Chapter.3 どきどき~真実~ Only you can love me...
今日は嫌いなバスケがある。 朝、授業のスケジュール表を見た時、それだけで憂鬱になった。 でも…今は何だか、そんな憂鬱も吹っ飛んでしまっていた。 「ダン!パス!」 チャーリーがダンからボールを受け取り、一瞬で相手を抜くと、またそのボールをダンへとパスした。 「ダン、行けーっ」 チャーリーがダンを後押しするように叫べばダンもヒラっとジャンプしてボールを手から放した。 ポスっと音がしてダンがゴールを決めたと解ると味方の男子生徒からだけでなく、 それを隣のコートで見ていた女子生徒からも歓声が上がる。 「キャー!ダン、素敵!!」 率先して騒いでるのは、もちろんシェリルのグループだ。 ダンに手を振り黄色い声を上げている。 私はそれをコートの隅に座りながら見ていた。 ダン、運動神経までいいなんてズルイ… あんなに頭が良くてカッコ良くて、しかも仕事はACTOR… ああ…神さまって不公平… 私はシューズの紐を縛りなおしながら、嬉しそうにチャーリーとハイタッチしているダンを見ていた。 ダンは、あまり学校には来れなかったりしたけど、すぐに男子生徒を打ち解けた。 元々、あんなに優しいし明るいんだから、友達なんて簡単に出来ちゃうんだろうけど… 私はと言うと…ダンとは時々メールしたり、電話で話すようになっていた。 時間が合えばエマとルパートも一緒に勉強したり、私は英語を教えて貰ったりしている。 それはクラスの人には、もちろん内緒… いや…私が勝手に内緒にしてるだけでダンは学校でも普通に話し掛けてくる。 仕事がない時は一緒に帰ろうって誘ってくれたり、休み時間に一緒に課題しようって言ってくれたり… でも私はシェリル達の視線が気になってしまって学校ではダンにもよそよそしい態度をとってしまっていた。 未だにクラスの女子生徒と友達になれてないのがダンがらみで文句を言われてるせいだとバレたくないから…。 シェリル達は今でもダンの来ていない日は特にだが私に何かと文句を言ってくる。 酷い時は、わざとぶつかって来たり、私の物を捨てたりもしてくる。 私は、それに耐えていたりしたけど、時々泣きたくなって一人で泣いたりもしていた。 (イジメって世界共通なんだ…) なんて変なことまで考えた。 私は… こっちの人は言いたい事はハッキリいう人が多くて、 そんなドロドロしたイジメなんてないのかと勝手に思ってたし、ちょっと驚いたんだけど… 一つ気に入らない事があると、きっと人はその相手の全てに腹が立って嫌な面ばかり探すようになるんだと思う。 その人が何かをするたび、いちいち癇に障ったりして…偶然、目が合うのでさえカチンと来るんだと思う。 まさに…シェリルは、そんな感じだから… でも…人の感情ってその反対もあって… 誰か少しでも気になる人がいると、その人の事を凄く美化しちゃっていい面ばかり見る様になる。 そして好きになる理由を探すのだ。 笑顔が好き…とか、声がいいとか…髪をかきあげた仕草がカッコイイとか…一つ一つ探し出す…。 そして自然に目で追うようになる。 そう…今の私がダンを目で追ってるように… ダンとは時々目が合う。 そのたびに私の心臓がドキっと音を立てて鳴り出して、少し緊張までしてしまう。 それを気付かれないように、ちょっと微笑むと、ダンも優しく微笑んでくれる。 その何気ない瞬間が嬉しいと思った。 でも…この感情が何なのかは…未だに自分でも解らない。 "憧れ"なのか…それとも"好き"なのか… とにかくダンは優しくて頼れるし、単純に考えても友達としても大好きだと言える。 私はクラスに友達もいないから優しくしてくれてるダンに甘えてるのかな?と思う事もあるんだけど… 私は紐をギュっと縛り終えると、そろそろ自分のチームの出番かな、と思って立ち上がった。 私が入るチームにはシェリルの友達のエリーがいる。 そして対戦するのがシェリルのチームだ。 これで憂鬱にならなければおかしいというもの… でも…今日はダンだって近くにいるし、彼女達も何もしてこないだろうと思った。 「はい!じゃ、次のチーム!コートに入って!」 やたらと男っぽい体育の先生(一応、女性だ)がパンパンと手を叩いた後に手招きをした。 私は軽く深呼吸をすると一人で皆の輪の中へと向かう。 その時、ふとダンと目が合った。 チャーリーと二人で何かを話してる様子で、それでも私と目が合うとダンが小さく手を振って口を動かした。 "が ん ば っ て" そう言ってくれたと、すぐに解る。 私は笑顔で頷いた。 そのままグループごとに分かれるとティップオフでゲームは始まった。 私はバスケは得意じゃない。 身長も低いし日本にいた時も相手チームからボールを奪う事が出来ず、ただコートの中を走っていただけ。 自分がどこのポジションをやっているのかすら解らない。 でも…日本の時みたく甘えて途中で歩いたりなど出来ない。 きっと、そんな事をしたら日本人ってナマケモノくらい言われそうだ。 私の事を言う分にはいいけど母国の事を言われると最近カチンとくる。 こんな私でも愛国心なんてあったのかと正直、驚いてるくらいだ。 「エリー!」 その声に顔を上げると何故か相手チームにいるシェリルがエリーに目配せしている。 (何だろう?) そう思った瞬間、足を踏まれて私は思い切りコートの上に転んでしまった。 「ぃた…っ」 膝と肘にかなりの痛みが走り、私は顔を顰めて少しの間、起き上がれなかった。 「あら、ごめんね?見えなかったわ?