Chapter.4 こわい~優しさ~                    Only you can love me...





僕はベッドに寝転がって天井をボーっと見ていた。
今日はさすがに勉強をする気になれない。
まあ、母さんは今夜も遅いみたいだし別にいいんだけどさ。


「…ダン?」
「ん~?」
「元気だしてよ」
「…無理」


僕がボーっとしたまま答えるとエマが小さく息を吐き出すのが聞こえた。


「まあまあっ。そんな考え込むのは良くないって!」
「…うるさいぞ?ルパート…」
「…ごめん」


二人はいつもの様に僕の家に遊びに来ていた。
そこで二人にに起きた事を相談したんだけど…一向に答えは出ない。


「はぁぁ…」


出るのはこの重苦しい溜息だけだ。


「ねぇ。ダン…」
「ん~?」
「誰か相談出来る先生とか…いない?私も心配だわ?
そんな大勢で怪我までさせるなんて…。、かわいそう…」


エマの言葉に僕は何とか体を起こしベッドの端に腰をかけた。


「先生とかに言ったらますますがイジメられるだろ?だから…それは出来ないんだ。
僕が文句言いたくても…結局は、僕のいないとこでがイジメられるんだ…」
「そうね…。イジメって…そんなものよね…」
「はぁー嫌な奴ってどこの学校にもいるんだな?」


ルパートも溜息をついてソファーにひっくり返った。


「今日は、休んだんでしょ?」


エマがコーラの入ったグラスをストローでかき回しながら聞いて来た。
僕もちょっと息をついて小さく頷く。


「足首が腫れちゃったらしくてさ…?さっき学校帰りに電話したんだけど…
留守電になっててまだ話せてないんだ」
「そっかぁ…。で?そのイジメッ子達は?」
「ああ…。別に普通どおりだったよ?今日もしつこく話しかけられたんだけど…
チャーリーが気を使ってくれて、なるべく僕と一緒にいてくれたんだ。
一人でいたら、すぐ話しかけて来るぞって言ってさ。結構、いい奴なんだよなぁ…」
「へぇー。ああ、この前話してくれたカッコイイ男の子でしょ?今度、会わせてよ」
「え?何で?興味あるの?エマ」
「そりゃ~カッコ良くてスポーツ万能ならね?」


エマは少し大人びた表情で肩を竦めて笑っている。


「あ~あ~これだから女って奴はさ~」
「何よ、ルパート!女が何だっての?」
「カッコイイ奴がいたら、すーぐ目がハートになるだろ~?」
「何よ。男だって、可愛い女の子がいたら、すーぐ鼻の下、伸ばすじゃない!」
「おい、二人とも…。今は、そんな事でケンカしないで…」


僕が慌てて口を挟むとエマがキっと怖い顔でこっちを見た。


「聞いてよ、ダン」
「な、何だよ…?」
「ルパートったら、、可愛いなぁ~って、しきりに言ってたでしょ?」
「え?あ、ああ…」
「今じゃ毎日、にメール送ってるのよ~?どう思う?」
「え?毎日…?」


僕は呆気にとられてルパートを見た。
ルパートは何だか照れくさそうに頭をかいて僕から視線をそらしている。


「ほんと?ルパート」
「え?ん~まあね~。何だか日本の子って凄く、こう…なんて言うの?いいかなぁ~なんてさ?」
「はあ?何が言いたいの?」
「エマはうるさいよ?」


また二人が睨み合いになり、僕は苦笑した。


「ちょっとダン。笑ってる場合じゃないでしょ?ダンだってのこと気に入ってるんじゃないの?」
「え?!」
「だって…ダンから会ったばかりの子と友達になるなんて珍しいじゃない?」
「そう…かな…?」
「そうよ。私、話聞いてて、そう思ったもの。そしたら招介するからなんて言われて、驚いたわ?あの時は」


エマがクスクス笑いながらコーラを飲んでいる。


「まあ…は何だか、ほら…こう…なんて言うの…?」
「何、ルパートと同じこと言ってるのよ」
「ほんとだ!僕と同じじゃん」
「………」


二人に攻められ、僕はぐっと言葉に詰まった。


「だから…放っておけないっていうか…。前の自分と重なって気持ちが解ったって言うかさ…」
「何よ。歯切れが悪いわねぇ…。もしかして意識しちゃってるとか?」
「そ、そんなんじゃ…」
「異国の子だから興味があるとか…?」
「ああ…そっちかも」
「まあ、そりゃ私も他の国の人と、しかもアジアの方の人は知り合う事も少ないし興味あるかな?
それに、ほら。同じ歳でしょ?だからと友達になれて凄く嬉しいの」
「うん。そうだね」
「だから…が悲しい思いしてるなら友達として放っておけないわ?」
「エマ…」


