「Only you can love me...」






ダンと再び想いを確かめ合ったあの日から、2年の月日が経ち、私は約束通り、このロンドンへと戻って来た。






























































「うわー早速やられたね〜!」




そう言って苦笑混じりに呟くルパートにダンは渋い顔。
ルパートの手から雑誌を奪い取ると、それを背中に隠してしまった。
今日は久々のオフという事で、4人で遊んだ後、食事に来ているのだ。


「だから、こんなもん買ってくんなよ・・・」
「だって表紙にこれだけバーンと載ってたらつい手がね」


ルパートはそう言って肩を竦めると椅子に凭れてヘラヘラと笑っている。
その仕草が昔と変わらず、私はつい笑みを浮かべた。


「もう〜、何呑気に笑ってんだよ・・・」


ダンが少し不満そうに私を見る。
出逢った頃よりも少し大人っぽい表情で、それでも綺麗な瞳は変わらない。
真っ直ぐに私を見つめる熱い眼差しも、あの頃のまま。


「ごめん。でもダンが大学に迎えに来ちゃうから・・・」


そう言ってダンを見上げると彼は困ったような顔で溜息をついた。


「だって心配だろ?あんな男いっぱいに囲まれてる見たらさ・・・」
「どうして?皆、友達だよ?」
「・・・・・・・・・」


私がキョトンとした顔をするとダンはいっそう困ったように溜息をついた。
そんな彼を見て今まで黙っていたエマがクスクスと笑い出す。


「バカね、!いくら友達でもダンにとったら全ての男がを狙ってるように見えるのよ」
「えっ?!」
「うるさいぞ、エマ」


エマの言葉に驚いているとダンが煩そうに顔を顰めて呟いた。


「あーら、ほんとの事でしょ?を迎えに行くのも自分と付き合ってるって周りに示したいだけのクセに」
「そうそう!だからすーぐパパラッチに目をつけられて写真を撮られまくってるんだからさー。自業自得」
「あーもう。ほんとうるっさい!―――なあ、、2人でドライヴにでも行こっか」


ダンがそう言って私の顔を覗き込んでくる。
だけど私は今の会話ですでに顔が赤くなっていて何も答える事が出来なかった。


ロンドンの大学に入ってから数ヶ月が経った頃。
たびたびダンが学校まで私を迎えに来る事が多くなった。
免許も取り、車も買ったからというのも理由の一つだろうけど、最大の理由はきっとエマが言ってた事なんだろう。
と言うのも・・・
ダンが最初に迎えに来た時の事。
私を驚かそうと事前に何も連絡しないで大学にやって来たダンは私が男の友達、数人と歩いているのを見てしまった。
そこで取った行動と言うのが・・・いきなり私たちの前に歩いてきて、こともあろうに皆の目の前で私を抱き寄せたのだ。
私も驚いたが一番驚いたのは皆だろう。
何せ目の前にあのダニエル・ラドクリフがやってきて、しかも私を抱き寄せ頬にキスしたんだから。


「な、何でとダニエル・ラドクリフが?!」


なんて当たり前のように大騒ぎになってしまった。
それなのにダンはケロっとした顔で、「僕の恋人がいつもお世話になってるようで」なんて爽やかな笑顔を見せて言いのけた。
私は焦ったが、ダンは隠す必要もないと思ってたらしい。
皆に私との関係を宣言してしまった。
当然のように友人たちは驚愕し、そしてそれは、すぐマスコミの知れる事となった。
それからと言うもの私までがパパラッチに追い掛け回される事になり、今では大学内でもちょっとした有名人になってしまったのだ。
それに日本のお父さんやお母さんまでが真夜中だと言うのに、