ちいちゃくて」 エリーが私を気遣うフリをして近づいてくるとそう言った。 でも顔はニヤニヤしている。 さっきシェリルが合図してたのは、このことなんだ、と思った。 「、大丈夫?立てる?」 先生が歩いて来て私に聞いてきた。 正直、かなり痛かったが、私は何とか立ち上がった。 「大丈夫です」 「ゲームできる?」 「はい」 「そう。じゃ、戻って」 そう言われて私は足を引きずりながらもコートへ戻った。 右足を挫いたのか力を入れると痛みが走る。 でも、ここでやめられないし、やめたくない。 あんな幼稚なイジメをしてくる彼女達に負けたくなかった。 ボールがふわりと浮いて相手チームの中でも一番身長の高い女の子がボールを自分のチームの生徒に向けて打った。 その生徒は自分の方に来るとは思っていなかったのか驚いた顔でボールを受け取ったが、 一瞬のスキが出来たのを私は見逃さなかった。 自然と体が動いて、その子の持ってるボールを奪うと、ドリブルをしながら味方を探した。 一番、ゴールに近いのは…エリーだ。 それでも私は、彼女に目で合図をした。 そしてボールをパスすると、エリーは少し驚いた顔を見せたが、そのまま振り向き、ジャンプシュートを打つ。 が、ゴールの淵に当たり、ボールは相手にリバウンドを取られてしまった。 応援していたクラスの女の子から溜息をが洩れる。 それでも私は気にせず、足が痛いのを我慢しながら走ってボールを追い掛けた。 その時、一瞬、エリーと目が合ったが、彼女は凄く嫌な目で私を見ていた気がした。 放っておこう。 そう思いつつ相手チームの動きを見ているとシェリルとエリーが擦れ違いざまに何か言葉を交わしているのが見える。 気にせず、ボールが行った方向へ視線をやると、パスを受け取ったのはシェリルだった。 そのまま彼女を止めようとすると何故かシェリルが私の方に向かってドリブルしながら走って来た。 一対一をやる気? 私は彼女の行く手を塞ごうとしたその時、後ろから凄い勢いで誰かがぶつかってきて私は前のめりに倒れこんだ。 思い切りコートに顔をぶつけて痛みで涙が出てくる。 「!大丈夫?」 今度はさっきよりも酷いと思ったのか、先生が走ってくる。 私は本当に起き上がれなくて、そのままコートにゴロンと転がった。 血の味がして唇が切れたと解る。 「?ああ…口が…ちょっとゲーム中断!彼女を医務室に運ぶわ?ちょっとを見ててくれる?」 「はい」 私が見上げるとシェリルが返事をしたのだと解った。 先生は男子の方を見てる先生に少し抜けると言いに行ったようだ。 「ふん…いい気味」 小さな声が聞こえてエリーがクスクス笑っているのが見える。 その態度に彼女達はわざとやったんだとカっとなった。 「な…んで…?何…で、こんなこと…っ」 痛みを堪えながら、そう聞けばシェリルや周りの子達もクスクスと笑い出す。 「あなたがエリーに恥をかかせるからでしょ?さっきのなぁに?わざと受け取りにくい体勢でパス出したんでしょ? エリーがシュート外すようにって。さっき転ばされた腹いせにしちゃ酷いわねぇ」 シェリルが、そう言ってしゃがむと私の頬をパチンと軽く叩いた。 「ダンの前でいいとこ見せようと思ったの?さっきだって微笑みあっちゃって!」 「そんな…っ。私は…」 そう言いかけた時、先生が戻って来てシェリル達は一斉に私から離れた。 「先生。早く彼女を医務室に…っ。可愛そうだわ?」 「解った。先生が抜ける間、エバート先生に頼んだからゲーム続けてなさい」 「はーい。先生」 シェリルは物分りのいい生徒を見事に演じて、クラスメートを心配する演技までしてみせた。 私は悔しくて涙が浮かぶも、先生に支えられて体育館を後にした。 「大丈夫?あなたもボーっとしてるからよ?」 先生にそう言われて私は何も言えなくなった。 ボーっとしてた?私が? どこ見てたのよって言いたかった。 私はちゃんと相手から距離を取って突破されるのを防ごうとしてたじゃないって… でも言わなかった。 何を言ったって…どうせ、また信じて貰えないか… シェリル達にバレて告げ口しただのと因縁をつけられるのがおちだ。 私は医務室に連れて行かれて傷の手当てを受けた。 最初に挫いた右足も少し腫れていて湿布を貼って包帯を捲いて貰う。 「あー派手に転んだのね…。歯が唇に当たって深く切れてるわ…?」 医務の先生は顔を顰めながら消毒だけしてくれた。 「最後の授業出る?あと一時間だけだけど…。ここで休んでてもいいわよ?」 私が元気がないのに気付いた医務の先生、ケイトは優しく頭を撫でてくれた。 その手の温もりに、ふいに我慢していた涙が頬を伝って落ちる。 「…どうしたの?少し…横になる…?」 ケイトの言葉に黙って頷いた。 彼女は小さく息を吐き出すと私を支えてベッドの方まで連れて行ってくれる。 「さ、ここで寝てなさい。私、担任の先生に、ここで休ませるって言ってくるから…」 そう言うとケイトは医務室を出て行った。 私は一人になると一気に涙が溢れて来て声を殺して泣いた。 布団に潜り、必死に声が洩れないように我慢すると喉の奥が痛くなってくる。 この涙は悲しいわけじゃない。 ただ…悔しかった。 どれくらい泣いたんだろう…? やっと涙が止まって私は布団から顔を出した。 先生が戻って来た様子はなく、シーンとした医務室にいると何だかサボってるようで罪悪感が襲ってくる。 教室…やっぱり戻ろうかな… そろそろ体育の時間だって終ってるはずだ。 私はベッドから、そっと出ると洗面台で顔だけ洗った。 涙で目と鼻が少し赤い。 