ…」


また謝りそうになってそこで言葉を切るとダニエルは楽しそうに笑った。


「ほんとって面白い。一緒にいて飽きないよ」
「え…っ?」
「あ、何でもない。じゃ、おやすみ」
「お、お休みなさい…」


ダニエルに手を振って、私は玄関の方に急いだ。
何だか顔が熱くて、これ以上ダニエルの顔を見ているのが恥ずかしい。
だがドアを開ける前に、もう一度だけ振り返った。
するとダニエルは、また笑顔で手を振ってくれている。
その姿に、また言葉に出来ない感情が込みあげて来る。
そのまま彼に手を振り返し、私は家の中へと入るとすぐに自分の部屋へと戻った。


「はぁ…苦しい…」


胸を抑えて深呼吸をするも、その息苦しさは、なかなか直らない。
私はベッドに座り、そっと携帯を取り出した。
そして忘れないうちに、エマとルパートにメールを送ってみる。


"さっきは、楽しかったです。ありがとう!―より"


そう書いて二人に送った。
すると、すぐにメールが着信されて私は急いで見てみると、


"私も楽しかったわ!今度メールするねv ―エマ"

"と友達になれて嬉しいよ!これからも宜しくね! ―ルパート"


そんな返事が届いて思わず笑顔になる。


(嬉しい…また友達が出来た)


私は携帯をギュっと胸に押し当ててちょっと浮かんだ涙を手で拭った。
するとまたメール着信の音が鳴り、私は驚いてメールを開いた。


"さっきはありがとう。会えて楽しかった。また明日、学校で…。お休み。 ―ダニエル"


「ダン…」


そのメールを見て、またドキドキが復活してきてしまった。
でも少し震える手で簡単な返事を書く。


"お休みなさい。 ―"


それを送信すると私はベッドに寝転がった。


(やだ…こんなに胸がドキドキしてる…これって、やっぱり…)


そんな事を考えて、私はガバっと起き上がると軽く首を振った。


まさか…ね。
きっと外国人の男の子に免疫がないからドキドキするのよ…
それにダンはACTORなんだし…。
ダンは凄く優しくて、それが慣れないから、こんな風になるんだ、きっと…。
日本の男の子は意地悪でガキっぽいのが多かったし。
あんなダンみたいに凄く優しい男の子は初めてだもん…。


それでも明日も会えると思うと、ドキドキが酷くなってくる。


学校…さっきまでまた行くのが憂鬱だったけど…
ダンがいれば、あのイジメも我慢できそうな気がした。


そう…自分が一人じゃないって事だけで怖くなくなる。


私は今日、出来た新しい友達の事を思うと、凄く嬉しくなって、この日の夜は、また眠れなくなってしまった。


どうしてかって言うと…また彼等の映画を見てしまったから…
画面の中の3人を見てると、一人じゃないって思えるから.…





あんなに心配してくれて、二人を紹介してくれたダニエルに私は心から感謝をした―















 

 



 


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Postscript



ダン夢、第二弾ですv
何だか初々しいわ~(笑)
こんな男の子いたら、すぐ好きになっちゃうよね(笑)
優しくてカッコイイんだから(笑)
今後、話が動いていく予定です。
前回、今回は前振りのような感じですかね(笑)


本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...


【C-MOON...管理人:HANAZO】