『今朝の芸能情報でとハリーくんのネタをやってたぞ?!』


なーんてノリノリで電話してくるから困っている。
それでも・・・ダンが私との事を隠さず、オープンにしてくれる事は私にとって凄く嬉しい事なんだけど。







、どうした?」
「え?」


何も答えない私を見て心配になったのか、ダンが不安げな瞳で私の顔を覗き込んでいる。
すぐに「何でもないよ」と笑顔を見せると、ダンはホっとしたように微笑んだ。


「じゃあ食事の後に、またドライヴ行こうね。今度は2人きりで」
「え・・・?」
「いや?」


ダンはそう言って私の頭を軽く撫でる。
だが私が返事をする前に目の前の2人から抗議の声が上がった。


「ちょっとダン!私たちはどうするのよ」
「そうだよー。せっかく久々に会ってるってのに」
「うるさいなぁ・・・。2人もドライヴ行けばいいだろ?ルパートだって車で来てるんだし」


ダンは呆れたように言いながら2人を見る。
その言葉にルパートは顔を顰めると、「何で俺がエマとドライヴしなきゃいけないんだよ」と不満げな顔をした。
それにはエマも黙っちゃいない。


「あら、それは私の台詞よ!それに私は後でチャーリーが迎えに来てくれる事になってるんだもの」
「あーっそ、そりゃ良かったね!チャーリーも大変だよなぁ。試合で疲れてるってのにエマのアッシーなんて」
「何ですって?!」
「何だよ?」


2人はいつものように睨み合いになり、私とダンは顔を見合わせた。


「ったく・・・ちっとも成長してないだろ・・・?」
「でも懐かしいな・・・。あの頃も2人はこんな風に言い合いしてたし・・・」
「僕は撮影中、毎日見てたしウンザリだけどさ」


ダンはそう言って笑うと少しだけ顔を近づけ、「そろそろ2人は置いて店を出よう」と耳元で呟いた。


「で、でも・・・」
「何?嫌なわけ?」
「そ、そういうわけじゃ・・・」


私が口篭もるとダンは途端に意地悪な顔をする。
その顔に弱い私は素直に頷いた。
するとダンの顔にすぐ笑顔が戻る。


「久しぶりなんだしと2人でノンビリ過ごしたいんだ」


そう言って頬にチュっとキスをすると赤くなる私を嬉しそうに見つめている。
確かに私がロンドンに来てから、こんな風にゆっくりと会うのは久しぶりだ。
ダンがロケに行ったり、ロンドンにいても取材や撮影があったりで、なかなかデートをする時間もなかった。
時々ダンが撮影前や時間の空いた時に大学に迎えに来てくれるけど、それも送ってもらうだけの僅かな時間。
だから今日と明日の貴重なオフは私にとっても嬉しい事だった。


でも・・・久々に会った時にも思ったけど・・・ダンってば少し意地悪・・・と言うか前より強引になったみたい。
なんて・・・そんなダンも好きなんだけど。


「ちょっと、そこ!こっちを無視してイチャつくなよ」
「ほーんと!ダンってば全然変わらないんだから」
「はいはい。悪かったよ。って事で・・・俺達はそろそろ行くからさ」


ダンはそう言うと私の手を引っ張った。


「はあー?何よそれー」
「そうだよ、ダン!俺をエマと2人にすんなっ」
「まあ仲良くケンカでもしててよ。あ、エマ。チャーリーに宜しくな?今度絶対見に行くって言っておいて」
「ちょ、ちょっとダン!もー!あー、今夜はダンのとこに泊まるんでしょ?後でメールするね!」


エマにそう言われてドキっとした。
彼女とは今、半分づつ家賃を払って部屋をシェアしてるのだ。
(寮に入ろうと思っていたが、エマがちょうど家を出ると言うので一緒に住む事にしたのだ)
エマには今日、ダンのところに泊まるかも・・・とだけ話してある。


「えー。、ダンのとこにお泊り?!ずりぃ〜〜」
「ル、ルパート・・・!」
「妬くなよ」


笑いながらスネているルパートにそう言うと、ダンは私の手をグイグイと引っ張っていく。
彼に手を引かれながらも私は何とか2人に手を振った。
ダンの行動は慣れてるのか、呆れつつも見送ってくれてるところが彼ららしい。
まあ2人も私たちが思うように会えなかったのを知っているからだろう。
現にダンのフラットに行くのは高校時代、研修で来て以来になるし久しぶりだ。