「だめだ…。こんな顔で戻ったら泣いたって一発でバレちゃう…」 そう呟いて、またベッドへ戻った。 いっか…。最後の授業は数学だし…家で今日やったとこを勉強すれば次の授業に追いつける。 そう思って私はギュっと目を瞑った。 足首の痛みや口の中、膝、肘…体中が痛かった。 さっき…きっとダンも見てたよね… やだな…。 どんくさい子だって思われたかな… 少し眠くなって朦朧としてきた頭に、ふと、そんなことが浮かんだ。 「おい、ダン。何?そのノート」 「ん?ああ、これ…にと思ってさ」 「嘘、お前も?」 「え?って事は…何、チャーリーも?」 僕は驚いて席に歩いて来たチャーリーを見た。 すると彼の手にはノートがある。 「ああ、一応…。ま、でも今日はダンに譲るよ」 「え?何で?チャーリーも医務室行けばいいだろ?」 「そうだけど…」 チャーリーは、そこで言葉を濁すと、僕の隣、の席に素早く座った。 「あのさ…」 「ん?」 「ダン…気付いて…ないよな?」 「何が…?」 僕はチャーリーの言葉が気になり、声を潜めた。 今は最後の授業も終り、皆が帰り支度を始めている。 ざわついてるおかげで僕とチャーリーの話し声は全く聞かれていなかった。 「今日の…の怪我さ…?」 「うん…」 「転んだ…ってよりは…転ばされた…って思わなかった?」 「えっ?!」 「バ…しぃっ」 「ご、ごめん…っ」 僕は慌てて手で口を抑えると、周りを見渡した。 するとシェリルという女の子と目が合い、ニッコリと微笑まれ僕も軽く笑顔を見せておいた。 その光景を見ていたチャーリーが、 「おい…シェリルと仲いい訳じゃないだろ?」 と小声で聞いてきた。 「いや…特には…。よく話し掛けられるけどね…」 「まあ…そうだろうな…」 「え?」 僕はチャーリーの言ってる意味が解らず首を傾げた。 そもそも、このチャーリーとだって、こんな風に話すようになったのは最近の話だ。 他の男子生徒は、まだ僕に話し掛けにくいのか挨拶くらいしかしてこない。 でもチャーリーは気さくな奴で、元々ハリーの大ファンだったらしく、 あっけらかんとそう言われて僕も笑うしかなかった。 今までは気を使ってか僕に映画の話をする友達はそんなにいなかったからだ。 「俺も、ホグワーツに入学したいよーっ。クィディッチやりたくてさっ」 なんてケロっというチャーリーは何だか憎めない奴だった。 まあ、スポーツ好きなチャーリーらしい台詞でもあるんだけど。 「チャーリー…何が言いたいんだ?が…転ばされたって、どういうこと?」 「ん?ああ…」 チャーリーはチラっとシェリル達のグループの方を見て様子を伺ってから僕の方に顔を近づけてきた。 「実は…さ…。うちのクラスの女どもが…」 「ちょ…チャーリー…顔、近いって…」 「あ…ごめん」 僕は苦笑しながら少しだけ顔を離すと、チャーリーも頭をかきながら照れくさそうに笑った。 「つか、聞かれたらまずいんだって。もうちょっと、こっち来て」 「う、うん…」 (男同士で至近距離で見つめ合うのって、僕の趣味じゃないんだけどな…)(!) そんな事を思いつつ、僕はチャーリーの方に、なるべく耳を寄せて近づいた。 「えっと…どこまで話したっけ…?」 「おい…」 「ああっと、そうだ。思い出した」 こいつ…とぼけた感じがルパートそっくりだ…。 まあ、顔はチャーリーの方がカッコイイかもしれないけど…(!) そんな事を考えているとチャーリーが言い憎そうな顔で口を開いた。 「クラスの女どもがさ。をイジメてるんだよ…」 「ぇ…っっ」 思わず口を開けて叫びそうになったのを、チャーリーが慌てて手で抑えてくれた。 「だめだよ。まだシェリル達、残ってるんだから…」 「え…?嘘だろ?何で?ってかシェリル達が…ってこと…?」 少し混乱してそう聞き返すとチャーリーが小さく頷いた。 「実はさ、ダンが来る前から…そんな気配はあったんだよ」 「え?」 「ほら…ってさ。お人形さんみたいで凄く可愛いって言うかさ…オリエンタルな雰囲気だろ?」 「何で、そこでチャーリーが照れるのさ…」 「べ、別に照れてないよ…っ」 「はいはい。で…?」 「ああ、それで…が転校してきてからクラスの男が浮かれちゃってさ。 話し掛けられないんだけど影で結構騒いでたんだよ」 「うん…」 「それを…シェリルが気に入らなかったらしくて…。それまでは良い子ぶって何かとの世話を焼いてたクセに、 自分より人気があると知ったらコロっと態度変えて他の女達に、には話しかけるなって命令したんだ」 「そんな…何で、そこまで…」 僕は、その話を聞いて、ちょっと驚いた。 もしかして…が時々元気がなかった理由がこれなのか…? チャーリーも小さく溜息をつくと、肩を竦めた。 「今まで自分が一番モテて姫扱いされてたのがに人気を取られて悔しかったんだろ?女の嫉妬は怖いよ」 チャーリーは一丁前の大人のような口調で両手を広げて首を振っている。 「それで…さ」 「何?まだ、あるの…? 「こっからが大事だぞ、ダン」 チャーリーが真剣な顔をして僕の肩に手をポンと置いた。 「な、何だよ…」 「そこに…ダン、お前が転校してきたんだ」 「?…ぅん…それが…」 「シャリルは、元々俺と同じでハリーの大ファンだった」 「え?ああ…」 「で…イコール…お前の大ファンでもあるってわけだ」 「うん…で?」 「もぉー、まだ解らない?」 「解らないよ。もっと具体的に言ってくれる?」 僕が少し顔を顰めるとチャーリーは、 「だから…ダンの隣に座ってるがまず気に入らないってのと…お前と仲良く話してるのもイジメに拍車をかけた」 「え…?」 