僕の事をじぃっと見つめてそう言いきったエマにドキっとした。


そりゃ僕だって、そう思ってるさ…
でも…


「僕は…どうしたらいいんだろ。と学校では話さない方がいいってこと?」


僕の言葉にエマとルパートが顔を見合わせている。
きっと二人もチラっとそう考えてたんだろう。


僕も真っ先に、それは考えていた。
僕と仲良くするのが原因でイジメに合うなら学校内ではなるべく話さないようにすればいい。
別に友達をやめるとかじゃなく、あくまで学校内だけでのこと。
だけど…そうなるとは学校にいる間、また孤独になってしまう。
かといって僕が必要以上にと仲良くすれば、彼女はまた酷いイジメにあってしまうかも…


「あー…面倒くさい…っ。何で女って陰険なんだ…?」
「ちょっとダン…。女を一まとめにしないでくれる?そのシェリルって子達がそういう女だってだけじゃない」
「はいはい…。そうだね…。でも嫉妬とか妬み僻みってさ…根強いよね」
「いっそのこと、ダンがシェリルって子とも仲良くすればいいんじゃないの?」
「はぁ?」


ルパートの発言に僕は顔を顰めた。


「嫌だね。そんな陰でイジメとかしてる子と仲良くするなんて」
「まあ…そうだよな…。ごめん…」


ルパートも色々と考えてくれてるんだろう。
シュンとはしたものの、また何か考え込んでいる。
だけど僕は、やはり、さっきの事を実行しようと思った。
ちょっと息をついて二人を見ると、「決めた」と言った。


「決めたって…何を?」


エマが首を傾げている。
僕はちょっと俯いて息を吐き出した。


「僕さ、やっぱり学校内では、なるべくとは話さないようにするよ」
「え?ほんとに?」
「ダン、それでいいの?」
「だって…仕方ないだろ?が怪我させられるよりは…」
「まあ、そうだけど…。に何て言うの?ダンがイジメの事実を知ってるって…彼女は知らないんでしょ?」


エマとルパートは心配そうな顔で僕を見ている。
僕はベッドに放り出したままの携帯をとっての番号を出した。


には…そのまま言うよ?チャーリーから聞いたって…」
「そう。でも…学校以外では今のままでしょ?」
「もちろん」


そう言ってニッコリ笑うとエマもルパートも微笑んでくれた。


「そっか。じゃあ安心!ま、それでイジメもなくなってくれるといいな?」
「そうねぇ。でも一度、そうなると…どうなのかな…」


エマが怖い事を呟いて僕は顔をあげた。


「もし…それでもイジメるようだったら…その時は僕が言うよ」
「え?をイジメるなって?」
「うん」
「おぉ~!カッコイイな、ダン!」
「ちゃかすなよ、ルパート」
「悪い悪い。でも、その事で、もしイジメが酷くなったら?」
「それも僕が止めるよ?」
「キャ~を守るのね?ダンが!素敵!」
「エマ…そんな呑気な…」


僕は二人の態度に呆れて溜息をついた。
するとエマが立ち上がって僕の隣に座った。


「じゃあ早くに電話して説明しちゃいなさいよ。あ、いっそのこと会いに行けば?」
「え?今から…?」
「そうよ。もう病院から帰って来てるんじゃない?電話より…会って説明した方がいいわよ。ね?」
「でも…さ…。もう7時過ぎてるし…」


僕は携帯をいじりながら時計を確認した。
その携帯をエマにパっと奪われる。


「お、おい。エマっ」
「いいから、いいから」


そう言ってエマは、すでに出してあったの番号を見て僕の方にニッコリ微笑んだ。
そしてそのまま通話ボタンをピっと押してしまった。


「あ…っ!」
「フフフ。思い立ったら、即行動あるのみ!よ?」
「ちょ…」


僕は焦って携帯を取り返そうとしたが、エマがひらりと、それをかわし立ち上がった。
しかも携帯を持ったまま…


「あ、?」
「うわ、おい、エマ…」
「うん、私、エマよ?ごめんね?今、ダンの携帯からかけてるの。うん、そう。怪我は大丈夫?うん…うん…」


僕はエマが話してるのを見ながら変な汗が出てきた。
ルパートは黙って、成り行きを見つめている。


「そうなんだ。良かった。あ、ところで…、今、少し時間ある?え?ううん、そうじゃなくて。
あのね、ダンが今から、そっちに行きたいって言ってるんだけど」
「お、おいエマ!」
「うん、そう。あ、大丈夫?じゃあ、すぐに行かせるわ?うん、待ってて?じゃ…」


そう言ってエマは携帯を切ると僕の方に返してくれた。


「はい。、今から会ってくれるって」
「か、勝手なことするなよ…っ」


僕は携帯を奪い返して着ていたパーカーのポケットにしまった。


「どうしてよ。ダンだってに電話しようとしてたんでしょ?」
「そ、そうだけど…僕は後からかけようと…」
「はいはい!いいから。サッサと行って来なさいよ!、家の前で待っててくれるってっ」
「えぇ?足、怪我してるのに?やっぱ、いいよ…断りの電話入れる…」