店を出るとダンは止めてあった車のドアを開けて私を中へ促した。
私が助手席に乗り込むと彼もすぐに運転席へと座り、エンジンをかける。


「さて、と。どこ行こっか」


そう言って素早く私の唇にチュっとキスをする。
その不意打ちに思わずドキっとして目を伏せれば、ダンの腕に体を引き寄せられた。


「ダ、ダン?」
「やっと抱きしめられた」
「・・・え?」
「会ってからずっとこうしたかったの我慢してたからさ」


少しだけ体を離すとダンはそう言って私の額に口付けた。
そのまま、ゆっくりと唇を重ねてギュっと抱きしめてくれる。
昔と同じように何度も優しく触れてくる唇。
そのたびに鼓動が速さを増していって顔が火照ってくるのを感じる。
昔と同じようで、でも少し違うのは逞しくなった腕の強さと前以上に情熱的なキス・・・
ダンに求められてるんだって分かるような体が震えるくらいの熱い抱擁。
まるで会えなかった時間を埋めるような口付けに私は心も体も蕩けそうになった。


軽く唇を甘噛みされ、チュっという音と共にダンの唇が離れた時、私はすでに顔が真っ赤で体に力が入らなかった。
そんな私を見てダンはちょっと微笑むと、とんでもない事をサラリと呟いた。


「・・・ドライヴより・・・このままを部屋まで攫いたくなったかも」


「―――ッ!」


ボっと音がしたんじゃないかと思うくらい一気に顔が熱くなり、私は慌てて俯いた。
ダンはクスクス笑いながら、そっと私を解放すると、「冗談だよ」と言って静かに車を出す。
でも私が少しだけ顔を上げると、ニヤっと笑って、「ま、半分は本気だけど」なんて言い出し私はドキっとした。


「・・・・・・」
、変わらないな?そうやってすぐ真っ赤になっちゃうの」
「だ、だって―」
「そういうとこ大好きだけどね、僕は」
「・・・・・・っ」


(ダ、ダンってば絶対楽しんでる・・・っ)


熱くて仕方がない頬を両手で隠しながらダンを見ると彼はまだクスクス笑っている。
何だかダンだけ余裕のように見えて私はちょっぴり悔しくなってきた。


「・・・意地悪してる」
「え?」
「ダンってば私が照れるの見て楽しんでるでしょ・・・」


少し唇を尖らせて睨むと、ダンは一瞬キョトンとした顔をしたがすぐにふにゃっと眉を下げた。


「・・・そういう顔されると、ほんとこのまま部屋に連れ込んじゃいたくなるんだけどな・・・」
「・・・・・・なっ」
「なんて・・・こういう事言うのが悪いのか。ごめん」


ダンはそう言って優しく微笑むと、すでに茹蛸のような私の頬に素早くキスをした。
それだけで何も言えなくなって私は気持ちを落ち着かせるのに小さく息を吸い込む。
ダンはそんな私を見て微笑むと、少しづつスピードを上げていった。


(でも・・・ほんとにどこに行くんだろう?この道は・・・ダンのフラットがある方向だけど・・・まさか、ね)


窓の外を見ながら自分の考えを慌てて打ち消した。
それでも自然に胸はドキドキしてくる。


そっか・・・私たちって、もう大学生なんだよね・・・
中学生だったあの頃とは違う・・・
そうなっても全然おかしくない年齢なんだ・・・
と言うより・・・少し遅いくらいなのかもしれない。


そんな事を思いながらチラっとダンを見てみた。
慣れた手つきでハンドルを握るダンの横顔はやっぱり昔とは違う。
少しシートに凭れるようにして、何か考えるように真っ直ぐ前を見据えているダンは凄く大人っぽくて更に鼓動が早まる。
何気なく髪をかきあげる仕草や、長い指を口元に持っていく仕草に、いちいちドキドキしていた。
その時、不意にダンが私の方を見て、「ん?」っと軽く首を傾げた。
それだけでドクンと鼓動が跳ね上がった気がして私は慌てて視線を逸らす。