「それで…これは隣のクラスの奴から聞いたんだけど…。転校してきてすぐにお前相合傘してたって…?」 「え?ああ…あの日のことか。うん、してたけど…?、怪我しててさ」 「ああ、知ってる。その怪我した時、俺も教室から見てたから。あれ転ばして怪我させたのもシェリルとエリーだよ」 「何だって?」 「今日のの怪我だってその二人が原因だろ?」 「そ、そういえば…。でも…え?って事は…僕がと仲良くしてるから…が彼女達にイジメられるってこと?」 僕は凄く胸が苦しくなってチャーリーの腕を掴んだ。 「う、うん…。まあ…そういう事になる…な…?」 「じゃあ…僕のせいだ…」 「お、おい…そうじゃないだろ?別にダンは何したってわけじゃない」 「そうだけど…。でも…、何も言わないから…」 「まあ…は言いにくかったんだろ?お前が気にすると思ってさ…」 チャーリーは、そう言って僕の肩をポンポンと叩いた。 「ダン、知らないようだったし…も言いたくないんだろうなって思ってたから俺も口出さなかったけどさ… 今日のは酷かったからさ…。一応、と仲のいい、お前にも真実を知って貰った方がいいと思って…」 チャーリーの言葉を聞いてたけど頭に入って来なかった。 僕のせいでがあんな怪我するまでイジメられてた… その事実が僕の胸にグサっと刺さってきて息苦しい感じだ。 「あっと…来たぞ…」 そう言って僕の腕を肘でツンとつついたチャーリーは、普段の爽やかな笑顔を見せて振り向いた。 (こいつACTORに向いてるんじゃないか?) 「やあ。シェリル。何か用?」 「二人は、まだ帰らないの?」 シェリルはニッコリと微笑んでいる。 僕はチラっとシェリルを見ると、彼女は何だかニコニコしながら、 「ダン、今日、バスケの試合、カッコ良かったわ?チャーリーといいコンビになれそうね?」 と言ってきた。 にあんな怪我をさせておいて、その澄ました態度に何だかカチンと来て僕は顔を上げるとシェリルを見た。 「…君はエリーといいコンビみたいだね?」 「え?」 酷く冷めた言い方をしてしまい、チャーリーが目を剥いて僕の足を机の下からガンっと蹴ってきた。 「って…っ」 「や、やあシェリルとエリーも同じチームでコンビ組めば最強だって、さっき体育の時間に話してたんだよな?ダン」 「……?」 僕が、はあ?って顔をするとチャーリーは必死に目をパチパチやって合図してくる。 (ああ…話を合わせろっていうことか…) それに気付いて僕も小さく、ああ…とだけ答えておいた。 「ほんと?嬉しいわ?スポーツ万能な二人から誉められたら」 シェリルは嬉しそうに微笑むと、「二人、暇なら、一緒に遊びに行かない?」と誘って来た。 「あーっと…ごめん。俺、約束あってさ。ダンも仕事だっけ?」 「え?あ、ああ…そう…。仕事なんだ」 僕も何とか合わせるとシェリルは残念そうに息をついた。 「そう…残念だわ…?じゃ、また今度…」 「あ、ああ。そうだね?また今度。じゃ、さよなら」 チャーリーが、そう言うとシェリルも仕方ないと言った様子で、 「じゃ、さよなら。また明日ね?ダン、チャーリー」 と言ってエリー達の元へ戻ると、教室から出て行った。 「はぁぁあ…。危なかった…」 チャーリーは思い切り息を吐き出して、それから僕の方を怖い顔で見る。 「ったく…。何を言い出すのかと思えば…」 「何が?ああ、さっきのこと?だって腹が立つだろ?複数で一人に酷いことして… 何で笑顔で話さないといけないんだよ」 「ダン…落ち着けって…。今、お前がのことでシェリルに文句言ってみろよ。 その怒りが全部に向かうんだぞ?」 「あ…」 「解ってくれた…?」 「結構、冷静なんだな、チャーリーって…。なんか意外…」 「おい、意外って何だよ。意外って…。 それに他の男どもだって皆そう思うから何も言えないで知らないフリしてるんだよ… ほんとは皆だって助けたいって思ってるし、とも友達になりたいって思ってる奴いっぱいいるんだぞ?」 「そっか…。でも…放っておいたって…は…」 「まあ…最近は、殆どダンのことで文句言われてるんだと思うけどさ」 「僕の…」 「ま、ダンが気にしても…」 「気にするよ!当然だろ?」 「お、おい…怒るなよ…。あんがい短気だな、お前…」 チャーリーは驚いた顔で僕を見て苦笑している。 「僕は…どうしたらいいんだよ。もうと話さない方がいいってこと?」 「ん~…、まあ学校では…なぁ…」 チャーリーも言いにくそうに頭をかいている。 「そっか…」 「でも、学校でとは、こうして席も隣なんだしさ…。あまり会話しないのも…」 「うん…。ちょっと考えてみるよ…」 「そうか?じゃ、まずは医務室行ってノートと…あとの鞄持って行ってやれよ」 「ああ…うん…」 「もうシェリル達も帰ったしさ、大丈夫だって」 「うん…。じゃ…行ってくる」 「ああ。右足捻挫したらしいから…そのまま送ってやれよ」 「解ってる。チャーリーは本当に行かなくていいの?」 僕は席から立ち上がると、の鞄を持った。 「俺は…今日のとこはいいよ」 「そう?じゃ…行ってくる」 「ああ、またな?」 「うん。あ…チャーリー」 「ん?」 僕が振り向いて呼べばチャーリーも自分の席に行ってから、こっちに振り向いた。 「色々と教えてくれて….ありがとう。教えてもらわなかったら…僕、知らないままだった」 「ああ…いいよ」 チャーリーは、そう言うと軽く手を上げてきた。 僕も笑顔で手を振ると、急いで廊下を歩いて行く。 先生が言ってた、の怪我の具合が気になった。 