ポケットから携帯を取り出し電話をしようとした時、またエマに奪われた。


「だめよ!、もう待ってるわよ?早く行ってあげて」


エマが怖い顔で僕を見下ろして言い切った。
僕は溜息をつきつつベッドから立ち上がると、「…ったく。解ったよ…行ってくるよ」と呟き、キャップをかぶった。


「早く早く!」
「ダン、に宜しくね~っ!元気だすよう伝えて!」


二人に追い出されるようにして廊下に出た僕はまた一つ溜息をついた。


何で、こんな展開に…
さっき言った事だって、はっきり決めたわけじゃないのに…
でも…それしか方法が…ないよなぁ…。


そんな事を考えながら外へ出た。
最初は、ゆっくりだったが気付けば僕は走り出していた。
怪我してるを外に立たせておくのが心配だ。
そのまま勢いよく走って行けば、近い場所にあるの家が、すぐに見えてくる。
僕は、そこで走るのをやめて、歩き出した。
の家の門の前に誰かが立っている。
壁に寄りかかるようにしているのは…だ。


その姿を見た時、ちょっとだけドキンと胸が鳴った。


そう言えば…こんな風に女の子に会いに来たのは初めてだ。
心配で走ったのも…
何だろう?僕、最近、変だよな…


そんな事を考えながら、歩いて行くとが僕に気付いて顔を上げた。


彼女は嬉しそうに微笑んでくれて、僕も思わず笑顔で気付けば手を振っていた。










電話を切った後、私は足を引きづりながら何とか着替えはじめた。
今からダンが来るというので焦ったが、とりあえず、こんなパジャマでは会えない。

今日、起きたら捻挫した右足が腫れていて、とても一人じゃ歩けないほどだったので
母さんに言って学校を休ませてもらった。
少し気が晴れたのと、でもダンに会えない事が寂しくて複雑な思いをしながら、
午後から、お母さんと病院に行ってきた。
足は少し無理な体勢でひねったから炎症を起こしていると言われ、4日ほどは安静にしてれば腫れもひくとの事だった。
ちょっと安心して家に戻って休んでいたら、突然、ダンからの着信でドキっとした。


ちょうど、声が聞きたいな…って思ってたとこだったから…


あのダンが送ってくれた日…
ダンへの気持ちが何なのか解ってからは意識しちゃって普通にメールすら送れてなかった。
だから学校を休む事さえ言えない始末。
それで家に戻って来て、今日は何してたんだろう?とか色々と考えていた。
それに、あの日、何だか様子が変だったし気になっていた。
そこへ、あの電話…
ドキドキして出たら相手はエマだったから驚いたけど今からダンが行くと言われてギョっとした。
それでも今日は顔がみれなかったから嬉しくて待ってるって言ったんだけど…


私は何とか着替えて、ゆっくり足を庇うように一階へ下りると、そっとキッチンの方を伺ってみる。
お母さんは鼻歌なんて歌って夕飯の準備をしてるようだ。
私は足音を忍ばせ、そっと玄関の鍵をあけ、静かに外へ出た。
ヒンヤリした空気が少し肌寒い。
雨が降り出しそうだ。


ああ…薄手のセーターだけじゃ寒かったかな…
ロンドンって暖かくなったり寒くなったり変な天気が多いわ…


そんな事を思いながらも、部屋に何か羽織るものをとりに行く暇はない。
ダンの家は、すぐ近くなのだから、今から行くと言えば徒歩数分でついてしまうだろう。


「よい…しょ…」


私は痛む足を何とかつけないように玄関先の3段ほどの階段を慎重に下りて行った。
こういう時、健康って幸せな事なんだと、ふと思う。
普段と同じ事をするにも捻挫しただけで、すんなりと出来ないのだ。


「はぁ…」


私は少し息をついて門の方まで何とか歩いて行った。
門を開ける音にも慎重になる。
片方の足でポンポンと跳びながら門の外に出て壁に寄りかかった。


「…緊張してきた…」


ちょっと胸を抑えて息を吐き出せばドキドキと鼓動が聞こえてくる。


なるべく普通にしなくちゃ…


そう思ってると遠くで足音が聞こえてきた。
来たかな?と思って顔をあげるとやっぱりダンで歩いて来るのが見えた。
思わず笑顔になるとダンも笑顔で手を振ってくれている。
寄りかかってた体を離し、ダンが歩いて来るのを見ていた。
ダンは少し照れくさそうに笑いながら私の前まで歩いて来ると、「Hi...足…大丈夫?」と聞いてきた。


「うん。三四日で腫れも引くって…さっき病院に行って来たの」
「そう。良かった。さっき僕も学校帰りに、に電話したんだけど…留守電になってたから心配してたんだ」
「え?あ…病院では電源切ってたから…」
「うん、そうかな?って思ったんだけどね」


ダンはそう言って壁に寄りかかった。


(そっか…ダン、電話してくれたんだ…)


その事が嬉しくて私は顔がニヤケそうになり俯いた。


「あ…、立ってたら足、痛いんじゃ…」


ふとダンが顔を上げて私を見た。


「え?あ…大丈夫よ?そんな体重乗せなければ…」
「そう?辛かったら言ってね?」
「うん…。ありがとう」


ダンの何気ない一言や気遣いで、こんなにも胸が熱くなる。
私、本当に、今ダンに恋してるんだ…。

ドキドキして火照る顔を手で隠しながらチラっとダンの方を見るとダンは何か言いたそうにして俯いている。

何だろう…?
それに突然、家まで来てくれて…何か用事…?