「どうした?・・・」


ダンは前を見ながらも訝しげに眉を寄せ、私の頭にポンと手を置く。
その感触だけで胸の奥がキュっとなったような感覚が襲ってくる。


「あ、あの・・・どこに・・・行くの・・・?」


変に意識してるのがバレないように笑顔で尋ねると、ダンはちょっと笑って「もう着くよ」と言った。


(もう着くって・・・やっぱりダンのフラット・・・?)


そう思って窓の外に顔を向けた、その時。
懐かしい景色が見えて私は、「あ・・・っ」と声を上げた。


「もしかして・・・あそこに行くの・・・?」


そう言って振り返ると、ダンは優しい笑みを浮かべて頷いた。


「そ。懐かしいだろ?」


ダンの言葉に私はもう一度、外の景色を見た。
夜空に生えるようにキラキラと光を放つ、その建物はだいぶ前に見た時と変わらず、そこにある。


そう・・・ここは・・・ダンとデートをした場所。


最初に・・・私から"別れ"を切り出した場所―――









静かに車が停車し、ダンが先に下りると助手席のドアを開けてくれた。
彼の手を取り、車から降りると、目の前の大きな建物を見上げる。


135メートル、世界最大の高さを誇る、ロンドン・アイの観覧車―――


それはあの日と同じようにキラキラ光を放ちながら夜空を静かに回っていた。


「行こう」


ダンが笑顔で私の手を取る。


私も微笑み返し、2人で観覧車の方へゆっくりと歩き出した―

























「わぁ・・・綺麗・・・夜に乗ったのは初めて」



無邪気に窓に顔をつけてはしゃいでいるの背中を見ながら思わず笑みが零れた。
その姿があの15歳の少女だった彼女と重なって見えたからだ。


「・・・ダン、何・・・笑ってるの・・・?」
「ん?いや・・・。まだそうやって素直に喜んでくれるんだなって思ってさ」
「・・・どういう意味?あ・・・バカにした?」


はそう言うと少しだけ頬を膨らませ、僕の隣に戻ってくる。
そんな彼女の肩を抱き寄せ、ぷぅっと膨れている頬にチュっとキスをした。


「バカになんてしてないよ。可愛いなぁって思ってただけ」
「・・・な、何が・・・?」


僕がこういう事を言うとは決まって頬が赤く染まる。
どう答えていいのか分からないといった風に視線を彷徨わせる彼女はほんとに可愛い。


「だから・・・大学生になっても、そうやって素直に喜んでるとこ」
「・・・子供っぽいってこと・・・でしょ?」
「違うよ。可愛いって言ったろ?」


そう言って鼻をツンと突付くとは恥ずかしいのか僕の方を見ようとしない。
僕は内心苦笑しつつ、彼女の頬に手を添えて上を向かせた。


「ほんと・・・出逢った頃と・・・変わんないよな、はさ・・・」
「・・・ダン?」


の黒い瞳に自分が映っているのを見つめながら、"この瞳に・・・ずっと映っていたい"なんてバカな事を考えた。
この瞳に・・・他の男なんて誰一人映して欲しくないと・・・


「・・・ダン、どうしたの?」


僕が黙っていたからか、が何だか不思議そうな顔をしている。
その顔はやっぱり出逢った頃と変わらず、無邪気なままだ。


「何でもない・・・。ただ・・・の瞳が綺麗だなって思ってさ」
「・・・な、何言って・・・ダンの方が・・・綺麗だよ・・・?」
「・・・そう?」
「うん・・・吸い込まれそう」