口から血を流してたって言うけど… 女の子なのに… そう思って心配が膨らんでいく。 一気に階段を下りて一階にある医務室まで走って行った。 コンコン… 小さくノックをするも誰の返事もない。 (おかしいな…) 僕は、そう思いながらドアを開けて中を覗いた。 「先生…?…?」 そう声をかけてもシーンとしたままで、僕は仕方なく静かに医務室に入りドアを閉めた。 先生がいないのは一目で解る。 僕はカーテンが引かれているベッドの前まで歩いて行った。 「…そこにいる?」 一応、声をかけてみるが返事はない。 僕はそっとカーテンを捲って中を覗いてみた。 「あ…」 ベッドの上にはがスヤスヤと眠っていてちょっと笑顔になる。 何だ…寝ちゃってたんだ… きっとチャイムが鳴った事にも気づいてないんだろう。 僕は中へ滑り込むと、ベッドに近づいての顔を覗き込んでみた。 少しだけ口が開いていて可愛い…と思いつつ、唇の端が赤くなっていて胸が痛む。 「ほんとに切っちゃったんだ…」 痛々しい傷を見て僕は申し訳ない気持ちになった。 (僕と仲良くしたばかりに…こんな怪我させられるなんて…) 「ごめん……。助けになろうと思ってたのに…」 (逆に彼女を追い込んでたなんて…) そっとの前髪を手で払ってそのまま頭を優しく撫でた。 「…ん…?」 その時、の顔が少し動いて僕はサっと手を放した。 「…?起きた…?」 ゆっくりと目を開けたに声をかけると、彼女は手で目を擦りながら体を起こした。 「あれ…?私…」 周りに視線をやってボーっとしていたが急にバっと僕の方を見た。 「あ、あれ?ダン…っ」 「目が覚めた?」 慌ててるが可愛くて僕はちょっと笑顔を見せた。 「あ、あの…何でダンが…?授業は?」 「もう放課後だよ?」 「えぇ?うそ…私、そんな寝てたんだ…」 は驚いた顔で慌ててベッドから這い出ると、足をついた拍子に顔を顰めて少しよろけた。 「ぃた…っ」 「あ、危ないよ…っ」 僕はの体を支えてそう言えばもすぐに僕から離れた。 「ご、ごめん…。足、捻挫しちゃてて…」 「うん。先生から聞いた。大丈夫?」 「う、うん…。大丈夫よ?」 は靴を履きながらそう言うと僕が持ってる自分の鞄を見て、 「あ…持ってきてくれたの…?あ、ありがと…」 と言って鞄を受け取った。 「いいよ。あと数学のノートもとっておいたから」 「え?あ…ありがとう…」 は嬉しそうに微笑んでくれた。 「いいよ、それくらい…。それより…歩ける?家まで送るよ」 「え?そんな、いいわよ…。一人で大丈夫だし.…」 「でも…捻挫してるんだし危ないよ。送る」 「え?あ、あの…ダン…?」 僕はの手を掴むとそのまま彼女を引き寄せた。 「僕に寄りかかって歩いていいから」 「あ、うん…。ごめんね…?」 は、まだ申しわけなさそうに僕の顔を見る。 「いいよ。気にしないで…」 僕はそう言ってちょっと微笑んだ。 を支えながら家に送るまでの間、僕は真実を聞くべきか聞かないべきか迷っていた…。 人って凄く緊張すると鼓動が早くなって体が火照ってきて変な汗まで出て来るんだ… と言う事を私は最近知った。 こんなに鼓動が激しくても大丈夫なのかな、と心配になったりして… きっと心臓の弱い人には耐えられないんじゃ…なんて思ってしまう。 しかも今の私の場合、ある一定の場所が更に熱を帯びてる。 それは…ダンに繋がれてる手なんだけど… 私は足をひょこひょこと引きずりながら歩いているので ダンが手を引いて私の歩くスピードに合わせてくれているのが嬉しかった。 でも今日のダンは少しおかしい。 いつもなら何かしら話し掛けてきたりするのに学校を出てからは黙ったままだ。 どうしたんだろう…? 時折、凄く険しい顔になってるし… 体育の時間は、あんな楽しそうにしてたのにな。 何かあったのかな…? それとも…やっぱり、こうして私が頼ってしまってるのが迷惑とか… でも…今日のはダンから言い出してくれたし… あ~…何だかよく解らない.…。 ただ一つはっきりしてるのは…ダンが笑っててくれないと私は凄く不安になってくる…という事だけ。 チラっと彼の横顔を見上げて様子を伺った。 彼は何か考えごとをしてるような顔つきで前を見据えている。 何を…考えてるんだろ… ダンは…大人と仕事をしてるせいだからか、時々、そうやって大人っぽい表情をする事がある。 そんなダンを見ると…少しだけ距離を感じて寂しくなるのは…我侭なのかな… こうして友達になってくれて…一緒に帰ったりしてるのに…これ以上、何を求めてるんだろ、私…。 そんな事をボンヤリと考えてると目の前にチェルシーホールタウンが見えてきた。 (ああ…もう家についちゃうんだなぁ…) もう少し…ダンと手を繋いでいたかった。 なんて、こんな風に思うのって私はやっぱりダンのこと… そう思った時、ぐいっと手が引っ張られて足がつまずき転びそうになった。 「ひゃ…っ」 「…っ?」 一瞬、何かに体を包まれたのは解ったけど、その後は目を瞑っていて解らなかった。 気付けば暖かい温もりを感じて目を開けると、目の前にはダンの胸元… 「わ…っ」 抱き寄せられたんだと気付いた私は慌てて体を離そうとして後ろに下がった。 だが腕を掴まれているので、たいした距離にもならない。 「大丈夫?ごめん、僕がボーっと歩いてて急に曲ったから…」 「え?そ、そんなダンが謝らないでよ…。私もボーっとしてたから…」 至近距離にダンの顔があるから私は俯きながら早口で、そう言った。 腕…離してくれないかな… こんな近いと顔が赤くなっちゃうしダンの方を見れない。 