ふと今日は、どうして来てくれたのか、それを何故、エマが電話してきたのか気になった。


「あの…ダン…?」
「…えっ?」


私が声をかけると、ダンは慌てて顔を上げてニコっと微笑んだ。
それもまた不自然で気になる。


「あの…何か…用事だった…?」
「…あ…うん…そう…かな?」


何となく視線を外し、言葉を濁す彼に何だか不安になってきた。


「…何?」
「え?」
「ダンの…用事…」
「あ、う、うん…」


ダンは私の質問にそれだけ言うとゆっくり顔をあげて私を見た。


「あのさ…」
「…うん」
「その…足の怪我…シェリル達にやられたんだろ…?」
「…え…?」
「知ってるんだ、僕…。全部、チャーリーから教えてもらった」
「教えて…もらったって…?」


私はドキドキしてきてダンから目を反らした。
まさか…


「…シェリル達から乱暴なことされてるって…事。それに…原因は僕だって事も…」


私は驚いてダンを見たが、彼は目を伏せて、「ごめん…。に迷惑かけて…」と呟いた。


「ちょ…何でダンが謝るの?ダンは悪くないよ?」


ほら…やっぱり気にするのね…
ダンは…優しいから…


「でも…ごめん…。それに、その事にも気づかなかったし…。言ってくれれば良かったのに…」


言える訳がないじゃない。
あなたは、そうやって気にする人だから…
こんな私を気にかけてくれる優しい人だから…


「ダン…?そんな気にしないで?別にダンが悪いわけじゃないし、そんなイジメの事だって平気だから…」
「平気なもんかっ。そんな怪我までして…!」
「…ダ、ダン…?」
「あ…ごめん…。大きな声出して…」


いつもは温和なダンに怒られて、私は驚いた。


「う、ううん…」


私が首を振るとダンは気まずい顔で俯いてしまった。


「あ、あのダン?私のことなら…」
…」
「は、はい…」


声をかけたとき不意にダンが顔を上げ私を見たのでドキっとした。


「な、何?」
「あのさ…ちょっと考えたんだけど…」
「う、うん…」
「僕ら、これから学校内で極力、話さないようにしよう…?」
「……え?」


私はダンにそう言われて胸がズキンと痛んだ。


(それって…友達をやめようって言ってるの…?)


私は悲しくなってギュっと唇を噛み締め俯いた。
するとダンが慌てて、


「あ、違うんだ。あの…話さないようにしようって言うのは学校内でだけって事で…」


と言って私の肩を掴んで顔を覗き込んできた。


「…え?どういう…こと?」
「だから…シェリル達の前では…なるべく話さない方がいいと思ってさ…?
僕が注意したいけど…そうすると、またの方に文句を言うぞってチャーリーも言ってたから…
それは出来ないし…。だったら…彼女達の前でだけは仲良く話さない方がいいかなって思ったんだ…」
「ダン…」
「ほら、学校終った後はさ。今まで通り、遊べるし…。電話やメールだってあるから話せるだろ?」


ダンは、そう言ってニコっと笑ってくれた。
私はダンの気持ちが嬉しくて言葉が出てこない。


"学校内では話さないようにしよう"というのは…彼の優しさだから…。


「あの……?」


あまりに私が黙っていたからか、ダンは不安げに私の顔を伺っている。
その表情が凄く愛しく思った。


「…解った」
「え?」
「学校内では…私も話しかけないようにするね?」
…」
「ありがとう、ダン」


私は、それだけ言って笑顔を見せた。
するとダンも、やっと、いつもの優しい笑顔を見せてくれる。



「え?」
「お願いがあるんだけど…」
「…な、何?」


私がドキっとして聞き返すと、ダンはちょっと笑って、こう言った。


「もし…また何か嫌な事があったら…。今度は僕に隠さず、ちゃんと話してくれる?」
「ダン…」
「今までみたいに一人で抱え込まないで欲しいんだ。
何もしてあげられなくても…話くらい聞けるし…それにエマもルパートもいるからさ」


ダンは、そう言って、ね?っと付け加えて微笑んでくれた。
私は嬉しくて泣きそうになって頷くだけで精一杯だ。


「良かった。じゃ、これからも宜しく」


そう言われて目の前に出された手を私は、そっと握った。
ダンの温もりで心までが温かくなる。


「…宜しくね?」


私も何とかそう言って笑顔を見せた。


「…クシュン…っ」


その途端にクシャミが出て私は慌てて手を離した。


「あ…寒い?ごめん、気付かなくて…」
「え?いや、あの…大丈夫よ?」


私は慌てて首を振るがダンは自分が着ていたパーカーを脱いで私の肩にかけてくれた。


「い、いいよ…。ダンが寒くなっちゃうよ?」
「僕は寒くないから。が着てて」
「でも…っ」
「いいってば。それに、ほんと寒そうだよ?鼻がトナカイさんみたいだ」
「え?」