照れくさそうな顔をしながらも、そう言ってくれたに僕はちょっとだけ笑った。


「じゃあ・・・いっそのこと吸い込まれちゃってよ・・・」
「・・・え?」
「僕の瞳には・・・しか映したくないから・・・」
「ダン・・・」


の瞳がかすかに揺れた。
僕はゆっくりと唇を近づけ、触れ合いそうなほどの距離になった時、彼女に思ったことを素直に告げる。







の瞳には・・・僕しか映さないで・・・」






言い終わると同時にキスして強く彼女を抱きしめた。



もう二度と手放したくない温もりが、今この腕に、ある―――






















ゆっくりと唇が離れて、私は静かに目を開けた。
その時、不意に涙が頬を伝い、ダンが心配そうな顔をする。


「どうした・・・?」
「ご、ごめん・・・」


ダンの指が涙を拭ってくれる。
ただ・・・幸せすぎて涙が出るなんて、本当にあるんだ、なんて思った。


「・・・凄く・・・嬉しくて・・・」


誤解されないように何とか言葉を繋ぐとダンが嬉しそうに目を細めた。
そして、そのまま私の肩を抱き寄せると、外の景色を眺めている。



「・・・ここは・・・僕にとっても悲しい思い出が残ってたから・・・だからまたと来たかったんだ」
「・・・え?」
「今度こそ・・・との楽しい思い出を作りたくて」


ダンはそう言って照れくさそうに笑うと、私の髪に口付けた。


「悲しい思い出だけ残ってたら嫌だろ?」
「・・・ダン・・・」
「あの雨の日の記憶は・・・今日で消去されました」


少しおどけたように笑うダンに私もつい笑顔になる。


そう・・・確かにそうだ。
絶望しか感じていなかったあの日の記憶。
忘れたいのに忘れられなくて・・・苦しんでた遠い夜の記憶。


一つ一つ、今、ダンの手で綺麗に浄化されるようだ。


「ねぇ、・・・」
「・・・ん?」


ダンはコツンと私の頭に自分の頭をつけてきた。


「今度さ・・・。サッカーの試合・・・観に行こうな?」
「・・・・・・・・・ぅん」


その言葉だけで、ダンが何を言いたいのかが分かって私は小さく頷いた。


私とダンで同時に背負った痛み・・・これだけは消してはならない。




悠木くんは日本に帰った後も頑張ってサッカーを続けていた。
そして高校を卒業する前に、あるチームと契約をし、プロになったのだ。
だが1年も経たずに彼はイギリスのチームへとレンタル移籍をした。
前に練習に参加していたチームのスカウトから是非に、と声がかかったのだ。
そう、あのチャーリーと知り合うキッカケとなったチームだ。


―――彼氏と仲良くやってるか?・・・俺もロンドンに住む事になったよ。


移籍が決まった後、悠木君から、そんなメールが届いた。
驚いたのと同時に凄く嬉しくて、ついダンにも話してしまった。
最初は少し機嫌の悪かったダンも最後には、「彼の事は・・・凄く尊敬してる」とポツっと呟いた。


その意味は・・・男同士だからこそ、何か感じるものがあったんだろうなと思った。



そしてケイティは今も女優として頑張っているようだ。
今でも時々ダンに電話をしてくるらしいけど私は敢えて何も言わなかった。
ダンが彼女の事を妹のように思ってるのも知っているし、電話の内容も殆どが仕事の相談のようだ。
時に今付き合ってる人の事まであっけらかんと相談してくるらしい。
前にダンが「男の気持ちを聞かれて参ったよ・・・」なんて言いながら苦笑いしていたのを思い出す。


時が経つにつれて・・・・・少しづつ・・・周りも変わっていってる気がした。






「あ〜もうついちゃうね」


下を覗きながら私がそう言うとダンはちょっと笑って顔を覗き込んできた。


「もう一回乗る?」
「え・・・?で、でも時間も遅いし・・・」


そう言って腕時計を見ようとした私をダンはギュっと抱きしめた。


「時間なんて関係ないよ。今夜は帰さないって言ったろ?」
「・・・っ」


その言葉にドキっとした。
確かに今日、会う約束をした時、"週末は大学も休みだしを帰さなくてもいいよね?"なんて言われていたのだ。


ダンと2人きりで夜を過ごす事は初めてじゃない。
でも前はまだ15歳で、それも色々とあった時だ。
こんな風にデートの帰りに彼の部屋へ行く、なんて初めての事で私は少し緊張してきた。