「?歩ける…?」 「え?あ、だ、大丈夫…」 「そっか。じゃ、行こう?」 「うん…」 ダンがやっと笑顔を見せてくれて私はホっとした。 腕を掴んでた手が離れ、また私の手を優しく繋ぎ、体を支えてくれる。 こんなに密着できたのも、怪我の功名かな…?なんて、ちょっと不謹慎な事を考えたりして… 家の前まで来て、私はやっと顔を上げた。 「あ、あの…送ってくれて…どうもありがとう」 「ううん。そんなのいいよ。それより…」 「え?」 「こんな怪我して帰って…親が心配するだろ?」 ダンが何かを伺うように私の顔を見つめて言った。 「ああ…。でも…転んだだけだし…」 「でも体育の授業で、そんな怪我するなんて…って心配しない?」 (何が言いたいんだろ…?) 「大丈夫よ。今日は私の苦手なバスケだったから…そう言えば納得すると思うわ?」 なるべく明るく、そう言ってみた。 でもダンは何だか考え込むような顔で俯いてしまう。 「…ダン?」 私は心配になって、そっと彼の方へ手を伸ばした。 その時、ダンはパっと顔を上げて、「のお母さんに挨拶してもいいかな?」と言い出しギョっとした。 「え…?な、何で…?」 「ただ…いつも遅くまで引き止めちゃったりしてるし一応、友達として一回くらい挨拶しときたいかなって…。迷惑?」 ダンは、そう言って心配そうな顔で私を見るから慌てて首を振った。 「ううん…っ。あの…迷惑とかじゃなくて…。うちのお母さんハリーのファンだから…ミーハーだし… 返ってダンの方が迷惑するかも…」 私が手を振りつつ、そう説明するとダンは少し楽しげに笑った。 「そんなの構わないけど…。が嫌なら…」 「あ、違うの…。私は…別に…嫌じゃないわ…?」 何とか笑顔で、そう言って、「じゃ…ちょっと待ってね?」と私は家のチャイムを鳴らした。 すると母がインターホン越しに声をかけてくる。 『どちら様?』 「お母さん?私」 『あら、?ちょっと待って』 ガチャっと唐突に切れて、私はドアが開くのを待った。 少し緊張して後ろを振り向くと、ダンがニコっと微笑んでくれる。 そこへ母が顔を出した。 「お帰り…って、あら?」 「あ、お母さん.…。あの…いつも話してる…」 と私が言いかけた時、お母さんは両手で口を抑えて目を丸くした。 「まあっ。ハリー?!」 「こんにちは」 母の言葉にダンは、ちょっと笑顔を見せる。 「お、お母さん!だからそれは役の名前で…彼は…」 「ダニエルだって言いたいんでしょ?解ってるわよ…。でも私の中ではハリーくんなのっ」 まるで子供のようにはしゃいだ様子の母に私は恥ずかしくなった。 「あ、どうぞ入って?」 「え?あ…いえ…僕は挨拶だけしようと思って…。いつも彼女を誘って遅くなったりしてるし…すみません」 「そんな、いいのよ。勉強教えてくれてるんですってね?こっちがお礼言いたいわ?是非お茶でも飲んでいって?」 「お母さん!そんなダンは忙しいのよ?迷惑よ…っ」 「あ…そ、そうね…?でも…今日も仕事なの?」 母が、そう聞くとダンは笑顔で、「いいえ。今日は家に帰るだけです」と答えた。 「まあ、じゃ少しくらい…ね?」 「お母さん…っ」 私は本当に恥ずかしくなって母の手を引っ張った。 だがダンは笑顔で、「じゃあ…少しだけ…お邪魔させて頂きます」と言って私は驚いて振り向いた。 「え?ダ、ダン…?」 「の部屋も見てみたいし…ダメ?」 「え…私の部屋…」 ちゃんと片付いてたっけ…?とか思ってると、すっかり浮かれた母がダンの手を引っ張った。 「じゃあ、の部屋に上がってて?すぐに、お茶を用意して持って行くから」 「はい、じゃあ…ちょっとだけ、お邪魔します」 ダンは笑顔で、そう言うと私の手を繋いだ。 「え…?」 「一人じゃ歩きにくいだろ?」 「あ…うん…」 まだ、そうやって気遣ってくれるダンにドキドキした。 だが目の前に母がいて何だかニヤニヤしているから恥ずかしくて仕方がない。 「一人で歩けないって、どうしたの?」 「え?あ…それが…」 私が説明しようとした時、ダンが、 「今日、体育で転んだんです。それで足を捻挫して…。だから僕が送って来たんです」 と話してくれた。 それを聞いて母も驚いている。 「え?捻挫?大丈夫なの?あ…そう言えば…口元も少し赤いわね…?」 「だ、大丈夫よ…。そんな酷い怪我じゃないし…」 私は口元に触ってきた母の手を外した。 「と、とりあえず…入って…。あ、ハリーくん、を二階に連れていってあげてくれる?」 「お母さん、だからハリーじゃないって…」 「いいよ。 ―僕が連れて行きますから」 私を静止してダンは母に、そう言った。 母も何だか嬉しそうに微笑んで家の中へ入っていく。 「もう…ほんと困っちゃう…」 「何で?面白い、お母さんだよね」 「面白いって言うか…ミーハーなのよ?」 私がちょっと笑うとダンもクスクス笑いながら、「じゃ、お邪魔します」と言って家の中に入った。 もちろん私の手を引いたまま… ゆっくり階段を上がって自分の部屋の前まで来ると、やはり少し心配になってきた。 「あ、あのダン…ちょっとここで待っててくれる?」 「え?ああ、いいよ?」 「ごめんね?」 私は慌てて部屋の中に入るとドアを閉めた。 散らかってないか見渡すと、昨日洗濯物に出そうと思ってた服がソファーに引っ掛けたままになっている。 「うわ…こ、これ…どうしよう…。あ、ラックに入れておけばいいんだ…」 私は引っ掛けてあった服を洗濯物を入れるラックに放り込むとテーブルの上に出したままの本やCDも元の位置に戻して ベッドも捲れてたのを直しカバーをかけて奇麗にした。 