そう言われて私はサっと手で鼻を隠すとダンはクスクス笑っている。


「わ、笑わないで…」
「ご、ごめん…だって可愛いからさ…?」
「………っ」


そんな台詞、サラリと言わないでよ…


私は鼻だけじゃなく頬まで赤くなった気がして今度は手で頬を押えた。
するとダンの手が伸びてきて、ドキっとする。


「唇…まだ痛い…?」


そう言ってダンは指で唇の横を触れてきた。
それだけで鼓動が早くなってしまう。


「う、ううん…。もう…痛くないわ…?」
「そう。良かった」


ダンは、そう言って微笑むと、


「あ、じゃあ今度は風邪引いてお休みなんて事になっても困るしもう家に入って?」


と、おどけた口調で言った。


「うん…。そうね…」


まだダンと一緒にいたい…


そう思ったが引き止めることは出来ない。


「じゃあ…」


私は借りたパーカーを脱ごうとするとダンは慌てて着せてくれた。


「いいよ、着てて?」
「え?でも家は目の前だし…ダン帰り寒いんじゃ…」
「大丈夫。走って帰るから」


ダンはそう言って微笑むと私の手を取った。


「あ、あの…」
「ああ、玄関前まで送る。一人じゃ歩きにくいだろ?」
「…ありがとう」
「うん。じゃ、行くよ?」


もう少しダンといれると思えば迷惑をかけると思いつつも素直にお礼が言えた。
ダンは優しく私の手を握り、私の歩く速度に合わせながら歩いてくれる。
体を支えるようにして、ゆっくり、ゆっくり歩いてくれるダンを、また好きだなと思った。


男の子にこんなに優しくされた事なんて今までに一度もなかったなぁ…
日本の男の子、それも同じ歳の子達なんてそれこそ意地悪で子供っぽかったり、
テレ屋だったりして女の子を気遣うなんて真似出来ないんじゃないかな。


そんな事を考えながらチラっとダンを見上げてみると彼もまた私の方を見て、「ん?」 と首を傾げてくる。
その仕草だけでまた胸がドキドキして繋いでる手も熱く感じた。
だが門から玄関までの距離なんてほんの僅かで、すぐについてしまう。


「あ、ありがとう…。助かった」
「うん、いいよ。あ、お母さんに挨拶とかしなくて平気?」
「え?あ、いいよ、そんな…。お母さんには何も言ってないし…」
「そうなの?」
「うん。またダンが来たって知ったら、すぐ大騒ぎするから」


私は苦笑しながらダンを見た。
彼もちょっと頭をかいて笑っている。


「あ…じゃあ…。暫く学校は休むんだろ?」
「うん。明後日まで…。腫れが引いたら行くわ?」
「そっか。じゃ、授業のノートとって持ってくるよ」
「え?いいの?ダン、忙しいでしょ…?」


私はダンの言葉に嬉しくなったが心配になりそう聞いてみた。


「今週中は仕事入ってないんだ。母さんが、うるさくてさ?
新しい学校に慣れるまで、あまり休むなって言って。
だから今週はずっと学校行くし忙しくはないから大丈夫だよ?」
「そうなんだ…」


ああ、そうなら学校、休みたくないな…
せっかくダンが行くっていうのに…
あ…でも学校では、もう前のようには話せないんだっけ…。


「じゃあ…僕、行くね?」
「あ、うん。あの…来てくれて、ありがとう」
「そんなのいいよ」


ダンはそう言って微笑むも、ちょっと俯いてからすぐに顔をあげて私を見た。


「あのさ…。これから…学校では、あまり話せないかもしれないけど…。
学校の外では今まで通り、一緒に勉強したり、遊んだりしようね?」
「う、うん…」
「何か嫌なことあったり…悩んでる事があったら、僕とかエマに何でも相談してよ。一人で抱え込まないで」
「…ダン…ありがとう…」


彼の優しさが嬉しくて胸が一杯になる。


「じゃ…あまり歩き回らないで大人しくしてなよ?」
「うん。解った」
「またね?」
「うん。またね?」


ダンが門の方に歩きながら手を振ったので私も笑顔で手を振った。
門の外に出て行くまで見送ってると、ダンが最後に振り向いて、


「おやすみ、


と言って軽く手を挙げると走って行ってしまった。


「おやすみ…ダン…」


私は、そう呟くと彼の貸してくれたパーカーの前を合わせて引っ張り顔を埋める。


かすかにダンの匂いがして私は胸が熱くなるのを感じた。













「お帰り~ダン!」
「お帰り!」


僕が部屋に入っていくとエマとルパートは笑顔で迎えてくれた。
二人でテレビの前に座り込んでいる。


「ただいま…。何してんの?」
「何ってゲームよ、ゲーム。暇だったから」
「もーエマ、弱いし相手にならないよ」


ルパートが肩を竦めながら苦笑するとエマが怖い顔でジロリと睨む。


「何よ。どうせ下手ですよっ」
「エマは、まずボタンから覚えないとダメだよ~」
「はいはい。解ってるわよ。それより…ダン、どうだった?に、ちゃんと話せた?」


エマはプレステ2のコントローラーを置くとベッドに座った僕の隣に腰をかけた。


「ああ、ちゃんと話してきたよ?学校内では話さないようにしようって…」
「そう。で、は何だって?」
「解ったって」
「そっかぁ~。まあ…何だか友達なのにそんな事するのも変だけど…を守る為だし仕方ないよね?」
「うん、まあ…」