その時、静かに観覧車が止まり、ダンは私の手を引いて立ち上がった。


「やっぱ・・・帰ろっか」
「う、うん・・・」


その一言でドキっとしながらも黙ってダンに着いて行った。






























キュっとコルクをひねりシャワーを止めると長い髪からポタポタと雫が落ちた。
ダンの用意してくれたバスタオルでそれを丁寧に拭くと、軽くクリップで留めてアップにする。
一応、と持ってきたパジャマを着て鏡の前に立つと、頬がほんのり赤い。
それでも緊張のためか、顔が強張っていた。


(私・・・大丈夫かな・・・?)


ふと不安になる。
ダンとそうなるのは嫌じゃないけど、やっぱり怖いというのが正直な気持ちだ。


「はぁ・・・もっと牛乳飲んでおくんだった・・・」


そんな事を呟きながら、自分の胸元を見て溜息をつく。
だいたいイギリスの子は発育がいいからスタイルがいい子ばかりなのだ。
ダンの周りに集まるような子達は、ほんとお人形さんみたいで可愛い子ばかりだし、少なからず心配になった。


溜息交じりでバスルームを出るとリビングからはテレビの音が聞こえてくる。
そっと顔を出すとダンがソファに寝転がっているのが見えた。


「・・・ダン?出たよ?」


そう声をかけて歩いて行く。
だがひょいっと覗くとダンが目を瞑っている事に気づいた。


「あれ・・・ダン?」


ソファの下に膝を突いて、ダンの顔を更に覗き込んでみる。
すると静かな寝息が聞こえてきて私は一気に緊張が解けていった。


「何だ・・・寝ちゃったのか・・・」


ガッカリしたような、ホっとしたような、私は軽く息をつくとその場に座り込んだ。


そうよね・・・最近もずっと忙しかったし・・・疲れてるよね。
今日だって4人でドライヴしたりして騒いだし、ずっと車の運転してたんだから・・・


私はスースーと寝ているダンの寝顔を見ながら、ふと笑みが零れた。


こんな風に好きな人の寝顔を見れるなんて幸せだな・・・
ずっと・・・こうしていたい。


そう思いながらダンの柔らかい髪に指を通す。
こうして手を伸ばせばすぐにダンに触れられる事が死ぬほど嬉しい。
ダンと離れていた時間は、やっぱり寂しくてたまらなかったから・・・


私はダンの手を握りながら自分もソファの端に頭を乗せて眼を瞑った――
























「・・・ん」


何だか体がフワフワして揺れる感覚に少しづつ意識が戻ってくる。
そして背中にひんやりとした感覚が伝わり、ゆっくりと目を開けた。


「・・・おはよ」


「―――ッ?!」


いきなり目の前にダンの笑顔があって私はビックリした。


「な・・・あ、あれ・・・私?」


あまりの驚きに一気に覚醒したが寝起きの頭がついていかない。
そもそも何でダンは私を上から見下ろしてるんだろう?という疑問が湧いて視線を左右に走らせた。


「あ、あの・・・」


そこは先ほどいたリビングではなく、どう見てもダンの寝室。
そして私はどうやらベッドに寝かされてるようだった。
ダンはそんな私を見ながらクスクス笑うと、「まーだ寝ぼけてる?」と言って額にキスをした。


「え、あ・・・ダン、起きたの・・・?」
「まぁね。テレビ見て待ってたら寝ちゃってたみたいだ。でもハっと目を開けたらが目の前で寝てるからビックリしたけど」
「え?あ・・・ご、ごめんね?起こそうと思ったんだけど―」
「いいよ。こうしてをベッドまで攫えたから」
「・・・っ」