「あ、あとは大丈夫ね…」 足を引きずりながらの作業でだったが、この際痛いなんて言ってられない(!) 私はまたすぐドアの前まで片足でピョンピョンと飛んでいくと軽く深呼吸をして、そっとドアを開けた。 「ダン…?待たせてごめんね?入って?」 私が声をかけると廊下の壁に寄りかかってたダンがこっちを見て微笑んだ。 「もしかして…一気に片付けたとか?」 「そ、そんなんじゃ…。ちょっとしまう物をしまっただけよ?」 私が澄ました顔で答えると、ダンがクック…と笑いを噛み殺している。 「お邪魔します」 「…どうぞ」 私がドアを開け放ちダンを中へ入れてまたドアを閉めようとした、その時… 「あ、。ドアは開けておくものだよ?」 と言ってきて驚いた。 「え…?どうして…?」 「普通、年頃の女の子の部屋に、男の友達が来たら親が心配するだろ?ドアは開けておいて?」 「?…う、うん…。解った…」 私はダンの言ってる意味が解らず、首を傾げたが言われた通り、ドアは開けたままにしておいた。 だいたい私は日本でも、こっちでも自分の部屋に男の子を入れたことすらないから、 そんなマナー(?)とか解らないもの… ダンは…よく女の子の部屋に行ったりするのかな… ふと、そんな事を思って胸がギュっとなった気がした。 その時、ダンが私の方に歩いて来て手を掴んだ。 「え…?」 「そんな立ってたら足、痛いだろ?」 「あ…うん…。あ、ダンも適当に座って…?」 「うん。そうするから…も座ってよ。じゃないと落ち着かない」 ダンがクスクス笑って私の手を引くとそっとソファーに座らせてくれた。 「あ…ありがとう…」 「ううん」 ダンは、そう言って私の隣に座ったから思わずドキっとする。 「可愛い部屋だね?何だか…アジア調でいい感じ」 「そ、そう?日本でアジアンテイストのものが流行ってたから集めて…。あとインド風のものとかも好きだから…」 「ああ、で、お香?」 「うん…あの香りが落ち着くでしょ?アロマテラピーみたいなものかな?」 「そっか。やっぱ女の子だね?」 ダンは、そう言って笑った。 「ダンの…部屋は…この前、エマ達と行った時に思ったけど…結構シンプルだったね?」 「え?ああ…僕、細かいものをゴチャゴチャ置くのって好きじゃなくて…。だから殺風景なだけだよ?」 「そ、そう…」 「あーでもルパートの部屋は凄いよ?何だか意味不明なオモチャとかプラモデルとかゴッチャゴチャだしね」 「そうなの?」 「うん。いつも片付けろって言うんだけどさ。"僕はこれが落ち着くんだ"とか言っちゃって。 ただ片付けが面倒なだけだろって。 その前に、あんなに物があったら何から手をつけていいのか解らないだけかもなぁ…」 ダンはそう言って笑っている。 私もちょっと想像できて笑ってしまった。 「何だかルパートらしいかも」 「だろ?ま、あいつが奇麗好きになったら逆に心配になるよ」 「うわ、酷い…っ」 私はダンの笑顔につられて笑った。 そこへ、一際声のトーンが高くなった母の声が聞こえた。 「お待たせ~!ハリーくん、甘いものは好き?」 「あ、はい、大丈夫です」 ダンが笑顔で立ち上がると母がニコ二コしながらトレンチから紅茶と可愛い籠に入ったビスケットをテーブルに置いた。 「あ…ジェイミードジャースのビスケット…」 「そう。ちょうどあったのよ。ハリーくん、これ好きなんでしょう?」 「はい。よく知ってますね?」 ダンが驚いたように顔を上げて母を見た。 が、私もそれには驚いた。 「お母さん…。何でダンの好みなんて…」 すると母は得意げな顔で、 「あら、私はより先にハリーくんのファンでよく知ってたもの。雑誌とかのインタビューで読めば解るわ?」 「お母さん…ダンのインタビューなんて…読んでたわけ…?」 私が呆れたように言うと、母は澄ました顔で、「もちろんよ?」と答えた。 ダンも、それには苦笑している。 「あとね、ハリーくんはチョコレートソースのかかったバニラアイスが好きなのよ?ね?」 「はい、好きですね」 ダンがクスクス笑いながら、そう答えると、「いただきます」と言って紅茶を飲んだ。 母はニッコリ微笑むと、私に、 「ああ、でもケーキとジャンクフードは嫌いみたいだから、も覚えておきなさいよ?」 と言って、「じゃ、ごゆっくり」と部屋を出てドアを閉めようとした。 「ああ、お母さん!」 「え?何?」 母が顔だけ出して変な顔をしている。 「あの…ドアは開けたままにしといてって…ダンが…」 「え?ドア?」 それには母も少し驚いた顔をしていたがすぐにニッコリ微笑んだ。 「そう。ハリーくんってやっぱり英国紳士ね?」 とウインクすると、ダンも照れくさそうに俯いて笑っている。 私だけが、その意味が解らず、首を傾げた。 何でドアを開けておくのが紳士なの…? イギリスの決まり事なわけ…? 何だかのけ者にされた気分だわっ 母は言ったとおりドアを開けたままにして下へ戻って行った。 「あ、あの…ごめんね?お母さん、ほんとミーハーで…」 「え?ああ、そんなことないよ。凄く可愛らしいお母さんだね?」 ダンは紅茶を飲みながら微笑んだ。 「か、可愛らしいって…。どこが…?」 口を尖らせて紅茶のカップを持つとダンがチラっと私を見た。 「凄く奇麗じゃないか。はお母さん似だね?」 「…えっ?!」 ダンにそう言われて私は一気に熱が顔に集中した。 顔を反らし、落ち着こうと紅茶を口に運んだ時、熱いのが唇の傷に染みて私は顔を顰めカップを戻した。 「ぃっ…」 「…?大丈夫?」 