そう言ってベッドに寝転がるとエマが目ざとく、「あら?ダン、着ていったパーカーは?」と聞いてきた。


「ん?ああ…。が寒そうにしてたから貸した」
「へぇー紳士じゃない」
「まぁね。僕は、いつだって紳士だよ?」


そう言って笑えばエマは、「はいはい」 と言って呆れ顔だ。


、怪我の具合は?大丈夫だった?」


ルパートも対戦相手がいなくて退屈なのかプレステの電源を切ってソファーに腰をかけた。


「ああ、足は腫れたみたいだったけど…大丈夫だって。ま、あと二日ほど学校は休むみたいだったけどさ」
「そっかぁ…。早く治ればいいな…。あ、メールしてみよう」
「え?」


それを聞いて僕が体を起こすと、ルパートはいそいそと携帯を取り出し何やらメールを打っている。
その姿を見つつエマが僕を見て肩を竦めながら首を振った。
僕もちょっと微笑むともう一度ベッドに寝転がる。
そっと右手を翳し、さっきのの温もりを思い出した。
彼女が怪我をしていたとはいえ、あんな風に自分から女の子の手を繋いだのは、
この前の時もそうだけどが初めてだ。


何か…ちょっとドキドキした。


「ダン…?何、自分の手なんか、じぃーっと見てるの?」


エマが不思議そうに首を傾げた。


「別に。何でもないよ?」


僕はそう言って勢いをつけて体を起こすと、「さて、と。今日の復習でもやるかな」と呟いた。
さっきと違って少し、やる気が出てきた。
来週末から次のシリーズの撮影がクランクインする。
今のうちに出来る事はやっておいた方がいい。


「え?ダン、勉強するの?」
「うん。成績下げるわけにはいかないしね?エマもやる?どうせ同じとこやってんだろ?」
「うん。あ、そうだ。今日の授業で解らないとこがあったの。教えてよ」
「いいよ。どれ?」


僕が苦笑しながら聞けば、エマが鞄から数学の教科書を出した。


「あのね、ここのとこなんだけど…」


エマは今日やったところを開いて指を指した。
僕も自分の教科書を開いて同じところまで捲る。


「ああ、この問題か…。これは数式さえ覚えとけば簡単だよ。いい?」
「うん」


僕が説明するとエマは真剣な顔で聞いている。
人に勉強を教えるのは嫌いじゃない。
そうする事で自分にとっての復讐にもなるからだ。
僕はノートを見せながらエマに問題の解き方を教えていった。


「よし!送信っと!」


今まで黙々とメールを打っていたルパートが顔を上げた。


「っと。あれれ?何?二人でいきなり勉強?!」
「ちょっとルパート黙っててくれる?今、大事な数式を頭に入れてるのっ」


エマが教科書から目を話さないままそう言うとルパートは肩を竦めて、


「はいはい。黙ってますよ」


と苦笑した。
僕は自分の勉強をしながら、ふとペンが止まる。
ノートにメモが挟まっていた。
それは今日の授業中、チャーリーが書いてきたものだ。
それを開いてみると、


"、休みって昨日の怪我が原因かな?それともイジメが原因かな?ダン、何か聞いてる?"


と書いてある。
それには僕も解らないとだけ返事を書いた。
そのあと、休み時間にチャーリーが声をかけてきた。


"昨日、帰り、様子どうだった?"


そう聞かれて大丈夫そうだったと答えると、チャーリーはホっとした顔を見せた。
どうやら彼はの事が好きらしい。
そう自分で言っていた。


"気付けばのこと目で追ってるんだ。時々ふっとのこと考えたりするし…これって好きって事だよな?"


なんて照れくさそうに頭をかきながら聞いてきたチャーリーに驚いたが
そうなんじゃない?とだけ言っておいた。
チャーリーは今までサッカー一筋できたからか他の事には興味もなかったようだ。
それでか自分から女の子を好きになった事がなかったようで、自分のそんな感情に少し戸惑っていたらしい。