ちょっと意地悪な笑みを浮かべてダンは私の鼻にチュっと口付ける。
その言葉と行為で私は真っ赤になってしまった。


「あ、あの・・・」
「ん?」
「私・・・どのくらい寝てた・・・?」


緊張をほぐそうと思って、どうでもいい事を尋ねる。


「多分・・・15分・・・くらいかな?起きるの待ってたけど、そんな気配もないから運んできちゃったよ」
「ご、ごめんね・・・?重かったでしょ・・・」


寝てる間にダンに抱きかかえられたと思うと恥ずかしくて更に顔が赤くなる。
だがダンは笑いながら首を振ると、「全然。軽すぎて逆に驚いた」と言って私の髪をゆっくりと撫でた。
それだけで鼓動が速くなり、苦しくなってくる。


「あ・・・今、何時・・・?」


この体勢が恥ずかしくて何とか体を起こそうとしたが、それをダンに止められた。


「ダ、ダン・・・?」
「ダーメ。逃がさない」
「・・・っ?」


ダンはちょっと笑いながら、そう言うと私の頬にキスを落とした。
そしてそのまま私の手を握ると、顔の横に静かに置く。
それだけで顔が赤くなっていくのが分かった。


「・・・怖い?」
「・・・・・・す、少し・・・」


優しい眼差しで私を見つめるダンに素直に頷くと、彼は困ったように眉を下げて微笑んだ。
頬に添えられたダンの手が凄く熱くて、彼も私と同じ気持ちなのかな、とふと思う。


「・・・を・・・傷つけたくないんだ。怖いなら何もしない」
「・・・・・・ダン・・・」


真剣な彼の瞳。
本気で、私の事を大切に想ってくれているって分かる。
握られた手の熱さが私の中の恐怖を少しづつ解かしていくのが分かった。


「・・・怖く、ない」


緊張で喉が張り付くような感覚の中、何とか言葉を搾り出した。
するとダンは少し驚いたように私を見つめ、すぐに微笑んでくれる。


「・・・ほんと?後で怖いって言っても・・・手遅れだよ?」
「・・・ダン・・・」
「今の僕は余裕なんてないから・・・」
「っ・・・・・・んっ」


そのダンの言葉に小さく頷いた瞬間、奪うように口付けられて体が一気に熱くなる。
ギュっとダンの手を握り締めて片方の手が彼の服を掴んだ。
呼吸も出来ないほど深く口付けられ、何も考える事が出来ない。


でも、それでも何故か、さっきまで感じていた恐怖は不思議となくなっていた。
ダンの唇が離れたと思った瞬間、すぐに首筋に口付けられる。
体がビクっとしてダンの腕をギュっと掴むと、優しく頬を撫でられた。




「・・・愛してる」




耳元に顔を埋めながら、ダンが囁いた。
首筋に彼の吐息がかかってドキドキが加速していく。


「・・・もう・・・二度と・・・離さないからな」


少し怒ったような声で呟くダンの言葉に目を開けると、すぐに唇を塞がれた。



彼の想いが唇から私の中に注がれるような、そんな感覚が襲ってくる。


(・・・ここまで来るのに、どれだけの遠回りをしたんだろう?)


そんな風に思った時、頭の中で出逢った頃の記憶が蘇ってきた。


初めての海外、転校したばかりで不安のまま過ごしてた私の前にダンが現れた。
偶然にも席が隣同士になって初めて言葉を交わした。
クラスに馴染めなかった私に優しい言葉をくれたダンに、心がときめいたのを覚えてる。
そんな彼を自然と好きになった。


そして今では・・・こんなにも―――――

















「ダンを・・・愛してる・・・」

































初めて逢った頃よりも、ずっと、深く。






                  
































 

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Postscript


ちょっとした番外編で御座いますです、ハイ。
すでにヒロインはロンドンに引っ越した後のお話。
いやーラブラブなのを書きたかっただけさね(オイ)
まだ番外編は書くと思いますのでねー(⌒∇⌒)ノ


本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...


【C-MOON...管理人:HANAZO】