ダンもカップを置くと口元を押えてた私の手を外して唇の傷を確かめるように顔を近づけてきた。 「あ、あの…大丈夫…ちょっと染みただけだから…」 凄い近くにダンの瞳があって私はますます熱を帯びた顔を反らそうとするも、 ダンの手が私の唇に触れ、ドキっと心臓が跳ね上がった。 「あ、あの…」 「結構…深く切れてるよ…?これじゃあ、食事だってしにくいんじゃない?」 「そ、そうかな…。きょ、今日は冷たいもの…作ってもらう.…なるべく染みないの…」 「そうしてもらいなよ」 ダンはそう言って小さく息を吐き出した。 私は唇に触れてたダンの手が離れてホっとしていたから、 ダンの暗い表情に気付いたのは顔の熱も少し落ち着きを取り度した時だった。 「…ダン?どうしたの?急に黙っちゃって…」 私は心配になってダンの顔を覗き込むと、ダンがゆっくりと顔を上げた。 「…」 「ん?何…?」 「その怪我…ほんとに自分で転んだの…?」 「え…?」 ドキっとした。 ダンの表情は少し悲しげだったから… 「ほ、ほんとよ…?ゲーム中にボーっとしてて…」 「嘘だろ?」 「…な、何で?」 「だって…僕見てたんだ。は…ボーっとなんてしてなかった。ちゃんと動いて相手をマークしてた。 その時…相手から…ぶつかってこられたんじゃない?」 「……….っ」 「僕は…ぶつかった瞬間は陰になってて見えなかったけど…チャーリーが見てたらしいんだ…」 「チャーリーが…?」 私は心臓がドキドキしてきて思わず俯いた。 「あれは…エリーがわざとぶつかったって言ってたんだけど…。もし本当なら何では自分が悪いって嘘言うの?」 「そ、それは…」 「本当のこと…言ってくれない…?」 ダンは何だか真剣で、その瞳を見ていられなかった。 あの瞳を見てると…心の中まで見透かされてるようで… 「本当のことって…?私…嘘なんか…」 そう言いかけた時、唇にダンの手がまた触れてドキっとして顔を上げた。 「それも嘘だろ…?」 「ダン…」 「こんな…女の子が顔に怪我して…。こんな怪我、ただ転んだだけじゃしないよ? 思い切り力をこめてぶつかってきたなら解るけど…」 ダンは、そう言って指で私の唇が切れてる場所を優しくなぞった。 ダンの心配そうな顔を見ながら、その指の感触で私は心臓が口から出そうなほどドキドキしてくる。 きっと今、私の顔は真っ赤なんじゃないだろうか。 「あ、あの…そんなことないから…。心配しないで…?こんな怪我すぐに治るし…」 何とかそう言ってニコっと微笑むと、ダンはそっと指を離した。 「…そう…。ほんとのこと…言ってくれないんだ…」 「え…?」 「僕には…何でも話して欲しいのにな…」 ダンはそう言って立ちあがった。 「…ダン?」 「僕…帰るね…?」 「え?」 「ちょっと…考えたいことあるから」 「ちょ…待ってよ…」 私も慌てて立ち上がるとダンが私の肩を掴んだ。 「だめだよ。足、痛いんだろ?見送らなくていいから。お母さんに挨拶して一人で帰るよ」 「で、でも…」 私は何だかダンの態度に不安を覚えて戸惑った。 するとダンが少しだけ微笑んで私の頭にポンと手を置くと、 「は…早く怪我を治して元気になって」 と言った。 そう言われると頷くしかない。 「う、うん…。解った…。今日は…送ってくれてありがとう…」 「そんなのいいよ。じゃ…またね?」 「うん…また」 私は何とか笑顔を作ると手を振った。 ダンも軽く手を上げて部屋を出て行く。 少しするとお母さんの高い声が聞こえてきてダンを見送ったんだと解った。 「はぁ…」 私は玄関のドアが閉まる音を聞いて思い切り溜息をついた。 ダン…どうしたんだろ… 何か怒らせちゃったかな…。 帰りから少し様子も変だったし… それに…怪我のことも疑ってた。 チャーリーが見てたなんて… もしかして…ダンはエリーがわざとぶつかってきたと気付いたんだろか… 私が嘘をついてるって…思ってるのかも。 でも…その嘘をつく理由は…気付いてないよね…? ダンに…気にして欲しくないからだよ…? きっと…シェリル達のことを話したら…気にしちゃうでしょ…? ダンは凄く優しいから… さっきだって…ダンの顔は心配で堪らないって顔をしてて… 私の唇に触れてる手も少し震えてた気がする…. あの時は私は冷静じゃいられなくて、男の子からあんな風に触れられたのは初めてだったから恥ずかしくて… そんな余裕もなかったけど…今思えば…私の怪我を本気で心配してくれてた。 そう思うと、また胸がドキドキしてくる。 私…ダンが好きなんだ.… 憧れでもなく…友達としてでもなく…異性として… だってダンが座ってた場所に手を置くだけで、また一つ鼓動が速くなる。 ダンがさっきまで触れてたクッションすら愛しくなる。 紅茶を飲んでたカップさえ… ゆっくり手を伸ばし、ダンが飲んでた紅茶のカップを持つとそっと顔に近づけて唇で触れてみた。 それだけで胸の奥が熱くなってくる。 男の子を好きになるって…こんな風になるんだと私は、この日、初めて知った― |
Postscript
お題ダン夢シリーズ第三弾ですv
今回からやっとダン目線でも書き始めました。
いやーダンの瞳で見つめられたら鼻血ですね(オイコラ)(不純だね、汚れてるね.笑)
ダンの好物、チョコがけアイスはOKでもケーキダメなんて笑いましたよ~
ジャンクフードが嫌いなのも以外…結構真面目なのね。
あとは魚料理が好きなんて、案外、大人だわ(笑)
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】