僕だって、チャーリーと似たようなものだ。
小さな頃から俳優として忙しい日々を送っていた僕にとって女の子を好きになる時間もなかった。
ただ14歳になって、すぐ、前の学校の一学年先輩の女の子と暫く付き合ってはいた。
彼女はずっと同じ学校でクラブも同じだった事もあり、よく知ってる先輩だった。
ハリーの3作目クランクイン直前に告白され、僕も彼女には少し憧れていたから、もちろん返事はOK。
撮影も3作目ともなれば少しは余裕もあったし、ロケに出れば無理だけど、こっちでの撮影の時は会う時間も頑張って作ってはデートをしていた。
ただ付き合って学校以外でも会うようになって気付いたのは僕は彼女の事を好きだと思う前に
心のどこかで先輩だという気持ちが強くて知らないうちに気を使っていた。
どこで背伸びをしていたのもあったし、女の子と付き合う事への憧れもあったんだと思う。
そんなものは今思えば恋とは呼べない。


それに彼女が僕の事を年下扱いする度に凄く疲れてきてしまった。
そのたびに先輩とつりあうような男を演じてしまうからだ。
まあ、今にして冷静に考えれば彼女も年下の僕に甘える事が出来なくて強がってた面もあったのかもしれない。
でも、その時の僕は何だかバカにされてる気がして少しづつ彼女と距離を置くようになってしまった。
そこに今度の転校の話が出て、結局、僕と彼女は、そこで別れた。
憧れと好きって感情は違うんだと別れてから気付くなんて、僕も案外いいかげんなんだなと思う。
憧れてた人から好きと言われて嬉しくて自分も好きなんだと錯覚してしまったのかもしれない。
彼女は僕のファーストキスの相手でもあったのに…。
まあ、最初の時は僕も女の子と初めて付き合うって事で舞い上がってた部分もあったから、今みたく冷静に考えることなんて出来なかっただけなんだけど。
だから…僕もチャーリーと同じで未だ、好きという感情が、どういうものなのか、よく解らない。
人を好きになると、チャーリーが言うように、"気付けば目で追ってしまう"んだろうか。


「…ン!ダン…?!」


ボーっとしていたらしい。
突然、体を揺さぶられ、僕はハっとして顔を上げた。


「もう、なにボーっとノート見つめてるのよ?解らない問題でもあったの?」
「え?あ、いや…そんなんじゃないよ?」
「変なの。あ、と何かあった?」
「…な、何も?何があるって言うんだよ?」


僕はエマから視線を反らしてノートを閉じた。
エマは何だか意味深な顔で僕を見ている。


「さあ?それは解らないけど…」
「何?何?と何があったって?」
「「うるさい、ルパートっ」」
「む…っ」


僕とエマに同時に怒られ、ルパートは口を尖らせた。


「何だよなー。二人して!いいよ、いいよ。僕にはという可愛い味方がいるからさっ」
「はあ?何で、そうなるわけ?」


エマが呆れたように顔を上げるとルパートは得意げに携帯を僕らの前にさしだした。


「ジャーン!たった今、からメールの返事がきたんだ!"怪我大丈夫?早く治してね?"って送ったら、
"ありがとう。ルパートも優しいね"ってさ!」
「へぇー。でもルパート"も"って事は他にも優しい人がいるって事じゃな~い?」


エマがそう言ってニヤニヤしながら僕の顔を見てきてドキっとした。


「な、何だよ…」
「別にぃ~」
「え?何?ダンもに優しいって言われたの?」
「そ、そんなんじゃないよっ」


僕は顔が熱くなって、すぐに教科書に目を戻した。


「ちょっと静かにしてて。勉強してるんだから」
「何か怪しいなぁ、ダン…」
「怪しくないよ!」
「ムキになるとこが、ますます怪しいわ?」
「エマもさっきから、うるさいぞ?勉強するんじゃないの?」
「もう問題、解けたもーん。ありがと、ダン」
「べ、別にいいけど…」


そう言って教科書に目を通すが何だか頭に入らない。
目の前ではエマがルパートとからのメールを見ながら、キャーキャー言ってるし集中できるわけもない。


(全く…今日はもうダメそうだ…)


僕は溜息をついて教科書を閉じた。

















「ご馳走様」
「あら、残してるじゃない。食欲ないの?」


私が椅子から立ち上がると母が心配そうに顔をあげた。
父も今日は一緒に夕飯をとっていて、「どうした?」なんて聞いてくる。
私は笑顔で首を振った。


「別に。もうお腹がいっぱいなだけよ?」
「そう?具合悪いとかじゃ…」
「お母さん、大丈夫だってば。そんな心配しないでよ」


そう言って食べ終わった皿を片付けた。


そう、ほんとに具合が悪いとかじゃない。
胸がいっぱいで、ご飯が喉を通っていかないだけだ。


「足の方はどうだ?まだ痛いのか?」


父がまだ心配そうな顔で私を見ている。


「そりゃ少しは痛いけど…。でも腫れが引けば大丈夫だって言われたから」
「そっか。まあ、明日と明後日は家でノンビリしてろ。最近お前は頑張ってたからな?」


父はそう言って微笑んでくれた。
きっと知らない土地、新しい学校で私が辛い思いをしてるんじゃないかと心配してくれてるんだろうと思った。


「学校にも慣れてきたのか?」
「え?あ…うん、まあ…」
「そうか。言葉の方もかなり理解出来るようになったし凄いぞ?」
「ほんとね?家で皆で英語を話せば、早いものだわ?」
「うん。そうだね」


私は笑いながら二人を見て、ふと思い出した。


そうだ…家族の人に家でも英語を話してもらったら?と助言してくれたのは…ダンだった。
最初から優しくて、何気なく助けてくれるのよね…


そんな事を思いながら部屋へ戻ろうとした時、


「そう言えば、。お前、クラスの友達を家に連れてきたって?」


と父が言い出しドキっとした。


「え…?あ、あの…送ってもらったのよ…」
「そうか。いや、その子が、あのハリーポッターの子だって聞いて、父さん驚いたぞ?」
「あ、うん…。私も驚いたわ?ダンが転校してきた時は…」
「凄く礼儀正しい子なんだって?いや~子供のうちから大人に混じって仕事をしてれば、
そうなるのかな?今度会ってみたいな、父さんも」
「そうよね~?私もまたハリーくんに会いたいわ?」


父と母が、そんな事を言い出し、私はドキっとした。


「ま、また、そのうちね…。じゃ、私、部屋で勉強してるから…」
「ああ、あまり無理するなよ?」
「うん」
「あ、あとでデザート持っていくわね?」
「ありがと、お母さん。じゃ…」


私は何とか笑顔で答えて早々に自分の部屋へ戻った。




「はぁ…。お母さんったら、お父さんにまで話したのね…」


私はひょこひょこと歩いてベッドに腰をかけた。
その時、ベッドに脱いで置いてあったダンのパーカーに手が触れ、それをまた着てみる。
少し大きくて私の手がスッポりと納まってしまうのが何だかくすぐったい。


(ダンって結構、細いけど、やっぱり男の子なんだなぁ…)


そう思いながら放り出したままの携帯をとってメールを開いた。
さっきルパートからメールが来て、すぐに返信したあと、少ししたらダンからもメールが来た。
タイトルが、"二人がうるさくて勉強できない!"で、ちょっと笑った。


"明日、今日の分と明日の分、授業でやったとこをコピーして持って行くね。
さっき今日の分持って行くの忘れちゃって(苦笑)じゃ、また明日家に行く前に電話する。ダン"


その文章を何度も読み返した。
そのたびにドキドキして顔が綻んでしまう。


何だか、こんな些細な事でも幸せになれるんだなぁ…
恋って凄いものなんだ。


でもダンには世界中に熱狂的なファンがいるのも事実で…
そんな人を好きになるなんて無謀かな、とも思う。
私は、たまたま同じ学校、同じクラス、席が隣…というのが重なって友達になれただけ。
ほんとはダンは凄い人なのよね…


そんな事を考えると少し寂しく思う。


でも友達になれた事だけでも凄い事なんだ。
それ以上の事を望むのは贅沢だ。
それ以上っていうのはもっとダンと会いたいとか…二人でどこかに行きたいとか、そういう事なんだけど…
でも今だってエマやルパート達と一緒に勉強だって出来るし、一緒にテレビゲームだって出来た。
4人で遊んだり出来るだけでも幸せなのよね…。
でも、そのうち、また撮影が始まれば、3人は遠い存在になってしまうのかな…
ダンだって学校に来なくなるだろうし…
そうなると何だか怖い。


近い存在だからこそ、不安になるし怖くなる。


それに今度からダンが学校に来てたとしても今までのようには話せなくなる。
それはダンが私の事を考えてくれたからなんだけど…
そう。あれもダンの優しさなんだ。
なのに私は、イジメられてもいいから、ダンと学校でも話したいなんて思ってる。
でも、それはダンに負担をかけることなのよね…?
そうなれば彼は、また私に申し訳なく思うだろうし、心配だってするだろう。
そんな思いをさせちゃいけない。
ダンは何も悪くないんだから罪悪感なんて持って欲しくない。


ダンには、いつでも笑顔でいて欲しいから…


私は小さな溜息を共に携帯を閉じた。
そのまま寝転がってダンのパーカーに顔を埋め丸くなる。


このままダンの匂いに包まれて眠ったら…夢に出てきてくれるかな…?


そんな事を考えてたら、いつの間にかウトウトしていた。
何か夢を見ていた気はするのだけどデザートを持ってきてくれた母に起こされた時には何の夢だったか覚えていなかった。


ただ頭の奥に、ダンの優しい笑顔だけが、いつまでも残っていた…










 


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Postscript


ダンシリーズ第四弾ですv
このシリーズ、何だか好評で嬉しい限りで御座います^^
中学生の二人を書くのは何とも新鮮で、ほんと中学生の事を思い出しつつ
書いておりますが、やはり少々大人びた中学生になってしまってるかも(汗)
私も、ませた中学生でしたけど(笑)
ダンのリクエストを頂いた、お友達からは大ウケで(笑)(いい歳なのに)
ただいま普通にダンの連載も考えております…(無謀)
まあ、他の連載が山ほどあるので、どれか一つ完結した後にでも…と
思ってますが、いつになることやら…(苦笑)


本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...


【C-MOON...管理人:HANAZO】